「予想通り校舎内から数人出てきました。」
「よし、放射線放射装置を起動。適当に相手した後に引いてあとは蟻共に任せろ。当初の予定通りに我らは後方からも攻撃にうつり、手筈通りに事を進める。」
彼ら禍の団の計画は、ほぼミカエルたちが予想していたのと同様であった。彼らには自分たちに中級魔力程度の実力があることは自負していた。しかし、さすがに魔王クラスを直接相手取っても勝つ見込みがないのは確か。だからこそ協力者から譲り受けた放射線照射装置でTHEM現象を起こして数の暴力に訴えたのだ。
一応の指導者であるカテレアも堕天使総督とぶつかり合っていることで戦力の粒試合という最大の彼女の目的は果たされている。
「あとは奴が彼らの言う通りのものかが問題だが……。」
禍の団が謎の協力者から提供されたのは放射線照射装置だけではない。それは、一人の人間だった。
おそらく何らかの処置を受けた強化人間であることは間違いなかった。堕天使側から流出したという人工神器やコカビエルが持ち出した人工獣具の被験者なのであろう。その彼も今は蟻の進行を邪魔するものに排除に向かった。それが成功すればあとはなぶり殺しだ。
あとはこの功を足掛かりに組織内での地位を確立し、権力を握る。そうなれば混沌と化した世界の中で自分はまさに自由。これからそうなるのが楽しみで仕方がなかった。
あれをしよう、これをしよう、そんな妄想をしていた彼だったがその先を考えることはできなくなってしまった。
チュン!
足元に、高速で飛来した金属片が地面にあたる音。その音を耳が拾って脳に伝達される間に、男は自分の首の脇を抑えて蹲っていた。どうして自分がそうしたのか一瞬理解できなかったが、指の間から流れる血と激痛でようやく理解した。
銃で首筋を撃たれたのだ。そして貫通した弾丸が地面のぶつかった。
周りには味方しかいない。救護に駆け寄る者たちも急いで走ってくるが、その者も撃たれた。今度は脳天への一撃、即死である。また指揮官である彼を助けようとした別の者もまた頭部を吹き飛ばされた。
完全な狙撃だ。それも、怪我をした味方を助けようとする者を狙って射殺するというので有名な「友釣り戦法」だ。しかも用いられているのは通常の弾丸ではない。かつて教会が試験的に量産したという対異能用の特殊弾頭弾だ。
これは退魔に定評がある銀の芯材に神の敵を討ち払う燭天使ウリエルの紋章を精密加工技術で刻印し、鉛で覆ったうえで被覆した特殊なフルメタルジャケット弾で、悪魔のみならず堕天使にも大ダメージを与える代物だ。聖剣の特性がない者でもアンチキリスト的存在に対抗でき、そして魔術的防御を突破して敵を倒せるように開発されたものだが、生産コストとある重大な欠陥のせいで普及しなかった。
その欠陥とは、弾丸の軌道が安定しないことだ。特殊な加工が施されていない弾丸ならば問題がないが、刻印を掘られた芯材が弾丸発射後の回転時に偏芯を起こしてしまうのだ。至近距離なら問題はないが、それでも信頼性に欠ける弾薬は結局どこのエクソシストも使われずじまいになり、フリードが使っていたような“光”を発射する銃にとってかわられた。しかし、それを使いこなす狙撃手が今ここにいるのだ。
狙撃手がいるとすれば遠く離れた校舎の屋上あたりだろう。だが、距離が遠すぎる上に全く違う方向からも撃たれている。どうやってこのような芸当ができるのか、理解できているのはこの狙撃の張本人のマイロン・ブラットレーのみである。
「……次、やたら長い杖を持っているジジイいくか。」
冷酷な死刑宣告とともにコッキングレバーを引き、彼は見当違いの方向に照準を合わせる。
弾丸というものは決して常にまっすぐ飛んでいくものではない。撃った瞬間の微妙な振動、気温の差による大気密度、吹いている風や重力の影響という小さな影響が積み重なって大きなずれが生まれる。それを補うためにわざと照準をずらすことは確かにあるが、彼のは異常だった。
少しずらすどころか全く見当違いの方向に銃口を向けている。このまま撃てば隣にいる無駄嫌いのジョンの鉄拳が飛ぶはずだが、彼はそれをいつもの、そして当たり前のものとしてみていた。
タァン!!
