いやぁ、インターネット依存症には堪えるっす。
ダイスケとイッセーを失ってから二日が経過した。
リアスの眷属たちは現在グレモリー家の城にその身を置いている。城内は慌ただしかった。使用人も含め、グレモリーの私兵も所狭しと動いている。
その理由は現在、冥界が二つの脅威にさらされているからだ。
ひとつはシャルバ・ベルゼブブが外法によって生み出した
木場が今いる部屋はテレビがつけっぱなしになっており、昼夜を問わずそのニュースが流れ込んでくる。
冥界に現れた超巨大モンスターは合わせて十三体。そのどれもが100mを超える巨体を誇る。その姿かたちは一つとして同じものはない。ドラゴンのようなものがいるかと思えば、水棲生物に陸上獣類に合わさったような見た目のものもいる。かとおもえば4本足に二本足、翼が生えている者がいれば頭部がいくつもあるものもいる。
つまり
このモンスターたちが厄介なのはその巨体のみならず絶えず小型のモンスターを生み出しているということだ。体の各部が盛り上がり、その肉を破って次々と小型モンスターが生み出されていく。大きさは人間大でそれほど強くはないものの、その数が多い。一回に生み出されるのは数十から数百体で、進路上にあるものはすべてを食らい尽くす。
進路上にあった集落や町は通達と避難が早かったおかげで今のところ人的被害は転んで怪我をした等の最小限だが、その跡には何も残らなかった。
魔獣の中でも最も巨大なものは現在首都リリスに向かっている。これはアザゼルによって『
テレビではその
『なんということでしょう! 攻撃が全く通じておりません!!』
各
さらにオリュンポスからも大勢の戦士が増援に駆けつけており、以前リアスたちとともに行動した護国三聖獣も来ると言われている。そのおかげで最悪の事態は避けられている。
だが、問題は
しかし現実は足止めにとどまったにすぎず、撃破には至っていない。そのニュースは冥界中に広がり、驚愕と絶望を振りまいた。
さらにこれに呼応し旧魔王派が各地でクーデターを起こしている。明らかに歩調を合わせたその動きには計画性があった。
そしてもう一つの問題というのは――榛名だ。
彼女は突如冥界に現れ、アーケロン川とそれが形成する巨大な湖に面した水産都市ウパルに侵攻した。これには彼女を変貌させた英雄派が冥界に追加のダメージを与えるために差し向けたという見方が強い。要はシャルバの便乗だ。
そして住民を追い立てるように追い出した榛名はそこを占拠。一帯を結晶体で覆い、自分のテリトリーとした。
人的被害がなかったのは不幸中の幸いだが、冥界の水産産業を一手に担うウパルが占拠されたことで食料品価格が高騰。経済界にとてつもないダメージを与えている。
さらにウパルは冥界の中で最も人間界との境界があいまいな個所で、人間界の放送やネットワークとつなぐシステムがあった。これが使用不能になったのだ。このため、人間界に住まう他の神話勢力との連絡が不能となり、もっぱら人力で情報のやり取りをしている始末だ。
このように経済と情報の拠点を抑えられたことで冥界はさらなる混乱に陥った。もちろんこれをただ見過ごす冥界政府ではない。榛名を排除するためにロイガン・ベルフェゴールとビィディゼ・アドバンが眷属を伴って出撃した。ともにレーティング・ゲームのランキングではディハウザー・ベリアルに次ぐ実力者たちだ。それが返り討ちにあった。
それぞれ『裂け目』と『
一般の部隊が攻撃しようにも結晶体間には強力なエネルギーが常に放出されており、それを浴びれば下級悪魔なら一発で消し飛ぶという威力なのだ。
さらに一帯には強力な電磁障害が生じており、一般の通信はおろか魔力生成にも影響を与え悪魔としての能力がまともに機能しなくなっている。
これを堕天使の研究機関が解析したところ、すでに榛名は禁手に至っているという結論が出て、サンプルから宇宙棲息の結晶生物とG細胞を持つと判明したため通常形態を
