ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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二月になってから「あけましておめでとうございます」と言える勇気。


VS24  一番大変なのはオリジナル展開を考えるとき

「冗談じゃないわ。」

 

リアス・グレモリーは怒っていた。それはもう、なまら怒っていた。隣にイッセーを侍らせ、頭を撫でている状態で。

 

「確かに、近々この町で三大勢力のトップ会談が行われるわ。でも、だからと言って堕天使の総督がなんの断りもなしに私の縄張りに無断侵入した挙句に正々堂々と営業妨害をしてただなんて……!」

 

全身を怒りで震わせながらも、イッセーの頭を優しく撫でる手は止まらない。

 

「しかも私のイッセーにまでちょっかいを出すだなんて、万死に値するわ!!!」

 

「あの。俺も狙われてたんですけど、そこは無視ですか。」

 

撫でられているイッセーとは対照的に、リアスはダイスケに対して何の心配もしていない。

イッセーは猫のように可愛がられ、ダイスケは部室の隅で突っ立っているあたり、扱いの差が見える。

 

「あら、あなたは自衛できるじゃない。」

 

「明らかに依怙贔屓じゃね!?なに、この格差!?」

 

これが眷属とただの協力者の差なのだろうか。

他の眷属もイッセーのことを心配してはいたが、ダイスケに関しては誰も心配していなかった。

 

「Oh!!ワタシはちゃんと心配してるヨ!部長サンみたいにハグしてあげるからさあ、come on!!」

 

「いや、気持ちはうれしいけどさすがにいいわ……。」

 

「Nooooo!!」

 

「ああ、お姉さま、悲しいのであれば私が抱きしめてあげます!さあ!!」

 

「いや、お前は俺が抱きしめてやるよ。この間また鍋ひとつお釈迦にしてくれたからな。」

 

「ちょ、それはただのベアーハッグ……ウッグァ!!!」

 

そんなもはや恒例行事になっているマサノ姉妹とダイスケのコントを無視して、リアスはイッセーの可愛がりを続ける。

 

「アザゼルは神器に強い関心を示しているというわ。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手を狙って接触してきたのね……。でも大丈夫よイッセー。あなたは絶対にこの私が守ってみせるわ。」

 

「……いや、だから俺は?眷属じゃないからどうなってもいいってか?」

 

文字通り締め上げたマリアをエリザベスに任せ、再び不満をこぼすダイスケ。

 

「でもやっぱ、俺とダイスケにアザゼルが近づいてきたってことは、神器を狙ってきたってことっすよね?……やっぱり、命に関わる危険があるってことなのかな。」

 

話が進まない現状を流石に変えようとしたイッセーが言う。

そのイッセーの不安を聞き、木場が答える。

 

「確かにアザゼルは神器に対する造詣が深いとは聞くね。そして、有能な神器所有者を集めているとも聞く。でも、大丈夫だよ。……僕がイッセーくんを守るからね。」

 

その木場のセリフは、まさにお姫様を守る騎士の様だった。それにしたって男が男に対して使う言葉と視線ではない。

 

「いや、あの……気持ちは嬉しいんだけどさ、それは真顔で男に向かって言う言葉じゃあないぞ……。」

 

「真顔で言うさ。君は僕を助けてくれた。大きなリスクを背負ってまで助けてくれた、僕の大切な仲間だ。その仲間の危機を救えないで、グレモリー眷属の騎士は名乗れない。」

 

言いたい事はわかる。だが、この言い方ではは学園に蔓延る腐女子グループからすれば格好のネタにされる。この態度が他の場で表に出なければいいのだが。

 

「きっと、禁手に至った僕の神器とイッセー君の赤龍帝の力があれば、どんな困難でも乗り越えられる。……ふふっ、ほんの少し前まで、こんな暑いセリフは吐かなかったんだけどね。キミと付き合っていると自分のキャラクターまで変わってしまう。でも、不思議と嫌じゃあないだ……。キミを見ていると、胸がすごく熱くなってくるんだ。」

