そして気づきませんでしたが、いつの間にか四周年迎えていたんですね、この小説。それを考えると、やっとここまで来たかという感じです。暇な時間を見つけてコツコツやってきた甲斐があるってもんです。
イッセーたちへの曹操襲撃からさかのぼること数十分前――
ダイスケはその日、アザゼルの冥界への誘いも断ってマサノ姉妹たちの特訓に付き合っていた。
確かに冥界にいけば高確率でアザゼルかリアスのおごりでうまいものが食える。自分たちに昇格試験なんてストレスのかかりそうなことは関係ない。ただついていけばいいだけだ。
だが、確かにそういったお楽しみも人生には必要だが、今はそんな平穏を守れるだけの力を姉妹が身につけることが重要だと考えたダイスケは、その誘いを断った。
その結果――
「やりました……やりましたよ、お姉さま!」
「やった……やったネー!!!」
見事にその日の内にマサノ姉妹の二人ともが禁手に至ったのだ。ダイスケとの模擬戦は回を重ねていくうちに苛烈さを増し、ついに最近はほぼ実戦といえるほどになっていた。
その中での極限のやり取りと、獣具に宿るゴジラ同士の共鳴によりついに二人は禁手に至ったのである。
「榛名にも見せてあげたかったネ。私たちの成長の瞬間。」
「でも、この前まで元気だったのに、急に具合が悪くなるなんて……。お見舞いにも来なくていいとは言われましたが、もう五日近くは学校も休まれているんですよね? 大丈夫でしょうか……。」
榛名は五日ほど前、オーフィスを伴っての鍛錬に付き合った後から急に学校を休んだ。ダイスケたちにも連絡の一つもよこさないうえ、「見舞いにも来なくていい」と言われてしまっているのだ。
「あの榛名がずる休みするとも思えないし、きっとガチで寝込んでるんだろう。こうなったら本人には来なくていいとは言われてはいるが、今日この後見舞いに行こう。」
「そうネ、心配しなくていいと言われても心配するモン。親御さんに連絡入れてから、みんなで行きまショウ。」
そういうことになり、三人は後片付けをして山を下りる。採石場に張った結界を消し、魔法力を温存するのと足腰の鍛錬の為に最寄りの駅まで歩いて行っているのだ。
そうやって山を下りるさなか、急に山道に霧が立ちこみ始める。
「あれ、さっきまで天気よかったのに。ガスってやつですかね?」
マリーが首をかしげて言うが、ダイスケとエリーには何か違和感があった。普通の霧にはないどことなくある異様さがあるのだ。何より、この肌をぬるりと触る嫌な感じは一度経験していたものだった。
「マリー、これはきっとガスじゃないネ。これは――」
「ああ、
即座に三人は互いに背中合わせになって全周囲を警戒する。互いがそぐそばいるかどうか知るために、背中同士を密着させている。しかし、ダイスケの背中から二人の感覚が消える。
「エリー!! マリー!!」
周囲を見渡しても二人の姿が見えない。さらに、足元の感覚が先ほどと違う。どうやら自分だけがどこかへ転移させられたようだ。
すると、霧は役目を終えたのかあっという間に霧散する。
「俺だけを誘導するのが狙いか……。エリーもマリーも別の場所にいるか元の場所に留まっているかだな。」
まずは自分のいる位置の確認だ。周囲を見渡すとそこは数分前までいた採石場跡地だった。
「出てこいよ! 俺に用があるんだろう!? じゃなきゃエリーとマリーにも手を出しているはずだからな!」
ダイスケは姿を見せぬ敵に対してそう叫ぶ。するとダイスケの目の前に梵字でできた転移魔方陣のようなものが現れる。
そこから現れたのはひとりの長い黒髪の女。目立つのはその着崩したぼろぼろの僧衣と禍々しい色の珠が連なった首にかけてある数珠だ。
「はじめまして、ね、宝田大助。私の名は芦屋道満。言わずもがなだとは思うけど、禍の団、英雄派よ。」
「やっぱりな。さっきの霧は
「ええ。彼の神器ってホント便利だから。貴方だけを転移させる結界装置を作ってもらったわ。貴方に用があるっていうのも正解よ。ああ、お連れさんには用はないから元の場所に留まってもらっているわ。ただし、ここにいることに気づかれないように結界は張ってあるけれども。」
ダイスケの予想は当たっていた。やはり敵の目的は自分だけだった。
それにしても、その目的が気になる。
「で、何の用だよ。拉致して洗脳でもして自分たちの戦力にしようってか?」
