風邪引いて、治って、また引いてと体調が中々戻らず辛かった…。
皆さんも体調には気を付けて。
ではでは本編どうぞ!
あの後軽く談笑をした後、真姫の家を後にする楯と花陽。
今二人は薄暗い道をゆっくりと歩いている。
「色々あるんですね、皆」
「そうだね、簡単に解決できることではないよね」
人それぞれ思う事は星の数ほど存在するだろう。
自分が思っていることを実行できても、上手くいかないことだって多々あるだろう。
そんな事を考えていると、花陽はふと横にある和菓子屋さんが目に入る。
「せっかくだからお母さんにお土産でも買っていってあげようかな」
お母さんにお土産を買っていってあげるなんて優しい子だなと楯は思う。
「じゃあ僕も叔父さんに買っていってあげようかな」
二人はお店に入っていく。
「あ、いらっしゃいませー!」
お店に入ると店番をしていた穂乃果に出くわす。
「あ、先輩」
「高坂先輩。こんばんわ」
「あれ?花陽ちゃんに城宮君?」
穂乃果はきょとんとした顔でこっちを見つめている。
「どうしました?」
「もしかして二人は今までデートでもしてたの?」
「ふぇえぇ!?」
花陽が凄い声で驚く。
どこからその声を出しているのか気になる楯。
「それにそれに二人は付き合ってるの!?」
「い、いや私達は…」
「付き合ってないですよ。
それにデートとはいきませんが、二人で友達の落し物を届けに行ってました」
「ふ~ん」
何かジト目で見てくる穂乃果。
「何ですか?」
「ほんとに~?」
「本当ですよ」
「まあそのうちわかることだし…今はそういうことにしといてあげる」
「何か腑に落ちませんが…お饅頭を頂きたいのですが」
本来の目的はお土産を買っていこうとお店に寄ったのだから、欲しい商品を伝える。
「はい!ありがとうございます!
そうだ!二人ともせっかくなら、うちに寄っていってよ!
海未ちゃんも居るし、もう少ししたらことりちゃんも来るからさ」
穂乃果は皆とお喋りがしたいのだろう。
「僕は構いませんよ。
小泉さんはどうする?」
「えっと…お邪魔じゃなければ」
「全然そんな事ないよ。
それじゃあ裏門の方に廻ってもらってもいい?」
穂乃果にお店の入り口ではなく、家の方の出入り口に廻ってきてほしいと頼まれるのでそちらの出入り口に廻る二人。
裏口の方に廻ると穂乃果が既に待機している。
「改めて、いらっしゃい!」
「お、お邪魔します」
「お邪魔します」
「私はもう少し店番があるから、先に私の部屋で待ってて」
「あ、はい」
「わかりました」
楯と花陽は二階の穂乃果の部屋に向かう。
その途中穂乃果の部屋の一つ前の部屋…雪穂の部屋から呻き声が聞こえてくる。
「し、城宮さん…何だか怖いです…」
「多分大丈夫だろうけど、確認してみようか」
一応ノックを軽くして、ドアを開ける。
開いた先の目に入った光景は…。
「ぐぬぬぬぬ!!このぐらい大きくなれれば…!!」
ノック音にも気付かぬほど鏡とにらめっこしながら、バスタオル一枚で胸を寄せて上げている雪穂。
「「…………」」
ドアを閉める。
「今見た事は忘れよう。オーケー?」
「オーケーです」
今見た事を忘れた事にする二人。
誰でも見られたくない事って一つや二つあるものだしね。
すると隣の穂乃果の部屋から。
「ら~らん~ら~ら~」
鼻歌が聞こえてくる。
声からして海未のようだ。
楯はドアをゆっくり開け、隙間から花陽と覗く。
「ら~ららら~」
そこには子供が持って遊びそうな玩具のマイクを手に持ち、何か決めポーズをしている海未。
「じゃーん!ありがと~!」
さらに決めポーズを決め、観客席と思われる方に手を振る仕草をしている海未。
