東方酔迷録   作:puc119

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第閑話~そういう気分なんだ~

 

 

 しとしとと雨が降る。そんな梅雨の季節。

 

 木々が生茂り、日光も届かない魔法の森でも、雨ばかりは防ぎきることはできないらしい。

 雨のせいでいつもよりジメジメ感は増し、不快感を覚える。普通の人間なら、こんな環境に住もうとは思わないだろう。

 

 けれども私は、まぁ、こんな環境も嫌いじゃない。

 

 

 さて、さてさて、今日は何をしようか。

 せっかく、こんなにも雨が降っているんだ、自分の家で過ごすのはもったいない。

 おめでたい服を着た巫女のいる場所で、雨を見ながらお茶を飲むのも良いかもしれない。吸血鬼の住む館へ本を借りに行くのも、人形使いの家へ遊びに行くってのもありだ。

 

 

 ん~……でも、なんかそういう気分ではないな。

 別に弾幕ごっこをしたい気分でもないし、人里へ行くのも違う気がする。かと言って家に篭っていつものように茸を煮詰めているのもつまらない。

 

 

 今はそうだな……

 

 うん。アレだ。お酒が怖い気分だ。

 

 

 キンキンに冷えた麦酒を喉で味わうのも、熱燗で喉を焼くのも、甘い果実酒ををちびちびとってものありだ。

 うんうん、そうしよう。たまには昼間から飲むお酒ってのも悪くはないはずだ。

 

 これで、やることは決まった。

 次は何処でお酒を飲むかだけど……

 

「まぁ、あそこしかないよな」

 

 自分の家にもお酒はあるし、人里へ行けばお酒くらい簡単に飲める。けれども、やっぱりお酒と言ったらあの場所で、アイツがいた方が良い。

 私が訪れたらアイツはどんな顔をするだろうな?

 

 きっと、また来たの? みたいな顔をしながらもいつものように『いらっしゃい。のんびりしていきなよ』なんて言うだろう。

 

「ふふっ」

 

 自然と笑が溢れた。

 私が訪れた時にアイツのする顔と、かけてくる言葉が簡単に想像できた。

 気怠な顔をして、ツケを払えと言い、それでも嬉しそうにお酒を出す。私が『美味しい』と言えば、また嬉しそうな顔をして……

 

 うん、良いかもしれない。

 

 天気はちょうど雨。アイツの店を探すのには一番良い天気だ。

 それじゃあ、そろそろ動くとしよう。動くのなら早い方が良いに決まっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 天気は雨。普通なら雲から雨粒が降り落ち、地面を濡らすそんな気候のはず。

 けれども、とある場所では雨の代わりに桜の花びらが降る。そして、その場所に中心には真っ白な鳥居がぽつねんと立っている。そんな不思議な場所がこの幻想郷にはあった。

 

 さらに、その鳥居を潜ればアイツのいる場所へ着く。

 アイツ曰く、其処は『かふぇ』とか言う場所。何かに迷ってしまった人間や妖怪が迷い込む、そんな奴らのためにある場所。

 

「そんな場所なはずらしいんだけどな」

 

 けれども、お客さんなんて滅多に訪れることはないし、訪れたとしても迷いなんて欠片もないような奴らがお酒を飲んで騒いでいるだけ。

 まぁ、なんだかんだでアイツもそのことに不満はなさそうだし、それで良いのかもしれない。諦めているだけってのもあるだろうが。

 

 

 愛用の帽子を深めに被り、箒に跨ってから地面を軽く蹴る。雨粒がペシペシと顔に当たり、鬱陶しいけれども美味しいお酒のためだ、少しばかりの我慢は必要だろう。

 

 雨の降る中を飛んでいると、僅かに桜の香りがした。仄かに甘いあの香り。雨粒の代わりに花びらが私の顔を叩く。見つけた。

 

 吸血鬼の住む館の近くにその場所があった。すんなり見つかってくれて助かった。この場所も固定すれば良いのになぁ。どうしてこんな面倒なことにしたのやら……

 

 それにしても、相変わらず不思議な光景だ。見慣れてはきたけれど、それはまるで幻想のよう。

 

 ひらひらと舞う桜の花びらと共に、ゆっくりと地面へ降りる。

 目の前には白い鳥居。

 

