ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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本当はもっと長かったんですけど、マイ文字制限ルールでここまでです。


VS26  ハーフヴァンパイアでデイウォーカーと言えば個人的にはブレ○ド

公開授業の翌日の放課後。

オカ研一同は旧校舎一階にある「開かずの教室」と呼ばれる部屋の前にいる。

 

「みんな、ちゃんと装備品のチェックはしたか?ここのモンスターは一階から強いのがいるから気を引き締めていくぞ。」

 

「いや、それシ○ンのあかずの間ね。俺もアークド○ゴンに何回もこんがり焼かれたけど。」

 

ダイスケのボケに律儀に相手するイッセーだが、緊張が解くことはない。目の前の「開かずの教室」のドアには「keep out!」と記されたテープが何重にも張られている。それどころか明らかに邪悪的な何かを封印する為としか思えない呪術的な刻印までいくつも刻まれている。

その近寄りがたい雰囲気を放ちまくっている扉の向こうに、オカ研メンバーが会おうとしている人物がいる。

もう一人の僧侶《ビショップ》だ。

ダイスケが聞いたところによると、持っている力を制御できないからという理由で眷属であるにもかかわらず、四代魔王はおろか大王バアル家、大公アガレス家、そして並み居る悪魔のおエライ方から危険であるとして厳重な封印がなされていた。

だが、これまでのグレモリー眷属(ダイスケ含む)のこれまでの戦歴が評価され、それが解禁されたというのだ。それにしても、とダイスケは思う。

先のフェニックス戦もコカビエル戦も、どちらも主たるリアスの一大事であった。その緊迫した状況にも投入できない程の戦力とはいかほどのものなのだろうか。それに、悪魔の駒の事もある。イッセーを転生させたとき、赤龍帝の持つポテンシャルが理由で兵士の駒を八つ、ありったけ消費したのだ。であるのに、その封印された眷属は何故アーシアが僧侶となる駒を残したのか。

その謎を秘めたまま、イッセーとアーシア、そしてダイスケが見守る中でリアスと朱乃は一つづつ封印を解いていく。ついには「keep out!」のテープまでも取り払われて、封印は完全に取り払われた。

 

「あの……ここにいるもう一人の僧侶って、普段何しているんですか?」

 

気になったイッセーがリアスに尋ねる。

 

「一日中、ずっとここに居るわ。一応、深夜には自動的に封印が解除されて外にも出歩けるようにはしているのだけど、本人がそれを拒否しているの。」

 

「それっていわゆる引こもり?」

 

ダイスケが思わず出したその言葉に、リアスがため息をつきながら頷いた。

 

「ですが、眷属の中では一番の稼ぎ頭なんですよ。」

 

朱乃のそのフォローに、イッセーは衝撃を受けた。なにせこの部屋から一歩も出ていないにも拘らず、契約相手の満足度ナンバーワンを誇るイッセーよりも実績があるというのだから。

 

「え、デイトレでもやってるんですか?」

 

ネットで稼ぐ手段としてダイスケがすぐに思いつくのはこれである。あとはブログなり動画投稿サイトで広告費を稼ぐという手段もあるが、株式投資に比べれば微々たるものだろう。

 

「まあ、近いわね。インターネットを利用した契約を結んで、ネット越しで依頼を受けているのよ。私たち悪魔と直接面を合わせたくないっていう依頼主もいるから、あの子はかなり重宝されているのよ。」

 

リアスの声には、まだ見ぬ僧侶への若干の誇らしさが含まれる。悪魔の世界も一昔で言うところのIT化が進んでいるということなのだろうか。

イッセーがそんな感想を抱く間にリアスが固く閉じられていた扉を開いた。

 

「イヤァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

とたんにとんでもない絶叫が廊下に響き、イッセーは思わず耳を塞ぎ、ダイスケは何事かと身構える。

だが、リアスと朱乃は驚くこともなく共に中へと入っていく。

 

「ごきげんよう。元気そうでよかったわ。」

 

「こ、こ。こんな時間に何事なんですかぁぁぁ……?」

 

中が暗すぎるのでよくわからないが、その声から女子らしいということはわかる。

 

「あらあら、封印が解けたのですよ?もう自由にお外に出られるのです。さあ、ここから出ましょう?」

 

朱乃が優しく声をかける。誰からでも分かる、その優しく接しようという姿勢が現れている。

だが。

 

「い、い、い、い、嫌ですぅぅぅぅぅぅうううううう!!!ずっとここにいますぅぅぅぅぅうううううう!!!!!お外いやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!他人いやぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」

 

「……いくらなんでも重症過ぎないか?」

 

ダイスケは前にテレビで引きこもりを特集した番組を見たことがあるが、ここまで酷くはなかった。何か理由があってここまで酷くなったのだろうことは予想できるが、それにしてもこれは専門家相手でも更生できないのではないかと思えてしまう。

 

「兎に角、部長たちのとこまで行こう。」

 

