東方酔迷録   作:puc119

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第閑話~癒しをください~

 

 あの寒い季節ももう直ぐ終わり、桜たちだってその桃色の花弁を一斉に開く頃だろう。良い季節になったねぇ。な~んて独り言が溢れ落ちた。

 冬の間に醸した日本酒もそろそろ飲める時期。俺は四季醸造をしているけれど、やはり寒酒は美味しい。ただ、寒いから醸すのがちょっと大変なんだよね。まぁ、美味しいお酒のためだから仕方が無い。

 

 未だ朝夕はなかなかに冷え込んでくれる。それでも昼間はポカポカとした日差しが心地よい季節。春の日差しに誘われてしまえば、寝てしまうのも仕方無い。

 どうせお客だって来ないだろうし、今日はのんびりお昼寝でもして過ごそうか。

 

 そして、ウトウトと睡魔の誘いに応じようとした時だった。カランカランと久しく鳴いてくれなかったドアについたベルが音を出した。

 

 

「お邪魔します」

 

 

 そんな馬鹿丁寧な口調で言葉を落とし、一人のお客が店の中へ入ってきた。

 緑髪にお堅い服装。大きな帽子。楽園の最高裁判長。口うるさい有難いお話。四季映姫が俺の店へ来てしまった。

 

 うわっ……うわぁ……ホント勘弁してください。どうしてお前が来るんだよ。いつものように人里で説教でもしてなさいよ。

 

「ふむ、相変わらず客は訪れないようですね」

 

 大きなお世話だ。仕方ないでしょうが、来ないものは来ないのだから。

 それにしても映姫は何をしに来たんだろう。最近はおとなしく生きていたつもりだったけど……やだなぁ、映姫の説教って莫迦みたいに長いんだよなぁ。ほとほと困ったものです。

 

「いらっしゃいませ……どうぞ空いている場所へお座りください……」

 

 せっかく良い季節になりそうだなんて思っていたのに、これじゃあテンションはガタ落ちだ。

 映姫が迷子になったとは思えない。つまり俺に用事があると言うことだろう。んで、映姫の用事と言えば……まぁ、お説教だよなぁ。

 

「? なんだか元気が無いようですけど、大丈夫ですか?」

 

 いやいや、それもこれも貴女のせいなんですけどね。永琳さんに幽香、そして映姫と最近は俺の三大苦手人物が見事に店へ訪れてくれる。もうコレ誰かが呪いでもかけているんじゃないか?

 今度、守矢神社でお祓いでもしてもらおうかな。霊夢じゃちょっと不安だし。

 まぁ、映姫のことも嫌いじゃないんだけどさ。

 

 カウンターの椅子へ姿勢正しくチョコンと座り、此方を見つめてくる映姫。

 おろ? お説教はしないのか?

 

「えと……映姫は何をしに来たの?」

「今日は仕事が休みでしたので、たまには貴方の店で飲んでみようかと。人里で飲んでしまったら、迷惑をかけてしまいますし」

 

 俺への迷惑はどうなるんでしょうね……まぁ、それでも人里で飲むよりはマシか。気分良く飲みに行ったら其処には閻魔が居たなんて洒落にならんし。

 映姫も色々と大変なんだろうな。俺にはちょいと考え過ぎのように見えるが。

 

 さてさて、説教をしに来たのではないとわかれば一安心だ。

 酔ってきたらどうせ説教を始めるだろうけれど、此処は我慢しよう。

 

 

「ハロー黒。暇な貴方のためにゆかりんが遊びにって……うっわ」

 

 

 あの不気味な空間から急に紫が顔を出したと思ったら、消えた。てか、映姫を見て逃げやがったなアイツ。俺だって逃げたいんだけどなぁ……

 

 それにしても“ゆかりん”はないだろ。歳考えろよ。

 そんなことを考えていたら上から盥が降ってきたから、花びらに変えておいた。流石に慣れました。

 

「…………」

 

 あーあ、アイツのせいで裁判長の御機嫌が悪くなったじゃないか。どうすんだよコレ。眉間に皺寄ってるよ。頬膨らんでるよ。

 全く、いらんことばかりしてくれやがって……

 

 

「さて……ご注文は?」

 

 

 とりあえず紫のことは忘れよう。今度会った時に“ゆかりん”とか言って揶揄えば良いのだから。いっそ幻想郷中に“ゆかりん”を広めようかな。

 そんな紫のことは良しとして、今は映姫が来ているのだし其方を優先しよう。下手なことしたら怒られるし。

 

