ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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VS12  自信と嫉妬・あるいは予想された結末

「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……。」

 

山中に続くハイキングコースの中、イッセーは重い荷物を背負って行軍している。他のメンバーも然りだが、やはり体ができていなイッセーはとりわけ苦しそうな顔をしている。

それに引き換え、イッセーとほぼ変わらぬ量の荷物を担いでいるはずの木場は途中に生えている山菜を摘む余裕を見せている。

 

「あの、イッセーさん。少し持ちましょうか?」

 

「い、いや、いいよ……アーシアにこれ以上荷物を持たせるわけにはいかないし。」

 

「そうよ、イッセー。ダイスケをご覧なさい、人間の躰であなたと同じ量に荷物を背負って息切れ一つしていないんだから。」

 

「まあ、俺は小さい頃に祖父ちゃんから鍛錬とか言って滅茶苦茶やられてたから。石入れたバック背負って山登るとかザラだったし。」

 

だとしても本来ならば悪魔と人間には圧倒的な体力における地力の差というものがあるのに、ここまで差を見せられるとイッセーも悔しさに唇をかんでしまう。そのプレッシャーとここまで登ってきた疲れが相まって、イッセーの顔が苦悶に染まる。

その様子を察したダイスケは気分転換のためにあることを提案した。

 

「そうだ、こういうときは歌を歌おう。そうすればちょっとは気が楽になる。」

 

「おお、いいな。なに歌う?」

 

ダイスケのアイデアにイッセーも乗る。

 

「昭○枯れすすき。」

 

「余計に疲れるわ!!」

 

「ま~ず~し~さに、まけたぁ~。」

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「いいえ~、せけんに……。」

 

「小猫ちゃん!?」

 

気を紛らわすはずがツッコミのせいで余計に疲れることになったイッセーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

道中色々とあったが、午後のはじめごろには目的地であるグレモリー家所有の別荘に到着していた。もともと人気がないところだが、周囲一帯に特殊な結界が張り巡らされているおかげで一般人にその存在を気取られる心配はない。よって派手な事をしても人目につく心配がない修行にはもってこいの場所である。

木造の大きな建物は木材の匂いで満たされ、豪華な造りながらもここが山の中であることを思い出させてくれる。一行は一旦大きな荷物をリビングに置き、それぞれの部屋に行って一応の休憩と修行の準備をしている。男子三人は同じ部屋で寝泊まりすることが決まっており、今は汗の処理と動きやすい服装に着替えてダイスケとイッセーはベットに突っ伏していた。

 

「……スゲェ、フカフカ。これに比べたらウチのベットなんて鉄筋コンクリート製だな。」

 

「……あ゛ー、疲れて寝そう。」

 

片や設備の豪華さに感動する余裕があり、もう片方は既にグロッキー状態である。到着したばかりだが、すぐに鍛錬を始めることになっているので今のうちに体力の回復を図らねばならなかった。

 

「じゃ、僕も着替えようかな。」

 

粗方の荷物の整理を終えた木場が学校指定のジャージを持って部屋付きのバスルームへ向かう。

 

「……二人共覗かないでね?」

 

「誰が覗くか!!殴るぞ!!!」

 

余裕が無いイッセーは半分本気の殺意が籠った視線を向け、ダイスケは無言で枕を木場が隠れている扉に投げつけた。

ただでさえ最近、学園のBL好きの女子たちが「イッセー×木場×ダイスケ」などといって騒いでいるのだ。変な噂が流れているのに、当の真ん中に挟まっている本人が冗談でそのテの素振りを見せるのだから堪ったものではない。どうも野獣×王子×暴走核融合炉という組み合わせが受けているらしい。野獣ならまだしも器物扱いされたダイスケは既に学園のエロ情報通の桐生の助けで彼の集団に対する報復をすると言っている。だが、地下組織と化した彼女らの殲滅は容易なものではないだろう。

