IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第21話 Realize

上半分が透明になった医療用のカプセルボックス。

その中で小さな寝息を立てている少女を見下ろしながら束は表示される様々な測定結果を確認していく。

褐色の肌と色素の抜けた髪はそのままだが身体的な異常は収まり元来の少女の姿に戻っている。

 

「暫く安静にしていれば意識も戻ると思うよ。肉体的に異常がなくても精神的には目覚めてみないと分からないけどね」

 

欧州から救い出したと言えば聞こえは良いが世間体的には奪い取ってきた少女の肉体に残留していた薬品は凡そ取り除けた。

十全を自負する束だからこそではるが、薬品による影響を完全に無効化できると断言はし難い。

 

「それで、どうするつもりだ?」

「どうしようか? 本人次第なんだよね」

 

後ろに控えているユウが束に問い掛ける。

現状では少女は眠っているが目覚めた際にどうなるかは分からない。

狂戦士状態が解除できているとも限らないし、後遺症が無いと保証は出来ない。

欧州連合からは逃げおおせたが政治的には蒼い死神が少女を略奪したと言う認識だろう。

今の所ニュースなどにはなっていないが、少女が元々いたとされる孤児院での動きまでは掴めていない。

ISによる被害者の救済と割り切れば簡単だが、世の中はそう上手くはいかない。

篠ノ之 束が他者を優先した。その事実があれば世界中が驚愕するに値する。天才にして天災、唯我独尊を行く姿見えぬIS開発者。

束に取り入る口実を世界に与えるわけにはいかない。

現状で蒼い死神と束の関連性は見出せず、今回の事件に束が関与している証拠は誰も持ち合わせていない。

 

「だが博士」

「分かってる」

 

ユウの言葉に被せ気味に束が声を上げる。

 

「また同じような事件があった場合に、でしょ?」

「分かっているならいい」

 

危惧されるのは少女の安否と同時に今回の事件の多様化だ。

薬で人体と精神を含めISを支配する。

それが可能だと少なくとも欧州連合と主犯であるテロリストは理解したはずだ。

再発する可能性、犠牲になる少女は今回限りとは言い切れない。次があった場合に間に合うとも限らない。

仮に間に合ったとして全てを救える確証も無いのだ。

 

「人体実験に関してはドイツも他所を責めれないはずだし、今回に関しては欧州連合側は大丈夫でしょ」

 

今回の事件を経て欧州連合が薬によるIS支配を企むとは束は考えていなかった。

ドイツは遺伝子操作やISに搭載するシステムに関して違法紛いの実験を行ってきており、束も信用はしていない。

だが、少なくとも欧州連合は分かっているはずだ。今回のような事件を起こせば蒼い死神がやってくると。

蒼い死神と束との関連性は現段階で無いにしても、ブルーディスティニーのような規格外を生み出せる存在は束を置いて他に居ない。それは欧州連合も理解しているはずだ。

憶測でしかないが軍事に関わる人間は馬鹿では務まらない。世界が死神の裏に天災がいると予測を立てるには十分だろう。

未だ世界に正体を明かす気はないが、抑止力程度にはなるだろうと束は踏んでいた。

 

「この子の事は目が覚めてから追々考えるとして、ユウ君の具合はどうだい?」

「問題ない、とは言い難いが大丈夫だ」

 

ユウの体とて万全とは言えない。

眠る少女程ではないにしてもISでの戦闘による消耗は激しい。

少女に打たれた肩もさることながら、高速移動を繰り返しての国境越えだ。

ブルーの全身装甲は搭乗者に与える様々な外的要因を緩和し、他ISに比べて高性能ではあるが無傷とは言えない。

武装の一つである胸部バルカンとて内側に衝撃も無いわけではないのだ。

 

「あの、姉さん」

「およ? 箒ちゃんどうかしたかい?」

 

緊張気味の表情で何やら聞きたそうな表情をしている箒を見てユウが反転。

申し訳なさそうに頭を下げる箒に小さく笑みを返して、何も言わずに部屋を後にする。

肉体的にはMSパイロットとして全盛期に若返ってはいるがその実は第二次ネオジオン抗争時に大佐を務めていた男だ。

場の空気を読む位は自然にやってのける。比較対象が束しかいない現状もあり、ユウが大人びて感じるのは無理もない事かもしれない。

 

「それで? 何か聞きたそうだね?」

「……はい」

「っと、その前に! ひとつ聞いてもいいかい?」

 

ニッと笑みを浮かべて箒より先に束が質問を浴びせる。

 

「ISでの実戦を見てどうだった?」

 

オペレーターとしてユウの戦いをブルーの視線で見ていた箒。

その感覚を思い出してか身震いを感じずにいはいられない。

 

「正直に言うなら、怖かったです。戦いの空気は知っているつもりでした。ISが飛ぶ姿も戦う姿も見た事はありましたし、大きな大会の映像を見た事もあります。でも、実戦がこうも怖いとは思わなかった」