「そうですね……貴方のおすすめをお願いします」

 

 う~ん、オススメかぁ。

 せっかくなのだし、生酒を出してみようかな。俺もまだ飲んでいないから味の方はわからないけれど、悪くはないだろう。確かまだ火入れをしていない奴があったはず。

 

「ほいよ、オススメね。かしこまりました」

 

 さて、肴は何を用意しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このお酒、なんだか珍しい香りがしますね。悪い香りではありませんが」

 

 とりあえず上燗程度にした生酒と肴として蕗味噌を出すことにした。この季節、やはり蕗を食べたくなるのです。

 

「これは?」

「搾りたての生酒だよ。もしかしたらもう少し温度を下げた方が良いかもしれないけど、まぁ、美味しいとは思う」

 

 この季節にしか味わうことのできない新鮮なお酒。火入りはせずに冷蔵しておいたもの。せっかくお酒を楽しむのなら、その季節だって楽しみたいよね。

 

 まず映姫の御猪口へ注いでから、俺の御猪口へ注ぎ返してもらう。いくら映姫がお客だとしても手酌じゃ行儀が悪いしね。

 

 

「「乾杯」」

 

 

 御猪口を軽く挙げ、いつもの声を出してからそっとお酒へ口をつける。

 リンゴ香と仄かな新酒ばな、それは燗したことによって強くなった香り。熟成をしなかったことで荒々しい味と香りが口の中へ広がった。うむ、なかなかに美味しい。

 飲み続けるのには向かないお酒ではあるけれど、2合ほどなら美味しくいただける。

 

「お味はいかが?」

「これが生酒ですか……日本酒にしては強い気もしますが香りも良く美味しいです」

 

 そりゃあ良かったよ。

 生酒は火入れをしないため、どうしてもアルコール度数は高くしなければいけない。熟成なしのお酒は角が取れず丸くはならない。けれども、その荒い香りと味がなかなか美味しい。新酒ばなを嫌う人もいるけどさ。

 

「それにしても映姫が来るなんて珍しいね」

 

 説教するために俺の店へ訪れることはあったけれども、純粋に客として訪れるのは初めてじゃないか? あの水先案内人はよく来るけどさ。

 

「貴方がなかなか来てくれないので、私から来たんですよ」

 

 くぴりと御猪口を傾けながら、映姫が言った。

 空になってしまった御猪口へお酒を注ぐ。ペース早いよ。

 

「無茶を言うな。俺じゃあ三途の川は越えられないのだから仕様が無いでしょうが」

「そんなことを言いながら一週間前、小町とは二人で飲んでいたじゃないですか」

 

 えーっ何? 見ていたんですか? 俺のプライバシーはどうなる。

 いやだって、小町が喋らない幽霊ばかり相手にしていたんじゃつまらないって言うからさ。

 

「どうして貴方たちはいつもいつも、私が仕事の日に……」

 

 くぴりくぴりと映姫はお酒を飲んでいった。大徳利で持ってきたはずなのに、残りはもう少ししか残っていない。飲みすぎです。前みたくまた酔って寝ちゃうよ?

 

「いや、それは偶々だって。なに? 映姫お酒飲みたかったの?」

「飲みたいに決まっているでしょうが」

 

 怒られた。

 いや、そんな怒られても……どないしろってんだよ。

 

 ああ、生酒もなくなってしまった。俺はまだ一杯しか飲んでいないのに……

 

「私はお酒を飲みに来ただけだと言うのに、何処のお店へ行っても嫌な顔をされます。だから仕方なく一人で飲んでいますが、何が楽しくて一人寂しくお酒を飲まなくちゃいけないんですか!」

 

 ああ、だから俺の店へ来たのね……

 まぁ、映姫は閻魔だしなぁ。映姫と言えばあの長いお説教だ。そりゃあ嫌な顔だってされるだろう。

 

「小町でも誘えば良いじゃん」

「その……小町を見ているとつい怒りたくなってしまって」

 

 お説教が身体に染み付いてるんだね。どう仕様も無い奴だな、おい。それに小町とは上司と部下の関係。お酒の席ではよく何かが落ちてしまう。堅苦しい映姫の性格だ、そう言うことは控えたいのだろう。

