ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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 コラボ回とか書いてみたい今日この頃ですが、多分コラボしてくれるところなんて一つもない。


VS43  家族だって知らない顔はある

 雨にぬれる暗闇の中、その男は、目の前の一人の男を憎んでいた。

 憎む理由はただ一つ、愛する女性を奪われたから。その憎悪の念が全身に渦を巻いている。だから自分が持っている力で離ればなれにさせた。だが、男はその仕打ちを受けても信じる目で自分に言う。

 

「私はどうなってもいい。だが、妻と娘たちには手を出さないでくれ。」

 

 その目と、言いようが気に食わなかった。これではまるで、この男のほうが彼の女性を愛しているようではないか。

 嫉妬心に燃える自分とただ愚直に愛を通そうとする男。その対比が見せるのは醜い自分の姿。

 こんなはずではない、こんなはずではなかったのだ。そして感情のまま手にした拳銃の引き金に力を込め――男を殺した。

 

 

 

 

 

 

 マリア・D・マサノは故郷のこの屋敷が嫌いだった。

 本家のこの豪邸はまさにイギリスの心象風景を思わせるたたずまいを見せており、なだらかな丘陵地帯から抜けて見える建物はいかにも田舎暮らしの貴族の邸宅を思わせる。そんな素晴らしい風景の中にある。

 だが、ここは彼女から母を奪った者たちの根城なのだ。いかに美しいといっても、そのことがこの屋敷をまがまがしいものに見せている。こうなってくると美しい中庭のバラも邪悪な花に見えてくるから不思議だ。

 なにしろここにいるはずの母との面会も許されない。病気で近くの病院に入院しているという説明を受けたが、どこの病院にいるかも教えてもらえないのだ。実際はこの屋敷のどこかに軟禁されているのではないかさえ考えてしまう。

 それほどまで母が父と結婚し自分たちをもうけたことが許されないことなのだというのか。ならばその責はすべて父に向ければよいのに――

 そんなことを考えながら渡り廊下を進むと、一人の男と目が合った。

 

「一人でいるとは珍しいじゃないか。姉はどうした。」

 

「警察の方へ。例の事故について調べたいことがあるそうです。」

 

「エバートの件か。そのまま司法にゆだねて余計な詮索をしなければよいものを。」

 

「私もそう言ったのですが……。」

 

「まあいい。どうせなにもない。あれはただの落雷事故だったのだ。悪天候の中何をしていたのか知らないが、雷が落ちているのに木の傍にいたあの男が悪い。」

 

 マサノ姉妹が日本にいるときに送られた手紙に書いてあった人死にの話である。

 

「それよりも、件の男落とせたか?」

 

「いえ、それが……。」

 

「ふん、男一人籠絡させられんか。お前たちにはこの家に強い血を取り入れる役割があることを忘れてはいまい?これが果たされなければ永遠に母親とは再会できんぞ?」

 

「わかっています……っ。」

 

 ならばいい、と男は踵を返してその場を立ち去る。

 マリーが下手に出ていたこの男こそ、この屋敷の主にしてマリーの実家の現当主であるチャールズ・ドゥルイド。エリーにダイスケとの政略結婚を命じたのもこの男である。いかに高圧的な態度をとられようとも、一族内の立場のせいで頭が上がらない相手だ。

 

「ああ、そうだ。」

 

 不意にチャールズは踵を返し、にやついた笑いを浮かべマリーに向き直る。

 

「先ほど出した指示……裏切ったときは覚悟しておけよ?」

 

「わかってるって……言ってるじゃないですか!」

 

 

 

 

 

 

「確かにウチで先日の落雷事故の調査をしましたよ。だけどねぇ、いくらなんでも遺体の状態を教えるわけには……。」

 

「そうですか……。」

 

 エリーは地元警察署を訪ねていた。手紙にあった人死に、エバートの死について自分でも詳細を知っておきたかったからである。

 

「第一、殺人でもないしねぇ。単なる不幸な事故ですよ、どうみても。」

 

「……。」

 

「あ、だけど――」

 

 立ち去ろうとしたマリーに警官が続ける。

 

「――被害者の男性、首に比較的最近できたらしい銃創があったね。そのことについて何か知りませんかね?怪我の割に治るのが早いみたいだって検死官が不思議がってたんで。」

