何せ参考文献が少ないうえに登場回数も少ないですから口調があっているか不安です。
修行開始当日、オカルト研究部一同はジャージ姿でグレモリー邸の庭の一角に集まっていた。
全員の服装に合わせているのか、アザゼルもジャージ姿で資料の束を持って、全員の前に立ている。
「先に言っておく、俺がこれからお前たちに課すメニューは将来的なものを見据えてのものだ。即効性がある者もいるが、長期的に鍛錬し続けなければならない者もいる。ただ、お前たちは若い。方向性さえ見失わなければより良い成長を見込める。さて、まずはリアスからだ。」
最初にアザゼルが指定したのはリアスだった、彼女には基礎トレーニングと王として必要な見識や判断力、機転を鍛えること。木場とゼノヴィアには自分の持つ力をコントロールすること。ギャスパーは人見知りを克服しゲーム中でもパニックに陥らないようにすること。アーシアは基礎トレーニングと聖女の微笑みの使い幅を広げることを目標に設定された。
イッセーは分かりやすく実践方式。かつての六大龍王が一角、聖書にドラゴンと書いてあればこいつと思えというドラゴン、タンニーンにいじめられることだった。
「じゃあ、あそこの山を借りるぞ、リアス嬢。サーゼクスの頼みもある。死なない程度に鍛えてやる。」
吐き出す火炎の一撃が隕石の衝突に匹敵するという転生悪魔にしてドラゴンタンニーンは、そういって一足先にイッセーを誘拐もとい連れ去ってもとい共に修行の場に飛んで行った。
残された朱乃と小猫に言い渡されたのは、「己の中にあるものを受け入れる」ことだった。
朱乃に関してはダイスケは、お仕置き中に漏らした父親絡みのことだろうと察しはついた。コカビエルの一件の後、それとなくイッセーから彼女の父親が堕天使であり、そのことを嫌悪しているということを聞いていたのでそっちは話が分かった。
だが、小猫については分からない。基礎的なトレーニングで、戦車のオフェンスを上げろとしかアザゼルは言わないので小猫の事情だけは分からないのだ。
ダイスケはこのことは普段からよく話したりして意外と気が合っているし、最初に出会った時も息はあっていた。だが、そういった裏の事情を尋ねるほどの関係ではなかった。
「まあ、お前なら大丈夫だろ。もともとの身体能力はあるし、ベースアップなら心配ないさ。」
そういってダイスケは小猫の肩に軽く手を置く。励ましのつもりだったのだ。だが、小猫はその手を払いのける。
「……何も知らないのに、言わないでください……!」
ふっと目を背ける小猫。やはりいつもの小猫とは違う。いつもなら「気安く触るな」とボディーブローの一発も来そうなものだがそれがないのだ。
「最後にダイスケ。お前は戦闘スタイルの確立だ。」
そのアザゼルの言葉に、リアスは疑問を感じた。
「でも、ダイスケってこの中でも結構な戦果上げていない?それってダイスケの戦闘スタイルが出来ているってことでしょ?」
リアスが言うように、ダイスケがこれまで活躍しなかった場と言えば参加できなかったライザーとのゲームと目覚めたばかりで力を制御しきれなかったときくらいなもので、他はみな勝利に貢献したり、自身の危機はしっかり払いのけている。
「パッと見はな。だがこれまで何回かお前たちのトレーニングを見てきたが、ダイスケの戦い方だけが形になっていない。なぁ、実際自分でも何か違和感を感じてるところがあるんだろう?」
「――実は、少し。」
事実、ダイスケは自分の在り方について思い悩んでいた。
イッセーや木場は、自分の中に眠るものを使いこなそうとし、実際にその方向性をつかみつつある。イッセーに関して言えば神器の本体であるドライグとの対話によって導かれているところもあって着実に力を伸ばして言っている。
しかし、ダイスケはと言えば最初のころは自分の合気術と合わせて神器を使うことが多かったが、徐々に力が解放されるにつれてその力に頼り切って戦う傾向が強くなった。
これではがむしゃらにナイフを振る街のチンピラと同じだ、と思うのはダイスケ本人。何より前例がないからデータもないし、ゴジラはドライグのように受け答えはしてくれない。だからこそ不安に思っていた。
「そこでお前にもイッセーと同じように力がある奴をぶつけて実践方式でトレーニングをしてもらう。強い奴と手合わせして、手探りで自分の進むべき道を見出すんだ。ひょっとしたら一番難易度が高いかもしれんが、生き残るためにはやってもらう。」