その圧倒的戦闘力によってレーティング・ゲームの二位と三位を敗走させてからは目立った動きはしていないが、超遠距離からの観測によれば常にいとおしそうに自分の腹部を撫でているとのことだ。もちろん、血と体液のみに溶かされたダイスケの遺骸だ。
とにかくまともに相手できる存在ではないと今のところ静観することになっているが、不満をためていた転生悪魔たちがこれに乗じて反乱を起こしたという情報も入っている。ハーデスの動きも読めないうえ、英雄派がこの機に乗じてテロを起こす可能性もある。
今、冥界は混乱の中にあった。
そんな中でも民草のために動かなければならないのが貴族だ。それはリアスも同じだ。だが、彼女とその眷属たち、とくに女性陣はイッセーを失ったというショックで全く動けない。
木場はアザゼルに頼み、イッセーが生きている可能性を必死に探った。だが、何をどう調べても結論は一つだった。
まず、帰ってきた八つの駒からはサマエルのオーラが残留しているのが分かった。これにより直接の死因がサマエルの呪いであることが判明した。そしてそれを使用したのがシャルバであることも推察できた。
ドラゴンである以上サマエルの毒を受ければひとたまりもない。それがヴァーリのように卓越した基礎能力を持つものなら生き残れる可能性があるが、イッセーは元はただの一般人。耐えられる要素はない。
そしてこれはまだ希望を持たせる話であった。赤龍帝の魂がどこにも転生していないのだ。神器は宿主が死ねば生まれる前の次の宿主のもとへ転移するが、それが観測されていない。これはダイスケも同様だった。ただ、期待はできない。神器に関する情報が混乱状態にある今世ではあまり期待できる探索方法ではないからだ。
オーフィスも行方不明だが、ハーデスやシャルバの手にはわたっていないと木場は考えている。何せ相手をしたのはイッセーだ。シャルバを死んででも倒したに違いないと信じている。
なお、イッセーとダイスケの死は報道はされず、一部の上層部のものにしか知られていない。
そんな中、レイヴェルの父と兄とライザー、そして朱乃の父であるバラキエルが慰問に来た。レイヴェルの兄、ルヴァルなどは木場に価値が高騰してほぼ市場にも出回らなくなってしまったフェニックスの涙を一つ預けてくれた。
おそらくはリアスたちが立ち直り、前線に参戦すると信じていてくれているからなのだろう。
だが、それでもリアスたちの心に生気が戻る様子はない。リアスと朱乃などは木場が話しかけても何の反応を示さないほどだ。アーシアに至っては一時後追い自殺を考えたが、「それを知ったらイッセーが悲しんでしまう」とそれだけは思いとどまった。
イッセーの死というたった一つの出来事でグレモリー眷属は崩壊してしまった。いかにイッセーが彼ら彼女らの中心にいたかがわかる。
それに対し、ダイスケの死を目の当たりにしたマサノ姉妹はその様子を見せない。喪に服しているという話も聞いていない。単にリアスたちと違い依存していなかったというだけなのか、それとも何かを考えて今は静かにしているのかは木場にもわからない。
そんな中、テレビではキャスターが子供にマイクを向けている。
『ぼくたち、怖くはない?』
『ぜんぜん! だって、あんなのおっぱいドラゴンがやっつけてくれるから!!』
『そうだよ! おっぱいドラゴンがわるいかいじゅうをやっつけるんだ!』
その子供たちがイッセーを信じている様子を見せられて、木場は思わず涙を流す。
子供たちはヒーローの到着を待っている。なのに……。
「俺たちが思っている以上に冥界の子供たちは強いな。」
その声にはっとなり、木場は急いで涙をぬぐう。振り向いた先にいたのはサイラオーグだった。
「兵藤一誠はとてつもなく大きなものを冥界の子供たちに宿してくれた。――久しいな、木場祐斗。リアスに会いに来た。客人を連れてな。」
