ゼノヴィアと紫藤イリナが現れた次の休日。
休日の街中で支取蒼那の兵士、匙元士郎は暴れていた。それを小猫が逃さないように押さえている。
「いぃぃぃやぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁ!!!俺は帰るんだァァァァァ!!!!あいうぉんとごーほーむ!!!」
悲鳴を上げて逃げ出そうとする匙。
彼が人目も憚らずに悲鳴を上げているのには、正当な理由があった。
それは、彼を駅前に呼び出したイッセーがゼノヴィアとイリナと協力して、エクスカリバーを破壊しようと提案してきたからだった。
ちなみに小猫はこのことをすぐに快諾した。イッセーからしたら意外だったが、木場のために、とすぐに察したからだった。
だが、匙はそれを聞いてすぐに顔を青ざめて逃げ出そうとし、小猫に即効で捕縛された。
「なんで俺がお前らと一緒に行かなきゃならないんだよ!?俺はシトリー眷属なんだ!お前らとは関係ないだろォォォ!?」
「お前ぐらいしか他に手伝ってくれそうな悪魔を知らないんだよ。それに、お前だって神器持ちなんだろ?駒四個消費の。」
「そりゃそうだけどさ!だからってお前の協力をする義理なんて俺にはない!!大体、聖剣が相手なんて命がいくつあっても足りねぇよ!!!殺される!!聖剣以前に会長に殺される!!」
「そんなに厳しいの?会長って。」
「お前ん所のリアス先輩は厳しいながらも優しいだろうが!でもな!ウチの会長は厳しくて厳しいんだ!!」
「あーそうか、そりゃよかったな。」
「良くねぇぇぇぇぇ!!!!!」
匙は抗議を続けるが、イッセーと小猫は全く聞く耳もたない。
イッセーがゼノヴィアとイリナに協力しようとするのには訳がある。
彼女たちは言った。
『上はエクスカリバーが堕天使に利用されるくらいなら、全て消滅してしまってもいいと決定した。私たちの役目は、最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くす事』
つまり、これは彼女たちは最悪エクスカリバーを破壊してでも回収するということだ。イッセーはこれに乗ろうとした。
この奪還作業を手伝い、木場がそのうちのひと振りでも破壊できれば、少しでも想いを遂げられるだろうという寸法だった。
片方はエクスカリバーを破壊し、自分と過去の仲間の復讐を果たしたい。片方は堕天使からエクスカリバーを破壊してでも奪還したい。
意見は一致。まさに一石二鳥、一挙両得だ。
だが、これを完遂するにはリアスや朱乃に知られてはいけない。
三竦みの関係を壊しかねないデリケートな話だ。そんな危険なことに、リアスは自分の下僕に首を突っ込んで欲しくはないだろう。アーシアを奪還しに行く時もかなり反対していたほどだから、尚更だ。
アーシアにも知られてはいけない。彼女は嘘を突き通すのが苦手な上に、すぐに顔に出るタイプだ。それに、イッセーが危険なことをしようとしたら全力で止めるだろう。
「ひょっとしたら、話し合いがこじれて俺ら三人だけで天使勢力に喧嘩を売る結果になるかもしれない。その上、これが切っ掛けで関係が悪化するかもしれない。そうなったら命懸けでなんとかしなきゃならなくなる。だから、最悪ふたりとも危なくなったら降りてもいい。」
「いや、今すぐ逃げさせろォォォォォ!!そんな三大勢力の情勢に関わりそうなこと勝手にしたら、俺は会長に殺される!!最低でも拷問だァァァァ!!」
「いや、もしかしたら交渉があっさりうまく成立するかもしれないだろ?そんときは力を貸してくれ。」
「勝手なこと言うなやァァァァァァ!!!」
その匙の狼狽ぶりをよそに、小猫は強く宣言する。
「私は絶対に逃げません。仲間の、祐斗先輩のためです。」
その強い言葉に、イッセーは頷く。だが、匙が恨めしげにつぶやいた。
「だったらよぉ……お前のダチの宝田にも声かけりゃいいだろ?アイツ、フェニックス家の三男の眷属相手に大立ち回りしたんだろ?だったら俺よりいい戦力じゃないか。」
その言葉に、イッセーは少しどもる。
