ハイスクールD×G 《ReBoot》   作:オンタイセウ

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 原作と同じ場面を書くとき、なるべく元の文章をいったん噛み砕いてから自分の言葉で書くようにしています。それでも元とは変わらなかったりもしますが、「原作の大幅コピー」には引っかかりたくはありませんからね。
 あと、設定資料集をこれを投稿する少し前の更新しておきました。物語内では語られていない裏設定も書かれていたりいなかったり。……もしも「あれ、これなんか内容的に唐突すぎね?」というものがあったらご報告ください。ひょっとしたらまだ物語に乗っていない設定も間違えて書き込んでる可能性も無きにしも非ずなので。時々あるんです、とんでもないミスが。


VS77  真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン)

 ダイスケは地面に倒れ伏していた。

 何もできない。

 何も通用しない。

 熱線も、荷電粒子ビームも、自慢のパワーによる格闘も、なにもビルガメスには届かない。

 いや、届きはしたのだ。しかし、すべてがすり抜けていく。熱線やビームを撃てば当たる直前で大きく湾曲するということもあった。さらにそこにいたと思って熱線を撃った直後にいつの間にか背後に回られた。そこへ回避できない一撃を与えられる。

 何らかの種があるのは間違いない。蜃気楼か何かのように何らかのトリックで幻影のようなものを見せているはずなのだ。だが、その種が分からない。

 その間にビルガメスは稲妻状の光線を放ち、その細身からは信じられない怪力で殴打し、蹴り上げ、ついにはダイスケを地面に倒れ伏せさせた。

 

「……所詮、有象無象の一つであったか。曹操に傷をつけたほどではあったが、余の目的には程遠い。」

 

 そう言ってビルガメスは手に稲妻の形を模した剣を生み出す。

 

「この剣で断たれれば、その断面同士は引力を失って乖離する。そうすれば痛みもない。せめて安らかに逝かせてやろう。」

 

 剣の切っ先がダイスケの首筋に当てられる。そしてビルガメスは剣を振りかぶった。

 引力を失う。人と人同士の重力。

 ビルガメスの言葉がダイスケの中でリフレインする。その間実に0.1秒。その瞬き一つ分の時間がダイスケには永遠に感じられた。

 いったいこの力の源はなんだったのか。ビルガメスは言っていた。「キングギドラ」と。

 キングギドラと言えば宇宙怪獣だ。その口からは引力光線を吐きあらゆるものを破壊する。劇中ではそうだった。

 引力、ないし重力を操るこの怪獣の能力。もしその力を引力光線以外に使えるとしたら? もしその力にアレンジを加えているとしたら?

 その瞬間、ダイスケは地面の土を一握りつかんで空中へ放り投げる。それがまるで煙幕のように大気の中を広がっていく。だが、煙幕にしては薄い。あまり効果があるとは思えなかった。

 

「目つぶしのつもりか? だが、何をしてももう無駄よ!」

 

 ビルガメスは剣を振り下ろす。しかし、その一撃は空を切る。ダイスケが避けたのだ。そしてダイスケは体勢を立て直すとあらぬ方向へ拳を突き出した。

 

(まさか!? この男!)

 

 ビルガメスは驚愕していた。この無意味に思えるダイスケの行動。何もない空間を殴るとはふつうに考えれば当然無意味だろう。

 だが、ビルガメスにはこの行動には意味があった。本来そこにいるはずがないのに、ビルガメスは次の瞬間殴られていたのだから。

 

「がっ……馬鹿なっ!?」

 

 すると、そこまでそこにあったビルガメスの姿は歪んで掻き消え、ダイスケが拳を突き出した先にビスガメスの姿があった。

 

「……ビンゴ。」

 

 ビルガメスの姿を捉えたダイスケはそうつぶやく。そして、そのまま手のひらを開いて熱線を放つ。

 

「――させん!」

 

 ビルガメスがそう決意するとその前方の空間が歪んで見える。それによって熱線は弾かれてしまう。

 

「……よくぞ見破った。だが一応答え合わせはしておこうか。勘で見つけたなどと言われたら余の感動はそれこそ無意味になってしまうのでな。」

 

