ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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 昨日なんの気もなしに評価を見てみるとなんと、グレン様から☆10を頂きました!
 人生初です、こんなに人様から評価されたのは。本当にありがとうございます。
 今回は今後につながる重要な話とそうでない話があります。さて、どれのことでしょう。


EXVS4  日常短編集その二

(1)地球攻撃命令

 

 

 

 

「「Noooooooooooo!ヘルペス、ヘルペスミー!!」」

 

「ヘルプミーな。」

 

 俺、宝田大助は目覚めの歯磨きをしていた。そこへエリーとマリーが大音量で助けを乞うてきた。つーか英国人(モノホン)が母国語間違えるってどうなのよ。

 ペッ、と口の中をすすいで吐き出すと、腰にしがみつくエリーに訊いた。

 

「で、どうしたよ。」

 

「G!G!G!ゴキブリ!」

 

「そんな、ブイブイブイ!ビクトリー!みたいな言い方やめろ。つか、なに、ゴキブリ?お前ゴキブリだめなの?」

 

「無理!イギリスじゃゴキブリなんてまず見ないし!こんな気持ち悪い動きする奴だったなんて!」

 

「お姉さま、きっとあれです!そのうち超進化して人間みたいになって「じょうじ」しか喋らないキリングマシーンになりますって!」

 

「マリー、お前最近ヤン○ャン読みすぎ。俺も好きだけど。」

 

 そう突っ込みを入れながらダイスケはゴキブリスプレーを探す。

 

「いいか、日本に住むっていうことはゴキブリと同棲するのと同じなんだ。見せてやんよ、日本男児の益荒男ぶりを。」

 

 そういって手にしたスプレーを構えてエリーがゴキブリを見たという台所へ向かう。

 

「……いやがった。」

 

 触角を揺らし、奴は確かにそこにいた。ただ、お互い正面向き同士で一触即発の空気が流れる。

 相手が動かないことを確認し俺はトリガーを引こうとする。すると――

 

「まってくれ!」

 

 声が聞こえた。

 

「マリーなんか言った?」

 

「いいえ。お姉さまじゃ?」

 

「私てっきりダーリンだと思ったけど。」

 

 お互いに顔を見合わせる俺たち。

 

「こっちだ、そう、こっち。」

 

 声が聞こえるほうを見れば、そこには件のゴキブリ。

 

「そうだ、私がしゃべっている。初めましてだな、怪獣王。」

 

「「「……ええええええええええええええええ!?」」」

 

 ゴキブリが、喋った。

 

 

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「いやー、砂糖水とは有り難い。」

 

「どうも……。」

 

 感謝の言葉を述べながら目の前のゴキちゃんは紙皿に注がれた砂糖水をすすっていた。なんで紙皿かって?だって自分の皿ゴキブリに触らせたくないじゃん。

 

「我々はM宇宙ハンター星雲人。その生き残りだ。」

 

 やっぱそうか。ただ、俺が知ってる劇中のM宇宙ハンター星雲人は人間大のゴキだったから、そこのところ実際とは異なっていた。まぁ、実際にその大きさで現れてたら即熱線剣でたたき斬ってたけど。

 

「しかし、驚くとは思ったが、あまり反応していないね。」

 

「いや、十分驚いてるけどさぁ。つーかよく俺の事知ってたな。」

 

「それはもちろん、この星の情報を同胞たちが収集していたからだよ。そこの御嬢さんお二人もなかなかの手練れと聞いている。」

 

「「いやぁ……。」」

 

 そこ、不快害虫に褒められて喜ぶな。

 

「で、なんで俺らの前に現れたんだよ。」

 

 そう、別にこのまま奴らは家の端でこっそり住み着いていればゴキブリと同化して平和に暮らせていたはずだ。それがなんで?

 

「我々の星はもともと君たち人間のような生物が支配していたが、それが自ら起こした環境破壊で絶滅し、それに成り代わって私たちが繁栄した。だが――」

 

 どうやらその環境破壊は著しいものだったらしく、やがてこいつらも絶滅の危機に瀕するようになった。そこで母星を脱出し、この地球に来たらしい。

 

「生命の神秘というか、この星にも我々と同じ姿をした動物――つまりゴキブリが生息していたのでそれにカモフラージュしていたのだ。しかし、つい先日、我々が住処にしていた隣の佐原さんの家で大規模な燻蒸型殺虫剤による大虐殺が行われてね。わずかな仲間たちと脱出してきたのだ。」

 

「それは……大変なことで。」

 

「ああ、本当に絶滅の危機だった。おかげで生きながらえていた仲間たちも半分に減り、この地球で知り合った兄弟(ゴキブリ)達も……。」

 

 そういいながら目の前のゴキは涙を流して……流れてないけど、声からして泣いてるんだよね?