それは鳥の羽ばたきの間の一瞬と同じ時間ですべてが起きた。
虚空へ放たれる弾丸。それは空中にあった何かにぶつかり、弾丸は弾かれる。そしてその弾かれた弾丸が行き着く先は―――
「命中。」
マイロンが先に死を宣告していた老人の脳天だった。
すべては彼の狙撃手としての天賦の才と獣具によるものである。上空を飛んでいる彼の獣具は、まるで爬虫類とムササビの合いの子と言った外見をしている。怪獣に詳しいダイスケならば、それが『バラン』という陸海空すべてのフィールドで活動できる万能生物であることを一目で理解していただろう。
マイロンはある時、自分目で見ている視点と別の視点があることに気付いた。本で調べ、精神病にそのようなものがあると知ったときは自分がただ単に異常なのだ自分で納得していた。パソコンのデュアルモニターで見るように、目の前とはるか遠くの光景が同時に見える現実を受け入れ苦悩しながらもその正体を探ろうとしたが、その光景は他人が見ればよほど滑稽に見えたであろう。
そしてある時、もう一つの視点は自分のそばを飛んでいる爬虫類ともムササビともつかぬものが見せているものだと悟った。そしてそれが自分の天から与えられた才だと気づいたと同時に絶望した。
こんなことがなんの役に立つのか?
つまるところ彼の能力はあらゆるところを覗き見できるということだ。だがいったい何を見る?女性の着替えか?隣人の秘密を暴露するか?新聞のカメラマンも考えたが、バランが見せる視点をカメラに移せることはできない。つまり、出刃亀以外に何の役にも立たない不純な力だ。
しかし、多感なティーン時代を犠牲にしてようやくまともに役立つ使い道を思いついた。それが、軍に入隊して狙撃手になるというものだった。つまるところ殺人という実に罪な使い道ではあったが、それでも軍にいれば一般人を守るというまだまともなことはできる。
このバランの獣具は他と違い、完全な独立稼働ができるという長所があった。そしてその先で見たもの聞いたものすべてが本人にリンクし、あらゆる情報を手に入れることができる。だが、彼が最も重宝していたのはそこではない。あらゆる攻撃に対する耐久性に惚れたのだ。
かつて彼は試しに身近にあったあらゆる銃器で試してしてみたが、対戦車ライフルまで跳ね返したのだ。そしてマイロンはその特性を生かし、獣具を敵地深くまで侵入させて敵をほぼピンポイントで狙撃するというスタイルを確立させたのだ。
だが、彼の芸当は周りからは理解されなかった。しまいには他人の功績を自分のものにしたのではないかとさえ言われ、非も落ち度もなかった彼は元いた部隊を去った。そこへアーロンとジョンが現れたのである。スタイルは違うものの、同じような力を持つ仲間に出会えたことで、ようやく彼は本当の居場所を見つけることができたのだ。
もっとも、「人の死ばっかり覗くのは嫌なんだよ」という理由で能力を覗き趣味に用いるのは問題ではある。しかも最近に至っては女性の着替えのみならず近所の夫婦喧嘩や社内の不正取引の現場を覗き見するという当初の目的から完全に外れた方法でストレス発散をしているのだからタチが悪い。
しかし、汗ひとつ流さず冷静沈着に人の命を刈り取るマイロンの技は一片のミス無く魔術師たちを混乱に陥れていく。そんななか、味方であったはずの白い光の羽をもった少年が堕天使の長という男に襲い掛かり裏切った瞬間を目撃したが、赤い鎧の少年が立ち向かっていったのを見て再び作業に戻る。
そしてその混乱の中、誰にも気づかれずに戦場を飛び回る男がいる。パン・ルパレだ。
飛び回るといっても背中に翼をつけて空を飛ぶスーパーヒーローのような飛び方ではない。彼の腕に腕時計のようにしがみついた蜘蛛のようなオブジェクトから糸が飛び出ており、それを利用してスイングしているのだ。おそらくこの蜘蛛のオブジェクトをダイスケが見れば、すぐさまそれが巨大蜘蛛怪獣『クモンガ』に由来するものだとわかるだろう。
「はーい、またみっけ。」
地面を埋め尽くす蟻たちの隙間から件の機械を糸で絡め取って回収、電柱に糸を飛ばして再びスイングして空中を舞い、校舎を駆け回る。その技はエキストリームスポーツと呼ばれる都市内競技の一つ、パルクールの動きだ。
パンは元々パリの街の中で活動する小規模パルクールチームの一員だった。それでも彼の技量は仲間内ではトップであり、他のチームからも引き抜きの声がかかるほどの運動神経を誇っていた。そして誰も、彼には追いつけず、いつしか孤高のパルクールプレイヤーを気取るようになっていた。だが、ある日事故が起きる。
