「はい、お前ら馬鹿ですか。自分の命狙った奴らと手を組めるわけねぇだろ、このバカ。」
「あら、なかなか良い話だと思うけれど?」
「思わねぇよ。つーか、一体どういう風の吹き回しだ。こっちはお前らが飛び出てきた時に灘の生一本お釈迦にされてるんだぞ。」
時はダイスケが石碑へのお参り帰りに何者かによって拉致されたところへ戻る。
いや、正確には拉致され「かけた」と言ったほうが正しいのだろうか。
誰にも見つからないようにその場を立ち去ろうとした時、藪の中から堕天使が四名も飛び出してきたのだ。
そして突然の出来事に驚いたダイスケは尻餅を付き、その拍子にお下がりとして持ち帰ろうとした日本酒の酒瓶を割ってしまった。
かなり奮発して購入し、祖父のところに持っていった後はあわよくば相伴に与ろうとした計画が露と散ってしまったのである。
もはや堕天使たちに対抗しようという意思もなく、1200円が無慈悲に地面に飲み干されていく様を文字通り「orz」のポーズで涙を流していた。
その光景を見て流石に堕天使たちも不憫に感じたのか、強制的に連れて行くことを止めてダイスケを近所のファミレスに連れ込み「自分たちの側に付いて欲しい」と請うたのだった。
「第一、こっちはお前らに自分の命を狙われた上にダチの命を一度奪われているんだぞ?なあ、レイナーレさんよ。」
「確かにそれは変えようのない事実ね。でもさっきも説明した通り、あれは総督であるアザゼル様からの命令。制御できない大きな力を持った危険な芽を間引き、世界の崩壊を防ぐためと説明したでしょう?」
傍から聞くと痛い人たちの食事会とも取られかねないが、それを避けるために周囲に人払いの術を抜け目なく掛けている。
「人の親切心なり恋心に付け込んで殺そうっていうのが気に食わねぇって言ってるんだ。なぁ?東欧から来日したばかりのカラワーナさん?」
「……。」
正論を突かれてグウの音も出ない。
「ねぇ、こんなまどろっこしいことしないで、洗脳なり肉体で篭絡なんなりした方が手っ取り早いんでねぇっスか?」
カラワーナとドーナシークに耳打ちするのはゴスロリ姿の少女、ミッテルトである。
「バカ言え、奴が持っている神器は異常だ。それこそ兵藤とかいうガキ以上に危険なんだぞ。」
「第一、あの男に下手な洗脳が通じるとも思えないわ。それに悪意に対する感が鋭いから色仕掛けなんて効くわけないじゃない。」
「ふーん、そんなもんっスかねぇ……。」
どこか承服しかねる様子でミルテットはジュースを啜る。
だが、ドーナシークとカラワーナは直にダイスケを相手にしている分、力が覚醒したばかりであるもののその内に潜在する危険性を承知していた。
かと言って諦めるわけにもいかない。
そこでレイナーレはある条件を持ち出し食い下がった。
「ねぇ、過去のことよりも現在のことを考えなさいな。知っているのよ?貴方がグレモリーの小娘に弱みを握られているって。」
「……へぇ、悪魔側の事よく知ってるじゃねぇの。」
「伊達に彼らと敵対しているわけではないわ。私たちは悪魔共を牽制するのに戦力が欲しい。貴方は弱みを揉み消したい。ちょうどいい協力関係になれると思わない?」
しばしダイスケは考え込む。
答えが出るまでの間、レイナーレたちは一瞬も気を休められなかった。
なにせ相手は石碑をぶん投げるというモラルもへったくれもない行動をとる人間だ。
突然このファミレス内で暴れだすという暴挙にも出かねない危険人物であるとレイナーレ達はダイスケを見ている。
そんなことをされれば、いかに人払いの術を使っているといっても、派手に暴れられれば意味がなくなってしまう。
最悪、四人がかりであればダイスケを仕留めることはできるであろう。
だがそうなればダイスケも捨て身となって二・三人は道連れにするつもりで戦うだろう。
良くてやんわり断れるか、決裂して流血沙汰。
実戦経験の多い彼女たちにも、緊張で手の内に汗が滲む。
「……わかった。その代わり、お前たちの行動の目的もちゃんと聞かせてもらうぜ。」
・
・
・
・
「―――というわけだ。悪いな、何の連絡もなしにこっち側について。」