イッセーのその一言が合図となって、残りのメンバーも真っ暗な部屋の中へ足を踏み入れる。

だが、あまりにも暗すぎるので機転を利かせた木場と小猫が締め切られているカーテンを開ける。そのおかげで日光が室内を照らし、中の全貌がようやく見て取れた。

中は意外にもファンシーに飾られており、初めて入る四人は意表をつかれた。

壁紙や家具は花柄やロココ調の調度品で彩られており、まさに「女の子の部屋」を体現するかのようだった。

だが、その中で異彩を放つものが一つ。洋風の棺桶だ。

すると、部屋の奥にリアスと朱乃の姿がある。おそらく、そこに件の僧侶がいるはずだ。

その予想は当たり、壁際に小柄な人物がへばりついているのがわかる。

 

「女の子……ですか?」

 

アーシアの言うとおりだった。

ショートにしたブロンドヘアーに赤い双眸。

まるでフランス人形のような美少女が床にへたり込んで震えていた。

 

「な、なんちゅう美少女!!!」

 

イッセーが声を大にして言うのも無理はなかった。

アーシアとは違うベクトルの守ってあげたいタイプの小動物キャラが、目の前で涙目になって震えているのだ。その手の偏執家でなくともグッとくるものがある。

どうやらそれは性別問わず魅力的に感じるようで。

 

「Wow、これまたドールみたいにcuteな娘ですネ!」

 

「まあ、お姉さまの足元にも及びませんけどね!」

 

「まあ、俺からしたらお前よりかよっぽどこの娘の方が可愛いのは間違いないけどな。」

 

口では憎まれ口を叩きつつ、実際はダイスケもイッセーと同じくらい喜んでいた。彼にとっての後輩と言えば小猫とマリアがそれにあたる。だが、二名とも後輩という割には彼を頼ったり懐く気配が無いのだ。最近になって小猫の態度が比較的軟化しつつあるにはあるが、それでもまだ態度は硬いし、マリアに至っては愛しの姉を取られまいと決して隙を見せようとはしない。

むしろこの二人よりも同年齢のアーシアの方がよっぽど後輩らしいキャラクターだ。無論、彼女はイッセーにべったりであるため「年下の自分を頼ってくれそうな後輩の女子」という存在はくしくもイッセー、ダイスケの双方にいないタイプの人材だ。

だからこそ、この後のリアスの言葉にはイッセーとダイスケの心を粉みじんにするだけの威力が必要以上にあった。

 

「……喜んでいるところに水を差すようで悪いのだけど、この子は立派な男の子よ。」

 

その非情な一言で二人の心臓は止まった。

 

「止めを刺すようですけども、このギャスパー・ヴラディ君は正真正銘の男の子です。なんでしたら、生徒名簿でもお見せしましょうか?」

 

朱乃のその更なる一言が、フリーズした馬鹿二名の心臓に深く突き刺り止めを刺す。

 

「あ、あの……イッセーさん、ダイスケさん、お二人とも大丈夫ですか?」

 

アーシアが心配して聞いてくるが、そんなの一言も耳に入ってこない。なんなのだろう、この裏切られたわけでもないのに手ひどい裏切りを受けたような気持ち。

例えるなら、夏野菜の料理を作るからと言って畑で野良仕事をさせられ、その一ヶ月後に収穫に来たと思ったら「皿がないから」という理由で皿を焼きに行かされた上に親友に無理言って作ってもらったパイ生地を2回も駄目にした上に実はそれがピザ生地だったと十年後に明かされたようなものだ。

 

「「いやいやいやいや……どう見ても女の子じゃないっすか。」」

 

最後の抵抗とばかりに二人の声がハモる。

 

「女装趣味があるんですの。」

 

朱乃の言葉がトドメとなり、そしてヒビが入った二人のハートが打ち砕かれた。

 

「「ふ、ふ、ふ、ふ、巫山戯んなァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃッッ!!ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁああああい!!!!!」

 

狭い室内に響く三人の絶叫。

悲しいかな、そのギャスパーの悲鳴はまさに女の子の悲鳴だった。そのソプラノヴォイスで馬鹿二匹の心はまたも蝕まれた。

 

「「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」

 

仲良く揃って頭を抱えて絶望に打ちひしがれる馬鹿二匹。

 

「なんでだ……なんでこんな完璧な美少女が野郎なんだ……。下手したらそこらの女の子よりよっぽど可愛いじゃないか……。それなのに股間にチ○コが付いているだなんて……。」

 

「……イッセー先輩、卑猥な発言はやめてください。」

 

「この世は無慈悲だ……神はいないのか!?って死んでいるんだった……。畜生……頼むから人生をやり直してくれ……オヤジの金○袋にいるあたりから……。」

 

「ダイスケ君。気持ちはわかるけど、それってギャスパー君の存在そのものを否定してるから。」

 

イッセーとダイスケの理不尽極まりない言葉にツッコミを入れる小猫と木場。だが、阿呆二匹の絶望の吐露は続く。

 

「女装が趣味っていうのがさらにひでぇ!!!外見がもともとそうならしょうがないけど、さらにそれを趣味にしているあたりに世界の悪意を感じるよハレ○ヤ!!!」

 

「大体、人に見せるからこその女装だろうがよ……。それなのに引きこもりって、何のための女装なんだよ!!!ロー○・○ーラじゃないんだよ!!!!」

 

イッセーとダイスケの一言に、ギャスパーはこれまた可愛らしい声で反論する。

 

「だ、だって……女の子の服の方が可愛いんだもん。」

 

「「“もん”とか使うなやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」」

 

