ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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今回、北村の過去の描写でどうしても矛盾する点があったので、卑怯にもその部分を修正してから今回の話をアップすることにしました。





VS23  名前をまだ出せないやつばかりだと「男」だらけで誰が誰だか自分でもわからなくなる時がある

「あら?あれって……。」

 

その日、河内霧香は親しいクラスメート二人と共に街に繰り出していた。その最中、偶然にもひとりで歩くダイスケの後ろ姿を見かけたのだ。普段着る服とは趣が異なる服を着ていたのでよく似た他人かと思ったが、一瞬見えた横顔は間違いなくダイスケの顔だった。

 

「どうかした、霧香?」

 

「うん、さっきダイスケさんを見かけたから挨拶しようかなって。一緒に行く?」

 

「えー!?勘弁してよ、霧香!」

 

「そうよ、ただでさえあの先輩怖いんだから!!」

 

普段からダイスケは基本的に積極的に他人と関わり合いを持とうとしない上に、学園屈指のエロ馬鹿トリオと言われる三人とよくつるむためよく避けられている。さらに不良数人を一人でノした、小学生時代に大人を半殺しにしたといった噂があるためによっぽどのことがない限り自分からダイスケに近づこうというは少ない。

無論、その噂のほとんどは実際に起きた出来事の一部を誰かが偶然目撃し、誇大解釈されて伝わったものがほとんどだ。その事実を知っている霧香は友人たちの恐れる様子と理由を否定する。

 

「大丈夫よ、そんなに怖い人じゃないし……ダイスケさーん!」

 

若干遠いところにいるので大きめの声で呼びかける。だが、ダイスケはその声に全く反応しない。

 

「……あら?」

 

聞こえていなかったのだろうか、と思い霧香は道行く人をかき分けて近づいていく。友人たちも気になってついていく中、ダイスケは人気のない裏路地に入っていく。

 

「ちょっと、無視しないで下さいよ!」

 

何とか追いつき、無視するダイスケの腕をとる霧香。だが、振り返ったその瞳を見て、彼女はこの男がダイスケとは似て非なる別人だということを理解する。表現するのは難しいが、その瞳には人間らしさというか、温かみがないのだ。どこまでも澄んでいて、それでいて何の感情を感じさせない瞳だった。

 

「あ―――ごめんなさい……。」

 

その無機質な瞳に気圧され、つかんだ手を放して霧香は後ずさりをする。

 

「俺に何か用があったのか?」

 

だが、声色から察するに怒りを感じている様子はない。その事に気付いた霧香はほっと胸をなでおろす。

 

「いえ、私が知っている人にとても似ていたので……。それなのに、失礼なことをしてしまって……。」

 

「……そうか。」

 

男は特に気にする様子もないようだ。すると、男の視線はすぐに霧香の背後へと移る。

 

「他にも用があったのは君だけではないらしいが。」

 

そう言った男の視線の先にはいかにも破落戸といった風体の男が三人いる。

 

「てめぇ、ようやく見つけたぞ……!」

 

「この前の借りをきっちり返してやるからな!」

 

この男たち、何を隠そう以前堕天使のカラワーナによってダイスケをおびき出す為に利用され、挙句の果てにダイスケに軽くひねられた破落戸達である。あの時の恨みを片時も忘れず、いずれ報復をしようとずっとダイスケを探していたのだ。

 

「これって……。」

 

「お前以外にも俺を付けてきたのがいた、ということだ。」

 

もとよりこの男は自分の後を追う追跡者がいたのは感付いており、一方は明確な敵意を持って、一方はただの好奇心によって追跡してきていることも把握していた。

わざわざ裏路地に入ったのは追跡する前者と後者を引き離すため。前者が先に来たら叩きのめしてすぐに退散し、後者が先に来たら敵意を持つ前者の攻撃から巻き込ませないために自分が盾になって裏路地から表通りに逃がそうというのだ。

 

「この前の借りといったが、俺はお前たちとの面識は一切ない。人違いだ、即刻立ち去れ。」

 

