ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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 イッセー、トリアイナ覚醒。対してダイスケはたいして成長せず。この差はいったい……。
 そしてとうとう今回、ビルガメスがちょこっと出てきますよ。ひょっとしたら正体すぐにばれるんじゃないかな。
 それはそうと先日ようやく一話、二話とジオウを見ることができました。話の流れは非常に複雑ですが面白い。歴代レジェンドも出てくるしで日曜朝の新しい楽しみになりました。ガンバライジングでもGLRジオウでたし。


VS70  京都決戦~決着~

『Desire!』

 

『Diabolos!』

 

『Determination!』

 

『Dragon!』

 

『Disaster!』

 

『Desecration!』

 

『Discharge!』

 

  イッセーの鎧の各所にある宝玉が壊れたように様々な「D」の頭文字の言葉を繰り返す。

 

『DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!』

 

 その時、イッセーの脳裏に神器の使い方、特性といった情報が流れ込んでくる。そのあふれる情報に、イッセーは兜の奥で感嘆をこぼす。

 アジュカによって調整された悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の特性を、赤龍帝の鎧が取り込んだのだ。そして、今の変化で一度成った女王(クイーン)が解除されてしまったが、もうアーシアの承認は必要ない。そして、高らかに叫ぶ。

 

「モードチェンジ、『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』!!」

 

 選ぶのは僧侶(ビショップ)だったが、いつもの成る僧侶(ビショップ)ではない。僧侶(ビショップ)の特性で底上げされた魔力が両肩で収束し、大きなバックパックと両肩のキャノンに変化した。

 静かな鳴動とともに力が砲門に溜まっていく。そして、先ほどまでの憤りと悔しさも乗せる。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

「吹き飛べぇぇぇぇぇぇえええええええ!!ドラゴンブラスタァァァァァァアアアアアアア!!!!!」

 

 英雄派に向けて極太の一発が放たれる。その反動でイッセー自身が堪えるので精いっぱいだ。

 

「おもしれぇ、受けきってやるよ!!」

 

 その一撃の前にヘラクレスが立ちふさがり、異形の巨腕を地面に向けて振り下ろす。電磁パルスがイッセーの脳電気信号を阻害し、魔力結合を阻害する。しかし――

 

「馬鹿なッ、殺しきれないッ!!」

 

 完全な力のごり押し。その前に原理原則が押し流される。

 

「ヘラクレスッ!!」

 

 危険を感じた曹操はヘラクレスを槍の石突きで突き飛ばして退避させる。そして通り過ぎた力の奔流は偽物の町にぶつかり、そしてすべてを消した。

 

「嘘だろう……古生電獣の悪意の腕(ムートー・ジャミング・アーム)で削ってこの威力なのか!?こんなの立て続けに打たれたらこの空間が持たないぞ!」

 

 その威力を身をもって感じたヘラクレスが驚愕の声を上げる。これで一矢報いることはできた。しかし、これで満足はできない。

 イッセーは両肩のキャノンをパージし、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のシステムを変更させる。求めるのは速さ、騎士(ナイト)だ。イッセーにとっての騎士(ナイト)の代表格である木場をイメージし、ひたすら速さを求める。

 

「モードチェンジ、『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』!!」

 

 背中から龍の翼を羽ばたかせ、イッセーは目標に向けて一気に加速する。

 

「曹操ォォォォォォォォッ!!!」

 

 背中の魔力ブースターが倍に増え、豪快に魔力の炎が噴出する。曹操も反応できない速度を求め、ひたすらに加速する。それにはこの重たい鎧が邪魔だ。

 

「パージッ!!」

 

 その言葉とともに、最低限の装甲を残して鎧がスリムな形に変わる。それと同時に殺人的な加速がイッセーを襲う。この慣れない状況ではこのスピードをコントロールすることはできないだろう。

 

「けど、てめぇに体当たりするくらいなら問題ないよなぁ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 まるで人がトラックに轢かれたような音が響き、曹操の体がイッセーにとらわれる。

 

「ガッ――」

 

 胃の内容物が軽く飛び出したが、そのまま曹操は空中へ連れ去られる。

 

「やっと捕まえたぜ、この野郎!!」

 

「なんてスピードしてるんだよ! ――だが、その装甲の薄さでは聖槍の一撃はひとたまりもあるまい!?」

 