 

熱っぽい視線でイッセーに訴える木場。

こんなのどこからどう見たってBでLな小説とかゲームのそれだ。

 

「き、木場……お前、キモイぞ……。いや、ちょ!近づくな!!」

 

尻をガードするように逃げるイッセー。このままでは一部女子達の噂が現実のものとなってしまう。それだけは避けたい。

 

「そ、そんな……!イッセーくん、僕はただ……!」

 

まるで愛する女性に避けられたかのような木場の姿に、イッセーもダイスケも口をあんぐりと開けるしかない。美少女が好きな男に縋り付く姿は中々クるものがあるが、それがイケメンとはいえ男子なら話は別。それこそ一部の女子にしか需要はないだろう。

かつてのクールなイケメン木場くんがどこへやら。人間(悪魔)変われば変わるものだ。

 

「しかし、どうしたものかしら……。堕天使側の動きが見えない以上、迂闊に動くことはできないわ。しかも相手は堕天使の総督。下手な手は打てないし……。」

 

あくまで相手はちょっかいをかけてきただけ。これに過剰反応すれば、三隅の関係を崩すことうけあいだ。そこのところ、リアスは意外と厳しい。

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス。」

 

突如として、この場の誰でもない声がした。その声の出処を全員が見つけた時、そこにはリアスそっくりの紅い長髪をした男がにこやかに立っている。

イッセーもダイスケもその顔には見覚えがあったが、誰だったか思い出せない。

すると、朱乃たちがその場で跪き、新人悪魔たちとダイスケたちがその様子を見てポカンとなる。

 

「お、お、お、お兄様!?」

 

その人物が何者なのか気付いたリアスが慌てたように立ち上がる。リアスが「お兄様」と呼び人物はただ一人。現魔王『サーゼクス・ルシファー』その人だ。

サーゼクスが現れたとあって、新人悪魔三人が慌てて跪くが、ダイスケは空いたソファーにラッキーとばかりに座る。

 

「彼は先日のコカビエルのような早まったことはしないよ。悪戯好きではあるけどね。しかし、総督殿は意外と早い到着だったな。」

 

サーゼクスの後ろには銀髪のメイド、グレイフィアが控えている。サーゼクスの女王であるから当然か。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ているのだから。そういえば……報告にあったマサノ姉妹というのは君達だね?」

 

「は、はいっ!」

 

珍しく緊張した面持ちでエリザベスはサーゼクスの前に出る。それもそうだろう、何せ相手は悪魔の四人の首領のうちの一人。しかも自分が所属する黄金の夜明け団の創始者の上司にあたる人物だ。

 

「君は姉のエリザベス君だね?君のことはリアスからよく聞いているよ。先日は妹君と共に私の妹とその眷属たちを救ってくれて……ありがとう。」

 

そう言いながらサーゼクスはその決して安くはない頭を下げる。

 

「いや、アノ!流石にそこまでは……。」

 

「いやいや。正直、これでも足りないと自分では思っているんだよ。だからこそリアスから連絡を受けた例の話、私もやぶさかではないんだ。」

 

「お兄様、それって……!」

 

期待に満ちたリアスとエリザベスの視線にサーゼクスはうなずいて答えるが、直後に語った内容は想定外な不安材料が含まれていた。

 

「うむ、すでにマクレガーにも話している。だが……どうも彼曰く最近英国魔術界の中に不穏な空気があるようでね。マサノ君たちの本家筋であるドゥルイト家の周辺で不自然な金の動きが感知されている。」

 

「それって、もしかして私の開発した薬品の特許料じゃ……。」

 

エリザベスの心当たりとなるのは自身がロンドン大学在学時に開発した新薬の特許料の収入だ。たしかに製薬会社から得られる特許料ならばかなりの収入となるだろう。その一部が流入しているのではないかとエリザベスは思ったが、サーゼクスは首を横に振る。

 