本能的に二人はさらに見てはいけないものを見てしまったと思い、とりあえずドアを閉める。
「……さらに見てはいけないものを見てしまった」
「ど、どうしましょう城宮さん」
花陽がどうしようかと尋ねてくるが…。
『ドドドドド!!』
もの凄い速さでこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。
『『ドン!!』』
「うぅう!」
「いぃ!」
覗かれた二人がもの凄い勢いでドアを開け、楯と花陽を挟み込む。
「「見ました??」」
「ええっと…」
「うぅ」
今この状況を言葉で表すなら、正しく『前門の虎、後門の狼』であろうか。
二人とも途轍もない形相で睨んでくる。
「見たのは悪かったですが、その前に雪穂ちゃん。
せめて服を着てから出て来てほしいかな」
今雪穂は先ほどと同じくバスタオル一枚。
楯も思春期の男の子。
少なからず恥ずかしくも見てしまいたい衝動はあるのである。
「え?」
雪穂は自分の状態を確認する。
「きゃーー!」
雪穂は悲鳴を上げながら自分の部屋に駆け足で戻っていき、勢い良くドアを閉める。
「し、城宮さん!破廉恥です!」
「ええ!?」
何故か理不尽にも破廉恥呼ばわりされる楯。
「皆~どうしたの?」
そこに店番を終えた穂乃果が二階に上がってきた。
一先ず穂乃果の部屋に四人は戻っていくのであった。
***
「ご、ごめんなさい」
部屋に戻り、第一声が花陽の謝りから始まる。
「まさかあんな場面に出くわすとは思ってなかったので…すみませんでした」
楯も頭を下げる。
「二人が謝る必要はないよ。
こっちも悪かったんだし」
穂乃果は気にしないでという顔で言ってくれる。
「それにしても海未ちゃんってば、ポーズの練習をしてたなんてね~」
穂乃果が悪人顔で海未をからかう。
「ほ、穂乃果が店番で居なくなるのがいけないのです!」
(それは理由になってないのでは?)
そう心の中で思う楯。
「あ、あの」
花陽が何かを言おうとしたとき、ドアの開く音がする。
「お邪魔しまーす」
ことりが遅れて到着する。
そこでことりと花陽の目が合う。
「「あっ」」
「お、お邪魔してます!」
「もしかして本当にアイドルに入ってくれるの!?」
「偶々お店のほうに来てくれたから、ご馳走してあげようかなと思ってね」
穂乃果は自分の目の前にあった饅頭を持つと。
「穂むら名物、穂むらまんじゅう。
略して穂むまん!すっごく美味しいよ!」
看板娘が板についてるのか、とても美味しそうに見える。
「私は食べ過ぎて、食べ飽きちゃったんだけどね」
舌を出しながら言う穂乃果。
「それを言ってはいけないのでは?」
「大丈夫大丈夫!常日頃言ってるから!」
それは和菓子屋の娘として大丈夫ではないのではと苦笑いする四人。
「それより穂乃果ちゃん。
頼まれてたパソコン持ってきたよ」
ことりはバックからノートパソコンを取り出す。
「ありがとうことりちゃん。
肝心な時に限って、うちのパソコン壊れちゃうんだもん」
「あっ」
花陽はパソコンを置くためのお茶菓子などが入ったお皿を退ける。
「あ、ごめんね」
「いえ」
「それで肝心の動画はありましたか?」
「まだ確かめてないんだけど、多分ここに」
ことりはブラウザを開き、目当ての動画のサイトにアクセスする。
「あー!あった!」
「本当ですか!」
穂乃果と海未がパソコンの画面を覗き込む。
「これはもしかして前のライブの?」
「そうだよ楯君。
それにしても誰が撮ってくれたのかしら?」
確かに誰が撮影したのか気になるが今はそれを確かめる術はない。
「それにしても、凄い再生数ですね」
「こんなに見てもらえてるなんて嬉しいね!」