 そういって曹操はイッセーに捕まりながらも逆手に短く槍を持って光の穂先を突きたてようとする。

 だが、そんなことはイッセーには百も承知であった。

 

「モードチェンジ、『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』!!」

 

 脱ぎ捨てた装甲が再生していく。だが、それにとどまらない。求めたのは戦車(ルーク)の強力とタフネス。それにこたえるように装甲が赤く、厚く仕上がる。さらに両腕はその剛腕さを見せつけるようにいつもの倍、いや五・六倍に太く逞しく仕上がる。

 換装が終了したので神速にブレーキがかかり、その慣性で曹操は宙に投げ出される。そんな中でも曹操は冷静に空中で体勢を立て直し、槍を一突きする。その一撃は見事にイッセーの腕に刺さった。が、その分厚い腕の装甲で受け止める。

 

「受けきった、だと!? 上級悪魔なら瞬殺できる出力だっていうのに、まだ上げないとならないのか!!」

 

 イッセーは腕を聖槍ごと、曹操ごと引いて引き寄せた。

 

「おっぱいドラゴン、舐めるなよ!!」

 

 言いながら反対の腕に渾身の力を込める。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 そして、極太な拳を曹操に叩き付ける。曹操は槍を盾にして受けようとするが、インパクトの瞬間、小手の肘部にある撃鉄が下りる。それによってためられた魔力が一気に爆発し、拳の勢いが猛烈に増した。

 そのイッセーの渾身の一撃を食らい、曹操は落下していく。その表情は笑っていた。

 ややあってイッセーも着陸する。すると、肉厚だった分の装甲が粒子となって消えていく。それと同時にひどい疲労感が襲ってくる。この調子ではすぐに鎧の維持限界時間が来る。

 一気にケリをつけるためにこのまま女王(クイーン)にも行きたいところだが、たぶん今のままでは使いこなせないだろう。

 

『相棒、力の開放によって禁手になるまでにかかる時間がさらに短縮され、持続時間も増えたようだ。だがエネルギーの消耗が激しすぎるようだ。慣れれば消耗も軽減されるはずだがな。』

 

「なるほど、まだまだ修行の余地ありってとこかな。」

 

 魔力、スピード、剛性。この三つの特性を連続で使いこなし使い分けるのにはまだまだ修行が必要なようだ。それに、これはゲームでは使えないだろう。何しろ(キング)の承認なしで成れるのだからルール無視もいいところだ。

 そんなことを考えていたイッセーの視界にゆっくりと立ち上がる曹操の姿が土煙越しに見える。その曹操は口と鼻から出た血を拭う。

 

「赤龍帝、どうやらおれたちは君に対して認識不足だったようだ。これは驚くべき変化だ。こんな強さを土壇場で得るなんてね。聖槍の加護がなければ死んでいただろうな。」

 

 そこは素直に死んでいてほしかったイッセーだ。

 

「それにしても悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のルールを逸脱した君だけの特性、か。まるでイリーガル・ムーブだな。」

 

「イリーガル・ムーブ?」

 

「不正な手って意味のチェス用語さ。君の三段変化はまさに悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のシステムに不正にアクセスするもののように見えたからね。」

 

 言われればその通りだ。確かに(キング)の承認なしで成れるというのはレーティング・ゲームでは不正となるだろう。

 

『俺としてはトリアイナだと感じたがな。』

 

「トリアイナ?」

 

『ポセイドンが持つ三叉の矛だ。トライデントの呼び方のほうが有名だと思うが、三種の連続攻撃が俺にはそれを思い起こさせてな。』

 

「イリーガル・ムーブ、トリアイナ……じゃあ『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』って呼ぶかな。」

 

 そう名づけるイッセーに曹操は戦慄を覚えた。

 

「……この成長のスピードは怖いな。攻撃力そのものはそろそろ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)なしのヴァーリに相当しているのかな。まあ彼も成長しているからわからないとして、その形態はかなりスタミナとオーラを消耗するようだな。あと十分も禁手状態を保てないと見た。それに各方面に特化している分各形態の弱点が丸わかりだ。」

 

「あんた本当にやりにくいぜ。ちょっと俺たちを舐めた目で見たかと思ったら今度は冷静に分析してくるんだからよ。」

 