 

思い出すだけで震えだす手をきつく握り締める。

 

「誰だってそうだよ。銃で撃つのも撃たれるのも、刃物で切るのも切られるのも、怖いのが当たり前だよ」

 

少しだけ哀しそうな光を目に宿しながら束はいつの間にか側に歩み寄り、箒の閉じられた拳を上から優しく揉み解す。

ISが競技として発展するには分からない感覚。軍事力として使われて初めてISの異常性が良く分かる。

特に箒がモニターしていたのはブルーからの情報だ。我武者羅な少女の挙動もユウの息遣いも鮮明に感じ取れた。

黒いラファール・リヴァイヴとの戦いはユウ側に殺す気が無かったとは言え、間違いなく軍事力としてのISの戦闘だった。

競技として頂点を極めた千冬とは違う。少しずれるだけで殺し合いに発展していた実戦だ。

ISは如実に搭乗者に戦いを実感させる。怖いと感じるのは人間として当たり前の感覚。

 

「箒ちゃんが怖いと感じたなら、それは正しい感情だよ」

 

以前の箒であればIS製作者が何を言うかと問い詰めたくなっていただろう。

今は違う。姉が少女を救おうと全力を賭していると知っている。

高慢と言って差し支えない姉が自身の作品であるISによる被害者を認識している。

だが、箒には分からない点が多すぎた。

箒はこの島に連れられユウの正体を知らされた。

別の世界から来た軍人と言われても俄かに信じるに至らなかったがブルーと言う現実を目の当たりにすれば信じるしかない。

しかし、姉とユウの明確な目的には至っていない。だからこそ、聞きたい、知りたいと願ってしまう。

以前と同じ質問「何をしようとしているのか」そのたった一言。

口にすれば哀しい笑みが返って来るだけだと分かっているから。姉を信じると決めたからにはその質問は今は出来ない。

 

「さて、聞きたい事があるんだったよね? 聞こうか?」

 

ダメだと理解する。心理戦で姉に勝てるはずがなかった。

意を決して再度質問してみようと思ったものの、戦いの感想を求められ、質問を封じられていた。

 

「箒ちゃんは優しいね。今の私は気分がいいからね、案外何でも答えてくれるかもしれないよ?」

 

笑顔の裏に嘘があると箒には分かってしまう。だが、姉が嘘を言っていないとも分かってしまう。

恐らく本当に聞きたい質問以外であれば束は教えてくれるだろう。

ならば、と決意を新たに箒は質問を選ぶ。

 

「姉さん」

「何だい?」

「ISは女性にしか動かせない。そうですよね?」

「そうだよ、嘘偽り無く真実だね」

 

世界の常識はこの場に至っては常識になりえない。

ユウのブルーは度外視だ。女性であろうともブルーは動かせない。ユウにしか動かせない専用機。

初めからユウの為だけに作られた特注品はMSをISに転化させたもの。ブルーは他のISとは一線を画す。

机上では第二世代型のISではあるが、束曰くISのようでISではないISだ。

その概念はユウや箒には理解出来ないが、あくまで機械としてパワードスーツとして、兵器として、どちらかと言うと我輩は猫であるに近い存在だ。

とは言ってもISコアについては束以外に全く理解できない代物である以上は兵器として他の誰かがブルーを再現できるわけではない。

故にブルーは度外視。ならばこの質問の意図は自ずとひとつの結論に到達する。

 

「そっか、それがあったか、箒ちゃんも中々やるね。いっくんの事だね?」

 

ISコアが女性にしか反応せず、ブルーとユウを別と捉えるならば織斑 一夏がISを動かせるのは何故か。

一夏だけが特別だと言う説明で納得できる程、箒は単純ではない。

 

「はい、何故一夏はISを動かせるのか…… いえ、動かせるようにしたのか、です」

 

一夏がISを動かせる裏に束が絡んでいるのは間違いない。確信のある声色で箒は問う。

 

「うんうん、疑問に思うのも当然だよね。いっくんに危険な目にあって欲しくないもんね」

「わ、私は別に一夏を心配しているわけではっ」

 

本心を見抜かれているような束の目に思わずうろたえる。

ブルーの戦いを見て、ISの実戦を、命を賭けた戦いがどういうものかを知ってしまった。

大切な幼馴染、恋心を抱き続けている相手が同じ状況に陥る危険性を想像してしまっても無理は無い。

 

「答えは簡単だよ。いっくんが弱いから」

「え?」

 

世界中の疑問をあっさりと肯定。一夏がISを動かせる原因が自分であると認めた。

無論、箒とて確信はあったが、多少渋られるだろうと考えていた。

それを何でもないかのように雑談の一部のように束は吐き出した。

 

「うん?」

「いえ、その、そんなに簡単に答えてくれるとは思っていなくて」

「私以外には不可能だよ、箒ちゃんも分かってたでしょ?」

「それは、まぁ、そうなんですが」

 