そう言いながら男は霧香を逃がすべく手を引いて自身の背後へ回した。そのままその背中を押して逃げるように無言で促す。

 

「ああ!?テメェの顔を見間違えるわけねぇだろ!!」

 

「バックれてんじゃねぇぞ、コラァ!!!」

 

顔が瓜二つであることが災いし、男の言うことを全く信じようとはしない。その間に、逃げるように促されていたはずの霧香が立ちふさがった。

 

「ちょっと、人違いだって言ってるじゃないですか!!」

 

緊迫した空気に押され、彼女の脚は暴力への恐怖で震えている。本当なら促されるがまま逃げてもよかったが、あまりにダイスケと瓜二つであることでどうしても見知らぬに他人には思えなかったのだ。

だが、彼女のこの行動が余計に破落戸達の神経を逆なですることになってしまう。

 

「邪魔だ、ガキ!」

 

破落戸の一人が、怒りのままに霧香に手を伸ばす。そのまま押しのけようというのだろう。自身に降りかかる暴力への恐怖に、霧香は思わず目を瞑る。だが、その手が霧香に届くことはなかった。

 

ガシッ

 

「イテテテテテ!!!!」

 

霧香の背後にいた男が、信じられないような素早さで間に割り込み、霧香を掴もうとする腕を捕まえ、片手で捻り上げたのだ。

 

「人違いだといっているだろう。この娘だってすぐに訂正したんだ。少しは見習ったらどうだ?」

 

狼狽する残り二名を射抜くような視線で威嚇する男。以前と似たシチュエーションだったために男とダイスケを重ねてしまい、余計に激昂してしまう。

 

「……舐めるな、この野郎!!」

 

ついに意を決して破落戸の一人が男へと拳を大きく振りかぶって殴りかかる。だが、男はその破落戸に掴んでいた破落戸を突き飛ばす。

 

「うわっ!」

 

仲間を自分の方へ突き飛ばされて慌てるが、これは単なる目隠しでしかなかった。なんと男は立て続けに突き飛ばした男の背中を蹴り飛ばし、殴りかかってきた破落戸もろとも壁に叩きつけたのだ。

 

ドォン!!

 

まるで人間が軽トラックにでもひかれたかのような音だ。あまりの衝撃に二人は一瞬で意識を刈り取られてしまう。しかもこの衝撃だ、アバラの二三本はいっているだろう。

問題は残る一人。以前受けた仕打ちとはまったく違うやり方に、目の前の男がダイスケではないと本能で理解することができた。だが、ここまで来たら引き下がれない。そして自身の切り札をポケットから取り出す。

 

「……ブッ殺してやる。」

 

掌に握られた金属製のソレは、器用に片手で展開されて本来の機能する形に変形する。すなわち、バタフライナイフだ。

 

「―――いけない、逃げて!」

 

思わず霧香が叫ぶ。だが、男はそれを合図に並ではない俊敏さで一気にナイフの男との距離を詰める。

 

「―――!?」

 

てっきり男が恐怖に足を竦ませるものだと思っていた破落戸は、全く想定外の出来事に驚きつつもナイフで男を突き刺しにかかる。だが、あろうことか男は自分の左手に敢えてナイフを突き立てさせたのだ。

 

「な……!」

 

だが、これで終わらない。男はナイフで刺し貫かれた左手をナイフと破落戸の右手ごと握りしめて捕まえる。相当な激痛が走るはずだが、男は苦悶の表情一つ見せない。その非人間性が恐怖を掻き立て、一瞬の隙が生まれた。

そして立ち尽くす相手めがけて、男は空いている右腕を弓の弦を引くかのように構えた。しかし拳は握られておらず、指をまっすぐに伸ばしている。手刀だ。拳で殴るより接っする面が狭いため普通に殴るよりも威力は高いが、自身の手をも傷つける可能性が高いために相当な手練れでないと非常に危険だ。

 

ドムッ

 

