ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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今回は一つ一つで話をつくろと極端に短くなってしまう話を集めた短編集となっています。
それとついでなので今までやっていなかった一人称形式にも挑戦しています。なお、一部に胸糞悪い話がありますが、物語を彩るためのエッセンス程度に思ってください。


EXVS3  日常短編集

1)無自覚のライバルと相対す

 

「えっと、確かダーリンの歯ブラシはこのブランドで―――」

 

「ああ、違いますよ。確かに色は一緒ですけど、これは柔らかめ。ダイスケ君は固めが好みですから。」

 

Oh,またやられたネー……。

私、エリザベス・D・マサノは今日、榛名と一緒に日用品のショッピングに来ていましたが……ずっとやられっぱなしデース。

ダーリンを求める女としての最大のライバル、榛名に対し今日はいかに自分がダーリンの事を知っているのか同棲中というアドバンテージを生かして勝負しようと思っていましたが、彼女は常にダーリンに関する知識で私の上をいきマス。

例えば好みの味噌の種類。ある時はトイレットペーパーや歯ブラシなど日用品の細かい好み。そして生活リズム。

なにもかも榛名に知識で負け続け、もう私の心はボドボドデース……。

って、いうかなんで榛名はそんなにダーリンの事詳しいノ!?

まるで熟年夫婦のような関係には正直嫉妬を覚えるほどデス!!いや、榛名自身は本当にいい娘だからユルセナイッ!って感じにはならないけど……。

でもでも、こんな風になったのは何か理由があるはず。今日はそれを聞き出すつもりもあって、二人で出かけたってわけデース。

 

「それにしても、さすがにここまで来ると疲れますね。」

 

キタっ!

 

「なら、最近見つけたいい雰囲気のカフェで休まナイ?」

 

こんなこともあろうかと、この町のいい喫茶店を探してみて良かったデース。無料のタウン誌に目を通し、いつかダーリンとデートするときに来ようと思っていたリーサルウェポンだったけド……。

 

「いいですね、行きましょう。」

 

よっしゃ、乗ったァァァァァ!!オット、英国淑女はこんなところで浮かれない。去年亡くなったグランマの教えデース。

そんなこんなで着いたのは駅前にあるレトロなムード漂わせる小洒落たカフェ。すでに何回か下見で入ったけど、実にいい感じで英国ムードが出ている紅茶専門店デス。女子に受けるスイーツを完備したメニューもあるから、きっと榛名も気に入るはずデス。もちろん、ダーリンもネ!

テーブルについて、メニューに目を通しながらも気になるのはやっぱり今回のお出かけのテーマ。おすすめのリーフを教えながらも、そのことが頭から全然離れまセン。

そして注文を終えて待つ間、私はついに切り出しましタ。

 

「そ、そういえば、榛名とダーリンってどうしてこんなに親密なノ?」

 

「え?」

 

ついに最初の砲火は放たれましタ。しかし、ここで次をためらっては真相は闇の中、イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないッ!……アレ、何か違う気が。

 

「だって、付き合っているのかと思ったらそうでもないし、幼馴染っていうのは聞いたけどそれでも普通はここまでしないかなー……って。」

 

うん、トーンダウンは仕方ない。だってどんどん榛名がスマイルのまま暗い気落ちしたような顔になっていくんだもん。

 

「いやいやいやいや、言いたくなかったら無理しなくていいヨ?!人間誰だって言いたくないことの一つや二つあるものだシ!」

 

あわてて取り繕ったけど、これは完璧にマイン踏み抜いたネ。

 

「えっと、ほら、お詫びにケーキやタルトの一つでも「いいですよ。」……へ?」

 

え、いまいいって言った?

 

「エリーさんも、ダイスケ君とは浅い仲じゃないですし。」

 

そう言って榛名が語ったのは、本当に信じられない話。

小学四年生の時、つまりダーリンと榛名が8歳のとき、ダーリンのファーザーは亡くなられた。それは私も聴いていたけど、問題はそのあと。

ダーリンのファーザーのお仕事は自衛官。国と多くの人の命を守る、誇るべき仕事。普通はソウ。

でも、このジャパンっていう国は複雑でいろんな考えの人がいる。そのうちの一人が、その時ダーリンのクラスの社会のティーチャー。この人はどうも自衛隊とか、そういう人たちに対して批判的なとらえ方をしていたみたい。