 

「!……いえ、私は何も。」

 

 そう言ってマリーは礼を言い、警察署を後にする。先ほどはエバートの首にあったという銃創について知らない、と彼女は言ったが、実は心当たりがあった。

 駒王学園における三大勢力の会議襲撃事件の時、マイロンから最初に禍の団の魔法使いのリーダーらしき人物の首を撃ったと聞かされていたのだ。これは先ほどの警察官が漏らした情報に一致する。

 さらに、学園でも見つけたトリカブトの花をあしらったドゥルイド家の紋章飾りのこともある。意外なところで点と点が繋がってしまった。だが、まだ共通項が見つかったというだけで直接繋がっているとわかったわけではない。

 しかし、マリーが本家に対して疑惑を抱く材料はまだある。サーゼクスが言っていた家の意図不明な金の流れだ。どこかに資金提供したか何か大きなものを買ったは分からないが、何らかの意図があるのは分かる。それが、禍の団への資金提供ということも十分にあり得るのだ。

 だとしたら、アザゼルが懸念していた三大勢力内の裏切者というのもドゥルイド家が一枚噛んでいる可能性も出てくる。だとすれば誰が――とエリーは思考の海に沈んでいく。気付けば屋敷の門をくぐり、自室までついていた。

 

「oh、ちょっとらしくなかったかもネ。」

 

 真剣に一つの物事をずっと考え込むなんて自分らしくない――そう思って彼女はベットにダイブする。

 

「……なんか最近布団のほうがしっくりくるようになったネ。」

 

 その理由は自分でも想像がつく。今まで暮らした場所の中で、ダイスケの家が最も安心して眠れるからだ。

 もちろん、祖母や祖父と暮らした時代も悪くなかった。だが、あのころはどうやって家族をもう一度引き合わせるかを考えるのと、そのための勉強でいっぱいいっぱいだった。ロンドンの大学に通っていた時も、研究やら何やらでいっぱいであった。

 だが、ダイスケと出会ったことで、より確実な家族を取り戻す道を見つけることができた彼女はその時初めて安心というものを感じられた。常に綱渡りで歩いてきた彼女にとってダイスケはバランスをとる必要のない、しっかりとした大地だった。

 そんなダイスケのそばにいる今の生活のほうが彼女にとっての安寧になっているのだ。

 

「パパとママが帰ってこられたら……駒王町につれていってあげたいな。」

 

 そこに住むというのも悪くないだろう。わざわざイギリスに残る義理もない。なら、日本に住むのだって選択肢の一つだ。そして、二人にダイスケを紹介したい。自分にここまでできた勇気をくれた、大切な人――

 そこまで考えていると、不意にノック音が聞こえ、ドアが開かれる。

 

「お姉さま、帰っていらしてたんですね。」

 

「ああ、マリーごめんね。気が付かなかった。」

 

 入ってくるマリーはカートを押し、手には小瓶があった。その中には茶葉らしきものが入っている。

 

「お姉さまが帰っていらしたのでお茶でも入れようかと。お湯、ありましたよね?」

 

「うん、あるヨー。」

 

 そう言ってエリーは電気ケトルを準備しようとする。

 

「ああ、わたしがやりますから。」

 

「いいノ?じゃあヨロシク。」

 

 マリーはカートから茶道具一式を取り出し、便から茶葉を出して茶の準備をする。

 

「そういえば、警察署に行って何かつかめました?」 

 

「ウン、面白い話が聞けたヨ。」

 

「遺体の状況聞けたんですか?」

 

「さすがにそれは無理。だけど、エバートの首筋には銃創があった。これ、私がマイロンから聞いた禍の団の学校襲撃犯のリーダーが負った狙撃の傷跡に一致してるノ。」

 

「まさか、禍の団に関わっていたっていうんですか?」

 

「断定はできないけどネ。でも、ライフルマークが合えばこれは確認が取れる。そうしなくても、あの現場にこの家の紋章飾りが落ちていた関連は間違いないと思うわ。トリカブトなんて紋章に入れてる家なんてそうそうないからネ。」

 

 そう言ってエリーはマリーから渡された茶を一口飲む。

 