このささやかな休息の間にコンデションを整えてると、気づかない内にいい時間になっていた。約束の時間の五分前には全員がリビングに集合していて、いつでも始めていい状態になっている。

 

「さあ、修行開始よ!!」

 

文化系に似つかわしくないリアスの掛け声がリビングに響いた。

 

 

レッスン1:剣を使ってみよう

 

 

「てい!とう!どりゃあああ!!!」

 

「よっ。はっ。」

 

力いっぱい木刀を振るイッセーに対し、木場はいとも容易く力の籠った一撃一撃をいなしていっている。その軽やかな剣捌きは、相手が素人だとはいえ木場が《騎士》により良く適合していることを示していた。

 

「くッ……チェストォォォォ!!」

 

大きく振りかぶったイッセーだったが、勢いよく振られた木刀は木場に叩き落とされる。

 

「むやみに大振りするもんじゃないよ。相手との位置関係、構え方、周囲に何があるのか。視野を広げて見てごらん。そうすればどう打ち込むべきか自ずとわかってくるよ。」

 

「そんなこと本当に俺にできるのかよ……。」

 

経験値や本人の技量以前に、イッセーはほんの一ヶ月前まで闘争とは縁も由もない世界にいた人間である。カーリングの選手に突然トライアスロンに出ろというようなものだ。無理に思えても仕方がない。

今回はリアスの将来が懸かっていて本人も気合十分だとはいえ、ここまで実力差を見せ付けられると自信喪失もいいところだ。その上今はリアスから赤龍帝の籠手の使用禁止を言い渡されている今、これを用いて実力差を縮めることもできない。

 

「ちょっと変わってくれ。いいか?」

 

見かねたダイスケがイッセーに変わるように頼む。それをイッセーは拾った木刀を手渡すことで認め、木場も無言でこれを承諾する。

 

「イッセー、まず剣はこうやって正眼に構えろ。これが一番隙がない構え方だから覚えとけ。」

 

「そうなのか、木場?」

 

「そうだね。正面に構えることで大体の相手の動きに対応できるよ。例えばこんなふうに……!」

 

木場がそのままダイスケめがけて木刀を振るう。すると見事にダイスケはその一撃を受けてみせた。

 

「さらに相手をよく見ていれば―――」

 

加えて二撃三撃と数合ほど打ち込んでいくが、これらも尽く防いで見せた。そしてダイスケの木刀は木場の木刀を抑えて左足で木場を蹴りつけた。

 

「くっ!!」

 

ギリギリで右手によるガードで防いだ木場は、抑えられていた木刀を引き抜いて突きを入れる。

 

「!!」

 

するとダイスケはあえてバランスを崩して背中から地面に倒れることで鋭い突きを回避した。すぐさま木場は木刀を逆手に持って突き立てようとするが、ダイスケは転がって退避しすぐに体制を整えなおす。

 

「……ダイスケくんって剣も使えたんだね。意外だったよ。」

 

「合気っていうのは元は剣術から派生したものだからな。ちょっとはかじってる。」

 

祖父から色々教わっているとは聞いていたが、ここまでのものとはイッセーは思いもしなかった。流石に専門で道を極めようとしている木場には劣るのだろうが、それでも今のイッセーよりは確実に動けている。

そんな木場の剣さばきとダイスケの実力に感嘆していたイッセーだったが……。

 

「あ、そうだ。どうせなら二対一でイッセーくんに教えない?ダイスケくんの分は僕が神器で作るから。」

 

「いいな。ほれ、返すから構えろ。」

 

言いながら木刀をイッセーに投げ渡す。

驚いたのはイッセーの方だ。よもや二人が寄ってたかってくるとは夢にも思わない。

 

「待て待て待て待て!二人同時なんて相手できるか!!」

 

「まあまあ、打ち合った数だけ経験値が貯まるから。」

 

「やったね。これで通常の二倍のスピードで成長できるよ!」

 

「できるわけねぇって……あ、ちょ、ああああああああああああ!!!!」

 

 