当然人間には思想の自由があるし、仕事をきちんとしてくれればそれでイイ。でも、ダーリンのファーザーが亡くなられた時、この人はやってしまったノ。

曰く、死ぬべき人間が死んだだけだ。

曰く、そんな仕事を選んだが故の自業自得。

曰く、所詮は人殺しの仕事、皆さんは決してなってはいけません。

信じられないけれど、本当にここまで言ったらしい。心の中で思ってるだけならまだいいけれど、このティーチャーはそれを口にしてしまった。

スチューデントの方も、歳が歳だからティーチャーの言うことを鵜呑みにしてしまう。だから、みんなそれに首肯するばかりだったみたい。

当のダーリンはただ黙っていたらしく、「言いたいなら勝手に言わせておけばいい」ってスタンスだったと榛名は言っていたけど、その榛名は自身は反論したノ。

誰かを守るために死んだ人に、どうしてそんな酷いことを言えるんですかって。

するとそのティーチャーは小学生に正論を言われて、やってはいけないをことした。攻撃の矛先を榛名に向けたノ。

榛名自身は近所ってこともあってダーリンの家と家族ぐるみの付き合いをしていたから、やっぱり許せなかったんだと思う。でも、そんなことをしらないティーチャーは、今度は苛烈に榛名を責めたてる。

人殺しの肩を持つのかとか、非人道的な集団を弁護するなんて何を考えているんだとか、大人が子供に迫って責めたてる。その時は本当に恐ろしくて、榛名は泣くことも忘れて立ちつくしたって言ってた。

でも、そのティーチャーは言いたいことを全部は言えなかった。なぜなら、ダーリンが振り回した生徒用の机で殴られていたから。

みんな呆気にとられて、止めることもできずにダーリンがそのティーチャーに馬乗りになって殴り続けるのを見ていた。

後は騒ぎを聞きつけた他のティーチャーにダーリンが取り押さえられ、乱暴者の烙印を押されてダーリンはマザーが立て続けに亡くなられたこともあってグランパの家に引き取られてお別れ。

そのことを、榛名は「自分のせいでこうなってしまった」と考えて、高校生になってダーリンと再会した後に彼を支えていこうって決心したみたい。

……こんな話ってある?

理不尽が理不尽を呼んで、それに抗った者が辛い目にあうなんて。

これで榛名がダーリンに事を気に掛ける理由はわかったけれど、こんな話なら聞くべきじゃ、ううん、榛名に話させるべきじゃなかった。

だってこの話をしている時の榛名、本当に悲しい目をしていたカラ。

そんな後悔と荷物を持って帰宅すると、エリーが必死の顔で走ってきたノ。

 

「お姉さま、大変です!」

 

その手にはエアメールを持っていて、すでにエリーが開封して読んだみたい。

手渡されたメールは外務省からの事務的なもの。そこには、事務的な書き方で信じられない内容が書いてあった。

 

「本家の方で……人が死んだ?」

 

もう、どうしていいかわからなくなった。

 

 

 

 

 

2)へるぷみーばいきば

 

「なにこれ。」

 

俺、宝田ダイスケの下へと届いた木場からのメール。それにはただ一言、

 

《たしけて》

 

とだけ書いてあった。

おそらく正しくは《助けて》なんだろう。“し”は“す”の入力ミス、すべての文字がひらがななのは変換する余裕が無かったからだということが読み取れる。

しかし、グレモリー眷属内でも指折りの戦闘能力を持つ木場が助けを求めるとは何事だろう。まさか禍の団の奇襲を受けたとでもいうのだろうか。滅多に起きないという禁手に至った木場個人を狙われたということも考えられるが、如何せんアイツがどこにいるのかということが特定できない。

すると立て続けにギャスパーからのメールが届く。内容は、

 

《緊急事態ですぅぅぅぅぅぅ!木場先輩が、木場先輩がぁぁぁぁぁ!!今すぐうちに来てくぁwせdrftgyふじこlp》

 

だった。なんで緊急事態なのにかの有名なネットスラングを使う余裕があったのだろうと不思議だったが、兎に角このメールのおかげで二人が住んでいるマンションになにかが起きているということだけはわかった。

というか、話の流れ的にいかねばならぬのだろうと、俺は腹をくくった。マリーは榛名と一緒に買い物に出かけているため、この家をマリー一人に留守番させることになるわけだが致し方ない。