「でも、この家に禍の団とつながって得られるメリットなんてあるんですか?」

 

「そればっかりはねー。でも、サーゼクス様がいっていた不可解な金の流れも、禍の団とのつながりを示すものかもしれない。」

 

「活動のための資金提供、とかですか。」

 

「その見返りに何かもらってるって可能性もあるしね。なにせ家を盛り上げるためなら家族ひとつ離散させるくらいだし?何に手を付けてるかわかったもんじゃないワ。」

 

 皮肉げにエリーはそう言い、再びカップに口をつける。

 

「でも、いくらなんでもテロ組織に肩入れなんて……。リスクが大きすぎますよ。」

 

「そうでもないんじゃない?いかに各神話勢力のごった煮、船頭多くして船進まずの状態らしいけどそれをすべているのは一重にトップに最強の存在であるオーフィスを頂いているのよ。ボスの力を見越して……なんて言って近づく連中だっているはず。」

 

「じゃあひょっとしたら私たちはおろかお母様の身が……。」

 

「うんひょっとしたらアザゼル先生に救援を……ふぁあ。あれ、なんか急に眠く……。」

 

「……今日はいろいろ回られていましたからね。その疲れでしょう。少しでもお休みになってください。」

 

「うん、でも……まるで睡眠導入剤みたいな……。」

 

 パタリ、と靴も脱がずにそのままエリーは微睡の中に落ちた。それを見たマリーはだたひとこと

 

「……ごめんなさい。」

 

 そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「う、ん……。」 

 

 エリーは目覚めると、自身を縄で拘束され、椅子に座らされていた。ご丁寧に拘束魔術までかけられている念のいり様だ。

 場所は、屋敷でもっとも大きく広い食堂らしい。食堂と一言に行っても広さは下手な教会の講堂よりも広く、いたるところをステンドグラスで装飾されている。見れば周囲を複数の魔術師が男女問わず並んでいる。その中に、あの男はいた。

 

「目は覚めたか?エリザベス。」

 

「最悪の面を起き抜けに見て気分は最悪デース。」

 

 チャールズ・ドゥルイドだ。

 

「これは一体どういうことデス?私をしばって何をするつもり?」

 

「我々の協力者が君の遺伝子サンプルがほしいらしくてね。君の妹の協力のおかげですんなりいったよ。」

 

 チャールズの傍らには震えるマリーの姿があった。

 

「お姉様、これは……!」

 

「……あなたの紅茶を飲んでから眠気が襲ったから怪しいとは思ったけど……私の妹を使って何をするつもり!?」

 

「裏切られてもなお「私の妹」か。すばらしい、感動的だよ。ならマリア、君の口から説明したまえ。」

 

 そういってチャールズはマリーを突き出す。すると、マリーはたどたどしげに口を開いた。

 

「お姉様、私たちの遺伝子サンプルを提供すれば、お母様を返してくれるってそう約束してくれたんです。これで家族一緒にいられるんですよ!」

 

「……マリー、パパはどうするの?」

 

「あんな男……いりませんよ!お母様やお姉様が何度も手紙を送っても返事なんか来やしない。どうせどこかに女でも作って勝手に生きているんです。そんなの、どうでもいいじゃないですか!!」

 

「どうでもよくなんかない!!私たちのパパよ!?」

 

「だって、あの男がいたからこんなことになってるんですよ!?あの男が勝手にお母様と結婚して私たちを生んで、それで結局そのせいで離ればなれにさせられて……あの男でいなかったら私もいないだってことはわかっています。でも、それでもこんなことを起こした元凶のあの男が私は憎い!だから私はお姉様を手伝っている裏で動いてあの男は私たちに近づけないように手をまわしてたんです!!」

 

「……まって、それじゃあ本家からの要求がどんどん吊り上ってますますパパとママに会えなくなったのって……。」

 

「私が頼んだんです。お母様にも会えなくなったのは想定外でしたけど、あの男はもっとますます遠ざかって行ったので結果オーライです。」

 

 エリーは愕然とした。まさか自分のしていた裏で妹が裏切りを起こしていたとは。道理で研究で多額の利益を得られるようになってもなしの飛礫であったわけだ。

 だが、それ以上に初めて知ったマリアの父に対する思いがショックだった。自分がやっていたことがむしろ自分の妹を傷つける結果を招こうとしていたのだ。

 

