過剰防衛なんて言われたら反論の余地が無くて困る。
誰しも、学生時代に不条理を突きつけられていたことがあると思う。
宿泊研修とか学校行事じゃよくあるものだろう。
しかし、覚えていてほしい。普通の人からすれば、何の事もない楽しい行事であるかも知れない。でも、ボッチにとってはとても厳しい時間であると。
『あら? 勇人君、余ったの? 困ったなぁ、誰か、空いているところありませんかぁ?』
『はい先生! 私たちのグループ丁度1人足りなかったんです』
『良かったね勇人君、皆女の子だよ? このこの~』
僕はその時から予感していた。碌な目に合わないと……。
『ほら糞勇人、急げよ。男が女の子荷物を持つのは当然でしょう? ほら早く!』
『もう、ホントに鈍間なんだから……。使えない』
『私たちが折角グループに入れてあげたのに、恩も返せない訳? ふざけないで、死ね』
『あ~あ、これで遅れたら糞勇人のせいね』
な、殴りてぇ……。人の名前に糞なんて付けやがって……。
しかし、ここで手を出したら僕の負けだ。ここは我慢だ。
女子は全員重い荷物を僕に預けて山を登っていく。自分の分含めて5人分だ。女子の荷物にはどうせお菓子とか入っているんだろうな。山中の宿泊施設に研修に行くのであって遠足じゃない。しかし、僕は怒りに燃える心に抑え、黙々と足を動かす。
『遅い! 何してたんだ!』
教師が僕達を怒鳴りつける。20分も遅れてしまったので誰もが怒るだろう。
『ち、違います! 勇人君が急に暴れ出したりしてせいで遅くなったんです。ほら、私は勇人君に蹴られたんですよ!』
糞ビッチが怪我した箇所(僕は一切手を出していない。あの痣は糞ビッチが不注意で転んでできたものだ)にできた痣を教師に見せながら、大声で言う。
周りからは『最低』とか、『人間として終わってる』とか陰口がたたかれる。
『天原、後で俺の所に来い』
こうして荷物を降ろした僕は、教師の元へ連れて行かれた。
『なんで暴れたりしたんだ? しかもあんな怪我までさせて、人として恥ずかしくないのか?』
教師が僕を睨みつけながら説教をかます。そんな僕は、家に帰ったら何して遊ぼうかと考えており、完全に上の空だった。
『聞いてんのかっ!? 大体な、自分がされて嫌な事を人にするな!』
あのな、今はこっちが現在進行形で嫌な事されてんだよ。この野郎、こっちが下手にでてりゃ調子こきやがって……。
この時は、僕はうっかり言ってしまった。
『うるせぇなっ! Fucking teacherがっ! あんま調子こいてんと金玉握り潰すぞ、オラァ!』
僕はついカっとして言ったが、すぐに後悔することになった。生徒が教師になめた事を言ったら、どうなるかは誰しも予想がつくだろう。
『なっ、テメェ。教えられる立場の人間が教える立場の人間に楯突いてんじゃねぇぞ!』
激高した教師の拳が僕の顔面に飛んできた。
ゴシャァと気持ち悪い音と共に、僕の体が痛みを訴えた。
*
と、まあこんな事があった。
まあ、僕が言いたいことは、どんなに嫌な事があってもただ耐えろ。そしたら、心はいつか鋼になる。
思ったけどこれっていじめじゃね? 僕が訴えれば勝てたよな? ああくそ、惜しい事をした。
搾り取れるだけ金をとってやろうと思ったのに。
何? 耐えるんじゃないのかって? 金は心の傷よりも重いから仕方ない。
くそ~、運が良い奴らめ……。
いや、逆にこう考えるんだ。
あいつらが今、何の問題もなく生きていけるのは僕が我慢してやったからだと言う事を。
あいつらは生きているんじゃない。僕の寛大な心によって生かされているんだと……。
やべぇな。そう考えたらすげぇ優越感に浸れるんだけど。この感じは一体……。
「ねえ、勇人君如何したの? さっきから考え事でもしているような……」
不意に声をかけられ、振り返ると間宮、火野、佐々木が立っていた。
「ああいや、自分は人間の鑑なんだなと優越感に浸っていたところだ。気にするな」
「なんだこいつ……」
火野が僕の事を冷めた目で見てくる。なんだかんだで初めて火野の声を聞いたわ。
火野の冷めた視線に何か心躍るものがあった。
なんて言えばいいのか……。もっとその冷めた目で見てくださいって感じ……。
いやいや、待て待て! 僕はそんな趣味なんて持ってないぞ!?