そして着いた件のマンションの廊下に、木場がへたり込んでいるのが見えた。

 

「だ、ダイスケくん、来てくれたんだね……。」

 

「木場、お前いったい……。」

 

木場たちが住むグレモリー家直轄の高級マンションの階段の踊り場に、木場とその傍らにギャスパーが入っているらしい段ボール箱があった。

 

「何とかして僕が蝙蝠に化けて部屋から引きずり出してきたんです。あそこは……本物の地獄ですぅぅぅぅぅぅ!!」

 

そういうギャスパーの視線の先には開きっぱなしのドア。見た目は何の変哲もないドアなのに、ギャスパーと木場の反応のせいでなーんか禍々しいオーラをまとっているように見えてしまう。

兎に角、中を検めてみなければ何にもならん。鬼が出るか蛇が出るか、ドアをくぐったその先は―――凄惨たる光景だった。

転がる酒瓶、床中にばらまかれた電子回路の足の切れ端、なぜか普通に置いてあるアサルトライフルに鋼材の切れ端、むせかえるような金属加工した時の独特の煙、はじめてみたむき身のC4爆薬等など。

ここが本当に高級マンションの一室か、というか本当に日本かといいたくなるような光景の中、奴らはいた。

 

「ああ、ダイスケか。いらっしゃい。」

 

歓迎の意を示しながら読書するジョンを筆頭としたMSSのメンバーである。

そこにはかつて、禍の団に襲撃された際にジョンが吐露した惨劇ほぼそのものの光景が広がっていた。

 

「な、な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?」

 

反応することも一瞬忘れてしまうほどの最悪な室内の様相。世の中には汚部屋と呼ばれる状態の部屋も多いが、これは別のベクトルで酷い。場末の町工場だって常に清掃するのに、これはそれ以下。比べるのもおこがましい。

あまりの凄惨さに我を忘れてしまいそうになる俺だったが、それが俺に一瞬の虚を作ってしまった。

 

「おーう、この前のラッキーボーイ!よく来たなぁ!!まあ、駆けつけ一杯。」

 

そう言いながら馴れ馴れしく肩を組み、俺の口に無理やり泡盛の瓶口を押し込んできたのは国頭・J・カエサルこと渾名はジェイ。

日本において未成年の飲酒並びに強要は普通に法律違反であるのにもかかわらず、この野郎はそれを実行する。

 

「むぐぐぐ!?」

 

突然口内に広がる泡盛独特の香り。好きな人は好きだが、苦手な人はとことん苦手になるという独特の芳香がいまだかつて一度もアルコール類を口にしたことがない俺の口内を侵食する。あーもう、これで泡盛苦手になった。どうしてくれんだコラ。

そういえば、ぐったりとしている木場から変な臭いがしていたと思い出すが、明らかにアルコールを摂取し分解した後のアルデヒドの臭い、すなわち酒臭さであった。おそらく木場もこの部屋の光景に気を取られて同じ目にあったのだろう。

肩にかかるジェイの腕を振り払い、俺は急いで手近の洗面台へ目指す。行儀は悪いが、ここは吐き出すしかない。だが、そこへ爆発物担当のベネディクト・ソウル、渾名はベネットから忠告が入る。

 

「あー、その辺り、俺が切った電子部品の足が散らばってるから。」

 

が、時すでに遅し。すでに俺の足の裏には何本もの金属片が突き刺さっている。

 

「―――ッ!?」

 

獣具で強化された肉体のおかげで足裏の肉の奥まで金属片が突き刺さるということはなかったが、それでも痛いものは痛い。そのショックのせいで思わず―――

 

ゴクン

 

「……飲んじゃった。」

 

最悪だ。

そういえば、木場の足の裏も所々銀色に煌めいていた気がしたが、それもイケメンオーラが足の裏で可視化したしたのではなく、俺と同じ目に遭っていたというわけだ。ギャスパーがわざわざ蝙蝠化したのも、これを避けるためだったのだ。……何気に便利な能力なんじゃねーの、これ。

胃の中が焼け、むせ返る感覚が沸き起こる。普通は水で割るなりロックで飲んだりするようなもの(うちのジーさんからの伝聞)をストレートで飲まされたのだからたまったものではない。

 

「「たっだいまー!!」」

 

そこへやってきてのんきな挨拶をする二人。パン・ルパレとエドことエドワード・モンドだ。そして誰も聞いてはいないのに土産話をし始める。

 

「いやー、アザゼルの旦那が言ってたのってホントだな!店の堕天使の女の子、軒並み高レベルで下のサービスも満点!!」

 

パンが真昼間から大音声でド下ネタをぶっこんでくる。いきなり「下のサービス」と来たもんだ。すいません、ここに未成年の男子高校生がいるんですけれども。つーか、あんたら一応学校職員だろ!