「それもいいわね。お仲間さんたちの困惑した表情が見れるでしょうから。でも違うの。貴方には今日――死んでもらうわ。」
「――大きく出たな。よほど自分の腕に自信があるんだな。」
ダイスケの言葉に、道満は首を横に振る。
「私じゃ勝てないわ。ほら、私のこの獣具――
そう言って道満は自らの腕の中にフナムシの化け物を抱いて自らの獣具を見せる。
「それに名前で気付いているだろうけど、私はどちらかといえば技術屋肌のウィザードタイプ。前に積極的に出るタイプじゃないの。だから――」
道満は指を鳴らして別の梵字の魔方陣を描く。するとそこからもう一人別の人物が現れる。
その人物は、体格からして女性だった。添えも背格好から見てダイスケと同年代だろう。
大きく突き出した両肩の結晶、額に結晶状の飾りがついたティアラ、宇宙の闇の色のドレスといった出で立ち。背中には結晶状の背鰭が並び、長く先端に結晶でできた銛を持つ尾がある。
ただ、顔は同じく結晶でできた仮面で覆われていたため誰なのか判別はできなかった。
その瞬間、大地が大きく揺れ、地面から多数の先端の尖ったクリスタルが突き出てくる。ダイスケは結晶に貫かれないようステップで回避し、
「こいつは……まさか、スペースゴジラか!?」
「御明察。彼女は貴女から採取されたG細胞とビルガメスが宇宙で見つけた結晶生命体を彼が作ったブラックホールに入れて私の蠱毒の法で生み出した、宇宙で生まれたゴジラ、『スペースゴジラ』よ。」
「……そこまで再現するなんてな。あんたらよっぽどの特撮好きか?」
「まさか。貴方の細胞と組み合わせられる何かいい素材がないかと探して見つけて、作り上げたのがたまたまこれってだけ。偶然の一致よ。」
ここにきて以前アザゼルが言っていたことを思い出す。映画の中の出来事は本来ありえた世界線なのではないかという話だ。今回のこれでその説の正当性がますます現実味を帯びてきた。
「せいぜい、彼女との逢瀬を楽しみなさい。さあ……お行き。私は例の待ち合わせ場所で待っているから。」
道満の合図で仮面の少女は手をダイスケに向ける。すると、地面に生えていた結晶体が火花を噴射しながらロケットのように打ちあがり、ダイスケめがけて直進してくる。
見れば道満の姿はない。巻き込まれないように非難した、ということだろうか。
「っ、ホーミングゴーストか!」
ダイスケは両手から熱線を放って飛来する結晶体を撃破していく。しかし、撃ち漏らした数本の結晶がダイスケに突き刺さり大爆発を起こす。
「くっ……。」
攻撃そのものは非対称性透過シールドで防ぎきることができる。しかし、爆発で目の前が見えづらい。そこに、オレンジ色の稲妻のような、それでいて蛇のようにくねるビームがダイスケに突き刺さる。仮面の少女が右手から放ったコロナビームだ。
爆発で俟った結晶のおかげで前が見えなくなったところにこの軌道が読めない攻撃がダイスケに突き刺さる。その威力はダイスケの非対称性透過シールドと鎧の装甲を撃ち抜くには十分すぎる威力だった。
「っ、この!」
ダイスケはよろめきながらもスパイラル熱線を仮面の少女に向けて放つ。しかし、それはクリスタルのような防護壁に阻まれる。フォトン・リアクティブ・シールドだ。
しかも阻まれた熱線は反射してダイスケに直撃する。
「がっ……!」
自分の攻撃が反射されることは常に戦いのさなか覚悟していることだ。しかし、実際に喰らってみるとこれが存外に効く。
それでもこれまでイッセーとの実戦形式の組手で何度もイッセーの砲撃を食らっているのだ。これで止まることはない。
よろめいて倒れると見せかけて、不意打ちの熱線を手のひらから放つ。すると、仮面の少女の漆黒のドレスがスパークを上げる。不意打ちの一発が効いたのだ。
「やっぱり……戦闘に慣れているわけじゃないな、これは。」
今の不意打ちの一発は実力者なら十分警戒する一発だった。それに対応できていないということは、先頭のノウハウや流れというものを感じ取れない素人である可能性が大きい。
となれば有効な対応策は接近戦に持ち込むことだ。接近戦は遠距離戦よりも相手の呼吸を読むことが重要になってくる。そこに相手を引きずり込み、こちらの有利な状況に持っていくのだ。
