合成だらけの世界で   作:青い隕石

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 東方を知って3年、秘封病を発症して1年半のにわかが無理して秘封倶楽部ファンの末席を獲得しようとして作り上げたのが本作品です。そのため、秘封ファンの方が見るに耐えない駄文となっていますが、それでもいいという心優しき方はこのままスクロールをお願いします。
 
※ピクシブでも投稿をしております
 
 



前編

 夏だ。そう、今は夏のはずだ。

 

 

 私、宇佐見蓮子は床に正座し、汗をだらだらと流しながらそのように必死に自分に言い聞かせていた。時間は正午をとっくに過ぎているにも関わらず、窓からは全力全壊レベルの日光が私を照らし続けており、外からは蝉たちの鳴く音が室内にまで響いていることを考えれば、百人中百人が夏であると答えるだろうし、私だってそうしたい。それなのに、この部屋の空気が即答したい自分を阻む。

 

 

 理由は簡単、部屋が冷たいのである。いやもうほんと尋常じゃないってくらいに。別に温度管理装置が故障している訳でもないし、一昔前にあったといわれているクーラーというものを使っている訳でもない。管理装置にチラッと視線を移すと、27℃、という文字が表示されている。外は優に30℃を超えているが、このくらいの差であれば涼しいと感じることはあってもそれ以上のことは感じないはずである、

 

 

 だが悲しきかな、私は冷たい空気の原因が分かっている。だって原因自分だし。

 

 

 視線を正面に戻すと、一人の女子が視界に映った。部屋に入る前まで彼女が着けていた特徴的な帽子は既に取られており、長い髪も、表情もよく見える。

 

 

 輝くようなブロンド色のロングヘアー。その顔立ちは、微笑めば大半の男がコロッといってしまいそうなまでに整っている。おまけにボンキュッボンとスタイルもよく、特に上半身にある2つの脂肪の塊は、私とアルファベット2文字、下手すれば3文字くらいサイズが違うかもしれない。・・・無意識に、胸に手を当てた。大丈夫よ蓮子、この先成長する可能性だって十分に・・・ないかもしれないけど信じていれば報われるときもあるって教授も言っていたしそれに

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 はいごめんなさい無視してすみませんでしたメリーさん、あの、無言はやめていただけませんか?

 

 

 いやほんと、メリーが超絶美女だということはさっき話した通りなの。

 

 で、そんな顔立ちの人が無表情になったとしたらどうなると思う?

 

 昔の怪談話では人形がメインとなるこわーい話が流行っていたと聞いたことがあるけど、それと同じなのだ。お人形さんのように可愛い、という定型文があるのだが、整った顔立ちは人に美しさだけではなく、恐怖という感情も少なからず与えるものだ。    

 現にすべての感情を消し去ったメリーの表情をまともに見ることが出来ない。その裏側では山の地下に眠るマグマの如き感情が駆け巡っているに違いないが、少なくとも表面上には出てきていないようだ。

 

 

 はっきり言おう、そっちのほうが怖い。怒りを露わにして雷を落としてくれたほうがどんなに楽か。爆発する直前、お気に召さない行動をした瞬間ドッカーン!となりそうなメリーにどんな言葉をかければよいかなんて分からない。頬を伝って落ちてきた汗、もとい冷や汗をぬぐいながら、私はこの状況から切り抜ける方法を必死に模索していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親友の蓮子にいつもと異なる呼び出しを受けたのは、梅雨が明け、遥か彼方の太陽が少しずつ存在感を増してきた時期だった。

 

 私と蓮子は学部が違うため、授業のたびに顔を合わせるということが出来ない。できればいつも蓮子と一緒に行動して彼女の一挙一動を見逃すことなく目に焼き付けておきたい所だが、単位を代償にすることはできないため、2人とも授業が入っていない時間に顔を合わせている。

 

 蓮子と会う理由はもちろん一緒にいたい、顔を見たい、できればちゅっt・・・という感情的な面もあるがもう一つ、大きな訳がある。

 

『秘封倶楽部』

 

 封じられた世界の秘密を暴くことを活動目的としているサークルであり、私と蓮子の2人がサークルメンバーである。人数の規模からも分かる通り自他共に認める非公式サークルであり(学校から認められていないから非公式な訳だが)、活動費は全部自費、顧問もいないため、世界の秘密と言いながら精々が国内、京都付近での活動が主となっている。