 

「正直、乗り気じゃなかったんだけどさ、マジで最高だぞ堕天使の女の子。俺も連絡先交換しちゃってさ、もうどーればいいのかね!?」

 

興奮気味に語るエド。おい、お前はどちらかといえば没個性なんじゃなかったのか。

そういえば、と俺はアザゼルがイッセーに童貞卒業し放題ツアーでもやるかと持ちかけていたことがあったことを思い出す。そんでもってアザゼル達堕天使は駒王協定締結後に堕天使直営の風俗店を開いたともいっていた。堕ちた存在らしいというかなんというか。

……べ、べつに堕天使の女子がどれだけ美人でエロいのかなんて欠片も興味ないんだからね!勘違いしないでよね!―――俺がやってもキモいだけか。

兎に角この部屋の惨状はどうにかしなければならない。俺はあらん限りの声量でこいつらを怒鳴りつけてやろうとしたが―――

 

ドォウゥゥゥゥゥゥゥン……

 

腹の底から響く音。地下から響いてきたみたいだ。

 

「ジョン、あんたなんか妙に落ち着いてるけどこの地響きって……?」

 

「ああ、グレモリー嬢が地下に射撃練習場を増設してくれてな。多分そこでマイロンの奴が対物ライフルでも試し撃ちしたんじゃないか?」

 

「た、対物って、M82とかか!?」

 

こくり、とジョンは首肯した。M82といえば、50口径すなわち12.7mmの直径の弾丸を打ち出して長距離の敵や装甲車も撃破できるという破壊力だけなら最強クラスの狙撃銃だ。

普通は海外のミリタリー系の番組でもやっているように、屋外の射撃場で2キロ先の的を狙って打つものだってのに、そんなものを密閉された屋内の、それも通常の銃火器を想定した室内射撃場で撃とうものなら―――

 

ドォウゥゥゥゥゥゥゥン……

 

こんな風に軽い地響きの一つも鳴る。

もう、俺は限界だった。

 

「ジョン、下のマイロン呼んでくれ。今すぐ。」

 

「いいが……どうした?」

 

「てめぇら全員の生活態度、今すぐ俺が修正したらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

この後メチャメチャ掃除した。

そんでもって日本での常識的な生活も教え込んだ。わかるよ、普段いたのが死と隣り合わせの戦場だってことくらい。でもさ、ベランダにセントリーガンは無いと思うんだ。銃や弾薬も隠そうよ。宅急便の兄ちゃんびっくりするって。

ほかの住人だっているんだからさ、旋盤とか金属の切断機を室内に置いておくのもやめよう?リアス先輩に聞いたらガレージひとつ使っていいってさ。平行出し面倒だけど、機械移そう?

それから酒。まず瓶はちゃんと洗って色別にリサイクルな?ジェイはもう、ミネラルウォーター感覚で飲むのやめようか。うっちん(ウコン)飲んでるから大丈夫?その量相手だったら毛ほどもきかねぇよ。

ベネットもさ、回路組むのくらい自分の部屋でやろう。それから掃除は定期的にやれ。工学系なら常識だろ。

パンとエドはさ、自分たちが学校職員だって自覚持とうや。一応うちの学校進学校だからさ、ピリピリすんのさ。なにぃエド、パンは時々生徒の恋愛相談に乗っている?とりあえずヤッちゃえとか、自信つけるために風俗行けとか言ってないよな?……おい、こっち見ろよ。

マイロンも考えろよな。あんな狭いとこでそんなもん撃ったら近所迷惑だからね?知ってる?共鳴現象と水撃作用って。……おい、視線が余所行ってるぞ。まさか獣具使ってやるっていう覗き行為やってるんじゃないんだろうな!?近所の銭湯にのぞき魔がいないかパトロール?いるよ、ここに!!しかも、そこの銭湯は普段からじいさんばーさんぐらいしか通わないんだ、ざまーみろ!!うちの爺さんが言ってたから間違いないんだよ!!