レッスン2:魔力を使ってみよう

 

 

「そうではありませんわ。魔力は自身の体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、体中を流れる力をよく感じて……。」

 

ジャージ姿の朱乃が懇切丁寧に、手取り足取り説明してもイッセーの手のひらには魔力のまの字も出てこない。それはついでにレッスンを受けているダイスケも同様で、このまま気張ったら何か別のものが別の場所から出てきそうな雰囲気だ。

 

「あ、できました!」

 

情けない野郎二人を差し置いて、アーシアが綺麗な緑色の光球を手のひらから生み出してみせる。

 

「あらあら、やはりアーシアさんには魔力を扱う才能があるのかもしれませんわね。」

 

「ほ、本当ですか!?なら、もっと頑張らないとですね!」

 

自身の知らなかった特技を見出され、アーシアは頬を赤く染める。負けじとイッセーも頑張ってはみるものの、なんとか出てきたそれは米粒ほどの大きさの小さな光。ソフトボール大のアーシアの魔力に比べたら微々たるものだ。まあ、出る気配すらないダイスケよりはマシだが。

 

「では魔力の才能が欠片もないダイスケくんを置いておいて、魔力を別のものへ変換させてみましょう。私は雷に変換させるのが得意ですが、初心者は水や火の実物を動かして練習してみましょう。」

 

そう言うと朱乃は手に持ったペットボトルの水に魔力を送る。すると中の水が刃となって内側からボトルを引き裂いた。

 

「ではアーシアさんはこれで練習してみましょうか。コツはイメージを具現化させること。ああしたい、こうしたいという想像力を魔力に乗せるのです。」

 

とはいうものの、イッセーにとって想像力というものはエロ方面にのみ発揮されるものである。そんな今まで使っていた用途とは異なる使い方を今すぐやれと言われても……。

 

「(まてよ、これってひょっとすると……。)朱乃さんちょっといいですか?」

 

正直な話、アーシアには聞かれたくないようなやらしい想像であるが、ひょっとしたらと朱乃に耳打ちで相談してみる。

 

「……ああ、なるほど。イッセーくんらしくていいかもしれませんわね。なら少し待ってくださいな。」

 

そう言って朱乃は実現可能かもしれない実感を持ったイッセーをひとまず置いて、別荘へと戻る。こちらに戻ってきた時にはダンボール箱いっぱいの玉ねぎ、じゃがいも、人参を持ってきていた。

 

「じゃあ、これを全部魔力を使って……お願いしますわね?」

 

つまり体のいい雑用である。いずれにしろすぐにアイデアを実行に移せるほど実力があるわけではない。それを考えればこの野菜たちはちょうどいい練習台になる。さあ、やるぞと息をまいたその矢先……。

 

「だああああ、もう!!こんなペットボトルなんざ魔力なんてなくてもなぁ!!」

 

一向に魔力を生み出すことができない現実に限界を感じたダイスケは、アーシアの練習用の予備のペットボトルに手を伸ばす。

そしてそのまま力強く握り締めた結果―――

 

パァァァァン!!!

 

先ほどの朱乃の実践で見せたボトルの破裂よりも大きい爆発が起こる。

 

「どうよ!神器が目覚めたおかげで俺自身の力もアップしてるんだぜ!!」

 

絵に書いたようなドヤ顔のダイスケである。魔力の才能がない現実に対する逃避だが、ここまで来ると逆に清々しい。

 

「す、すごいです。すごいですけど……。」

 

「ダイスケ……お前死んだわ。」

 

「へ?」

 

何事かとダイスケはアーシアとイッセーが指差す方向を見る。するとそこには破裂したボトルの水のせいで頭からびしょ濡れになった朱乃がいた。

 

「あ、あ、あの……すびませ……。」

 

「……宝田君?」

 

突然の苗字呼び。そして見せる告死天使のような笑顔。そのコンボに恐怖したダイスケは年甲斐もなく鼻血を流した。

 