「悲しい話だな。片方は家族全員でいられることを望み、片方はただひたすらに父を憎んでいたとは。」

 

 チャールズが皮肉を込めて言う。

 

「でも、これで私たちはお母様と一緒になれるんです。私たちを苦しめた元凶のあの男はいない、本当の家族になるんです!そうですよね、ねぇ!?」

 

 縋るようにマリアはチャールズに問う。

 

「ああそうだ。サンプルになってくれれば、な。」

 

「――え?」

 

 すると、チャールズは高速詠唱でマリアに拘束魔法をかけ、蹴りつける。蹴りつけられたマリアはそのまま転がってエリーの足元で止まった。

 

「マリー!?なにを――」

 

「言っただろう。二人まとめて禍の団の神器研究機関に送るサンプルにする――死体にしたうえでな。」

 

 チャールズの言葉に驚愕したのは他ならぬマリアであった。

 

「そんな、細胞片の一部でもとればそれでいいって――」

 

「誰がそんなことを言った?サンプルは数があるだけいい。貴重なゴジラに連なる者のものならなおさらだ。それから得られる利益を考えれば、お前たちがゴジラを宿す者の子を産むことより得だからな。」

 

 騙された――マリアの表情の裏にあるものはまさにそれだった。最初からこの男は自分たちを利用することしか考えていない。それどころか使いつぶした後は虫けらのごとく殺すことまでずっと考えていたのだ。

 

「そんな……なんで……?」

 

 ボロボロのマリアの問いにチャールズは答える。

 

「なぜ、だと?それはな……お前たちがあの男の子供だからだ!!私から従姉さんを奪ったあの男のな!!」

 

「奪った……?」

 

「ああ、そうだよ。もともと従姉さん、つまりお前たちの母は私と結婚する予定だった。私は小さい時から優しくしてもらったよ。従姉さん従姉さんってな。あの人は魔法の才能にもあふれ、それでいて優しい人だった。そして私はああ、自分はこんな素敵な人と一緒になれるんだと思っていた。事実、愛していたんだ。それを――それをあの男が横からかっさっていった、お前たちの父がな!!」

 

 興奮するチャールズはさらに怒りのボルテージを上げる。

 

「こんなことが許されると思うか?家の何の事情も知らない男が無責任に従姉さんと子を作り、あげく「家の事情は知らないが、自分たちは自分たちで幸せにやっていく」とのたまった!何百年も続くドゥルイド家の伝統を踏みにじったんだよ!それも私の目の前で言い放った!!だから引き離してやったんだよ、お前たちを。だがな、あの男はそれでもなんていったと思う?「私はどうなってもいい。だが、妻と娘たちには手を出さないでくれ。」だと?なんでこうなったのか想像しろ!!お前の無責任な行動のせいだろうが!!だが何よりもあの瞳が気に食わなかった。まっすぐな、あの目を。ああ、今でも思い出す。まるで自分が正しいといわんばかりのまっすぐな瞳。そこに映った自分の姿はひどく醜かった。嫉妬におぼれ、自暴自棄になりかけてたあの自分の姿。それをムザムザと見せつけられているようで、許せなくなって――」

 

にやり、とチャールズは醜く笑って言い放つ。

 

「――殺してやった。」

 

その言葉に、マリアとエリザベスは呼吸を失った。

 

「ああ、そうか、まだ言ってないんだったな。殺したんだよ、お前たちの父親を、私が。随分とあっけなかったもんさ。」

 

「そんな……どうして……?」

 

「どうしてもこうしても、許せなかったからさ。私の思いも、ドゥルイド家もすべてコケにしてくれた上にそれらを守ろうとした私を醜く見せたあの男が。だからお前たちも憎い。正直、この家からお前たちが消えてくれさえすれば私はどうでもいいんだよ。」

 

「だからって……だからって……!」

 

「だがこれからは違う。私はこの家を守るために禍の団と組むことに決めた。何よりオーフィスの存在は大きい。彼の庇護を仰ぐことができればこの家はさらに大きくなる。そうすれば、あんな自分の姿を見ることはもうない。」

 

 チャールズは歩き出し、ステンドグラスを背にして立ち止まる。

 