「……お前の能力は引力や重力を操ることだ。お前はそれで重力変動を起こしたうえで光を屈折させ、俺に擬似的な蜃気楼を見せていたんだ。空中に撒いた砂埃が不自然な形になったのはそれが原因だ。」

 

 蜃気楼は光の屈折によって起きる。通常は暖かい空気と冷たい空気の位置が逆転する逆転層によって一般的に蜃気楼は起きる。だが、重力を操るキングギドラを宿すこの男は重力によって光を進行方向を変えて蜃気楼を起こしたのだ。

 どこまでもなによりも速くまっすぐ伸びる光も重力に捕らわれる。ブラックホールもその超重力で光を呑み込んでいることを考えればない話ではない。

 そしてなにより、ビルガメスが攻撃をするときは決まってそれまでいた場所から突然掻き消えて別の場所にいた。これは正確に攻撃をするときには能力を切ってからでないとならないことの証左だ。

 

「正解だ。だが余は一言も自分が重力を操れるなどとは一言も言っていないはずだが?」

 

「特撮ファン舐めるなよ。メジャー怪獣の名前を聞かせられればその能力もすぐに思い浮かぶ。」

 

 いままではいくら物語として知っているとはいえ、その情報が役立つことはなかった。むしろ知っていたとしても相手はそのメタ対策をしてくるだろうし、人の身に宿す力となれば変質してメタ情報が意味をなさないこともあるとダイスケは考え、あまり意識はしてこなかった。

 だが、今回はそれが適応されるという状況ではなかったということのようだ。

 

「そうかそうか、そうだった。現実にある力ゆえつい、そのことを忘れてしまう。その事前情報があればこそ、か。」

 

「そういうことだ。もう好きにはさせないぞ。」

 

 ダイスケが拳を構える。その手には地面から掬い取った砂がある。これを撒きながら戦えばいくら姿をくらませようとしてもその土埃が流れる中の不自然なゆがみを見つけることができればビルガメスの位置を特定できる。

 だが、ビルガメスは不敵な笑みをやめない。

 

「いや、これは失礼だった。まさかこれを読めるとは思っていなかったのでな。ならばこれ以降は蜃気楼は誓わずに正々堂々と戦おう。それが余の策を見破ったお前に対する敬意だ。そして――いくらか枷を外そう。」

 

 そう言うとビルガメスの体が淡い光に包まれ、そしてその光がゆっくりと消えていく。

 

「実は余はこの「重力を操る」という力を応用して適性のない神器保有者から神器をもらっている。人と物の縁もまた重力、とな。それでかき集めた神器を今度は自分に移植しているのだ。その数は優に千を超えている。」

 

 神器の複数保有。今まで獣具の神器の同時保有者はいくらか見てきた。神器の複数所有も匙という前例がある。

 だが、匙の場合はヴリトラ系の同系列の近しい特性を持つ神器の強制同時移植によるもの。それも四つで本人が現状もてあまし、暴走するほどだ。

 それを人と物の縁を重力によって操るとはいえ千以上。これがどういうことを意味するのかダイスケには嫌というほど理解できた。

 

「おっと、勘違いしてくれるな。余が用いるのは主に鍛錬のために自分の力を抑えるような能力の神器。力を増幅するタイプの神器は力を抑える神器を増幅するために使用しているにすぎん。そしてその力の抑制を――いくらか緩和させた。」

 

 つまり先ほどの光は力を抑えるタイプの神器をいくらか解除した際の光。重力蜃気楼に目が行くが、その基本的な力も脅威的なものであった。それが抑制されたものであったのだ。

 

「では参るが――そう簡単に壊れてくれるなよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずい……あっち(ダイスケ)の方が断然やばそうだ!」

 

「だが、彼に何とかしてもらうはかないだろう。俺たちはとにかくこっちを……!」

 

「よそ見してんじゃねえぞ!!」

 

 ガイセリックが地面を殴るとイッセーたちの足元から地割れが起き、そこから剛烈駆雷震のエネルギーの柱が立ち上がる。それをイッセーたちは空中に跳躍することで回避する。

 