なあ、ジョン。よくこんな連中相手に胃が潰れないでいられるな?

 

「……もう慣れたよ。」

 

苦労してんなぁ……。

 

 

 

 

 

3)密会

 

「あいつら……一応大人しく言うことは聞いたけどいつまでもつかなぁ。」

 

マンションからの帰り道、俺はそうひとり呟く。連中の性格から考えて、多分持って一週間……いや、三日ぐらいかなぁ。射撃場の修繕やら機械類の移動は後日部長の家の人たちがやってくれるって話だけど、その人たちがあの劣悪な環境に耐えられるのか心配だ。

だけど、ここから先は悪いけど俺には関係のない話。あとは一緒のマンションに住んでいる木場達に任せよう。

さーて、こっから暇になるわけだけどどうしよっかなー。そうだ、夏休みに行く釣行のために釣具屋に道具でも見てくるか。ついでに本屋なんかも見てこよう。

大通りに出て、目的の店を目指す俺。すると視界に、見知った顔が両手に何か持って歩いているのが見える。

 

「―――霧香か?」

 

そう、その姿は榛名の妹、河内霧香のものだった。持っていたのは紐で括られた何冊もの本。あれだけ持てば相当重いだろうに、彼女は一生懸命になって持ち直しながら歩いている。

古本屋にでも持っていくのかと考えたが、店があるのは彼女が向かっている方向とは微妙に違う。どうしても気になったので、彼女には悪いが尾行させてもらうことにした。

彼女の視界に入らないように、それでいて一定の距離を保ちながら自然な歩きで彼女の後を追う。……なんでこんな時にジーさんにならった一般社会では役に立たない知識が役立つのかなぁ。若干の自己嫌悪を抱きつつも、徐々に人通りが少ない路地に入っていく。

 

(大通りの裏側……?なんにもないぞ、ここ。)

 

秋葉原や大阪の日本橋のような大きな街なら裏通りにもいろいろ目につく店もあるだろうが、ここは一地方都市のちいさな繁華街。表に商店が軒を連ねていても、一歩外れればすぐに住宅地だ。

そんななにもないところの、さらに狭い建物と建物の間に霧香は入り込んでいく。一瞬彼女の姿が隠れたその時、声がした。

 

「すまないな。また持ってきてくれて。」

 

若い男の声。

 

「いえ、いいんですよ。読まなくなっていたものなので。あなたに読んでもらえて、きっと本も喜んでいます。」

 

霧香が答える。相手の方は自分とおそらく同年代。

 

「……器物が感情を持つのか?それは前に読んだ本にあった“憑物神”というやつか?」

 

いや同年代だとかそういうものではない。

 

「そういうことじゃなくて……なんというか、それを読んでもらうことで私がうれしいというか、なんというか。」

 

信じがたい話だが、俺と全く同じ声。

 

「俺がこの本を読ませてもらうことと君が喜ぶことに何の因果関係が?どういう数学の本を読めばこの不可解な方程式の解を求める方法があるんだ?」

 

自分の声を聞き間違うことなんてありえない。俺とは別人なのに、俺と同じ声を発する奴って言ったら一人しかいない。

 

「それは……なんというか、それは数学とかで推し量れる問題ではないというか……。」

 

なんで―――

 

「―――なんでお前がここにいるんだ!?」

 

霧香が相手にしていたのはそう、よりにもよってメカゴジラの奴だった。

 

「ダイスケさん!?なんでここに―――」

 

思わず飛び出した俺の姿に、霧香は驚く。そんな彼女の腕を、俺は掴んで引く。

 

「俺の後ろに下がれ。」

 

「でも……。」

 

「いいから下がれ!!」

 

つい、怒号を上げてしまう。それに驚いた霧香は、急いで俺の後ろにつく。

 

「知り合いらしいが……お前は随分と酷い扱いを彼女にするな?そういうのはレディに対するものではないと俺はすでに学んでいるぞ。」

 

「一端に紳士面かよ。ずいぶんと俺の身内利用していろいろお勉強なさったらしいな、おい。」

 

「利用じゃない、彼女が自分から俺にいろいろ教えてくれたんだ。」

 