*
「入るぞ、リアス。」
鍵はかかっていたが、サイラオーグはドアノブをねじり壊して無理やり中に入る。
部屋に入るとそこにはベットの上で体育座りをして、泣き腫らして真っ赤になった目で何もない空間を見つめるリアスの姿だった。
サイラオーグの登場に驚いた様子も見せないリアスに、サイラオーグは嘆息する。
「情けない姿だな。」
「……何しに来たの。」
「ソーナから連絡をもらった。安心しろ、プライベート回線だ。大王派にはまだあの男がどうなったかは伝わってはいない。」
もしもイッセーの死が大王派に知られれば現魔王派は追及を受けるだろう。知られるのは時間の問題だろうが、そこのあたりを配慮してくれるのがサイラオーグという男だ。
「行くぞ。冥界の危機だ。お前ほどの者が今立たねばどうする。俺たち力ある者は若手の最有力として後続に手本を見せねばならない。それに俺たちを今まで見守ってくださった魔王様方にもその恩に報いるまたとない機会ではないか。」
サイラオーグの言葉は正論だ。だが、正論故に彼の言葉は今のリアスには届かない。
「……知らないわ。」
「……愛する男が行方知らずというだけでここまで堕ちるか。」
「――行方知らず? 死んじゃったの……死んじゃったのよ、彼は! 彼がいない世界なんて! ……もうどうでもいい。彼は、イッセーは……あのヒトは誰よりも大切なヒトだった。彼がいない世界で生きるなんて私には――」
「あの男が、赤龍帝が愛した女はこの程度か!?」
サイラオーグの怒号に、リアスはハッとなる。
「あの男はお前の想いに応えるため、お前の夢に準ずる覚悟で誰より勇ましく前に出ていく強者ではないかッ! その主のお前が、あの男が愛したお前が、この程度で腐ってなんとするッ!」
サイラオーグの一喝が初めて心を閉ざしていたリアスの心に響く。
「立つのだ、リアス。あの男はどんな時も立ってきたはずだ。俺とともにあの不死の存在にも正面から立ち向かったあの男を、お前は誰よりもよく知っているはずだ!」
そう、ゲームが御破算になった前の戦いで、ともに強敵を相手にしたからこそ言える言葉だ。
「今日ここにお前に会いに来たのは俺だけではないのだ。――入ってきなさい。」
サイラオーグに促され、一人入ってくる。それはエリーであった。
「エリザベスさん……なんで……?」
「冥界に来る必要があるというのでな。お前もソーナも相手できなかったらしいので俺に連絡をくれたのだ。
「彼女……たち?」
リアスの問いにエリーは答える。
「Yes、私とマリー、スルーズ、それにMMSが冥界に来ます。そして――ダーリンの弔い合戦をします。」
「そんな……レーティング・ゲームの二位と三位が相手にならなかったのよ? それに、相手は……。」
そう、相手は榛名だ。普通の精神ならまともに相手はできないないだろう。
「知っていますネ。でも、それでも行くヨ、部長さん。だって……今のままじゃダーリンがかわいそうだから。」
今、ダイスケの遺骸は榛名の腹部に作られた結晶製のタンクの中だ。いずれ榛名はオキシジェン・デストロイヤーの効力が切れたらその液体を自分の体内に注入して文字通り一つになる気だ。
「せめて彼を安らかに、静かに葬ってあげたい。それが死者に対する礼儀。死体を如何こうして欲望のままにするのは間違ってる。だから、私は止めに行きマス!」
「でも、攻撃は……。」
「サーゼクス様が許可を出したそうだ。上役も悪魔の血が流れないのならと賛成したらしい。」
「無謀すぎる……。」
「でも、ここで何もしないのよりましネ。」
そう言い切るエリーに、リアスは問う。
「どうして……あなたはそんなに強いの? 私にはできない……。今のこんな状況下じゃ。」
「たぶん、そこのところ心が獣なんでしょうネ。獣具を宿したばっかりに。自分でも不思議と喪に服そうとか、彼がいないからもう何もしたくないってならずに、「仇を取ってやる」ってなるあたり、救いようがないネー。――本当なら今の部長たちみたいになるのが正解だろうけど、私には、何もしないっていうのはできないネ。」
