漢字だけ見れば何とも思わないだろうが、実は武偵高で扱う弾丸などを保存している火薬庫。
そのため強襲科、教務科と並び武偵高三大危険地域の一つに数えられている。
此処の火薬の総量は、武偵高のある人工浮島を吹っ飛ばし余りあるほど。
言うまでもなく火気厳禁である。
もし、爆発すれば教師をも葬れるが、自分の身も跡形もなく消し飛ぶ上に、大量殺人者として歴史に語り継がれる事となる。
1人黙々と教師陣からの注文に応答し、僕は汗を流す。
好き放題に扱き使われ、僕のご機嫌斜めだった。
しかし、高天原先生から労わりのお言葉を頂き、僕の魂に火をつけた。
『天原君、辛い仕事押し付けてごめんなさいね。でも、天原君のおかげで、皆助かってるわ。本当にありがとう天原君。今、交代の人を向かわせるわせてるからもうちょっとだけ頑張って!』
この言葉に僕は救われた。
あともう少しで交代が来る筈、僕は何としてもこの戦線を維持する!
へっ、蘭豹め。僕を虐めている気になっているかもしれないが、高天原先生の加護を得た僕にそんなものは通用しないぞ!
さあ、来い! どんな弾薬・火薬だろうが時間内に手配してやんよ!
*
「ん~終わったぁ! これで自由だぁ!」
交代の人が来て、やっと僕の仕事が終わった。これで帰れる。
プルルルルッ!
おいおい、僕のシフトは終わったぞ……。まあ、いいやはっきり言ってやろう。
「ヘイヘイ何の用だ? らんらんちゃんYO! あんまり調子こいてんと寄ってくる男も寄ってこないぜ? オラ」
『天原勇人、
聞き覚えがない声が聞こえ、僕は焦って携帯の表示を見る。
こんな番号知らねぇよ……。少し怖がりながら聞く
「蘭豹じゃ……ない? あの、どちらさんでしょうか?」
『分かりましたか? 分かればさっさと行ってください』
「いやいや! 何、あんたいきなり命令して、何様のつもり?」
イライラしながら言いかえした瞬間、制服のボタンが1つ飛んだ。
「え……?」
地面へ落ちたボタンを拾い上げる。ボタンは不自然に凹んでいる。それに、近くに弾丸が落ちていた。
『もう1度言います。分かったらさっさと行ってください』
「こ、この野郎! 人様に命令した挙句、ボタンまで飛ばしやがって! なんなんだテメぇはよぉ!」
こんなことされたら誰だって怒るだろう。むしろ怒らない人っているの?
もし居るならそいつ、ちょっと変わった趣味してんなおい。逆に尊敬するわ。
しかし、何なんだこの人。いきなり命令なんて偉そうに……。
心の中で悪態をついていると、また1つボタンが飛んだ。
「なんやねん、何処の組や、名前ゆうてみい?」
『いいからさっさと行ってください。風が言わなければ、あなたの眉間を狙撃してますよ? それともして欲しいのですか? 本人の希望なら構わないと、風は言っています』
本気の殺気を含んだ言葉にビビってしまい、つい言ってしまった。
「は、はいぃ! この僕にお任せあれ!」
通話を切り、携帯をしまって、再び
なんなのよあの人!?
風だとか訳分からないこと言ってきた挙句、脅してしてきやがったぞ!?
本人の希望って、僕はそんな趣味は持ってねぇよ!
とりあえず、とっとと行こう。またボタンを狙撃されたら困るし。
それにしても、さっきから水が流れ込むような音が主に下からしているんだけど。
何、水没してるの? 此処沈むの? 僕カナヅチなんだけど……。
「あ、あんた……」
「え……」
聞き覚えがある声がして、マヌケな声を出しながら振り返ると、神崎先輩が立っていた。
神崎先輩も此処で仕事をしているのかと思ったが、この人はチアをやる筈だからここに居る意味が分からない……。
「なんで此処に? それにパートナ-の遠山先輩は……?」
「なんで此処にって、それはこっちの台詞よ。あんたこそどうして……?」
「実は……」
とりあえず、今の状況を説明する事にした。
神崎先輩からもどのような状況なのか説明された。
遠山先輩と星伽先輩とは逸れてしまったらしい。
途中で、顔色を少し悪くしながら「大丈夫よね……? 武偵憲章4『武偵は自立せよ』ってあるし……」だとか呟いていた。
一体どんな状況だったのか疑問であるが、それは聞かない事にした。
「成程、そういう事ね」
「あの、1人で納得されても何が何だか……」
「あんた、デュランダルって知ってる?」
神崎先輩がデュランダルと口にした瞬間、すべて理解した。奴は機を伺って今だに潜入していると思ったが、よりにもよって外部の人間が多く出入りするアドシアードを狙って来たか。確かに、これ以上のチャンスなんてない。
「ああ、あの挑発に乗りやすい誘拐魔でしょ?」
「挑発に乗るって……。ちょっとあんた面識あるの?」
「いきなり斬りかかってきましたね。まあ、攻撃に掠るくらいで済みましたが」
「奴は此処に居る。さっき話した通り、白雪を狙っているの。私はキンジと合流するから、あんたは索敵をお願い」
「Eランクには荷が重いっすよ……。高くつきますからね?」
それだけ言うと、早速奴の索敵を開始する。
*
おいおい、修羅場かよ……。
なんでかって? それはな、ついさっきまで索敵をしていて、銃声が聞こえたから来てみれば、星伽先輩が神崎先輩の手に息を吹きかけて凍らせていたんだ。
遠山先輩は星伽先輩に銃を向けているが、神崎先輩を人質に取られているようで発砲できない状況。
ん? 遠山先輩が星伽先輩に銃を向ける? いや、なんでそんなことをする必要がある?