 

 活動内容は、私の夢の中での冒険を除けば、胡散臭い噂話の検証、観光旅行、墓荒らし・・・等の極めて常識的なサークル活動をしている。極めて常識的である。もう一回言っておこう。極めて常識的である。

 

 ともかく、秘封倶楽部の活動をするためには蓮子と合流しなければいけないため、大抵は学校の近くにあるカフェに呼び出される。座れる場所が30にも届かない小さな店だが、しゃれた空間というべきか、私も蓮子もこの店の雰囲気が気に入っており、店主さん(マスターというべきか)と顔なじみになるくらいにはお邪魔している。学校近くという事もあり、学生の私にも優しい料金設定になっていることも、ポイントの1つである。

 

 ところが、今回は違った。蓮子に指定された場所はカフェではなく、人気(ひとけ)があるとは思えない大学の校舎裏だった。

 

 正直、これには疑問を抱いた。カフェを使えない状況の時・・・店が定休日の日や、どちらかの財布がピンチな時があり、その時は大学の図書館で活動をしている。あまり大きな声は出せないので店でやる方がよいのだが、今では珍しくなった紙媒体の本がそこそこ保管されているため、暇つぶしには事欠かない。まあ、サークル活動の最中に堂々と暇つぶしできるあたりが、不良サークルなどと呼ばれている原因なのかもしれないが。

 

 歩きながら、遠くに見える図書館に視線を向けた。昔は6階建ての建物をもってしても収まりきらないほどの本があったと言われていたらしいが、今では3階までが食堂や休憩所といった場所になっている。

 

 

 理由は簡単、先ほども言った通り紙媒体が珍しくなったためである。

 

 

 今年で数百歳になるであろうインターネットは、聞いただけで頭が痛くなるような大量の文字をデータベースに保存、いつでも閲覧することを可能とした。段ボール何万、何十万分、もしかしたらそれ以上の数の箱に余すことなく詰められた紙媒体の本が、手のひらサイズのデジタル書籍機1つで読めるとあっては仕方のないことかもしれないが、紙の本などは滅多にお目にかかれない貴重品と成り果ててしまったのだ。もちろんある所にはしっかりとあるが。

 

 

 だが、私は紙媒体の本というものを気に入っている。白い用紙に黒い文字、縦書きの文章を目で追っていき、ページを『めくる』。この動作を読み終わるまで続けていくと、電子媒体の本よりも読んだ気持ちになることができるのだ。それ以外にメリットがあるかどうか、と問われれば閉口するしかないのであるが。持ち運び便利な上に、電子媒体ゆえの値段の安さという2つの利点に対抗できるものが紙にはないのである。

 

 

 (とまあ、そんなことは置いといて。蓮子ったらなんでカフェでも図書館でもない、人のいない所に呼び出したのかしら。金欠・・・ではないわね。先週バイト代が入ったよ~、っていっていたし。討論でうるさくなるから図書館ではダメ・・・でもないわ。だったらカフェに行けばいいだけだもの。)

 

 

 

 

 

 うーん、と頭を回転させながら目的の場所へと向かってためだろうか。

 

 

 「あ、あの!マエリベリー・ハーンさん!よろしければ俺と・・・」

 

 

 と決死のアタックをしてきた人物を認識することはできなかった。数分後、その場所で友人に慰められている男子学生がいたとかいないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局真相にたどり着くことが出来ないまま、校舎裏についたのだが、そこで私の思考は完全に停止した。ありえない光景を見たためである。錯覚か、と思い目を擦ったがその行為の前と後で見える景色に変化は一切なかった。絶対に考えられない現実が目の前に存在していた。

 

 

 

 

 蓮子がいたのだ。

 

 

 ・・・説明が足りなかった。蓮子がいたのだ。待ち合わせ場所に。『私より先に』。いつも遅刻してきてはその場で言い訳の台詞を考えるあの蓮子が、予定時刻の5分前に、こともあろうに私より先にいたのだ。

 

 

 「メリー、あなたすごく失礼なこと考えていない?」

 

 

 「・・・こ、言葉に出さないだけマシだと思いなさいな、蓮子」

 

 

 咄嗟にいつもの調子で言葉を返そうとしたが、心の動揺が乗り移ったかのように声音は震えていた。ここまで動揺したのは久しぶりである。

 

 

 (落ち着きなさいマエリベリー。蓮子は私たち2人きりの状態でしかできない用事で呼び出したのよ。よほど大事な・・・・・・2人きり?)