そういってエリーは二種類の封筒を二つづつ取り出して、リアスに見せる。一つはエリーとマリーの退部届。そしてもう一つは退学届だった。
「……これは。」
「万が一、死んだ時のためです。それを学校に提出して、いなくなったってことにしておいてください。アイカ達に変な心配させたくないから。」
それは、エリーとマリーの覚悟を記したものだ。今の自分に、ここまでのことができるだろうか、リアスはそう考える。
「じゃあ、私はこれで。準備をマリーにまかせっきりなので。……それじゃ。」
そう言い残してエリーは退出していった。残されたサイラオーグはリアスに言う。
「彼女たちも本心ではつらいだろう。何せ死体を見せつけられている。その分ショックは大きい。決定的な物的証拠を見せられたのだからな。」
だが――とサイラオーグは続ける。
「お前はあの男が本当に死んだと信じているのか? 駒だけが帰ってきたというだけで。」
その言葉に、リアスは言葉を失う。このサイラオーグは信じているのだ。イッセーの生還を
「それこそ滑稽だろう。あの男が死んだというには証拠が足らん。一つ不躾な質問をする。お前はあの男に抱いてもらったか?」
「……抱いてさえもらえなかったわ。」
その答えを聞いて、サイラオーグはひとしきり笑う。
「なら大丈夫だ。やはりあの男は死んでいない。お前を、愛した女たちがここにちゃんといる以上あの男は死なんよ。奴は誰よりもお前を抱きたかったはずだ。お前を抱かずに死ぬとは到底思えんな。それが――おっぱいドラゴンだろう?」
それだけ言うと、サイラオーグは踵を返す。
「俺は先に戦場にて待つ。――必ず来いよ。あの男が守ろうとしている冥界の子供たちを守らずに何が『おっぱいドラゴン』の仲間たちだ。」
その言葉を残し、サイラオーグは戦場へと踏み出した。
リアスには、ソーナがサイラオーグをここに呼んだ理由がわかった。今の自分たちに叱咤激励を入れられるのはサイラオーグぐらいのものだ。
そしてその効果は、リアスの瞳に少しだけ灯りが燈ったことで実証された。
そう、リアスたちは駒が帰ってきたことのみにイッセーの死を認識していた。直接死を見ているわけではなく、状況証拠のみで死んだと判断しているに過ぎない。
ならば、まだ一縷の希望はあるはずだ。
*
木場はその存在がここに姿を現したと聞いて急いでいるはずの地下へ向かう。
そこは、地下の目立たない一角の部屋。そこに、ヴァーリの姿があった。本来彼らがここにいることは許されない。だが、サマエルの毒でヴァーリが不調であるのと、彼らのおかげでリアスが無事だったということを鑑み、そのうえでアザゼルとサーゼクスの説得を受けてグレモリー伯は彼らがここにいるのを許した。
彼らはすでに全方位からお尋ね者だ。三大勢力はもちろん、禍の団からも裏切り者として追われている。そんな彼らにこの申し出は渡りに船であった。
木場がヴァーリのいる部屋のドアを開けると、そこにはベットの上で横になるヴァーリと、付添いの義人、そしてヴァーリを治療している初代孫悟空の姿があった。
初代はヴァーリに上半身を起こさせ、そこかしこの気が流れるポイント、経絡を探っている。そして腰から背中にかけて手を動かし、後頭部まで行った時、ヴァーリは口から黒い液塊を吐き出した。
初代はその液体を容器に入れるとすぐに封をし、呪符を張って封印した。
「これで身に潜んでおった主なサマエルの呪いは取り出して封印しておいたぞい。これで楽になるだろうて。まったく、大馬鹿もんの美猴が珍しく連絡なんぞをよこしたかと思ったら、白龍皇の世話をしろとはのう。」
しかし、美猴の姿はここにはない。代わりに義人が今のヴァーリについて尋ねる。