神崎先輩の言葉が正しいなら、2人は星伽先輩の護衛任務に就いていたんだろ?
じゃあ……ってのんきに考察している場合じゃねぇ!
すぐに真相に気付き、気配を殺して、後ろから偽星伽先輩に近づく。
幸い、此処は暗いのでまだ気取られていない。
「……魔剣デュランダル!」
「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は好きではない」
あー。やっぱり、してやられたわ。くそ、変装の達人だとは思わなかった……。
「とりあえず、お前ここから出てけ」
「なっ!?」
偽星伽先輩が驚いてこちらを見ると同時に肘打ちを入れる。驚くのも無理はない。
いきなり、先日に相対していた男が気配を消して後ろに立っているのだから。
肘打ちされた箇所を庇いながら距離をとる。
「遅いっ!」
神崎先輩が声を荒げる。
「申し訳ないっす……」
「お前、あの時の……」
「お久しぶりですね、遠山先輩。立ち直られたようで何よりです」
「なんで此処に居るんだよ?」
「此処で仕事をしていたんですが、ちょいとある人に
肩をほぐし、気だるそうな表情を意識しながら先輩の問いに答える。偽星伽先輩の方へ向き直って言葉を紡ぐ。
「先輩、時間を稼ぎます。一旦退いて本物の星伽先輩と合流してください。僕の体内レーダーが正確ならこのフロアに居る筈です」
「無茶よ! 相手は超能力を持っているのよ!?」
流石に後輩をこんなところに残していくのはまずいと思ったのだろう。必死な顔をしている。遠山先輩も渋っている。
「ご安心を。僕には切り札がありますから。それに、流石の神崎先輩でもその手で戦闘はまずいですよ」
余裕の表情を浮かべながら先輩方にウインクする。自分がきもく感じた。
「だが…………分かった。無理はするなよ」
「危なくなったらすぐに逃げるのよ!」
「分かっています! でも、できるだけ早く来てくださいね」
「分かった。すぐに駆けつけるから、それまで頼むぞ!」
遠山先輩と神崎先輩は後ろへ退いて行く。
2人が暗闇の中へ消えるのを確認したら、ジャンヌと睨み合う。
「何故、生きている?」
「世の中にはルールがあるだろう? ただ単に、天原勇人は死なないっていうルールがあるだけさ」
「戯言を」
そう言いながらジャンヌは星伽先輩の変装を解く。
先日に見た、銀髪、整った顔つき。正に美少女。しかし、その服装は……。
「…………誘ってるの?」
「何……?」
いやだって、ジャンヌの服が中々エロいんだもん。脇腹とか露出も多い。
あ、でもスカートじゃないのはちょっと残念かな。
うーん、98点だ。
「んじゃ、やりますか。あの時が第2ラウンドだから、これは第3ラウンドか」
「来い。その命、我がデュランダルで地獄の果てへ斬り落としてやる」
ジャンヌが構えると同時に、僕は走り出した。
投げナイフを取り出してジャンヌに投擲しながら、距離を詰める。
投げたナイフに気を取られている隙に、致命傷を与える。
ただの武偵は超偵には勝てないと聞いたことがある。
つまり、超能力者には正攻法じゃ勝ち目はない。なら、卑劣な手段で攻めるまでだ。
「小賢しい手が通用すると思うな!」
ジャンヌは剣を振り、投げナイフを薙ぎ払い……。
「かかったな」
「っ!」
剣を振った隙を突き、一気に接近する。
ジャンヌの肩にナイフを突き刺そうとしたが、剣で容易く防がれた。
「はあ!」
「うわっ!」
ジャンヌが剣を振ると、後ろへ押し倒される。力もかなり強いな。
あんなものを振り回す上に反応も早く機動力もある……。こりゃ、骨が折れそうだ。
「気配を絶った状態からの最初の一撃は油断したが、次はない」
「御所望とあれば気配だけじゃなく、姿も消してやろうか?」
笑いながら答えるが、余裕なんてない。ジャンヌは剣を構え、こちらに向かってきていた。急いで後ろへ跳ぶが、振られた剣の切っ先が僕の腹に傷をつけた。
ジャンヌはさらに追撃を繰り出してくるが、軌道をよく見て回避する。
「ぬん!」
ジャンヌが剣を横に薙ぐ。
「っ!」
姿勢を低くして躱し、すぐにバックステップで距離をとる。
少し息が荒くなる。緊張のしすぎで口の中が乾いてきた。
中々のプレッシャーだ。畜生、ジャンヌの動きも先日と違う。
「……中々粘るな。早急におまえを排除して、奴らを追わせてもらう」
「ここは通さん、進みたくば僕の屍を越えて逝け」
両手を広げ、道を塞ぐよう立ちふさがる。
「ならば、押し通るまでだ!」
剣を構えてこちらに突っ込んでくるジャンヌ。彼女の得物は大きな剣。
それを迎え撃つ、僕の手にあるのはただのナイフ。
これ無理げーじゃね? 初期装備で魔王退治するみたいなもんじゃん……。
ギィンッ!