「ちっ、やっぱこれはすぐに見切られたか。」

 

 この剛烈駆雷震、見た目のインパクトは大きいが、地割れの方に注意すればどこからエネルギーが吹き上がってくるかがすぐにわかるので一度見てしまえば回避は余裕だ。

 イッセーはすかさず龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)で高速形態となってガイセリックに近づき、龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)となって打撃を放つ。

 

「ハッ! この程度の拳、あの獅子の男の方がよっぽどいい拳しているぜ!」

 

「そうかよっ、ならこれはどうだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 イッセーはラッシュのメインディッシュに右腕を大きく振りかぶり、肘にある撃鉄を起こしておろす。

 

「ソリッド……インパクトッ!!!」

 

 その気迫を見てガイセリックは防御の構えをとることを判断する。そして受ける衝撃は確かにイッセーのこれまでにはなった拳の中で最大威力のものだった。

 だが、ガイセリックは後方にやや下がる程度で耐えきってしまう。

 

「やっぱり、この程度。あの獅子の男ほどは――」

 

「そうだ、俺がいることを忘れるな。」

 

 背後からするサイラオーグの声に、ガイセリックはハッとなる。イッセーが相手をしている間に背後に移動していたのだ。

 

「どうやらおれや兵藤一誠だけの拳ではお前には届かないらしい。だが!」

 

 サイラオーグが拳を引く。同じくイッセーも再び肘にある撃鉄を起こしておろす。

 

「二人なら!」

 

「届く!」

 

 前後両方からくるソリッド・インパクトとサイラオーグの拳。その逃げ場のない衝撃がガイセリックを襲い、その意識を一瞬刈り取る。

 だが、ガイセリックはすぐに意識を取り戻し、構える。

 

「……二人とも近づいてくれたのはありがたいぜ。おかげでこの技を使えるんだからな!」

 

 すると、ガイセリックの体内に溜められたマグマのエネルギーが頂点を突いて一気に噴火する。

 

「天怒爆突ッッッッッ!!!」

 

 すさまじい熱エネルギーと衝撃波がイッセーとサイラオーグに襲い掛かる。何しろ攻撃をした直後で防御の構えをとる暇もなかった。

 吹き飛ばされた二人は大きく宙に浮いて地面に激突する。だが、これでガイセリックの攻撃は終わらない。

 

「行けよ!」

 

 両肩にある龍の首を模した装飾が伸びてそれぞれイッセーとサイラオーグの首に齧り付く。そしてかみついた歯から高出力のエネルギーを放出して二人をいたぶった。

 

「「ぐぁぁぁぁぁあああああああ!!」」

 

 そこへさらにガイセリックは火砕流撃弾を浴びせて鎧をずたずたに破壊していく。もちろんその奥にある肉体もだ。

 

「面白いよ、お前たち……だが俺を殺し切るにはまだ足りない!!!!」

 

 すると龍の首はイッセーたちを放り投げる。投げ捨てられた二人の体は見るも無残なほどにボロボロだった。

 そこへガイセリックの剛烈駆雷震が二人を襲う。すでに死に体の二人の意識を刈り取るには十分すぎるほどの威力であった。

 

 

 

 

 

 

――あれ、ここって……。

 

 イッセーが気が付くと、そこは神器の中の精神世界であった。

 

――なんで俺ここに来たんだ? 戦っている最中だったのに。

 

 すると自分の周囲を幾人もの人影が取り巻いていることに気付く。それはこれまで説得しようにも一向に話を聞く素振りすら見せなかった歴代赤龍帝の面々であった。

 だが、その様子はいつもと違う。いつもは何の感情も感じさせない無表情であったのに、今はその全身から怨嗟のオーラが立ち上っている。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)……。』

 

『……覇龍(ジャガーノート・ドライブ)だ。』

 

『あの天龍並の化け物を倒すには覇龍(ジャガーノート・ドライブ)しかない。』

 

