半ばヤケになって「最初っから作り直しちまえ!!」と全てやり直す決意をしました。
どうか長い目で見てやってください。
あるとき、世界は激震した。
いくつもの神話と神々が均衡を保っていた世界に、『異物』が現れた。
その異物は他を圧倒する『力』を持っていた。
その力に神々は恐れた。
神々と敵対していた者たち、そしてそれらの戦いを傍観していた者たちも同じだった。
全能の神も、無限の力を持つ者も、大いなる赫と呼ばれる者も、隻眼の賢神も、世界を惑わす悪神も、目覚めた人も、三眼の破壊者も、神々の長も、絶対の善神と悪神も、皆等しくその異物を恐れた。
ただ出来たのは、皆で力を合わせ、封じることだけだった。
最初で最後の協力だった。
その後、大きな争いが幾度か起こった。
それらのことで世界は多忙だったせいか、かの異物のことはみな頭の隅に追いやってしまった。
これは、その忘れられかけられた異物の物語。
*
燦く光が指す海の底に自分がいる。
耳に入る水流音は心地よく、その水に冷たささえ心を安らげる。
目の前には珊瑚や海藻が群れをなし、その間を数々の生き物が住処とし、息衝いている。
だが、突如として命溢れる水底は閃光と衝撃に包まれる。
全身の骨を全て砕きそうな衝撃波が生命の楽園とも言うべきこの海を蹂躙する。
その海流が生み出す暴力に負けまいと、必死になって海底にしがみつく。
次第にやってくる暴流は勢いを失うが、今度は帰ってくる波に押し流される。
堪らず海面に顔を出すが、潮流の代わりに猛烈な熱気に襲われる。
皮膚は焼け爛れ、得体の知れない不可視の力に自身の肉体が蝕まれるのを感じる。
一瞬でありながら、永遠とも思える苦痛についに意識を手放してしまう。
それから、どれほど時が経ったのであろうか。
全身を刺す痛みによってようやく意識を取り戻し、周囲を見渡す。
そこには、かつての生命の楽園の姿はなかった。
すべてが瓦礫に覆われ、命の痕跡すら感じられない不毛の海底。
その瓦礫の中に、あるものを見つけてしまう。
同胞の亡骸だ。
運悪く、瓦礫に飲まれてしまったのだろう。
同じような原因で命を失っただあろう他の息絶えた同胞の姿もある。
助かったのは、自分だけのようだ。
どうやらあの時、海面に出たのが不幸中の幸いだったようだ。
だが、その幸運を喜ぶ前に自身の異変に気付く。
かつてのものとは違い、焼け焦げたかのような黒に染まった肌。
自身の肉体をも突き破らんとしているかのような迸る筋力。
そして我が身の奥から感じる、あの自身の体に蝕んできた謎のエネルギー。
変えられた。
自分が自分でなくなった。
住処も、仲間も失った。
何故だ?
何故こんなことに?
ひとつ、心当たりがあった。
かつて出会った、あの小さき者たち。
その身の大きさに不釣合いな、大きな力を操るあの者たち。
奴ら以外に、こんな芸当をなせる奴らは自分の知る限りではいない。
おそらく、あの『光』は奴らが新しく生み出した力なのだ。
その結果、多くのものが失われた。
許せない。
絶対に許せない。
全てを奪った奴らを俺は―――
「―――またか。」
同じ夢だ。
ほんの数年前は一年に二、三度あるかないかだったが、ここ最近はほぼ三日に一度のペースだ。
おかげでここ最近は最悪の目覚めがしょっちゅう。
制服に着替えながら、酷いようなら精神科にでも通院してみようかとも思ってしまう。
これが、宝田大助の最近の悩みである。
だが、目覚めが悪いからといって学校を休むわけにも、遅刻するわけにも行かない。
自慢ではないが、一年であった去年は皆勤であったし、成績もそれなりに良かった。
このままなら、進学のための内申点もある程度期待できるだろう。
そのためにも、今は起きて学校へ行く支度をせねばならない。
だが、階段を下りてキッチンに入ってもそこに母の姿はない。
リビングにも、朝刊を広げる父の姿もない。
二人共、既にこの世にいない。
彼の父は自衛官だった。
それも、父方の祖父は旧陸軍中野学校出身のエリートというまるで運命を感じさせる血縁である。
そして父は、PKO先の某国で亡くなった。
内乱による復興支援活動のさなかに、反政府ゲリラ残党の襲撃が起きたのである。
その一般人の避難を援護、誘導しているとき、兇弾に倒れた。
母はその凶報を聞き、ただでさえ生まれつき体が弱かった母は心労が祟って後を追うように病死。
当時8歳だったダイスケは、あまりにも突然のことで理解するのに時間がかかった。
何が起きたのかすべて理解できたのは、納骨が済んだ時だった。
冷たい墓石の中に、両親だったものが収められていく光景。