いつものようにパリの古い街並みの中を駆け巡っていた彼だったが、たまたま着地した建物の屋根が老朽化が原因で崩れてしまったのだ。助けを求めようにも同じフィールドについてこれる者も、その高さに行ける者もいない。
あわや地面に激突かと思ったその時、手首から白く長い糸のようなものが飛び出ていた。糸は近くの壁に張り付き、振り子のようにスイングしたことで安全な場所へと着地できたパンは自らの腕を見て、無事生還できたこと以上に驚いた。
タランチュラのような大きな蜘蛛が自分の腕に抱きついていたのだ。それも手を伸ばした右手だけでなく左手にも抱き着いているものだからさらに驚いた。あわてて振り払おうとすると、それは役目を終えたからかのように掻き消える。夢だったのかと再び自分の両手を見たとき、それはまた現れた。そしてパンはようやく、この腕に抱きついた腕時計のような蜘蛛のオブジェクトは己のものなのだということを意識するようになった。
それから彼の人生は変わった。かつてのように街中を飛び回ることに快感をを感じなくなってしまっていたのだ。とてもではないがこの力は他人に見せられるものでもない。だが、自分の役には立ってくれる。そのジレンマが、余計に彼を孤立させていく。
そしてもともと不良だった彼には問題をともに解決する友人もなく、手軽に金を手に入れるためにマフィアの薬物や銃器の運び人になって生計を立てるようになってしまった。取り締まる警察は常に地面の上を見ているが、彼は常にその上を飛び回るため、誰にも気づかれずに運び人の仕事を全うしていく。そして邪魔する者がいれば、彼は躊躇なく金を稼ぐために殺していった。そうしているうちに次第に闇社会の中でも名が売れるようになっていき、犯罪を犯している以外はまさに順風満帆の人生になっていた。
だが、そこにアーロンが現れる。異能を用いる犯罪者を捕える任務についていた彼に出会ったのが運のつき、あっという間にノックダウンさせられバチカン直営の特殊監獄に入れられてしまった。
通常なら極刑もありうる犯罪行為を犯していたパンはこのとき、初めて人生というものを見つめなおしてその数奇な出生を呪った。だが、捕えた当人であるアーロンは違った。
「実はほかにもお前と似たような能力を持つ奴がいる。どうせならその力、世のため人のために使ってみないか?」
初めにそのアーロンの言葉を聞いた時、文字通りパンはハトが豆鉄砲を食らったような顔になっていた。何せ自分のことでいっぱいいっぱいで自分の力を誰かの役に立てようだなんて考えたこともなかったのだ。
思えば同じ異能の力を持っていながら自分とアーロンはまるで違う。彼も必要があったときは殺しもすると言っていたが、それは私利私欲でなく世の善良な多くの人々を守るためにだ。はたして自分にそんなことができるのか、そんなことを牢獄の中でずっと考えていたが、答えを見つける前にアーロンが引っ張り出してしまった。
その時であったもう一人の仲間に向けて、パンは糸で絡め取った機械を空中に放り投げる。
機械が飛ばされたのを確認したのはジョン・ロダンである。彼の左手には弓が握られていたが、それはまじめな人物であるジョンが持つにはあまりにも派手であった。まるで翼を広げた翼竜のような弓なのだ。ダイスケならばそれが超音速で飛ぶ翼竜怪獣『ラドン』がもとになった獣具であると気づくはずだ。
そして開かれた彼の右手に風が集まり、ありえないことだが収束された大気は一本の矢の形に固定された。そのまま、ジョンは弓に大気が固定化されたの矢をセットして弦を引き絞る。
ヒュンッ
一条の風と共に、矢が解き放たれる。だがそのスピードが尋常ではない。矢が飛び去った後に風切り音が遅れて来たのだ。つまり、矢そのものは超音速で飛翔していることになる。通常の弓の速度と比較してざっと三倍以上、下手なミサイルよりも早く飛んでいるのだ。
その超音速の矢は、パンが放った機械に見事に突き刺さる……というところまでは普通だろう。だが、ジョンの弓と矢はここから本領を発揮する。
突き刺さった矢が、徐々に粒子化して形を崩していっているのだ。それと同時に、矢に内包された超音速の破壊のエネルギーが一気に解放され―――
バァァァァァァアアアアアアアン!!!