言い淀む箒とは別に束は語る。一夏には何も無いと。

千冬はIS学園に籍を置いておりある意味で世界で一番安全だ。法的にも武力的にもこれを破るのは難しい。

箒も含めた篠ノ之家の面々には日本政府による保護プログラムがあった。実際には保護プログラムは破られたわけだが無いよりはマシであるに違いない。

箒が奪還されている以上、両親への安全性はより厳重になっているだろう。

だが、一夏には何も無かったのだ。

 

「ねぇ箒ちゃん。今回みたいな事件を起こす犯人はどういう奴だと思う?」

「えっと、危険な人間と言う事ですか?」

「もっと単純だよ、イカれてるんだ。私が言うのも何だけどね」

 

自虐的に笑い、自分の頭を指で叩きながら束は続ける。

ISは世界最強の武力として優秀だ。現にテロリストがISを用いる場合はある。

束の関係者、束が贔屓にするというだけでイカれた連中から狙われる理由は十二分にある。

 

「ちーちゃんや箒ちゃんには身を守る術があったけど、いっくんには何も無かった。だから白式を上げたんだよ」

 

日本政府は一夏も保護プログラムに組み込むべきだった。

束の交友関係を漁ればすぐに分かったはずなのに出来なかったのだ。

男がISを動かせばIS学園に入るのは必然。

千冬の側であり、世界中から安全基準の高い場所であれば束も安心出来る。

 

「姉さんの話は分かりますが、それは一夏がISを動かせる理由にはなっていません」

「およ? おぉ、本当だね」

「ISは女性にしか動かせない、姉さんは先ほど肯定しましたよね?」

「うん、そうだね、そこから説明しないといけないよね」

 

うーんと首を傾けて言葉を捜して束は語る。

それからの話は正直箒が顔を覆いたくなる内容だった。

高校入試の際に元々一夏が受ける予定だった受験会場をIS試験を行っている会場に変更。

打鉄を置いてある場所に一夏を誘導し、遠隔操作でISを起動させて欺瞞は完了だ。

この欺瞞が厄介だと束は言う。常にISコアの男女認識を阻害させる必要があり、束であっても常時作業を続けねばならなかった。

一夏が特別なわけではなく、一夏がISを動かしているように束が見せかけていただけに過ぎない。

 

「ですが、今の一夏には専用機が…… 待って下さい、まさか」

 

白式は一夏の専用機だがブルーのように最初から全てが一夏用と言うわけではない。

ブルーと違うのは正真正銘のISであり、コアが少々特殊だと言う事。

 

「ビャクシキをシロシキと読む、そう考えれば分かるよね?」

「白騎士……っ!」

「正解」

 

かつて世界を揺るがした白騎士事件。世界に圧倒的な武力を見せ付けた白騎士と言う名のIS。

そのコアを再構築したものが白式。

 

「でもね、実際の所は白式がいっくんに適合する保証はなかったんだよ」

「え?」

「賭けと言っても良いね。元々白騎士はちーちゃん…… あ、言っちゃった!」

「いえ、それは改めて言われなくても想像できます」

「そう? ならいいか、元々ちーちゃん用に作られたコアだからね。弟であるいっくんでも大丈夫かなーと思ってさ。勿論調整して万全は期したよ。結果的に白式はいっくんを受け入れたしね」

「一夏が白式に適合した理由は分からない、と?」

「色々調べてるけど、今の所はそういう事だね」

 

ISコアが女性しか認識しない理由は現状は束にも分かっておらず、一夏が特別と言うのも間違いではない。

ひとつだけ確かなのは、束が一夏にISを与えたと言う事。

ISを動かせなければ一夏は平穏無事に過ごせたかもしれない。

だが、ISを動かせなければ非常時に身を守る術が無いかもしれない。

どちらにしても束は一夏の人生を大きく狂わせた。

 

「私を恨んでくれても構わないよ。それでも私は箒ちゃんや いっくんを守るよ。どんな事をしてもね」

「恨む? 何故ですか? 結果がどうであれ、姉さんが作ったISは決して恥じるような物ではありません。悪用する者が悪いのです」

 

ISが時代に大きく影響を与えたのは間違いない。

スポーツや兵器としての面が目立つが、ISが非常に優れた代物であるのは事実。

防衛としてISが配備されるようになり、自然災害も含め多くの人命救助に貢献しているのも現実だ。

天災と呼ばれてはいるが束は間違いなく天才なのだ。

 

「世界が姉さんをISを作りし悪と呼ぶ時代が来ても、篠ノ之 箒は篠ノ之 束の妹でいたい」

「えへへ、照れちゃうなー。そっかそっか、私も捨てたもんじゃないね!」




箒はユウが宇宙世紀から来た事を理解済み。
今回の話は束との対話を中心にした説明回になってしまった。
次回はIS学園側の話です。
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