確かに現地でのライブは失敗だったかもしれない。
しかしこうしてネット等を通じて、見てくれる人は存在するのである。
「ここの振り付け上手くいったよね!」
「何度も練習したところで上手くいった瞬間、ガッツポーズしちゃいそうになっちゃったもん」
そんな会話をしている横で三人の踊っている動画に釘付けの花陽。
「あ、ごめん。
花陽ちゃん、そこじゃ見ずらくない?」
しかし画面に、いや動画に集中している花陽には声が届いていない。
四人は顔を見合わせ頷く。
「小泉さん!」
海未が花陽に声を掛ける。
「は、はい!!」
呼ばれたことに吃驚する花陽。
「スクールアイドル、本気でやってみない?」
「え!?」
花陽は驚くが直ぐに。
「でも私向いてないですから…」
またしても否定的な言葉を言ってしまう花陽。
「私だって人前に出るのは苦手です。
私もスクールアイドルは向いているとは思いません」
「私だって歌を忘れちゃうことだってあるし。
それに運動とかも苦手なんだ」
「私は凄いおっちょこちょいだよ!」
「僕だってダンスや歌はできないよ」
四人が自分の欠点を言っていく。
誰しも不得手なことは存在する。
だからこそ必死に努力をして不得手から得手にするのではないだろうか。
「でも…」
「プロのアイドルなら私達は直ぐに失格だよ。
でもスクールアイドルならやりたいって気持ちや自分達の目標をもってやってみることはできるよ!」
「あっ」
「それがスクールアイドルだと私は思います」
「だからさ、やってみたいと思ったらやってみようよ!」
「ですが練習は厳しいですけどね」
「海未ちゃん」
「あ、失礼しました」
「うふふ」
「あはは」
「ふふ」
そんなやりとりを三人は笑う。
「確かにプロには勝てない。
けど気持ちの勝ち負けなんてものはプロもアマチュアも関係ない。
本当にこれをやってよかった。
それだけの気持ちをもてるのであれば、技術など二の次だよ。
素晴らしい技術は人に感動を与えてくれる。
しかし技術だけでは、人を感動はさせても動かす事は出来ない。
人を動かすのにはその人の気持ちや熱意が伴わないと他の人の感情には届きはしないよ」
技術で劣るのなら何で対抗すればいいのか、それは気持ちだろう。
最初から諦めたり、負けているから敵わないという気持ちでは上達できることも出来はしないだろう。
負けて当たり前、劣って当たり前の気持ちで臨まなければ進めない舞台もあるのだから。
「まだ答えは出さなくてもいいから、ゆっくり考えて私達に答え聞かせてね」
「私達はいつでも待ってるから」
今答えは出さなくても良い。
でもいつでも待っていると聞き、花陽は笑顔で「はい!」と答えるのであった。
***
五人がそんな会話をしている別の場所でパソコンで動画を見て、悲しい眼でどうすればいいのかと悩む一人の影。
それは真姫である。
楯と花陽が帰った後、自分の部屋に戻り、明かりも点けず動画を眺めている。
「私はどうしたらいいの…」
一人呟くが答えは返ってこない。
「…私の音楽」
楯に言われた大切な部品。
無くしてはいけないもの。
見失いかけている私の音楽。
「でも決められた道しか歩けない私」
音楽を続けたい。
でも決められたレールを歩かなくては。
親の期待には応えたい。
15歳には重い葛藤が圧し掛かる。
「城宮君…」
思い浮かべるのは親しくなった友達。
「私はまだ音楽を続けても良いのかな?」
頬に伝う一筋の涙。
「私にも勇気を…踏み出すための勇気を分けてよ…城宮君」
暗い部屋に木霊する一人きりの女の子の声。
助けを求めるは気になる友達。
その願いはすぐそこまで近付いている。