 

「そこで、我々は日本政府に難民指定を受けたいのだ!我々のように遠い宇宙を放浪して地球にたどり着いた宇宙人も多いと聞く。もちろん、我々の技術を提供する。だからどうか、せめて絶滅しない道を……!」

 

 ゴキは土下座をして俺たちに頼み込む。いや、ずっと腹這いの姿勢だから土下座もクソもないんだけどさ。

 

「……まあ、知り合いに裏の事情を知っている自衛隊のお偉いさんがいるからそこ経由でなんとかなるかな。」

 

「ほんとうか!?」

 

「いや、うまくいくかはわからんけど。」

 

「すまない、恩に着る!」

 

「いや、俺に飛びつこうとしないで。叩き落としそうになるから。とりあえず、アンタと仲間を家から連れ出さないとな。たしか、大きい虫かごがあったからそこにアンタらを収容する。いいか?」

 

「もちろん、何せ冷蔵庫の裏でも快適に暮らせる我々だ。確か、玄関先にあったな。」

 

「じゃ、とりあえずエリーとマリーもついてきてくれ。一緒に事情を説明してくれるとたすから。」

 

「「りょーかい!」」

 

「じゃ、俺は黒木特佐に連絡入れてくるから。」

 

 そうして俺たちは準備を進める。いやぁ、ゴキブリたちが列をなして自ら虫かごに入っていくのは圧巻だったね。

 

「さてと、そろそろいくか。」

 

 そういいながら俺は虫かごをもって玄関を出ようとした。 

 

「あ、待って!」

 

 だが、マリーが俺を呼び止める。

 

「そのまま持っていったらきっとやばいですよ。虫かごを完全に覆える布かなんかをまいていきましょう。」

 

「そうだな、そうするか。わるい、ここでちょっと待っててくれるか?」

 

「わかった、待とう。」

 

 そうして俺たちは、門柱のところに虫かごを置いて、いったん家の中に戻った。

 

 

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「……うまくいったな。」

 

「はい。それにしても総統の演技には驚きました。」

 

「ふふふ、自分でも役者になれると思っているよ。」

 

「確かに我々は故郷の環境破壊を逃れるために来た。だが、真の目的は……。」

 

「そう、この星を我らのものとするためだ!!」

 

「まずはこの国の防衛機関に入り込み、その通信網を利用してベーリング海に眠る我らの巨大生物兵器、『ガイガン』を起動させる。そしてあとは世界中を蹂躙し――」

 

「私たちがこの地球をわが手にする……思えば長かった。台所の隅で雌伏の時を過ごす日々。殺虫剤におびえ、アシダカグモに追われる恐怖。それら全てが過去のものとなるのだ!!」

 

「散っていった同胞たちもこれで浮かばれるでしょう。……おや、はす向かいの家から誰かが出てきてこちらに向かってきていますが。」

 

「ああ、怪獣王の幼馴染だ。こっちにく――いや、血相を変えて家に戻って行ったぞ。ン?また出てきた。いったいなにを――」

 

 

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 おあつらえ向きの布地を見つけて、家から出た俺たちが見たのは、まさに大虐殺だった。

 M宇宙ハンター星雲人たちでいっぱいになった虫かごに、榛名が殺虫スプレーをぶっかけていたんだ。最近得たテレパシー能力で、奴らの断末魔の声が聞こえる。

 

「あ、ダイスケ君。すごいですね、こんなにいっぱいゴキブリを捕まえるなんて。一応殺虫スプレーかけておきましたから。」

 

「あ、ああ……。」

 

 俺も、マリーも、エリーも顔面蒼白になる。そして俺は、携帯を取り出して黒木特佐に電話を掛けた。

 

『ああ、宝田君か。どうした?』

 

「いや、あの……絶滅しました。」

 

『……なにがだ?』

 