 どこまでも白い空間の上空に映像が映し出される。そこには、血を流して倒れる自分自身の姿があった。そしてたまたま倒れこんだそばにいたのであろうリアスが血を流しているうえ意識がない自分の体を抱きかかえている。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)。』

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使うほかない。』

 

『ああ、それ以外に方法はない。』

 

『何よりもあの化け物は己の死を望んでいる。』

 

 すると、彼らのどす黒い怨嗟の黒い念がイッセーに流れ込んでいく。すると、恨み辛み憎しみが一気にイッセーの中で湧き起ってくる。

 

――ああ、憎い。

 

――自分たちのレーティング・ゲームを邪魔し、夢の道の上の障害になろうとしているあいつらが憎い。

 

――倒したい……! 潰したい……! 何物も超える絶対的な力が、奴らを消し去ることができる力がほしい……!

 

――どうせ死にたがってるんだ、ここで殺しても誰も咎めは――

 

 そこまで考えが及んだ時、イッセーは消滅したエルシャとベルザードのことを思い出した。彼らは自分が赤龍帝という存在の闇を超えてくれると信じて逝った。ここで闇に心を飲まれては彼らの願いと導きは全くの無駄になる。

 

――そうだ、俺は……でも、このままじゃ……!

 

 あらがいようのない闇の誘惑にのまれそうなその時、声が聞こえた。映像の奥から響く観客席の子供たちの声だ。結界に覆われていても中は見えるし声も届く。だから聞こえたのだろう。

 

『おっぱいドラゴンが死んじゃうよーっ!』

 

『いやだーっ!』

 

『立ってよーっ!』

 

 テレビの中の乳龍帝は、どんなピンチも乗り越えてきた。だが、現実のピンチは絵空事のように簡単に乗り越えられるものではない。そんな悲しい現実を、自分が見せてしまっている。

 

――ゴメン、おれ、もう……。

 

 イッセーの中で黒いものががすべてを支配しようとしていたその瞬間、一人の男の子の声が白い世界に響き渡った。

 

『泣いちゃダメ――ッ!』

 

 その声はイッセーにも聞き覚えがあった。以前のおっぱいドラゴンのイベントでサインがもらえなくてイッセーが慰めたリレンクスだ。

 

『おっぱいドラゴンが言ってたんだ! 男の子は泣いちゃダメだって! 男の子はつらいことや悲しいことがあっても強くならくちゃならないって! それで女の子を守れるくらいに強くならなくっちゃいけないんだ!』

 

 それは、確かにイッセーがリレンクスに聞かせた言葉だった。すると、その一声を聞いて子供たちが立ち上がる。

 

『そうだ! おっぱいドラゴンがあんな奴に負けるもんか!』

 

『立って! おっぱいドラゴン――!』

 

「ちちりゅーてー!」

 

 イッセーを呼ぶことも達の必死な声の中に、聞き覚えのある声が混じる。イッセーの応援団長を買って出たイリナの声だ。

 

『そうだよっ! みんな、イッセーくんは……おっぱいドラゴンはどんなピンチも立ち上がってどんな強敵にも勝ってきたの! だからここでみんな一生懸命応援しよう! 信じよう! だって、おっぱいドラゴンはみんなのヒーローなんだから!』

 

 涙で顔をくしゃくしゃにしながらもイリナは訴える。

 

『みんな、おっぱいドラゴンのこと好き?』

 

『『『『『『『『大好きーっ!』』』』』』』』

 

『私も大好き! すっごくスケベで、いつもエッチなこと考えているダメダメな人だけど……誰よりも熱くって、諦めなくて、努力して、大切な、大好きな人たちのために戦える人だって私は知ってる! みんなも知ってるよね!』

 

『『『『『『『『知ってるーっ!』』』』』』』』

 

『だから私たちは応援するの! 声を届けるの! あの人は冥界や天界、いろんな世界のために戦ってるれているんだから、一人ぼっちにしちゃいけないの! ここからでも私たちがおっぱいドラゴンのためにできることは、きっとこれなんだから!! みんな一緒に――おっぱい!』

 

『『『『『『『『おっぱいっ!』』』』』』』』

 