「そういえば私も自主練をしなければなりませんわね。イッセーくんにアーシアさん、あとは自分でお願いしますね?」

 

そして朱乃はダイスケの首根っこをつかみ、その細腕から信じられないような力で森の中へ引きずっていった。

 

「あの、ほんとにすいませんでした!調子に乗ってました!」

 

「あらあら、何を謝っているかわかりませんわ。私はただ宝田君に最大出力の雷を撃つ標的になっていただきたいだけですのに。」

 

「最大出力!?それはマジで死にますから!!ちょ、誰か助け―――」

 

ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……

 

その後、気象台はとある地方の山奥で観測史上最大の雷を数十発も観測した。

 

 

※レッスン3:小猫ちゃんと組手並びにレッスン4:部長とトレーニングは主人公がとある事情で不在のため描写を省略させていただきます。ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

 

初日が怒涛のごとく過ぎたあとの修行二日目である。

この日の午前中は体力の回復を図ることも込みで、三大勢力の各所属の特徴や基本知識を学ぶ座学であった。普段から悪魔の常識は勉強していたイッセーではあったが、それでもまだまだ勉強不足の感は否めない。それどころか総合的な知識量ならばイッセーよりもあとに悪魔になったアーシアの方がある。さらにその後の小猫と木場との組手では再びなすすべもなく組み伏せられ、深い敗北感を胸に刻まれさせられた。

剣術において木場と一日の長どころか一生分の差があることは仕方ないが、体格で勝るはずの小猫に一発のパンチで吹き飛ばされたり片手で押さえ込まれたのはいささかショックが大きかった。それだけならまだいいが、人間であるダイスケが神器なしで小猫と渡り合っていたのを見てしまったので余計にショックが大きかった。

 

「俺って一体……何なんだろうな。」

 

寝心地の悪さで寝室から抜け出し、台所の蛇口から水を啜る。冷たい水が五臓六腑に染み渡る感覚は実に心地良かったが、胸に残る痼りは取れない。

悪魔になった初めの内は確かに「上級悪魔になってハーレム眷属を作る」という目標の下、輝きに満ち溢れたサクセスストーリーを夢見ていた。だが、ここまで自分の実力不足の現実を見せ付けられると心が折れる。

普通の状況であれば「駆け出しだから仕方がない。これから少しづつ強くなればいい。」で済むだろう。だが、主であるリアスの人生が左右される実力者ライザーとの戦いを九日後に控えた今ではそうも言っていられない。

 

(結局俺は足出纏い、か。)

 

これが自分自身に対する率直なイッセーの評価である。自分の中に眠る赤龍帝の籠手抜きでの事とは言え、これを用いても今の自身の評価を覆せるとは到底思えないのである。であれば自分が果たして戦力になりうるのだろうか、本当に自分は眷属としてリアスの傍にいていいのかとついついネガティブな考えを起こしてしまう。

 

「いねぇと思ったらここかよ。」

 

物思いに耽る中、急にダイスケに後ろから話しかけられた。

 

「うぉ!?って、ダイスケか。脅かすなよ……。」

 

「何してるんだよ、こんな時間に。」

 

「いや、ちょっと水が飲みたくなって。お前は?」

 

「携帯見てたら着信があってさ。寝てる奴の隣りでメール打つのは迷惑だろうから。」

 

そう言ってみせる携帯の画面には同一人物から送られた20件以上のメールが表示されている。それもそれらすべてが送信されたのはほんの一~二時間の間であった。

 

「怖っ!!誰からだよ!?」

 

「そりゃ例のごとくウチのはるにゃんから。」

 

「え、これ全部河内さんから?どんだけ想われてるんだよお前。」

 

「いや、最近夜中に外出すること多いだろ?レイナーレの件の時のこともあるけど、お前のお供とかでしょっちゅう夜間外出するもんだから気になってるみたいでさ。」

 

「……お前、河内さんに逐一行動監視されてるの?」

 

