……サブタイトルでわかっちゃう人絶対いるよね。
そして前回たくさんの感想をいただきました。本当にありがとうございます。
それはまさに世紀末の光景であった。赤と黒の禍々しき獣が本能のまま争う。
弾かれたドラゴンはバランスを崩しつつも空中でそれを整え、再び突貫せんとする。だが、ゴジラに変化が起きる。
口をバクリと開け、下顎までが裂ける。背びれや赤く光っていた部位が紫色の発光を示す。途端に黒煙を吐き、徐々に灼熱の炎へと変わっていった。炎の勢いは凄まじく、リアスたちが退避した場所にも熱気が届くほどであった。
やがて炎は収束し、紫色の熱流の束となりドラゴンに注がれる。ドラゴンは羽のひと仰ぎで打ち消そうとするも、絶え間なく浴びせられる熱流に押されてしまう。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』
『Longinus Smasher!!!!!』
再び発射されるロンギヌス・スマッシャー。その一撃は熱流を掻き消しダイスケに直撃する。しかし、鎧のころよりも強固になった表皮はそれを弾いた。
だが、流石にその勢いを殺しきれなかったのかゴジラは転倒する。その一瞬の間にドラゴンははるか上空に舞い上がった。上空から狙い撃ち、砲撃の威力で封殺し、圧殺するつもりだ。
それを察したのか、ゴジラは背部にエネルギーをため、背びれから幾条もの対空熱流を放射する。その無数の熱線一つ一つは先ほどの熱線と同じ威力であった。そのため、ドラゴンはひたすらに回避し、熱線の隙間を縫ってマスクから赤いレーザーを照射する。
幾度も自身に当てられたレーザーで対空熱流が意味をなしていないことにゴジラは気付く。そこで背びれからの放出を止め、今度はその異常に長い尾の先端から熱線を発射し、再び口からも熱流を噴出させる。この効率化でよりドラゴンに熱線を当てられるようになったのだ。
だが、双方がどのような手を打っても決定打にはならず、延々と互いに傷つけあっている。
そんな地獄絵図がリアスたちの目の前で展開されていた。先ほどまでいた神殿もすでに完全に倒壊しており、元の面影はない。件の神滅具で作られた拘束具も二匹の怪物の闘争の影響ですでに形もない。
本来戦うべき相手はもういない。しかし、片方は暴走し、もう片方は己の身を守るために異常をきたした。互いが互いに障害となってしまっているためにどちらかではなく双方共に止めなければならない。だが、リアスたちにそれをする手段がなかった。ただ見ているほかないのが現状だ。
「困っているようだな。」
その時、ヴァーリの声が聞こえる。声の方向を見ればいつの間にかヴァーリをはじめとして美猴、そしてコールブラントと
三名ともすでに名の知れた禍の団構成員である。そのためリアスたちはすぐに戦闘態勢を取る。
「やりあうつもりはない。ただ赤龍帝の覇龍を見に来ただけだ。そのついでに別の面白いものも見れたがな。とはいってもあれは共に中途半端な状態のようだ。アレがこの強固なフィールドの中で起きたのは幸いだったな。人間界であれが起きていたら都市が一つ消えてなくなっていただろう。」
状況をつかんでいるらしいヴァーリにリアスは問う。
「……二人とも、元に戻るの?」
「兵藤一誠のほうは完全な覇龍ではないから戻る可能性もある。しかし、止められなければ命を消費し続けて自滅する可能性がある。いずれにしろ彼自身の命が危険だ。宝田大助のほうはおそらくゴジラによる緊急事態回避措置の一つなのだろう。目の前の危険を取り去れば抑えるのは簡単なはずだ。問題はどうやっておとなしくさせるかだが。」
すると、美猴が一人の少女を抱えて木場に歩み寄る。
「このお嬢ちゃん、お前らのとこのだろ。」
それはアーシアであった。見たところ気絶はしているが目立った外傷はない。そのアーシアを木場が美猴から受け取る。
「アーシア!」
「アーシアちゃん!!」
リアスと眷属一同がアーシアの下に集まる。その無事な様子に皆涙ぐんでいた。
「でも、どうしてあなたたちが?」
木場の疑問にアーサーが答えた。
「私たちはちょうどこのあたりの次元の狭間を調査していました。そこに彼女が飛び込んできたんですよ。ヴァーリが見覚えがあるというのでここまで連れてきた次第です。ですが運が良かった。私たちがあそこに偶然居合わせなければ彼女は次元の狭間の『無』に当てられて消失するところでした。」