 その日、俺たちは一つの種族が死に絶えるさまを目撃した。

 確かに奴らは見た目が不快害虫そのものだったかもしれない。だが、それでも懸命に生きていたのだ。

 一つの種族の運命が宇宙に帰っていったそのとき、俺はそれを実感した。

 たとえ虫だろうと、その命の重さはこの無限の宇宙にも等しいんだ。

 だが今は、ただ万感の思いを乗せて――南無阿弥陀仏。

 

 

 

 

(2)牙と糸

 

 

 

 

「なつかしきわが故郷、ってか?」

 

 俺、パン・ルパレは休みを利用して故郷、パリはモンマルトルに来ていた。 

 なに?サボってきただと?馬鹿言え、ちゃんとした休暇だ。……信用ねぇなぁ。

 俺の故郷、モンマルトルは歴史地区に指定され、その歴史的景観や特徴を保持するため開発は最小限度しか許可されない。だから古い街並みが残ってる。

 なのに治安がひでぇってのが逆に魅力。最近は移民だのなんだのってうるさいからな。まあ、それ以前から物騒なとこではあったけれども。

 ある意味では、俺がこんなチンピラになっちまったのは必然にも思える。パルクールやってる若者集団なんて聞こえはいいが、突き詰めちゃあ世の中に不満を抱え、それを発散する場所を探している連中の集まりともいえるからな。

 おっと、自分の育ちの悪さを土地のせいにしちゃいけないな。こんなところの生まれでも、いいとこに行った奴だっているんだから。歴史的に見れば、ここ出身の有名人は多い。フィンセント・ファン・ゴッホ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、エドガー・ドガ。すげぇだろ?

 だが、ある意味俺も有名人だった。パルクールやってる奴じゃなくても、俺の技を知ってるやつは多い。中にはかつての俺の裏の顔も知ってる奴もいる。その証拠に、さっきすれ違ったチンピラなんて俺から視線そらしやがった。

 俺が今のモンマルトルに抱いてる印象ってのは以前と変わらずガラの悪いところって感じだ。その証拠に――

 

「困ります、返してください!」

 

「うるせぇ!とっととよこせ!」

 

 恵まれない子供たちのためのいわゆる托鉢みたいなことをしてるシスターが、チンピラに金をとられそうになっている。こんなところからも金をせびろうだなんて世も末だね。

 しかし、あのシスターなかなかガッツがあるな。普通ならすぐ諦めそうなもんだが、なかなかどうして引き下がらない。

 ……俺、こういうのに弱いんだよね。

 

「おい。」

 

 俺はチンピラ相手ににらみを利かす。

 

「ああん?……お、おまえは!」

 

 どうやら奴さん、俺の事を知っていたらしい。

 

「それ以上はやめとけよ。な?」

 

 笑顔でそういう俺。だが、こういうときの笑顔ってのは案外牽制にはなるもんだ。

 

「……チッ。」

 

 そう舌打ちすると、チンピラは去っていく。シスターさんもほっと胸をなでおろす。

 

「ありがとうございました。おかげで助かりました。」

 

 礼を言うシスターさん。へっ、俺はアンタのガッツに惚れただけだぜ……って結構美人だな。

 

「いえいえ、とんでもございません。それよりも、俺とひとつ聖書の教えを実践しませんか?産めよ、増やせよ、地に満ちよってね。」

 

 シスターだろうが関係ねぇ。俺の股間のセンサーが感じるままに赴くままよ。

 すると、シスターさんが驚いたような表情になる。ん?俺なんか変なこと言ったか?

 

「そのキザッたらしい上にバカみたいな口説き方……もしかして、パン・ルパレ?」

 

「え?お前、もしかして……シャルロットか?」

 

 ……どうやらこいつは感動の再会ってやつらしい。

 

 

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「まさか、お前が今やシスターなんてな。」 

 

「あんたこそ、まさか傭兵やってるなんてね。」

 

 俺はあの後、シャルに案内されて彼女がいる教会にお邪魔させてもらっている。

 どうやらこの教会を一人で切り盛りしているらしい。おまけに中には身寄りのないらしい子供が大勢。孤児院めいたこともしてるそうだ。

 

「でも、誰があのビッチが世のため人のためになるようなことをするようになるなんて思う?」

 

「失礼だね、アンタは。昔はそれしかてっとり早く金を得る方法が無かったってだけさ。それに、もう足は洗ってるよ。」

 