「いや、ドルゥイト家は受け取っているのではなく渡している側なんだ。この金の動き自体は二年ほど前から続いているらしいのだが……。」

 

そこでダイスケが一人思い至るのはその本家であるドルゥイト家の人間たちがエリザベスたちに行っていた仕打ちとの関係である。

今までダイスケは聞いていた話から、ドゥルイト家の人間たちはエリザベスとマリアが外の血が入っているにもかかわらずに得た才能に嫉妬して不当な扱いをし、あまつさえ利益を得ようとしていると考えていた。だが、そうであれば外への金の動きが起きるわけがないし、姉妹が齎した利益も我が物として貯め込むはずだ。

つまり、彼らは金銭以上の何かを得るために金を動かしているということになる。だが、それがなんなのかはサーゼクスの方でも掴めていない。であれば、情報網など持たないダイスケにそれがなんなのか知る由はない。だからこの話はここで終わってしまった。

そのあとは後日に控える授業参観の話やサーゼクスがしばらくこの町に滞在する内容な話が続き、特に目立った話題もなくこの日は終わりを迎えた。

ただ、ダイスケはおろかこの場にいるだれもが気づけなかった。先ほどダイスケに締め上げられ、ぐったりとしていたマリアの表情が複雑なものになっていたのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、バチカンのエクソシストであるアーロン・ブロディは多忙を極めていた。

先日決まった天使・悪魔・堕天使の三大勢力のトップ会談が行われるのに際し、天使側の警備責任者の一人に任じられたからである。彼より上位の役職にいる者や、天使長ミカエル配下の天使もいるのになぜ彼がこのような大役を任せられたかというと、彼は直接先の騒動の原因であるコカビエルと直接相対した数少ない天使側の人間で、当事者の内の一人だったからだ。

そういう意味ではあと二名ほど条件にあてはまる人物がいるのだが、そのうちの一名であるゼノヴィアは悪魔に転生してしまったので任せられるはずもない。もう一人の紫藤イリナも条件にあてはまるが、先の戦闘で負傷してしまったことで大事を取って選考からはずされた。それに、アーロンはいくつかの任務で様々な方面に顔が利く。

排他的な性格のものが多い教会関係者の中でこういうことは非常に珍しく、中には本来敵対する悪魔側、堕天使側、さらに異教の者にも場合によっては手を貸したり貸してもらったりをしているので教会の中には彼を異端審問にかけるべきという声も中にはある。だが、それでも成果は出しているし、数いるエクソシストの中でもトップクラスの戦闘能力を有していることからそれらの声をねじ伏せている。

そんな彼が現在行っている仕事は、会議が行われる駒王学園周辺の警備おける警戒ポイントの探索である。極力目立たない服装、尚且つレンタカーを用いて移動している。運転しているのはアーロンだったが、助手席にはもう一人座っているのが見える。

 

「あそこのマンションはどうだ?」

 

「……会場から1km未満、7.62mmでも十分狙えるな。ただ、会談が行われる会議室は死角になるからここはそれほど警戒する必要はなさそうだ。……迫撃砲でも使うのなら話は別だが。」

 

「日本で、それもこんな街中で迫撃砲を使うバカはさすがにいないと思うぞ?」

 

「考えすぎか……ええい、いつもと勝手が違いすぎる。そんなに重要な会議ならこんなハイスクールなぞ使わなければいいのに。」

 

「この地で三大勢力に縁があるのがここしかなかったんだ。仕方ないさ。」

 

「だとしても、魔力だなんだなんてオカルトが絡んだら俺たちに対応できるわけがないだろう!!話は聞いているが、俺たちは現実のドンパチしか知らないんだぞ!」

 

神経質そうに叫ぶこの男はジョン・ロダンという、とある民間軍事会社(PMC)の一応の代表である。

彼とアーロンが知り合ったのは数年前。アーロンがとある任務のさなか偶然出会ったのが切掛けで、詳しい経緯はここでは割愛するがその出会い以降彼らはとある事情により以来協力関係を結んでいる。

 