 そう言えば、此処へ初めて訪れた時も、今日のように季節は梅雨で雨が降っていた。懐かしいな。

 私はあの巫女ほど此処へ訪れてはいないけれど、あれから此処には何度も訪れた。只でお酒が飲めるってのもあるけれど、此処で飲むお酒はやっぱり美味しいしな。

 

 

 今日はどんなお酒を飲もうか考えながら、真っ白の鳥居を潜る。

 

 

 ――そして視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 戻った視界の先には、麦と田んぼが見えた。アイツ曰く、この畑から取れた作物は全てお酒の材料にするそうだ。酒造りってのも大変なんだな。

 今までの天気とは違い、此方は晴れ。ホントどう言う仕組みなんだろうな。

 

 田畑を抜けると、大きな倉庫と洋風の小洒落た家が見えてくる。倉庫の方は入ったことがないけれど、お酒を貯蔵してるって言ってたかな。

 

『OPEN』

 

 洋風の家のドアにはそんなプレートがかけてあった。

 そして、今まで見たことのない張り紙。

 

『世の中に 人の来るこそ 嬉しけれ とは言ふものの お前ではなし』

 

 そんなことが書いてあった。

 なんとも失礼な張り紙だ。むぅ、アイツもストレスが溜まっているのかな?

 

 まぁ、気にせず私は中へ入らせてもらうが。

 

 そして、私には少々重い扉を開けた。

 すると、カランカランと鈴の音が響き――

 

 

「ちょっ! 萃香タイム! ごめっ、ほんっとごめん!! 謝る謝るから! お願い! 殴るのをやめっ……好きです!! 俺は萃香さんみたいな小さな胸が大好k……」

 

 

 私は扉を閉めた。

 

 変態としか思えないような性癖を叫ぶ店主と、返り血で真っ赤に染まった拳を振り上げる鬼がいた気がする。どうか気のせいであって欲しい。頼むから、そうであってほしい……

 

 しまったなぁ、まさかカメラが止まっているとは思わなかった。これはタイミングが悪い。

 まぁ、どうせ原因はアイツなんだろうけれど。今まで幾度となく、自分の軽口が原因で痛い目に会ってきていると言うのになかなか学習しない奴だ。

 

 ボーっと景色でも見ながら、またカメラが動き出してくれるのを待つ。

 私は早くお酒を飲みたいんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま10数分ほど景色を眺め続けた。美味しいお酒のために此処は我慢しよう。

 よしっ、そろそろ良い頃だと思う。アイツも復活するのは早いし。滅茶苦茶弱いけど……

 

 先程開けて閉めた扉を、もう一度開ける。

 カランカランと同じように鈴の音がした。

 

「お邪魔するぜ」

 

 

「おろ? いらっしゃい魔理沙ちゃん。どうやら外は雨っぽいね。まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 

 カウンター越しにアイツの言葉が届いた。

 む、服が濡れたままだったか、少しだけ申し訳ない気分になる。まぁ、そのうちに乾くか。

 

 カウンターの向こうには、やはり気怠そうな顔をした店主がいて、その向かいにむすっとした顔の萃香がいた。何があったのかはわからないけれど、まぁ……色々あったんだろう。あの店主、デリカシーの欠片もないし。

 

「んで、魔理沙ちゃんはどうする?何か飲む?」

 

 店主の声が届く。

 私には詳しいお酒の話なんてわからないけれど、お酒が美味しいことに違いはない。

 店主の薀蓄でも聞きながら、のんびり飲ませてもらうとしよう。

 

「そうだな……じゃあ――」

 

 外の天気は雨。決して良い天気なんかではないけれど、今日は楽しく過ごすことができそうだ。






もしかしたら、何処かでお会いしたことがあるかもしれませんね
チラシの裏でひっそりとカメラさんには、また頑張ってもらうことにしました

前作を読んでいない方でも楽しんでもらえるよう頑張るつもりではあります

今回は戦闘やらなんやらはない気がします
彼女たちには、のんびりとお酒でも飲んでいてもらいましょう

一話目は短めで、前作と同じように魔理沙さん視点です

次話は未定ですが、のんびりと書いていきます
では、次話でお会いしましょう

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