 こいつは俺の馴染みで同じチームの一員だったシャルってやつだ。言っちゃなんだが、こいつは昔自分のカラダで稼いでた。それも非合法。見てくれだけはいいからな。でもまあ、今はこうしてるんだから立派になったというべきか。

 

「アンタはどうなんだい。その……後ろ暗いことはしてないんだろうね。」

 

「そう言うのとはきっぱり縁を切った。まぁ、人を殺す仕事ってのは変わらないけどな。」

 

「……そうかい。」

 

「おいおい、まさかここで懺悔しろってんじゃないだろうな。」 

 

「残念、ウチは懺悔を聞くほど暇じゃないんだ。子供たちの世話があるからね。」

 

 確かにこの数のガキあいてじゃ、ひとりじゃ大変だろう。

 

「だけど、やりがいはあるよ。この街じゃ、こういう子供から食い物にされていく。それを守ってあげられるんだからさ。……私たちにはそういう大人はいなかったからね。」

 

「確かに、こういう街じゃガキほど悪い大人にとってのいいカモってのはないからな。」

 

 子供を使ってのかっぱらい、児童買春、人身売買。いくらでもガキを利用する悪事は思いつく。

 

「私、思ったんだ。いつまでこの街はこのままなんだろうって。それ考えたら苦しくなっちゃってさ……。それで、自分にできる何かをやろうって。」

 

「それで実践できるんだからすごいよ、お前は。」

 

 俺はこの街の未来なんて考えたことはなかった。きっとこの街はこのままなんだろうと、俺みたいな奴がまた生まれるんだろうと。そこで諦めていた。

 でも、こいつは違う。学がない馬鹿だが、ちゃんと考えて行動に移している。俺なんかよりも、ずっと立派だ。

 

「アンタに褒められるなんてね。……そうだ、アンタもここにきなよ。アンタがいれば用心棒代わりにもなるし、男手ができるとこっちも助かるからさ。」

 

「そんなこと言って、俺が今まで稼いだ金が目的だろうに……まあ、こういうことに使うならいいとも思えるけどさ。」 

 

「パン……。」

 

「でも、今の俺にはやらなきゃならない仕事がある。いつ終わるかわからない、だけど重要な仕事だ。」

 

「それって……殺しの仕事?」

 

「……護る仕事さ。」

 

「言い方を変えたって結局同じじゃないさ。ねぇ、こっちにきなよ。アンタとならうまくやっていけそうな気がするんだ。」

 

 ……魅力的なお誘いだ。だけど、俺は――

 

 

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 俺はシャルと別れて教会を後にした。

 ……胸の奥がもやもやとしやがる。くそっ、あんな湿っぽい話をしちまったせいだ。こういう時は女を買って抱くのに限る。

 そういういかがわしい路地裏に入ったその時だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 男の悲鳴が聞こえる。ちょうどこの先だ。急いで俺は声がしたほうへ駆けつける。

 

「こいつは……。」

 

 それは、昼間にシャルを襲っていたチンピラだった。地面に大の字に倒れ、頭から血を吹きだしている。

 瞳孔が開いているうえに脈がない。おまけに首の骨が折れている。多分、もう助からないだろう。ただ、気になる点がある。頭が何か刃物ではない、たとえるなら獣に咬まれて引き裂かれたようになっているんだ。

 

グルルルルルル……

 

 俺の背後から獣のうなる声が聞こえてくる。瞬間、俺は屋根に向けて跳んだ。そのまま屋根伝いに走り続ける。

 唸り声を聞いた瞬間、なんか非常に嫌な予感がしたんだ。兎に角今は銃器の類は持ち合わせていない。獣具を使おうとしても俺のじゃ直接的な武器にはなりえない。だから今はとにかく逃げることが先決だ。

 ……もう追っかけてこないだろう、なーんておもったら野郎、ここまで追いかけてきやがった!

 

バウバウ!

 

 後ろを確認すれば、そいつは大きな犬、いや狼のような姿をしていた。しかも眼がルビーのように赤く光っていやがる。しかも足、はえぇ!!

 

「くそっ、こうなったら――!」

 

 俺は目の前に見えた塔に向けて獣具の糸を飛ばす。そのまま糸につかまり、ジャンプ!