それら予備知識がなくとも、その一撃が卓越された技術の上に成り立つ一撃であることは明確であり、まるで機械のような正確さと速さで打ち出された一撃は襲撃者の胸を狙い撃つ。結果として、残った一人も気絶させられ、アスファルトの上を転がる羽目になった。

男は倒れる気絶した三人を一瞥すると、左手の掌に突き刺さったナイフを無造作に引き抜き、興味が無くなったかのようにそのまま地面に捨てる。

目の前で起きた一連の出来事に、霧香はしばらくの間瞬きをするのも忘れていたが、ナイフが地面に落ちる金属音で男が手に酷い傷を負っているのを思い出す。

 

「あっ……手、貸してください!」

 

慌てて自分のハンカチをポケットから出し、男の左手を取ってきつくハンカチで縛る。

 

「一応の止血です。さあ、一緒に病院へ行きましょう。」

 

「いや、必要ない。すぐに治る。」

 

「何言ってるんですか!ひょっとしたら縫わなきゃならないかもしれないのに!!」

 

自分を守るためにこのような手傷を負ってしまったのだ、いやでも声に力がこもる。だが、当の本人は怪訝そうな顔で尋ねる。

 

「……なぜ、俺に気を使う?知り合いに似ているからか?」

 

「それもありますけど……放っておけるわけないじゃないですか、人として。」

 

「人と、して……?」

 

さらに男は眉をひそめる。

 

「ヒトというものは自分のことしか頭になく、エゴの為に他人を平気で傷つける存在だと俺は教えられた。だからこそ駆除してここを綺麗にしなければ、とも教えられた。足元に転がるこいつらもそうなのだろう。だが、お前はどうも違う。お前は……人ではないのか?」

 

「な……!?―――確かにそういう人もいますけど、みんながそういうわけじゃないじゃないですか。この人たちみたいなのもいれば全然違う人だって……。」

 

「……どうも、俺が聞いていた情報と差異がある。しかし、新たに学ぶことができた。ありがとう。」

 

「いえいえ!むしろお礼を言うのはこっち……じゃなくて!早く病院に―――」

 

しかし、霧香の声を遮る声がしてくる。

 

「霧香ぁ~!!」

 

友人たちだった。そこでようやく自分が二人を置いてここまで来てしまっていたことに気付く。一瞬、そちらの方に気が向き、もう一度男の方を見る。

 

「……あら?」

 

そこのいたはずの男が消えていた。突然の出来事だったので白昼夢だったかとも思ったが、足元に転がる三人と数滴の血痕が先ほどまでのことは事実であることは間違いない。

まさに、「狐に鼻をつままれる」とはこのとこかと霧香は思った。

 

「……まさか、一人でやったの?」

 

「な!?」

 

もっとも、それ以上に友人から一時「霧香は実はとてつもない武闘派」という誤解ができたせいで、その弁明の方に気が向いてしまったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、悪魔さん。この服なんてどうかにょ?」

 

「ああ、いいんじゃないですかね……?」

 

「んん~、だけど、こっちのも気になるにょ。悪魔さんはどっちがミルたんに似合うと思うにょ?」

 

「え、ええ……?」

 

とある服飾店で交わされる会話。悪魔さんと呼ばれているのはもちろんイッセーだ。

会話の内容はまるでデートでブティックに入ったカップルのもの。リアルで聞いたら爆発四散しろと言いたくなるようなものだ。しかも相手は同棲するリアスやアーシアではなく全くの別人。てめぇ、メインヒロイン放っておいて何してやがんだオリジナル展開で殺すぞと言いたくなる。

だが、今回ばかりはそんな名言葉も胸の奥に引っ込んでしまうほど同情せざるを得ない状況だ。なぜならその相手というのは―――

 

「うーん、どれも良すぎてミルたんどっちにしようか迷っちゃうにょ!」

 

中身は魔法少女に憧れる乙女、見た目は筋骨隆々の世紀末覇王だか男塾塾長のミルたんだ。

 

「イッセー君、しっかりコーディネートしてくれ。ミルたんはウチの上客様なんだからね。」

 