「匙、あいつは悪魔じゃない。あの時だって、俺はあいつの厚意に甘えていた。でも、今回は状況が違う。悪魔同士の内輪もめじゃない。違う種族どうしの問題なんだ。今回ばかりは、あいつに頼るわけにはいかない。」
「……わかったよ。で、例のエクソシスト二人はどうやって見つけるんだよ?」
「それなんだよなぁ。そうそう簡単に極秘任務中の聖剣使い二人なんて街中で見かけるわけないs「道行く皆様、どうか迷える哀れな子羊にご慈悲を~!」……はい?」
探し始める前に見つかった。
しかも二人共先日と同じく真っ白なローブを羽織っているので間違えようがない。おまけに聖剣も隠す気などさらさら無く、そのまま腰に差していた。
こんな目立つ格好で物乞いをしているということは何やら困った状況にあるらしい。通り過ぎる周囲の人々も奇異の視線を向けているので正直なところ知り合いと思われたくはないが聞き耳を立ててみる。
「ああ、なんということだ。我ら迷える子羊に救いの手を差し伸べないとは……これが先進国日本の現実か。これだから信仰心が希薄な国は嫌なんだ。」
「物乞いの真っ最中に毒づかないでよゼノヴィア。路銀が尽きた私たちは、異教徒どもの慈悲無しにはまともな食事も取れないのよ?ああ、パンひとつさえ買えないなんてなんて私たちは哀れなのかしら!」
「元はといえばお前がそんな詐欺まがいの妙竹林な絵画を購入するからだ。」
「妙竹林だなんて失礼な!この絵にはさる高名な聖なるお方が描かれているのよ!なんかそんなこと展示会の人も言っていたわ!」
「じゃあそれは一体誰だ?」
「多分……ペトロ様?」
「使徒になったあとの聖ペトロがこんな渡○也みたいな格好でマグロを抱えるか?いくら元漁師とはいえこれはないだろう。」
「マグロだけじゃないわ!グラサンとショットガンもよ!!」
「ますます渡哲○じゃないか。これじゃあイエス様が捕まって怒ったときに、兵士の耳を切り落とすどころか12ゲージで蜂の巣にしそうだ。」
「だったらいいじゃない!異教徒を○哲也が一掃してくれるわ!ショットガンをヘリから乱射して!きっと舘ひ○しや三○友和も一緒に戦ってくれるわ!」
「いいわけあるかぁ!!なんで大門軍団が十字軍よろしく異教徒を駆逐するんだ!?……ああ、こんなのがパートナーとは。主よ、これも試練なのですか?」
「ちょっと、こんなのところで頭を抱えないでよ。あなたって普段頭を使わない割に落ち込む時はとことん落ち込むのよね。」
「うるさい!これだからプロテスタントは異教徒扱いされるんだ!我々カトリックとは価値観が違う!聖人をちゃんと敬え!石○プロの芸能人じゃなく!!」
「なによ!古い価値観に縛られているカトリックの方がおかしいわよ!○原プロのどこが悪いのよ!!」
「なんだと、この異教徒!」
「そっちのほうが異教徒!」
ぐぅぅぅ……
「……言い争う前にまず腹を満たそう。そうしなければ任務どころではない。」
「……そこらへんを歩いている異教徒を脅してカツアゲする?異教徒相手なら主も許してくれると思うけど。」
それを聞いてイッセーは焦った。
彼女たちの信仰心を鑑みれば、信仰のためにと平気で犯罪行為を犯しかねないのを体感している。
「やべぇ、止めないと!」
鉢合わせたときのことは考えていなかったが、仮にも幼馴染が犯罪者に片足を突っ込みかけているのだ。急いでイッセーは彼女らを止めにかかる。
その時であった。目の前にエクソシスト二人以外の顔見知りが現れたのだ。
クラスメイトの河内榛名と一緒にスーパー袋を手にしたダイスケである。
「「「あ。」」」
出会いたかった相手と出会いたくなかった相手に同時に出会う。
この時のことをイッセーは後に「あんな微妙な空気になったのはあとにも先にもなかったね」と語ったという。
*
「うまい!日本の食事はうぅぅぅぅまぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ああ、これよ!これが懐かしの日本のファミレスの味なのよ!!」
歓喜の声をあげ目の前の料理を掻っ込んでいくキリスト教本部の刺客(一応)二人。