「巫山戯るなよ!!!そっち側についたんだったら、こいつらがアーシアに何しようとしてるのかも知ってるだろう!?」
目の前のドーナシークに注意を払わねばならないイッセーだが、それ以上にダイスケが裏切った事への怒りが大きい。
「ああ。でもな、このままこいつが生き続けてなんになる?」
「なんだと……?」
「話を聴けば聴くほど、神器って物がいかに人の人生を狂わせるってことがよくわかる。この先この娘が生き延びても、神器はこの子自身を苦しめる。」
「そんな事……!」
「そんなことないって誰が言い切れる?俺もお前だって一度死にかけた。そんな生きるか死ぬかの世界にこんな娘を放り込もうっていうのか?ならいっそのこと、信じる神の下へ送ってやったほうが幸せってもんだぜ。」
「宝田君……見損なったよ。」
木場の目がダイスケへの殺意に染まる。
自身もその身に神器を宿している以上、ダイスケの発言は到底許せるものではなかった。
「勝手に見損なえよ。俺はそんなに出来た人間じゃないんだ。第一、助けてどうする?神を信仰していたシスターに悪魔と共に生きろっていうのか?」
「アーシアは俺の友達なんだ!シスターだとか悪魔だとか関係ェねェ!!」
「イッセー……この世の中はそんなに甘くない。友情だとかでどうこうできない壁っていうのが確かにあるんだ。……レイナーレ、いい加減この娘を楽にさせてやろう。」
「そうね。そうしましょう。」
その言葉を合図に、装置の輝きが増す。
「あ、あああああああ!!」
それと同時にアーシアが更に苦痛の叫びを上げる。
「さあ、見るがいいわ!!この私が至高の堕天使へと昇華する瞬間を!!!」
レイナーレの宣言と同時に装置の放つ輝きとアーシアの悲鳴は最高潮に達する。
そして遂に、その時が来てしまった。
「あ……アーシアァァァァァああああああ!!!」
*
イッセーたちがアーシア救出のために出立したのと同じ時刻の旧校舎裏手の林。
その少し前に出て行ったリアスと朱乃がここにいた。
否、正確に言うとこの場にいるのは彼女たち二人だけではない。
「あなたね?ダイスケのメールにあった“案内役”というのは。」
二人の目の前にはローブ姿の男が一人。
「ああ、奴に頼まれてきた。詳しい話は道すがら話す。俺はお前たちの転送術を利用できないだろうからな。」
「そうね。でもその前に。」
「なんだ?」
「私たちを呼び出したのは本当にダイスケなの?貴方が私たちを待ち伏せするために彼の携帯を使ったとも考えられるのだけど。」
「ふむ、確かにそうともとれるな。だが……。」
そう言って男が振り向く先の地面に何かがある。
それは倒れている人間であった。
数は一人や二人ではない。
数十人単位のローブをまとった人間の死体が散らばっている。
「敵を待ち伏せするのに味方を殺す奴がいると思うか?」
「……確かにいないですわね。」
朱乃が思わず顔をしかめて答える。
彼女は生粋のサディストであるが、人の死をなんとも思わないサイコパスではない。
故にこの男の異常性というか浮世めいた部分を仄かに感じていた。
「まあ、こいつらはある意味、堕天使共に付いて死んで当然のことをしでかしていたような連中だったからな。遅かれ早かれ“我ら”が処断していた。」
「あら、貴方は堕天使方のはぐれエクソシストではないの?」
「そうだ。詳しい話は後にするが……自己紹介だけはしておこう、グレモリー。俺はアーロン・ブロディという。」
*
「……どういうことなの?」
そのカラワーナの呟きは、この場にいるほぼ全員の気持ちであった。
確か、レイナーレの言う通りならアーシアはもう絶命し、その身に宿す神器である“聖女の微笑《トワイライト・ヒーリング》”は堕天使たちの手に落ちているはずであった。
しかし。
「いたた……すごく痺れました……。」
アーシアが辛そうな声で呟く。
ふるふると子犬のように顔を振り、先ほどの痛みを体から抜こうとあがいているさまが実に小動物らしい仕草だ。
だが、どこからどう見てもアーシアは痛がっているだけで命に別状がないように見える。