 

 

 ふと改めて、蓮子を見る。

 

 白のノースリーブ、いつも着けているネクタイの代わりに、かわいらしいリボンが結ばれてある。黒色のミニスカートから見えるものは、対照的な真っ白の生足である。

 

 ・・・・・・なるほど、そういうことか。

 

 

 「蓮子ったら///野外でがいいなんて私より大胆じゃない///」

 

 「あははどうしようメリーの言ってることを理解したくない自分がいるわ。というか認めないからね!前々からうっすら予感はしていたけど私はいたってノーマルだからね!」

 

 

 「そのノーマルな思考の人を改心させるのって素敵だと思わない?」

 

 「うわあどうしようこの人死角がない」

 

 

 私は悪くない。誘うような恰好をしている蓮子が悪いのだ。それに私は決してレズとかそういうわけではない。たまたま、そうたまたまだ。たまたま蓮子が魅力的に感じるだけであって、男性の人をかっこいいと思うときだってあるしいやでもやっぱり蓮子の可愛さの前には塵と同じね。蓮子可愛い。

 

 

 「はぁ、これさえなければ完璧なのになあ・・・」

 

 

 「完璧な人間なんていないわよ蓮子。多かれ少なかれ、人間は必ず欠点を抱えているものなの」

 

 

 「あ、一応欠点だって思ってはいるのね、少しだけ安心できたわ。」

 

 

 蓮子は胸に手を当て、ほっと息をついた。

 

 

 ・・・さて、おしゃべりも続けたいけど、まずは本来の件を解決しようかしら。蓮子との会話は楽しいが、暑いのは嫌である。

 

 

 「それで、まじめな話、今回は何の用かしら?」

 

 

 その瞬間である。『ビクッ!』という言葉が適切だろうか。私の質問を聞いた蓮子は体を震わせ、自分から目線をそらすように顔を横向けた。

 

 ・・・何?この変わりようは。

 

 

 「・・・蓮子?」

 

 

 「い、いや違うのよ。別に不都合なことがある訳じゃなくて、そう!そうよ!今は豊かな木々を見たいなあ~って思ってこっちを見ただけで」

 

 

 「蓮子、そっち側校舎の壁よ」

 

 

 「・・・・・・・」

 

 

 あ、あはは、とかすれた声で視線をさまよわせる蓮子。なんだろう、怪しい女だと思ってほしいのかしら。今の彼女からは平常心の欠片も感じることが出来ない。

 

 

 とりあえず、今回呼び出した理由が蓮子にとってかなり都合の悪いことなのは感じ取れた。横を向いている蓮子の顔を伝う汗の原因は暑いから、だけではなさそうだ。都合が悪く、カフェにもいかないとなれば、やはり金欠か。

 

 お金がらみのことであれば人のいる図書館で話したくなかった、というのも納得できる。ただ、たった一週間でお給料すべて使い込むような性格ではない。よほど欲しいものでもあったのだろうか。

 

 

 「蓮子、お金がないのなら少しは都合がつくのだけれど」

 

 

 「・・・あー、い、いや、お金はあるの、うん。えーと・・・」

 

 

 指をもじもじさせながら変な声を出す蓮子だったが、よし、という言葉が聞こえた次の瞬間、私の視界から彼女が消えた。

 

 何事だと思い、視線をさまよわせたがすぐに見つかった。蓮子は地面に頭をくっつけていた。

 

 

 

 「メリー・・・・・・来週の期末試験、助けてください!」

 

 

 「・・・・・・はい?」

 

 

 下が土なのにもかかわらず、目の前で土下座する蓮子。その姿からは、倶楽部活動の時に見せる活発なオーラの欠片も感じることが出来なかった。

 

 

 というより待ってほしい。蓮子は今なんて言ったのかしら。聞き違いよね?私の聞き違いであって欲しいのだけれど。

 