 

「ハッハー!あば――」

 

 ところが、計算違いが起きる。着地地点の屋根が老朽化でぶっ壊れやがった。

 

「ウソだろぉぉぉぉ!?」

 

 そのまま俺は、意識を手放した。

 

 

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「……んあ?」 

 

 見知らぬ天井だ……いやいや、パロディとかじゃなくて、ガチで知らない天井。頭には冷たい濡れたタオルが置いてある。

 

「目覚めたようだね。」

 

 すると、聞きなれた声が聞こえてくる。シャルだ。

 

「アンタ一体何やったんだい。ウチの倉庫の屋根に突っ込んで気絶だなんて。」

 

「あの屋根お前んとこの教会の倉庫のだったのか。老朽化が過ぎるぞ。ちょっとくらい補修しろ。」

 

「金がないんだよ、金が。そんなこより何やってたのかって聞いたんだ。答えなさいよ。」

 

「……笑わないか?」

 

「今のアンタ見てるだけで大笑いだよ。」

 

 俺はシャルに説明する決意をする。

 

「追われてた。馬鹿でかい犬のような奴に。」

 

 濡れタオルを絞るシャルの手が止まった。

 

「ははっ、そうだよな。おかしいこと言ってるよな、俺。」

 

「……いや、おかしくはないよ。」

 

 シャルは俺に説明し始める。

 最近、この街では奇妙な殺しが相次いでいるらしい。頭を何かがかじりつき、はらわたを食いちぎったような死体が半年前に見つかった。

 最初は猟奇殺人の類かと思われたらしいが、それがずっと続いた。狙われたのはいずれも悪さしていたチンピラ。それがすでに十件以上続いている。

 犯人の目星はおろか、凶器の特定も警察はできないでいるらしい。だが、その犯行の現場をたまたま目撃した奴がいた。そいつが言うには、大きな狼のような動物がチンピラの頭を丸かじりしていたらしい。

 もちろん警察は相手にしなかったが、その話は巷に広がった。人によっちゃあ、あのジェヴォーダンの獣が現れたんじゃないかっていう奴もいたらしい。おいおい、ジェヴォーダンとここじゃえらい遠いだろうがよ。

 だが、確かに昨日見た奴は大きな犬だった。

 

「……そんなことがあったのか。」

 

「今この街じゃその獣のうわさでもちきりだよ。アンタ、命があってよかったね。」

 

 まったくもってその通りだ。あのままじゃやばかった。

 

「でも、アンタまで襲われるなんてね。やっぱり悪人ってのはどれだけたっても悪人の匂いが消えないのかしら。」

 

「ちげぇねぇ。」

 

「だけどあんたは無事でよかった。殺されるのは本当の悪人だけで十分だってのにね。」

 

「……シャル。」

 

「だってそうだろう?殺されてるのはみんなチンピラ。他人を傷つけて平気っていう最低の連中だよ。あんな連中、死んで当然ってもんじゃないか。」

 

「……悪いな、助けてもらって。」 

 

「礼を言うのならあの子たちに言いな。」

 

 そういうシャルの視線の先を見ると、ドアの空いた隙間からガキどもが興味深そうに俺を見ていた。

 

「……ありがとうな。」

 

 するとガキどもはスッと隠れやがった。可愛いもんだね。

 

「じゃ、私は洗濯しにいくから。ちゃんと休んでるんだよ。」

 

 シャルはそのまま部屋を出ていく。すると入れ替わるようにガキどもが部屋に入ってくる。

 

「ねぇ、おじちゃんは姉ちゃんの知り合いなの?」

 

「恋人?」

 

「どこまでいったの?キス?」

 

 なんつーことを聞きやがるんだ、このガキども。マセてるにもほどがあるだろ。

 

「アイツとはなんもねーって。お前らの姉ちゃんはとらねぇから安心しな。それと、俺はおじちゃんじゃねぇ。お兄さんだ。」

 

 ガキどもを追い払い、部屋に一人になる。

 

「……慕われてるねぇ。」

 

 俺はそう呟くと、携帯のとあるアプリを起動させた。

 

 

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 俺は夜中に教会を抜け出し、一人街中を歩いていた。

 手にはアプリを起動させた携帯。その画面を見ながらアプリが示す方向に従って歩き続ける。

 ついたのはとある廃工場だった。その中へ、気配を消しながら侵入する。ボロボロになった天井には穴が開き、月明かりが漏れている。その月明かりのなかに、一人の人間と獣がいた。

 

「なるほど、やっぱりお前がそいつの飼い主か。」

 