***
もう一人考える少女がいる。
考えてる少女は凛。
暗い部屋で憧れだった白いブラウスにスカートを身に着け、鏡の前で可笑しい所はないかくるりと回る。
「やっぱり…似合わないよね…」
鏡に映る自分を嘲笑いながら、寂しく一人呟く。
「どうして凛はこんなに可愛くないのかな…」
自分の容姿を鏡に映る自分に尋ねる。
「どうして可愛い格好をしたら馬鹿にされるのかな…」
幼い頃の嫌な思い出が蘇る。
「凛だって女の子なんだよ…」
可愛い服を着て、花陽と町を歩きたい。
「どうしたら可愛くなれるのかな」
しかし今まで男の子っぽい部分が目立ってしまい、否定的な考えになってしまう。
「でも城宮君は凛のこと、女の子扱いしてくれたよね?」
今はまだ友達の域な二人。
「城宮君は不思議と自然に接することができたし」
男の子が少し苦手な凛でも楯は気兼ねなく接することが出来たのに驚いた。
「城宮君は凛のこの格好見たら、なんて言うのかな…」
今鏡に映る女の子の服を着た凛を、楯がどう思うのか気になる凛。
「やっぱり笑われる…かな」
不安に思う凛。
「凛も勇気が欲しいよ…城宮君。かよちん」
そう呟き、思いながらベッドに横になる凛。
「スクールアイドルなんて夢のまた夢だよ、かよちん」
スクールアイドルに一緒になってほしいと言われたが可愛くない自分では夢のまた夢だと思ってしまう。
しかし彼女にも転機はすぐ近くに近付いているのであった。
***
穂むらから帰った花陽は自分の部屋でアルバムを見ていた。
そのアルバムは昔の小さい頃の自分。
「私、この頃はあんなにアイドルになることに憧れていたのに」
小さい頃の自分の憧れを思い出す。
それは今も変わらない。
「やっぱり諦めきれないよ」
それは小さい頃も今も思い続ける憧れ。
「でもやっぱり踏み出せない私が悔しいよ」
あれだけ穂乃果達が誘ってくれたのに一緒にやりたいと言えなかった自分が情けない。
「城宮さんだって技術は二の次、気持ちが大切だって言ってくれたのに」
最初から上手い人間はいない。
だからこそ気持ちが大切なのではないだろうか。
「明日、頑張ってみよう!」
まずは第一歩を踏んでみようと思う花陽。
「城宮さん、凛ちゃん、西木野さん、私に勇気を下さい!」
応援してくれる人に勇気を貰えるよう願う花陽。
その願いは思わぬ形で貰えるのであった。
***
決意を新たに次の日になる。
「輪郭をぼやかしていた靄も…」
今は国語の現代文の授業をしている。
(やりたいと思ったらやってみる。
そうだよね、頑張ってみよう!)
花陽は昨日胸に秘めた決意をやってみようと意気込む。
「ありがとう後藤さん。
それじゃあ次を小泉さん読んでください」
「えっ。あ、はい」
花陽は立ち上がり、次に読む文を見つけ、読み始める。
「遠い山から、この一文を示すよしろうの気持ちは一体なんだっあ!」
『クスクス』
口が回らず噛んでしまう。
その光景を周りの生徒は笑う。
しかし花陽はまたやってしまったとシュンとなってしまう。
(何かをしようとして頑張ろうとすると失敗しちゃう…)
何度も決意をして形にしては失敗をし、皆に笑われてしまう。
皆悪意があって笑っていないのは解っている。
しかし再び決意した花陽の覚悟を砕くには十分な威力をもっていた。
「はい、そこまで」
先生が止めに入る。
「は、はい…」
花陽は俯きながら席に座る。
「それじゃあ次は城宮君」
「はい」
楯が指名され、席を立つ。
席を立つ時に横目で花陽の方を見る。
(形にしようと頑張ったのは凄いことだよ。
でも失敗から何を学び、諦めないという決意も忘れないでほしい。
僕は小泉さんのこと、応援してるから諦めずに頑張れ!)