「いや、そのことに関しては素直に謝ろう。君を見くびりすぎていた。強大な力に溺れず赤龍帝の深奥を探ろうとする君はやはり強敵だったよ。これは反省しないと、な。」

 

 そんな中、上空が放電したかのような音が鳴り響いた。イッセーにはこの音に聞き覚えがある。グレートレッドが空間を割いて現れた時と同じだ。

 

「始まったな。」

 

 曹操がうれしそうに微笑む。実験が成功したという事か。

 

「ひょっとしたら君のパワーアップで真龍が呼び寄せられたのかもしれないな。ゲオルグ、さっそく『龍喰者(ドラゴン・イーター)』を召喚する準備を――」

 

 そこまで言いかかった曹操の言葉が詰まる。何か違和感を感じたようだ。

 

「グレートレッド……ではない? それにこの闘気、覚えがある……!」

 

 ややあって空間の裂け目から姿を現したのは細長く、白い十数メートルある大きさの龍。それが緑色のオーラをまき散らしながら夜空を舞う。

 その姿を確認した曹操は叫んだ。

 

「――西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)かッ!」

 

 玉龍。四海龍王が一柱、西海龍王敖閏の第三太子にして西遊記において宝珠を失った罰で死罪にされかけたところを観音菩薩が救って三蔵玄奘の馬となったエピソードで有名だ。さらに三蔵法師の唐への帰還後は釈迦如来によって八部天龍に列せられる。

 その玉龍がこの場に現れたのだ。

 玉龍の出現にその場のだれもが驚いた。だが、曹操は玉龍のその背に乗った小さな人物に目が行っている。そして、その小さな人影が高さなど関係ないといわんばかりにひょいっと龍の背から降りる。

 

「大きな『妖』の気流、『覇』の気流、そして濃密な『邪』の気流でこの都に漂う妖美な気質がうねりにうねっておったわ。」

 

 そう言うのは玉龍から降りたばかりの闘戦勝仏、孫悟空だ。

 

「おー、久しぶりじゃい。聖槍の。あのクソ坊主がでかくなったじゃねーの。」

 

「これはこれは闘戦勝仏どの、まさかあなた自身が出張ってこられるとは。各地で我々の邪魔をしてくれているようですな。」

 

「坊主よ、今回はちといたずらが過ぎたぜぃ。儂がせっかく天帝からの使者として九尾の姫さんと会談しようと思ってたのによぉ。それを拉致たぁやってくれるぜ。まったく、関帝となり神格化した関羽がいると思ったら、子孫が異形の業界の毒なんぞになっちまうもんもいる。『覇業は一代のみ』とはよく言ったもんだとは思わねぇかい?のう、曹操。」

 

「毒、ですか。あなたに称されるのなら大手を振って自慢できますな。」

 

「そうかい。だがよ、このまま大手を振らせるわけにもいかんのよ。ほれ。」

 

 そう言って孫悟空は頭の毛を一本抜いてふぅ、と吹く。その息ににあおられて曹操の眼前に毛が舞う。

 

「一人どうにもお前さんを殴らなきゃ気が済まんというもんがいてなぁ――連れてきてしもうたわ。」

 

 パチン、と指を鳴らす孫悟空。すると、曹操の眼前で一本の毛がダイスケに変化した。

 

「よぉ。会いたかったぜ。」

 

 挨拶もそこそこにダイスケは曹操の顎を渾身の力で殴りぬいた。あまりに突然の出来事に曹操も反応しきれなかったのだ。 

 バキ、という嫌な音を鳴らして曹操は後方へ飛ばされる。

 

「曹操!」

 

 一番近くにいたゲオルグが駆けつけて急いで闇ルートで手に入れたフェニックスの涙を曹操にふりまく。

 

「大丈夫か!?」

 

「……ああ、首の骨が折れかけていたからちょっと危なかった。」

 

 口の端から流れる血を拭って曹操は言う。

 

「いっそのこと死んでくれてもよかったんだぜ?」

 

「冗談、まだ死ねないさ。それにしてもよく柳星張を止めてきたな。その様子だと彼女も大方助け出したんだろう。」

 

「論拠は?」

 

「不意打ちの一発が熱線じゃなくて殴ったあたりかな。怒りの度合いが比較的低い。」

 