「だが、お前たちにはそれらに対抗できる力がある。いつも通りにやればいい。それに、俺たちはこういう時の為にお前たちのような人間を探し、集めたんだ。」

 

「わかってはいるが、それでも経験の無い形の戦闘だから不安で仕方がないんだ。そんな中にせっかくついてきてくれたあいつらを放り込むなんて……。」

 

そうジョンが己の不安を吐露すると、不意に自分の胸ポケットから電子音が聞こえる。仲間内でのみ使用する周波数帯を用いる無線機が繋がったのだ。定期連絡の時間であったことを思い出し、ジョンは慌てて無線機のスイッチを入れる。

 

『こちら《スパイディ》。おい、ヤベェことになった。』

 

「こちら《オネスト》、どうした?」

 

『街中でいい感じにスれてる褐色メガネ美人を見つけたんだけど、声かけたら殺されそうになっちゃった。』

 

「……またやったのか!!!この前のロシアンマフィアの女に手を付けたので懲りていないのか!?」

 

『なんか手下たくさん連れててさぁ。あれひょっとしたらジャパニーズヤクザの情婦だったのかなぁ。でもビームみたいなの撃ってきてたし……。』

 

「そんな考察はいいから、とっとと逃げろ!というか、いい加減にヤバイ女をピンポイントで狙うのやめろ!!これで何回目だ!?それ以前に仕事はどうした!!」

 

ジョンが無線機の向こう側に怒鳴り散らした途端、すぐさま別のチームメイトからの連絡が入る。

 

『こちら《トリックショット》。現在会場の北側にいる。ちょうどいい感じに女子更衣室が見えるぞ。』

 

「……こちら《オネスト》、まさかまたやっているんじゃないだろうな?」

 

『もちろんたっぷり舐めまわすように鑑賞させてもらっている。それにしても今日日の女子高生というのはなかなかに発育がいいな。特にあのケンドーをやっていた女子二名はなかなかのモンだ。』

 

「お前はお前でいいかげん、“力”をそういう方面で使うのをやめろ!!第一、犯罪行為に手を染めるんなら風俗にでも行け!!」

 

『何を言う。まさか、自分は見られていまいという無防備さが堪らないんじゃぁないか。それに俺がやっているのは美しいものを鑑賞しているのにすぎん。芸術品の裸婦像を見ているのとほぼ一緒だ、たぶん。』

 

「ほほう……芸術と犯罪はほぼ同義と抜かすかキサマァ……。」

 

『お、今度はプールサイドでトップレスになってサンオイル塗ってもらってる女子生徒がいるからそっちに行くわ。』

 

「おい、ちょ、ま!……切りやがった!《カセウェアリー》、《ダイバー》、《トゥラケス》、応答せよ!!誰でもいい、今すぐ誰があいつを止めてくれ!!」

 

ジョンは無線機の向こう側にいる、欠片でも良心が残っている仲間に呼びかける。しばしの間車内に沈黙が訪れ、手元の駒王学園周辺の重要ポイントを記したノートパソコンがメールの着信を知らせる電信音を鳴らす。複数送られているそのメールには皆それぞれ二種類のデータが添付されていた。

一つはおのおのが確認してきた警備上の警戒ポイントが記されたデータ。もう一つはそれぞれ文章は異なるが、どれも同じ内容を示す本文である。

要約すると『現在全力で観光しているから無理』という内容である。仕事だけははしっかりしているので、もはやジョンの怒りもメルトスルーだ。

 

「……転職しようかな。」

 

アーロンにはそう力無く呟くジョンの肩に優しく手を乗せることぐらいしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、その調子だ小猫。魚がどうやって尾鰭を動かして水中を前進しているのか想像しろ。体をくねらせることによって揚力を発生させ、流体を斜面の定理を応用して押しのけていく……進んでいった先に似は獲物となる小さな小魚。口を大きく開けて食らいつくもそれは俺のルアー!そして俺はロッドを撓らせてフィィィィッシュ!!!」

 