「さあ、これから新しい門出だ。そのためにも従姉さん、自分の不始末は自分で片づけておくれよ。」

 

 そうマーリンが言うと、背にしたステンドグラスが割れ、巨大な何かが屋敷内に入ってくる。それは、木でできた巨人であった。

 

「私の得意分野はこの家の名の元になったドゥルイドの秘術でね。これをその一つの「ウィッカーマン」さ。私なりのアレンジが加えられているがね。」

 

 そういうと、木の巨人の一部が開き、そこにぐったりとした人影が見えた。その姿を確認したエリーは思わず叫んだ。

 

「ママ!?」

 

「ウィッカーマンはいけにえを神々に送るための儀式。本来はウィッカーマンを火にかけるところだが、今回はお前たちの命を手折り、その生き血で赤く染めて炎に見立てよう。そして、この家の未来の生贄となるのだ。そして約束通りお前たち家族を一つにしてやろう――あの世でな。」

 

 それを彼女たちを生んだ母親にやらせようというのだ。彼女は目を覚まし、自身の娘の姿を確認すると弱弱しく言う。

 

「だめ……二人とも逃げて……。」

 

「ママ、すぐ助けるから!」

 

「させるとおもうか?さあ、やれ。」

 

 チャールズの号令と同時に巨大な拳がエリーに襲い掛かる。それを寸ででよけると椅子がばらばらに砕けた。そして彼女は獣具《古代獣王の武装巨腕(エンシェントキング・ギガント・アームズ)》を出し、拘束魔法を巨大な腕で引きちぎる。

 

「マリー!」

 

 次に狙われたのは横たわって動こうとしないマリーであった。ウィッカーマンの拳が振り下ろされるものの、エリーの獣具の巨大な腕がそれをはじいたうえでマリーに掛けられた拘束魔法を破壊する。

 

「マリー、しっかりして!」

 

 しかし、マリーはショックで呆けており、まともに呼吸さえ取れないでいる。 

 

「そんな……私は、ただ……。」

 

 やっと紡いだその言葉にはただただ空虚さが漂っていた。良かれと思い、あえて敬愛する姉を裏切ってまで行動していた彼女にとってこれまで積み上げてきたすべてが崩れ去って突然海中に落とされたようなものだ。今自分を裏切られてもなお庇ってくれた姉にも何の反応を示せないでいる。

 

「マリア!」

 

 マリーの両肩を揺さぶり、気を取り戻させようとするエリー。しかし、その隙をウィッカーマンは見逃さない。その巨大な躯体を支える片足を上げ、二人を踏みつぶさんとする。

 それを察知したエリーはとっさにマリーを突き飛ばし、自身もその反動で踏み付けを回避した。今度はその一瞬の隙をエリーが狙う。

 

「ママを……返せ!!」

 

 獣具の巨腕を杖代わりに魔術の砲身にし、エリーは衝撃を伴った魔術の一撃を放つ。その一撃は見事にウィッカーマンを穿ち、ダメージを与えることに成功する。

 しかし。

 

「ああっ!!」

 

 直撃を受けていないはずのエリーの母が苦悶の声を上げる。攻撃を受けたのはウィッカーマンのみであり、これ見よがしにむき出しになっていた母には何の影響もないはずである。

 

「ああ、一つ忠告しよう。従姉さんとウィッカーマンには神経的なつながりがあってね。操っているのはもちろん私だが、ウィッカーマンがダメージを被ると従姉さんにもその痛みが伝わるようにしてある。」

 

「そんな……!」

 

「確認したいならもう一度やってみるがいい。まあ、ただでさえ体力が無い今の従姉さんの体だ。ショック死、なんてこともありうると思うがね。」

 

 チャールズの言葉に、エリーは怒りを覚えた。父を殺し、母と自分たちを身勝手な理由で虐げておきながら尚も弄ぼうとするその行動が許せなかった。

 

「チャァァァァルズウウウウウウウウウ!!!」

 

 しかし、叫んでもチャールズの顔は愉悦に醜く歪むだけ。母を助けようにも迂闊に手が出せない。さらに、マリーはショックで動けずにいる。

 完全にチェックメイトであった。

 だが、その時もう動けないと思われたマリーが動いた。

 