内部から機械を粉みじんに徹底的に破壊しつくした。
破壊を確認したジョンは再び矢を作り出し、弓を構える。そして今度は地面にいる蟻たちに向けて矢を放つ。
ヒュゴォォォォォオオオオオオオオオオ!!!
超音速の衝撃波が多くの蟻たちを吹き飛ばし、バラバラに粉砕していく。それは超音速機が地面すれすれを飛ばない理由をわかりやすく教えてくれる光景だった。
巨大蟻の発生源を絶ちつつ、妨害を受けないために狙撃による攪乱を行い、そして確実に蟻の数を減らす。これがいまのMMSのメンバーが行っている作戦であったが、もうひとつ敵に気取られたくない作業があった。
「『オネスト』より『ダイバー』へ、地下の様子を伝えろ。」
ジョンが咽頭マイクで地下にいる『ダイバー』、即ちベネディクト・ソウルに連絡を入れる。彼の役割は校庭地下への強行偵察と万が一TEHM現象で発生した蟻たちが巣を構えていた場合の巣の破壊工作だ。それを可能としているのは地底怪獣『バラゴン』由来のスコップを手袋のように装着させたかのような大きな手の形をした獣具。これのおかげで彼は地中を泳ぐかのように潜航していくことができる。
さらに地下から通信できるのも彼お手製の中継器を自分が掘った行動内に散らばらせることで可能にしている。それほどまでの電子機器技術を持っていた彼は元々鉱山での発破作業に携わる技術者であったからだ。
現代の発破作業に用いられる爆薬は大抵が電気信管で起爆させられる。そのため彼は爆薬と電子技術のエキスパートであるのだ。だがある日起きた落盤事故でその生活は一変する。
いつも通りの発破作業のはずだったが、計算違いによって崩したくない脆い地層まで破壊してしまい崩落事故を引き起こしてしまったのだ。故郷から遠く離れた異郷の地の奥底に彼は閉じ込められてしまったのだ。
しかし、彼はただ一人生き残った。ただただ「生きたい」という一心で無我夢中で体を動かしているうちにいつの間にか地上に出ていたのだ。そして、地上に這い出た彼と手はいつも見ているのと違う一回り大きく、恐竜のような手になっていた。そしてその手は彼は我に返った瞬間に消え去り、いつもの自分の手に戻っていた。
当然彼は誰も信じないだろうと考え、現地の警察や軍の事情聴取にも「奇跡的に通じた地中の割れ目をくぐってきた」と答えてしばらくの間次の仕事も探す余裕もなくただ日々を無為に過ごしていった。なによりも、自分だけが助かったという幸運が自分自身を苦しめていたのだ。そんな中、彼は自分の爆発物に関する技能を貸してほしいというリクルートに乗ったがこれが最悪だった。
鉱山採掘者だと名乗ったそのリクルーターの正体は無国籍テロリストグループのスカウトマンだったのだ。仕事場だと偽られて連れてこられた廃坑に監禁され、彼はテロ実行用の爆弾作りを強要されてしまった。完全の閉鎖空間の中、殺人のための爆弾を作り続けさせられることになってしまったベネットは改めて自分だけが生き残った後悔に際悩まされ苦しむ日々だったが、そのことが彼にもう一度生き延びるチャンスを与える。
監視の目が緩むわずかな時間を利用して、あの時自分を救った手がまた出てこないかと試し続けたのだ。だがなかなか求めに応じてはくれない。爆弾作りの件数も日に日に増えていき、もはやあの時と同じ奇跡は起こらないかと思ったある日、そのアジトは攻撃を受けた。
廃坑とは言えどもかなりの数のテロリストが潜伏しているアジトに堂々と攻撃できるのは正規軍ぐらいだろう。これで助かったとも思ったが、よくよく考えれば自分は強制されていたとはいえテロに加担していたことを思い出し、何とかして逃げなければならないとあわてた。そうでなければ巻き添えを食らってテロリストたちと一緒に殺されるか、生きてつかまっても重罪人として処されるだろう。