「――わかりました。それで、誰が相手なんです?先生は木場のトレーニングも見るんでしょ?それとも仲間の堕天使?」
「それは向こうに行ってからのお楽しみ。安心しろ、強さは保証する。」
*
「うみゃい!うみゃいよぉぉぉぉぉぉ!」
イッセーは今、リアス手作りの弁当を堪能していた。何せこの数日間、碌なものを食べていない。
メインでやっていることの修行といえば、隕石クラスの威力の炎をポンポンと吐く『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンから逃げ回ることと基礎トレーニング。基礎身体能力は確実に上がっているが、こちらが攻撃できる隙なんて微塵もない。
食べ物といえばタンニーンから食べられるかどうか確認をとった木の実や川魚のみ。植物やキノコなんて恐ろしくて手が出せない。
何より辛いのは身の回りに女子がいないこと。人間界にいたころはリアスや朱乃が甘えさせてくれ、ゼノヴィアやアーシアに迫られるのが日常だったのに今はそのかけらもない。そばにいるのは魔王級のドラゴンだけだ。
おかげで夜はひたすら妄想。ついにはタンニーンに追いかけられている間も現実逃避で妄想できるようになってしまった。そんな中、見舞いに来たアザゼルが持ってきてくれたのがリアスと朱乃がそれぞれ作ってくれた弁当だった。
「朱乃の作った分もある。そっちの方もちゃんと食ってやれよ?あの二人、火花を散らしながら弁当作ってたんだから。」
それに加えてアーシアが作った分もあるというのだから、イッセーからしたら文句のつけようがない。
「しかし、数日見ないうちにいい面になったじゃないか。ガタイも良くなったんじゃないか?」
そういってアザゼルは笑いながらイッセーの肩をたたくが、本人からしたら笑い事ではない。
「ふざけんな!このままいったら数日以内に死んでしまうわ!!タンニーンのおっさん、滅茶苦茶してくる上に洒落にならないくらい強いんだよ!ドラゴンの戦い方を教えてくれるって言っても逃げることしかできないし、このままいったら確実に殺されるよ!童貞のうちに!!」
「馬鹿か。ちゃんと死なない程度には加減しているだろう。俺がその気になれば今のお前ごとき一瞬で消し炭だ。怖い思いをしたくないのならさっさと禁手に至れるようになれ。そうすればマシになる。」
岩場でタンニーンが呆れた目つきでイッセーに言う。
「そうは言うけどさ、怪獣サイズのあんたのパンチなんて喰らったら人間ベースの俺なんて一撃で粉みじんだよ!前に見たリドサウルスよりでかいんだぞ!!」
「リドサウルス?言っておくがあれは所詮地竜クラスのトカゲだぞ。そんな調子でリアス嬢の最強の兵士になろうなど笑止千万。彼女の下僕になりたがっていた実力ある悪魔がどれほどいたのか知っているのか?」
タンニーンの言葉に、イッセーはそう言えば、と思い出す。駅や街中でリアスを見かけた悪魔たちの黄色い声援。容姿もあるが、下僕を大切にするグレモリーの眷属になれるチャンスなんて本来はそうそうないものなのだろう。それを目指すものの中には今のイッセー以上に鍛錬を積んでいた者もいるはずだ。
それらを押しのける形で眷属になってしまったようなイッセーは十分幸せ者である。それを考えれば、今のこのトレーニングを受けられること自体が幸運。甘えた考えを持っていた自分に若干の自己嫌悪を感じていた。
しかし、イッセーがつけているトレーニング日誌を見るアザゼルは言う。
「それでも基礎トレーニング含めてみんなこなしているんだろう?なら大丈夫だ。これぐらいこなせないと、禁手に至ったときに体がついていかないからな。お前には足りないものが多い。魔力の方はヴァーリには逆立ちしたって勝てない。なら、体力を上げるしかないんだよ。」
それは十分理解しているし、実感もしている。生まれやこれまで送ってきた人生を考えればイッセーとヴァーリの間に大きなスペック差がある。それでも、だ。
「持続時間でいえばダイスケにも負けてるんですよね……あいつ、一日以上経っても平気そうって言ってたし。」
「あれを同じ土俵で考えるな。あいつのトレーニングを通じて得た観測結果から分かったが、あいつも禁手そのものには至っていない。そもそも獣具に禁手があるのかどうかさえ分からないんだよ、現状は。だからあいつは自分を比較するな。」