「あ、アーシア……貴女、なんともないの?」
レイナーレは想定外のできごとにまだ対処しきれていない。
「は、はい。なんだか感電したみたいになっただけで特に体に不都合は……あ、でもちょっと肩のコリがほぐれた感じはあります。」
「ど、どういうことなの……!?」
アーシアの命を奪うどころか肩こりをほぐしてしまうという本末転倒な結果。
こうなれば装置其の物の欠陥の可能性を考えなければならない。
無論、混乱しているのは堕天使たちだけではない。
「な、なあ、木場。何が一体どうなっているんだ?」
「……さあ、流石にそこまでは……って、まさか!」
木場はその時、この状況の現況が誰なのかを悟った。
だが確定したわけではない。
あえて大人しく注視する事で状況の転換を見極め、逆転の機会を窺う。
「れ、レイナーレ様!一体どうなってるんスか!?」
「おい、ミッテルト!そこの小娘から注意を背けるな!!」
「まさか……装置の不具合!?そんな、“神の子を見る者《グリゴリ》”の研究機関からわざわざ持ってきたものなんだぞ!?」
堕天使たちの混乱の中、ただひとり異常なまでに冷静の人物がいる。
ダイスケである。
「おい、どうしたんだよ。早くやれって。」
「やりたくっても、装置が壊れてるのよ!!」
「いやいや、ならすぐに直せよ。」
「そうしたくっても故障箇所の見当がつかないんだから、手のつけようがないのよ!!!」
あたふたとしているレイナーレをよそに、ダイスケは装置の傍らに立つ。
「大丈夫だって。こういうのは斜め45°から叩けば直るもんだよ。」
「そんな馬鹿なことが―――!?」
途端に、レイナーレの胸に嫌な予感が起きる。
思えばここまでこの男が自分たちにどうしてついてきたのか、その本当の理由など考えもしなかった。
さらに過去の行動を見れば、自身や自身の身近にいる人間の危機に誰よりも過剰に反応してきた男がどうしてわざわざその逆のことを突然しようとしているのか。
よく考えればダイスケが堕天使側についた時のメリットなど微々たるモノに過ぎない。
むしろ日常を共に多く過ごしているのは悪魔側だ。
そんな人間が一時でも堕天使側に立つ目的は唯一つ。
だがそれに気付くのにはあまりにも遅すぎた。
既にダイスケの四肢には漆黒の装甲が着けられている。
「―――こんなふうにな!!!」
「―――待てぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」
レイナーレの制止も虚しく、ガントレットに備えられた四本の爪が装置を構成する巨大な十字架を破壊する。
バッガァァァァアアアアアアン!!!
凄まじい音ともに十字架が破壊され、アーシアが解き放たれた。
同時にダイスケの裏拳が迫り来るレイナーレの横っ面を捉える。
しかもただの裏拳ではない、熱弾の発射を推進力にした裏拳だ。
「ガハッ……!」
その一撃はレイナーレの意識を一瞬刈り取ったばかりか、祭壇の下へと勢いよく叩きつける結果となる。
アーシアの方を見ればやはり怪我一つない状態であるとわかるが、その姿は薄い布一枚を纏っただけというなんとも危険な姿であるため、ダイスケは来ていた制服の上着を掛けてやる。
「あっ、すいません、わざわざ。」
「イイってことよ。さあ、こっから飛び降りるぞ。」
「へ?……きゃぁぁあああ!!」
そう言うとダイスケは小柄なアーシアを小脇に抱えて3mはある高さの祭壇から飛び降り、状況がつかめずに呆然と立ち尽くすドーナシークの眼前に降り立つ。
「なッ……!?」
「まずは一匹。イッセー、受け取れ!!」
同時にダイスケはアーシアをイッセーに投げつける。
「は!?いや、ちょ、危ねぇ!!」
慌てながらもしっかりとキャッチするイッセー。
そのすぐ目の前ではダイスケが鋭い爪をドーナシークの腹に突き立てていた。
「カハッ……!き、貴様ぁぁぁぁ!!!」
ドーナシークはせめて傷の一つでもと光の槍を構えるがその手も、足も、腹も、ダイスケの放った光弾に打ち抜かれていく。
もはや断末魔の叫びを上げることもできず、さらに放たれた止めの一発によって頭部を吹き飛ばされた。