「……途中からおかしくなってません?」

 

「……ごめん。」

 

初夏の日差しの下、駒王学園のプールでは一足早いオカルト研究部限定のプール開きが行われていた。生徒会長であるソーナの「プール清掃をする代わりに先にオカ研でプールを独り占めしてもいい」という依頼を履行した時のご褒美である。

もっともダイスケは「せっかく水が濁っているんだから釣り堀にするべきだ!!」と提案したが聞き入れてもらえるはずもなく、涙ながらにすべてのプールの汚れをこそぎ落としていったのだが。

 

「……でも、ごめんなさい。ダイスケ先輩を私の泳ぎの練習に付き合わせちゃって。マサノ先輩達の相手もあるのに。」

 

「いや、あいつはあいつで妹の相手もするし、なんだかんだでゼノヴィアとも気が合うみたいだし。」

 

ダイスケの視線の先にはゼノヴィアと泳ぎのスピード勝負をしているエリザベスの姿があった。同じ海外からの留学生ということもあるが、どこかしらお互いに近いシンパシーを感じているらしく意気投合していた。無論、マリアはプールサイドでサンオイルを持って姉の体をまさぐりまくるチャンスをうかがっている。こういうところは本当に期待を裏切らない。

 

「いつかはあっちの方は止めないといけないと思いますよ。」

 

「うん、っていうかあいつの相手するのはもう疲れてるんだよ。今週に入ってまた鍋ひとつ壊したし。一方的に敵意はむけられるし。どんだけ姉ちゃんのことが好きなんだよって、なぁ?」

 

「そう……ですね。」

 

一瞬、小猫は《姉》という単語を聞いて複雑そうな表情を見せるが、ダイスケはあえて気づかないふりをしていた。恐らく彼女も木場のように何らかの複雑な事情を抱えているのだろう。だが敢えてここで問い質す事ではないだろうし、本人としては触れてほしくはないはずだから何も言わない。

そんなダイスケは小猫の手を取って何をしているのかと言えば、先に本人が言った通り泳ぎが苦手な小猫のバタ足練習に付き合っているのだ。本当はこれはリアスがイッセーに頼んだことだったが、アーシアも泳ぎが苦手だったこととイッセーが「何かあったらおれは殴られる」と小猫に恐怖心を抱いていたが故にダイスケに任されたのだった。

 

「うん、この調子ならビート板使っても大丈夫だな。」

 

「だ、大丈夫でしょうか?いきなりビート板なんて……。」

 

「心配すんな、俺がついてるからさ。」

 

「はい、お願します!」

 

そんなやり取りをするイッセーとアーシアの様子は実に微笑ましい。だが、こんなあどけない顔をして家ではリアスとイッセーを巡って壮絶な戦いを繰り広げているのだから女という生き物はわからない。ダイスケの身近にいる異性が「猛烈アタック系」、「姉一筋」、「全くその気なし」と特殊なものだから余計に想像つきにくかった。

まさか今この手を引いている小猫も好いた男が現れたら積極的に攻めてくるのだろうかと想像したが、やはりいまいちピンとこない。

 

「まぁ、似合わないわな。」

 

「……今とても失礼な想像をされた気がしますが、状況が状況なので黙っておきます。」

 

若干機嫌が悪くなった小猫の手を引きながら、ダイスケは恐る恐る後ろ歩きでプールの中を突き進む。イッセーが恐れていたのはこのいつ暴力が襲ってくるかわからない緊張感か、と思っているうちにいつのまにか25mプールの端まで来てしまい、ダイスケは背中をぶつけてしまう。

 

「うわっと!」

 

その衝撃に驚いたせいか、ダイスケは手を放してしまう。すると慣性の法則が働いて小猫の体がダイスケにぶつかってしまった。

 

「きゃ……!」

 

不意に起きてしまった水の上での事故に、小猫は一瞬恐慌に陥ってしまう。慣れない環境下であることが余計に精神を乱し、水の事故で最も恐ろしいパニック状態に陥りかける。

だが、溺れることもなく小猫の体はダイスケによっていつの間にか抱きしめられていた。

 