それを見て初めて、ダイスケの両目から涙が静かに流れた。
それまで貯めていたモノが静かに溢れ出していく感覚は今でも本人は覚えている。
以降、ダイスケは世界が灰色に見えるようになった。
これまで自分を守り、育ててくれた血を分けた両親が突如としていなくなった悲しみは年端もいかないダイスケには辛すぎる現実だった。
引き取ってくれた祖父の家の縁側で一人佇む毎日。
そんなダイスケに祖父、春雄は中野学校時代に会得した合気道をはじめとした戦闘術や、英・仏・独等の複数の言語を教えた。
一見、子供に教えるようなことではない。
だが、これが凍っていたダイスケの心を溶かした。
いい気分転換になった、ということもあったのだがそれ以上に初めて父と母がいた世界にほんの少しでも触れることによって、その死に対してある程度の納得ができるようになった。
「いただきます。」
牛乳をかけたシリアルだけという非常に簡素な朝食を掻き込む。
朝に時間のない男子高校生の朝食などこんなものだ。
以前は祖父の家に住んでいたが、高校進学を期にかつて両親と住んでいた家に一人暮らしをしている。
が、特に寂しいということもない。
昔から一人でいることは普通のことであったし、そもそも気の合う人間もいない。
それに、ダイスケは小さい頃から特撮やらアニメが好きだったが、それがネックになって友達ができなかったというのもあった。
曰く、「ダサい」のだそうだ。
彼らテレビゲームがメインストリームであった世代では、それが当然の反応なのだろう。
だとしても、そのように人の趣味を頭ごなしに否定する連中に迎合する意義を見いだせなかったダイスケは自然と孤立していった。
だが高校に入って、その例外が何人か現れた。
まさか自分が人付き合いすることになろうとは思いもしなかったので、勉学以外に学校で苦心しなければならないことができるとは思ってもみなかった。
今日は一体彼らとどのようにコミニュケーションをとろうか、ということに思いを馳せつつ、食器を片付け家を出る。
学校までそれほど遠くないためか、すでに登校している他の生徒の姿がちらほら。
その中に、浮かれに浮かれているかの『例外』の一人を見つける。
「うぉーい!!ダイスケ!いい朝だなぁ!!!」
いつにないテンションで駆け寄ってくる男子生徒の名は「兵藤一誠」という。
学園内では知らぬ者の無い煩悩丸出し男であり、後ろを恨みがましい眼付きでついてくる松田・元浜の三人でよくつるんでいる。
「……なんかあったか?それも、松田と元浜に益がなくてイッセーだけいい目にあうって感じの。」
「よく解ったな!実は俺……彼女が出来たんだ!!」
「……は?」
信じられなかった。
この年中発情男はついに白昼夢を見るようになったのか。
それとも妄想のしすぎでチベット仏教の秘技であるタルパでも完成させたのだろうか。
なんにせよ彼はモテなさすぎて幻覚を見てしまうようになったのは確かだ。
一刻も早く現実に還してやらねば。
「はっはー!お前も信じられないだろうがこの通りアドレスも……イダダダダダダダダ!?」
「ほっぺた抓る程度じゃダメか。よし、ボディーブローだ。」
「その程度じゃだめだ宝田!!パイルドライバーやアルゼンチンバックブリーガーも決めてやれ!!」
「松田の言うとおりだ宝田よ!仕上げにキン肉ドライバーを決めて、半身不随にして下半身を役立たずにしてやれ!!!」
松田と元浜が親友が暴力行為を受けているというのにさらにダイスケを焚きつける。
だが、その二人の反応を見てダイスケは確信する。
「お前らのその怒り様……マジなのか?」
「ああ、悔しいが事実だ……。」
「ついさっき、お前に会う前に紹介されたよ……!信じられんくらいの清楚系美少女だった!!」
耐え切れなくなったのか、ついに二人は悔し涙を流す。
「なんてこった……春先だってのに吹雪になるぞ。」
「なんつー言い草だよ!!つーか、いい加減抓るのやめろォォォォ!!!」
「おう。悪い。」
解放された頬を擦るイッセー。
恨みがましい目でダイスケを睨むが、すぐに勝ち誇った顔に変わる。
「つーことでだ、ついにこの俺にも文字通りの春がやってきたってことなのよ!!あ、これ彼女の夕麻ちゃんの写メね。」
言いながら見せられるイッセーの携帯の画面には、確かに清楚な黒髪美少女の姿があった。
「うわっ、もったいねぇ。」
「「だろ!?」」
「息ぴったりだな、オイ!?」
特に狙ったわけではない。
だが、これまで他人とのコミュニケーションを避けてきたダイスケにとって、心地よい瞬間でもある。