一方を見ると木場とカラワーナがそれぞれ魔剣と光の槍を持って切り結んでいる。
だが、木場が持つ剣は先にフリードとの戦いでも使用した光喰剣《ホーリー・イレイザー》だ。
すぐに闇の触手が槍へ、カラワーナの腕へと絡みつく。
「クッ、外れな……グァァァァ!!」
遂に闇がカラワーナ本人を“喰い”始めた。
「堕ちた天使らしく……闇に飲まれて消えるがいい!!」
そのセリフとともに、もうひと振り生み出した光喰剣をカラワーナの腹に突き立て―――
「殺ァッ!!」
腹から頭へ振り上げて一刀両断にした。
その遺骸は残ることもなく、全て光喰剣によってチリ一つ残らず喰い散らかされた。
別の一方を見れば小猫がミッテルトを相手に関節技を決めている。
「こんのぉ……離せ!」
「……離せと言われて離すバカはいない。」
掛けている技は関節技としては実にポピュラーな腕挫ぎ十字固め。
ミッテルトは解こうともがいているが、見事に技が決まっているのと小猫と腕力に差がありすぎるため一ミリも動けずにいる。
「小猫ちゃん!」
そこへ木場が手にしていた剣をひと振り小猫にパスする。
渡したのは短剣状にした光喰剣。
それをミッテルトの肝臓がある辺りに過たず突き立てる。
「ガハッ……!」
人体で言えば急所、それも大量出血してもおかしくはない箇所だ。
そこへ肉体そのものを蝕むような魔剣が突き刺さったのだからひとたまりもない。
抵抗できなくなったミッテルトはそのまま塵へと消えていった。
「さぁて……形勢逆転だな、レイナーレ。」
ダイスケがイッセー達を背に不敵に笑う。
「貴様ら……よくも!!」
「よくもじゃねぇよ。こんだけされて当然のコトやってきたんだ。これで借りの半分をやっと返せたってとこだぜ。さあ、本格的にペイバックタイ―――」
「「「―――じゃねぇ!!!」」」
ゲシッ!!とダイスケの背後から三つのヤクザキックが見舞われた。
「おうふっ!?」
折角格好良く決めようとしていたところを味方に邪魔される。
それも悪魔の筋力から繰り出された蹴りなので、ダイスケは地面にキスするどころかカーリングの石のように滑っていく。
「なにすんの!?折角決めようとしてたのに!!」
「んな事ァ、どうでもいいんだよ!!お前、なんでワザワザ裏切るフリなんてまどろっこしい真似した!?」
イッセーの叫びは全員の心の代弁である。
「いや、そもそもさ、こいつら堕天使がなんで悪魔が拠点にしているような土地で活動してんのか気になったのよ。」
「……それで内情を探るために?」
小猫の言うことはあたっている。
時系列を見直してみれば、堕天使たちの目的や行動に最も近づいていたのは意外にもイッセーである。
だが、ダイスケは不幸にもその現場に居合わせていなかった。
かといってリアスに聴こうにも敵陣営の内情を知っているとは思えない。
そこへダイスケへのレイナーレの勧誘だ。
ここで懐深く潜り込めばイッセーたちよりも比較的安全に情報を引き出し、リアスに伝えることができる。
「だから裏切るふりをしたっていうのかい?じゃあ、あの神器を取り出す装置が故障したのはやっぱり君の仕業なのかい?」
「おうよ。」
「ま、待て!!なんでこの間まで一般人だったお前に装置のことがわかる!?」
レイナーレの言う通りである。
これまで悪魔だの堕天使だのに全く関わり合いのなかった人間に、どうして堕天使の最新技術の塊をどうこうできたのか。
「ああ、そら単純明快よ。」
「あなたたち堕天使の中にも元々内通者がいたのよ。」
この場にそれまでいなかった者の声が響く。
「部長!!」
「ええ、よく頑張ったわね。」
リアスが慈愛の笑みをイッセーに向けながら階段を降りてくる。
その後には朱乃も続く。
「良かった……部長も朱乃さんも無事だったんですね!!」
「ええ、何事も無く五体満足ですわよ、イッセー君。」
二人が無事な様子を確認すると、イッセーは胸をなでおろす。
だが、それの満足していない人間が一人。
「怪我の一つでもしてくれれば良かったのに……。」
「あらダイスケ君、何か言いました?」