まず、ダイスケは電磁化で自分の体を磁気コーティングし、電磁加速で一気に滑り出す。もちろん仮面の少女はコロナビームで迎撃しようとするが、やはり慣れていないのかダイスケの不規則な動きについていけずすべて外してしまう。
ならばと仮面の少女はホーミングゴーストの弾幕でダイスケに襲い掛かるが、向かってくる結晶体の数は多いものの軌道は単純そのもの。容易に避け、熱線で撃墜し、一気に仮面の少女に接近する。
「どこのだれかは知らないが――」
そう言ってダイスケは少女の両腕をつかむ。
すると、少女の手に異変が起きる。つかんだダイスケの手を巻き込むように、結晶で覆われはじめたのだ。ダイスケの手を離さない気だ。これでダイスケの両手を塞ぐつもりなのだろう。
しかし、そうだとしてもやりようはある。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ダイスケは頭を大きく振りかぶって少女の顔面の仮面に直撃させる。喧嘩殺法の頭突きだ。
頭を振りぬいたダイスケはゆっくりと顔を上げる。おそらく相手は今ので萎縮したはずだ。それに手を固定していた結晶も砕け散っている。
すると、少女の結晶の仮面に小さな罅が入る。日々は徐々に広がり、ついにその仮面の下が暴かれる。
「さあ、ツラみさせてもらおうか――」
徐々に元の角度に戻る少女の頭。パラパラと結晶が崩れていき、その仮面の下の顔が暴かれた。
ダイスケはその顔が徐々に表れるたびにマスクの下の表情は徐々に驚愕の色に塗りあげられていった。何を隠そう、その仮面の少女の正体とは――
「は、るな……なのか?」
間違いようがなかった。それは紛れもなくいつも朝おこしに来てくれ、昼の弁当を作ってくれる上に夕食を作るのも手伝ってくれる河内榛名その人であったのだ。
目に光が灯っていないことを除いてはまぐれもなく榛名だ。何者かが油断させるための変身術を使ったのかとも思ったが、その息遣いやほのかに香るいつも使っているシャンプー匂いは紛れもなく榛名のものだ。
「なんで……なんで榛名が……?」
あまりの出来事にダイスケの戦意はすっかり薄れる。それにお構いなしに、榛名は嬉しそうに言った。
「ダイスケくん、私、ようやく貴方と同じステージに立てました。これで皆さんに後れを取ることはありません。もうエリーさんたちの好きにはさせませんから。」
「何言ってるんだよ……何言ってるんだよ、榛名!!! 何かの冗談だよな、お前が獣具所有者に……怪獣に一歩近づくなんて!!」
獣具は、その性質上封印系の神器に近い。それを使い込んでいくということは宿すモノに所有者が徐々に近づいていくということでもあるのだ。
現にイッセーは人間ベースの悪魔であるものの、その生態はすでにドラゴンのもの。ダイスケもすでに人間の範疇を逸脱した人型のゴジラと言っていいものに変貌している。
そんな世界に、榛名が入ってきてしまったことは、ダイスケにとってショック以外の何物でもなかった。であるのに、当の榛名の表情は多幸感に満ちている。
「私、ダイスケくんの裏を知ってからとても悔しかったんです。エリーさんたちはダイスケくんのそばに立てるのに、私はできない。それって、とても悔しいことでしょう? それがこんな風に変われただなんて、私、あの人に感謝してるんです。」
「だからって……だからってなんでそんなことしたんだよ!? 俺は榛名には裏の世界なんて知らないままでいてほしかった! 知った後も、俺たちと同じような存在になんてなってほしくなかった!! それなのに……なんでそんなものに手を出したんだよ!?」
すると榛名は、満面の笑顔で言い切った。
「大好きだからです。ダイスケくんのことが。私、河内榛名は誰よりも貴方のことを愛しています。」
榛名の口からダイスケにとって信じられない言葉が飛び出る。予想だにしていなかった答えに、ダイスケは困惑するも、榛名は続ける。
「私、ようやくわかったんです。8年前のあの時から、私を助けてくれたあの時から、貴方は私の
すると徐々に榛名の顔に影が生じる。
「マリーさんもエリーさんもスルーズさんもずかずかの私がいるべき場所に乗り込んできて、それでダイスケくんの女アピールですか? 図々しいたらありゃしない。京都のヒオさんとマナさんもそうなんでしょう? 女が男に向ける視線に一番敏感なのは女なんですよ? わからないって思っていました?」
今まで見たこともない他人への呪詛を口にする榛名の姿にダイスケは圧された。