 ゲオルグの介助を断りながら曹操は立ち上がる。

 

「正直君とは正面からやりあいたくないんだよ。弱点らしい弱点がまだ見つかっていないし、確実に君を滅ぼす手段を研究中だがこれといった結果がまだ出ていなくてね。光も、龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)も弱点にならないんじゃ、あんな人質なんて手段をとらざるを得ないだろう。それもこっちの見通しの甘さのせいで瓦解してしまったが。」

 

「ああ、だからトサカに来てるんだよ、俺は。お前を直接殴りたくて仕方がないんだ。」

 

「ちょっとそれはご遠慮いただきたいかな――来い。」

 

 曹操の呼びかけに物陰からさらに英雄派構成員が多数姿を現す。その全員がどうやら神器ではなく獣具を持っているらしかった。

 

怪獣には怪獣を(Let them fight)ってね。うちには優秀な技術者がいてね。堕天使の技術をさらに独自で発展させたんだ。量産型の獣具だよ。『大雷烏賊の触腕(ゲソラ・クーラント・キャッチャー)』、『鉄甲亀の一突(カメーバ・ヘッドバッター)』、『大蟹の硬甲(ガニメ・フルスキン・メイル)』の三種類。彼らの相手でもしてくれ。僕らは闘戦勝仏に集中して撤退させてもらう。」

 

 ざっと数えて百人はいるであろう、量産型獣具所有者がずらりとダイスケとイッセーを囲む。そして残った英雄派幹部たちは初代孫悟空に意識を向ける。

 

「おーおー、どいつもこいつも目が血走ってからに。玉龍(ウーロン)やい、九尾の姫さんは任せたぜい。」

 

『おいおい、ここに入るだけで疲れてるんだぜ、オイラ!? ンお? キツネとやりあってるのはヴリトラか!? あいつの姿見るの何年振りよ!! あいつ手伝えってかよ、おっかねぇ。』

 

「そう言うな。あとで京料理をたらふく食わせてやる。」

 

『ファッキンクソ猿! あとで絶対だぞ!? オラオラオラ、龍王舐めるなよキツネの姉ちゃん!!』

 

 そう言って玉龍が九尾の大将に向かていったのを皮切りに、この場での戦いの第二ラウンドが始まった。

 しかし、英雄派構成員は玉龍には目もくれない。彼が相対する九尾の大将は実験が失敗した以上もう実験道具としては用済みである。かといって自分たちの実力では孫悟空には届かない。だから自然とターゲットはダイスケ達に絞られる。

 

「アーシアさんのおかげで大分回復できたけど、今の状態じゃちょっときついかな……。」

 

 そうこぼすのはアーシアの回復のおかげでようやく立ち上がれるくらいには傷が回復した木場だ。同じように英雄派幹部にやられたゼノヴィアたちも武器をとれるくらいには回復している。しかし、この数はさすがに問題がある。

 イッセーもトリアイナの使用の影響で鎧の維持時間も限界に近づいている。ならば、この中で一番元気な者が前に出るほかないだろう。

 

「とりあえず……蹴散らすか。」

 

 ダイスケが先制に荷電粒子ビームを横薙ぎに放つ。すると大爆発が起こって英雄派構成員の半分近くが巻き込まれるが、それでもなお立ち上がって一斉に向かってくる。

 まず最初に襲い掛かってきたのは白い烏賊のような触腕。それが何本もダイスケの両腕に絡まる。

 

「よし、腕を抑えた!」

 

「今のうちにやれ!!」

 

 触腕でダイスケの腕を抑えている者たちが仲間に指示する。すると、蟹の甲羅のような意匠の鎧をまとった者たちが大勢列をなして迫る。

 それに対してダイスケは威力を落とした熱線を口から放って撃ち落していくが、硬い甲羅で防御しつつ何人か落後しても数でカバーして後ろの者を守るように前進してくる。

 そして、最後までカバーされた者たちが盾になった者たちの背後から飛び出てダイスケに対し攻撃態勢を仕掛ける。その腕についた亀の甲羅のようなを前方に突き出してダイスケに向けた。

 

「いけぇぇぇぇ!!!」

 