その様子をイッセーとダイスケたちは周囲の視線を気にしながら何とも言えない表情で見ている。
「……ホントにこいつらこの前の二人か?」
「……遠慮なしに食うなぁ、人の金で。」
財布から実際に金を出すのはイッセーであった。だが、二人の食いっぷりを見て財布の中が氷河期になる危険を感じたため急遽ダイスケと小猫も出費することになっている。
イッセーが「後輩に出させるのは悪いから」拒んだものの小猫はもともとの目的のために進んで財布の紐を緩めてくれた。ダイスケに関しては説明がないものの事情を察して貸している形だ。無論、自分に黙ってイッセーが動いていたことに関しては拳骨一つは与えたが。
現状はといえば、腹を空かせた二人をイッセーが「しょ、食事に行くんだけど君らもどう?」と慣れないナンパなセリフで誘って一発KOでファミレスに同行させることに成功している。
反対にダイスケはそれまで同行していた榛名を帰すのに四苦八苦していた。知り合いのイッセーたちならまだしも見ず知らずの同年代の少女二人に何をする気なのかが気になって三十分ほど食い下がったのである。
「なんで私がいちゃいけないんですか?」とか「なんで接点のない一年の塔城さんがいるんですか?どういった関係なんです?」とか「そもそもこのお二人は何者なんですか?ダイスケくんたちは彼女たちに何をするつもりなんですか?まさか性欲旺盛な兵藤君と一緒によからぬことでもしようとしているのではないでしょうね?」などとハイライトの消えた目で立て続けに聞いてくるのだから非常におっかない。話に聞いていたイッセーも、初めて会った小猫と匙、果ては戦闘のプロであるゼノヴィアとイリナでさえ恐怖に震えたほどであった。
兎に角、定期的に連絡することで納得させ、強引に返したところで現在に至る。
「あー、食った食った。」
「信仰心は薄いけどやっぱり食事は日本が一番ね~。」
ファミレスまでの道中に「私たちは悪魔に魂を売ったのよ……」「背に腹は変えられん……」と葬式モードだった二人と同一人物だとは到底思えない。
「いやぁー、やっと腹が落ち着いた。だが君たち悪魔に救われるとは。終末も近いな。」
「今ここでお前だけ終末にしてやろうか。」
「ちょ、ここは抑えて抑えて。」
額に青筋を浮かべるダイスケをイッセーは必死になだめる。喧嘩腰では交渉にならない。だが、その点を見るとダイスケ抜きでやろうとしたイッセーは正解だったかもしれない。
「でもイッセー君たちのおかげで助かったわ。……主よ、この心優しき悪魔たちに祝福を!」
「「「あだだだだだだ!!!」」」
イリナが不用意に祈り、十字を切ったせいで悪魔三人が軽くダメージを受ける。
「ありゃ、ゴメンね。ついやっちゃった。」
「いや、わざとだろ。」
先日の一件でダイスケの二人に対する印象がストップ安になっているせいでいちいち突っかかる。本当に交渉のためにはダイスケはいないほうがいいかもしれない。
「で、私たちに接触した理由は?まさか本当に食事を奢りに来ただけではないのだろう。」
腹がくちくなったところでゼノヴィアは本題を切り出してきた。
本当に偶然出会ってここまで来てしまったので、イッセーは一瞬どもってしまった。
「―――っ、あんたら、奪われたエクスカリバーを奪還もしくは破壊するために来たんだよな?」
「ああ、先日説明したとおりだ。」
「その上で聞いてくれ。……俺たちは、エクスカリバーの破壊に協力したい。一枚咬ませてくれ。」
イッセーの申し出に二人は驚く。
本来であれば、「たかが下級悪魔風情が伝説の聖剣を破壊しようとは片腹痛い」と激昂されそうなものだが、幸いにも驚きこそすれど殺気を放つ気配はない。
「勿論これはリアス部長も知らないし秘密裏にだ。三竦みの情勢に影響を与えないように俺たちはお前たちのサポートに徹する。ただ、うちの木場にエクスカリバーの破壊をさせてやりたいだけなんだ。」
理由としては至極個人的なものではある。だが、それゆえ逆に所属する組織の主義方針とは一切関係ないのが救いであった。