 

 「蓮子?最近秘封倶楽部の活動、随分多かったわよね?」

 

 

 「・・・はい。メリーとの活動、とても楽しかったです」

 

 

 「私も愛している蓮子と一緒にいれて楽しかったわ。それで、二週間前だったかしら。『もうすぐ試験あるけど秘封倶楽部活動していて大丈夫なの?』って聞いた時、私に言った言葉覚えている?」

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 「忘れたの?あんなにはっきりと口にしていたじゃない。『メリー、あなたの全てに私の身も心もメロメr』」

 

 

 「ごめんなさいたった今思い出しましただから変なねつ造止めてください。その・・・『このプランクにも匹敵する蓮子ちゃんの頭脳にかかれば解けない問題などあんまりない!』っていいました・・・」

 

 

 顔を上げないまま小声で自分と会話する蓮子。一週間前のテンションMAXな姿はどうしたと言いたくなる。縮こまった蓮子を見ると小動物を連想させとてもかわいい。人通りが少ないとはいえ誰かに今の状況を見られるのは良ろしくない(私がカツアゲしているように見えるかもしれない)のだが、もっともっと今の蓮子を目に焼き付けておきたいし・・・。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 (カシャッ×2)

 

 

 「全く、何が自称プランクよ。頭の大きさがプランクトン並みじゃない」

 

 

 「ちょっと待ってメリー今何をしたの?いや音から大体の予想はついちゃったけど今何をしたの!?」

 

 

 「え?綺麗なものや可愛いものを残しておきたいというのは人間の性なのではなくて?」

 

 

 「私にとっては永遠の黒歴史になるんですが!?」

 

 

 小型のデジカメ(秘封倶楽部活動の際における必需品)の音に反応した蓮子がガバッと体を起こしたがすでに手遅れである。こんな無防備な姿を見せる方が悪いのだ。念には念を入れてデジカメについている一つのボタンを押した。これだけで家にあるPCに画像データを送ることが出来るのだから、便利な世の中になったものだと感じる。

 

 

 さて、と言い、デジカメをポケットにしまって蓮子の目を見る。大声を出していた蓮子だったが、まだ後ろめたい気持ちがあるようで再び顔を背けた。

 

 

 正直な話100%蓮子の自業自得なのだが、留年とかになったら秘封倶楽部の活動に影響が出てしまうし蓮子と会える時間も減ってしまう。感情抜きにしても、他ならぬ親友の頼みごとである。何度もピンチの場面で助けられたことがあるし(そのピンチな状況を作り出したのも蓮子だから貸し借りは0だが)、軽い恩返しをしておくのも悪くないだろう。

 

 

 

 「はあ・・・手伝いの報酬はさっきの写真でいいわ。と言っても学科が違うからかぶっている科目だけしか助けられないわよ。それでもいいかしら?」

 

 

 ため息交じりの承諾。蓮子は言葉に反応するかのように、バッとこちらを見る。最初はただ見開かれているだけだった目に、だんだんと液体がたまっていくのが見え・・・

 

 

 

 

 

 

 「メリーありがとおおおおおお!!」

 

 

 次の瞬間には、自分の胸に飛び込んできた。

 

 

 「ちょ、ちょっと蓮子・・・」

 

 

 「ありがとう、ありがとう!このご恩は決して忘れないから!」

 

 

 泣き笑いのような表情で縋り付いてくる蓮子。ぎゅううううううう、と力強く腕を回してきており、ちょっとやそっとでは離れそうにない。というかそこまで期末試験、危険な状態だったのかと思う。蓮子から抱きしめられたわけだし、このままの流れで・・・と考えたりもしたが、それは試験が終わってからにしよう。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・ちょっと蓮子、分かったから。うれしいのは分かったから、頼むからこれ以上強く抱きしめないでほしいのだけれど。マジで理性のリミッター外れるから。今色々と体の奥からキテるものがあるから。心臓がビックバン寸前だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんや過ぎて期末の結果が来ました。蓮子に抱きしめられて2人で永遠の愛を誓った後、休日を使って愛の鞭(スパルタ教育ともいう)を存分に振り回したおかげか、蓮子も無事に単位を取ることが出来たみたいだ。