「……単なる気まぐれだ。助けようと思って助けたわけじゃない。」
そのアーサーの説明でリアスたちは会得した。
「よかった……本当によかった……!」
アーシアの無事を確認したゼノヴィアが安堵でその場に崩れ落ち、ひたすら涙を流した。そのゼノヴィアに木場はアーシアを託す。
「――あとはイッセーとダイスケだけど。」
リアスが二人の方向に視線を向ける。二匹の怪物はまだ瓦礫の上で不毛な争いを続けている。
「アーシアの無事を教えればイッセーだけでも止められないかしら。」
「無理だ。死ぬぞ。まあ、止めはしないが。」
そっけなく言うヴァーリに朱乃と小猫が詰め寄る。
「頼める間柄ではないというのは承知しているけれども、それでもお願い。彼らを助けるのに手を貸して。赤龍帝と対となる白龍皇の貴方ならば彼らを抑えることもできるのではなくて?」
「……私からもお願いします。私たちも全力を尽くします。ですからどうか……。」
取りつくしまもないように見えたヴァーリであったが、しばし顎に手をやって考える。
「そうだな、兵藤一誠に関して言えば彼の何か深層心理に大きく影響を与える現象を起こせばいいと思うが……。」
「なら、おっぱいでも見せりゃあいいんじゃね?」
美猴が頭を掻きながら適当そうに言う。正直、グレモリー眷属のだれもがそう一瞬考えたが今はまじめな場面である。誰も指摘できなかった。
「だとしてもあの状態ではな。ドラゴンを鎮めるものと言えば歌だが、赤龍帝と白龍皇の歌なぞこの世には――」
「――あるわよぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
*
「あー、やっと着いたー。って、なにあれ!?アレが今のイッセー君と宝田大助!?聞いてはいたけどとんでもないことになってるじゃない!!」
「イリナ、どうしてここに?」
ゼノヴィアが聞くと、イリナは悪魔が用いる立体映像機器を地面に置いた。
「イッセーくんが危険な状態になったのは観戦ルームやこのフィールドで戦っていたお偉い方々にも把握されているの。で、このままではいけないとルシファーさまとアザゼルさまが秘密兵器を私に持たせてくれたわけ!ちなみに転送してくれたのはオーディン様よ!すごいわよね、北の神さま!そんでもってこれが、その秘密兵器!いざ、起動!!!」
イリナがボタンを押すと空中に大きな映像が投影される。そして始まったのは――
『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』
元気良く宣言した鎧姿のイッセーの周りに、子供たちが集まってくる。
『おっぱい!』
「おっぱいドラゴンの歌」
作詞:アザ☆ゼル
作曲・企画:サーゼクス・ルシファー
ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん
とある国の隅っこに
おっぱい大好きドラゴン住んでいる
お天気の日はおっぱい探してお散歩だ☆
ドラゴン ドラゴン おっぱいドラゴン
もみもみ ちゅーちゅー ぱふんぱふん
いろいろなおっぱいあるけれど
やっぱり おっきいのが一番大好き
おっぱいドラゴン 今日も飛ぶ
(以降はご自分でお確かめになってください。心が平穏を保てるならば。)
・
・
・
・
―― な ん だ こ れ は ――
大方イッセーが皆に隠れて撮影していたものはこれのことなのだろう。どうやら子供番組用のPVらしい。それにしても作詞、作曲、企画、振り付けがとんでもないことになっている。三大勢力和平後の最初の合作がこれでいいのだろうか。
「うぅ、お、おっぱい……。」
しかし、物は悪いが効果はあったようでイッセーが初めてまともな言語をしゃべった。いや、常識的に考えて決してまともな単語ではないが。
「良かった、反応したわ!」
「……こ、こんなところでも『やらしい赤龍帝』……。」
素直に歓喜するリアスとこんな状況でも平常運転なイッセーに頭痛が起きた小猫である。そして効果があったことを確認したイリナはついにリピート再生のボタンを押した。