夾竹桃に打たれた毒の隠し効果か? 健全な人間を変態に仕立てあげる……。
恐ろしい効果だ。
頭を振ってよからぬ考えを吹き飛ばす。
突然、頭を横に振った僕を佐々木が奇妙なものを見るような目で見ていた。
「頭大丈夫ですか?」
「違うな佐々木さん。僕はただ単に、人生と言う深い樹海に迷い込んでいただけだ」
「壊れちゃいましたね。あかりちゃん、時間の無駄ですからそろそろ行きましょう」
「ああそうか、次って移動教室だったな。間宮が話しかけてくれなかったらずっと優越感に浸っている所だったよ。ありがとう」
間宮にお礼言うが、なぜか間宮は機嫌が悪そうに頬を膨らませている。
「また苗字で呼んだ……。あかりって呼んでよ!」
「いや、僕らはそこまで仲良くないじゃない」
「これから仲良くなるんですぅ!」
「ああ、分かった分かった。あかり」
すると、あかりはパアァっと明るい顔をする。
明るい顔か、名前があかりだけに。
某笑顔動画で発言したら審議されるだろうな~。
――ゾクッ!
くだらない事を考えていたら、背筋が凍るほどの殺気に襲われ、体が硬直する。
「ふふ、名前で……呼び合う……? 男と……? 天原勇人……抹殺……」
「……」
佐々木さん……? 何故刀に手を掛けておられるのでしょうか?
それに目がマジなんですけど……。
おい、ちょっと佐々木に色々な補習を……! じゃないと、こいつ武偵法9条を破りかねないぞ!?
「ぼ、僕は先に行ってるよ! 君たちも遅刻しないようにね!」
それだけ言って僕は教室から飛び出して次の授業で使われる教室へ向かった。
*
放課後――
鞄を背負って外へ出ると、綺麗な夕焼けに照らされる。
そういえば、この時間帯って霊とか妖怪の類に会いやすいんだっけな。
やばい、何かそう考えたら怖くなってきた……。早く帰ろう……って、ん?
校門前に見覚えがある車が止まっている。車の近くまで来ると、ドアから義父が降りてきた。
「おう、来たか。急に悪いな、お前と話したい奴が居るって事でな、連れてくるように上から言われたんだ。まあ、乗れ」
心寂しく思っていたところだったので運が良い。これからは、霊とかそう言うのは考えない方向で行こう。
「はーい」
車に乗り込むとタバコ臭い。どうやら、ずっと義父は車内でたばこを吸っていたようだ。
義父がアクセルを踏むと、車は唸りながら発進する。
「話したい人って誰の事?」
疑問をぶつけるが「すぐにわかる」と言われ、詳しい事は分からなかった。
窓から外を眺めていたら、警察署が近づいてくる。
「あの、義父さん。僕、何も犯罪なんて犯してないんだけど……」
はっきり言って身に覚えなんて何一つとしてない。
「この前、街中でパルクールをして警官の頭上を飛び越えたらしいじゃないか」
「え、犯罪なの?」
「ああ、そうだぞ。ちなみに、罪名は『重力をバカにした罪』だ」
「マジか……。ちょっと待って、それだけで即逮捕なの!?」
「ははっ、冗談だ。お前と話したがっている奴はあそこにいるんだ。御用なんてねぇよ」
義父の言葉にホッとする。ホント人を驚かすのが好きだな、この人。
車は駐車場に止ると、早速降りて義父と共に署に入る。
若い警察官が僕らの姿を見た瞬間、こちらへ近づいてきた。
「天原さんですね。用件は既に承っております。こちらへ」
警察官に案内されて僕らは彼の後ろについて行く。
「こちらです」
若い警官が立ち止まる。
「勇人、俺は入れんからお前1人だ。あっちもお前と1対1で話す事を望んでいる」
「……僕が助けを求めたらすぐに来てくれよ?」
「ああ、お前の声が……イヤホンしている俺の耳に届いたらの話だがな」
「ざっけんなコラァ……」
悪態をつきつつ、扉を開き、部屋に入る。そこには……。
「待ってたわ、天原勇人」
――数日前に対峙し、間宮が逮捕した夾竹桃が座っていた。
「sorry、部屋を間違えた」
一礼した後に回れ右をしてドアノブに手を掛けるが、ドアノブは動かない。
「あ、あれ? オカシイナ、ピクリトモシナイゾ? ハハッ」
閉じ込められた!? こいつら、グルだったのか……。
残念! 勇人の冒険はここで終わってしまった!