「……そうだな。結果さえ残せば報告する過程はあとからどうとでも修正できるか。」
「え、いいのか!?」
「ちょっと、ゼノヴィア!?」
案外すんなりととんでもない提案が通って驚くイッセーとイリナ。
「無論、君たちの正体はバレないようにやってくれ。個人的な理由ではあるが、皆がそれを知っているわけではない。組織同士の裏の繋がりがあったなんて思われたくはないからな。」
「そんな条件をつけても、イッセーくんとは言え悪魔と組むことになるのよ!?そんなの許されるわけないじゃない!!」
どうやらこのゼノヴィア、信仰心の強い信徒ではあれど主義主張に対して極度の潔癖症というわけではなくある程度の清濁を併せ呑む度量はあるらしい。ダイスケが知っている人物で言えば以前アーシアの件で協力関係にあったアーロン・ブロディに近い人物なのだろう。
だがイリナの方はそうではないらしく、どのような理由をつけてもこちらの要求を飲みそうにない。
だからこそダイスケはある意味人として最悪な交渉に出ることにした。
「おい、紫藤。お前忘れてるみたいだから言っとくけど……お前らは俺らに借りがあるんだぞ?」
「は?何言ってるのよ。」
「……お前はさっきの食事がただの奢りだと思ってんの?」
「「「「「!?」」」」」
不意を突かれたのはイリナだけではなかった。同じく金を出したイッセーと小猫、果ては提案に乗ってくれたゼノヴィアと口を挟む隙がなくてすっかり影が薄くなった匙もである。
「ちょちょちょ、ダイスケ!?」
思いもしない展開にイッセーはダイスケに詰め寄ろうとするが、当の本人は「まぁ任せろ」とばかりにイッセーを片手で抑える。
「常識的に考えてみろよ。大して親しくない相手が、ただの好意で飯を奢るか?当然ながら交換条件が後から付いてくるのに決まってるだろ?」
「で、でも!あの時は条件があるなんて前置きはなかったじゃない!」
「あ、そう。だけどお前はあれだけの量をしっかりと腹に収めたよなぁ?なんだったら今すぐここで「こいつら食い逃げしようとしてます!」って叫んでもいいぜ。」
「なっ!?」
思わずイリナは突如として吹き上がった怒りに任せてエクスカリバーに手をかけてしまう。
「おっと、剣に手をかけたな。丁度いい、今ここで「食い逃げ犯が武器を持って俺たちを切り殺そうとしています!」って叫んでみようか。片やなんの変哲もない丸腰の高校生四人、片やイカれた格好の剣を手にした不審人物。さぁ、世の人々はどっちを信用するか今ここで試してみるか?」
「うぐぐぐっ!……わかったわよ。ほかでもないイッセーくんの頼みだしね。」
「サンキュー、交渉成立っと。あ、ついでに言っとくけど、途中で裏切ったりしたら即刻このことを俺の知り合いのバチカン直属のエクソシストにチクるからな。お前らが悪魔の手を借りようとしてるって。」
「あんたどこまで下衆いのよ!?っていうかなんでそんな知り合いがいるの!?これはさすがにブラフよね、イッセーくん?」
「いやぁ、それが……。」
「……残念ながらガチです。」
イッセーの小猫の残酷な宣告に今度こそ崩れ落ちるイリナ。もうここまで来たらとことん堕ちるしかないようだ。
「まあ気を落とすなイリナ。考えたを変えろ。悪魔の手を借りるのではなく、兵藤一誠という赤龍帝のドラゴンとただの神器持ちの人間の手を借りると思えばいい。」
「ゼノヴィア……前から思ってたけどあなたの信仰心てどこかずれてるわ。それにドラゴンだって立派にアンチキリストの象徴の一つじゃない……。」
「それを言うな……。」
目的が同じもの同士とは言え、よりのもよって最悪の相手に弱みを握られたことで落ち込む二人。おかげで先ほど得たばかりの満腹による幸福感もどこかへ吹き飛んでいってしまった。
そんな二人に恐る恐るイッセーは尋ねる。
「あの……落ち込んでいるところ悪いけど、今回の俺のパートナー呼んで良い?」
*
「……話は理解できたよ。」
イッセーによってファミレスに呼び出された木場は、呼び出した張本人の行動に半ば呆れながら嘆息し手元のコーヒーの口を付ける。