延々流される教育番組用なのに教育上よろしくない歌がイッセーを狂気と平静の間で苦しめさせ、ダイスケもといゴジラは何が起きたのかと虚無の瞳をぱちくりとさせて呆然としている。
「そうだわ、リアス!あなたの乳首をここで使いましょう!」
朱乃がこの空気に呑まれたのかとんでもないことを口走る。
「あ、朱乃!?何を言っているの!?」
「イッセー君はあなたの乳首で禁手に目覚めた。なら、きっとその逆も可能なのではなくて?まず、ヴァーリの力で今のイッセー君の力を半減させ、そして貴方の乳首を触らせるの。ほら、見て!!」
朱乃が指差すイッセーの姿は、リアスの方向を向き、まるで何か押すスイッチを探しているような姿であった。
「ぽ、ぽちっと、ぽちっと、ずむずむいやーん……。」
「今のを聞いた?イッセー君は今、あなたの乳首を求めているわ。ふふ、私じゃないっていうのが悲しいわね……。でも、イッセー君を救うにはこれしかないわ。」
「……俺は別にかまわんが、リアス・グレモリーの乳首は兵藤一誠の制御スイッチか何かなのか?」
美猴がそれを聞いて「いいね、スイッチ姫ってか!?」と大笑いする。それを一度キッと一睨みしたリアスは朱乃に問う。
「で、でも!わたしがイッセーを制御する役割だとして、誰がダイスケを抑えるの!?」
『それは我らに任せてもらおう。』
突如、複数人の声が聞こえる。そこには二人の男と一人の女の姿があった。
「なに、安心せい。わしらとあの
大きな樽を持った褐色の肌の小柄だが逞しい男が言う。
「そなたらは赤龍帝に専念されよ。」
手に金色に輝く直剣を持つ金髪のすらりとした狩衣姿の男が前に出る。
「彼は私たちが責任を持って元の姿に戻しましょう。」
手に扇子を持った、髪をひとまとめにした女性が言う。
「あ、あなたがたは……?」
ここにいる、ということは神話関係の者たちだろう。そして恰好からするに日本神話のものだろうか。しかし、リアスはこの三名のことを知らない。
「知らぬ、か。いや、それもしかたなきことよ。ならば名乗らせてもらおう――われら、日ノ本を守りし三柱の巨獣なり!」
「
「でも最近はそんなことも言ってられない!」
「我、地の聖獣、
小柄で褐色の男が樽を置いて馬鍬を手にしてポーズをとる。
「我、海の聖獣、
髪をひとまとめにした女性が舞う。
「我、天の聖獣、
狩衣の男が天に剣をかざす。
「我ら、護国三聖獣――」
『三柱揃ってここに見参!!!』
最後にどーんと三人の背後で大爆発。どう見ても戦隊物のそれだ。
「ほら、うまくいったじゃないですか!」
「うん、わしも気に入ったぞ。」
「いや、若干引いていないか?」
魏怒羅と名乗った男の言うとおり、リアスたちはおろかヴァーリたちも若干引いていた。
「兎にも角にもぬしらはあのみょうちきりんな歌と乳首で赤龍帝に集中せい。わしらは呉爾羅にこの
婆羅護吽がトン、と脇に置いた樽を叩く。
「八塩折の酒!?あの邪龍、八岐大蛇すら酔わせたという!」
朱乃が目の前にある樽の正体を聞いて驚く。八塩折の酒とは、かの
「八塩折の酒の効果は呪いの域。戦闘でエネルギーを発散させ、その上でこれを飲ませればあれほど荒んだ魂も酩酊し、元に戻ることでしょう。本来はこの後の祝勝の宴で皆にふるまう予定だったのですが。」
最珠羅がそう言って胸を張る。相当な自信のようだ。
「だが、不完全とはいえ
ヴァーリが疑問を漏らす。自身も覇龍の力を知っているからこその言葉であった。しかし、魏怒羅がヴァーリに剣を向けて言う。
「なめるなよ、小僧。そこの最珠羅は世代交代をしたがゆえに経験していないが、俺と婆羅護吽は聖書の神が行った呉爾羅封印にも参加しておる。その前にも何度も奴とは闘っておるのだ。年季が違うと覚えておけ。」
「ほう、聖書の神と……確かに俺の見聞違いだったようだ。言葉通りなら戦闘力に問題はない、な。」
「そういうことだ。では皆の者、準備はいいか!」
魏怒羅の合図で、全員が身構える。そして朱乃と魏怒羅が宣言する。
「ええ、はじめましょう。『リアスの乳首によるイッセー君制御作戦』および『ヤシオリ作戦』――」
「――作戦開始!」
その号令により、まず、ヴァーリが動く。すぐさま鎧を展開し、半減の力を使いつつイッセーをリアスの元に引きずり寄せる。