しまいに二人は部屋の隅で体育座りで世界に対する無言の反抗をみせ、同学年のメンバー総出で宥めに入った。

 

「イッセー君、なんだったら僕が慰めるよ?」

 

「いやだ!お前だけはいやだ!!!」

 

「ダーリン、そんなにショックを受けたんだったら今夜あたり添い寝してあげるヨ?」

 

「いいです。どうせこの前みたいに俺の貞操狙ってくるから。」

 

「こんなことの為にお姉さまが出張る必要はありません、私の鍋料理で十分です!」

 

「それ遠回しに俺に絶望したまま死ねって言ってる?」

 

「……何なんですか、この人たちはぁ?」

 

部屋の隅で固まっている、彼にとって見慣れぬ六人を指してギャスパーが尋ねた。

 

「最近眷属になった子達と協力者よ。自己紹介の場は後で設けるから。」

 

リアスに振られて者六者六様に「よろしく」という。無論、沈んでいる二人は力なくだが。

 

「ま、また人が増えたぁぁぁあああああ!!!知らない人いやぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

これは引きこもり以前に極度の対人恐怖症というやつなのではないか、とダイスケは思う。やはり、制御できない力というのが関係しているということなのか。

 

「さあ、お願いだから外へ出ましょう?もうあなたを閉じ込める必要なんてないのだから。」

 

「いやですぅぅううううう!!!僕が外の世界に出るなんて無理なんだぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!どうせ、迷惑をかけちゃうだけだよぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

主であるリアスの懇願にもかかわらず、ギャスパーはそれを拒む。元々眷属思いのリアスだ。彼を封印していたのだって、本心でないのは眷属に関わって日の浅いイッセーとダイスケにも分かることだ。

行き場のない怒りも相まって、二人はギャスパニー対する苛立ちが募る。ついには二人は立ち上がり、駄々をこねるギャスパーの腕を掴み連れて行こうとした。

 

「ほら、部長が外に出ろって――――」

 

「ヒィィィィィィ!!!」

 

イッセーの言葉とギャスパーの悲鳴が重なったその時、イッセーの視界が一瞬で白く染まる。

 

「あ、あれ?」

 

すると、いつの間にやらイッセーの掴んでいたギャスパーの腕の感触がない。見ればギャスパーの腕を掴んでいるのはダイスケだけ。なのに、一緒に腕を掴んでいたイッセーのみいつの間にか腕を離している。

 

「おかしいです。何か今一瞬……。」

 

「……彼に何かされたのは確かなようだ。」

 

その謎の現象に、アーシアもゼノヴィアも驚く。しかし、彼を知っているメンバーは「またか」といった具合にため息をつくだけ。つまり、その現象の正体を知っているというわけだ。

だが、それに全く動じていない、というか気づいていない人物が一人。

 

「……何、お前らずっと固まってたの?」

 

ダイスケだけがその異変に全く気付いていない。

 

「な、なんなんですかあなたぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!?????」

 

現象を起こしたであろうギャスパーも驚いている。

 

「ダイスケ、あなた……!」

 

ダイスケだけが何が起きたのか理解できてない様子をみて、リアスはこの現象がなにを表しているのかが理解していた。

 

「部長、これはもしかして……。」

 

「ええ、無効化したんだわ。」

 

リアスと朱乃の間だけの短い会話だったが、古参メンバーはそれだけでどういうことなのか理解したようでダイスケに驚異の眼差しを向ける。

 

「……部長、一体何が起きたんですか?」

 

全くついていけないイッセーが我慢できなくなってリアスに問う。

 

「ギャスパーはね、興奮すると無意識のうちに視界にある全ての物体の時間を一定時間停止させてしまう神器を発動させてしまうのよ。」

 

時間停止。

あんなボスキャラやそんなボスキャラが使うことでチート能力の代表選手のような能力。そんな反則みたいな能力を持つ神器を目の前にいる女装野郎が持っている。リアスから知らされたその情報にイッセーは戦慄した。

そんな超強力な能力を制御できないのであれば大公や魔王に封じること命じられるのも納得だ。ただ、能力を使って外に逃げずに部屋の中にとどまろうとするあたり、そっちのほうが重症のようだが。

その危険物といってもいいギャスパーをリアスは後ろから優しき抱きしめ、イッセーたちに言う。

 

「改めて紹介するわ。この子はギャスパー・ヴラディ。私の僧侶で、一応一年生。そして……転生前は人間と吸血鬼のハーフよ。」

 

ダイスケは気づく。

ああ、コイツも面倒なもの背負ってるなぁ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「“停止世界の邪眼《フォービドン・バロール・ビュー》”?」

 

イッセーの問にリアスが頷いた。

 

「ええ。神滅具ほどではないけれど、非常に強力な神器よ。その威力は身をもって体験済みね。ダイスケ以外は。」

 

「なんつー厨二ネームだよ。もうその設定でライトノベル一本書いちゃえよ。」

 

結果的に仲間外れになってしまったダイスケが不貞腐れる。

 

「大体、コーカソイドで吸血鬼、しかも時間停止ってお前はどこのDI○様だよ。悪のカリスマでもなんでもないくせに。」

 

「僕に言わないでくださいィィィィィ!!!!好きでこうなったんじゃあないんですからぁぁぁぁぁぁ!!!!それに僕はイギリス出身じゃなくて東欧の出ですぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

