UA数もダダ下がりでお送りしてまいります。
「ここだよな。」
「ああ、依頼者は北村さん。この部屋で間違いない。」
結局疲れた体を押して二人は召喚主の下へ徒歩で行った。
召喚されて徒歩でやってくる悪魔なんてどこの世界にいるのだろうと、イッセーはただただ落ち込む。
はじめのうちは依頼を達成できれば、自身のハーレム結成の野望に一歩近づけると意気込んでいたのにこの有様。
このままだといつ自分の夢の達成など夢のまた夢だが、ここで立ち止まってはそれこそ無意味だ。
いざ気合を入れ直してイッセーはチャイムを鳴らす。
《ピンポーン》
チャイムが成り終わって数秒後、ドタドタと騒がしい足音がドアの向こうから聞こえてくる。
こんな安アパートだからさぞ下の階の人間は迷惑だろうと思ったまさにその時。
「ゲンカァァァァン、機動!!!」
その男の叫びと同時に勢いよくドアが放たれた。
「「ゴッ!!」」
鋼鉄製の扉はしっかりとイッセーとダイスケの鼻頭にぶつかる。
鼻血が出てはいないかと鼻を抑える二人の前に現れた召喚主であろう人物はそこにいた。
どこに売っているのかと聞きたくなる独特なデザインのサングラス。
春先だというの言うのにきっちりと着込まれている漆黒のコート。
そして日本人の苗字とは裏腹にまるで古代ローマの五賢帝のひとりの後継者のような彫りの深い顔立ち。
「あの、悪魔グレモリーの使いで参りました。召喚者の北村さんで間違いないですよね。」
できれば間違いであってほしいと願うイッセー。
「ああ、間違いない。偽名だがね。上がってくれたまえ。」
悪魔を召喚しようとしている時点で普通の人ではないことは確かである。
だが、ここまで来たらもはやただの変人だ。
やたら尊大な素振りで北村と自称するこの男に二人はついていく。
通されたのはわびしい感じのリビング。
「まあ、適当に座ってくれたまえ。茶でも出そう。」
北村は冷蔵庫の中を漁る。
室内を見渡せば、わびしい作りであるもののそこそこ珍妙なものが置いてあるのに気付く。
まるで鋭い爪を思わせる模型に、銃のような形の器物。
さらに代えのサングラスやコート、わけのわからない器具が数点。
その真ん中にイッセー達が使わせてもらっている卓袱台がある。
「これでも飲んでくれ。知り合いがくれたものだ。」
目の前に見たことがない缶のお茶が置かれる。
ラベルには「眼兎龍茶」と書かれているのでかなりいかがわしい。
「さてと、改めて自己紹介をさせてもらおう。北村という。よろしく頼む、悪魔くん。」
「よ、よろしくお願いします。俺は新人悪魔の兵藤一誠。コイツはアシスタントの宝田っていいます。」
紹介されたダイスケは、先程から抱いていた疑問を北村にぶつける。
「……あの、失礼ですけれど、本当にコイツが悪魔だって信じているんですか?魔法陣を使って呼んだのに、玄関から現れたんですよ?」
「ふむ、確かに。だが長年この星に住んでいる私にはわかる。人間と悪魔、または他の神話存在の違いがね。」
「「……はい?星?」」
聞き違いだろうか。
今この男は「この星」と言った。
まるで自分がこの地球上の生物ではないかのような言い方だ。
「そう、私はこの星の本来の住人ではない。」
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(おい、ヤベーよこのひと。自分の事宇宙人だって言ってるよ。)
(……春の陽気に当てられたのかな?)
随分と失礼なことをヒソヒソ声で話し合うイッセーとダイスケ。
だがそれに関わらず北村は話を続ける。
「私が住んでいた星の名は君たちの言語では発音できない。故に《X星》とでも称してくれればいい。」
(それだったらまだxoth星の方が信憑性あるんじゃねぇの。)
(ああ、旧支配者の星ね。)
「私たちX星人は他の高等生物の細胞内にあるミトコンドリアを主な食料にしている。そのための広大な牧場を作るために長い間宇宙をさまよい続けた。」
(あれかな、自分のことを吸血鬼だって思い込む人がいるらしいけど、そういうのの類かな?)
(中二病とかじゃなくて?)