「では神獣たちよ、
ヴァーリの言葉よりも早く、最珠羅が手にした扇をはためかせる。すると、とてつもない突風が起きた。その威力たるやロンギヌス・スマッシャーでようやくよろめいたゴジラを動けなくさせるほどであった。
「シャァァァアアアアッ!!」
すると、動けなくなったゴジラに向けて突如地中から飛び出した婆羅護吽が手にした馬鍬で突撃を加える。MMSのベネットと同じく地中を潜ってきたのだ。しかし、そのスピードはベネット以上。そのスピードに乗った一撃がゴジラの表皮に傷をつけた。
グゥルルルルルルルルルル……
ゴジラが自分につけられた傷を見やり、そして宙に浮きその存在を誇示する魏怒羅を見る。すると、突如として変化は起きた。
黒い皮膚の赤く光っていた消え、徐々に皮膚が固く引き締まっていく。そのためか徐々に三メートルほどあった巨体が徐々に縮み、先ほどまでより腕が若干伸びる。そして、より獣のような顔つきになり、その虚無の瞳は白目だけになる。
「ほう、我らの姿を見て思い出し、より戦闘に特化した姿になったか。」
魏怒羅の言うように、先ほどの形態よりもゴジラの姿はより格闘戦向きに変化しているようであった。そして、全身から放つオーラも変質しているらしかった。
「これは……なんという怨念。封印した私たちをよほど憎んでいるのでしょうね。」
「いずれにせよやることは変わらん。続けるぞ!」
そういって最珠羅が滑るように地面の上を飛び、婆羅護吽が地を駆ける。その二柱に対し、ゴジラは薙ぐように熱線を放つ。それを紙一重で避けるが、的を外した熱線の威力を見て驚愕する。
着弾点がまるで核兵器を使ったかのような大爆発を起こしたのだ。強固な結界の中であったからこれで済んだのであって、もしも人界で放たれていればこれ以上の大破壊、それこそこの一発で都市の一つは消し飛んでいただろう。
「そうであってもぉ!!」
魏怒羅が上空から唐竹割でゴジラに斬りかかる。その切り裂かれた傷口に放電現象が起きた。
「暴走するだけのお前は以前より御しやすい!!」
言いながら今度は一文字に斬る。その一撃を受けてたまらずゴジラが後ずさりをする。そのゴジラに今度は最珠羅が扇を一薙ぎした。すると扇から無数の小さな針が飛び出し、ゴジラを直撃する。その着弾点は煙を発していた。
「軽い神経毒入りです。酔いなさい!」
思わずよたったゴジラの足元が突如崩れる。地中から飛び出した婆羅護吽の仕業だ。その手にはあの八塩折の酒の樽がある。
「さあ、神の酒を飲み干せ!!」
注ぎ口をゴジラの口にあてがうと、婆羅護吽は樽に急角度をつけた。そそがれる液体の本質を見抜いたのか、すぐに口を放すゴジラ。
そして、樽を持つ婆羅護吽に向けて熱線を放とうとするが、目の前が金色の粒子でおおわれる。それにかまわずゴジラは熱線を放つが、眼前で暴発した。
「粉塵爆発って知ってるか、って奴ですよ!」
最珠羅の仕業であった。最珠羅はもともと巨大な蛾の怪獣である。その翼の鱗粉を扇から放って粉塵爆発を起こさせたのだ。自分の必殺技の威力に朦朧となるゴジラに、魏怒羅が直剣から金色の稲妻を放つ。
「我の『引力光線』で縛ってくれる!!」
その言葉通りにゴジラは引力光線が作る重力のフィールドにとらわれ、動けなくなった。そこへ、再び婆羅護吽が突撃をかける。
「さあ、こんどこそぉぉぉおおおおおお!!」
自身も引力光線の威力に巻き込まれることを覚悟しての行動だ。気合のまま再びゴジラに八塩折の酒を飲ませる。先ほどとは違い、ゴジラも今度は抵抗できない。重力に従って落ちる酒をのど奥に流し込まれるがままだ。
「よし、飲み干した!」
樽を投げ捨て、婆羅護吽が言う。魏怒羅も光線を放つのを止め、その様子を見た。見れば明らかにゴジラは酩酊しており、今にも倒れそうだ。しかし、最後の気力を絞って咆哮する。
ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
その叫びに残っていた気力を使い切ったのだろう、その断末魔をあげながらゴジラの体は青白い炎に包まれ、その炎が消えた後には腹部の傷も消えたダイスケの姿が残った。
意識を失っているのか、ダイスケは倒れかかる。しかし、それを最珠羅が受け止めた。
