東方転移記~transmigration of souls~ 作:yusaka
「……で、いつの間にかここにいたんだ」
幻能は先程空から降りてきた彼女達に自分にわかるだけの状況説明をした。したつもりだ。
「…………」
紅白の巫女服の少女――霊夢はその話を聞いて黙りこくっている。
「つまりお前は、外から……いや、外の世界から来たって方がわかりやすいな」
一方、白黒の魔法使いのような少女――魔理沙は確認するようにそう聞いた。
幻能はその言葉に頷きそうになる。だが、その言葉にはおかしいものがあると、彼は気付いた。
今、目の前にいる少女の一人が、確実にこう言った。
『外の世界』
と。
(どういうことだ?いま、この魔法使い――服的に、断定的にそう思うとして――は外の世界と言ったな。なら……ここは違う世界?)
本来ならまず考えるであろうその言葉のありえなさ。
外の世界。
それはもちろん普通ならありえないと思うだろう。もちろん幻能も、普通ならそう思うだろう。
他の世界などといわれてもすぐに飲み込めるようなわけもなく。
(……確かに、ありえる……のか?)
それでも幻能は、飲み込めたのである。断定的にではあるが。
それは、二つの理由からなる。
一つは、幻能が見たものである。それは空を当たり前のように飛ぶ、二人の少女を見たこと。実のところ、その時幻能は思った。思っていた。ここは自分の知る世界じゃない、と。まあこれは、ある意味当たっていて、そして外れているのである。半分、その言葉通りで、その言葉は、半分間違いなのだ。
二つ目は、幻能自身の直感である。これは本来理由などになりはしない。――それを言ってしまうと実際は理由はなくなってしまう。この直感があってこそ一つ目の理由が出てきたからだ――だが、幻能は今の今まで、このような直感に会った事がなかった。
ここが自分の知る世界場所と違う世界場所である。
そんな予感がしたのだ。
「……それで、あんたはどうしたいの?」
幻能が考えていると、ふと霊夢がそう聞いてきた。
「どうしたい、か」
先程まで考えていたこの世界が自らの知る世界なのかということを保留として、幻能は考える。
そして思いつく。普通ならすぐに答えられるような質問を、少し考えてから。
「俺がさっきまでいた場所に帰りたいんだが」
「悪いけれど、それが出来るかどうかはわからないわ」
幻能は面食らった。自分の答えに、即答、しかもそれが不可かもしれないという答えが出たからだ。
「どうしてだ?」
「あんたが何でここに来たかがわからないからよ」
「というと?」
幻能は細かく聞こうとする。
「基本、ここにくるのはあんたのいた世界所で幻想となったものが来るのよ。それを幻想入りって言ってるんだけど」
「でも、お前が幻想入りした、っていう可能性は多分無い。お前の話だと家族と一緒に何だかよくわからない山にいたんだろう?」
何だかよくわからない山と思っているのは幻能だけなのだけれども。
「まあ、概ね合っている」
「だから、あんたが幻想入りしたって言う可能性はないのよ。あんたは天涯孤独なわけでもないし、人とも交流があったんでしょう」
それはそうだろう。そう幻能は思い、思い至った。
「つまり家族が俺を忘れていなければ、幻想としていなければ、基本俺はここに来ることは無いと」
無かったはず、と。別に家族でなくても良いのだが、この場での例えである。
「ええまあ、そういうことよ」
となると、と。幻能は考える。
「ほかに、ここに来る条件は?」
考えた末のその質問。が、霊夢は少し答えづらそうな顔をした。
「そうだな~、例えば」
そんな霊夢を置いて、魔理沙は陽気に言った。
「お前が食料として連れてこられた奴、とかだな」
食料。……食料?