 甲羅の穴から飛び出てきたのは亀の頭。おそらく亀の頭が甲羅から伸びるのを再現したのだろう。そのヘッドバットがダイスケに一斉に襲い掛かった。

 その突撃力はロケットもかくやという勢い。それが何発もダイスケに向けて放たれる。その一発一発の威力は大型トラックに轢かれた衝撃以上だろう。

 

「いいぞ、この調子だ!このまま反撃させずに嬲り殺せ!」

 

 先頭に立つ者が調子を見てそう判断する。しかし、一つ見落としていた。ダイスケの拳に力がみなぎっているということを。

 

「……温いんだよッ!」

 

 腕に渾身の力を込め、一気に払う。すると、ダイスケの腕を抑えていた片腕あたり三十人ほどが両方振り回された。もちろん、ダイスケを攻撃していた者たちを巻き込んで、である。

 あるものは逃げ、ある者は振り回される仲間をよけようとするが、ダイスケはそれらを彼らの仲間を使って虱潰しに潰していく。人を武器にして人を叩き潰しているのだ。ミンチにされなくとも骨を折られるなどして大ダメージを与えられている。

 その場から一刻も退去しようとする者たちはイッセーやゼノヴィアやロスヴァイセの攻撃、イリナの上空からの奇襲、木場の追撃を受ける結果となる。

 一方、英雄派幹部たちは孫悟空に意識を集中していた。もちろん、ダイスケという厄介な障害が味方を薙ぎ払って自分たちの近くにまで迫ってきていることは百も承知だが、この老人はそこまでしてでも警戒しなければならない相手だ。

 

「斉天大聖! あの初代孫悟空が相手なら相手に不足はない!」

 

 そう言ってジークフリードは一人突撃をかますが、曹操が制止しようとする。

 

「まて! この場合は連携を――」

 

 しかし、曹操の警告が届く前に孫悟空は動く。

 

「伸びよ。」

 

 その命令のまま、如意棒が伸びてジークフリードを突く。六振りの魔剣も、それを持つ触手も無視して伸びた棒の一撃がジークフリードをがれきの中に叩き伏せる。

 

「お前さんにとっては不足はないかもしれんがな、儂にとっては不足じゃのう。腰が入っておらん。走り込みからやり直せぃ。」

 

 伸びた棒を元の長さに戻して孫悟空は言う。

 そこへ、ジャンヌとヘラクレスが襲いかかる。

 

「お得意の仙術だって!!」

 

「EMPで遮断すればぁぁぁぁ!!!」

 

 再びEMPを起こして攪乱を目論む二人。しかし、その二人の攻撃をひょいとよけて悟空はちょん、ちょん、と二人の額を手にしたキセルでこずく。

 すると、二人の体は遠くへと吹き飛んでしまう。

 

「ばかもの、気を練るのは脳ではない。丹田じゃ。むしろ無意識で気を練ってこその仙術の極意じゃい。」

 

 そう言う闘戦勝仏の頭上に影がかかる。高く跳躍した彦斎がとびかかって奇襲を仕掛けたのだ。

 音もない、まさに幕末の人斬り暗殺者の名を継ぐにふさわしい技量ではあった。

 

「じゃが殺気が溢れすぎじゃい。この儂の前では叫びながら襲い掛かってくるも同じ。」

 

 その言葉とともに如意棒は上空に振られ、彦斎を打ちのめす。一応獣具でガードはしていたのだが、流し込まれた気によって全身がしびれた。 

 

「どいつもこいつも自分の身にある力をふるうだけでいかん。ちっとはそこの赤龍帝の坊やを見習って自分の中に眠るものと対話してみんかい。」

 

 そういう悟空のそばに、ダイスケが歩み寄ってきた。つまり、襲ってきた英雄派構成員全員をノしたということだ。

 

「おう、曹操をぶん殴ると息巻いてた割に遅かったじゃねぇの。」

 

「ちょっと数が多くて。拉致された上に洗脳されている奴がいるかと思ったら手加減しないといけないかなって思って。」

 

「あれだけ暴れて手加減かい……。」

 

 倒れる英雄派構成員を見てあきれる闘戦勝仏。ふつうにみれば死屍累々の光景だが、それでも皆息をしているから大したものだ。

 その二人を霧が包む。間違いなく絶霧(ディメンション・ロスト)だ。ゲオルグを見ればグレートレッド召喚の術式から手を放しているからすぐにそれとわかる。

 