「まったく、本当に手間のかかる子ですね。呉爾羅というものは。」
抱きしめたダイスケが安らかな呼吸を立てていることに気付いた最珠羅が安堵する。それを見た魏怒羅と婆羅護吽もほっと胸をなでおろす。
「……どうやらあちらも済んだらしい。」
リアスたちの方角を見て、魏怒羅が言う。見ればダイスケと同じように意識を失っているイッセーが仲間に囲まれていた。
「さて、私たちは退散しますか。」
そう最珠羅がいうが、魏怒羅と婆羅護吽は首を横に振る。
「いや、最珠羅はその人の子のそばにいてやれ。何かあった時のためだ。」
「魔王たちやほかの神々にはわしらが事の顛末を説明しておく。その人の子は頼んだぞ。」
「ええ、任されました。」
*
「……んあ?」
ダイスケは目を覚ます。
記憶が正しければダイスケの記憶は暴走したイッセーの一撃を腹部に受けて昏倒したはずだ。それ以降の記憶がはっきりとしない。目覚めたばかりだからか目がぼやけているうえにそしてなぜか全身がしびれるように痛い。おまけに以前酒を飲まされた時のような酩酊感がある。
だが、自分の頭がそれらの感覚とは違う、何かやわらかいものの上に置かれていることに気付く。
(――なんだ、これ。)
気になって触ってみるのとそれは人の皮膚のような感触を持つことがわかる。
(あー、なんか柔らかくって気持ちいい。)
感触が気に入ったので撫でてみる。すると、不意に声が聞こえた。
「あ、あのー、なるべくならそこは触らないでもらえると助かるのですが……くすぐったいので。」
聞こえたのは知らない女性の声。徐々に回復してきた視力のおかげで今がどういう状況なのかようやく分かった。
この声の持ち主の女性に膝枕されているのだ。
「どぉうわ!ななななななんで!?」
自分の置かれた状況に気付いて慌てて飛び起きるダイスケ。
「ああ、急に飛び起きては。」
「すいません、すいません、何が起きたのかわからないのですがとにかくすいません!!」
ただひたすらに土下座するダイスケ。その様子に最珠羅は苦笑する。
「あらあら、そんなに頭をこすり付けては。まあ、いろいろと大変だったのは間違いありませんが。」
「あの、いったいなにが?途中で記憶が飛んでいるもので……。」
「やはりそうなのですね。ではまずは自己紹介いたしましょう。私はインファント島から来ました護国三聖獣が一柱、最珠羅といいます。暴走したあなたを他の二柱とともに止めるためにはせ参じました。」
「インファント……護国三聖獣……って、あの!?モ、モ、モ、モスラ!?」
「ああ、あなたはご存じなのでしたね。」
「そりゃ、もちろん。ってことはバラゴンとギドラも!?ど、どこに――」
「彼らはあなたを私に預けてここを発ちました。」
ダイスケは慌てた様子であたりを見渡す。確かに、近くにはいつもの見慣れたリアスたち、そしてなぜかいるヴァーリたちの姿があるだけだ。
そして、ダイスケが覚醒したのに気付いたリアスたちがやってくる。
「ダイスケ!あなたも無事なのね。イッセーも目覚めてるわよ。」
「はい、まあなんとか。って、アーシア?何でここに。」
「自分でもよくわからないんですけど、ヴァーリさんたちに助けていただいたらしくて。」
「は?なんでヴァーリ?っていうかなんでいるのよ。」
「それは――そろそろ来るか。」
そういうヴァーリが睨む方向の空間に巨大な穴が形成される。
「よく見ておけ、特に兵藤一誠。アレが俺が見たかったものだ。」
そこから現れたのはあまりにも大きな一匹の龍であった。その大きさはタンニーンをはるかに超えた巨体を誇っている。
「『赤い龍』と呼称される龍は二種類いる。一つはウェルシュドラゴン・ドライグ、赤龍帝。もうひとつがあの『
雄大に空間を泳ぐグレートレッドを見て口をぽかりとあけているイッセーにヴァーリは続ける。
「今回の俺たちの目的はあれの姿を確認すること。シャルバたちのことなんかどうだっていい、オーフィスがここにいるが、その本当の目的もアレを確認することだったんだ。そして、あのグレートレッドは俺の倒したい最終目標だ。」
「あ、あれを倒してどうしようっていうんだよ?」
「兵藤一誠、さっきも言ったようにグレートレッドの異名は『
