IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第23話 拭えぬ過去

正確な意味合いは違うが目が泳ぐとは正にこういう状態を指すのかもしれない。

IS学園アリーナでの一組と二組の合同授業。教師も含め女性の中に一夏だけが男性と言う状況は当然変わっていないのだが、ISの実機を用いる授業となれば一夏の立場は微妙だ。

何せ一夏も含めてだが全員がISスーツ着用だ。朝、話題にも上がったISスーツは非常に利便性が高く見た目に反して高性能だ。

その見た目は水着と変わりなく露骨に身体のラインが浮かび上がる。一夏がおろおろと視線を彷徨わせるのも無理は無い。

授業やISとの戦いで何度も目にしていると言っても思春期の青年には甘美な毒と言える。

綺麗な花には棘があるとは良く言ったもので女性側も恥じらいを覚える場面はあるが、多勢に無勢。割合から言っても一夏の肩身が狭くなるのは致し方ない。

 

「いい加減慣れろ」

「慣れろって、それは無茶だろ、千冬ねぇぉりむぅら先生」

「気持ちの悪い呼び方をするな」

 

思わず千冬姉と呼びそうになったのを無理矢理織斑先生に引っ張った結果だったが、残念ながら出席簿を呼び込む結果となった。

頭に落とされた出席簿が鈍い音を立てて一夏の脳が揺れ動く。歯を食いしばり何とか悲鳴を耐え抜いたのは褒めるべきか。

千冬はISに乗るつもりは無いらしく、いつもの黒いスーツ姿だが、隣に並ぶ山田先生はISスーツ姿で予めラファール・リヴァイヴを装着している。

童顔には不釣合いに実った身体に行きそうになる視線を一夏は何とか耐え首を捻る。

視線を変えた先に居るのはクラスメイトの面々だ。セシリアやシャルロットを中心に美麗揃いのISスーツ姿に一夏は項垂れるしかなかった。

 

「はぁ、クラス対抗戦はこなしたと言うのに情けない」

「あの時は無我夢中だったんだよ」

「織斑さんの女性をじろじろと見ない心掛けは立派だと思いますが、気にするだけ無駄ですわよ? 気にすればする程、ISが感知しようとしてしまいます」

 

千冬との会話に混ざったセシリアに言われ「あー」と訓練を思い出す。

本人の意図とは関係なしに白式がシャルロットの胸元を拡大した出来事だ。

ISが搭乗者を理解しようとすればする程、その感覚が鋭敏であればある程、些細な思考を拾い上げる。

そんな一夏の様子を見てかシャルロットが胸元を隠しそっぽを向く。

 

「一夏のえっち」

「ど、どうしろって言うんだ」

 

リアクションは取るもののシャルロットやセシリア、転入してきたばかりのラウラはそれほど一夏の視線を気にしていない。

軍には女性もいるが、男性が大多数を占めており、男の視線に対する免疫力が他の生徒とは違う。

最も、軍人は男だ女だと現場において喚き散らすような愚か者はいないのだから議論には値しない。

ISスーツによる恥じらいはIS乗りを目指す以上は乗り越えねばならない問題だ。

大きな大会にでも出ればそれこそ世界中にISスーツ姿を見られるのだ。セシリアが言う通り、気にするだけ無駄だ。

 

「気付かれてない? 大丈夫っぽい?」

「今の所はね、でも時間の問題でしょ」

「小さな声で喋りなさいよ!」

 

羞恥心について各々が考えている最中、合同授業に参加しているもうひとつのクラス。

二組の端の方で鈴音は小さな身体を更に小さくしてティナの影に隠れていた。

ISスーツ姿を見られて恥ずかしいと言うわけではなく、単純に一夏から隠れていた。

一夏がクラスメイトを直視できないのが幸いしてか今の所は見つかっていない。

 

「絶対無駄だって、代表候補生だよ? 授業の模範にされるに決まってんじゃん」

「いいから静かにしてなさいよ!」

 

誰にも気付かれないような小さく鈴音を見ていた千冬は「ふむ」と少しだけ考える。

当然ながら授業である以上やるべき事は多々あるが現段階の生徒の様子からすると一夏の存在が厄介だ。ありていに言うと邪魔なのだ。

と言っても一夏を邪険に扱うわけにもいかないし、するつもりもない。

 

「織斑」

「は、はい」

「ISを展開しろ」

 