「俺を謀って不意打ちする奴がよくも―――」

 

「その人が言っていることは本当です!」

 

俺と俺が口論しあうという異常な光景に困惑しつつも、霧香が問答に割って入る。

 

「私、前のその人に暴漢から助けてもらって、それからちょくちょく会うようになって……いろんなことを知らないらしいから、私の昔の教科書とかもう読んでない本を見せてあげていて……。」

 

完全に燈台下暗しだ。まさかこの野郎と接点を持つ人物が俺のすぐそばにいようとは。

 

「なるほどな。だけど忠告しておく、もうコイツには会うな。」

 

「なっ―――ふ、二人は知り合いなんでしょう!?なんでこんなにそっくりなのかは知りませんけど、どうしてそこまでダイスケさんはこの人に敵愾心を持っているんですか!?」

 

「……詳しくは言えないけどな、こいつは碌でもない集団に関わっているんだよ。世の害悪だ。だから、これ以上霧香はコイツに立ち入っちゃいけない。だよな?おい。」

 

「―――お前の観点から見られればそういわれるのも仕方がない、というのは理解しているつもりだ。否定はしない。お前とは敵対しているということも、彼女にはここでちゃんと告げておこう。」

 

え、とそんなことがあるはずがないというような顔になる霧香。

 

「だが、ここでお前とは戦いたくはない。命令が出ていないしそれに―――」

 

「それに?」

 

「―――彼女は巻き込みたくない。」

 

「……やろうとしてることのスケールはでかいのに、変なところ気にしてんなぁ。なんでだ。」

 

「彼女は俺の世界を広げてくれた。恩がある。」

 

「だったなんで連中に付き従う。自分が何をして、その結果がどうなるかぐらいわかるだろう!?」

 

「解かる、解かっているんだ。だが判らない。使命と自分の気持ち、どちらを取ればいいのか……。」

 

機械のような印象しかなかったヤツが、いや、事実機械とほぼ同じヤツが一瞬だけ苦悶の表情を見せた。そしてそのまま、俺から距離をとるように後ずさる。

 

「―――霧香、ありがとう。」

 

ただそう言って奴は跳躍し、姿を消した。

霧香も何か言いたそうだったが、家に送るまでずっと黙ったままだった。

 

 

 

 

 

 

4)夏休みへ

 

目が覚めると家が劇的ビュフォーアフターしてました。

な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……って冗談抜きにそうだったんだ。

俺、兵藤一誠の家は寝ている間に豪邸に変貌していた。

部屋には買った覚えのない、しかも高くて手が出ない薄型ワイドテレビに最新ゲーム機全種品揃え済み。廊下の幅は三倍になり、二階建ての階数は六階地下三階建てにクラスチェンジ、お隣の鈴木さんと田村さんの敷地を吸収合併。東京都内で買ったらウン十億って大豪邸が一晩のうちに兵藤家の家になっていたんだ。

そして俺はリアス部長とアーシア、そして最近ウチに越してきた朱乃さんと同衾という、最高にスケベ冥利に尽きる状況に陥っていた。

ああ、お隣の鈴木さんと田村さん?好条件の土地が手に入ったからそっちに引っ越ししたんだって……ってどう考えてもグレモリー家の財力の賜物だろーがぁぁぁぁぁあああああ!!

父さんも母さんも「部長の家がやっている建築業の一環」で納得するなよ!モデルルーム?無いよ、こんなモデルルーム!日本でこんな家を買える人なんて日本の総人口の何千万分の一の一握りだよ!!

まあ、両親も喜んでるし、ゼノヴィアもウチに越してきたから部屋数の問題も解決したしでみんな幸せになってよかったね、なんだけどさ。

そんな大変貌を遂げた我が家でのオカ研最初の活動は……夏休みの冥界旅行について!

最初は部長が「冥界に帰る」って言ったもんだから、俺を置いて帰国するのかと思っちゃったよ。実際は里帰りで、毎年恒例の行事なんだって。それに今年は俺やアーシア、ゼノヴィアにダイスケも加えて出発することに。ただ、マサノ姉妹の方は実家が大変なことになったらしく、同行は無理らしい。今日だって早くイギリスに帰らなきゃならないとかでウチには来ていない。

仲間が二人も同行不可ってのはさみしいけれど、今回は力を伸ばすためのトレーニングもあるらしいからしっかりしないと!