「斉天大聖初代孫悟空、ヴァーリの体調は回復するのだろうか。」
「この顔っちゅうのはヒトの黒歴史いじらねぇと気がすまねぇ顔なのかぃ……。まあ、こやつ自身が規格外の魔力の持ち主じゃからな。儂がきっかけを与えるだけで十分じゃろうて。」
「……礼を言う、初代殿。これでまともに戦えそうだ。」
ヴァーリが珍しく相手に敬意を払っている。それほどの強者と認めている証しだろう。
「呪いを解いてすぐに戦いのことを考える何ぞ、まったくこれは度がしがたい戦闘狂じゃい。――さて、儂もそろそろ出かけんとな。」
「どちらに向かわれるので?」
木場が初代に問う。
「そりゃ、儂は天帝の先兵じゃからな。テロリスト駆除よ。まったく、ジジイ扱いが荒い天帝じゃい。」
「……初代殿、天帝は曹操と繋がっているのだろう? 京都の一見、日本妖怪と帝釈天の会談を邪魔した曹操という図式はあの天帝の中ではどういう位置づけなのだろうか。」
曹操の動きを帝釈天が把握しているらしいことは木場もアザゼル経由で聞いていた。だが、京都の一件はその関係に矛盾している。
「さーての。儂はあくまで天帝の先兵兼自由なジジイじゃからな。あの武神がどこまで裏にかかかわっているなんて知る由も興味もないわい。」
その初代孫悟空の言葉には裏は感じられなかった。基本的に初代孫悟空には三大勢力には悪意を持ち合わせていないとみていいだろう。
「ただのぅ、今回は天帝は動かんと思うぜぃ。今のところ高みの見物だろうて。今回はハーデスがやりすぎたってことじゃろうて。」
そういうことで、ヴァーリとの会話にはひと段落がついた。今度は木場の番だ。
「初代、あなたに一つお伺いしたいことがあってきました。」
「おう、聖魔剣の。ジジイにわかることならできる範囲でなんでも答えるぞい。」
「サマエルの毒に触れたあなたにお尋ねしたいのです。この毒を受けたドラゴンがいたとして、助かるとしたらどういう状況でしょうか。」
孫悟空は生まれながら強い力を持ち、その後仙術と妖術を極めた大妖仙であり、仏として神格化されたほどの存在だ。その孫悟空がサマエルの呪いをじかに見てみてどう感じたかが訊きたかった。
「肉体はまず助からねぇだろうねぃ。この濃度の呪いじゃ最初に肉体が滅ぶ。その次は魂だ。肉体っちゅう器を失った魂ほど脆いものはねぇやな。こいつもちっとの時間で呪いに蝕まれて滅びるだろうよ。――じゃが魂に直結しているはずの
「はい、その通りです。駒にはサマエルのオーラは若干、痕跡として残留していたものの、呪いは全く関知されませんでした。」
木場の答えを聞いた初代は長い煙管をふかし、口の端を笑ませる。
「ってことはだ、少なくとも魂は無事って可能性はあらわなぁ。今あのエロ坊主がどんな状況下かは知らんが、案外次元の狭間に漂っているかもしれんぜぃ。」
その言葉を聞いた木場は内側から湧き上がるものを抑えるので必死だった。まだ無事だとわかったわけではない。だが、それでも希望は繋がった。
希望に打ち震える木場の表情を見て微笑んだ後、初代は義人に問うた。
「そういや、人を呼び出しておいてあの糞坊主、一体どこにいるってんだい。せっかくだから会おうと思っとったのに、
「美猴は先々日出て行ったばかりだ。すぐに戻るとは聞いているが……初代、彼は「初代からの約束を果たしに行く」と言って行ってしまった。何か心当たりはないだろうか。」
義人の言葉に、初代は目を細める。
「そいつはな、儂の古ーい友達のことよ。……そうか、美猴は……そう決めたか。」
*
美猴はいま、太平洋上のとある島に来ていた。
島の名は『
上空から人の集落を確認すると、そこへ降り立つ。家々からは続々と槍を持った原住民が現れる。
「まってくれ。俺っちはうちのジジイの友達に会いにだけだ。約束を果たしてもらうために、な。」
言葉が通じるはずがない。隔絶された環境に生きる部族なのだ。しかし、彼らは美猴の言葉を理解して槍を下す。なぜなら彼らに言語は必要ない。思念だけで意思を疎通できるのだ。