意外なことに、エクスカリバー持ちのエクソシストに協力を願うということにはなんの文句もなく、木場はここまで来ていた。
「もっとも、エクスカリバーの持ち主に破壊を許可されるっていうのには納得いかないところはあるけどね。」
「随分な言いようだね。こちらとしては君がはぐれになってでも行動しようとしているのを知っている訳だから、今すぐこの場で切り捨ててもいいんだよ?」
これから共同戦線を張るというのに睨み合う木場とゼノヴィア。
協力していくわけだからいがみ合うなとイッセーが二人を嗜めようとするが……
「おい。忘れてねぇだろうな。」
ダイスケが携帯の画面にアーロンのアドレスをちらつかせる。
「「うぐぅ……!」」
「悔しいのう、悔しいのうwww」
うまく二人を脅せているので本編では使わないと決めていた草がついつい出てくる。
「……なんでダイスケくんは二人にこんなに優位に立ってるの?」
「木場、そこは触れないでやってくれ……。」
「んん!そこはまぁ置いといて……貴方、やっぱり『聖剣計画』のことで私たちを恨んでいるのね?エクスカリバーと―――教会の存在に。」
そのイリナの問いに、木場は目を細め「当然だよ」と冷たい声音で肯定する。
「でもね、あの計画があったおかげで聖剣の扱いに関する研究は飛躍的に進歩したわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣に呼応できる使い手が数を増やすことができたのよ。」
「確かに悪魔にもあくどいのはいるし、その存在に震える人々を守る防人が増えることはいいことだろうさ。だけど、計画失敗とみなされた被験者のほぼ全てが実験動物のように始末されるのは許されるのか?」
木場のその憎悪の眼差しに、イリナはついに押し黙ってしまう。
人の良心がある者ならば人をモルモット扱い、それも不要と判断すれば家畜のような殺処分を行う事など許せるはずもない。それはイリナにも理解できることではあったのだ。そこへゼノヴィアは言う。
「確かにあの一件は我々の間でも忌む者は多い。被験者の処分を決定した当時の責任者は信仰以前に人間性に問題ありとされて異端の烙印を押された。今では堕天使側に拾われているよ。」
「……その者の名は?」
自分と同胞の死を決定させた者の名に興味を惹かれた木場はゼノヴィアに尋ねる。
「奴の名はバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ。」
己の仇敵の名を知った木場の瞳に、明確に復讐の炎が灯るのが見える。
「そこまで教えてもらったら僕からも情報提供をしたほうがいいね。」
木場のその言葉に興味を惹かれたのはゼノヴィアである。
「ほう、聞かせてもらおう。」
「君たちが駒王学園に来た日、僕はあのあとエクスカリバーを持った者に襲撃された。ちょうどそちら側の神父らしき人物を殺害した後だった。」
「なんですって!?」
「どんな奴だった!?」
「相手は白髪のボクらと同年代ぐらい。フリード・セルゼンという、僕らが以前にも戦ったことがある者だ。」
フリード・セルゼン。
アーシアとレイナーレの一件でイッセー達が戦ったことがあるはぐれ神父である。
ダイスケ自身はレイナーレのアジトで顔を見かけた程度の面識であったが、そのエキセントリックというより頭のネジが百本ほど剪断破壊されたような言動は覚えがあった。
襲撃者の名を聞いたイリナとゼノヴィアは心当たりがあるらしく目を細めた。
「なるほど。奴なら納得だ。」
「その男は元ヴァチカン法王庁直属のエクソシストよ。若干十三歳で任命された天才だったわ。その類まれな才能で悪魔や魔獣を次々と滅していった功績は大きなものだったのよ。」
「だが奴はやりすぎた。邪魔だと判断した味方すら手にかけたのだからね。奴に信仰心などはじめからなかったのさ。あるのは人ならざるものへの嫌悪と殺意、そして異常なまでの戦闘への執着。異端審問を受けて当然の男だったよ。」
忌々しげに語るイリナとゼノヴィア。どうやら元味方からも異常者扱いをされていたらしい。