 人間のほうは、あわてた様子だった。

 

「なんでここまで来たのかわからないって顔だな。」

 

 そこで俺は種明かしをする。

 

「きのう逃げる途中、獣に俺は特殊な発信器を付けておいた。堕天使の旦那の特別製さ。神器のように出たり消えたりするモンにも定着する優れものでな。後を追わせてもらった。」

 

 雲が流れたせいで月明かりが動き、飼い主の顔が照らされる。

 そこにいたのは――シャルだった。

 

「堕天使ってのがわからないけど……そう、この力は神器(セイグリット・ギア)っていうんだ。」

 

「正確には『従順なる魔犬(ビースト・オブ・ジェヴォーダン)』って代物らしいぜ。独立具現型の大きな犬を操る神器だってさ。アプリに表示されてる。」

 

「へぇ、じゃあ噂はある意味的を得ていたんだ。」

 

 笑いながらそう言うシャルに、俺は尋ねる。

 

「……なんでこんなことを。」

 

「半年前、悪党に襲われそうになってね。そしたらこの子が現れて助けてくれたんだよ。初めは怖かったけど、なついてくるもんだから。……それで思ったんだよ。この力で、この街に蔓延ってるクソどもを一人残らず殺してやろうってね。」

 

「何もお前が殺す必要はないだろう。」

 

「あるんだよ。見ただろう、教会の子供たちを。あの子たちの将来は決して明るいものじゃない。そうさせているのはこの街の悪党どもだよ。ポリ公どもが動かないんなら、あの子たちの未来をクソどもから護るためにはこうするしかないじゃないか。」

 

「……だけど俺はお前には手を血で染めてほしくはなかったよ。」

 

「自分はいいの?アンタが危ない橋渡ってたのは、自分のためだけじゃなくて仲間の私たちを食わせていくためだったんだろう?みんなアンタがしてくれたこと覚えてるんだから。」

 

「俺はただ、お前に過去の俺と同じとこまで堕ちてほしくないだけだ。」

 

「――これからこの街を仕切ってるマフィアどもを皆殺しに行くんだ。邪魔はしないでおくれ。」

 

「いいや、する。休暇できてたって言ったろう。実はあれは嘘だ。お前のやってることを嗅ぎ付けた教会のお偉いさんがMMS(ウチ)に調査と討伐の依頼に来てね。本当なら仲間も呼んですぐ突入する手はずだったが、俺がお前がやったってわかったから時間をもらってるんだ。俺がお前を止めないと、お前は殺されちまうんだよ。」

 

 俺が言ったことはすべて事実だ。俺がケリをつけないとこいつは殺されちまう。それだけは避けたい。

 

「――ッ、それでもっ!邪魔するっていうんだったらアンタを殺してでも進む!アンタの仲間もね!行きなさいっ!」

 

 シャルの号令とともに、獣は俺に向かって走り出す。俺は天井の梁に糸を飛ばし、ジャンプした。

 

「!……アンタも持ってたのかい。」

 

「ああ、レアもんらしいぜ。」

 

 大蜘蛛の縛錠糸(クモンガ・ウェッブ・シューター)従順なる魔犬(ビースト・オブ・ジェヴォーダン)と違って一点ものだからな。それに俺には経験の差ってのがある……って、あの獣、一瞬で天井の梁までジャンプして飛び乗ったぞ!?

 

「この子は私のイメージする動きは大体できるからね。どこまでも追っていくよ!」

 

 すると獣はまっすぐ俺に向けて走ってくる。当然、俺は別の梁にジャンプしながら逃げるが、奴はどこまでも追いかけてくる。

 

「くそっ、獣は神器で本体も動かなくていいんだろうが――」

 

 対して俺は俺自身が動かなくてはならない。スタミナの観点と仲間が待っている時間を鑑みて、俺には非常に不利な状況だ。

 こういう独立具現型の神器所有者を相手にする場合、本体を叩くことが手っ取り早い方法になる。だが、獣の動きが速いせいでシャル本人をどうこうする余裕がない。

 なら、この手で行くか――

 

「どうした、どうした!私を止めるんじゃなかったのかい!?逃げてばかりでどうにかなるとでも――」

 

 シャルが余裕をぶっこくが、すぐに戸惑いの表情に変わる。

 獣の動きが鈍り、やがて止まった。もちろん俺がやったことだ。

 