心の中で花陽にエールを送る楯。
しかしそれは花陽には届かない。
また花陽を心配そうに見つめる凛。
真姫も関心なさそうにしているが、花陽の方をずっと見つめているのであった。
***
あれから元気も出せず、中庭の一角で一人俯いてる花陽。
先ほどから溜め息しか出てこない。
「はぁ」
これで何度目の溜め息だろうか。
数えるのも億劫になってしまう。
「こんな所で何してるの?」
「え?西木野さん?」
中庭に一人で悩んでいる花陽に声を掛けたのは真姫。
「貴女、声は澄んでいて綺麗なんだから、後は大きな声をちゃんと出せる練習をするだけでしょう」
「でも…」
先ほどの失敗に周りに笑われたのが堪えたらしく、またしても俯いてしまう。
「はぁ」
真姫は小さい溜め息を吐く。
その後に大きく息を吸い始め。
「あーあーあーあー」
音階を上げながら声出しをし始める真姫。
「はい」
次は貴女の番よと花陽にやるよう促す。
「え?」
「やってみて」
「ええっと、あっ」
やってみてと言われ、少し躊躇う花陽。
「あーあーあー」
やってみたは良いが声が小さすぎる。
「もっと大きくよ。ほら立って」
手招きで立つようにと言う真姫。
「は、はい!」
言われた通りに立つ花陽。
「あーあーあーあー」
「あーあーあーあー」
真姫がやり、花陽が真似て声出しをする。
先程より声が出ている花陽。
「一緒に」
真姫は一緒に出すように号令をかける。
「「あーあーあーあー」」
二人の澄んだ声は見事なハーモニーを奏でる。
「ね、気持ち良いでしょ」
「えへへ。うん、楽しい」
花陽の屈託のない笑顔を見て、照れてしまう真姫。
「はい!もう一回!」
照れ隠しにもう一回と声出しを促す真姫。
「かーよちーん」
花陽を探していた凛がこちらに近付いてくる。
「あれ、西木野さん?どうしてここに?」
花陽と真姫が一緒に居たのが珍しいと感じる凛。
「西木野さんに励ましてもらってたんだ」
「私は別に」
相変わらず素直になれない真姫。
「それより今日こそ先輩達の所に行って、一緒にアイドルやりますって言わなきゃ!」
「あ、うん…」
凛は花陽に早く選択したほうがいいと事を急かす。
「そんなに急かさなくてもいいじゃない。
もう少し自信をつけてからでも遅くないわよ」
「なんで西木野さんが凛とかよちんの話に入ってくるの!」
「別に歌うのならそっちのほうが良いって、言っただけよ!」
「かよちんはいっつも迷ってばっかりだから、ぱっと決めてあげた方がいいの!!」
「そう?昨日話した感じじゃ、そうは思えないと思ったけど」
花陽を無視して二人で花陽について口喧嘩が始まってしまう。
「あ、あの喧嘩は…」
花陽は喧嘩を止めようとするのだが。
「……」
「……」
二人は無言で睨み合う。
気が弱い花陽はどうしようと狼狽えてしまう。
「ほらかよちん行こ!先輩達帰っちゃうよ!」
凛は花陽の腕を引っ張って校舎の方に行こうとする。
「待って!!」
しかしもう片方の腕を真姫が取り、凛と花陽の動きを制止させる。
「どうしてもって言うなら私が連れて行くわ!