 

 

 

 

 

 

・・・うん、本当に頑張った。蓮子も自分も。

 

 

 まさか授業の頭から理解していない教科があるとは思わなかった。土曜日に図書館に集合(この時蓮子はきっちりと5分の遅刻)したのだが、試しに解かせた基本問題とにらめっこすること10分、蓮子の口から出た言葉は

 

 

 「あの、メリーさん、この暗号は何でございましょうか?」

 

 

 という、自分の神経を逆撫でするものだった。

 

 

 「・・・蓮子、これが分からないってどんな授業受けてたの?」

 

 

 「・・・教授がちょっと肌に合わなくて、その・・・・・・寝てました」

 

 

 「そう、今すぐ永遠の眠りにつきたいのかしら?」

 

 

 「いや待ってほんと悪かったから!今から死に物狂いで勉強するから許してメリー!」

 

 

 大学指定の教科書や参考書を肩の高さまで積みながら必死な目で懇願してくる蓮子を見て、振り上げかけた拳をなんとか解く。必修授業相手に爆睡できるとは大した度胸だと思うが、度胸が足りてても点数が足りなければ何の意味もないのである。興味のあることとないことに対しての努力の差が激しいことは知っていたが、ここまでとは思わなかった。蓮子に出した基礎問題のうち、少なくとも2~3問は教科書に書かれている公式を使えば簡単に解ける問題である。

 

 そこでふと蓮子の教科書が目につく。まさかと思い、手に取ってページパラパラをめくっていく。

 

 

 とても半年間使ったとは思えない、書き込み、折り目ひとつない綺麗な教科書だった。

 

 「蓮子、この教科書、あなたみたいにとっても綺麗ね」

 

 「あ、あはは、それはとてもうれしいな~・・・・・・その、ごめん」

 

 「・・・もう。怒るだけの時間も惜しいから、ハイペースで行くわよ。覚悟してね蓮子」

 

 「もちろん!任せなさい!」

 

 教わる立場にも関わらず大きな態度をとる彼女に苦笑しつつ、でも前向きな方が彼女らしくはあるなとも思い、教科書の初めのページを開き直した。

 

 

 

 ・・・この後もなんやかんやに当てはまることがたくさんあったのだが、それは深く考えないでおく。確かに幾度となくこめかみの血管が切れそうになったり、握りしめたシャーペンから変な音が聞こえてきたりといろいろあった。だが、

 

「いや~助かったわメリー。やっぱり持つべき者は親友だね!」

 

 と、今、満面の笑顔をしている蓮子がすぐ隣にいるのだ。多少の不満は吹き飛んでしまった。もう一度同じことを頼まれれば本気でキレる自信はあるが、さすがに反省しただろう。

 

 

 

 さて、そんな私たちが先週より数段軽い足取りで向かっている場所が、蓮子の家である。

 

 無事に単位もとれ、落ち着いたところで今回のお礼をしたいと言ってきたのだ。自分としては普段見られない蓮子の姿を写真に撮ることが出来たので別にいいと言ったが、

 

 「まあまあそう言わないで。メリーもいける口でしょ?とびっきりのやつが手に入ったんだけど一人で飲むのは寂しいから一緒にどう?ね?」

 

 

 と肩を回すようにして説得してきた。なんでも少し前にデパートで福引きをしたところ、運よく2等の景品であるワインが当たったそうだ。もちろん合成品ではあるが、あまり詳しくない私でも分かるほど昔から著名な銘柄であり、一学生が買えるようなものではない。ワインに目がない白髪頭のあの教授にプレゼントすれば、単位に関してそれなりに『配慮』をしてくれそうな代物だ。

 

 当の蓮子といえば、当たった瞬間は喜んだらしいが、持って帰ってきていざ飲もうとするところで尻込みをしてしまったらしい。でも、それは仕方ない。元々私も蓮子もお酒の味にはあまりこだわりがなく、製造会社や評判なんてものより値段を重要視している。二人一緒に外で飲むときも、洒落た店よりも『全品○○円!』というチェーン店に行くため(こらそこ、おっさん臭いだなんて言わないで)、高価なワインなんて飲んだためしがないのだ。

 

 