早速ギャスパーはダイスケのおもちゃになっている。しかも、ネタについてきている上、反応もいいとあってこのポジションは当分変わらないだろう。

 

「だけど、時間停止って反則級の能力じゃないですか。」

 

イッセーの抗議めいた言葉にリアスが応じる。

 

「確かにね。でも、あなたの持つ赤龍帝の倍加や白龍皇の半減の力も十分反則よ?」

 

「うっ……確かにそうですよね。でも、それを無効化したダイスケは一体なんなんですか?」

 

「それはダイスケが宿しているゴジラの持つ力が原因ね。例えば、二天龍の片割れである白龍皇の半減の力は強力だけれど、高位の神仏クラスになると力が通用しないと聞くわ。」

 

「……高層ビルの火災に普通のポンプ車じゃ水を掛けられないのと一緒と考えればいいわけですか。」

 

「それが一番わかりやすいわね。この場合ポンプ車は停止世界の邪眼、邪眼が起こす固有物に対する時間停止は撒かれる水、ゴジラが火事を起こす超高層ビルって感じね。停止世界の邪眼の能力が「全宇宙規模の時間停止」、つまり消火用の消防ヘリだったら火事を消すこともできるでしょうけどね。」

 

「ですが、問題はそれを制御できないという点。悪魔の上役からも問題視されるほどの危険と判断されていたのです。」

 

朱乃の追加説明を聞いて、イッセーはダイスケを横目で見ながら考える。

内包する力のみで時間停止という創作物ではチートに値する能力を打ち消してしまうというのは確かに空恐ろしい。先日サーゼクスやセラフォルーが言っていたことも今なら納得できるというものだ。

 

「だけどスゴイじゃないですか。そんな強力な神器を持つ奴を眷属にするなんて。でも、どうして僧侶の駒一つで済んだんです?」

 

それはダイスケも気になるところだ。疑問に答えるべく、リアスは手元に一冊の本を中に出現させ、あるページを見せる。ダイスケやエリザベスも覗き込むページに書かれていたこと、それは悪魔の駒に関する記述だった。

 

「えーと……『“変異の駒《ミューテーション・ピース》”についての項目』?」

 

そのページの見出しを読んだイッセーは、初めて見る単語に首をかしげる。

 

「通常の駒と違って、明らかに複数の駒が必要な転生体を一つで済ませたりする、特異な現象を起こす駒だよ。」

 

「それを部長が持っていて、ギャスパー君に使ったというわけですわ。」

 

木場と朱乃が答えた。イッセーが続けて開かれたページを読むと、上位悪魔の十人に一人は持っている事、本来は悪魔の駒のバグなのだが開発した本人が「それも一興」とそのままにした結果とも書いてあった。

 

「でも、問題はギャスパーの才能よ。」

 

リアスの一言にイッセーが尋ねる。

 

「低いから制御できないんですか?」

 

才能が低いから制御できないというのなら納得だ。だが、リアスは首を横に振る。

 

「いいえ、高すぎるのが問題なの。この子自身の神器に対するポテンシャルは類稀なものよ。でも、無意識に神器の力が高まっていくみたいで日毎に力が増しているの。上の話だと、近いうちに自然と禁手に至る可能性があるということよ。」

 

ただでさえ危険と言われる禁手。もしそれが制御できない者が至ったとしたら……。それも時間停止能力、目も当てられない結果になるのは火を見るより明らかだ。

イッセーの驚く顔を見て、リアスも困り顔になる。

 

「まあ、危うい状態というのは確かね。だけど、先の二戦で私の評価が認められたから、今ならギャスパーを制御できるというふうに判断されたの。幸い、禁手に至っている神器所有者が二名もいるし、指導もできるだろうということよ。」

 

「……うぅ、ぼ、僕の話なんかして欲しくないのにぃ……。」

 

新たな後輩にどのように接しようかと真剣に思い悩んでいたのに、そんな声が来たのだからイッセーは思わずイラッときた。そして彼は無言でそのダンボール箱を蹴る。

 

「ぴぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

ギャスパーである。外界が怖いとのことで、自室から持ち込んだ大きなダンボール箱に入り込んでいるのだ。その様子を見たダイスケはあることを思い出す。

 

「この世アレルギーみたいだな。どっかの吸血鬼ヒーローみたいな。」

 

なのにやっていることは伝説の傭兵。いっそのこと蛇でもキャプチャーして喰わせてやろうかとも思ってしまう。

 

「能力的には朱乃に次ぐくらいのポテンシャルなのよ。ハーフとは言え由緒正しい吸血鬼の家柄だし、神器も人間の部分で手に入れている。勿論、吸血鬼の能力も備えているし、人間の魔法使いが扱う魔術にも秀でているわ。本来なら僧侶の駒1つで済まない傑出した才能の持ち主ね。」

 

ハイブリットで高性能。なのに本人がそれを使いこなせていないとなるとと非常にもったいない話である。

 

「あ、でも日光は?吸血鬼って日光苦手なんじゃあ……。」

 

「デイライトウォーカーなんだろ。ほら、ネ○まにもいたじゃん。あとわかりやすい例でいうと某喧嘩番長のアメコミヒーロー。」

 

イッセーの疑問がダイスケの説明で即刻解決した。相変わらずわかりやすい説明(ただしイッセーのみ)だ。

 