音楽に関しては貴女より私の方がアドバイスとかできるわ」
確かにそうだろうが納得いかない顔をする凛。
「それにμ'sの曲は私が作ったんだから!!」
やっとμ'sの曲を作ったのは真姫だと自分の口から明言をした。
「え!?そうなの!?」
花陽は吃驚する。
それもそうだろう、まさか目の前にあれほどの曲を作った人がすぐ近くにいるとは思わなかったからだ。
「あ、え、ええっと…」
やってしまったと口籠もってしまう真姫。
「と、とにかく行くわよ!」
恥ずかしくなったのか、花陽の手を引いてそそくさと歩いていこうとする真姫。
「待って!連れて行くのは凛がするからいいよ!」
「私が連れて行くわよ!」
「凛が!」
「私が!」
「「連れて行くの(わ)!!」」
「だ、ダレカタスケテー!」
花陽は必死に二人に抗うが、口喧嘩に夢中の二人は花陽は視界に入らず引き摺っていく。
花陽の助けは声が小さい為に誰にも届かないのであった。
***
「昨日、動画サイトに投稿されていた動画を確認しましたが、結構再生数はありましたね」
ここは理事長室。
「そうですか。やはりネットというのは馬鹿に出来ないものですね」
「そうですね。苦労せずに手軽に見れるというところがネットの利点ですから」
「それで、感想は?」
「一言で言うなら、感動はあるけれど動きまではしない…ってところですかね」
これは正直な感想だ。
ダンスの動きに歌、どれをとっても良かった。
しかしこれは一般人。
平たく言えば素人から見た感想だ。
これを経験者から見たら一蹴されるだろう。
「まだまだ厳しいということですね」
「ええ、まあ」
やはり素人四人では限界がある。
認めたくはないが、四人ではこれが限界なのである。
無論諦めたわけではない。
しかしこのままでは本当に打開策は見つからず、終わってしまう可能性が見えてきている。
「悔しそうですね」
雛は楯の顔を見て呟く。
「ええ、凄く悔しいです」
楯は悔しくて仕方がない。
自分一人だけ表舞台に立つ事は出来ず、三人の足を引っ張っているのではと思ってしまう。
「楯君がそんな顔をしていたら何にも始まりませんよ」
「それはそうですが…」
「もしかしたら新たな出会いとかがあるかもしれないじゃないですか」
「そんな簡単に出会いなんてあるもんですかね」
「さあ、それは楯君次第ですよ」
要するにいつも通りに行動しなさいと雛さんは言っているのだ。
「はあ。本当に雛さんには勝てる気がしないです」
「当たり前です。
私は楯君のお義母さんだと思ってますからね」
本当にこの人には何時までも勝てないだろう。
楯にとってもう一人の母と言っても過言ではない存在だからだ。
「……そうですね」
楯は屈託なく微笑む。
その笑みは何時もの大人びた笑みではなく、歳相応の少し幼く感じる笑みであった。
雛もその笑顔が見れて微笑むのであった。
***
時刻は空も茜色に染まる夕方。
何故かあれから幾つもの衝突をしながらもやっと屋上に着いた凛、花陽、真姫。
凛と真姫は此処に来た理由を穂乃果達に話している。
因みに花陽は二人に腕を抱えられ、疲れているのかぐったりしている。
そんなぐったりしている花陽を無視して、花陽の良い所を語っていく凛。
「ええっと、つまりメンバーになるってこと?」
端的に聞いていればそうなのだろう。
「はい!かよちんはずっとずっと前からアイドルをやってみたいって思ってたんです!」
「そんな事は今はどうでもいいのよ。
この子って結構歌唱力があるんです」
「どうでもいいってどういうこと!」
「言葉通りの意味よ」
凛と真姫は口論にまではならないが、お互い譲らないせいか喧嘩腰に聞こえてくる。
「あ、私はまだ、なんて言うか…」
此処まで来て、未だに踏ん切りがつかない花陽。
「もう!!いつまで迷ってるつもりなの!!」
凛は内気な花陽に叱責する。
「かよちんは絶対にアイドルやったほうがいいの!!」
「それには私も賛成よ」
凛の提案に真姫も同意見のようだ。
「やってみたい気持ちがあるのなら、やってみたほうがいいわ」
「で、でも」
「それにさっきも言ったでしょ。
声出すなんて簡単よ、貴女なら出来るわ」
真姫なりの励ましを贈る。
「凛は知ってるよ。
かよちんがアイドルになりたいってずっとずっと想ってた事」
凛は真っ直ぐに真剣な顔で花陽の顔を見る。
それは今までの花陽を見ている凛から送る本気の想い。
「凛ちゃん。西木野さん」
花陽は二人の顔を見る。
「頑張って!凛がずっと付いていてあげるから!」
「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ」
二人からのエールを貰い、花陽は穂乃果達の方を向き深呼吸をする。
「えっと、あの、私、小泉…」
とても小さくか細い声で何かを言おうとしている花陽だが。
何を言葉にすれば良いのか、何を想っているのかを言えば良いのかわからない。
口ごもってしまう花陽に、最後の一歩を踏み出す手が差し伸べられる。
「え?」
それは凛と真姫からのアイドルになりたいと想う花陽に贈る、小さくも大きな二人からの最高の贈り物。
それは『
これほど心強いものは世界中探しても、何処にもないだろう。
だってそれは何時も隣に居てくれるのだから。
「私、小泉花陽といいます。
一年生で背も小さくて、声も小さいて、人見知りで、得意なものもないです。
でも………でもアイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!!