「俺のせいなのか? 俺が榛名の好意に甘えていたからこうなってしまったのか? だったら俺は……俺は……!」
ダイスケは無意識のうちに鎧を解く。すでに戦意を喪失していた。そんなダイスケに、榛名は両手を広げて迎え入れようとする。
「ダイスケくんが苦しむことなんてありません。さあ、来て……。」
榛名の申し出に、ダイスケは否応なしに彼女の胸の中に飛び込んでいった。
「ごめん、榛名。俺のせいで……俺のせいで……!」
「いいんです。私が自ら進んだ道なんですから。それに――私たちは一つになるんですから。」
「一つ? それって――」
尋ねるダイスケの背中に、鈍痛が突き刺さる。尾の先の結晶体を突き刺すテールスマッシャーだろう。それがダイスケの背中を貫き、内臓にまで達したのだ。
「……がっ――がふっ――」
ダイスケの口の端から鮮血がしたたり落ちる。それを榛名は舌でもって舐め掬い、充分に味わった後嚥下する。その表情は恍惚となった。
「あ、ああああああああああああああああ!!! これが一つになる感覚……最っ高――」
「は、はる、な……ひと、つに、なるって……まさか……。」
「そうです。これからダイスケくんは血も肉も骨もどろどろになって、私の体の中に入っていくんです。そうすれば誰もあなたを私から奪うことはできない。私が死ぬその時まで、私たちは永遠に一緒にいられんですよ? 確かダイスケくん、血液型はO型だったっから輸血は平気ですよね?」
そんなことを榛名は満面の笑みで言った。
「今、私の尻尾の先には丸薬大のある薬品が入っています。『オキシジェン・デストロイヤー』っていうらしいんですけど、それだ水の中に溶けると反応を起こして水中の生物を液状化させてしまうんだそうです。今はこれくらいが作るのが限界らしいですけど、これなら人体程度なら使用に問題ないそうです。それでダイスケくんをドロドロにします。なんでも未完成品で1週間で効果が切れるらしいんですけど、それまで待てばダイスケくんと一緒になれるので、ちょっとの間我慢してくださいね。」
そう言った瞬間ダイスケの中で何かがはじける。オキシジェン・デストロイヤーが作動したのだろう。すでに内蔵の感覚はない。溶け去ったのだ。
徐々に呼吸も、思考も停止し始める。そんなダイスケに、榛名は最後の別れとばかりに口づけをした。
「――んっ、これで、最後です。おやすみなさい、私の大好きなダイスケくん。」
その言葉を最後に聞き、意識薄れるダイスケの体は結晶に覆われていった。
*
「お姉さま、本当にこっちですか?」
「間違いないネ。人払いの結界が張ってあるけど、ダーリンは間違いなくこっちの方向ネ!」
霧の結界によってダイスケとはぐれたエリーとマリーは高精度探査魔法でダイスケの居場所を調べている。その結果、ダイスケは採石場跡地に戻されいていると分かった。
このように姉妹とダイスケを分断した上で姉妹の方には何も手を出さずにいるということは、敵の狙いはダイスケだということになる。しかも、ダイスケに対する何らかの対抗策を有した上での行動と見ていい。
となればダイスケは今危険にさらされていることになる。
「いそがないと……!」
「はい!」
鬱葱と茂る木々の中を走り抜ける時間はない。二人は一気に距離を詰めるために飛行魔法で一気に跳躍する。
そして、より一層霧が濃い採石場に到着した二人はダイスケの名を叫ぶ。
「ダーリーン!!!」
「ダイスケさぁぁぁぁぁん!!」
徐々に薄れていく霧の中、姉妹の叫びがこだまするが、その返事はない。「おーう、どうしたー」だの、「おせえよ、敵なんてみんなやっつけちまったぞ」というダイスケの言葉が返ってくるのを期待するが、一向にその言葉を聞ける兆候がない。嫌というほど静まり返っている。
そして薄れていく霧の中、人影が一つ見えた。聳え立つクリスタルの群れに囲まれたその人物は自分たちと同じ背格好の少女。
それは、獣具を身に纏った榛名であった。
「なんで……榛名さんがここに……? その姿は一体……?」
マリーの問いに、榛名は朗らかな、それでいて闇を抱えた笑顔で答える。
「ああ、これですか? 親切な方からのもらい物です。これのおかげでようやく私は貴女たちと同じステージに立てることができたんですよ。」
その言葉には姉妹に対する敵意がにじみ出ていた。それを感じた二人は相手が榛名であるものの、最大限の警戒を取った。