「いえ、別に。」
素知らぬ顔で取り繕うダイスケ。
しかし、ダイスケ以上にリアスと朱乃が無事だったことが気に食わなかった者がいた。
「奴らめ、しくじったか……!」
レイナーレである。
臍を噛む彼女の前に、リアスが立つ。
「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー公爵家の次期当主よ。」
「貴様、グレモリー公爵家の娘か!?」
「ええ、短い間だけどよろしく。」
自分が相手にしていた存在の大きさに驚くレイナーレ。
だが、驚く以前にイッセーは何がすごいのか理解できていなかった。
「えっと、ダイスケ。公爵ってどのくらいエライんだ?」
「……解り易くいうと、王様の次の次ぐらいに偉い。昔の日本で言うと、伊藤博文とか、徳川慶喜とかだな。」
「……えええええええええ!?そんなに偉いの!?」
リアスが貴族であることは知っていたイッセーだったが、まさかそこまで位の高い人物だとは想像だにしていなかった。
そこへさらに事情をよく知る木場が追加情報を与える。
「まあ、まだ爵位の第一位継承者なんだけどね。でも、部長自身も有名人でその実力から“紅髪の滅殺姫《べにがみのルインプリンセス》”なんて呼ばれているんだ。」
「滅殺……!?そんなにすごい人の眷属になったんだな、俺。」
その二つ名のインパクトに震えるイッセー。
ちなみにダイスケはそれに何か含むところがあったようだが、余計なことを言って墓穴を掘りたくはないので黙っている。
「そういえば部長、内通者とは一体?」
木場が話の方向を修正する。
「これ、覚えてる?私達が部室を出る前に受け取っていたダイスケからのメール。」
朱乃は手にした通信端末の画面を皆に見せる。
そこには確かにダイスケから送られたメールの文章が見える。
「これには『連中が何をしようとしているか解った。使いが来るから旧校舎の外で待っていてくれ。』とあるわ。そしてメールの通りに使いが来たの……大勢のはぐれ神父を皆殺しにしてね。」
「はー。あいつ、そんなに強かったんですか。」
「え、その《あいつ》って?」
「はぐれ神父の中に混ざっていたバチカンの、それもミカエル直属のエクソシストよ。名前は『アーロン・ブロディ』。」
「まさかッ……!?天使陣営の者が探りを入れていたのか!?」
思いもしない正体の獅子身中の虫の存在を知り、驚愕するレイナーレ。
だが、これにはアーシアも驚いていた。
「どうしてバチカン直属の戦士の方がいらっしゃったんですか?」
「それはお前がいたからだよ、アーシア・アルジェント。」
その答えの詳細を知っているのはダイスケだ。
「聞いた話によれば、アーシアは悪魔をも癒す力があったから教会を追放されたんだよな。」
「……はい。その後、行くあてがないところをレイナーレ様に拾われたんです。」
「らしいな。実はその時点からあいつはお前の行動を監視していたんだよ。」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ。あいつの関心事は『神器を持っているであろう追放者がどのような行動をとるか』だったんだ。万が一に天使陣営、ひいては世の中に悪影響を及ぼそうと行動するつもりなら処断するつもりでいたんだ。」
「勝手に追放していて殺そうっていうのかよ!?」
イッセーが怒りで声を荒げる。
アーシア本人からその過去を聞いているから彼女への思い入れも人一倍であるし、なによりその身勝手な行動を人として許せなかった。
「だけど、事前の素行調査やら追放された後の行動からその可能性はないってかなり最初から判断していたんだと。第一、神器っていうのはその存在だけで世の中をひっくり返す可能性がある代物なんだ。人間社会で言えば核兵器。そのぐらい警戒して当然さ。」
やや納得できない感があるものの、イッセーはそのことをなんとか飲み込む。
それを見届けてからダイスケは話を続ける。