「うし、ワイヤートラップ成功!」

 

 俺は逃げながら、細い糸を一本ずつ張っていった。肉眼だと遠目では見えない細さ、しかも月明かりしかないこの闇の中ではまったく見えない。それを獣に気づかずに手繰り寄せさせて、徐々にトラップに引っかからさせ、動きを止めったって寸法さ。

 独立具現型神器を相手にしてどうしても本体にたどり着けない際にはこうして唯一の武器である神器を封じる。夏休みの期間中にアザゼルの旦那に言われるがまま独立具現型の神器保有者相手に訓練した甲斐があったってもんだぜ。

 

「さて、年貢の納め時だな。」

 

 俺はシャルに近づく。しかし、こいつはまだ諦めていなかった。

 

「まだだ!まだだよ!どうしてもあの子たちの未来を……明るいものにしなきゃいけないんだ!!」

 

 すると、ピィン、という音が響く。まさか。ああ、そのまさかだ。

 獣が我武者羅に糸を引きちぎり始めたんだ。確かに糸はいつもより細くした。だが、あれ一本で俺の体重を十分支えきれる強度だぜ!?それを無理やり引き千切ってるのかよ、あの獣は!?

 

「邪魔させない……アンタには邪魔させない!!」

 

 神器は所有者の願いが強ければ強いほど強くなる。話には聞いていたがまさかここまでガチだったとは。

 そしてついに獣はすべての糸を引き千切り、勢いもそのままに俺に向けて突進してきた。

 

「がはっ……!」

 

 強力な頭突きが、俺を吹き飛ばす。まるでトラックかなんかに撥ねられたみてーだ。シャレにならないくらい痛い。これアバラ数本逝ったな。まあこれくらいなら獣具の力ですぐ治る。

 そして獣は倒れる俺に咬み付いてくる。それを俺は両手で牙を掴んで必死に抵抗する。

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 

 獣具によって強化された腕力で何とか抑えるものの、それでもじりじりと奴の咬もうとする力は強まっていく。くそっ、こんなんだったらダイスケのみたいな獣具が良かったぜ!!

 

「仲間が来るんだろう?だったら死なない程度までで加減してやるよ。」

 

 ふっざけんな、冗談じゃねぇ!加減しようがされまいが痛いもんは嫌なんだよ!!

 

「もうこうなったら……こうするしかねぇ!!」

 

 俺は、滅多に使わない文字通り一撃必殺の一撃を放った。すると、獣の目からすぐに赤い光が消え、力が抜けて倒れる。

 すぐに俺は獣の下敷きになった状態から抜け出す。

 

「アンタ……いったい何を!?」

 

 シャルが突然起きた出来事に目を丸くしている。そりゃそうだろう――

 

「――死んじまったからな。毒で。」

 

 そういいながら俺は獣の口の中に刺さった針を引き抜いて見せる。

 

「こいつは毒針だ。大蜘蛛の縛錠糸(クモンガ・ウェッブ・シューター)の唯一の直接攻撃武器にして文字どおり一撃必殺の毒針だ。」

 

 そう、これは俺の大蜘蛛の縛錠糸(クモンガ・ウェッブ・シューター)の最強の武装。その力はアザゼルの旦那曰く並みのドラゴンなら一撃で天に召されるほどだ。

 

「死んだのかい、この子は……。」

 

「いや、一度引っ込ませれば。また出てくる。ただし、毒のダメージが抜けるまで相当時間はかかるけどな。」

 

 独立具現型の神器は確かに生き物だが、本当の意味の生き物じゃない。実際、俺は夏休みに特訓中相手の独立具現型神器に一度これをやっちまって泣かせちまった。あの姉ちゃんには悪いことをしたと今でも反省している。

 

「それで?打つ手なしの私をその毒で殺すのかい?」

 

「いや、気絶してもらうだけだ。」

 

 俺は一瞬でシャルの背後に回り、当身を食らわせて気絶させた。

 

 

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「……ん。」

 

「気が付いたか。」

 

 シャルが目を覚ます。俺は彼女のすぐそばに座り込み、その顔をのぞいた。

 

「まさかアンタに緊縛趣味があったなんてね。」

 

「冗談。」

 

 もちろん、俺の趣味じゃねぇ。天使たちにこいつを引き渡すための処置だ。俺はどっちかっていうと縛るのよりお互いのカラダをナメクジのように絡ませあうのが好きなんでね。相手を縛っちゃそれもできない。だろう?