 『一人だと飲みづらいからメリーを誘って一緒に飲んでみよう』

 

 

 そう考えていた矢先に、期末テスト事件が起きた。今回のお礼として誘えば、恩返しができる+悩みの種だったワインが飲めるしまさに一石二鳥、と自慢げに語る蓮子。恩返しをする本人の前でその発言はどうかと思うが、まあ蓮子だから、の一言で済ませることにした。なんだかんだ言ったが、そのワインを口にしてみたい気持ちもある。土日通して蓮子のために頑張った自分へのご褒美と考えれば気負いはしない。

 

 それに、お酒に強いとは言えない蓮子のことだ。どんどん進めて意識を朦朧とさせれば、あとはこっちのものだ。心の中では今日、いや『今夜』についての計画を組み立てる作業を行いつつも、外には出さずに返答をする。

 

 「分かったわ。ところでおつまみはどうするのかしら?どこかで買っていく?」

 

 「心配ご無用、昨日の内に買っておいたから問題なし!」

 

 ブイブイとピースをし、クルッと回りながら道を進む我が親友。心が軽くなると言葉や行動まで軽やかになるようだ。頭まで軽くなってほしくはないが。

 

 「大丈夫そうね。なら蓮子」

 

 さて、ここだ。視界の中心でスキップしている蓮子にさりげなく問いかける。このさりげなさを出すのに全神経を集中させているためもしかすれば固い動きになっているかもしれない。しかし、質問する相手は絶賛リリーホワイト状態の人だ。まずバレないはずだ。極力声も平常心を心掛けて発した。

 

 「夕食も蓮子の家でとっていきたいのだけれどいいかしら?」

 

 「ん~いいよ、食材もたっぷりあるしね。あれ?でもメリーのアパートってかなり遠いよね。大丈夫?」

 

 「あ~、そういえばそうね。うーん・・・・・・面倒だし泊まって行っていい?その秘蔵のワインとやらをゆっくり味わってみたいわ」

 

 「いいわよ。それにしても秘蔵のワインだなんて大袈裟すぎないメリー?」

 

 「今まで安いことで有名なものしか飲んでこなかったもの。本当の意味で有名なワインなんて、私からすれば十分秘蔵レベルね」

 

 あははそれもそうか~、と笑いながら話しかけてくる蓮子。自分は笑顔で返答をしていたが、その頭にはたった4文字の言葉だけが浮かんでいた。

 

 

 

   計 画 通 り

 

 

 

 「フフッ・・・」

 

 

 理想的な展開に顔がほころび、見事に上手くいったなと感心が鬼になる。自分の欲望のためなら脳がフル回転してしまうのは仕方のないことだ。そもそも、こんなに自分の性癖をアピールしているのもかかわらず、一切警戒をしない蓮子が悪いのだ。あっさり許可をもらった今回のお泊りといい、どうぞ襲ってくださいと暗に言っているようにしか思えない。もちろん、指摘なんてしない。

 

 それに明日は土曜日、つまり休日だ。おそらく蓮子も授業への影響を考えて週末に誘ってきたと予想するが、私にとっても好都合である。

 

 

 「ん?メリー、何か面白いことでもあったの?」

 

 

 「正確にはこれから、かしら?ワイン(を飲んだ後)が楽しみでしかたないのよ」

 

 

 「そう言ってもらえれば当てた甲斐があるというものね、さすが私。ほらメリー、着いたわよ」

 

 

 えっへんと胸を張りながら、指を指す蓮子。その先に、蓮子が住んでいるアパートが見えた。

 

 

 「やっぱり学校から近いわね~。ここの部屋うるさくしても大丈夫?」

 

 

 「ヘーキよメリー。ここのアパート、防音もばっちりだからね!よほど騒がない限りは隣に音は漏れないからほどほどにはっちゃけましょう!」

 

 

 「・・・・・・それはそれは、うれしいわ。とっても、ね」

 

 

 こみ上げてくる衝動を抑えつつ、私はゆっくりとした足取りで蓮子の後をついていった。

 

 

 

 




 1年かけてやっと1万文字、後編はまだ書いてすらいないので次の投稿はいつになるか分かりませんが、じっくりと書き進めていきます。後編はたぶんシリアスです()
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