そんな指示をするのは自称宇宙人の北村だ。実はこの店、北村が経営するブティックなのだ……いや、そのような言い方ではかなり語弊がある。何を隠そう、ここはかなりニッチなジャンルの服を取り扱う専門コスプレショップなのである。

もともとは同じマンションに住むミルたんが「なかなか合う服が見つからないにょ、魔法で生成するもけっこう手間にょ」と相談を受けた北村が服を作ってやったのが始まりで、そのクオリティーがミルたんの同好の士(いるのがまず驚き)の間で広まり、いつも間にやらフルオーダーもこなす知る人ぞ知るコスプレショップを立ち上げるにまで至ったのだ。

 

「いや、似合うも何も、いろいろと基準が崩壊してるんでコーディネートも何もないと思いますが!?」

 

そして現在、イッセーはいつものごとく悪魔の仕事に駆り出され、北村の依頼で日雇いのアルバイトをしているのである。どうやら自分の正体を知っているこの地球上でたった二人の人物であるイッセーとダイスケをいたく気に入ったようで、今回のような依頼をしたりとかなり付き合いが深くなってきている。

 

「何言ってるんだ、ピッタリなのはあるだろ。たとえばこの『棘付き肩パットの世紀末風タンクトップ(モヒカン鬘・火炎放射器付)』とか、あとこの『誘拐された娘を救出しに行く元コマンドー風戦闘用ズボンセット(迷彩マーカー・小物付)』とか……。」

 

「お前、死にたいのか!?」

 

いくらミルたんが基本的に内面は乙女といえども、その肉体は下手なボディービルダー以上の筋肉の塊。下手に機嫌を損なえば、何者であっても拳の一振りでミンチにさせてしまうような凄味がミルたんにはある。だからイッセーはいつもこの自称魔法少女とエンカウントするたびに機嫌を損ねはしないかと神経をすり減らしているのだ。

 

「ん~、薦めてくれるのはうれしいけど、胸がノーガードなのはミルたん流石に恥ずかしすぎるにょ。」

 

「あ、そっかー。」

 

「あれ!?なんで普通に和やかな会話が成立してるの!?いろいろ神経すり減らしてる俺がおかしいの!?俺が馬鹿なの!?」

 

その一方で、店内に設けられている撮影スペースでは数々の衣装をとっかえひっかえして次々とポーズを決めるエリザベスと、それを一心不乱に撮影するマリアの姿があった。

 

「どーお?どーお?」

 

「最っ高ですお姉さま!!ああ、今度はもうちょっと胸を強調した感じで!!」

 

方や褒められて若干調子に乗るエリザベス、そして興奮しすぎて鼻血が出そうになっているマリアは北村についでにと、HPサイトに掲載する為の写真を撮っているのだ。

 

「うん、妹君の方はどうやら立派にカメラマンとしての秘められた才能を発揮してくれているようだ。」

 

「いや、あれはどっちかというとコスプレイヤーにナメクジみたいに張り付く悪質なカメラ小僧って感じですけど……。」

 

この姉妹がダイスケの家に居候してしばらく経つ内に、イッセーもこの姉妹がどういう人物なのかが大分わかり始めている。特にマリアの方は学年が一つ下であるにもかかわらず、休み時間になれば移動教室があっても必ず姉の元へ顔を見せに来るので彼女が姉のことを家族愛を通り越した別のベクトルで愛しているということはイッセーも理解している。

現にマリアはこの後撮った写真のデータを根こそぎコピーし、在り来たりなポーズのものだけ店のパソコンに残す腹積もりなのだ。だから先ほど指定した「胸を強調した写真」もほとんど自分の為に取っている。だが、それももはや物足りなくなってきたのか、我慢できなくなってとんでもないポーズ要求までしてきた。

 

「……ハァハァ、じゃあ、次は脱いでみy「ガン!!」―――なにするんですか!?。」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたダイスケが、ミルたんに渡そうとしていた『誘拐された娘を救出しに行く元コマンドー風戦闘用ズボンセット(迷彩マーカー・小物付)』から手榴弾のプロップを外してマリアの頭にクリーンヒットさせる。