「日光いやぁぁぁぁぁぁ!!!!太陽なんてなくなっちゃえばいいんだ!!!!」

 

「おい、そこの女装吸血鬼。いますぐ全世界のお百姓さんに謝れ。」

 

そう言ってダイスケは足元のダンボールに鉛筆で穴を開けていく。気持ちはわかるが、ここまできたらただの嫌がらせだ。

日光が差し込んだせいか、「ひいいいいいいい!!!!」とギャスパーは悲鳴を上げるがダンボール箱の外には出られない。悲痛なジレンマがギャスパーを襲う。

 

「でもさあ、おまえ授業に出てないんだろ?お前はここの生徒なんだし、力も克服してクラスにも打ち解けなきゃ。」

 

イッセーがギャスパーを慮って言うが、当の本人は喚くだけ。

 

「嫌です!!!僕の世界はこのダンボールの中だけで十分です!!!外界の空気と光は僕にとっての外敵なんです、この世アレルギーなんです!!!箱入息子ってことで勘弁してくださぁぁぁぁぁい!!!!!!」

 

「お前、どこの吸血鬼ヒーロー!?」

 

「やっぱそう思うよな。あっちは序盤に克服したけど。」

 

ダイスケが思わず出した言葉にイッセーが共感する。

やはり考えることは一緒のようだ。

 

「あ、もう一つ。コイツは血を吸わないんですか?吸血鬼なんでしょ?」

 

イッセーの疑問にリアスが答えた。

 

「ハーフだから、完全な吸血鬼と違ってそこまでの吸血衝動はないの。十日に一度、輸血用の血液を補給すれば済むの。」

 

「血、嫌いですぅぅぅぅぅぅぅ!!!!生臭いの嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!レバーも大ッ嫌いですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

「「お前、もう吸血鬼やめろ!!!向いてねえわ!!!」」

 

「……ヘタレヴァンパイア。」

 

イッセー、ダイスケ、そして小猫の痛恨の一撃。

やはり、一年生どうしなので遠慮していないというということなのだろうか。

とすれば、イッセーは上級生なのに遠慮されていないということになる。

 

「取り敢えず、私はちょっと用事があるから、その間だけでもギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は会談の会場の打ち合わせがあるから。それと祐斗、お兄様があなたの禁手について詳しく聞きたいそうだからあなたもついてきて。」

 

『はい、部長。』

 

「ういーす。」

 

勿論、最後のやる気のない返事はダイスケのものだ。

 

「じゃあ、イッセー君、ダイスケ君。悪いけど、ギャスパー君のことよろしくね。」

 

「おう。まあ、アーシアに小猫ちゃん、ゼノヴィアも付いてるし、最悪ダイスケが何とかするって。」

 

「おう、俺任せか。」

 

そうして、三人は部室から出ていく。問題はこのダンボールヴァンパイアだ。とりあえずダイスケはエリザベスに聞てみる。

 

「なぁ、エリー。何かいい考えないか?一応魔術師でヒーラーなんだろ。」

 

「ウーン、そうはいっても流石に畑違いネ。ヴァンパイアの症例なんて勉強したことないし、これは心理療法の問題ヨ。」

 

医者と一口に言っても、内科の医師が外科手術をしようとしても専門外の知識で患者の人生を預かることはできない。それは治癒魔術についても同じことで、内科的な薬学を学んだエリザベスでも心理療法は扱えない分野だ。

 

「ショック療法というのはどうだ?よく記憶喪失の治療とかでやるだろう。」

 

「ゼノヴィアさんよ、そいつはまさか漫画で呼んだとかじゃないだろうな。」

 

「よく解ったなダイスケ。この前イッセーから借りた野球漫画で、記憶喪失になった野球部部長にパイルドライバーをかまして記憶を一つ一つ取り戻すというのがあったんだ。それと同じ要領で私のデュランダルでたたっ斬れば……。」

 

「間違いなく『悪魔・即・斬』だよ!仕舞っとけ!」

 

ダイスケに突っ込まれてゼノヴィアは渋々亜空間から引き抜こうとしたデュランダルを収める。

 

「でもショック療法っていうのはかなりマズいと思いますよ。方法はいろいろありますが、今ではよほどのことがない限り医師は薦めませんし。」

 

珍しく真面目なマリアの言葉に全員が驚いたが、これは本当の話だ。

昔の映画でも記憶を失って「自分は金星人だ」と名乗る某国の王女の記憶をよみがえらせるために電気ショック療法を行うシーンがある。これは当時としては確かに最先端の精神疾患治療技術だったが、現在では副交感神経の乱れ、さらに認知障害の発症というリスクが明らかになってきたためにこれを患者に最適の治療法として薦める医師は今では数を減らしている。もちろん現在では技術は進歩しており、直接的な電気通電ではなく渦電流による経頭蓋磁気刺激法だったり無痙攣電気痙攣療法というのもある。

さらに電気ショック以外にも空腹時にインスリンを注射することで強制的に低血糖化させてショックを与えるインスリンショック療法や、それこそマンガのように頭部に衝撃を与えるなんてのもある。

だが、負荷がかかっている肉体と精神にショックを与えるということは、確かに眠っていた何かを目覚めさせるのではという期待も抱くだろうが非常に危険な行為だ。プロである医師ですら慎重を極めるものを、患者に対して責任を持てない素人が軽い気持ちで手を出してはいけないのである。