「……ダーリンを探しているノ。何か知ってるんじゃなイ?」
そのエリーの言葉を聞いた榛名は、ひとしきり嗤う。何か大きな歓喜に浸されているかのような嗤いだった。
嗤い終えた榛名は、霧で隠れて見えない自分の腹に向けて指をさす。
「わからないんですか? ここですよ、こ・こ。」
すると、周囲を覆っていた霧が一気に晴れる。その榛名が指差す自身の腹には、結晶でできた大きなふくらみがあった。いや、それだけではない。その中が透けて、赤い液体のようなものが詰まっているのが見える。
その姿はまるで妊婦のようであり、また内臓が浮き出ているのではないかと思える姿だった。だが、榛名の言う意味が理解できない。
榛名が指差すのは結晶でできたタンクに詰められた赤い液体のみである。
「まだわからないんですか? これ……ダイスケくんです。」
その言葉の意味が、すぐに姉妹には理解できなかった。だが、時間を置かずに二人はその意味を本質で感じてしまった。
「まさか――」
「うそ、でショウ……?」
理解できなかった。いや、理解したくなかった。
認識できなかった。いや、認識したくなかった。
その赤い液体がダイスケ――いや、
「嘘じゃないです。証拠に、ほら――」
そう言って榛名が見せるのはダイスケの持っていた携帯。普段肌身離さずに持っているものを、そう簡単に手放すはずがない。そして何より、その携帯のボディには血が付着していた。
「これに付いている血を調べればダイスケくんのだってわかるでしょう。そう簡単に他人に手渡すものでもないですしね。信じてくれました?」
「なんで……? なんで……?!」
そのように問うエリーに、榛名は侮蔑と怒りが混じった視線を向けて言い放つ。
「それは貴女たちがダイスケくんを私から奪おうとしたからでしょう? ダイスケくんは私のモノだったのに……そこへズカズカと貴女たちは入り込んで!! 私の方がダイスケくんを大切に想っているのに!! 私の方がダイスケくんの隣に立つ資格があるのに!!」
それは今までに見たことのない激昂した榛名の姿だった。御淑やかで穏やかだった榛名が押さえ込んでいたものが、ついに爆発したのだ。
「それなのにあなたたちは私からダイスケくんを奪おうとして……! それなのに私は無力で! 何も知らなくて! だから――独占することにしました。」
そう言って榛名は自分の腹にある血溜りのタンクをなでる。
「あるお薬でダイスケくんの体を溶かして、そしてダイスケくんを私の体の中に注ぐんです。お薬の効く時間は3日。それを過ぎれば安全に私の体に注入することができるってわけです。ダイスケくんはO型だから輸血は安全にできますし、そこは幸いでしたね。」
榛名の目的を聞いたマリーは嫌悪感と恐怖で口を覆って抑え込む。エリーに至っては絶句している。
「そうやってダイスケくんを自分のモノにすれば、もう誰にも奪われないということです。どうです、素敵なアイデアでしょう? これでやっと私もダイスケくんも幸せになれます。」
望む未来を語る榛名の笑顔は救われたかのようなものだった。そんな榛名に対し、エリーは必死に絞り出した言葉で否定する。
「……ちがう。そんなの、幸せの形なんかじゃないヨ!!!」
しかし、榛名の表情は冷たい。
「貴女の様な人間に理解できることじゃありませんよ。わかりっこないです、永遠に。」
そう言って榛名は宙に浮き、背中の結晶が半身を覆うほどに巨大化していく。
「それではわたしはこれで。恩人との待ち合わせがあるので。――二度と会うこともないでしょう。さようなら。」
別れの言葉を言い残し、榛名ははるか上空へ姿を消す。
残された二人は泣くことすらできず、ただ無力感と喪失感に囚われていた。
前回スー○ー仁君人形を賭けた皆様、見事正解! なVS82でした。正解したからと言っても特に何もありませんけども。
ここで死ぬのは以前あった例の作品のパクりじゃね? と思われるでしょうが、これは無印DXGの最初期から考えていた展開です。というか、当時自分が考えていたのと全く同じタイミングであちらの主人公が死んだので本当に驚きました。頭の中覗かれていたんじゃないかっていうレベルでです。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!!