「え?でも、俺の赤龍帝の鎧みたいに全身鎧で覆われてるじゃないですか。」
「たぶん、それが基本形態なんだろう。全身を堅い防御で覆い、それを通り越した攻撃は驚異的な回復力で回復させ、必要な力を形にして与える――これらすべて含めたスペックでお前の神器の籠手の状態と同じってわけだ。」
「うわ、なんか……ずるっ。」
自分が禁手に至るためにここまで辛い修行をしているというのに、ダイスケの方は禁手に至る前の段階で既に禁手並みの力を得ているというのだ。ずるいとしか言いようがない。
「そう言っても、あいつが望んだことじゃない。責めてやるな。言っておくがお前はまだいいんだぞ?ドライグに力の使い方を教えてもらえるんだからな。あいつの方は何しても答えないっていうんだからまだお前の方が恵まれてるさ。リスクなんかもわかっているぶんな。」
確かにそうであった。ダイスケの方は使用書も説明書もない複雑怪奇な武器を手探りで使っていかなければならない。それに対してイッセーは、前例の赤龍帝を知っているアザゼルや力の根源であるドライグ本人が手取り足取り使い方を教えてくれるのだ。
「それかんがえたら――本当に恵まれてるなぁ。」
そうイッセーは弁当を食べる手を止めて感慨にふける。
「ま、人それぞれに大変ってことだ。お前もお前でタンニーンに追っかけられてるわけだし。何も後ろめたいことはない。」
そういってくれるアザゼルの心遣いが、本当に身にしみる。きっと秘蔵っ子であったというヴァーリもこんな風にアザゼルの指導を受けていたのだろう。それなのに平穏は似合わないからと言って裏切るとはなんということか、とイッセーはひとり胸の内で腹を立てる。
と、そこでヴァーリのことを考えたせいであることを思い出した。
「そういえばヴァーリの奴、最後に何かしようとしてアルビオンに止められてたけど……何をしようとしてたんです?」
「ああ、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』か。」
「ひょ、ひょっとして、禁手のさらに上とか?」
「いや、神器の限界突破は禁手でまちがいない。それより上はない。だが、お前の赤龍帝の籠手やヴァーリの白龍皇の光翼みたいに何らかの魔物やドラゴンが封印されている神器は他の神器と違って特殊な制御になっている。そこから力を得ているわけだが、たまにその制御を取っ払って封印を解放する寸前まで力を解放する時がある。それがドラゴンがベースの場合『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』と呼ばれる状態になる。絶大な力は得られるが、寿命を大きく縮ませられる上、理性が失われる。」
「そこまでやるっていうことは、簡単に言えば暴走ですか?」
「簡単に言えばそうだが、実際はそんなに生ぬるいものじゃない。周囲すべてを破壊しつくし、自分を滅ぼす寸前までいってようやく止まる代物だ。コントロールは理論上不可能なんだが、ヴァーリは己の膨大な魔力を代償に数分間は自我を保っていられる。アルビオンの慌て様からするとまだピーキーらしい。そりゃそうさ、人工神器をバーストさせた俺が言えた義理じゃないが、あんな明日を捨てるようなやり方は神器の本来の使い方じゃない。――力の亡者と化したものだけが使う、呪われたやり方だ。お前は絶対にそうなるなよ。」
そういうアザゼルの瞳には、憂いというか、不安の色がにじんでいた。まるでヴァーリを心配しているような目立った。
裏切られたとはいえ、もともと親子に近い関係だったのだ。不安にもなるだろう。
「何らかの魔物やドラゴンが封印されている神器ってことはダイスケが宿している獣具はどうなんです?やっぱりデータ不足?」
「情けないがその通りだ。過去のデータがなさすぎるから、魔獣版の覇龍、『覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)』みたいなのがあるかどうかさえ記録がない。封印系だからあるとは思うんだが怪獣は魔獣とは毛色が違うからな……。」
「そこのところ、ダイスケにも注意しておいた方がいいんじゃ?」
「もちろんそうする。危険な手をよく使うような奴だ。悪手を打たれてかつての再現なんてまっぴらごめんだからな。」