「そんな折、レイナーレ達がアーシアを引き込んだ。もともとこいつらは上の命令で神器持ちを堕天使陣営に引き込んだり、力を勝手気ままに使おうとする奴らを処分して神器を管理する為の下っ端だったんだ。そんな連中に教会から出た神器持ちを連れて行かれて悪事をされたら困るって言うんで、何をしようとしているのか潜入捜査していたんだと。」
「確かに、自分たちが追放した者の力が逆に自分たちに牙をむくのは恐れて当然だろうからね。……奴らならそういうなりふり構わないこともしでかすだろうね。」
木場のその言葉には言いようのない憎悪が含まれている。
だが、今はその裏にある事情を詮索するような時ではないし、ダイスケ自身も興味がなかった。
「そこへこいつらの中に入ってさんざん引っ掻き回してやろうとしていた俺にバッタリ遭遇。お互いに利害が一致したから協力することにしたんだ。俺はレイナーレ達へ報復するため、アーロンはアーシアを、ひいてはアーシアの神器をレイナーレに渡さないため……後は知っての通り、今に至るってわけさ。そいそう、装置の方はアーロンが術式を変えて発動したら痺れるだけにしれくれたんだ。俺だけだったらただぶっ壊すだけで芸がなかったから本当に助かったぜ。まあ、アーロンの方は用事が済んだから部長と朱乃さんをここに連れてきた時点でお役御免で帰っていったんだけどな。」
「なるほどね。あなたの話で彼の事情もだいたいわかったわ。でも、どうしても気になることがあるのよ。」
「なんですか、部長。」
おそらくリアスが尋ねようとしていることはこの場にいる全員が疑問に思っていることだろう。
「―――なんでここまで回りくどい方法を採ったの?昨日の晩に堕天使たちに捕まったのはアーロンから聞いてたからしょうがないとして、捕まったら捕まったで味方になるふりをして私たちの助けを待てばいいし、装置だってただ壊せだけでよかったはずよ。どうしてここまで複雑な状況にしたの?」
「そりゃあ、決まってるじゃないですか……練りに練ったこいつらの計画を最後の詰めでグッチャグチャにしてやるためっすよ。」
そういうレイナーレに対して笑うダイスケの口元は不気味につり上がっているが、その目は決して笑ってはいない。
何より異常性を感じるのはその笑の中に明確な怒りと殺意が込められている。
そのアンバランスさがレイナーレに言いようのない恐怖を感じさせた。
「く、狂っている……!!」
「狂っていて結構。最後に俺らの人生を弄んでくれたお前をブチのめせるんだったらなぁ。」
ダイスケは怒りをその右手に力を込めた。
するとその渦巻く激情に答えるように、神器の各所に配されたスリットから青い光が漏れ始める。
そして渾身の一激をレイナーレに叩き込もうとしたときであった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
「地震!?」
イッセーは無意識にアーシアを庇う。
だが、地震にしては揺れ方がおかしい。
まるで何かが地下からせり上がってくるような振動である。
そしてダイスケはレイナーレが何かを握っているのを見つけた。
「テメェ、何しやがった!?」
その握っている何かとは、掌に収まるサイズのリモコンが握られていた。
「フフフ……アーハッハッハッハ!!もう、ここまで来たらなり振り構うもんですか……。万が一の為に用意しておいた切り札を切ってやる!!」
重機が動くような駆動音のあと、祭壇が崩れていく。
そこにはせり上がってきた巨大な檻が出現した。
「とある南方の無人島で発見した巨大生物……こいつをお前たちにぶつけてやる!!!」
怨嗟が籠ったレイナーレの言葉と共に檻が解き放たれる。
そこにいたのは体長2m程の巨大な昆虫であった。
「私の計画を邪魔し、アザゼル様やシェムハザ様へ近づく道を閉ざした奴らを切り刻みなさい、カマキラス!!!」
やっと出ましたね、怪獣が。
とは言っても改定前と同じ奴ですけど……。
ところでですが、活動報告で初アンケートを採りたいと思います。
内容は追って活動報告でさせていただきますので、興味のある方はご協力ください。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!