 

「だとしたら……何が良いんでしょう?」

 

フィジカルな傷は癒せても精神的なものは癒せないアーシアも頭を悩ませる。となると先ほどショック療法を否定したマリアに全員の視線が集中するのは必至だった。

 

「……外に連れ出しましょう。最初は校内でだけでもいいんで、外界に慣れさせましょう。外界リハビテーションです。万が一、彼が時間を止めて逃げようとしてもダイスケさんがいますし。」

 

「そうかそうか、今日の俺は吸血鬼用のリードなんだな。」

 

文句を言いつつも、ダイスケは「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」と悲鳴を上げる段ボールを肩に担ぐ。もちろんギャスパーはささやかな抵抗としてじたばた暴れてみたものの、体格と腕力の差で何の効果も表れていない。

 

「で、外連れ出してどうするよ?」

 

「……今日、ちょうど森沢さんの依頼が入ってるから一緒に連れてくか。あの人はミルたんや北村さんみたいにアクが濃すぎる人でもないからな。」

 

森沢とはイッセーと小猫の常連客である。まだイッセーが悪魔になりたての頃に小猫のヘルプで派遣されて以来懇意にしてくれている人だ。イッセーが言うとおりミルたんや北村に比べれば十分一般人の範疇に収まる人だからギャスパーに過度の刺激を与えることもないだろう。

 

「だがそれまでには時間があるんじゃないか?」

 

「うん、まあ確かに……。」

 

ゼノヴィアに尋ねられ、腕時計を確かめながらイッセーは答える。

 

「なら丁度いい。少しでも時間があるのならこいつを鍛えよう。仲間である以上、軟弱は好まん。悪いがエリーとマリーは大蒜を、アーシアは十字架と聖水用意してくれないか?」

 

そしてゼノヴィアは再び亜空間からデュランダルを引き抜き、肩に乗せて段ボールの中のギャスパーに射抜くような剣気を浴びせた。

 

「表に出ろ。なぁに、殺しはしない……ひとっ走り付き合ってもらおうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は夕刻。旧校舎の前を二人の少女が追いかけっこをしている。

 

「いやー、女の子同士の追いかけっこって、見てていいもんだね。」

 

「いや、まったく。」

 

ダイスケの言葉にイッセーが賛同する。片方はゼノヴィア。もう片方は金髪の美少女。普通なら百合的なシュチュエーションでグッとくる人もいるのだはないだろうか。

 

「ただ、問題は片方が女装野郎で。」

 

「もう片方がデュランダルを振り回しているっていうことなんだけどな。」

 

二人の言うとおりだった。

ゼノヴィアのモットーが「健全な精神は健康な肉体から」とのことで、とりあえず追い掛け回して走り込みをさせて体力づくりをさせるつもりのようだ。。

 

「ほらほら、滅されたくなかったらひたすら走れ。デイウォーカーなら日光も平気だろう。」

 

「ヒィィイィィィッィッィイイイ!!!!!」

 

だが、伝説クラスの聖剣をブンブン振って追いかける姿はどう見ても吸血鬼狩り。しかもやっているのが元本職(エクソシスト)なのだから笑えない。

 

「あいつ、下手したらギャスパーの奴を殺っちゃうんじゃあないか?」

 

「そこまで馬鹿じゃあないだろ……多分。」

 

イッセーがダイスケに自信なさげに答えるのも無理はない。

だって彼女、実に生き生きとしていらっしゃるもの。

本人曰く、教会にいた頃と比べてすべてのことが楽しくなったそうだ。確かに禁欲的な世界から抜け出してしまえば、楽しみというのも増えるだろう。だが、ある程度は釘を刺しておかねばとイッセーが注意する。

 

「ゼノヴィアー。鍛えるのもいいけど、間違って殺すなよー!」

 

「手加減は苦手だが、まあなんとかするさ。」

 

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

「……あいつ、叫んでばっかで喉痛くならねぇのかな?」

 

見当違いの心配をするダイスケに乾いた笑いを漏らすイッセーだが、隣にいるアーシアがショボンとしているのに気づく。

 

「自分と同じ僧侶さんにお会いできると楽しみにしていたのに……目も合わせてもらえませんでした……。」

 

イッセーはアーシアの気持ちが誰よりも理解できた。以前からアーシアは「早くもう一人の僧侶さんにおあいしたいです」と楽しみにしていたのだ。

レーティングゲームでは共にチームの補助を担う役割なのだから、いずれ連携を取りやすくするためにもコミニュケーションをとっておいたほうがいいのは確かだが、相手が心を閉ざしていたのでは意味がない。

 

「それにしても許せんな。ウチのアーシアを悲しませるなんて!」

 

「お前、アーシアのお兄ちゃん的ポジションが確定してきたな。」

 

だけどな、とダイスケは続ける。

 

「まあ、対人恐怖症の奴に無理にコミニュケーションを取ろうとしても余計に距離を取られるだけだ。なに、時間はあるんだからゆっくり打ち解けていけばいいさ。」

 

ダイスケの言葉を聞いて、何か思うところがあったのかアーシアはグッと胸の前で両手を握る。

 

「……そうですね。ここでめげちゃダメですよね。」

 