『おっぱい!』

 

『『『『『『『『おっぱいっ!』』』』』』』』

 

『『『『『『『『おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!』』』』』』』』

 

 その声援を聞いた時、イッセーは知らなうちに涙を流していた。こんなにも自分を求めてくれる声がある。自分を求めてくれるヒトたちがいる。そして聞こえる。自分が一番多雪に思っているヒトの声が。

 

『ねぇ、イッセー。聞こえる? みんなあなたを求めているのよ。』

 

 視界にあの紅のヒトが映る。

 どこまでも紅い、ストロベリーブロンドよりもなお紅く鮮やかな髪の色。そう、憧れのあのヒトはいつも自分のそばにあった。

 一度死んだあの時もそうだった。そして今も。

 

『私もね、あなたを求めているのよ? だって、私はあなたのことを――』

 

 自分が愛する女、リアス・グレモリー。その声に応えようとした時、黒い影が近づいてくる。

 

『さ、現赤龍帝よ。暴れよう。覇道極めし覇王となるのだ。さあ、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を――「うるせーよ。」――なに?』

 

「お前らには聞こえないのか? 俺を呼ぶあの子供たちの声が。そして部長の――いや、リアスの声が。俺は覇道なんていかない。覇王になんてならない。」

 

『何を言う。天龍は覇王となるのが本来の道程。有り得ぬ。それ以外は有り得ない。』

 

「違う……俺は……俺は兵藤一誠! ただのスケベで、とことんいやらしいハーレム王になる男だッ!!!」

 

『否、覇王こそが、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)こそがこの神器に与えられた本来の――』

 

『――別にいいじゃあないか。一人くらい、違う道を征く赤龍帝がいても。』

 

 先代赤龍帝達の言葉を遮って、その男は現れた。その背後には白い光がさしている。

 

『貴様は……っ!』

 

 先代赤龍帝達はその白い後光纏う男に怨嗟の視線を差し向ける。

 

『やあ、現赤龍帝。僕は先代白龍皇の一人だ。』

 

「え!? なんで先代白龍皇が――まさか、俺がヴァーリの鎧の宝玉を吸収した時に?」

 

『そう、あの時のあの無茶の影響で、僕の意識の一部、まあ本体は向こうにいるんだけど、それがこっちに渡ってきた。現赤龍帝、君に力を貸そう。僕の半減の力で何とか彼らの怨嗟の念を抑える。』

 

「あ、ありがとう。でも、いいのか?」

 

 自分は赤龍帝であって本来力を貸すべき相手ではないはず。だが、先代白龍皇は笑って返した。

 

『あなたは面白い。歴代最強の赤龍帝ふたりが笑って逝ったのもうなずける。悲しき怨嗟と呪いの歴史を吹き飛ばせるほどの熱さと可笑しさを持つあなたなら、天龍という存在を、いや、二天龍そのものを新しい時代に導くことができるかもしれない。そう、あなたはヴァーリ・ルシファーとともに新しいドラゴンになるべきだ。』

 

 そう言って先代白龍皇は両手から白い閃光を放つ。その閃光によって先代赤龍帝たちの怨嗟の黒いオーラが徐々に抑えられてきている。

 だが、彼らはそれで屈したりはしなかった。

 

『何を言うか! 憎しみが! 悲しみが! 恨み辛みこそが赤龍帝の存在意義なのだでなければ我らの人生はなんであった!? 力に溺れ、対なる者への怨嗟に溺れ、そして滅んでいった我らの無念は――』

 

 白龍皇の力に抑えられながらもいまだに怨嗟の念を吐き続けることをやめない先代たちにイッセーは言った。

 

「俺はおっぱいに救われた。そして、俺はそれをこれからも求め続ける!」

 

 しかし、先代たちは最後の抵抗で覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の呪文を口にしだした。

 

『我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり――』

 

「我、目覚めるは王の真理を天に掲げし赤龍帝なり!」

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う――』 

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く!」

 

『我、赤き龍の覇王と成りて――』 

 

「我、紅き龍の帝王と成りて!」

 

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――ッ!』

 