「戦う意思はないわ。互いにメリットなんて無いでしょう?」
「確かに」
僕は彼女と向かい合うように座った。テーブルには、湯気が立っている紅茶が置いてある。
「ゆっくり話しましょう。時間はあるわ」
「じゃあそっちから話題振ってくれ。生憎、女子としゃべる機会なんてなかったからさ」
「そうね……。あなたは、何者?」
早速、夾竹桃がストレートに聞いてきた。だからこちらもストレートに返答する。
「日本人」
「生まれは?」
「聞いて驚け、北海道の東側だ」
「どうしてここに越してきたの?」
「公安0課の義父に連れてこられた」
「寒さに強い?」
「その日の気分で暑いか寒いか決まるから何とも言えない」
「趣味は?」
「妄想」
「特技は?」
「妄想した事を実行に移す事」
「あなたは変人?」
「そうだな、そうかもしれ……っておい何言わすんじゃ」
誘導尋問恐ろしいな。
「今までの質問に意味あるの?」
「特にないわ。いえ、最初の質問だけは本気で聞いているのだけど」
「ああ、そう……」
「……」
「……」
互いにティーカップを取り、口を付ける。
「中々良い紅茶ね」
「そうだね、でも僕は炭酸飲料一筋だ」
「……」
「……」
沈黙。ただただ沈黙。ひたすら沈黙。
夾竹桃がティーカップを置き、口を開いた。
「本題よ。私たちが東京に向かう前に、私とジャンヌに
「誰だよ、ジャンヌと
「ジャンヌはあの雨の日、あなたに斬りかかった子よ。あなた達はデュランダルと呼んでいるけど」
あのデカい剣を持った銀髪美女だな。ジャンヌね……。覚えておこう。
「
「国際規模の組織でしょ? 義父に聞いても詳しい所まで話してくれないけど」
「ええ、普通の人が知っちゃったら消される程の機密情報だから、詳細までは教えてくれないでしょうね」
マジか、僕が消されなかったのは義父さんのおかげって事か……。
「
なんかすごい例え方だな。
「難しい例えだな……。てか、誰にも殺せないってすげぇな……」
極端な話、戦って死ぬことが無いって事だろう? ある意味最強だな。
「私とジャンヌもどういう事か分からなかったわ。もっとも、
人の領域を超えるって……。夾竹桃だって相当手練れの筈、そんな彼女までもが人の領域を超えていると称すのか……。国際規模の組織のリーダーであるのも頷ける。
イ・ウーがどんな存在なのか測ろうとしてみたが、測り知れないと言う事が測れただけだった。
「牢屋に入れられてあの言葉を思い出し、理解したわ。その武偵と言うのはあなたの事だと」
「え、僕が?」
「紙切れのように揺れていて脆い。確かにあなたは脆い。ジャンヌの一撃を貰えばすぐに壊れる。でも、ひらひらと紙のようにジャンヌの攻撃を躱した。正しく、ひらひら揺れる紙切れよ」
「お、おう……。女子に脆いなんて言われてちょっと悲しいけど……」
確かに事実だ。ひらひらと揺れる紙切れを斬るなんて余程の達人じゃない限り不可能だろう。
「そして、『鋼』の精神力。猛毒に犯されているのに、あなたは耐えた。そして、今この瞬間を生き延びている。そう、あなたは……あなたは殺せない。おかしな話だと思わない? 特別な存在と言う訳でもないのに」