「――!」

 

 突如、マリーは立ち上がり意を決したように扉に向けて走り出す。そしてそのまま食堂を出ていく。もちろん、チャールズの取り巻きが止めようとするも、チャールズはそれを制する。

 

「構わん。どこへ逃げようとも後で探し出して殺せばいい。しかし、まさか最愛の姉を見捨てて逃げるとはな。流石にわが身恋しくなったか?」

 

 チャールズはそう言い罵倒するが、エリーはそうではなかった。こんな状況なら本当なら自分も逃げ出したいところである。いっそ生き延びてくれるのなら、ここは自分にまかせて妹にはただ逃げてほしかった。

 

「さあ、標的が一つに減ったおかげでやりやすくなった。従姉さん、ここはすぐ終わらせて早く次にいこう。」

 

 ウィッカーマンがにじり寄り、エリーは徐々に壁へと追いやられていく。逃げ場はもうない。抵抗しようにもその攻撃のダメージが母に行くと思うと全く手が出せない八方塞であった。

 ゆっくりとウィッカーマンの右腕がエリーへと伸び、その身を握りつぶさんとしたその時。

 

「お姉様は……やらせない!!」

 

 決意の炎が燈った瞳のマリーが再び現れた。手にあるものを持って。

 すでにマリーの足には獣具、《偽獣王の俊敏烈脚(イミテーション・キング・ハイヒール・レッグ)》が装着されている。そして獣具が持つ敏捷性と機動力を持って一気にウィッカーマンの巨体にしがみつく。

 

「何をしている、振り落せ!!」

 

 チャールズの命令の下、ウィッカーマンはエリーを狙っていた腕を戻し背後に回ったマリーを何とかしようともがくがマリーは必死になってしがみつき、懐に入れたあるものの一つを取り出す。

 それは中に薬品が入った注射器であった。そのうちの一本をマリーはウィッカーマンに突き立てた。

 

「注射器?何の薬品かは知らんがそんなものがウィッカーマンに効くとでも――」

 

 しかし、変化はすぐに訪れる。ウィッカーマンが突如としてよろめき始めたのだ。巨大な樹木の巨人が酩酊したかのようにふらついているように見える。

 やがて膝をつき、ウィッカーマンは仰向けに倒れてしまった。

 

「姉様、今です!」

 

「――!わかったヨ!」

 

 すぐさまエリーが仰向けになったウィッカーマンの上に乗り、囚われの母を引きずり出し、その場から離れる。 

 

「何をしている、撃て!」

 

 チャールズの取り巻きたちが魔術攻撃を一斉に放つものの、エリーが背負う巨腕に阻まれる。その間の一瞬の隙をついてマリーがエリーにもう一本の注射器を投げ渡す。

 

「お母様をお願いします。私はこっちを……!」

 

 空虚な入れ物となったウィッカーマンがのた打ち回っている。いかにコアにされた母を抜き取ったといってもまだ機能は生きているのだ。ここで破壊する以外にない。

 そのマリーの決意に、獣具が反応して変形を始めた。まず、脚を覆っていた装甲がパージされ、徐々に形を変えていく。そして出来上がった形は一丁のランチャーであった。

 

「さあ、燃えなさい。お母様を利用しようとした不埒な操り人形……FIREァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!」

 

 ランチャーの銃口から青白い熱線が飛び出す。その威力は絶大で、主無くしたウィッカーマンは一瞬で炎に包まれ燃え盛っていく。まるで生き物のようにもだえ苦しみながら燃え落ちていくさまはグロテスクであった。

 その間にエリーは母の腕に注射器を打ち、薬品を注入させる。すると、先ほどまで青かった顔色が少し血色よくなったように見えてきた。

 

パチ、パチ、パチ、パチ……

 

 拍手で見下ろすチャールズが不機嫌そうに眼下の家族を見る。

 

「実に鮮やかな手回しだった。一体何をしたのかな?」

 

「簡単ですよ。降圧剤と昇圧剤を使っただけです。」

 

 降圧剤とは、高血圧の患者に投与される薬品であり、血圧を下げる薬である。それを規定以上に投与すればどうなるか。もちろん血圧を下げる薬なのでめまい、ふらつきといった症状が出て倒れこむ。