「食料って、どういうことだ?」
当たり前の疑問、それに魔理沙は当たり前の回答を用いる。
「どうって、だから妖怪の食料だよ」
「……うん、そうか。……って、いやいやいや」
静かにではあるが幻能は焦った。自分の耳がおかしくなったのか、はたまた本当なのか。
「妖怪って言うと、あれだろう。昔の人間の見間違いのあれだろう」
少なくとも幻能はそう思っているのである。
「いや違うぞ。本当に妖怪は存在してるのさ。存在していて、食料として連れてこられた人間を喰う」
悲しいねぇと、そう言う魔理沙だがその言葉はもう彼には届いていない。
(さて、どうしたものか)
もし、魔理沙が言っていることが本当ならば幻能は、今いる神社を出てしまえばとても危険な状態である。
妖怪などと言う、現代では幻想と化したものに喰われてしまうというのだから。
「……あいつの仕業って言うことも、あるにはあるんだけどね」
「あー、あいつか。確かになぁ」
ふと、霊夢は口を開き言った言葉に魔理沙が同意した。
「あいつ? 誰のことだ?」
ここに来てさらに質問を重ねる幻能。
「まあ、ここには気分だけで関係ない人を連れてこれるような奴もいるのよ」
「はぁ」
答えた霊夢であったがその答えは幻能が理解を示せるような答えではなかった。
「で、結局俺はどうなるんだ?」
このまま放り出されて妖怪に喰われるなんてたまったもんじゃない。関係ないならなおさらだ、と。幻能は思っていた、が。
「別にあんたを帰す位だったらすぐに出来るけど」
「……じゃあ、今までのはなんだったんだ?」
「さあ、何だったのかしら」
「まったくわからないぜ」
「…………」
そんな二人に呆れる幻能である。
「じゃあ、とっとと帰してくれよ」
「まあ、別にいいけど」
そういった霊夢は鳥居の方に手を伸ばし、そして。
「はい、あそこから出て行けばすぐよ」
「今のはなんだったんだ?」
「結界を緩めただけよ」
よくわからない、と思う幻能だがよくよく考えればここで起きたこと全てよくわからないのだ。今更である。
言われた通りに逆向きの鳥居をくぐって、自らのいた世界に帰ろうとする幻能。
(まあ、よくわからなかったがとりあえず帰れるんだろうな)
そう思う幻能……だったが。
「……ん?」
そう簡単に物事は進まないのである。
「……おい、どういうことだ」
振り返り幻能は霊夢にそう問うた。
「何が?」
「何が、では無くてだな」
幻能は言う。
「ここ、通れないんだが、どういうことだ?」
「はぁ?」
幻能の質問にそう反応を示す霊夢。
「どういうことよ、通れないって」
「それはこっちが聞いていることだ」
そう言い合う二人をよそに、魔理沙は鳥居へと向かい、そして。
「普通に通れるっぽいけどな」
鳥居の内側へと石を投げた。その石はその鳥居の向こう側へと吸い込まれたかのように消えたのだ。
「…………」
「いや、そんなはずは無い」
無言でどうだとでも見てくる霊夢をよそに幻能は鳥居の内側を通ろうとする。
そして、その歩みは途中で止まる。止まらせなければならない。なぜか、と聞かれれば。
自らの目の前に岩があるのである。それに進んでぶつかりに行こうとする人などいるだろうか。いるかもしれないが、少なくとも幻能はそんなことをしない人間であるのだ。
彼はその岩に手を添えて、押す。
「なんだ? パントマイムでもしてるのか?」
だとしたら結構なリアルさだな、と思う魔理沙はもう一度石を投げる。すると。
「……何?」
その石は、鳥居の向こう側へと消えることなく弾かれた。弾かれて投げた本人の方へと戻ってきた。
そしてそれを、紅白の巫女も見ていないわけではなかった。
「これは……」
そう呟いた霊夢も鳥居へと歩み寄る。そして今幻能が何かを押しているように手を伸ばしているところへと、同じく手を伸ばす。
「……どういうことなのかしら?」
その手は向こう側へとは行かず、幻能の手とほぼ同じ平面状に阻まれた。
「離れて頂戴」
「何でだ?」
「いいから」
「……わかった」
霊夢は離れた二人を見て綻ばせていた結界を元に戻した。そうすると――
「岩が、消えた」
幻能の視界にあった鳥居の内側を阻む岩が、霊夢によって消されたと。
そう見えたのは幻能だけである。
「そういえばあんた、名前を聞いていなかったけど」
そう霊夢は唐突に言う。
「そういえばそうだったか」
と、魔理沙は思い出した。
幻能は気付いてはいたのだが、それを言い出す機会が無くそのままここまで来てしまったと言うふうに感じている。
「私は博麗 霊夢よ」
「霧雨 魔理沙だ、よろしくな」
いまさらな自己紹介を受けて彼も名乗る。
「孤全 幻能だ」
「そう、幻能」
と霊夢は言って。
「貴方、よくわからないけど帰れないみたい」
幻能にとっては、確認となる言葉を口に出すのだった。