何も知らない人間からすれば完全にストーカー行為である。さらに言えば榛名がメンヘラ若しくはヤンデレであるとも取られかねない。しかし、ダイスケはイッセーのその疑惑を払拭するかのように榛名の弁護をする。

 

「小学生の時にいろいろあってさ、高校で再会してから色々と気にかけてくれるんだ。ほとんど俺のオカン代わりみたいでさ。ほら、親って自分の子供が夜間外出するなんて心配以外の何者でもないだろ?それと一緒よ。」

 

「……だとしても行きすぎじゃね?っていうか小学生の時に何があったのよ。」

 

「言ったとしても俺やお前には何のメリットもないから言わない。それよりお前、なんか黄昏てたみたいだけど……夜中なんだけどな。」

 

ダイスケとしては初めて見るイッセーの自信無さげな姿に驚きを覚えていた。彼が知る兵藤一誠という人物は常に明朗快活、猪突猛進を絵に書いたようなまさに竹を割ったような性格と言っていい人物である。そのイッセーが弱気を吐いたのだから、よほど堪えていると見える。

 

「みんなそれぞれ特技があるだろ?剣術だったり体術だったり……アーシアには俺以上に魔力を使う才能があるみたいだし、俺って役立たずなのかなぁってさ。」

 

「なるほど、それでしょぼくれてたと。」

 

イッセーは力なく頷く。

 

「まあ、確かにそうだわな。」

 

ガクッ!

 

まさか慰めの言葉一つ無しで自己嫌悪を全肯定されるとは思ってもみなかった。別に慰めて欲しかったわけではないのだが、これはさすがにいささかショックだった。

 

「だってそうだろ?ほかの眷属のやつらはそれぞれの駒に合った力と役割があるんだ。兵士なんて基本的に盤上じゃ昇格しない限り一マスづつしか進めないんだから、お前が抜きん出た才能がないっていうのは仕方ないって。」

 

「うぅ……。」

 

反論したいがグウの音も出ない。

 

「それでだ。お前はそれで「やっぱダメです」って諦めるか?」

 

「諦めるわけないだろ!!俺は部長と『最強の兵士になる』って約束したんだ。ライザーの野郎にも負けるわけにはいかない。だから……。」

 

「なんだ。あるんじゃないか、長所。」

 

え、とイッセーは不意を突かれた。一体どこに自分の特技があったというのだろうか。いくら思い返してみてもそれだと思い当たる節がない。

 

「いや、言わなくていいか。この場合は自覚しないままでいた方がきっといい方向に転がるだろうし。」

 

ダイスケはこう考える。人には二種類の『長所』があると。

一つは自覚することで発揮される長所。もう一つは無意識に持っていることで発揮される長所である。

例えば木場なら剣術への適性があると自覚した上でこの長所を伸ばし、長い時間をかけて鍛錬してきた。この場合においては自身が得意とするものを知ることによって、それを重点的に伸ばそうと人は意識し、行動することができるという特徴がある。

ダイスケが考えるイッセーの長所とは「愚直なまでに情熱を持って努力できる」というものだ。こういった美点は自分でそうであると意識してしまった場合、本来なら更なる向上ができるところを適当な点で妥協してしまう癖がついてしまう。そして本当はもっと成長できるのに「自分が努力した」とその場で納得し、停滞してしまうのである。

このような抽象的な長所は意識しないことによって発揮されることが多い、とダイスケは考えるのだ。だからこそ、これに関してダイスケは必要以上の助言はやめて退散しようとするのだ。

だが、果たして自分はどうだろうかとダイスケは思う。

イッセーは自分になんの才能もないと言っていたが、本当に何の才能も無いのは自分なのではないか。彼らリアスの下僕たちには自分の能力を役立てる機会がレーティングゲームの中で幾らでもある。その中でのし上がっていくこともできる。

だが、自分の力はどこで奮えばいいのだろうか。どういう素性のものなのかわからない力で一体何を成せるのか。身に付けた合気も格闘技とは家に殺人術だ。どちらもダイスケには将来役立つものとは思えないのだ。