アザゼルが真剣な顔で言う。かつてゴジラが起こした戦争はそれだけの被害をもたらした、ということだ。
「現白龍皇は覇龍は使えるのか?これはいかん、赤龍帝の小僧、うかうかしていると殺されるぞ。歴代の赤白対決は先に覇龍を掴んだものが毎回勝っている。あれはある意味早い者勝ちなんだぞ。」
話を聞いていたタンニーンから語られる衝撃の事実。
「え、じゃあ、今回は俺が殺される番!?……いやいや、俺はハーレムを作るって決めたんだ、そんな簡単に殺されてたまるかよ!!」
動機は不純だが、さらなる闘志がついたイッセー。
「うん、その意気だ。ところで話は変わるがイッセーよ、お前、朱乃のことどう思っている?」
「はい?そりゃ、頼りになる先輩ですけど。」
イッセーの答えにアザゼルはいやいや、と首を横にを振る。
「そうじゃなくて、女としては、だ。」
「魅力的です!お嫁さんになってほしいくらいです!」
そのイッセーの言葉に、アザゼルは満足げに「うんうん」と頷く。どこか安堵したようにも見える。
「俺はダチの代わりにあいつを見守らなきゃならんところがあってな。お前が相手ならダチも喜ぶだろう。」
「ダチって、朱乃さんのお父さんの堕天使のことですか?」
「ああ、バラキエルという。あいつは大昔から一緒にバカやった仲でダチ中のダチだ。で、そんなバカやってたら周りはどいつもこいつも妻子持ちになっていやがってな。」
「みんなに先を越されたんですね。」
「……女なんていくらでもいらぁ。」
若干遠い目になったアザゼル。どうやら婚期の話は地雷らしい。
「それはともかく、俺はあの親子が心配でならんのよ。当人たちからすればいらん世話なんだろうが。」
「……なんていうか、先生って意外と浪花節というか、世話焼きっスよね。今みたいにみんなの修行プランも練ってくれるし。」
「なに、ただ単に暇と知識欲を持て余しているだけさ。おかげで、歴代最強の白龍皇も育てることになっちまったが。」
照れくさそうにしながらも、アザゼルは続ける。
「ともかく、朱乃はお前に任せていいんじゃないかと思っている。」
「任せる……?そりゃ朱乃さんのことならゲーム中だろうが戦闘中だろうが守りますよ。部長も、アーシアも。先頭切ってみんなを守るのが兵士の役割だって思ってますし。」
そのイッセーの答えを聞いて、アザゼルは苦笑いをする。
「――まぁ、そういうところだな。お前はバカだが、悪い男じゃない。愛するべきバカというべきか、これならだれも分け隔てなく接することができるだろうな。」
「?」
「わからなくてもいいさ。本当なたらしならとっくに修羅場だからな。そうじゃないからお前はいいんだよ。とにかく、朱乃に関してはお前に任せる。……それよりも、今問題なのは小猫か。」
「どうかしたんですか?」
「どうにも最近焦っているみたいでな。と、言うより自分の力に疑問を抱いているらしい。そのせいかオーバーワークしちまって、今朝ついに倒れた。」
「た、倒れたぁぁぁぁぁ!?」
後輩の不吉な知らせに、イッセーは口から米粒を飛ばして驚いた。
「うわ、きったねぇな!」
「それよりも、大丈夫なんですか!?」
自分の方に飛んできた米粒とイッセーの唾を払いながら、アザゼルはああ、と答える。
「怪我ならアーシアに治せるが、体力まではそうはいかん。特にオーバーワークなんて体を壊すだけだ。ゲームまで時間がないんだから余計に危険だ。」
「あ、あの、オーバーワークはダメって俺は……?怪獣サイズのドラゴンに毎日山の中で追い掛け回されて死にかけてるんですけど……?」
「ああ、お前はいいんだよ。むしろ足りないくらいだ。」
「そんなあっさり!?ああ、そうっすか、俺だけオーバーワークOKですか!!わかってますよ、俺が一番弱いからだって!!どうせ体が出来てるダイスケはまだ楽なメニューなんでしょ!?」
「いや、ある意味じゃダイスケの修行はお前より過酷だ。……なんなら変わるか?」
*
昏い森の中、二つの黒い影が対峙する。
一つは黒い鎧武者姿のダイスケ。そしてもう一つは黒い犬を擬人化したような六尾の漆黒の化け物。互いに間合いを詰めるなか、異変は起きる。
草陰からそれまで潜んでいた漆黒の大型犬が飛び出してきたのだ。しかも、この犬も尋常ではない。額や背中、そして尻尾などと体の各所から歪な刃が飛び出ている。そして犬は咬みつくでもなくその刃でダイスケに切りかかる。
ヒュン!