言われて一夏は顔色を変える。

困ったような視線ではなく、千冬を見据えて真剣な表情になる。腕に装着された待機状態(ガントレット)の白式に意識を向ける。

相棒を呼ぶ、その身に鎧を、その手に刃を願う。光の粒子と化した白式が瞬く間に一夏の全身を包み白式が具現化する。

 

「良し、飛べ」

「へ?」

「飛べと言ったぞ?」

「り、了解」

 

膝を曲げ地面を蹴り白式が垂直に飛び上がる。空を飛ぶ感覚はセシリアとシャルロットに叩き込まれ続けただけあってスムーズなものだ。

代表候補生の二人には及ばないが白式の性能もあり、一夏の空戦技術はそれなりに見れるレベルにはなっていた。

 

「山田先生、少し予定と違いますがお願いします」

「分かりました」

 

続けて山田先生も空に舞い上がる。

白式程のスピードは無いが、身体の芯がぶれない綺麗な飛行はお手本と呼ぶに相応しい。

大空で二機のISが向かい合い、視線が交わると山田先生がニッコリと微笑んでいる。

 

「織斑聞こえるな?」

「はい」

「今から山田先生と模擬戦をしてもらう。下にクラスメイトがいるからな、間違っても墜落するなよ」

「え、模擬戦?」

「いいからやれ、存分に遊んでもらえ」

 

一方的な物言いではあるが反論は許されないと一夏を含め生徒達は理解している。

向かい側でニコニコしている山田先生の実力は蒼い死神との戦いにおいて少しだけ知っている。

あの時は死に物狂いであり、千冬もいたので良く分からなかったが実力を疑う余地はない。

 

「準備は良いですか織斑君?」

「あ、はい、いつでも」

 

一夏の返事を聞いた直後、山田先生の操るラファール・リヴァイヴが二丁のマシンガンを展開。砲火を上げた。

 

 

 

 

 

弾幕を張るラファール・リヴァイヴに追われる白式と言う図式を下から見上げながら千冬は生徒達を集める。

 

「さて、デュノア、二機のISの説明を頼めるか?」

「はい」

 

進み出たシャルロットが姿勢を正し空を見上げると白式を視線で捉える。

 

「まずは織斑君の白式ですが、世代は第三世代で製作は倉持技研、武器は近接ブレードの雪片弐型のみですが、特筆すべきは単一仕様能力の零落白夜です。発動中は自身のエネルギーを消費しますが、ISのシールドエネルギーを切り裂き相手の防御を無効化、本体に直接ダメージを与える事が可能で攻撃力としては最強クラスです。機体特性としては近接特化型と言う事もありスピードに秀でています。加速力、旋回性能、最大速度どれを取っても一級品、現行の第三世代機の中でもトップクラスのスペックの機体です」

 

改めて白式の説明を聞き二つのクラスからどよめきに近いものが起こる。

各国が第三世代機の開発に躍起になっている中で、唐突に沸いて出た機体が第三世代機最強クラスと宣言されれば無理も無い。

その上で使っている武器はかつて千冬が世界を獲ったものと酷似している。ISを学ぶ者からすれば知らないはずの無い武器。

雪片弐型と零落白夜の説明時にラウラが小さく舌打ちしたのを果たして何人が気付けただろうか。

 

「上出来だ、もう一機も頼む。こっちの方が得意だろう?」

「はい」

 

上空で縦横無尽に空を駆け、スピードに秀でるはずの白式を翻弄する緑のIS。

疾風の名を冠するシャルロットに縁のある機体を見詰めなおす。

 

「山田先生の使用されているラファール・リヴァイヴはデュノア社の誇る第二世代型の量産機です。第二世代ではありますが基本スペックは初期第三世代に劣らないもので、機体特性は乗り手を選ばない高い汎用性にあります。耐久性、速度、射撃性能に近接性能、何れも特化型には劣りますが、高水準で纏まった機体です。豊富な後付武装も特徴で複数機での連携戦においてどのポジションも出来る万能型ですが、器用貧乏と揶揄される場合もあります。現在各国では第三世代機の開発を中心にしていますが、第二世代型であり量産型の立役者としてデュノア社がIS世界シェア一位を得ている代名詞でもあります」

 

特徴が無いのが特徴を地で行くラファール・リヴァイヴは乗り手次第でいかようにも姿を変え実力次第で化ける機体。

山田先生が乗り手の場合は正に一流と呼ぶに相応しい。

 