「汝らに誓おうッ! 真紅の光輝く未来を見せると!」

 

 イッセーの最後の言葉に、先代たちは面を食らったかのような表情になった後、晴れた表情になった。

 

『――未来。我らに未来を見せる、だと……。』

 

「そうだ! 俺が見せてやる! いや、俺と一緒に見ようぜ! 俺と共にみんなに見せてやろうぜ! 仲間に、ともに、好きな女に、子供たちに!! 俺たちがこの赤龍帝の力で未来を見せてやるんだ!」

 

『そんなことが、できるのか……? 未来。僕たちが、未来を……その場で終わる破壊ではなく、続く未来を……!』

 

「ああ、そうさ。俺たちならできる。行こうぜ、先輩たち! ――俺は赤龍帝で、おっぱいドラゴンで、リアス・グレモリーに惚れた男! 兵藤一誠だぁぁぁぁぁぁあああああああああッ!!!!!」

 

 すると幻影の中でイッセーを抱きかかえるリアスの胸が紅く光り輝き、イッセーの意識を現実へと引き戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーが気付いた時、そこには自分の姿を見て驚くリアスの姿があった。

 

「イッセー、あなた……。その鎧の色……。」

 

 リアスに言われて自分の鎧を確かめるイッセー。すると、赤であった鎧の色はもっと深く鮮やかな紅色に染まっていた。それは自分が惚れた女性の髪の色と同じ色――

 

「俺が好きな――リアスの色。」

 

「い、イッセー?今なんて――」

 

『おい、相棒! 大丈夫なのか!? お前、意識が神器の深奥にまで飛ばされてお前をしばらく感じられなかったんだぞ!』

 

「そ、そうなの? 確かに赤龍帝の先輩たちとアルビオンの先輩にあってきたけど。」

 

『アルビオンの? そのせいなのか? 歴代赤龍帝たちの怨嗟の呪いが消失して、しかもお前女王(クイーン)形態に成れているぞ。』

 

 ドライグのそう言われてイッセーは自分の奥の駒の様子を探ってみる。

 

「ほんとうだ。女王(クイーン)昇格(プロモーション)してる。無理だって言われていたのに。」

 

「――『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン)』といったところか。リアスと同じ色だな。」

 

 そう言って立ち上がるのは鎧が修復したサイラオーグだ。

 

「サイラオーグさん! 大丈夫なんですか?」

 

「母上に叱られて、な。」

 

 鎧は治っていはいるが、その奥の肉体のダメージは残っている。そのせいでふらついてはいるが、サイラオーグは立っていた。

 

「ひょっとしたおまえが母を目覚めさせてくれようとしていてくれたことが効いたもかもしれん。意識を完全に失いかけようとしたその時、母上の声が「立ちなさい」と俺を叱咤してくれたのだ。昔のように。夢をかなえよと、俺の望む世界を、冥界の未来のために、自分が味わったものを後世に残さないようにと。」

 

 サイラオーグには夢がある。たとえ生まれがどうであろうと、素晴らしいものさえあればそれにふさわしい位置にいられる世界を作ると。これから生まれてくるであろう冥界の子供たちが悲しい思いをしない世界。それが彼の夢であり望みであった。

 

「「諦めなければ、いつか必ず勝てるから」、昔と同じように母上はそう言ってくれた。そして目が覚めたのだ。そしたらお前はそんな成長をしている。これで俺が倒れたままでいられるか。いこう、兵藤一誠。あのものに目にもの見せてやろう。」

 

「やりましょう。惚れた女の目の前で、惚れた女のイメージカラーで勝ってやります! ああ、そうさ、ガイセリック。俺は――」

 

 そう言ってイッセーはガイセリックに向けて指をさす。そして、言い放った。

 

「俺を求める冥界の子供たちと、惚れた女の目の前でお前をぶっ倒す!! 俺の夢のため! 子供たちの夢のため! リアス・グレモリーの、俺の大事な、惚れた女の夢のため! 俺はお前を告白ついでにぶっ倒す! なぜなら俺は、リアス・グレモリーが大好きだからだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 公開告白。今まで抑えていたものが今日までの積み重ねの結果ついに爆発した。その結果、リアスの顔はこれまでないくらいに真っ赤に染まっている。