そう語るヴァーリの瞳は今まで見たこともないくらいまっすぐであった。イッセーも彼が悪の道を歩んでいることは重々承知している。しかし、そんなヴァーリに純粋な夢があることは意外であった。
「――久しい、グレートレッド。」
すると突然黒髪黒ワンピースの少女が姿を現す。
「おい、あの小っちゃい子なんなんだ?」
ダイスケの言葉でその素姿を確認したヴァーリは苦笑し、教える。
「――オーフィスだよ。無限を司るウロボロス。」
その名をすでに禍の団の首領の名として知っているダイスケはすぐさま戦闘の構えを取る。しかし、それを最珠羅が止める。
「気持ちはわかりますが、我々全員でかかっても届きません。抑えてください。アレはそれほどの存在なのです。」
その証拠にダイスケが発する殺気に意も介さずオーフィスはグレートレッドに指鉄砲を向けてバン、と放つ動作をみせる。
「我は、いつか必ず静寂を手に入れる。」
「悪いがそのために世界のバランスを崩してもらっては困るんだよ。」
その声とともに、アザゼルが天から舞い降りる。共に地響きを立てて着地するのはタンニ―ンだ。
「先生、おっさん!」
「おー、イッセーもダイスケも無事だったか。イッセー、お前ならあの歌が元に戻るキーになると信じてたぜ。ダイスケも護国三聖獣に任せてよかった。」
「ふははは、流石乳が好きな赤龍帝だ。しかし、オーフィスを追ってきたらとんでもないものが見れたな。懐かしい奴だ。」
アザゼルとタンニ―ンも視線を上空のグレートレッドに向ける。その様子を見て、イッセーはタンニ―ンに尋ねる。
「懐かしいって、ひょっとして、おっさんグレートレッドと戦ったことでもあるの?」
「そうしたかったがな、相手にもしてくれなかったよ。」
タンニーンも元とはいえ龍王だ。それが歯牙にもかからなかったとはいったいどれだけの強さをあのドラゴンは秘めているというのか。
そんな中、ヴァーリがアザゼルに話しかける。
「久しぶりだな、アザゼル。クルゼレイ・アスモデウスは倒したのか?」
「ああ、サーゼクスがな。頭が潰れれば下についていた奴らは逃げ出したよ。どうやらシャルバもこっちで片が付いたみたいだがな。さて、オーフィス。冥界各地で暴れまわった旧魔王はこれで潰れた。」
「そう、それも一つの結末。」
「派閥一つ消えてもどうって事ないってかよ……だが、これで禍の団の主だった戦力はヴァーリのチームと英雄の子孫や神器の使い手で構成された『英雄派』くらいなもんだろう。それでもまだ世界ぶっ壊しをやめないのか?」
「グレートレッドを倒す算段があるのなら我はどのようなものも受け入れる。そして、次元の狭間で真の静寂を手に入れる。」
「だが、グレートレッドがいて次元の狭間を支配しているからこそ狭間は安定し、空間断裂も起きずにいる。グレートレッドを排そうっていうのは世界そのものを危険にさらすってことなんだぞ。」
「有象無象などどうでもいい。ただ我が静寂が欲しいだけのこと。」
「絶対的強者の論理ってか。だが、俺はお前の目的で世界が壊れる様は見たくない。――やるか?」
そう言ってアザゼルは光の槍を手にし、構える。タンニ―ンも戦う構えだ。
「我は帰る。」
だが、オーフィスは戦闘意欲は最初からないのかオーフィスは踵を返す。しかし、タンニーンはそれに納得できずに呼び止める。
「まて、オーフィス!!」
しかし、タンニーンの呼び止める声にもオーフィスはただ不気味な笑みを見せるだけ。
「タンニーン、龍王が集いつつある。眠っていた怪獣達もだ。――これから面白くなるぞ。」
ヒュン!と一瞬空気が振動したかと思うと、オーフィスの姿は消えていた。その様に、アザゼルもタンニーンも嘆息するだけだった。
「ならおれたちも退散するとしよう。」
ヴァーリの合図でアーサーが支配の聖剣で空間に穴をあけて逃走用の経路を作る。そこに足を駆けるも、ヴァーリはイッセーに振り向き問いかける。
「なあ、俺を倒したいか?」
「……ああ、倒したい。でも俺が超えたいのはお前だけじゃない。木場も、匙も、ダイスケだって超えたい。そんな存在が俺にはたくさんいる。」
「奇遇だな。俺もそうだ。不思議なものだ、当代の赤白は自分の宿命よりも優先すべきことがある。きっとおれたちは歴代でも変わり者だろうな。だがいずれは――」