「おお、悪い悪い。後ろにまで気が回らなかったんだ。」

 

しかし、すぐさまいくら助けるためとはいえ自分がどれだけ大それたことをしたかに気付いてすぐさまその小さな体を引き離す。溺れかけたことのショックが大きかったのか、小猫は黙ったまま。気まずい空気がふたりの間を支配する。

とにかく殴られるのだけは御免被りたかったので、ダイスケはゆっくりと距離をとって様子を窺うが、一向に拳を振り上げる様子はない。

 

「お、おい……。」

 

問いかけにも応じずに小猫は無言でそっぽを向く。

 

「あの……だいたいコツはつかめましたから、あとは私もビート板を使ってアーシアさんと練習します。」

 

「……いいのかよ?」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

そう言って一旦彼女はプールから上がり、ビート板を取りに行く。珍しく小猫が手を上げなかったことに驚いてはいたが、それ以上の感想もなく自分を呼ぶエリザベスの声のする方へ泳いでいく。

そのせいか、小猫が口角ををわずかにあげていたのには気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤー、ジャパンのプールは良かったですネー!イギリスだと地方の学校じゃプールなんてないから、すごい贅沢をしている気分だったヨ!」

 

「懐かしいです。小学校の時は他の私立の学校までバスで一時間かけていったものですね、お姉さま……。」

 

イギリス出身の二人にとって貴重な体験となったプールを終えて、オカルト研究部の面々は着替えも済ませて帰宅の途に就く。

一時間毎に入れた休憩時間の間更衣室でなにやらイッセーやゼノヴィア達が一悶着を起こしたり、サンオイルを塗ろうとしたイッセーを巡ってリアスと朱乃が本気で戦おうとしたり、その間ダイスケが上空に気配を感じて虚空をじっと見つめていたりといろいろあって非常に疲れていた。

 

「帰ったらちょうどミッディ・ティーブレイクの時間ネ。……今日は暑いから、邪道だけどアイスティーでも淹れるヨ。」

 

「ほう、本場イギリス人の入れるアイスティーか。同じイギリス人の知り合いのと飲み比べてみたいものだ。」

 

校門の外から聞こえてくる少年の声。そこにはイッセーやダイスケと同い年ぐらいの白髪の少年が立っていた。

その姿にはイッセーもダイスケも見覚えがなかったが、どこかで見知ったような雰囲気がある。

 

「あ、白龍皇ネ。」

 

エリザベスの実に緊張感のない言い方のせいで、この場で最も因縁深い関係であるはずのイッセーは反応が遅れてしまった。そして脳内の整理がついたとき、思わず一歩後ずさってしまう。

 

「なんだ、赤龍帝の方は気付いてくれなかったか。彼女の言うとおり、俺は白龍皇。名はヴァーリという。」

 

本人の名と宿す神器の名を聞いたとき、イッセーの中で生まれた意識が赤龍帝の籠手に伝わる。その感覚が蓄積された因縁を刺激して痛痒感を伴って左腕が反応していた。

あれだけ手も足も出なかったコカビエルを、ダイスケが既にある程度のダメージを与えていたとはいえ反撃する機会も与えぬままに秒殺した男である。そんな男が目の前にいるという事実に場の緊張の度が高まるが、共に行動した経験がある。エリザベスは落ち着き払っている。

 

「何しにきたネ。イッセーに手を出すなら別にいいけど、ダーリンに手を出すなら承知しないヨ。」

 

「それはそれでおもしろそうが、今日は俺の将来のライバル君の様子を見に来ただけさ。だから別にみんなそこまで緊張しなくていい。」

 

本人はそう言うが、とてもとても信じられたものではない。

 

「だけどふいに気が変わって赤龍帝の彼に何かするかもしれない。たとえばここで呪いの一つでもかけてみたり……。」

 