美猴の意図を察した彼らは美猴のために道を開ける。そして美猴はその先へ進んでいく。
この島には多くの巨大生物――怪獣がいる。特殊な環境下に適応するために特異な進化を遂げた怪獣たちだらけなのだ。その侵入を防ぐ巨大なバリケードを通り抜けると美猴は道なき道を進む。
確かに飛べばすぐに目的地へ着くだろう。だが、そうすると多くの怪獣達の目を引き、必ず戦闘になる。となると無駄な殺生をする羽目になる。
だがそれ以上にこれは彼の初代の友人に対する礼儀でもある。直に歩いていくことで敬意を表しているのだ。
道すがら多くの怪獣達を目にする。川を泳ぐ巨大な蛸に空を飛ぶ不気味な翼竜たち。丸太に擬態した巨大なナナフシから頭上高くに本体がある足の長い巨大蜘蛛。それらを横目に美猴はうっそうとした森の中を進む。
そしてついに美猴は目的の場所に到着する。そこは岩山に囲まれた開けた土地。そこがかの友人のテリトリーだ。
「おーい! 居るんだろう!! ジジイの代わりだが今代の孫悟空来たぜぃ!!」
美猴が祖父の友人を呼ぶ。その声は岩山に反射して遠くまで響いていく。何の返事もなかったが、何者かの訪れを告げるかのように先ほどまで吹いていた風がやむ。
そして、巨大な影が躍り出る。その影は美猴の頭上を通り過ぎ、目の前に降り立つ。
その姿はこの島で見たどの怪獣よりも大きい。何よりその姿にはほかの怪獣には見られない威厳と誇りが感じられた。
「……相変わらずデケェな。チビの頃にジジイに紹介された時よりまたデカくなってるんじゃねぇのかい?」
その島の王者は顔を美猴に近づけ、「前置きはいいから要件を言え」とばかりに鼻息を吹き付けてくる。
「……蛸臭ぇ。相手がジジイじゃなくて悪いが約束を果たしてもらいに来た。40年前の借りを、返してほしい。」
王は「約束したのはお前じゃない」と美猴に威嚇するように唸り声をあげる。
「ああ、わかってるよ。だが、今どうしてもお前さんの力が欲しいんだ。頼む、俺に力を貸してくれ。」
その美猴の姿に何かを感じたのか、訳を聞こうとする。
「俺の仲間がよ、やられちまった。いや、死んじゃいないさ。だけど、これから俺たちはあいつと一緒にリベンジしに行かなきゃならない。やられた分の貸しを返さなきゃならないからな。」
その話は理解できる。だが、それになぜ自分の力が必要なのかと王は問う。
「これから相手するのは多分とんでもない猛者たちだ。あいつを……ヴァーリを行動不能まで追い込んだような奴らさ。そんな奴らにお礼参りするにしても、ひょっとしたら今の俺じゃ足手まといになるかもしれねぇ。だからだ。」
美猴は頭を掻き、照れくさそうに続ける。
「別に付き合わないっていう手もあるのはわかってるさ。だけど、それじゃ自分をきっと許せない。気の許せる仲間を、放ってはおけないんだよ。どうしても、な。」
そして美猴は王に向けて言う。
「だから俺に力を貸してくれ。40年前、
というわけで割と榛名ヤバいことをしている、なVS85でした。
序盤地の文ばっかり読みにくくてで本当にすいません。ちなみに今回出た水産都市ウパルはオリジナルです。名前のもとは原作にも出た人魚型悪魔のウェパルで、別称のウパルを付けました。あの形状ならばその生態に適した環境があるはず、ということで作りました。……本編で違うのが出てきたらどうしよう。
美猴もパワーアップです。ただ、それが今後に生かされる機会があるのかどうかは……。
たぶん次回より「」の中の最後の句点をつけなくなると思いますのでご了承ください。最近の流れに乗ってみます。
あとアンケートも募集しております。詳しくは活動報告にて。
なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
それではまた次回。いつになるかは分かりません!!