 

「なにするんですかじゃねぇよ。お前がなにしてるんだ。企画もののAVかなんかか。」

 

「そんな如何わしいものじゃありませんー!純粋にお姉さまの美しい姿をカメラに収めてるだけですぅ―!」

 

こんな二人のやり取りももはやイッセーには見慣れた光景になってしまっている。

 

「どうやらマリーもダーリンに心を開いて仲良くなりつつあるみたいデース。この分だとあの娘もダーリンの義理の妹としてやっていけそうネ!」

 

「いや、どう見たって心開いてないよ。完全に敵意むき出しだよ。ユパ様が懐から出したばかりのテト並だよ。しかも噛みつきまくって指から大量出血するって、これ。」

 

そしてどこかずれた視点で妹とダイスケの舌戦を微笑ましい目で見るエリザベスに突っ込むのもイッセーは慣れてしまった。そんな風にワイのワイのやってはいるが、頼まれた仕事そのものはしっかりやっているから大したものだ。

やがて夕方の閉店時間になり、店内には北村一人がレジに取り残される。

やっているのはエリザベスに試着させていた衣装の手直しのデータを自身のコンピュータ端末に入力する作業。こうしてできた図面を基に業者に発注……するのではない。あとで自宅にあるとある装置で製作するのだ。

その装置とは『レプリケーター』。蓄積された素粒子をデータに基づき原子レベルで再構成する、いわば素粒子レベルで加工する三次元プリンターとも呼べる代物だ。これはかつての永い宇宙での長旅に用いていたものだが、北村が一人地球に取り残されたときに秘匿していた。それを今になってミルたんの願いの為に引っ張り出してきたのだ。

 

「かつて地球を侵略しに来ておいて、今は地球人の為にこれを使うとはな……。」

 

今日のイッセーたちの報酬に渡した店の商品もこのレプリケーターで造ったもの。写真のモデルになったエリザベスにも礼として一着メイド服を渡しており、その喜ぶ様子と着て見せて迫ったダイスケの恥ずかしげな顔を思い起こしてついその頬を緩ませてしまう。

だが、そこへ何者かが店のドアを開いてベルを鳴らす。

 

「かつて宇宙を荒らしまわったX星人が随分と丸くなったようじゃないか。」

 

入ってきたのは壮年の男と青年の二人。

 

「……わるいが、今日はもう店じまいでね。そういう設定の話なら明日たっぷり付き合ってやろう。」

 

「ハッ!そうやって現実逃避する哀れな輩を相手にして糊口を凌いでいるというわけか。計算機によってはじき出された冷徹な現実に生きるものがよくもここまで堕ちたものだ。」

 

その言葉が口から出終わった途端、北村はレジを飛び越え、手元にあった鋏を男の喉元に当てる。自分の店の中で殺すつもりは毛頭ないが、その眼にはおしこめられた殺意が見て取れる。

 

「勘違いするな。俺はその計算機が作り出す現実というやつが嫌で抗ったんだ。」

 

一瞬遅れて男に付き添っている青年が銃らしきものの銃口を北村の額に向けた。だが、喉元に鋏を押し当てられている当人は全く意に介さずに手振りで青年に「引け」と合図を出す。

 

「……だとしても、お前が将たる器も、付き従う兵もいないということには変わらない。そして、我らブラックホール第三惑星人に挑んでも勝てないということもな。」

 

「ほう、亡郷の流浪者の星盗りか。」

 

「察しがいいな。どうだ、協力するなら分け前ぐらいはくれてやってもいいぞ?」

 

北村は鋏を喉元から引き離し、離れたレジの文具入れに投げ入れる。

 

「おこぼれでもらう星なぞ俺には必要ない。俺が求めるのは己の手で勝ち取ったもののみ。……そして今の平穏以上に求めるものなど、今の俺には不必要だ。」

 

その北村の答えを聞き、男は「やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めて背中を向ける。

 