だから、私をμ'sのメンバーにしてください!!!」
花陽は今想っていることを心の底から穂乃果達に伝える。
人より劣っている部分があるかもしれない、けれどもアイドルへの想いは絶対に誰にも負けたくない。
そんな想いを本気で穂乃果達にぶつける。
「こちらこそ」
穂乃果達も新しい頼もしい仲間が出来て嬉しく思う。
「よろしく!」
穂乃果は花陽に握手の手を差し出す。
花陽は嬉しくなり、頬に数滴の涙が流れる。
しかし花陽は笑顔でその手を握り返す。
その顔にはもう迷いは無い。
「かよちん、えらいよ~」
「ふふ、何泣いてるのよ」
「だって~」
凛は感極まり泣いてしまう。
それもそうだろう、アイドルを夢見ていた友達が念願のアイドルになれたのだから。
「って西木野さんも泣いてる?」
「だ、誰が泣いてなんかないわよ」
真姫の嬉し涙を流しているが、意地を張り泣いてないとそっぽ向いてしまう。
「それで二人は?」
ことりからの質問が二人に投げ掛けられる。
「二人はどうするの?」
「「え?どうするって……ええ!?」」
まさか自分達もアイドルに誘われるとは思っていなかったようだ。
「まだまだメンバーは募集中ですよ」
「うん!」
海未とことりは二人に手を差し出す。
「えっと」
「ええっと」
二人は迷ってしまう。
凛は女の子らしいことなど似合わないという葛藤が。
真姫は自分の道には音楽はないという葛藤が。
二人は俯き、どうすればいいのか迷う。
そんな二人にも踏み出す手が差し伸べられる。
「ほら、二人共前を向いて」
そんな言葉と共に背中を押される二人。
「「え?」」
突然背中を押され、呆けてしまう二人。
「何を悩んでいるのか、僕にはわからない。
けれど一緒に悩んであげる事はできるよ。
今は小泉さんと一緒に前を踏みしめて、笑っていよう。
それに君達にも色んな人に元気と笑顔を届けられる力は既にあるんだからさ」
「「城宮君」」
背中を押したのは楯であった。
「今は前を向いて、一緒に歩いていこうよ。
間違いだって起こるかもしれない。
でも、それを恐れていたって何も始まらない。
なら怖がらずに歩いていこう。
僕が一緒に歩いてあげるからさ」
凛と真姫は悩む。
でも花陽にも一歩が踏み出すことが出来たのだから、私達にも出来るはず。
それにすぐ傍には支えてくれる友達がいるのだから信じてみようと思う二人。
「「うん。うん!!」」
二人は笑顔で頷き、海未とことりの手を握り返すのであった。
***
「ふわぁぁあ」
凛は大きな欠伸をする。
「朝練って毎日こんな朝早く起きなくちゃいけないの~」
「このぐらい当然だし、当たり前よ」
「まあ最初はきついかもしれないけど、慣れちゃえばどうってことないさ」
凛は早起きが苦手なのか、凄く眠そうだ。
「当然なの~?それに慣れるかにゃ~」
愚痴を言う凛。
「ほらしゃきっとしなさい」
真姫は凛に活を入れる。
そんなこんなで朝練の場所に着くともう花陽がアップを始めている。
「かーよちん!」
凛が花陽を呼ぶ。