「そういった奴が身に余る力を獲れば凶行に走るのは至極当然か……まあいい。とりあえず、私たちでエクスカリバー破壊の共同戦線といこう。」
そう言ったゼノヴィアは懐からペンとメモ用紙を取り出し、連絡先を書いてイッセーに手渡した。
「何かあればここに連絡をくれ。」
「おう、じゃあ俺のアドレスを……。」
「ああ、イッセーくんのアドレスならおばさまから頂いているから安心して。」
イリナが微笑みながらイッセーに告げる。
「んな!?母さんめ、勝手なことを!!」
恐らく息子の幼馴染だからと軽い気持ちで教えたのだろう。こういうところから個人情報が漏れたりするから気をつけなければならないというのに。まあ、その心配が無い相手だったからいいのだが。
「では、私たちはこれで失礼する。食事の礼はいつかさせてもらうよ、赤龍帝。それから宝田大助、お前もな。」
「奢ってくれてありがとうね、イッセーくんと悪魔のみんな!あと宝田大助くん!この借りはいつか熨斗つけてお返ししてあげるから覚えていなさい!!」
そんな捨て台詞を吐いて二人はその場を後にする。残された者たちはダイスケを除いてたまらずに大きく息をついた。
下手をしたら天界と冥界の争いの火種を作りかねない大きな賭けだったのだ。それをやや非人道的な手段を用いたとは言え成功させたのだからなおさらだ。
「……イッセーくん、なんでこんなことを?」
静かに木場が尋ねる。
本来であれば個人的な怨恨による復讐を出会ってほんの一、二ヶ月の無関係であるはずの者が助成しようというのだからその疑問は当然だろう。
「まぁ、同じグレモリー眷属だし、何回も助けられてるしな。今回は俺が助けようかなってさ。」
「僕が下手に動けば、部長に迷惑がかかるから……っていうのもあるんだよね。」
「当然。お前が『はぐれ』にでもなったら部長が悲しむ。まあ、俺のやったことも独断専行だから迷惑かけてるんだけどさ。」
にかっ、と笑うイッセーだが、それでも木場はまだ承服しかねるといった表情だ。
そこへ小猫が口を開く。
「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです。」
まるですがるような表情の小猫。その寂しげな顔は、普段無表情である分インパクトが強く、この変化はこの場にいる男子全員、特にダイスケに衝撃を与えていた。
「そ、そんなッ!普段仏頂面で身内が死んでも眉一つ動かさなさそうな鉄面皮女がこんな表情を!?」
そのダイスケのデリカシーの無い上、場の空気を読まない発言に小猫は表情を変えずにその脛を蹴り上げることで答えた。
「ぁうっぐッ!?」
「……お手伝いします。だから……いなくならないで。」
テーブルの下で行われた残虐行為はさておいて、小猫のこの言葉に木場は困惑しながらも苦笑いする。
「……まいったね。そんな風に言われたらもう僕も無茶はできないよ。わかった。今回はみんなの好意に甘えさせてもらうよ。おかげで本当の敵も見えた。そして、やるからには絶対にエクスカリバーを打倒するよ。」
とうとう木場の閉じられていた心が開けた瞬間であった。
それを理解したのか、小猫も安堵の表情を浮かべる。
「よし!兎にも角にも、俺たちでエクスカリバー破壊団結成だ!!何が何でも奪われたエクスカリバーとフリードの野郎をぶっ飛ばそうぜ!」
気合の入ったイッセーと同じく木場も、小猫も、ダイスケも心の準備は出来た。だが、一人だけどうしても乗り切れない人物が一人いた。
「あの、俺だけ完全に蚊帳の外なんだけど……なんで木場とエクスカリバーに関係があるの?」
匙である。
彼だけはグレモリー眷属ではないために木場の事情を知らないのである。
「……そうだね。匙くんのためにも、部長からの又聞きで知ったイッセーくんとダイスケくんにも僕から直接話すよ。」
そして木場は自身の過去について語りだした。
かつてカトリック教会が秘密裏に実行した『聖剣計画』。聖剣に呼応できるものを人工的に輩出するための実験がとある施設で日々繰り返されていた。