「捕縛させてもらう。霧よ!」

 

 ゲオルグの目的通り霧が二人を包み込む。だが闘戦勝仏は冷静に唱え、ダイスケは大きく呼吸する。

 

「――天道、雷鳴を持って龍の咢へ括り通す。地へ這え。」

 

「すぅぅぅぅ――。」

 

 つぶやきとともに如意棒がこつん、と地面を打つ。すると、濃密だった霧が一気に薄まり、一気にダイスケに吸い込まれた。

 

「なっ――闘戦勝仏が我が霧を散らすのは理解できるが、吸い込んで無力化だと!? どういう理屈だ!!」

 

「いや、霧だから吸い込めばいいかなって。ジョジョでもやってたし。」

 

「訳が分からん……!」

 

 ゲオルグが困惑するが、曹操は冷静に聖槍を構える。

 

「伸びよっ!」

 

 伸びた聖槍の穂先が一直線に斉天大聖を狙う。だが、その切っ先は指先ひとつで止められる。今度はその伸びきった槍にダイスケが手を伸ばし、つかむ。

 そしてダイスケは槍を握ったまま電磁化加速で槍に沿って曹操に目掛けて加速していく。

 聖槍がただの伸びる槍であればその価値を踏んで曹操もこれを捨てることができた。だが、これは曹操にとって最大の武器である。捨てるわけにはいかない。

 曹操はただ槍の長さを元に戻しながらバックステップを踏んで少しでもダイスケと距離を取ろうとするが、加速したダイスケが眼前に迫る。

 しかし、今度は先ほどのような奇襲ではない。来るとわかっているからいくらでも防御の体勢はとれる。だから曹操はガードの体勢をとったが、ダイスケの蹴りを受けた腕の骨がみしみしと音を立てる。聖槍の加護があるとはいえこれはさすがに痛い。

 

「ぐっ……!」

 

 それでもダイスケの手を槍から振りほどかせ、再び構えて突きを放つ。先ほどイッセーに阻まれた時よりも出力は高く、それこそ最上級悪魔であればクリーンヒットすれば確実に消滅できるほどだ。さらに突く速度はこれまで以上に本気を出した。確実に直撃コースだ。

 放たれた一撃は見事にダイスケの右肩に突き刺さる。だが、槍を引けない。ダイスケの筋肉が収縮して聖槍を抑えつけているのだ。そんな動けない曹操にダイスケは人差し指を向けて荷電粒子ビームを放つ。

 一瞬の出来事にも曹操は即座に回避行動をとってよける。そして展開していた槍の穂先を格納することでようやく槍を引き抜くことができた。そして、すぐにダイスケから距離をとる。

 

「化け物二人が手を組めばこうなるか……。」

 

 その言葉とは裏腹に曹操の顔は喜色に満ちている。だが、そんな曹操に瓦礫から脱出したジークフリードが一言入れる。

 

「これ以上はやめておこう。初代孫悟空は――強い。それに分断させたはずのゴジラもここにきてしまった。これ以上やりあえば……。」

 

「……潮時か。確かにそうだな。ゲオルグ、準備を。」

 

「――っ、わかった。負傷度の高い者から優先して転送させる。」

 

 そういうとゲオルグは魔方陣を展開し、何か操作した。すると、英雄派構成員たちの腕についていたブレスレットが輝き始め、負傷していた者たち、とくにダイスケによって手痛い目にあわされた者たちが姿を消していく。恐らくあの腕輪は霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)で作り出した転送結界装置なのだろう。それも大量にいわゆる雑魚戦闘員たちに配っていたようだ。ダイスケは自分たちを奇襲した三人の腕にはなかったのでこの仮説は正しいだろうと考えた。

 そして、ゲオルグが巨大な魔方陣を地面に展開させる。これは転送用のものだ。そこに素早く幹部たちが集まる。――逃げる気だ。

 

「今日はここまでにしておくよ。初代、グレモリー眷属、赤龍帝に怪獣王、いずれ再び会いまみえよう。」

 

 逃走する気満々の曹操のイッセーは怒った。自分たちの一生に一度しかない修学旅行を滅茶苦茶にしたうえ九尾の姫にも手を出して彼らには目立った負傷はない。なんらかの形に残る報復をしてやりたかった。