 

「おいおい、俺が同行するってのも忘れるな。」

 

おわ、びっくりした!アザゼル先生かよ。っていうか、いつの間に?

 

「普通に玄関から入ってきた。」

 

「き、気が付かなかったわ。」

 

リアス部長以下、先に合流していたダイスケ達も先生の登場に気付けなかった。なんてすごい気配の消し方だ。

 

「まだまだだな。まあ、そこんところも含めてトレーニングするわけだが、全員励むように。」

 

実際、アザゼル先生はすごい。長年神器の研究をしてきたから、やっぱり知識豊富で教え方が最高にうまい。そのおかげで俺や眷属内の神器持ちは何か掴めそうなんだ。

そんな先生は、懐からメモ帳を取り出してその内容は読み上げる

 

「冥界でのスケジュールはっと……リアスの里帰りと現当主に眷属並びにダイスケの紹介。あと新鋭若手悪魔たちの会合、それから修行だ。俺は主にこっちに付き合うことになる。で、その後は各々のスケジュールで動いて、その間俺はサーゼクスたちと会合か。ったく、会合、会合と面倒くさいな。」

 

本当にめんどくさそうな先生。一組織の長がこれでいいのかとも思うけど、この人は本当にほかの堕天使に慕われている。時たま名も知らない堕天使が訪ねてくることがあり、みんな先生の小間使い志望なんだ。

「秘書にしてください!」とか、「身の回りのお世話を!」とか、中には「ぜひとも身辺警護をさせてください!」って志願してくる人もいるくらいだ。中には高位の堕天使もいたらしいけど、みんな先生の「いいから帰れ、命令だ」で返されている。

きっとみんな心配なんだろう。それくらい慕われているってことだ。そんなすごい人が味方なんだから本当に心強い。

 

「先にMSSの連中も修行しているんだが、そっちと出会うことはないだろうな。入れ替わりになるはずだ。」

 

おおう、あの人たちは先に冥界に行ってるのか。出会わないっていうのはいいと思う。だって、リーダーのジョンさん以外まともな人いないからなぁ。短い間だけど、あの人たちの学校での暮らしぶりを見てるとよくわかる。……でも、用務員の仕事そのものはしっかりできているんだよなぁ。

 

「そういえば、いつから行くことになるんですか?長期になるって言ってたけど。」

 

ダイスケが部長に質問する。こいつは榛名さんの事もあるからな。そこのところ気になるだろう。

 

「7月20日から8月20日までね。泊まるところに関しては心配しなくていいから。」

 

そんな部長の答えに、ダイスケはゲ、と唸る。

 

「やべぇ、スケジュール被った。」

 

え。

 

「実は7月18、19日に東京に行って、早めの盆の墓参りがあるんですよ。母方の祖父が忙しい人で、そっちのスケジュールの合わせないといけないから。」

 

「あら、それなら平気じゃない。」

 

「いや、その後に20日から福岡に行って有明ターポン釣りをやろうかと。」

 

やば、これ。

 

「……釣りなら冥界の湖でもできるじゃない。」

 

「いや、でも湖とか渓流ならこの前の合宿で部長がやってたみたいにフライフィッシィングがメインなんでしょ?おれ、フライってどうも面倒で。それに船宿とプロのガイドも予約付けたんで。あ、修行の日程には間に合わせるんで安心してください。」

 

部長怒るヤツだ。

その証拠に、リアス部長の額にしっかり青筋が見るもん。一方のダイスケはそんなこと気にも留めずにどこ吹く風、自分のスケジュールを述べるだけだ。

確かにダイスケは眷属じゃないし、修行の日程に合わせるとも言っている。でもさすがに仲間内の旅行に参加しないっていうのはいささかさみしいものがあるってのも事実だ。

 

「……修行に参加するならそれでもいいわ。なら、細かいスケジュールを教えるわね。」

 

いや、部長のあの眼は納得していない。しかも、アザゼル先生にアイコンタクトしてるし、絶対何か仕掛けるつもりだ。

冥界旅行、絶対最初から一波乱あるんだろうなぁ……。

 




ということで今回はダイスケと榛名の過去話を交えた短編集でした。
正直自分で書いておいて「こりゃひでぇ」と思うくらいクズいのが出てきましたが、アレは今回限りなのでご安心を。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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