寸ででよけて、刃は空を斬る。しかし―――
「夜陰鉤(ナイト・ハーケン)!!」
黒い獣の叫びと共に、地面の暗くなっている部分から歪な鉤状の刃がダイスケが回避した先に複数現れる。見れは二人と一匹が戦っているフィールド全体が似たような刃で覆い尽くされている。
無論、相手の思うままになるつもりはダイスケには一切なく、こぶしの一撃で刃を叩き割る。だが、飛び散った破片が影を作り、そこからまた―――
―――ゾブリ
わき腹に鉤状の刃は突き刺さる。
「―――っ!」
ここで痛みで叫ぶわけにはいかない。そのまま身をよじり、体内に刃を残したままダイスケは鉤をへし折る。傷そのものはゴジラの力ですぐに塞がり、刃も抜けた。
「だいぶ慣れたが、君はだいぶ捨身だな。見ていて辛いものがあるぞ。」
異形の怪人が、とてつもなく人間らしいセリフを言う。
「じゃなきゃ神滅具相手に戦えないでしょうよ……っ!」
傷は塞がるといっても、痛みは残る。しかし、痛みもそのままにダイスケは掌からから熱線を放つ。
「刃(ジン)、スラッシュ!!」
しかし、熱線は号令と共に黒い犬の刃によって真っ二つに切り裂かれる。切り裂かれ、あらぬ方向に飛んで着弾した先で熱線は大爆発を起こす。
そう、ずっとこれなのだ。どれほど熱線を放ってもすべて刃で斬り裂かれ、いなされてしまう。そうでないとしても神速のスピードですぐに躱されてしまう。
このスピードに追い付くため、ダイスケは二万トンを支えるパワーを両足から解放する。これで少しは相手の動きについていくことはできる。そして問いに追い付き、異形の男に一撃を加えようとする。
「パワータイプがこれほどスピードを出すとはな……しかし―――夜陰鉤!」
ダイスケの進路上に次々と刃が生えてきた。とれをダイスケは手足からの熱線の噴射によって姿勢制御し、避けていこうとするが、本格的に飛べるわけではないために徐々に失速するうえ刃が次々と体を刻んでいく。
これまで戦った相手とは格段に格が違う。どう攻めるべきか攻めあぐねているダイスケを前に、無防備にも異形の者は戦闘態勢を解く。そしてそのままその身にまとった異形の衣を解除する。
「今日はこれまでだ。このまま暗くなったら俺に有利になりすぎるし、副総督も今日はもういいと言っている。」
異形の姿が解けたその本来の姿は、ダイスケよりもいくらか年上の落ち着いた印象を与えるインカムを付けた青年だった。
「幾瀬さん、まだやれます。」
「ここまでにしないと、暗くなる過ぎると獲物が獲れなくなって食いっぱぐれる。」
「……わかりました。」
幾瀬と自らが呼んだ男に従い、ダイスケも獣具を解除する。
「昨日はイノシシだったからな。今日はシカがいい。ここらへんにいるっていう豊後牛のミノタウロスでもいいな。」
「あんまり期待はしないで下さいよ?」
ダイスケに与えられた修行、それは神滅具《黒刃の狗神(ケイニス・リユカオン)》の所有者幾瀬鳶雄との、禁手《夜天光の乱刃狗神(ナイト・セレスティアル・スラッシュ・ドッグズ)》による無制限スパーリングであった。
*
(いくら牛の肉とはいえ、人の形をしてたのはなぁ……。)
それでもミノタウロスの肉が旨いのはなんだが悔しかった。
捌かされたのはダイスケ、調理は鳶雄という、ほんの数時間前まで戦っていた者同士の共同作業を経てミノタウロスの肉は見事な野趣あふれるジビエ料理となった。
「それにしても鳶雄さん、料理上手いですね。」
「けっこう好きなんだ。誰かに自分の料理を食べてもらうのが。」
