急いで仕上げたので誤字・脱字があれば、是非ご指摘をお願いします。
「なんで急にスラムに行くの?」
「このファイルを見れば分かる」
そう言って義父から青色のファイルを手渡され、早速開く。
真っ先に、僕の目には見覚えがあるものが入ってきた。
「凶薬……?」
「ああ、1枚捲ってみろ。詳しい事はそこに書いてある」
「…………」
促されるままに一枚紙を捲り、2枚目の内容に目を通す。
そこには凶薬の特徴や効果、副作用について書いてあった。
あらゆる形状に変えても使用可能、容量は多ければ多いほど効果は発揮され、副作用も大きくなる。また、麻薬などの薬物とは比べものにならない程の依存性もあると考えられている。
効果は判明しているだけでも、痛覚の遮断、筋力の大幅強化、人格の豹変がある。
成分は今だ研究中のものが大半を占める為、他の成分同士の反応もある為、上記の他にも効果はあると断定できる。当然、製作法も不明である。
色々と物騒な事が書いてある。いや、物騒では済まない。これは薬と呼べるものだろうか?
本来、薬の取扱説明書には容量や用法を守り、形状を変えずに服用するようになど書いてあるものだが、まず、この時点で異常だ。
あらゆる形状で服用可能と言う事は液体にするなり、粉にするなりして水道に流されたら世界中のテロリストが唖然とするテロになってしまう。
いわゆるドーピングの類か……。麻薬なんてかわいいもんじゃないか……。
「義父さん、これって……」
「俺からすれば、薬とは言えない代物だな。言うなれば、凶戦士製造機だな。一回飲めばあら不思議、バーサーカーに大変身☆ってな」
「これって、スラムで生産されてるって事?」
「その通り。幸いにも、生産地が近くだったからな。スラム関係者のお前の保護者である俺が抜擢されたって事だ。だから、お前には案内を頼みたい」
「いや、僕って北海道の方の出身だからね? こっちのスラムの事情なんて分からないよ」
「スラムは何処も似たり寄ったりなんだろ?」
言われてみればそうだが、僕の知識が通用するかなんてわからない。
それに僕が生まれた場所はそんな毎日殺し合いが起きてるってわけじゃないし、盗って逃げた者の勝ちって言うルールだった。話し合いが通じる奴も居た。
他と比べればまだ平穏といった所だ。
僕が生きていけたのもそれが理由だと思う。
本州の方は激戦地帯なんだろう? 果たして……。
思考に浸っている間に、車は止まった。
車から降りると、中々広い駐車場だった。
義父はトランクを開け、中からボロボロのつなぎを取り出して僕に投げてきた。
「上からそれを着ろ。スーツや制服なんかでスラムに入ったら金を持っているとみなされて恰好の得物だ」
「確かにそうですね」
つなぎを履き、ナイフなどはしまえるだけポケットに入れる。
義父もリロードをするなりして準備をしている。
準備が整うと、義父は一足先に歩いて行った。
僕も焦りながら準備を終えると、義父の背中を追う。
「ここだ」
「…………改めて思うけど、夜だと本当に不気味だな」
「行くぞ。目的は1つ、凶薬について情報持ってる奴をとっ捕まえて連れていくだけだ」
「はい」
窓が割れ、ヒビだらけでボロボロの建物が並ぶ街に足を踏み入れた。
「まずどうするか……」
「とりあえず、奥の方には極力行かないように。奥の方は本当にでたらめな強さを持っている奴がうじゃうじゃいる。腕の立つの武偵でもない限り、太刀打ちはできないよ。中には腕が立つ奴でも手こずる奴が居るって噂もあるけど。それに連中、勘が良いのか、余所者にはすぐ気づく」
まあ、こっちには公安0課の一員が居るんだから心配はいらないけど。