「――ああ、決着をつけよう。お前に部長や朱乃さんのおっぱいを半分にされたらコトだからな。」
「ふっ、やはり君は面白い。――強くなれ、兵藤一誠。」
「じゃあな、おっぱいドラゴンにスイッチ姫!」
そう言ってヴァーリと美猴が空間の穴に消えていく。そしてリアスは顔を真っ赤にしていた。
「木場祐斗くん、ゼノヴィアさん、いずれご挨拶しようてしていました。私は聖王剣の使い手、アーサー・ペンドラゴンの末裔。アーサーとお呼びください。いずれ聖剣をめぐる戦いをいたしましょう。では、我々はこれで。」
最後にアーサーが言い残して空間の裂け目に消えていった。本来なら追うべきだろう。だが、今回はアーシアを助けてくれたということもあって誰も後を追うことはしなかった。
だがいずれは相まみえることになるだろう。
「でも、今日の一件はこれで終わった。――さあ、今度こそ帰ろう。アーシア。父さんと母さんが待っている。」
「……はい!」
笑顔のアーシアを見て、イッセーも微笑む。しかし、不意にイッセーの意識は遠くなり、気を失ってしまう。
「イッセーさん!」
「イッセー!!」
しかし、その崩れ落ちるイッセーの体を支えるものが一人。ダイスケである。
「あんな状態になった後だ。体力消耗してるって気づけよな。」
完全に気を失ったイッセーを支えながらそんなことを言う。
「貴方のほうは大丈夫なの?」
イッセーと同じく暴走状態に陥ったにもかかわらず、平気そうなダイスケを前にしてリアスが問う。
「俺のほうは大丈夫みたいです。むしろ調子がいいくらいで。」
「あの状態は彼の中に眠るゴジラが危機回避のためになり替わったようなものですからね。ゴジラのほうが暴れている間はダイスケさんは休眠状態だったのでしょう。」
おそらく最珠羅の考察のとおりなのだろう。事実、胸に開けられた大穴もふさがっていることからダイスケ本人に対する悪影響はないとみていい。
「……今回は俺の負け、か。」
「どういう意味ですか?」
ダイスケがぼそりといったことに対し、最珠羅が反応した。
「いや、今までイッセーと張り合うことなんてなかったけれど、今回初めてイッセーと戦って負かされてあんなふうになった自分が情けないって思って。」
「だけど相手は覇龍になった赤龍帝よ。勝ち負けってことでも……。」
リアスはそういうが、ダイスケは首を横に振った。
「そうかもしれませんけど、俺があんなふうになったのはあの場で覇龍を止められなかった、覇龍に負けた俺自身が招いた結果なんですよ。守ると誓ったのに、かえってみんなを危険に曝した俺の負けなんです。」
だから――とダイスケはイッセーを一瞥して言う。
「――あんな力に頼らないように強くならないと。」
それはおそらくイッセーも思っていることだろう。
三大勢力の会談の時、ダイスケは自分の力で守りたいと思うものを守ると決めた。そのための力で今回仲間を危険な目に合わせてしまった。あまつさえ暴走しているとはいえその力が仲間であるイッセーに向けられたのだ。
状況が状況だけに仕方がない、という者もいるだろう。だが、これはダイスケにとって敗北であるのだ。だからこそ、本当に意味で強くならねばならぬと誓えるのだ。
そのことを察した最珠羅はダイスケに告げる。
「そういうことが言えるあなたなら、ゴジラの力を任せてもいいかもしれませんね。」
「最珠羅さん。」
「本来なら
そう言い残し、最珠羅はその場を立ち去っていった。
何はともあれ、これでやっと今回の事件は終わった。
「さあみんな、帰りましょう。」
リアスの言うとおり、これでようやく本当に帰ることができる。なにしろ、数日後には彼らは運動会を控えているのだから。
*
「来ないな、あいつ。」
ダイスケがぼそりと呟く。
「……はい。」
アーシアがさみしげにつぶやく。
今日は運動会当日。しかし、イッセーは意識を失って今日まで数日たったというのにまだ一度も目覚めていない。
この数日は様々なことがあった。冥界の政治では今回の事件の責任を問われ、ディオドラの血縁者である魔王アジュカ・ベルゼブブにその矛先が向いた。しかし、いかに血縁といえども今回はディオドラの単独の暴走であると事とレーティング・ゲームの根幹にかかわる人材ということもあって本人への追及は免れた。