 

「縛ったままでいいのかい?またあの子を暴れさせるかもしれないよ?」

 

「無理だっつったろ。手練れの操る具現型神器でも復活するのに半日かかる毒だ。お前程度じゃ一か月はまともに使えないさ。」

 

「打つ手なし、か。」

 

「そういうこった。諦めな。」

 

 少しの間、無言の時間が流れる。すると、大勢の天使たちが廃工場内に突入してきた。時間らしい。

 

「パン・ルパレ様。引き取りに参りました。」

 

「……ああ。」

 

 押っ取り刀できておいてよく言うぜ……って、俺が頼んだんだったな。

 天使二人に脇を抱えられ、シャルは連行されていく。すると、立ち止まって俺に尋ねた。

 

「ねぇ、あの子たちはどうなるんだい。」

 

「お偉いさんが言ってたぜ。子供たちは教会が責任をもって預かるってな。」

 

 事実だ。教会側は俺がそう頼むことを見越して、俺が例の頼みを切り出した時にそう確約してくれた。

 

「そう……なら、よかった……。」

 

 それだけが気がかりだったのだろう、シャルはそれだけ言うと素直に連行されていった。

 

「なあ、アイツ、これからどうなる?」

 

 俺はそばにいた天使に聞いた。

 

「恐らく、バチカンの神器所有者の犯罪者専門の牢獄に入れられるでしょう。ただ、犯罪の件は人間の法では罰せません。何らかの奉仕活動で罪を償うことになるでしょう。」

 

 十人以上も殺したが、ある程度の情状酌量もあるだろう。なに、俺みたいに何人殺したかわからなくても今ものうのうと生きてる奴がいるんだ。きっと大丈夫だろう。

 そう考えながら俺は廃工場から出る。

 

「よう。」

 

 すると、エドの奴が顔を見せた。

 

「大変だったな。馴染みが犯人だったなんて。」

 

「ああ、まったくだぜ。くそっ、雨まで降ってきやがった。」

 

「ああ?月が出てるんだぞ。雨なんて――」

 

 うるせぇ、今降ってるんだよ。今ここだけ。つーか空気読め、馬鹿野郎。俺にだってナイーブになるときくらいあるんだよ。

 

「――今晩は付き合うぜ。」

 

 あったりまえだ。アルマニャック二瓶は開けるぜ。

 もちろん中心街のホテルのバーで。この街で飲むと――せっかくの酒がしょっぱくなっちまう。

 

 

 

 

(3)守護神の目覚め

 

 

 

 

 我は眠る。

 時のゆりかごの中で。

 禍の影が現れるその時まで。

 我の器に相応しいが現れるまで。

 すでにどれくらいの時がたったであろうか。すでに悠久の時が過ぎたであろう。その間に、滅んだ文明の後に新たな文明が生まれ、きっと今を謳歌しているに違いない。

 だが、その『今』もいずれ終わりの時が来る。

 我にはわかる。時が近いことを。

 その証拠に、今目の前に我の器に相応しい者が現れた。

 すでにその者は力を有していたようだが、すでにそれは光となって天に昇って行った。ならば我がこの者を器としてもよいだろう。

 この者は己の命をかけてでもなそうとしたことがあったようだが、この者はまだ若い。ならば、我が再びこの者に力を与えてもいいだろう。

 命尽きかけるその瞬間、我はこの者と同化する。

 しかし、ああ、なんということだ。この者は己の意識を手放したままだ。いくらか手を尽くしたが、この者の意識は戻らない。恐らく、時間がかかるだろう。

 だが、この世界には時間がない。

 奴が目覚めようと――奴を利用しようという悪意を持った者がいる。

 止めなければ。奴がその力を振るった時、この世界は滅びを迎える。

 この者には悪いが……しばらく躰を借りさせてもらおう。

 行かねば。この世界を、護る為に。




 ということでグレン様評価☆10ありがとう&新キャラ登場予告なEXVS4でした。次回からはようやく修学旅行はパンデモニウムに突入いたします。これまであたためてきたアイデアのうちの一つをようやくお披露目できます。
 なお、感想などもお待ちしております。ただ、メンタルが非常に弱いのできついことを言われるとボルケニックナックル!アチャー!になりますのでご勘弁を。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!
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