東方酔迷録   作:puc119

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第閑話~その後、週一で訪れるようになった~

 

 

 梅雨の晴れ間の美しい青空に夏らしさを覚える昨今、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 紫陽花は大輪の花を咲かせ、この湿った日々に色を入れてくれる頃かと存じております。

 さて、此方の状況ですが……

 

「へ~、此処が貴方のお店だったのね」

 

 絶賛大ピンチです。

 青天の霹靂とでも言えば良いのだろうか。八意さんがついに俺の店に来てしまいました。

 

 どうも、この度主人公をやらせていただいている黒と申す者です。

 

「い、いらっしゃいませ~」

 

 緊張のせいで強ばった笑を浮かべることしかできない。珍しく朝早くに目が覚め、今日は良いことありそうだ、な~んて考えながら、店を開けたらこの有様だよコノヤロー。

 店を開けたのが間違いだった。一時間前の自分が恨めしい。

 

 まぁ、もうどう仕様も無いんだけどさ。タイムマシンを俺にください。

 

「え、えと、それで八意さんは本日どのようなご用件でございありますか?」

「ふふっ、なによその日本語」

 

 いや、だって仕様が無いでしょ。別に、八意さんを嫌っているわけではないけれど……得意ではないのだから。ただ俺が考えすぎているだけなのだろうけれど、色々とあったのだから。

 

 もう、なんでこういう日に限って萃香や紫、霊夢なんかの姦しい奴らは店に来ないんだよ。しかも、見たところ八意さんも一人らしいし。せめてあの姫様と一緒に来てください。お願いですから。

 

 やっべーよ。おい。マジやっべーよ。ヤバいしか言葉が出てこない。

 

 ホントこれ、どうすっかな……

 

「とりあえず、何か飲み物をいただけるかしら?」

「あっ、はい。かしこまりました。えと……何を飲まれますか?」

 

 帰ってくださいなんて、とてもじゃないけれど言うことはできない。

 用事があるのでお店閉めます、とかどうだろうか? いや、じゃあどうして店を開けたんだよってなるか。そんなこと言ったら、キレた八意さんが殴りかかってくるかもしれない。

 

 まぁ、それはないと思うが。キレて殴りかかってくる八意さんとか想像できないし。

 しかし一度見てみたい気もある。

 

 ……いやいや、落ち着け。流石にそれはやめておこう。少し前も興味本位で萃香の可愛らしい胸の大きさのことを聞いたら、カメラを止めてボコボコにされたじゃないか。

 鬼かと思った。まぁ、萃香は鬼なんだけどさ。

 

 

「そうね……メニューは何があるの?」

 

 一方、八意さんはと言うと、とても良い笑顔をしていらっしゃります。何がそんなに楽しいのやら。此方は胃が痛いと言うのに……

 お医者さんにでも行ってこようかな。目の前にもいるけどさ。できればこの人じゃない人が良い。

 

「基本的には何でも。応えられる範囲で、お客さんの頼んでくれた物をお出ししております」

「じゃあ、冷酒をお願い」

 

 結局お酒ですか……カフェなのにね、此処。居酒屋じゃないのにね、この店。

 まぁ、もうそういうのは慣れました。

 

「かしこまりました……」

 

 

 

 安いお酒を出すのも申し訳ない。かと言って高いお酒を出すと八意さんに気を遣わせてしまう。そんなことを考えながら、雪冷えの純米吟醸をコップに注ぎ、胡瓜の浅漬けと一緒にお出しした。

 流石に、意識し過ぎ……なのかな。

 まぁ、意識なんてするなってのも無理なことではあるけれど。

 

「お待たせしました」

「あら、ありがとう」

 

 お酒を八意さんへ渡すと、コップ越しにお酒を眺めてから、軽く口含んでから八意さんが言った。

 

「……美味しい」

 

 そりゃあ、良かったです。

 まだ、青冴えも抜けておらず、淡く黄緑がかった色が見られる生酒。純米大吟醸ではないけれど、味だって負けないと思う。

 

「貴方は飲まないの?」

「お客さんがいますし、遠慮しておきます」

 

 いつもはお客と一緒に飲むことが多いけれど、今日はお客さんがお客さんですし……もう、いっそ意識が飛ぶくらいに酔っぱらってしまおうか。

 いや、それで八意さんに介抱されたとかなったら、恥ずかしくて死ねるな。不老不死の体ではあるけれど、心は死ぬのだ。それも割りと簡単に。

 