集められた被験者は皆、剣の才に恵まれた者と神器を有した年端もいかぬ少年少女たち。
将来の夢があり、彼らそれぞれの未来もあった。神に愛されていると信じてもいた。
だが、そんな彼らに与えられたのはモルモットとしての日々のみ。人として扱われず、失敗作の烙印を押され、人としての生を無視される。
それでも、自分たちは聖剣に選ばれる存在に成りうると信じていた。
信仰と共に励まし合うために唄った聖歌を心の支えにして過酷な実験を受け続け、堪えてきたのだ。
その結果が、『被験者全員の殺処分』だった。
「……みんな死んだ。失敗作として物のように処分されていった……。信じていたものに裏切られ、誰も救ってはくれなかった。『聖剣に適応できる者はできなかった』、ただこれだけの理由で僕らはガス室に送られた。彼らは「アーメン」と唱えながら僕らに毒ガスを浴びせた。血反吐と涙を流しながら、冷たいタイルの上でもがき苦しみながら、それでも僕らは神に救いを求めた。でも……救いはなかった。」
その後、なんとか逃げおおせた木場の肉体も充分すぎるほどガスに肉体を蝕まれていた。そこへ偶然、イタリアを視察に来ていたリアスに息を引き取る寸前で救われたのだった。
そこまで語った時点で、どこからかすすり泣く声が聞こえてくる。
「ぅううう……。」
匙である。
木場の想像以上の壮絶な過去を聞いて鼻水まで垂らして号泣していたのである。
「ほれ。」
見かねたダイスケが備え付けの紙ナプキンを数枚まとめて手渡すと、大きな音を立てて鼻をかむ。
そんな匙は木場の手をとって言う。
「グズッ―――木場、俺は今までお前のことをいけ好かないキザ野郎だと勘違いしていた。だが!お前の気持ち全てが理解できるわけじゃないが、お前の戦う理由と気持ちは理解できた!!こうなったら俺も本気でお前の手助けをさせてくれ!そのためなら会長のシゴキもあえて受ける覚悟だ!!!やってやろうぜ、打倒エクスカリバー!!!」
これまで最も無関係でやる気がなかった匙が、今やイッセー以上の情熱をもって木場の手伝いをやる気になったようだ。
「そうだ、木場が辛い過去をわざわざ喋ってくれたんだ。俺の事も聞いてくれ!!」
「いや、そんなんいいから。」
ダイスケの呟きも無視して匙はここが店内だということも忘れて大声で語りだす。
「実はな、俺の目標は……ソーナ会長と出来ちゃった結婚をすることだ!!!!」
意外とどうでもいいことだった。
はたからすれば「ああ、どうぞご自由に。無理だろうけど。」という話だがイッセーは違った。
ぶわっ
その瞳から先ほどの匙に負けないほどの涙を流したのである。
「いや、今の話に泣く要素あったか?」
「あるに決まってるだろ、ダイスケェ!!匙は上級悪魔、それもご主人様を相手にできちゃった婚を狙ってるんだ!!そうだ、匙は俺の……同士だったんだ!!」
「な、なに!?それじゃあお前は……?」
「ああ、俺も目標がある。それは……部長のおっぱいをこの手で触れ、そして吸うことだ!!」
「……できるのか?本当にそんなことができるのか!?」
「できるさ!!現に俺はこの前のライザーの一件のあと、部長からファーストキスを貰ったんだ!!」
「な、なにぃぃぃぃぃいいいいいい!!!???」
もはや五月蝿すぎて小猫が認識阻害の結界を張っている。そうでもしないと確実に店員から追い出され、しまいには入店お断りのブラックリストに載りそうなほどなのである。
「やろうぜ、匙!俺たちは今は半端者の兵士だが―――」
「二人なら一人前!!兵藤!」
「匙!」
「「やろう!目指せ、サクセスストーリー!!」」
「いや、木場のためじゃねえのかよ。」
かくして、下僕悪魔四人+一名で構成された『エクスカリバー破壊団』は結成されたのである。
今章では一応リアルサイズの怪獣を一匹程だそうかと思っています。
ですが反応がないようなので出すときはインパクトのある出し方にしようとしています。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!