「そうそう。イッセーへのアプローチもな。聞いてるぞ。部長や朱乃さんにいろいろ押されてるって。」

 

「そ、それは言わないでくださいぃ……。」

 

一転して顔を真っ赤にして蹲るアーシア。隣にいるイッセーも顔を赤くする。

 

「お前、俺のいる前でそういう話はやめろよ……。」

 

「嫌だね。見てて面白いもん。」

 

「そんなことする余裕があるんなら、自分の方を何とかしろよ!」

 

そう言いながら指差すのは、ゼノヴィアから逃げんとするギャスパーの進行方向に定期的に大蒜やら十字架やらを投げつけて行く手を遮っているマサノ姉妹だ。

 

「いやあいつはね、自分のピンチに手を差し伸べてくれた相手への感謝を恋愛感情だと勘違いしてるだけなんだって。元々打算で俺に近づいてきたわけだし、そんな夢見る乙女みたいにスイーツな頭はしてねぇって。」

 

「そんなもんかねぇ……。」

 

どこか釈然としないイッセーの背後に見知った人影が躍り出た。

 

「おーおー、やってるな。」

 

匙である。

 

「おう、匙か。」

 

「よぉ、兵藤に宝田。解禁されたばっかの引きこもり眷属がいるって聞いて見に来たぜ。」

 

つまり野次馬根性というやつだ。こちらの込みいった事情も知らずに良くもへらっとしていられるものだ、とダイスケとイッセーは若干機嫌が悪くなった。

 

「ああ、あそこ。ゼノヴィアに追いかけまわられているのがそう。」

 

「いや、仲間殺す気?……て、女の子!?それもパツキン!!」

 

匙のリアクションを見て、ほんの数十分前の自分たちを思い出してさらにブルーになるイッセーとダイスケ。こうなれば、道連れをひとりでも増やすまでだ。

 

「可愛い女の子かと思った?」

 

「残念!股にしっかり生えてました!!」

 

二人の宣告に愕然とする匙。やはり、普通の神経をしていたらショックを受けるのは当然だ。そして例に漏れず匙も落胆する。

 

「詐欺もいいとこじゃねえか。っていうか、女装って誰かに見てもらうためのものだろうに。それでひきこもりって矛盾も甚だしいな。難易度高すぎ。」

 

「「ですよねー。」」

 

自分の価値観が間違っていなかったとホッとする二人。だが、イッセーは匙のジャージ姿に疑問を持ち怪訝な顔をする。

 

「そういや、お前はそんな格好で何してんの?」

 

「花壇の手入れだよ。会長の命令で一週間前からやってる。ほら、ここ最近、学校行事が立て続いたし、三すくみ会談の会場ってココだろ?魔王様方に見せても恥のない学園の姿にするのが生徒会の兵士たる俺の仕事だ。」

 

「へぇ、匙もちゃんと仕事してんだな。」

 

やっていることは体のいい雑用だが、流石にそれを口にするのも憚られるので適当に褒めるイッセー。そんな他愛のない会話をしているうち、イッセーは何者かが近づいているのを感じた。

そしてその人物を確認したその時、イッセーは我が目を疑ってしまった。

 

「へぇ、上級悪魔眷属さんたちはここで集まってお遊戯かい。」

 

浴衣を身にまとったチョイ悪兄さん。それはイッセーもダイスケも見覚えがある人物。

 

「アザゼル!」

 

「よぉ、赤龍帝。この前の夜以来だな。」

 

気さくに手を振って答えるアザゼルだが、その場にいた悪魔全員が一気に身構える。ゼノヴィアはギャスパーの向けていたデュランダルをアザゼルに向け直し、イッセーはアーシアをかばうように神器を出現させる。

匙も驚愕しながらトカゲの頭を模した形状のガントレットを出す。

 

「ひょ、兵藤!アザゼルって……マジで!?」

 

「ああ、コイツとは何度も接触してるから間違いねぇ……!」

 

初めて見るイッセーの真剣な表情を見て、匙は構える。しかし、この一触即発の緊迫した空気の中で完全無警戒の人物が一人。

 

「おお、それが匙の神器か。初めて見たぜ。なんてやつ?」

 

「ああ、これは“黒い龍脈《アズソーブション・ライン》”っていって……じゃなくて!堕天使の総督が目の前にいるんだぞ!ちょっとは危機感持てよ!!」

 

マイペースすぎるダイスケに思わず突っ込んでしまう匙だが、ダイスケの姿勢は変わらない。

 

「んな、身構える必要ねぇって。見た目ほど悪い奴じゃなさそうだし、襲うつもりならイッセーが気配を感じる前にやってるはずだよ。」

 

ダイスケの言うとおりだった。アザゼルは殺気を放つどころか戦闘の意思も見せていない。

 

「ダイスケの言うとおりやる気はねぇよ。安心しな。」

 

そう言ってアザゼルは両の掌を見せて戦闘の意思がないのをはっきりと見せる。

 

「で、なんなんすか?またイッセーに仕事の依頼?今日、もうすでに一件入ちゃってるんすけどね。」

 

「いや、散歩がてらに寄っただけだよ。そういや、例の聖魔剣使いはどこだ?噂の聖魔剣とやらを見てみたいんだが。」

 