すると彼は無意識のうちに再びあの時と同じ手を出し、必死に地中を掘り進んだ。どこに出るのかもわからずに無我夢中で掘り続け、ようやく出た地上の先にいたのがまだ三人しかいない頃のMMSの面々だった。そして彼らと出会ったことでようやく自分と同じような人間がいることを知ったベネットは今はこうして自在に地中を潜り破壊工作を行う『ダイバー』となった。
『ダイバーよりオネストへ。思った以上に酷いぞ、こら。』
「何があった?」
『俺はてっきりあの地上のおかしな機械でその場にいる蟻を巨大化させてたと思ってたんだが……やっこさんたち、ご丁寧に地下に巣を作ってる蟻共も用意していやがった!』
*
よく「世の中には自分と同じ顔の人間が三人ぐらいいる」というが、そうそう双子でもないのに顔がそっくりだなんてことは滅多なことでもない限りないだろう。
だが、今ダイスケにその「滅多なこと」が起きている。
全く同じ背格好。そして全く同じ顔。着ている服は全身銀色の繋ぎのような変わった格好だったが、現身鏡で自分の全身を見ている感覚に近いものがあるが、違和感が強すぎで感覚が酔ってしまいそうだ。
だが、いつまでも夢を見ているかのような酔った感覚でいられない。足元に崩れているアーロンを助けるのが先決だ。
先ほどダイスケのそっくりさんは「生存状態での捕獲」と言った。真意は定かではないが、彼の目的は恐らく神器ないし獣具保有者の捕獲だろう。そうであればまず傷つけることはあっても殺しはしないはずだ。
そしてダイスケを「最優先殲滅目標」と言ったということはダイスケを抹殺することが最優先、つまり自分に気を引きさえすればこちらを優先させてアーロンから気を逸らさせることができるということだ。
「オラァ!!!」
ここまで数秒で考えを纏めたダイスケはすぐさま手にしていたメイスを槍投げの要領で自身の偽物に投げつける。メイスの穂先は偽物の胸に突き刺さり―――
ドォォォォォオオオオオン!!!
これまでと違い、メイスそのものから起きた爆発は偽物の体を木の葉のように吹き飛ばす。数回床の上をバウンドしたのち、木でできた体育館の壁をぶち破って用具入れの中に突っ込んだのを確認するとダイスケはすぐさまアーロンのもとへ駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
倒れるアーロンを抱き寄せるダイスケ。幸いにも弱々しいが確かに呼吸音が聞こえるので一応の安心はできた。このまま抱きかかえて本校舎に行こうとするダイスケだったが、アーロンだその腕をつかんで引き止める。
「ぉれファ……しゅへへぃふぇ……(俺は……捨てていけ……)。」
顎が砕け、口から血が溢れているというのにアーロンは激痛を耐えてその精神力だけでダイスケに忠告する。
「いっひゅん、ほはえににふぁかふぉふぉへいへふひほふふぁれふぁ……(一瞬、お前に似た顔のせいで不意を突かれた……)。」
「わかった、わかったから喋るな!!」
するとアーロンは震える手で偽物が突っ込んでいった穴を指さす。
「ほひふぉうふに、ひふぉおふふぇろ……(飛び道具に、気をつけろ……)!」
見ればアーロンの体にはまるで杭のような銀色の凶器がいくつも突き刺さっている。それだけではない、まるで何かが突き刺さった後に爆発したように抉れた傷もいくつも存在していた。
その時である。壁にできた穴の向こうから空気を切り裂いて何かがダイスケめがけて飛んでくる。とっさに籠手でガードするダイスケだったが、
ドスドスドス!!