 その一心でイッセーは自身の中に残ったオーラを左手に集め、砲にした。

 

「OK,手伝うぜ。」

 

 イッセーが何をしようとしているか察したダイスケは雷神の因子を活性化させてこれまでにない強力かつ広大な磁場フィールドを作り上げる。 そして、指先にパワーを溜める。

 

「おい、まだかよ。」

 

「うるせぇ! こっちはこれでも鎧の維持限界ギリギリだ!」

 

 イッセーは絞りかすといってもいい残ったパワーを砲に充填させて一撃を練り上げる。巨大な一撃でなくていい、せめて届く一撃を――そんなイッセーを見て孫悟空が好々爺然と笑う。

 

「本当ならお仕置きは儂がせにゃならんがの……ええじゃろ、ちょっとだけ爺が手伝ってやるわい。」

 

 そういいながら孫悟空はちょこんと如意棒でイッセーの鎧を叩く。その途端に体中からオーラが溢れてきた。

 

「ちょいと刺激して増幅しておいた。ほれ、逃げるぞ。今のうちじゃ。」

 

「あ、ありがとうございます! ――お咎め無しで帰れると思ったか?」

 

「京都の土産だ、喰らっておけ!!」

 

 イッセーの魔力弾とダイスケの荷電粒子ビームが同時に放たれる。当然ながらヘラクレスたちはこれを迎撃しようとする。

 

「しゃらくせえ!!」

 

 ダイスケの荷電粒子ビームは電磁的に誘導される。それに気付いていたヘラクレスとジャンヌはEMPを発動させる。こうすれば完全に防ぐとはいかないまでもその軌道をそらすことは可能だ。

 それに、イッセーの魔力弾もイッセーの脳にEMPを送れる距離ではないにしても腕力で弾くことは可能だ。しかし、それはすでに織り込み済みだった。

 

「イッセー、やるぞ。」

 

「ああ、やってくれ!」

 

 ダイスケの合図にイッセーが構える。すると、荷電粒子ビームが突然軌道を変えてイッセーの魔力弾をサッカーやバスケットボールでドリブルするかのごとく弾きパス回しを始めた。

 これは先にダイスケが広大な磁場フィールドを展開したことによる。ダイスケはいずれ自分のビームをはじくことができるものが現れるであろうことは技を開発していた時点で感づいていた。その時のために荷電粒子ビームが磁束や磁場によって軌道を変えてしまうことを利用したビームの軌道変更術も並行して開発したのだ。

 

「なに!?」

 

「うそでしょう!?」

 

 ヘラクレスたちはまさにビームと魔力弾のピンボールの中に閉じ込められた。EMPで弾こうにも有効範囲に気付いたダイスケがその中に入る前にビームの軌道を変えてしまう。というより、あらかじめセットされたコースをだれも予測できない。

 

「見るな、感じろ!」

 

 彦斎がハチェットを構えて何度もビームと魔力弾を叩き落とそうとするが完全に翻弄されている。

 

「こっちか!」

 

 そんな中でもジークフリードは軌道の法則性に気付いてビームと魔力弾を弾こうとした。しかし――

 

「はーい、ミスデレクション。」

 

 バスケット漫画の技をつぶやきながらダイスケは磁界と磁束の形状を変化させてビームが魔剣にあたる前にコースを変えさせた。

 ゲオルグも縦横無尽に飛ぶビームと魔力弾に翻弄されて転移魔法の発動から幾分気をそらされている。

 しかし、一人イッセーは弾かれる自分の魔力弾に集中しながら考える。いくら自分の魔力弾がダイスケに弾かれているとしても狙うところは変わらない。ただ、イメージするのはサーゼクスと戦わなければならなかったある時の彼の魔力弾の動かし方。彼のように縦横無尽に魔力の塊を動かせたら――いや、そこまで出なくてもただ一度でも自分の意志で軌道を変えられたら。

 そんな中、ビームと魔力弾は確実にターゲットを狙うコースに入った。そして、叫ぶ。

 

「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

 それまで弾かれるままだったイッセーの魔力弾が突然軌道を曲げる。それを追うようにビームが続く。そして、目論み通りに事は運んだ。

 

「グッ……!」

 