「私は別に気にしないわよ。それに、いつもは飲んでいるのでしょ?」

 

 むぅ、バレていましたか……誰が喋ったのやら。

 

「はぁ、わかりました。それでは失礼して飲ませていただきます」

「ふふっ。そうしてちょうだい」

 

 もう、どうにでもなれ。

 

 

 

 

 

 

 

 とか、なんとか思ったりもしたけれど、流石に八意さんの前で壊れるなんてできないため、麦酒をちびちびと飲むことにした。大好きな麦酒はずなのに、味はよくわからなかった。

 まぁ、ちびちび飲むようなお酒じゃないしね。

 

「……良い店ね」

 

 ぽそりと落ちた声。

 八意さんの傾けたコップから、ふわりと吟醸の香りがした。

 

「ありがとうございます」

 

 まぁ、お客さんは来ないんですけどね。来たとしても、お客と呼べるのか怪しい奴らばかり。最近来た魔理沙ちゃんも結局、ツケで片付けられてしまった。絶対に踏み倒される。

 あの図書館の魔女さんの気持ちも少しだけわかった。そりゃあ、むきゅーむきゅー言いたくもなるわ。

 

 しっかし、困ったな。話すことが何もない。気まずいったらありゃしないじゃないか。

 こう言う時、普通はお互いに共通の事を話すべきなのだろうが、あの頃の話はあまり好きじゃない。喧しかったアイツらのことを忘れるつもりはないし、楽しい思い出ではあるけれど、口にするのは少々憚られる。

 

 はぁ、誰か来てくれないかねぇ……このままじゃ、緊張でどうにかなりそうだ。

 

 

「ねぇ、黒……」

 

 ぽそりと八意さんが呟いた。

 び、びっくりするので、いきなり名前で呼ぶのはやめてください。もう……呼び方を変えたりして、どうしたのだろうか?

 

「はい、どうしました?」

 

 此処には二人しかいないのだし、今まで通り『貴方』で良いと思うんですが……

 

 

「貴方は何をそんなに気にしているのかしら……私たちが月へ行った時のこと? それともあの異変の時のこと?」

 

 顔を此方に向けず、視線を下へ向けたまま八意さんが言った。

 気にしていること、ですか……正直、自分でも何をそんなに意識しているのかわからない。

 

 八意さんたちが月へ旅立った日のことだって、別に誰かを恨んでいたわけではない。その時のことはずっと一人で考えてきた。有り余る時間を使って考えた。そして誰のせいでもないって、自分で結論を出したのだ。

 

 

 だから、強いて言えば――

 

「……あの異変の時に貴女に言ってしまった言葉だと、思います」

「……そう」

 

 俺の答えに八意さんはそれだけの言葉を落とした。

 

 俺の考え過ぎ……なのかな?

 でもなぁ……なんて言うか難しいよね。八意さんには八意さんの思いがあって、俺には俺の思いがある。足して2で割った程度で割り切れる思いなどではないのだから。

 

 

「そうね……どうして貴方がそこまで背負い込んでしまっているのか、やっぱり私にはわからないけれど、私は別に気にしてはいないわよ。それだけじゃ、ダメかしら?」

 

「……やっぱり難しい気がします」

 

 我ながら女々しいことではあるけれど、相手が許してくれたから今までと全く違うように振舞うことはできない。

 

 ――そんな器用な性格をしてはいないのだから。

 

「じゃあ、こうしましょう」

 

 久方ぶりに八意さんが顔を上げ、手を叩いて言った。

 なんでしょうね? あまり良い提案ではなさそうだけど……

 

 

「あの妖怪賢者に頼んで、この場所と永遠亭を繋げなさい。もちろん貴方だけじゃなく、私たちも自由にこの場所へ来られるように。それと『八意さん』ではなく『永琳』と呼ぶこと。別に『さん』はつけなくても良いわよ? あと、できれば敬語もやめてもらえないかしら。貴方が敬語を使うのって私だけなのでしょ?」

 

「えっ……えと……えっ? つ、繋げるんですか? それと、流石に敬語はやめられませんよ……」

 

 繋げるって……ちょ、ちょい待ってよ。そんなことをしたら……

 

「貴方は永遠亭に来ないから、そうでもしないと会えないでしょ? それにてゐも喜ぶと思うわ。まぁ、敬語の方は諦めましょう。けれども、繋げるのはちゃんとお願いね。それが私から出す貴方への罰よ。まぁ、自分を許せるようになったのなら、繋がりは切っても構わないから」

「罰……ですか」

 

 それなら受けないとダメ、なんだろうな。

 うわー、うっわー……お先が真っ暗だ。どうにかして、回避することはできないものでしょうか?