 

「ふっ、ハハハハハハハ!! ついに告白したか! いいだろう。なら俺は従妹の恋愛成就に力を貸そうか! そう言うのも悪くはない!! 征くぞ!」

 

「はいッ!」

 

 サイラオーグが飛び出す。そしてイッセーも翼を開き、そこからバーニアを一斉噴射させて飛び出す。

 

『Star Sonic Booster!!』

 

 この瞬間、イッセーはこの真女王形態の特性がすぐに分かった。この形態の状態で赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)の三種すべての形態の能力が使えるのだ。事実、すでにトリアイナの騎士(ナイト)並の加速を得ている。よって、各形態にチェンジすることで特性を知られるということもない。

 

『だが気をつけろ、まだ脱皮したての蟹みたいなものだ。まだ鎧の防御力は安定していない!』

 

「ああ、わかったぜ、ドライグ!」

 

 それでも各種駒の特性を使えることは変わりない。イッセーはガイセリックに迫ると腕をトリアイナ戦車(ルーク)に変換させた。

 

『Solid Impact Booster!!』

 

 その音声とともにイッセーとサイラオーグの拳がガイセリックに突き刺さる。

 

「がっ……こいつは!」

 

 正直なところ、彼らを舐めていた。パワーアップをしたというのならどの程度のものなのか見せてもらうくらいにしか考えていなかった。

 それがこれだ。結果、これまで傷一つつけられなかった自分の鎧に先ほどの一撃で罅が入った。

 

「させてばかりじゃ……ねぇんだよ!!」

 

 再び天怒爆突で自分の周囲に高エネルギーをまき散らすガイセリック。しかし、一度見た技だ。技発動のタイミングさえ記憶してしまえばそれにあわせて回避すればいい。そして実際、二人はそれを実践して見せた。

 ならばと今度は火砕流撃弾を放つがそれを耐えきったサイラオーグが背後からガイセリックを組み伏せる。

 

「兵藤一誠! 俺ごと撃て! なに、俺の神器は飛び道具に対する耐性がある。安心して撃つといい!!」

 

『サイラオーグ様のことならわたしに任せろ、赤龍帝! 主は責任と全能力を持って私がお守りする!』

 

「なにっ!? は、放せぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 離れんともがくガイセリックだが、鍛え上げられたサイラオーグの筋力と意地がそうさせない。

 そんなサイラオーグを信じ、イッセーは両翼に格納されたキャノンを展開し、魔力をチャージする。

 鳴動する大気とともに、魔力がチャージされていく。トリアイナ僧侶(ビショップ)よりもチャージが早い。そして、ガイセリックがサイラオーグの拘束を解く前にチャージが完了し、イッセーはそれを放った。

 

「クリムゾン・ブラスタァァァァァァァァァ!!!!」

 

『Fang Blast Booster!!!!』

 

 まっすぐに伸びる真紅の閃光は正確にガイセリックを捉えた。そして、その旨を正確に撃ち抜く。

 

「ガッ……。」

 

 それを感じたサイラオーグは。とどめとばかりにその傷口に背後から拳を叩きこむ。その拳はガイセリックを貫通し、サイラオーグは一気に腕を引き抜いて地面に捨てた。

 

「……やりました?」

 

 サイラオーグの安否を確認するために近づいたイッセーはサイラオーグに尋ねる。

 

「呼吸音が聞こえない。心臓の鼓動も、だ。」

 

「ひょっとして、復活できないくらいのダメージは与えられましたかね。」

 

「すぐに起き上ってこないところを見るとそのようだな。……俺たちの――」

 

「――勝ちだ!」

 

 そう言って二人は拳を天に突き上げる。それを見た観客席の子供たちは大きく沸いたのであった。




 ということでガイセリックは撃破したイッセーとサイラオーグの二人でした。ですがまあ、デスギドラというやつはそんな簡単に殺せる奴ではないのです。ええ。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!

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