それから若手同士のレーティング・ゲームも中止になった。二名も脱落ないし死亡してしまったためだ。
しかし、あるゲームは執り行われることになった。グレモリー対バアルの試合である。一応アガレス対シトリーも予定として挙がっているらしいが、グレモリー対バアルの試合は必ずやることに決まった。
それだけいろいろ変わったり決定したりしていたが、イッセーに関して言えば眠り続けるだけであった。
そのため、騎馬戦で多数の騎馬を蹴散らした後のダイスケが急遽アーシアと組んで二人三脚を走る予定だったイッセーの代走としてここにいるのだ。
『続いてのプログラムは二人三脚です。参加する生徒はスタート位置の第二ゲートに集合してください。』
「ああっ、始まっちゃいます!」
「なにしてるんだホントに……。」
このままではイッセーの代わりにダイスケがアーシアと一緒に走ることになる。なにせ遠く生徒用の待機席ではエリーがダイスケを犯罪の証拠を見つけたウサギのような目で見ているのだ。
「ダーリン、なんでアーシアと……私というものがありながら……。」
「さっきアーシアさん本人がお願いしますって言ってたんですよ。だからその目、やめましょう?」
横にいる榛名がフォローを入れてくれるが、何としてもイッセーの代走は避けたい。
「アーシアァァァァァアアアアア!!」
聞こえてくるイッセーの叫び声。
「ごめん、遅れた!」
そこへようやくイッセーが到着する。
「遅ぇよ。」
「それ、途中で匙にも言われた。」
「昏睡してたんだろ。走れるか?」
「そこは大丈夫。ばっちり走れる。」
「そうか、なら――ほれ。」
そう言ってダイスケがイッセーに手渡すのは互いの足を縛るための帯だ。
「やるからにはてっぺん獲れよ。」
「ああ、もちろん。なあ、アーシア!」
「はい!」
笑顔で答えるアーシアを見て、ダイスケはその場を後にする。
「てっきりイッセーの身を案じて代走するものと思ったけれど?」
ダイスケに話しかけるのはリアスだ。
「さっきまで寝てたんだから安静にしてろって?他の女子と組んでたならそう言うでしょうけど、アーシアですからね。あいつの隣はイッセーでないと。」
「そう、そうよね。まあ、イッセーの一番を譲るつもりは私はないけれど、アーシアはイッセーと一緒にいてこそよね――イッセーたちの出番のようね。」
ダイスケはリアスに連れられて観覧席の前に出る。
「イッセー!アーシア!一番になりなさい!」
「二人ならいけますわよ!」
そんな風にイッセーたちにエールを送るオカルト研究部一同。保護者席ではイッセーの両親もエールを送っている。
そして弾ける空砲の音。二人は走り出す。一組、二組と抜いていき、そして一着でゴールする。
「よっしゃぁぁぁあああああ!!」
イッセーの勝利の雄たけびが聞こえてくる。
「じゃ、俺はこれで。」
「あら、イッセーたちを迎えに行かないの?」
「このあとの棒倒しに出るんですよ。……蹴散らしてきます。」
「……加減はしなさいよ。」
そのあと、体育館裏でイッセーがアーシアにキスをもらっていたことを知りそれをネタにいじることになるのだが――それを語る機会は訪れないだろう。
*
「クルゼレイは死に、シャルバも瀕死で生き延びたが落ちたよ。ヴァーリ・ルシファーも上に立たないそうだ。」
「そうかそうか、これで旧魔王派は終わりってことかな。ま、うちの
「よく言うよ、そうしろと言ったのは君だろうに。で、どうする。そろそろ我ら英雄派の出番か?――曹操。」
「さぁ、どうしようか。今は人材集めのほうが楽しいんだけどなぁ。ビルガメスはビルガメスで働いてもらっているし、道満も動いているからね。」
「初代と同じか。だが近い将来は必ず動かなければならない。君に宿っているものがそれを許さないから。その最強の神滅具――」
「――『
というわけで体育館裏のホーリーケッチャコでした。なんか最後のほうで曹操が二人の人物名を呟いていましたが、まだ設定は固まってません。
なお、感想などもお待ちしております。ただ、メンタルが非常に弱いのできついことを言われるとTADDLU CRITICAL FINISH!!になりますのでご勘弁を。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!