 

 いや、無理っぽいですね。

 

「わ、わかりました……」

「うん、そうしてちょうだい。さて、それじゃあそろそろ私は帰ろうかしら。貴方の方から永遠亭に来てくれれば、そんなに此処へ訪れることはないから安心しなさいな」

 

 席を立ち、出口の方を向きながら八意さんは言った。

 そんなに、ねぇ。

 それにもし、俺があまりにも永遠亭へ行かないようなら、八意さんから来るってことだよな。どうするよ、これ。

 

 

「私たちみたいな不老不死者には、時間なんていくらでもある。だから、そんなに焦る必要もないかもしれない」

「え、えと……何の話ですか?」

 

 焦るって何のことだ? ま~た、何か異変でも起こすつもりだろうか。面倒なんで、それはやめてもらいたいのですが。

 

 

 

「それでも、仲良くなるのは早い方が良いに決まっているって思わない?」

 

 

 

 此方を振り返り、八意さんはそう言った。

 本当に見蕩れるような綺麗な笑顔で。

 

「そう……ですね」

「ふふっ、それじゃあ、またね。黒」

「はい、また。やごこ……え、永琳さん」

 

 吃りながらも俺がそう答えると、そのことに永琳さんは笑い、軽く手を挙げて店を出て行った。

 

 

 

 お代を払ってもらっていなかった。

 

 極々自然な流れで食い逃げされた。

 

 

 

 後になって聞いた話だけど、忘れていたわけではなく永琳さんは態と払わなかったらしい。そっちの方が、仲良さそうに見えるんだとさ。

 

 随分とずれた考え方だけど、ホント誰が教えたのやら……

 

 

 それにしても、疲れた。

 緊張やらなんやらで主に心がぼろぼろだ。

 もうお店、閉めちゃおうかな。どうせ、お客さんなんて来ないし。

 

「こんにちは、黒」

 

 そんなことを考えていると、スキマから紫が現れた。

 絶対見ていただろコイツ。

 

「見ていたのなら助けてよ……」

「あら、私は今、たまたま此処へ訪れただけよ?」

 

 胡散臭い笑を浮かべながら紫は言った。

 どう考えても嘘です。本当にありがとうございました。

 

「はぁ……それにしても、あの人は何を考えているんだろうね? 俺なんか放って置けば良いと思うけど」

 

 過去の話で盛り上がりたいって感じでもないし、正直何が目的なのかさっぱりわからない。

 

「好きなんじゃない? 貴方のことが」

 

 クスクスと笑いながら紫が言った。

 

 それはないと思う。

 そこまで関わりがあるわけではないのだし。ただ、まぁどうしてかはわからないけれど、俺に何かしらの興味があることは間違いなさそうだ。

 

「まぁ、考えてもしゃーないか。紫はなんか飲む?」

「いえ、今は良いわ。此処とあの月人の住む場所を繋げないといけないし。その後いただこうかしら。それでは、また」

 

 なんて言って、紫はスキマの中へ消えていった。

 

 

「やっぱり見ていたんじゃねーかよ……」

 

 ホントひねくれ者だ。

 

 全く……誰の影響を受けたのやら。

 

 






永琳さんが登場すると、途端に主人公が暗くなるので困りものですね
もう少し頑張ってもらえないものでしょうか……

と、言うことで二話目でした
永琳さんのお話を読みたい。と言う感想をいくつかいただいておりましたので
なんとなく書いてみました

このまま順調に進んでくれれば、永琳さんルートも書けそうな勢いですね
たぶん、書きませんが

次話は未定です
希望のあった魔理沙さんのお話をまだ書いていないので、その辺りになるのかなぁ?
私にはわかりませんが

では、次話でお会いしましょう

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