「―――ッ!?」
これまでことごとく敵の飛び道具を寄せ付けなかった装甲が破られた。痛みに顔をしかめるダイスケだったが、すぐに前に出てアーロンの盾になる。
「フィンガーミサイルの効果確認。判定は……うん、有効だ。」
崩れた壁の向こうから件の偽物が姿を現す。その両腕には先ほどまでなかった、非常にメカニカルな籠手が装着されている。中でも目を引くのは手の甲に配された四列の杭のような凶器。おそらくこれが先ほど言っていた『フィンガーミサイル』なのだろう。
「このッ!」
お返しとばかりにダイスケは熱弾を数発放つ。だが、偽物は正確な反応ですべての熱弾を両手の籠手で払いのける。
「自己診断中……損傷なし、装甲にも変化なし。戦闘続行可能。」
「……くそ。」
悠然と歩いてく偽物に対してダイスケは足でアーロンの体を押して徐々に入ってきた体育館入口へ後ずさる。彼には足蹴にして悪いが、背中を向けて逃げるわけにもいかない。ダイスケとしては自分を優先目標とされている分、ある程度アーロンを放置してもいいはずだが怪我の具合のほうが心配でその選択肢がとれない。
誰かに彼を預けられれば―――そう思っていたまさにその時だった。
パシュッ
映画で聞いたことがあるグレネードランチャーが発射された音。体育館入口方向から煙の尾を引いて飛んで行った弾頭は偽物の足元に転がり、激しい勢いで煙を放つ。スモークグレネードである。
「光学センサ使用不可。赤外線センサに移行……さっき吹き飛ばされたときにイカれたか?」
どうやら効果はあったようで、これを機としてダイスケはアーロンを担ぎ、足元に落ちているアーロンの獣具も一緒に担いで一気に入口へ駆け抜ける。そしてそこにはイッセーと同行していたはずの二人の傭兵の姿があった。
「あんたら……ギャスパーはどうした!?」
「安心しろ、無事だ。さっき白い鎧の奴に目のほうを封じられたらしいが、赤髪の悪魔の嬢ちゃんに預けているから大丈夫だ。」
獅子面の盾の男、カエサルの言葉を聞いて、とりあえずダイスケは胸をなでおろす。
「……アーロンのほうも大丈夫みたいだ。全身の傷と顎は処置が必要だが、命に別状はない。」
先ほどグレネードを撃ったエドがアーロンの傷を診るが、やはり偽物が言ったように殺すつもりはないらしい。一応の処置としてエドは持ってた止血剤をアーロンの傷口に振り掛ける。
「無線で聞いたが、表のほうもやばいらしい。俺たちでこいつをなんとかしないと。」
カエサルは処置を施すエドをカバーするように盾を構える。だが、それを聞いたダイスケは首を横に振った。
「いや、だったらあんたらはそっちに行ってくれ。それと、アーロンを頼む。」
「馬鹿言うな!こいつをここまで追い込む奴だぞ、ハイスクールの学生一人で相手できるか!!」
エドが包帯で傷を覆いながら怒鳴る。処置をしながらすでに獣具を展開している彼からすればダイスケの発言はとんでもないものに聞こえただろう。だが、ダイスケにはダイスケなりにそう言える理由がある。
「確かにな。でも、あんたらの獣具は見る限り全身をカバーできるような防御能力を持ってるやつじゃないんだろう?」
「まあ、確かに……。」
エドが認める通り、二人の獣具は全身を防御できるタイプのものではない。カエサルは盾、エドは下半身を覆っているものの上半身部分は無防備状態だ。
「その点俺のは全身鎧だ。今は腕にしか出てないけど、まあその時になったらちゃんと全身鎧になる。それにあいつは俺を優先的に狙ってる。だったら俺があいつを引き付けておいたほうが他のところに影響も出ないだろ。」
だが、それで失敗して死んでしまっては元も子もない―――そう言いかけたエドをカエサルは制する。
「俺はけっこう長い間戦場にいる。そしたらやっぱり、お前みたいに「俺に任せて先に行け」って奴がいる。そういう奴の八割はあからさまに目に死の色が浮かんで、実際死んじまうもんだ。それを踏まえてみるとお前は―――」