「そして私たちは理想の環境が整っているこの地球を発見したのだ!!」
(この話どこまで続くんだよ。)
(適当な相槌でごまかそうぜ。)
「だが、問題が起きた。まずは君たち悪魔のような神話存在。彼らが存在するには人間は必要不可欠。そんなところからくすねようとしたらいらぬ衝突が起きるのは目に見えていた。」
「「そーですね。」」
「もうひとつの問題は我らの指揮を行っていた統制官が不抜けていたことにあった。よりにもよってこちらに敵意がないように見せてから時間をかけて長いスパンでの侵略を行おうとしていたのだ!!」
「「そーですね。」」
「そこで私は当時の統制官を見限り、反乱を起こした!!!」
「「そーですね。」」
「だが、私についてきた者の数は少なく、互いに相打ちしてしまうという愚かな結果に終わり私はこの地球にただひとり取り残されてしまった……。」
「「そーですね。」」
「そして人間の代わりに他の動物のミトコンドリアを摂取し、死んだ人間に成り代わっていくことで人の世界に紛れて密かに生きてきたのだが……どうやら信じていないようだな。」
「「そーです……じゃねーや、信じてます、信じてます。」」
無論信じているわけではない。
二人の北村を見る目は完全に春の陽気にやられてしまった可哀想な人としか見ていない。
それは致し方ないだろう。
この世の中、実際に地球外生命体が地球にやってきて被害を及ぼした実例は確かにある。
1940年代にイタリアに現れた金星竜イーマがそのいい例だ。
金星探査にったアメリカの友人探査船が金星の生物の卵を持ち帰るが、帰還船が事故でアドリア海に墜落。
その結果、イーマの卵が孵化し一般人に決して少なくない被害をもたらした事件があった。
このように地球外生命体が地球に出現したことはあるが、地球外知的生命体が現れたことは公的な文献や記録には何一つ載っていない。
「まあ、これを見てくれれば信じてもらえるだろう。」
言いながら北村は爪で自分の顔の真ん中に縦方向に一本線の傷を入れる。
するとグロテスクな音を立てて北村の顔が割れていく。
血の代わりに透明な粘液が傷口から滴り、手に掴んだ頭皮をみかんの皮を剥くように剥いていった。
「「あばばばばばばばばば!!!!」」
ただただスプラッタな光景に二人は思わず互を抱きしめて恐怖に震える。
割れた北村の頭部の中には海生生物と昆虫を掛け合せたかのような見た目の頭部が顕になった。
このあらゆる地球上の生物とは似ても似つかぬ、そして初めて二人が見る異形が北村の正体である。
「ほほほ、ほんとう、本当に……!!!」
「天国のお父さんとお母さーん!!!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
まさか自分たちがB級ホラー映画のワンシーンに現実で遭遇しようなどとは夢にも思わず、さらに自分たちも超常の存在に片足を突っ込んでいるにもかかわらずに二人はビビり倒す。
「これで信じてくれたかな?」
「「信じます!信じます!だから元に戻してぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
異形の顔からは判らないが、間違いなく北村は今二人の様子を見て笑っているはずだ。
その様子を見て満足したのか、北村は偽装の頭の皮をファスナーを締めるように元に戻した。
「正直、顔は傷付けたくはなかった……この顔は結構気に入っているのでね。」
「「なんか、すいませんでした……。」」
とりあえず落ち着くために、先程出された茶を一気に飲み干す。
「あ、あの……とりあえず、依頼の件ですけど……。」
「そうだった。長い間他人と長時間の会話していなかったのでね。ついつい話し込んでしまった。」
フフフ、と北村は不気味に笑う。
その笑に、イッセーとダイスケは嫌な予感がして仕方がない。
この男が本当の宇宙人だということは、さきほど北村が延々と語っていた話もほぼ真実だと見ていいだろう。
だが問題はその内容だ。
曰く、人間のような生物を食料としている。
曰く、地球を植民地にして自分たちの牧場にしようとした。
曰く、仲間内で壮絶な殺し合いをした。
そんな過去を持つ者が悪魔の力を利用して何をしようとするか。
どう考えても地球侵略の実行しか思いつかない。
第一この男は自身はタカ派と自称している以上、間違いなく強硬手段に打って出ることになるだろう。
その時、水際で彼を止められるのは今のところイッセーとダイスケしかいない。