そう言いながらヴァーリは人差し指をイッセーに向けるが、ほんの一瞬のうちに木場とゼノヴィアに剣で制止させられた。その喉元に向けられた刃からは凄まじい剣気が放たれている。

 

「何をするつもりかわからないけど、流石にこれは冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

「ここで赤龍帝との決戦を始めさせるつもりなら全力で止めさせてもらうぞ、白龍皇。」

 

怒気を含む木場とゼノヴィアの声。だが、ここまでの殺気を向けられてもヴァーリは平然としていた。

 

「やめておけ。震えているじゃあないか。」

 

言うとおりだった。

二人の剣は、目の前の強者を相手取ることへの恐怖とプレッシャーで細かく震えていたのだ。

 

「いや、震えているからと言って恥じることはない。それは君もだよ、赤龍帝。自分より各上の相手に恐怖を抱けるのは今の己を知っている証拠。そういう者こそ強くなれる。コカビエルごときに手を焼いた今の君たちじゃあ俺には勝てない。でも―――」

 

ヴァーリが視線を移した先にはダイスケ、エリザベス、マリアがいる。

 

「怖いのは君達みたいに「死んででも相手を潰す」っていうスタンスの奴だ。怪獣をその身に宿す者はみんなそういうものなのか?君らも知ってるっていうアーロン・ブロディもそういう感じだった。だからお互い本気になる前に止めてしまったよ。」

 

これも言うとおりだった。

ダイスケに至っては自分がヴァーリより劣っているということを先刻承知の上で、もし彼が身内に手を出そうものなら死んででも片足ぐらいはもいでやろうと考えていたのだ。そして何より、教会側の人間であるアーロンが堕天使側にいるヴァーリとの接点を知り、そしてなぜ一緒にいたかが納得できた。

お互いの力を知っていたから争うよりも先の問題解決に力を合わせた方が効率がいいと考えていたのだろう。確かに不毛な争いになるよりもそちらの方がお互いの得ということか。

 

「だとしても、だ。それでもまだまだこの世界の強者には届かない。あのサーゼクス・ルシファーだって十本の指には入らないんだから面白い。だが、それでも頂点に立つ者はいる。不動の存在が。」

 

「―――まさか自分だっていうんじゃないよな?」

 

イッセーの問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「まさか。そこまで俺は傲慢じゃないさ。いずれわかることだ……リアス・グレモリー、彼らは貴重な存在だ。時が来るのに備えて十分に育ておくといい。」

 

そのヴァーリの言葉の向かう先には、その存在を察知して文字通り飛んできたリアスの姿があった。そして、どうしていいかわからずに狼狽しているアーシアを除いた全員が臨戦態勢をとっている。

 

「白龍皇、どういうつもり?堕天使とつながっている以上、これ以上の接触は―――」

 

「《二天龍》に関わったものはみんなろくな生き方をできていない。確認できる数少ない怪獣をその身に宿した者達もまともな人生を送れなかった。―――貴女はどうなるんだろな。」

 

「―――っ。」

 

何もかも見透かしたかのようなヴァーリの言葉に、リアスは息を詰まらせる。

 

「君だって他人事じゃないぞ、怪獣王を宿す者。力の由来はアザゼルから聞いたが、いずれその力は君の身の回りにいる大切な者にも影を落とす。君が今いるこんな穏やかな所にも、な。」

 

「……お前がその影を落とすのか?」

 

「俺とは限らない。だが、覚悟は固めておくといい。赤龍帝共々、力を蓄えておけ。……まあ、今日がその時ではないのは確かさ。退屈しのぎにここへきていただけだったが、君達に会ってみることができて良かったよ。」

 

そう言いたい事全てを言い尽くすと、ヴァーリは踵を返してこの場を立ち去って行った。姿が見えなくなるまで誰も張りつめた糸を緩ませることはできなかった。それどころか、胸に去来する大きな不安を皆が隠しきれていない。

忌諱したい大きすぎる濁流の中に、放り込まれた気がした。




それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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