「ここにはいない!!木場を狙っているんだったらそうはさせねぇぞ!」

 

イッセーが持つ事前情報によれば、アザゼルは大の神器マニアでコレクターであるとも聞いていた。であれば、イレギュラーな禁手に至った木場を狙うというのは至極当然な予想だ。

しかし、相手は堕天使の首領。幹部であるコカビエルに手も足も出なかったことを考えれば、全員瞬殺という結末もありうる。そう考えるとイッセーの手足は自然と恐怖で震えてしまう。

 

「だから戦る気はねぇって。ダチの言うことくらい信じてやれよ。下級悪魔相手にいじめをやるほど堕ちちゃあいないって。……あー、そこの木陰に隠れているヴァンパイア。」

 

呼ばれてビクッと慌てふためくギャスパー。まさか自分がアザゼルに指名されるなんて思ってもみなかったのだろう。しかもアザゼルが自分に近寄ってきているのだからビビるのも無理はない。

 

「お前は停止結界の邪眼の持ち主なんだろ?わかっているとは思うが、それは使いこなせなきゃ害悪になっちまう代物だ。うまく神器の補助をする器具でも作れりゃいいんだが……でも、悪魔の神器研究は進んでねぇんだよな。感覚で発動させる神器は持ち主のキャパがないと勝手に動くから危険きわまりねぇんだよなぁ……。」

 

ギャスパーの両目を覗き込んでなにやら思案するアザゼルに恐怖するギャスパーだが、アザゼル本人にギャスパーをどうこうしようとする意思はない。それを感じてか、身構えていた眷族悪魔たちはどうしていいのかわからなくなってしまう。

すると、アザゼルは匙の存在に気づき、指差す。驚く匙にアザゼルは言い放った。

 

「そいつは黒い龍脈だな?それを使って練習すりゃあいい。このヴァンパイアに繋いで神器の余分なパワーを吸い取りながら発動させれば、暴走する頻度も少なくなるさ。」

 

「お、俺の神器って、他の神器の力も吸い取れるのか……?てっきり、敵のパワーを吸い取るだけのものかと……。」

 

自身に隠されていた能力に驚く匙だが、それを見てアザゼルは呆れる。

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は……力を振るうことばかりに気を取られて、自己の能力の探求と研鑽をしようともしない。黒い龍脈は伝説の五大龍王の一角黒蛇の龍王《プリズン・ドラゴン》ヴリトラを宿している。最近わかった事なんだけどな。それが伸ばす黒いラインは、どんな物にも繋いで力の吸収と拡散を行うことができる。短時間なら、持ち主側のラインを一旦引き離して別のモノ同士をつなぐこともできるぜ。」

 

「じゃ、じゃあ、俺側のラインを……例えば、宝田に繋ぐこともできるのか?それで宝田と力のやり取りができると?」

 

「ああ、成長すれば伸ばせるラインの数も増える。そうすりゃ、吸い取る出力も倍々だ。だけど今は実行はするなよ?ダイスケの神器のパワーは規格外だ。未熟な状態で吸い取ろうとしたら、逆流してお前の力を根こそぎ奪われるか、許容量以上の力で自爆しちまうぞ。」

 

「なにそれ、こわい。」

 

あまりに恐ろしい話に自分自身の話とはいえドン引きするダイスケと、自分の知らなかった自身の能力の拡張性に押し黙ってしまう匙。

ダイスケを除いたイッセーたちはまだアザゼルのことを信用しているわけではない。が、まるで先生に教えを乞うているような感覚になってしまっている。

 

「神器の能力向上を手っ取り早くしたいんなら、力のあるドラゴン―――この場では赤龍帝を宿した者の血を飲むといい。ヴァンパイアには血を飲ませれば自然と力がつくさ。まあ、あとは自分たちで頑張りな。」

 

アザゼルはそれだけ言うと踵を返してその場を去ろうとする。しかしイッセーの顔を見て一旦、その歩みを止めた。

 

「ウチのヴァーリ―――白龍皇が迷惑かけたってな。悪かった。いきなり現れてさぞ驚いたろう。なに、あいつはとんだバトルジャンキーだが、今すぐに赤白対決をしようとは思っていないだろうさ。」

 

軽い態度だがアザゼルはイッセーに対して謝った。不意打ちをくらってしまったが、イッセーは虚勢を張っていると自覚しつつも口答えをする。

 

「正体を明かさずに俺達に近づいてきたのは謝らないのかよ。」

 

「そりゃ、俺の趣味だ。謝らねぇ。」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべ、アザゼルはそのまま立ち去った。異常なまでの緊迫感から開放されて皆ほっと一息つくが、顔を見合わせて反応に困っている。

そんな中、匙がため息をついたあとに腰を上げた。

 

「取り敢えず、そこの新人君に俺のラインを繋げてみるか。その状態で練習してみようぜ。そのかわり、花壇の手入れ手伝えよ。」

 

「鍬で耕せばいいの?「ホクレン!」って感じで。」

 

鍬を下す動作でボケるダイスケ。

 

「開墾する必要は無ぇよ!雑草取るぐらいでいいから!そもそもホク○ンってなによ!?」

 

匙のように疑問を抱いた方は片栗粉の袋を見て頂きたい。

 




いつになったら戦闘に突入できるんだろうか。まさか半年後にならねぇよな……?
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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