しかし二人はつい最近力に目覚めたばかりのヒヨっ子だ。
返り討ちになるのは目に見えている。
万が一自分たちが倒れたときはリアスが敵を討ってくれるだろうが、そのために自分達の若い命を散らす気にはならない。
地球の命運をとるか、はたまた自身の命をとるか。
アストライアの天秤でも計れない二つの命題の間で揺れ動く二人に、北村ははっきりと望みを告げる。
「私の話し相手になって欲しい。」
*
「……おかしいです。」
時計の短針が直上を示す頃、榛名はひとり訝しんでいた。
宿題は日が昇っているうちに済ませたし、予習復習も終えているので勉学が理由というわけではない。
いま、彼女はその手に双眼鏡を持ち、ある一点をひたすらに注視している。
その場所とはダイスケは一人暮らしをしている一軒家の玄関先である。
「この時間になってもまだ帰ってきていないなんて……何かあったのでしょうか。」
ダイスケがちゃんと帰宅しているかどうかを確かめる。
それが彼女の日課である。
ダイスケが先に帰宅した日は家の明かりで在宅を確認し、榛名が先に帰宅した日は道路に面した自室の窓から勉強をしつつ、時折今のようにダイスケの帰宅を双眼鏡で覗きながら待つ。
常識的に考えればストーカー行為と呼ばれる行動である。
だが、彼女からすれば純粋にダイスケがちゃんと生活しているかの確認作業であって、決してやましい行動原理によるものではないのだ。
……それでもやはり行き過ぎた行動だが。
コンコン
そうやって榛名が監視をしていた時、誰かが自分の部屋をノックする。
「榛名、借りてた辞書返す……って、またやってるの?」
入ってきたのは榛名の一つ下の妹にして後輩でもある霧香だ。
他人がやっていれば即通報な行動をとる姉に驚きつつも、「またか」といったふうに呆れ果てる。
「……人の趣味をどうこう言うつもりはないけれど、そうやって他人の私生活を監視するような真似はどうかと思わよ。」
「そんな、ひとをストーカーみたいに言うなんて!いくら家族といっても言って良いことと悪いことがあります!!」
「自分がどういうことをしてるかの自覚がないの!?」
案外そういうものである。
実際、ストーカー犯罪を犯した者の内の多数が「犯罪を犯している」という自覚が無いのだという。
自分の姉も御多分に漏れずということなのか、と霧香は不安に思うが、当の本人はどこ吹く風といった感じである。
「……まあいいわ、ほどほどにね。おやすみ。」
「ええ、おやすみなさい」
そうして部屋を出ていく霧香はいま一度姉の姿を見る。
このような奇怪な行動の理由は榛名がダイスケに対して並々ならぬ関心を持っているから、ということは霧香も承知している。
だが、その関心というものが恋愛感情によるものなのか?といった根本的部分が榛名にも分かっていないという点が非常に厄介なのだ。
もし榛名が彼に対して好意を抱いているのであれば、霧香もその応援はしたいとは思う。
彼女は学年は違えどダイスケとも面識があるので、彼がどのような人物なのかある程度は知っているつもりだ。
その双方が自身の、あるいは他人の気持ちというものにてんで勘働きが効かないというのだから手の出しようがない。
あえて見守るという手もあるが、このままだと榛名がよからぬ手に出る可能性も無きにしもあらず……という危険を孕んでいる。
何らかの手を打たなければならない時が来るのだろうが、はたして自分にその「手」とやらを思いつき、実行できるのだろうか。
一重に願うのは、この感情の食い違いが引き起こす取り返しのつかない悲劇が起きないことだけ。
その思いが果たして届いているのか、いないのか。
不安を含む霧香の姉を見る視線は締まりゆくドアに阻まれた。
*
「ふぁぁぁぁあ……ねみぃ。」
まるでどこかの釣り好き万年平社員のような脳内の酸素濃度の低下と、脳の覚醒のための強制酸素補給活動。
その原因として真っ先に思いつくのは「夜更し」と言われる思春期の少年たちならば誰でも経験したことがある行為だ。
御多分に漏れずダイスケも2時まで起きていた。
いや、正確には『起こされていた』と言った方が正しい。
思えばあの自称宇宙人の北村の家に行ったのは、まだ闇夜が空を包みきったばかりの八時頃だった。
それから約十分の間先のやり取りがあったのだが、その後からが長かった。
彼の願いが「話し相手になって欲しい」という至極普通な願いであったので、二人はそれほど長い時間はかからない簡単な仕事だとタカをくくっていた。