さらに言えばダイスケにはイッセーのようなこれと言える精神的美点も無い。本当の意味での持たざる者はダイスケなのである。だからイッセーにはどうしようもない劣等感と嫉妬を感じざるをえない。そしてそんな自分がどうしようもなく嫌になってしまっているのだった。

 

「あ、おい!俺の長所って何なん「あら、眠れないの?」……って、部長!?」

 

イッセーがダイスケを引きとめようとした時、テラスにいたリアスがキッチンに現れた。二人の会話を聞きつけて何事かと様子を見に来たのだ。

 

「丁度いいや。部長、イッセーのことお願いします。なんか悩んでるみたいなんで、相談に乗ってやってください。」

 

「……なるほどね。いいわ、イッセー。こっちにいらっしゃい。下僕のメンタルケアも主の仕事だものね。」

 

「は、はいっ。」

 

イッセーがリアスに導かれてテラスに向かう。それを確認したダイスケは廊下でもメールの返信はできる、と二階へと戻ろうとする。

 

「あ、そうだ。おい、イッセー。」

 

「ん?なんだよ。」

 

「……アーシアに刺されても、俺は知らないぞ。」

 

「どういうこと!?」

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝。

鍛錬に入る前にリアスはイッセーに木場との軽い手合わせを持ちかけてきた。

 

「イッセー、赤龍帝の籠手の使用を認めるわ。始める前に発動させなさい。始めるのは……発動から二分後がいいわね。」

 

「は、はい。」

 

訳も分からぬまま、イッセーは赤龍帝の籠手を左手に装着する。

 

《Boost!!》

 

同時にイッセーの力が神器によって倍になる。さらに十秒事に元の四倍、八倍となっていく訳だが、実はイッセーは二分間分以上の倍化をこれまで行ったことはなかった。

過去に一度自分がどれだけ倍加できるのか試してみたことがあったが、そのいずれもで二分間以上の倍化を行うと倍化の上限である『Burst!!』という音声が鳴って倍加が強制的にストップさせられてしまったのだった。その後、無理にを行おうとしたが体がついていかずに昏倒してしまった苦い思い出があった。

過積載のトラックが走れないのと同じ理屈だ。これはトラック、つまりイッセーの元のキャパシティが低いためにできた無敵の神滅具の最大の弱点である。というより、イッセー自身の欠点というのが正しいのだろう。

そういった事情を踏まえつつ、イッセーは注意しながらリアスの言う通りに二分間分、つまり十二回分の倍化を行った。

 

「よし、行くぞ!」

 

《Explosion!!》

 

Explosion、すなわち力の爆発。蓄積されていた力が一気にイッセーの体中を駆け巡る。

 

「その状態でやってみて頂戴。祐斗、お願いね。」

 

「はい、部長。」

 

主の言う通り、木場はイッセーに向けて木刀を構える。

その場にはイッセーの分の木刀もあったが、あえてそれは拾わなかった。自身が剣を上手く扱えないのは本人も承知しているからである。

 

「それじゃあ……はじめ!」

 

イッセーが構えたその瞬間、木場の姿が消えた。騎士の特性の超スピードによる移動である。姿を見失わせたその瞬間に勝負を決めようというのだ。

その策に気付いたイッセーはいつ来てもいいように防御の構えを取る。その時であった。

 

ガシッ!

 

イッセーの読み通り木場が仕掛けてくるが、その一撃は左手の籠手で見事に受け止める。

 

「っ!」

 

必殺のつもりで放った一撃が防御されて、一瞬木場は驚いた。その一瞬の隙をイッセーは見逃さず、拳を放つ。だが、拳が当たる瞬間に木場の姿は消え、拳は空を切る。

今度は本当に見失ってしまった。左右も後ろも見てみるが、木場の姿はどこにも見えない。その時、イッセーは自分の影の形に違和感を覚える。ハッとなって上空を見上げると、そこに木場はいた。

 

ズダンッ!