そういってカエサルはダイスケの瞳をじっと見つめる。
「―――どうやら二割の方らしい。本当に生き残るかどうかまではわからないけどな。」
気休めではない、本気のカエサルの経験からくる一言に、エドはついに折れた。
「……カエサルのこういう勘って当たるからなぁ、実家って霊媒師なんだっけ?」
「正確にはユタな。まあ、家の方はおれを家族とは認めてないけど。とにかく、奴は頼んだぞ。」
「ああ、任されて。」
そのダイスケの返事を聞いた二人はアーロンを担ぐ。そしてエドの「死ぬなよ!」という言葉を残してその場から二人は撤収した。
体育館の方を見れば、すでに煙は若干の靄がかかる程度にまで晴れている。そしてそこにたたずむのは件の偽物。
「……へぇ、わざわざ待っててくれたのかよ?余裕だな。」
「いや、自己修復に手間取っていただけだ。そっちこそ俺を襲う絶好の機会だったのになぜみすみすそれを逃す?」
「絶好の機会?ちがうね、お前を倒す絶好の機会っていうのは―――」
必要なのは立ち向かう意思。自分が守りたいものを守ろうとする意志。そして……怒り。
「―――これから造るんだよ。」
ダイスケの全身を蒼い炎が覆う。それは焼き尽くすのではなく、作り上げる炎。
目の前の敵を倒すという確固たる意志が、蒼い炎の中から再び黒き鎧をダイスケに纏わせた。そして全身に漲るを脚部に溜め込み、一気に開放する。
ドォォォォォオオオオオオオン!!
元々が体重六万トンの巨体を動かすための力である。そのすべての力は目覚めたばかりですべて覚醒していないとはいえ人間のスケールで使えば必要以上の威力を発揮する結果を生み出す。
例えるならば、BB弾を飛ばすのに原子力空母のカタパルトを使うようなものと同じ。人間のスケールには似合わないパワーで飛び出したダイスケは偽物の頭部をつかみ、慣性のまま押し倒して引きずりながらその腹部に怒り任せの殴打を叩き込む。
だが、偽物は腹部に殴打を受けつつも眉一つ動かさずにダイスケの腹を蹴り上げてそこに数発にフィンガーミサイルを放つ。
「ぐっ!?」
弾頭は鎧を突き破り、その内側の肉に突き刺さる。そしてダイスケの体は勢いはそのままにステージの上に突っ込んでしまう。
パラパラと舞い落ちる木片と立ち上る埃中、ダイスケは自分の腹に刺さる弾頭を血を流しながら引っこ抜く。それを脇に投げ捨てると、ステージ下にいる偽物と再び対峙するために立ち上がる。
すでに同じように偽物も立ち上がり、ミサイルをこちらに向けている。だが、一瞬だけダイスケが早く掌から熱線を放つ。
ゴォォォォォォオオオオオ!!!
熱線はミサイルが放たれるよりも先に命中、偽物の体を炎に包む。
しかし、その燃え方は「燃やされている」というより「自ら炎を吹きだしている」といった方が正しいように思える。やがてその身を包んだ炎は蒼から白銀の光を放つ火炎に様変わりする。
白銀の火炎はすぐに収まり、その焼跡とも言える偽物の肉体は変化していた。
それは、ダイスケの漆黒の鎧のイメージを投影しつつもメカニカルな白銀に輝く鎧。ダイスケが鎧武者に例えるならであれば、まさに対極の騎士の甲冑。
「……やっぱりそうきたかよ―――」
思い当たる節はいくつもあった。
やけに人間味のないしゃべり方に機械的な反応。そして何より自分と生き写しの姿。
怪獣王ゴジラの姿を模すものとなれば、知っているものならば必ず辿り着く答えである。
「―――メカゴジラ……!」
そのダイスケの結論を肯定するかのように、金色に輝く双眸は光り輝いた。
HDD本編はいよいよクライマックスに突入ですが、ウチのほうはまだ始まったばかり。しかも初っ端からメカゴジラなんて大物ヴィランを出すという無軌道ぶりでおまけにペースも遅い。
それもいいという皆さん、ラストまでたどり着けるかどうか温かく見守ってください。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!