「やはりな。“カイザー”の血が流れる者は他人から与えられるものには興味はないか。それともこのぬるま湯の中で牙をもがれたのか……まあ、協力しないというのであれば我らの邪魔立てなど考えんことだ。いずれにしろ今のお前に戦う力があるとは思えないが。」

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

「ああ、今日は計画の不安要素に釘を刺しに来ただけだ、もう会うこともないだろう。さらばだ。」

 

そう言い放つと男はお付きを連れて店内を出ていく。そして今度こそ店内には北村ただ一人が取り残される。

 

「……宝田君、兵頭君、どうやら君たちの星はかなり厄介な奴らに目を付けられたようだぞ。」

 

ふと外を見れば、既に夕日がほとんど沈みかけて辺りはすでに薄暗くなっている。北村にはどうしても、その光景がこれから先の不安な行く末を暗示しているようにしか思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーとダイスケが北村の店から出てしばらくたった夜中の八時。

ここは駒王町のそれなりに規模がある漁港の突堤だ。ところどころに点いている街燈が集魚灯のような働きをするのでなかなかいい釣りスポットになっている。

そこに今、月の光に照らされながらイッセー、ダイスケ、そして本日の依頼人の男の三人が釣り糸を垂らしている。

 

「釣れない……。」

 

「ここで諦めるなよ。釣りっていうのは」

 

「悪魔君、友達の言うとおりだぞ。ここはじっと待って回遊してくるタイミングを待つんだ。」

 

最近、イッセーに常連の顧客ができた。それがこの男だった。見た目はチョイ悪系が入った三~四十代ぐらいだろうか、何の仕事はしているのかはわからないがこの男とにかく羽振りがいい。なにせ、最初の依頼が「暇つぶしに酒の相手をしてほしい」とうもので、もちろん未成年なので飲みはしなかったがほんの数時間ほど相手をしただけでとる有名画家のリトグラフを報酬として渡してきたのだ。

はじめは想像以上の値打ちモノが報酬として出てきたのでイッセーも驚いた。しかもそれにとどまらず、ゲームの相手だとか買い物に付き合えだとかどう考えてもハードルが低い依頼でぽんぽんと報酬として高価な絵画や貴金属類、はては骨董品を報酬として支払う。ここまでされたら何者なのかという疑念もどこかへ吹き飛んでしまう。

そして、今回の依頼が夜釣りに付き合うという内容だった。

 

「あれ?ビクってきたのについてないぞ?」

 

仕掛けを引き上げたイッセーが情けない声を出す。

 

「お前、当たってすぐに引いたろ。そういう時はな、ちょっと待って確実に針を飲み込ませろ。そんで、籠の中のアミも随時チェックだ。」

 

アドバイスするのは趣味が釣りのダイスケである。

当のダイスケはルアー釣りでのアジング。それに対し、イッセーと依頼主はサビキでのアジ狙いだ。

 

「はっはっはっは、悪魔くん。こうやるんだ。」

 

そう言ってアゼルがリールを巻いて竿を上げると、サビキの針がアジでほぼ満員になっている。

 

「うわ、すっげぇ!!」

 

たまらずイッセーが驚いた声を上げる。

 

「おお、型はマメアジだけど数すげぇ。」

 

「どうよ、伊達にこれだけに長い時間かけたことがある俺ではないさ。」

 

ダイスケに答えながら、依頼主はアジを一匹ずつ針から離していく。

 

「そういうお前さんはどうだい?アタリがないんじゃないか?」

 

「うーん、今のところジグヘッドでやってるんだけど、レンジが深いか、まだ遠くにいるか見たいっすわ……キャロシンカーに変えよう。」

 

そう言ってダイスケは柔らかい樹脂製のワームと呼ばれるルアーとジグヘッドという重り付きの針を仕掛けから外し、タックルボックスから、キャロライナシンカーと呼ばれる錘を取り出す。そして仕掛けを作り直し、小さな針を結んで再びワームを付ける

 

「何それ?」

 

イッセーが興味を惹かれ、ダイスケに聞く。

 

「これな、さっき付けてたジグヘッドより重いんだよ。だからより遠くに飛ばせるし、深いところへも早く仕掛けを沈ませることができるんだ。」

 