「まあ、勝負に負けても戦いには負けない主義だし、義父からは『世界が滅んでも、お前はゴキブリと仲良く生きてそうだな』って言われたよ。不本意だけどさ」
思ったけど、
しかも顔を合わせた事もない奴相手にだろ? これは確かに人外の域だ。
「あなた、本当は何者?」
その目からは冗談ではなく、真実を話せと、そう言っているような感じがした。
「自分さえよければ何でもいい、その為にどんな非道な事もする卑劣な人間さ」
「その卑劣な人間は先日、クラスメイトを助けていたわね?」
「世の中には『気まぐれ』と言う言葉がある。そういう事だ。まあ、自分が納得できればとりあえず何でもいいんだよね」
「掴み所のない人間なのね。中々素敵よ」
ほ、褒められちゃった……。これは予想外だ。しかし、せっかくのチャンス。
よし、どんどん押していこう。
「じゃあ、僕と付き合ってみ「お断りするわ」……」
撃沈しました。上げて落とすの上手いなぁ……。
「そう言えば、お前らってなんで東京に攻めてきたの?」
率直な疑問を投げかけてみた。
「各ターゲットの拉致・殺害の為に来たのよ。同僚は
「Girl……Gが3つって事はもう1人いるのか。そいつも女子か」
「ええ、その通りよ。ま、ターゲットも皆女の子だけど」
「マジか」
凄い偶然だな。
デュランダルの目的はやはり大物超偵の拉致か。夾竹桃も拉致……なのか?
てことは、残る1人は殺害か。デュランダルの他にもそいつにも目を光らせないとな。
しかし、そう簡単に尻尾を掴ませてくれるなんて事は無いだろう。
まあ、東京武偵高は人外魔境だから返り討ちにできそうだけど。
「成程な。デュランダルは機会を伺って未だに潜入中ってわけか」
「彼女はデュランダルと呼ばれるのは嫌がるのよ。女の子は丁寧に扱いなさいな」
「ああ、肝に銘じておくよ。んじゃ、そろそろお暇させてもらおうかな」
壁に掛けられている時計を見るにかなり時間が進んでいる。時の流れとは速いものだと改めて認識させられる。
「そうね、時間も時間だし。いい暇潰しになったわ」
「ああ、んじゃ。またな」
「ええ」
それだけ言葉を交わし、僕はドアノブを回し、扉を開けて廊下に出る。
義父が耳にイヤホンを差しながら椅子に座って寝ている。
僕はイヤホンを引っこ抜き義父の耳元でささやいた。
「良かったのかい? ホイホイ寝ちまって。僕は寝ている奴だって構わずにくっちまう男なんだぜ?」
「イーヤァァァッ! ゲイはやめちくりー!」
義父が飛び起きて悲鳴を上げる。義父は息を荒くして頭を掻きむしる。
「恐ろしい夢だ。風俗で綺麗なねーちゃんとお話ししてたらいきなりねーちゃんが筋肉モリモリマッチョマンに変身してあのセリフ……」
夢の内容と僕がささやいた言葉が見事にマッチしたらしい。なんか罪悪感が……。
顔色が青い義父と共に署から出て車に乗り込み、アパートまで送ってもらった。
部屋に上がると、鞄を置いて机の上にレポート用紙をひろげる。
「さて、ジャンヌが潜入しているって事をレポートにまとめて提出しないとな」
僕はペンを片手に、レポート用紙と向かい合った。
実際の体験を参考に書くとやっぱり書きやすいですね。
未だに中学の時の恨みを溜めこんでいる器の小さい人間。そう、私の事です。