「ぐっ!」
耳が痛くなるような音と、手から伝わってくる大きな衝撃に呻き声を上げる。
「その程度の武器で、我が聖剣デュランダルに太刀打ちできると思っているのか?」
ジャンヌが言った事は的を射ている。一度打ち合っただけで、ナイフは刃が欠けてしまっている。これは後一回打ち合ったら確実に壊れるだろう。
対するデュランダルは傷一つない。それどころか、刀身の光が「その程度か?」と笑っているようにも感じる。
「そらよっ!」
急接近して蹴りを放つが紙一重で躱される。そして、再びデュランダルが僕に向かって振り下ろされる。サイドステップで横へ避けるが、ジャンヌはステップと共に、デュランダルを振る。既に先読みされていたか……!
「スピードと回避能力だけは大したものだな。だが、その他の能力は未熟すぎる」
「──ッ!」
受け流せないか……。無難にナイフで受け止めるしかない!
ナイフとデュランダルがぶつかった瞬間、ナイフは砕け散った。
使い物にならなくなったナイフを捨てて、バックステップをして相手との距離をとる。
「所詮はこの程度か」
「生憎、戦闘は本業じゃなくてね……。でも、理解できないか? 戦闘専門外の僕にここまで時間をかけているようじゃ、到底先輩方には敵わないと思うよ?」
「はっ……。貴様こそ、私を相手に生きているという事は、私が手加減しているからだと気づかないか?」
おいおい、挑発に乗ってくれねぇぞ……。それどころか挑発し返されてるし。
あの日の戦闘から学習したようだ。少しは有能になったって事か。
余裕を見せるかのように不敵に笑うが、額に浮かぶ汗は僕の心境を物語る。
得意の挑発が通用しないとなると、後は純粋なガチンコ勝負しか手は無い。
「口での勝負じゃ互角だね……なら」
ガチンコ勝負をすると言ったな。あれは嘘だ。
あんなのと真正面から切り結んだら命がいくつあっても足りねぇよ。
ヒュンッ!
両手を懐に入れ、投げナイフを大量に取り出して投げつける。
「な!?」
ジャンヌはそれを転げるように無理やり避けた。今、チャンスが巡ってきた。
僕はそこに思い切って飛び込む。
「かかったなアホが、卑劣蹴り!」
隙だらけの脇腹に、蹴りを打ち込む。
美女の脇腹に容赦なく蹴りを入れる鬼畜で卑劣な外道とは僕の事だ。
「ガハッ!」
拳を握り、このままもう一発……いけなかった。
「あらら」
続けて二撃目を入れようとするが、出来なかった。転がりながらもすぐに体勢を立て直された。あと、数発イケると思ったんだけどな。
「立て直し早いねぇ。そんな鈍重そうな武器を持ってるくせして」
「奇策には驚いたが……所詮はその程度、イ・ウーで研磨された私の敵ではないっ!」
気合が入った声と共に、こちらへ接近してくる。僕も懐に手を突っ込み、残りの小型のナイフをすべて投擲する。
キィン!
牽制のため、投擲した最後の小型のナイフはあっさり弾かれる。何とか距離を取ろうと後ろへ下がった瞬間だった。突然、肌寒く感じた。急激に気温が下がっていくのを感じ、背中が冷や汗をかく。
『危なくなったらすぐに逃げるのよ!』
頭に神崎先輩の声が響き、声に従って一旦引こうとしたが、相手はそれを許さなかった。
「散れ!『
突如、空間が白く染まる。そして吹雪のような風が吹き抜け、僕に襲いかかった。
超能力を操る武偵、「超偵」ばかりを狙う誘拐魔。
その正体は誰も知らず、本当に存在するのかさえもわかっていない。
その理由は誰も魔剣を見た者がいないためらしい。
見たことないのになんで噂されるんですかねぇ……。
戦術は策を用いて敵の戦力を削り超能力で相手の動きを封じ剣で仕留める3段構えらしい。
結論、超能力が使える質が悪い策士である。少なくても僕からすれば。