 そこへエリーが母を引きずり出せば薬の効果はなかったことになる。しかし、影響が残っていることも考え、今度は血圧を上げる昇圧剤を最後に投与したのだ。ちなみにいうとこの昇圧剤、主成分はアコニチンというトリカブトからとられたものである。

 

「皮肉ね。家を思ってこんな行動に出て、なのに家の象徴のトリカブトに助けられたのは私たちなんだから。」

 

 エリーがそう皮肉を込めて言うが、チャールズの反応はない。

 

「ああ、やっぱりそうか。従姉さん、いつも言っていたなぁ。「自分のことは自分でしなさい。」本当にその通りだよ。ちょっとでも楽しようとした私が間違えていた。こういうことは自分でやらないとなぁ。」 

 

「何を――!?」

 

 突然、マリーの意識が飛んだ。何が起きたのかはわからない。ただわかるのは自分の体に大きな痺れが残っているという点だ。

 倒れるマリーの首を、チャールズがその腕でつかみ、持ち上げる。その腕には奇妙なガントレットが装着されていた。緑色のそれは表面がまるで両生類の皮膚のように凸凹としており、見るものに不快さを与えるものであった。

 

「何も驚くことはあるまい。お前たちと同じ力じゃないか。」

 

「そんな、まさか……獣具!? 」

 

 その両腕からは放電が起きており、いつでも放てることを意味していた。

 

「《悪徳獣の放電腕甲(ガバラ・ディスチャージハンド)》という代物でね高い金を払って禍の団から買い取った代物だ。能力は、この通り。」

 

 チャールズはそのままマリーの首をつかんで持ち上げ、放電をする。

 

「ああああああああああああああああ!!!」

 

 そして興味がなくなったのかエリーの元に放り投げる。

 

「マリー、しっかりして!!」

 

「楽に殺す、というのはしない。エバートの時に加減の方法というのを知ったからな。」

 

「エバートもお前が……!?なんで!」

 

「奴は駒王学園襲撃の時に真っ先に逃げ出した。たかが首を撃たれたくらいで逃げ出すとは指揮官失格だ。だから利用価値がないと判断してこの獣具のテスト台にした。」

 

「そんな、ことで……。」

 

「さあ、そんな話ももういいだろう。家族そろっての死出の旅。私がお見送りしよう。」

 

 その両腕の獣具には大量の電気が帯電している。まともに食らえば確実の死ぬほどの電気量だろう。せめてでも、とエリーは母と倒れるマリーを抱き寄せる。

 

「さあ、さようなら。」

 

 悪徳獣の放電腕甲から放電が伸びる。その速さは光速に等しい。互いを思う時間も、思い人の顔を思い出すことも構わないのか。

 せめて最後にあの人の顔が見られれば――

 

「――?」

 

 しかし、いつまでたっても電撃が来ないことに違和感を感じたエリーはそっと目を開ける。そこには、青く光る魔法陣。その中には二人に男性がいる。そのうちの一人がこちらに気づいて振り向き、不敵な笑顔を見せた。

 

「よお、よくここまで頑張ったな。」

 

「そんな、嘘――」

 

 そう、その姿は自分に居場所と抗うすべを教えてくれた心の底から会いたかった人。

 

「私はその周りの取り巻きどもでもやっておきましょう。お膳立てはこのマクレガー・メイザースが買って出ましょう。」

 

「じゃ、お願いします。そんじゃ、目の前のこいつ、お前たちの代わりにぶん殴ってやるから待ってろ。」

 

 修羅場を抜けてきた少年は、邪悪なるものの権化の前に立ちはだかる。

 

「何者だ?貴様。」

 

「通りすがりの怪獣王だ。」

 

 宝田大助が、このイギリスの地に立ったのである。




 ということで下種な奴が出てくるとなぜか筆が乗る(当社比)オンタイセウです。
ちなみにチャールズの名前の元ネタは1998年版のヒロインが務める通信社の上司で、エバートはこれまた1998年版のNY市長が元ネタです。なお、外見は全く参考にしていませんのでご注意を。
 なお、感想などもお待ちしております。ただ、メンタルが非常に弱いのできついことを言われると「1・2・3・RiderKick!!」になりますのでご勘弁を。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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