「もうこうなったら自棄だ!!お前から借りていたAV、あれ借りパクしてやる!!」
「おぉう、松田!!俺も貴様に賛同してイッセーから借りていたエロゲー5本を借りパクしてやる!!彼女が出来たコイツには無用の長物だろうて!!」
「巫山戯んな、お前らゴラァァァァァァ!!!!」
ダイスケの目の前をバカ三人がバカな理由で追いかけっこを演じ始めた。
そして三人はそのまま学校の方へと走り去っていってしまった。
「……朝っぱらから元気だねぇ。」
「本当に。」
突如、背後から声をかけられて驚くダイスケ。
だが、それがよく知る少女の声だったのですぐに落ち着きを取り戻す。
「なんだ、はるにゃんか。」
「だから、はるにゃんて呼ばないでください!!」
この少女がもう一人の『例外』、河内榛名である。
ダイスケが祖父の家に引っ越す前の小学校で同クラスになり、その後に今通う駒王学園で再開したという奇縁がある少女である。
「昔からそうやって人をからかって……そういえば見ました?今朝のニュース。」
「うんにゃ。」
その答えを予測していた榛名は、タブレット端末の画面を見せる。
「南極で仮死状態のリドサウルスの子供が発見される……あれか、53年にニューヨークを襲ったっていう奴の別個体か。」
「らしいですよ。……でも意外です。宝田君って怪獣好きなのにこういうニュースには興味ないんですね。」
「俺が好きなのは映画の怪獣。実際の怪獣なんて天災以外の何者でもないよ。人間の行いの被害者とは言え、リドサウルスに金星のイーマ竜、ゴルゴなんかもそうだからな。」
第二次世界大戦の終わりから度々姿を現す存在。
人知が及ばぬ生命力を持ち、既存のいかなる動物とも異なる者たち。
それが『怪獣』である。
それらが現れるとき、人は人類が起こした環境汚染の申し子といい、またある者は世界の滅びの予兆とも言う。
一度現れれば決して小さくない被害を人類に及ぼし、最後は呼び起こされた最大の元凶である人間に殺されるのがほとんどである。
その特異性や希少性が相まって、その種類、生態は殆どわかっていないといっていい。
「たしか、リドサウルスのニューヨーク襲撃が元になって『ゴジラ』ができたんでしたっけ?」
「企画が通ったのがその二年前だったって話もあるけどな。」
このように、怪獣の出現が元になって数々のエンターテイメント作品が生まれるほど、怪獣が人々に与えた影響は大きかった。
だが、近年の各国の軍事力の発展に伴い、もし怪獣が出現してもすぐに撃退されるか捕獲されるかであり、人々の関心も昔ほどのものではなくなっている。
「ま、怪獣が出たって昔ほど被害が出るわけでも俺らに関係があるわけでもなし、学校に急ごうぜ。」
「はい!!」
ダイスケとしては何の気もなしに放った一言であった。
だが後に、彼は憮然としてこの発言を省みることになる。
*
二日後の昼下がり、ダイスケは街中にある馴染みの釣具屋で買い物をしていた。
消耗品であるラインやルアーを必要分籠に入れると、高級なロッドやリールを冷やかしに見るのが楽しみなのだ。
一通りの手を出せない高級品を舐めるように見たあと、籠に入れた商品をレジに通して店を出る。
そのあとはただあてもなく街中を歩く。
休日ということもあり、人通りが多く様々な人々が歩いているのが見える。
今目の前を通り過ぎたカップルは付き合って何年目なのだろうか。
オープンカフェでコーヒーを飲むこの老人はどのような仕事をしていたのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、路地裏に数名が屯しているのが見えた。
明らかにガラが悪そうな男三名とショートボブのウーマンスーツを着た妙齢の女性。
因縁をつけられているのである。
だが、不思議な事に道行く人々は誰も警察を呼ぼうとはしていない。
「ああ、もう!!」
本来であればダイスケにはなんの関わり合いのない出来事である。
だが、どうしても見過ごすことができなかった。
路地裏に走りこんで一気に距離を詰める。
「オ、オイ、キミタチ。ソノヒトカラハナレタマエ!イヤガッテイルジャァナイカ。」
慣れない事をするものだからカタコトになっている。
だが、男たちの気を引く事はできた。
「なんだテメェ!!」
「正義のヒーロー気取りですか、あぁん!?」
テンプレのような男たちの反応に、思わず吹き出しそうが必死にこらえる。
「いや、だから。そのヒトを離してあげなさいな。」
「テメェにゃ関係ェねぇだろうが!!」
「俺らと一緒に遊ぼうって話ししてただけだもんなぁ、姉ちゃん?」
「大体、アンタが誘ってきたんじゃねぇか。「イイコトしよう」ってよぉ?」