 魔力弾は曹操の右目に、ビームは曹操の左腕に当たった。それもただ当たっただけではない。その曹操の右目をきれいに抉り、左腕を切り落としたのだ。

 赤い血煙を上げながら曹操は自分の右の眼窩を手で覆うとするが、覆える左手はすでにない。そして、涙のように鮮血を流しながら狂喜で顔を歪ませる。

 

「……兵藤一誠ぃぃぃぃ!! 宝田大助ぇぇぇぇ!!」

 

 すると曹操は右目と左腕の痛みに目もくれず槍を構えて力強い言葉――呪文を唱え始める。

 

「――槍よッ! 神を射抜く真なる聖槍よッ! 我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの――」

 

「曹操! 唱えては駄目だ! 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)……いや、『覇輝(トゥルース・イデア)』を見せるのはまだ早い!」

 

 ジークフリードが曹操を力づくで抑えにかかる。そのときだった。その場にいた全員の頭上に向けて金色(こんじき)の雷が降りかかる。雷雲も雷鳴もなしでだ。

 だが、いずれも直撃はない。牽制するために放たれたようだ。すると、曹操の頭上から声が聞こえる。

 

「一時の激情に変えられて『覇輝(トゥルース・イデア)』を唱えるとはな。これは余が(けい)を見限る時が来たという事か?」

 

 そのあまりにも尊大の言いように全員の視線が宙に向けられる。そこには一人の金髪の男が宙に立っていた。その衣装は貴族服のようで、ところどころに黄金の刺繍が施されている。

 

「……ビルガメスか。なぜここに?」

 

「なに、表があまりにもつまらなくてな。魔王一人というのもつまらないので手を出すのもばからしいと思った。だから暇つぶしに来たまでよ。ゲオルグよ、これからはもう少し結界の強度を上げるといい。あまりに簡単に破れてしまった。だから初代孫悟空も入ってこれるのだ。慢心はいかんぞ。」

 

 絶霧(ディメンション・ロスト)の結界を力技で破ってきたというそのビルガメスという男の言葉にイッセーたちは絶句した。あの魔術に長けたオーディンですら一方通行に入ってくるのが精いっぱいであったという結界を無理やり破ってきたというのだから驚くほかない。

 その言葉に英雄派のだれも異を唱えていないところからしてそれが真実であるということがうかがい知れる。

 

「そんなことよりも、だ。曹操。たかが目と腕をやられた程度で激情に駆られるとは情けないぞ。余が卿を頭目として認めたのはその冷静さ、慎重さ、豪胆さゆえのこと。この程度で『覇輝(トゥルース・イデア)』を発動されれば余が卿を認めたことに対し面目がつかぬ。」

 

 そのビルガメスの声と行動に曹操は重要なことを思い出したのか、激情を収めて深呼吸をする。

 

「――退却だ。向こうのレイナルドも限界だろう。さすがにこれ以上の時間稼ぎは外のメンバーに負担が大きい。それにビルガメスの言うとおりだ。こんなところで軽率に『覇輝(トゥルース・イデア)』を発動させようだなんて君らしくない。」

 

「――ああ、わかっているさ。らしくなかった。すまないな、ビルガメス。」

 

「卿の目が覚めればそれでよいのだ。」

 

「ありがとう。さて、初代殿、そして赤龍帝に怪獣王――いや、兵藤一誠に宝田大助。ここらで俺たちは退散させてもらう。追撃をやろうとも上空のビルガメスが目を光らせているのでお忘れなきよう。」

 

「ふん、その様で命令されても威厳がないな。」

 

「でも、やってくれるんだろう?」

 

「わかっているじゃあないか。」

 

 ゲオルグの魔方陣が輝きを増す。そして、英雄派幹部たちの姿が次々と消えていく。そして、最後に曹操が消える時、言葉を残した。

 

「兵藤一誠、宝田大助。もっと強くなっておくれ。ヴァーリよりも。そうすれば聖槍の真の力を見せてあげよう。そうなればビルガメスともようやくまともに戦える。」

 

 そんな不穏な言葉を残し、曹操は光の彼方へ消えていった。

 




 ということでイッセーが覚醒したVS70でした。
 曹操が原作よりも酷い目にあいましたが、強化の前兆だと思ってください。
 それはそれとしてしばらく投稿できそうにありません。その……艦これのイベントが……。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!

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