 

 ホント、面倒な奴だなぁ。

 

「はぁ、それなら今日はゆっくりしていきなよ。次の注文は?」

 

 仕方無い。そう割り切ろう。映姫だって抱え込んでいることはあるはず。それが少しでも軽くなってくれれば充分か。

 

「麦焼酎。ロックで」

「いや、麦酒とかもう少し弱いお酒「麦焼酎。ロックで」……はい、かしこまりました」

 

 とんでもない客だ。これはもうダメだろう。

 水で薄めた奴を出そうかな……

 

「ああ、そうだ。黒」

「うん? どしたの?」

 

 どのくらいなら薄めても大丈夫かな? 流石にこのままのペースでいったらマズい。もう間に合わない気もするけれど……

 

「この店と是非曲直庁を繋げてもらえませんか? 一々この店の場所を探すのも面倒ですし」

 

 ……何を言ってるんでしょう、この人。

 えっ、君、閻魔でしょ?

 

「いやいや、流石にそれはマズイでしょ。だいたいこの場所は映姫の管轄外なはずだし」

「私だって一人ではなくお酒が飲みたいんです。良いですか? これは命令です。繋げなさい」

 

 理由のほとんどが私用じゃねーかよ。公務員職権乱用罪とかになるぞ。

 

「問題ありません。私が法律です」

 

 何言ってんの!? 問題しかねーわ。

 

 その後、必死で止めました。ダメでした。仕方無いね、俺弱いもん。力も立場も。

 仕舞には上から怒られたら白のせいにすれば良いとか言い出すし……でもなぁ、繋げるのは俺じゃなくて紫なんだけどアイツやってくれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カウンターに突っ伏し、スースーと気持ちよさそうに寝ている客が一人。

 そんな姿からは普段の姿は想像もできない。

 

 止めようと頑張ってみました。ダメでした。

 まぁ、これで映姫のストレスが多少でも発散できたとしたら良しとしよう。そうとでも思わなければやってられない。

 これで繋げるだのなんだのの話は忘れてくれれば良いが……たぶんダメだろうな。

 

 さて、気持ち良さそうに寝ている映姫はどうしようか。どうせ映姫も明日は仕事だから帰らせなければいけないけれど……う~ん、紫が連れて行ってくれないだろうか。

 

 おーい、紫さん。ちょっと出てきてもらえないかい?

 

 

「ふふっ、寝てしまったのね。いつもこうなら可愛げもあると言うのに」

 

 

 流石です。

 

「や、ゆかりん。さっきぶり」

 

 俺がそう言うと、赤い顔した紫に引っぱたかれた。

 自分で言うのは良いが、他人に言われるのは嫌らしい。現実はいつだって理不尽だ。絶対に幻想郷中へ広めてやる。

 

「映姫のこと、お願いできる?」

「そうね、運んでおくわ。彼方とも繋げないといけないし」

 

 えっ、マジで言ってんすか? 本当に勘弁してください。ただでさえ永琳さんが来て精神が削られてると言うのに、映姫が来たら精神がなくなる。不老不死だろうと心は死ぬのだ。

 

「だって此処でこの方に貸しを作っておけば役に立つでしょ? この方はなかなか隙を見せないのだし、良い機会ね」

 

 紫さん大変です。それだと俺にメリットが何もありません。

 何このハイリスク、ノーリターンは。辛すぎる現実に涙が止まらない。

 

「それじゃ、私はこの方を送ってくるからその後一緒に飲みましょ。私も生酒を飲んでみたいし。準備はよろしくね」

 

 そう言ってゆかりん(笑)はスキマの中へ消えていった。覚えてろよこのやろー。文々。新聞に“ゆかりん”のこと書いてもらうからな。

 

 はぁ、俺の店がどんどんと大変なことになってきている。

 俺の愚痴は誰に言えば良いんだろうね?

 

 






買ってきた日本酒は直ぐに冷蔵しましょう
上手くいけば熟成してさらに美味しくなります
けれども、常温で保存しているとせっかくの高い日本酒がもの凄いことになることがあります
もったいなかったなぁ……

と、言うことで第閑話でした

違う作品を書いているせいか、主人公の口調を忘れてしまい大変でした
そして少々映姫さんがおかしい気もします
酔っていたのだし仕方無いね

次話……桜さんの方でしょうか?

では、次話でお会いしましょう
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