「その通りだが、若干会社説明のようになっていたな」

 

言うまでもなくラファール・リヴァイヴの開発元であるデュノア社はシャルロットに深い関わりのある会社だ。

強い個性を持つ機体は専用機として好まれるが、連携を組むには汎用性の高い量産機が好まれる。

各々の個性の高い第三世代機は量産に向いているとは良いがたい面もあり、時代遅れとされながらもラファール・リヴァイヴは世界中で愛される名機と言える。

現在世界各国では、デュノア社の牙城に誰が手をかけるかを争っている。

代表例で言うなれば中国とアメリカの二大国だろう。鈴音の駆る甲龍シリーズ、アメリカが開発しているとされるシルバーシリーズ。

何れも世界に大きな影響を与える可能性を秘めたまだ見ぬ時代の波だ。

 

「そろそろ終わるか」

 

言って千冬が見上げた上空では白が緑に対し果敢に攻撃を仕掛けるが、いなされ続ける光景だった。

 

 

 

 

 

雪片弐型を構え飛び込み面や胴を狙いつつ、不意打ちのように突きや小手を交える。

基本スタイルである剣道をISの高機動戦に組み込んだ戦いは一夏ならではと言えるが、山田先生の操るラファール・リヴァイヴには届かない。

斬撃は紙一重でかわされ、近距離からの銃弾で攻撃を弾かれる。時折攻撃が届く場面もあるが山田先生のリカバーが早くすぐに体勢を立て直されてしまう。

攻撃が届かず、的確な射撃で反撃の糸口を掴めぬまま削られ、目の前なのに当たらないもどかしさが一夏に焦りを蓄積させていく。

何度接近を試みても避けられ弾かれ距離を取られる。千冬の言った通り、文字通り遊ばれていた。

明確な実力差もあるが、それ以外に一夏は意識せずに上へ上へと軌道を上げているのが原因でもある。

模擬戦開始前に千冬に告げられた言葉「下にクラスメイトがいるからな、間違っても墜落するなよ」が頭の端に引っ掛かってしまい全力で動けていないと本人は気付いていない。

下を見る余裕もなく、クラスメイトを気にする素振りも見せてはいないが、無意識で下を避けるような飛行になっていた。

相手の行動を狭め予測できるのであれば搭乗者の腕次第では一方的な展開を作るのは不可能ではない。

 

「うーん、織斑君は気を取られ過ぎですね。戦う時は相手だけを見て、相手に集中しないと。もっと私だけを見て下さい、私を落とす事だけを考えて下さい」

 

一夏としてはそうしているつもりだが、無意識と言うのは意識出来ない。

落ちたらダメだと上を意識してしまうからこそ下が見えていないと気付けていない。

戦闘開始以降山田先生はちょくちょく一夏に話しかけている。的確に一夏の動作を指摘している姿は教師と呼ぶに相応しいものだ。

とは言うものの、今の説明は自分で言っておきながら戦闘以外を想像したのか顔を真っ赤にして否定の言葉を続ける。

 

「ち、違いますからね、今のはあくまでISの戦いについてであって、プライベートな話じゃありませんからね? って聞いてますか? 織斑君?」

「集中、集中……」

 

必死に否定の言葉を連ねる山田先生ではあるが、目の前の一夏の表情が変わったのを見逃さない。

正眼に構えられた雪片弐型、その切っ先が真っ直ぐに山田先生に向けられ、闘志が山田先生を貫いている。

一度スイッチが入るとその姿は千冬の弟なのだと思わざるえない。

力量も経験も足元にも及ばないが、千冬の戦う姿を、現役時代を知っている山田先生からすれば瓜二つだ。

千冬は決して銃器が使え無かったわけではない。だが、ひとつの武芸に対する集中力と圧倒的な技量があった。

剣を持って銃を制し、剣で世界を切り開いた。憧れと畏怖、尊敬と嫉妬。自分に無いものを持っている人、追い続けた人が目の前の姿に重なって見える。

 

「……いいですか織斑君。先生にそういう態度はいけません、先生、本気になっちゃいますよ?」

 

無論、恋心ではない。それは戦うと言う意思表示。

 

 

 

 

 