それに反応してこちらに振り向く花陽。
すると今日は眼鏡を掛けていないではないか。
「おはよう!」
「あ、あれ!?眼鏡は?」
「コンタクトにしてみたの。変、かな?」
「ううん!そんなことないよ!凄く可愛いよ!!」
「へえ、いいじゃない」
「えへへ、よかった」
「城宮君もそう思うよね」
「え?」
楯は既にアップを始めようとしていたのだが、話を振られ困る。
というかこちらを見ようとしない。
「や、やっぱり似合いませんでしたか?」
花陽は少し落ち込んだ声で尋ねてくる。
「い、いや凄く似合ってるよ。
それに凄く可愛いし」
楯は眼鏡を外した花陽を見て、単に照れているだけだった。
可愛いと言われ、顔を赤くする花陽。
「「………」」
何故か見ていて面白くない凛と真姫。
話を振ったはずの凛がジト目で楯の事を見る。
「ええっと何かな?」
「なんでもないよ!」
何故不機嫌なのかわからない楯。
「それより西木野さん、凛ちゃん、アップ始めようよ」
花陽はアップを始めようと促す。
「ねえ、あのさ」
「どうしたの?」
「眼鏡取ったついでに、名前で呼んでよ」
真姫は名前で呼んでほしいと言う。
「「「え?」」」
「私も名前で呼ぶから。
花陽。凛。楯」
これは大きな進展だろう、最初は誰も寄せ付けないオーラを出していた真姫が名前で呼んでほしいと言い、名前で呼ぶ事は。
「うん!真姫ちゃん!」
花陽は嬉しそうに真姫の名前を呼ぶ。
「うう~真姫ちゃん!真姫ちゃん!真姫ちゃん!」
凛は真姫の周り飛びながら名前を呼ぶ。
「な、何よ」
「真姫ちゃん!真姫ちゃん!」
凛は後ろから抱きつき名前を連呼する。
「う、うるさい」
「照れてる照れてる」
「照れてないわよ」
「ほら城宮君も呼んであげなよ~」
「…真姫」
「な、何よ」
「うん。やっぱり良い名前だね」
真姫と呼ばれ、名前を褒められ嬉しかったのか、真姫は顔が真っ赤になる。
「それじゃあ僕からもお願いしようかな」
楯からもささやかな願いを叶えてほしいと言われる。
「僕のことも名前で呼んでほしいな。
僕も名前で呼ぶからさ。真姫。凛。花陽」
それは屈託の無い笑顔で呟く。
「うん!楯君!」
「よろしく!楯君!」
「よろしくね。楯」
「「「「ふふ。あはははは!!」」」」
四人の楽しい一日が始まるのであった。
***
『カチカチ』
暗い部屋にマウスをクリックする音が響く。
「アイドル部…」
『カタカタカタカタカタ』
今度はキーボードを叩く音が響く。
その打ち込まれた内容は………。
『アイドルを語るなんて10年早い(((┗─y( ` A ´ ) y-˜ケッ!!』
と打ち込まれている。
「ふっ」
暗い部屋でその文章を打ち込んだ人物は不敵な笑みを浮かべるのであった。
次回 extraNo05 サプライズバースデーパーティー
如何だったでしょうか?
次回は番外編の予定です。
それにしてもライブのチケット抽選落ちしたのが最近のショックでした。
まあ仕方ないんですけどね~(´Д`)
ではではまた次回!