「たぶん俺だけだったら焼いて味付けなしでおしまいでした。」
いまでこそマサノ姉妹がいるためまともな(マリーの鍋除く)料理を口にしているが、それ以前は榛名が来ない限りいつも適当料理かレトルトで済ませていたのでこれはありがたかった。
「しかし、これで観測用のドローンを何個壊したんだ?君の熱線の巻き添えで半分には減っているぞ。」
「しょうがないでしょ、当たんないんだから。」
すでに周辺の地形は様変わりしている。近くの小山の山頂は抉られ、茂っていた森も所々十円禿げのように禿げてしまっている。
「幾瀬さんの黒刃の狗神そのものがまずチートですって。なんなんですか、「陰の部分からいくつも切れ味抜群の刃を生成できる(陰の空間は自分でも作れます)」って。攻撃範囲なんてほぼ無限大じゃないですか。」
「これでも一応制限はあるんだ。それに、今回は陰の生成はしないルールだ。」
「それに刃がいるからほとんど二対一でしょ。隙がないじゃないですか。」
肉を食らう犬――刃(ジン)が誇らしそうにのどを鳴らす。この犬こそが黒刃の狗神の神器そのものである。禁手以前はこの刃が己の身から生やした刃で攻撃したが、禁手化した今は本体である鳶雄も肉弾戦ができるのだ。
「独立具現型なら、本人ががら空きになる時のリスク回避はする。俺の知り合いには禁手化以前からそこをちゃんとしていた人だっていたんだ。」
「一対一でも、独立具現型の場合は実質二対一になることも考えなきゃいけないってことですか。……でも、なんだが問題はそれ以前のような気がして。」
「そう、それ以前の話だ。君の戦い方はどこか歪だ。もともと格闘術を習っていたとは聞いているが、今は完全にパワー頼りになっているみたいだな。」
「……はい。」
図星であった。以前なら荒事の時は合気で相手を無力化させて止めの一撃を放つのが常だった。しかし、ゴジラのパワーを得てからはそのパワー頼りになっている。
「もともとの戦い方があったのに、君は得た力に振り回されている。俺にはそうとしか見えない。それじゃあ、拳銃を得たチンピラと一緒だ。」
「……それは一応、自覚はあります。」
「力に目覚めて、困惑して、それに振り回されるなんてことは俺にもあった。むしろそのせいで多くの人たちを巻き込んでしまったこともある。それでも今、俺は自分を知り、刃を知り、禁手を知り、その研磨した先を手に入れた。」
「禁手の、先――?」
「きっとそれは君にもある。問題はそこに至るために自分をどうしたいかだ。もとに自分に戻るか、それともパワーを突き詰めるか。それとも――明日からはその答え、俺に見せられるようになってくれ。」
「ああ、そうだイッセー。お前、社交界デビューのレッスンのためにヴェネラナ夫人から呼び戻されてるからいったん帰るぞ。」
「しゃ、社交界デビュー!?」
「ほう、ならまた戻ってこい。夫人のレッスンの後はまた俺とのレッスンだ。」
というわけで出てきました幾瀬鳶雄。
主役作品がまさかの絶版。今じゃ富士見の公式サイトで見れるので本当によかったです。
次回はおそらく皆様が「おい、やめてくれよ暗すぎるわ」となるかもしれませんが、今後の展開を考えるとどうしてもそうしなければならなくなりました。一度書いてみたかったシチュではあるのですが。
なお、感想などもお待ちしております。ただ、メンタルが非常に弱いのできついことを言われると「FINAL VENT!」になりますのでご勘弁を。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!