破砕音。

空中で爆発が起こり、力を無くし崩れ落ちる一夏を見上げていた生徒達が確認し短い悲鳴が上がった。

専用機持ちの面々さえ目を見張り、目の前で起こった出来事に驚く他無かった。

集中力を高めた一夏が取った行動は瞬時加速と零落白夜による一撃必殺。簪に破られたとは言え現状で一夏に出来る最大にして最速の攻撃。

来ると分かっていても代表候補生達ですら警戒する一撃を山田先生は封殺した。

真正面から向かって来る一夏に手榴弾を投げつけ一瞬の足止め、爆風を突き抜けて突っ込んでくる一夏に対しショットガンとバズーカで撃ち砕いた。

爆発の中を恐れずに突き抜けた一夏も評価すべきではあるが、最強の剣を構え向かって来る相手に対し怯む事無く正面から迎え撃った山田先生の度胸を褒めるべきだろうか。

数秒でも一夏が崩れるのが遅ければ間違いなく零落白夜は山田先生を切り裂いていた。

 

「更識さんが教えてくれたはずですよ、零落白夜は既に研究し尽くされているんです。覚えておいて下さいね?」

 

最強のヒーローに憧れたのは簪だけではない。

諸刃の剣である零落白夜発動状態で瞬間的にダメージを重ねれば本人の想像以上のダメージが通る。

一撃必殺を簡単に当てられる程、ISの戦いは簡単ではない。だからこそ剣一本で世界を獲った千冬が崇められるのだ。

地上に落ちていく一夏を見る山田先生の目はかつて日本国代表候補生として空を駆けた時と変わらぬ戦士の光を帯びていた。

蒼い死神との戦いに確かに油断はあった。何より千冬がいて負けるとは微塵も思っていなかった。

だが、彼女は先生なのだ。生徒の模範として、あの失態を繰り返すわけにはいかない。

 

「あ、あぁ! 織斑君! 起きて、起きて下さい!」

 

一夏が気を失っていると気付き慌てて山田先生が落下する一夏に向かい加速を開始するが既に手遅れ、大きな衝撃と共にアリーナに白が墜落した。

 

「教員の実力は見ての通りだ、今後とも敬意を払えよ。と言っても織斑が相手では参考にならんか」

 

ぶっきらぼうに言い放ちながらも墜落した弟が山田先生に介抱されているのを確認し安堵の息を吐く。

ISが守ってくれるとは言え意識を失っての落下だ、危険が無いとは言えない。心配していないと言えば嘘になるだろう。

 

しかし、と今の戦いを見てセシリアやシャルロットは考える。

近接戦闘に対し射撃でいなした山田先生の手腕は見事だ。零落白夜を知っているといえど対処も文句なしだ。

統合的に見て実力は申し分なく一流。千冬の言う通り敬意に値する。

が、仮に自分が一夏の対戦相手だったとして零落白夜を正面から迎え撃ち冷静に対処できるだろうか。

世界各国が一度は研究に専念し、千冬の引退と共に打ち切られた研究の成果を今一度確認すべきだろう、と結論付ける。

零落白夜が今の時代においても最強の剣である事に変わりはないが、当たらなければどうと言う事は無い。

これから先、一夏の前に立ちはだかる者は何れも零落白夜を気にかけ研究してくるだろう。

本人のあずかり知らぬ所で立ち塞がる壁は更に強固に強大になっていく。

 

「さて、授業を再開するぞ。専用機持ちとクラス代表をリーダーにグループに別れ、ISの装着と基礎移動の練習を始めろ」

 

山田先生が一夏をアリーナに備え付けのピットを兼任している治療室に運んでいくのを確認し千冬が手を叩き声を上げた。

意図したかどうかは分からないが、結果的に鈴音はこの授業において一夏と再会せずに済んだのだが、思惑とは裏腹に再会は割と直ぐに訪れる事になる。

 

 

 

 

 

その日の夜、千冬の携帯にひとつのメールが届く。

 

『はろーはろー 束さんだよー。本当は直接色々話がしたかったんだけど、今手が離せなくてね。本題だけ言うよ! 今度の学年別トーナメント、何があっても見届けてあげてね、悪いようにはしないよ。終わり! 尚、このメールは自動的に消滅するよ! ばいばーい、ちーちゃん大好き!』

 

内容の通りメールは自動的に消去され、頭痛の種だけを残していった。




一夏君の戦績が中々上がらない。頑張っているはずなのだが、報われる日はいつになるのだろうか。
以前にも少し触れましたがこの話の中ではデュノア社のシェアが一位です。
甲龍も少々設定が異なっていますが、それは近々登場予定です。
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