いやらしい笑みを浮かべて女に詰め寄る男A・B。
だが、女はそれを振り切ってダイスケの後ろへ駆け込む。
「た、助けてください!」
ここまで言われたらもう確定だ。
男たちが無理やりこの女性を連れて行こうとしたのだ。
目的は推して知るべし、といったところだろうか。
「ね?この人もこんなに嫌がってるんだもん。これ以上何かあったら暴行とか障害事件になっちゃうよ。」
あくまで正論をかざして男たちを牽制しようとするダイスケ。
だが、理論武装したダイスケに苛立ちを覚えたのか男たちは強引にでも女を連れて行こうとする。
「いいからどけェ!!」
勢いよく伸ばされた右手が、ダイスケの左肩を掴もうとする。
だが、ダイスケは左手で突き出された手を掴みながら男の左後ろ側に回る。
合気道で言うところの「相半身」である。
そして男が前につき出ようとしたエネルギーを利用、右腕を男の頭に添えることでベクトルを変える。
すると、男は頭から後ろ向きに倒れてしまう。
特に技と言えない技ではあるが効果はテキメン。
さらに右腕が頭に抑えられたままだったので強かに後頭部をアスファルトにぶつけて男は気を失ってしまう。
「あ。やべ。」
ダイスケ本人は相手を気絶させるつもりはなかった。
だが彼が祖父から教わった体術は「合気道」として成立する以前の「格闘術」である。
それも、命のやり取りで用いられるような類の技術だ。
本来であれば自衛のために用いるべきでない技術であることはダイスケも重々承知していたが、咄嗟の出来事と反射神経がこの事態を成させしめた。
「テメェ!!」
仲間がやられて激昂した残りの二名が同時に襲いかかる。
先ほどの動きを警戒してか、二人掛りでダイスケの両腕を掴む。
すると、ダイスケは自身の両腕の向きを変えて捻り込み、逆に片腕で一人づつ押さえ込んでしまう。
「二人掛け二教・抑え」という一対二を想定した抑え技だ。
「イダダダダダ!!!」
「離せ!!離せよ!!」
離せと言われてはいそうですか、と素直に従うほどダイスケの人間性は出来ていない。
逆にさらに押さえ込む力を強くする。
「はいはーい。腕折られたくなかったらさっさと帰りなさーい。」
流石にこの体制で腕を折ることはできない。
だが、受身も取れずに押さえ込まれた痛みのせいで男たちはその正常な判断ができずにいる。
「わ、わかった!!もうちょっかい出さない!」
「離してくれぇ!!」
今度は言われた通りに離してやる。
すると、解放された二人の男は何も言わずに気絶した連れを担いで逃げていってしまった。
「あ、あの!助かりました!ありがとうございます!!」
「いえいえ。お気になさらず。」
感謝の言葉を受け、ダイスケはやや恥ずかしがる顔を見せる。
普段話す相手が少ないものだから通常の話し方ができていない上に、相手がスーツが似合う美人とあって緊張してしまっている。
「とっても若いのに……すごく強いんですね!!」
「いや、これくらいチョコっと練習したら誰でもできますよ。」
事実、先ほど見せた技は基本的なもので本気を出したらもっとえげつない攻撃を加えることになるのである。
「あの、できればなにかお礼をしたいのですが……そうだ、このあとお時間は?」
「ええ、特に予定はないんですけど。」
「でしたら、ご一緒に食事でもいかがですか?夕食にはまだ早いのでそれまで一緒に店を回るのもいいですし。」
「え、ええ!?」
まさかのお誘いである。
よもや暴漢から女性を救うことでこんなラッキーな事が起きようとは。
それも相手は妙齢の美女。
それこそあの松田・元浜あたりが聞いたら、臍を噛み千切って死んでしまいそうなシュチュエーションだ。
さらに今晩の食費が浮く。
どこからどう見てもプラスの面しかない。
「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします。」
「はい。そういえば、名乗っていませんでしたね。私、東欧から来ましたカラワーナといいます。」
艶やかな髪で片目を隠した彼女がそう名乗った。
参考資料に合気道のDVD付きの入門書を買ったのですが、これがまた面白い。
笑えるほど人が軽く投げ飛ばされるのに本人は大して力を使っていないのが面白い。
しかも力学的にも非常に合理的で、理系の自分からしたらすごく面白い格闘技。
あと、カラワーナが東欧の名前ってなってますけど適当です。
調べても出てこねぇんだもん……。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!