 

振り下ろされる一撃はイッセーの方を直撃する。骨折まではいかないものの、相応の痛みを与えられてしまった。打たれた箇所を庇う間も無くイッセーは蹴りを放つがまたも躱される。

 

「イッセー、魔力の砲撃を放ちなさい!自分が撃ちやすい形をイメージするのよ!」

 

今のイッセーの魔力は赤龍帝の籠手の能力によってパワーアップされている。故にその大きさも米粒よりは大きくなっているはずだ。

そしてイメージする。自分にとって最も魔力を放ちやすい姿とは。

 

(だったらやっぱり……!)

 

その時思い描いていたのは自身が最も好きな漫画『ドラグ・ソボール』のす主人公、空孫悟の必殺技である《ドラゴン波》であった。何度も何度も読み返し、小さな時に公園でゴッコ遊びをした時の思い出。いつか出来るんじゃmないかと夢見、憧れていた必殺技。イッセーが最もイメージしやすいのはこれしかなかった。

気を手の平から放つように、魔力を取り出す。その大きさはやはり米粒大であったが、内蔵しているエネルギー量は前に出したものの比ではない。

 

「いっけぇぇぇぇぇえええええええ!!!」

 

渾身の力でイッセーはそれを木場に向けて放り投げる。そして魔力の塊が手から離れた瞬間にそれは起きた。大きさが一瞬にして巨大な姿に膨れ上がったのだ。

 

「うわっ!?」

 

自分で放ったものであるにも関わらず仰天してしまう。手から放たれた一撃は圧倒的威力を伴って木場へと一直線に向かう。速度もなかなかのものではあったのだが―――

 

スッ

 

木場は紙一重で躱してしまった。外れてしまったことでイッセーは悲観してしまったのだが、次の瞬間にはそんな悲観的思考も消え去った。

 

ドッッゴォオオオオオオオオオン……

 

飛んでいった先の山が爆発した。噴火でもしたのかと思ったが、どう考えても当たった山は火山ではなく普通の山だ。

一瞬で風景が変わってしまったその威力に木場も驚いている。

 

《Reset》

 

籠手の音声と共にイッセーの力がふっと抜ける。強化する時間が終わったのと、体内の魔力が空になった証である。

 

「そこまでよ。」

 

リアスが模擬戦の終了を告げる。

木場も木刀を下ろすが、同時に木刀は折れてしまった。これが何を意味しているのかというと、木場はそれほど手を抜いていなかったということだ。

実を言えば、本当は最初の一撃で終わらせるつもりだった。だからイッセーに防がれて驚いていたのだ。木刀も破損しないように木場は魔力で補強していた。それがこのざまということは、イッセーの耐久力は確実に成長しているということを意味する。

 

「さっきの一撃なら上級悪魔でも耐えられないわよ。どう?これでも自分が役立たずだって思う?」

 

いや、ここまではっきりと今の本当の実力と可能性の伸びしろを自覚させられればもう自分を役立たずとは言えない。むしろ可能性の塊の自分を「役立たず」だの「弱い」だの言うのは贅沢というものだ。

これで本当の意味での自信がイッセーに付いたのである。勿論、倍化中は隙だらけになるのでその対策も必要になるが、そこはチームでカバーできるし、その練習をすればいい。つまり、まだまだ強くなれる。

決意を新たにした彼らは残りの日数も充実した修行を行い、十日間とは思えないほど密度の濃い経験値と自信をつけた。

そしてやってきた試合当日。リアス達は―――

 

「私の負けよ……投了します。」

 

敗北した。




そりゃそうさ。このあと大暴れする予定なんだから試合内容もすっ飛ばして負けるさ。
今回はあえて試合内容を書かないことにしました。だって主人公の出番無いもん。
ですが次回はしっかりパーティーに必要なニシンのパイを持ってお見舞いに行きますのでご安心ください。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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