それが全くの認識の甘さによる誤解であった気付くのがそれから二時間後だった。
兎に角喋る喋る。
その饒舌さはさながら自身の料理がまずいと言われて逆ギレを起こした某天パローカルタレントか、はたまた落語家かといった具合だ。
なにせ本人曰く「覚えている限り四・五万年ほど」誰とも腹を割った会話をしていなかったとのことで、まるでその鬱憤を晴らすかのように捲し立ててきた。
その長話に付き合って、気付けば夜の一時半である。
その場は二人は学生だということでその時点で切り上げてくれたが、多分今後も付き合わされるのだろう。
なぜなら仕事終わりに記入してもらうアンケートに「非常に気に入った」と「また同じ悪魔に来て欲しい」の欄にしっかりとチェックが入ったのを見てしまったからだ。
新人悪魔であるイッセーにデビューしてすぐの常連ができたこと自体は喜ばしいことだろう。
だが、仕事内容が「話を聞く」だけなのでそれほど対価が期待できないというのがネックなのだ。
実際今回の報酬は「エネルギーが切れて使い物にならない光線銃」だった。
本人の正体を見てしまった以上信じる他ないのだろうが、これが果たしてキャリアに繋がるのだろうかと頭を抱えて帰宅したイッセーの後ろ姿が今でも思い浮かぶ。
「でも続ける他ないよなぁ……。」
商売というものは信用が第一。
これで「報酬がショボイのでもう来ません」となったらその悪評は大手の得意先にも聞こえて途端に仕事がなくなる、というのも商売の世界では珍しくない。
つまり、イッセーも彼をサポートするダイスケもあの北村と長い付き合いをしていかなければならない、ということである。
いや、俺は人間である分寿命で先におさらばできるなと考えていたら、前方に同じく眠そうに歩くイッセーの姿があった。
「よお。」
「……おお、ダイスケか……。」
やはりイッセーも寝不足らしい。
だが同じくらい北村に拘束されていたダイスケ以上に憔悴している。
「どうしたよ?変に憔悴して。」
「いやな……。」
ダイスケの問いに、イッセーはその重い口を開く。
「俺さ、仕事終わってお前と別れて部長のところに報告に行ったろ?」
「ああ、俺は先に帰っていいて言われてたからな。」
「そしたらさ、その途中に堕天使に襲われたんだよ。」
「はぁ!?」
寝耳に水とはこのことである。
まさか自分が目を離した隙にイッセーが堕天使に狙われようとは。
「おいおい、もう手は出さないって約条しただろうに。」
「いや、あのコートの男とは別の堕天使だった。」
「……連絡網ぐらい回せよ。」
天野夕麻、コートの男、そしてカラワーナ。
この街には少なくとも三人の堕天使が潜んでいることになる。
「もう、俺もびっくりでさ。なんとか神器が目覚めてくれて助かったんだけど、無茶するんじゃあないって部長に怒られちゃったよ……。」
あれ、絶対まだ怒ってるぜ、とイッセーは力なく呟く。
せっかくの初仕事の成功が、まさかの大失態に繋がってしまったのだから仕方がない。
「悪い、俺が先に帰ったりしなけりゃあ……。」
「いや、多分ダイスケがいたらお前に甘えちゃって神器も目覚めてくれなかった。気にするな。」
「……そうか。じゃあ、あとで神器の見せ合いっこしようぜ。」
「おう!部長曰く、『一度展開したら出し方は体が覚える』らしいから、この前みたいなヘマはもうしねぇぞ!」
ようやく気を取り直したふたりは、先ほどの気の抜けた姿から一転して胸を張る。
ところがその矢先、目の前で「キャ!」という可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「おい、イッセー。」
「ああ!」
二人は声をした方向へ走り出す。
すると、そこには道端で倒れている人がいた。
ベールを被っているため、顔は判別できない。
「大丈夫ですか!?」
「何かあったんですか!?」
「だ、大丈夫です。ちょっと転んでしまっただけですから……あ!」
不意に風が吹き、顔を覆っていたベールがめくれる。
そこにあったのは、美しい金髪のロングヘアーと蒼い瞳を持つ人形のように可愛らしい少女の顔だった。
「「……可愛い。」」
イッセーとダイスケの心が一つになった一瞬だった。
逆にここまで読む人が少ないとビクビクしないで済むと気付いた今日この頃。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!