そのダイスケの説明の通り、キャロシンカーの仕掛けは先ほどのジグヘッドの仕掛けよりも遠くに飛んだ。

 

「へぇ、アジ釣りひとつにもこんなにやり方があるもんなんだ。」

 

「だろう、悪魔くん。まあ、効率はこっちのサビキ仕掛けのほうが圧倒的にいいんだが。」

 

そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、終了の時間を迎える。

本当なら朝日が見えるまでやり続けたいところだが、イッセーとダイスケには学校があるのでもうお開きだ。

釣果はイッセーがアジを二十尾釣り上げたのに対して、依頼人はは五十六尾。そしてダイスケはたった十尾。ただし半分以上が二十五~三十cmの良型だったので本人は大満足だ。

 

「いやー、楽しかったよ。いつも一人でやるんだがね、たまにはだれかと一緒にやるのもいいもんだ。」

 

短時間ながら十分な釣果を得た依頼人はは満足げだった。そして既にイッセーも代価の宝石類を頂戴している。

 

「くっそー……結局二十匹かよ……。」

 

イッセーが悔しそうに呟いたのを依頼人は聞き逃さない。

 

「お?だったら今度は勝負するかい?」

 

「もちろんすっよ!!」

 

イッセーは息巻くが、ダイスケはそれを見て呆れる。一朝一夕で釣りの技術は身につくようなものではないからだ。

 

「よし、それじゃあ今度呼ぶときは釣り対決ってことでいいかな?悪魔くん、ダイスケくん。……いや、赤龍帝と怪獣王。」

 

その一言で、イッセーとダイスケは咄嗟に依頼主の男と距離を取る。

 

「おお、いい反応だ。だが、俺が何者なのか気付けなかったのは残念だったな。」

 

両手を広げて「やれやれ」というジェスチャーをする。それがふたりにはまるで自分たちの隙を悠々と突かれたように感じてしまうのだ。

 

「あんた……一体、何者だ!?」

 

イッセーのその問いを待っていた、と言わんばかりに依頼主は口の端を少し吊り上げる。

 

「―――アザゼル。堕天使どもの頭、総督をやっている。よろしくな、赤龍帝の兵藤一誠、そして怪獣王、宝田大助。」

 

その予想外の回答に、沈黙が訪れた。

 

「「は?」」

 

というより、二人にはイマイチ現状がつかめていない。

堕天使の総督がなんでわざわざ?っていうか、自分から顔を見せるってなんなの?そんなに暇なの?なんて思っているほどだ。

 

「いや、だから堕天使の総督なんだって。」

 

「「……。」」

 

またも訪れる沈黙。だが、それはイッセーとダイスケによって破られる。

 

「「痛い痛い、痛いよお母さーん!ここに頭怪我した人がいるよぉー!」」

 

「……張り倒すぞ、お前ら。」

 

思わぬ反応に、つい威厳もカリスマもかなぐり捨ててカチッとなってしまうアザゼル。だがアザゼルは言葉で納得しないなら、その目に焼き付かせるまでだ、と行動する。

 

「なんなら証拠を見せてやろう……。」

 

その途端、アザゼルの背中から12枚の漆黒の翼が現れる。

 

「どうだ、この12枚の漆黒の翼!まさに堕天使って感じだろう!!」

 

「「……。」」

 

「どうだ、びっくりしすぎて声も出ないってか?」

 

「「痛い痛い、痛いよお父さーん!絆創膏持ってきて、人ひとり包み込めるくらいのー!!しかもこの人自作の羽根とか付けてるよー!痛いにも程があるよー!!正露丸もってきてー!!歯の奥に詰めるからー!!!」」

 

「お前ら打ち合わせでもしたのか!?」

 

否、仲がいいからこその阿吽の呼吸というやつである。

 




本文の中でアジ釣りについて出てきましたが、うちの地元は絶不調です。釣れても豆アジが十匹程度。まあ、南蛮漬けにするくらいなら丁度いいのですが。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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