「おー怖い怖い。とんでもねぇ仕事を引き受けちまったな……」
国内最強戦力の一員が言う台詞じゃない。でも、味方ならばこれ以上にない位、頼りになる。いざって時は義父さんに任せよう。
とりあえず、辺りを良く調べるべきだろう。どうしても奥に行くなら、辺りを把握していないと逃げる事も出来ない。此処は連中からすれば、此処は檻でもあるが、庭でもある。
「にしても、人っ子1人いないな。やっぱり、人が集まる所ってのがあるって事か」
「大抵、地下や広い公園に集まってるよ。そこで物々交換会が毎日起きてるからね」
「交換?」
「食べ物、武器、風邪薬、女とかさ。金なんて此処じゃ希少だからね。対等の物で交換して欲しい物を手に入れるしかない。まあ、強奪とかも起きるけど」
こんな場所でも一応ルールは存在する。強奪などその場のルールに反した場合、殺されるか徹底的に叩きのめされて奴隷にされるのがオチだけど。
滅多に強奪なんてする奴はいない。ある意味、大切なものは会場に持ち込んでおけばある程度は安心できる。
「何か匂わねぇか?」
「汚いけど、排出物とか腐敗したものの匂いだね」
「は?」
「こんな所に水が流れるトイレなんて何個もあるわけじゃないでしょう? 大抵はその場で用を足すんだよ。奥の方にはマシな設備があるって話だから、此処全体が匂うってわけじゃないけど」
「はぁ…………。大昔のヨーロッパかよ……」
義父が溜息をつく。まるで疲れ切っているように。
あんた、僕をボコしてスラムから連れ出したとき、真っ先に風呂にぶち込んだじゃん。
「こいつは臭ぇ!」って思いっきり言ってたよな? あと、お湯が傷口にめっちゃ沁みたぞ。
義父さんも、何か考え事をしているかのように頭を掻く。
「お前と会ってから、大分経つな」
「死角から不意打ちしたのに防御された時は驚いたけどね」
「はっきり言って、お前の相手とかめっちゃストレス溜まるわ」
「こっちは一撃くらったらアウトなんだから当然でしょう?」
「うるせぇ。戦闘開始直後からかげぶんしん何十回も積んだような回避率しやがって」
そう言いつつ、攻撃全部掠らせてたよな? 躱し切れない攻撃なんて初めてだったもんで内心動揺したのは今でも覚えている。しかも、こっちの攻撃を飄々と躱しやがて……。
あの時の笑顔ときたら完全に楽しんでいる人間の顔だったぞ。スタミナ切れを起こした瞬間、ボコボコにされて再起不能状態にされ、そのまま連れ去られ、「臭ぇ」と罵倒され……。
一発頭をぶん殴れば気絶しするだろうから、その間に金を盗ればいいと思って攻撃を仕掛けた結果がこれだよ。
「おい、貴様ら。余所者だな?」
声のした方を見ると、そこには筋骨悠々の男が立っていた。
「おい、此処って奥の方じゃないよな? 一発で見破られたぞ」
「運悪く奥の人間が出て来てたって事だね。しかも、親切な事にお仲間もぞろぞろいるよ。親切と言うより心折だな」
「心を折るの方の親切だな。理解した」
眼の前に立っている男以外にも、気配がある。そこら辺の建物にでも隠れているのだろう。
それに、朽ちた看板や物陰にもチラホラ見える。
「持ってるもん置いてけ。そしたら見逃してやる」
「嫌と言ったら?」
「持ってるもんと、貴様らの命を貰う」
「余所者だからっていきなり持ってるもん置いてけとかお前失礼だな。おい、名を名乗れ!」
そう言って義父さんは壁に手をたたきつけた。手で叩いた箇所が凹んでいるのを見て、僕は義父さんから目をそむけた。
男が手を上げると、建物の中や朽ち果てた看板の陰から刃物や赤いシミがついた鈍器をちらつかせる男たちが姿を現した。肥満体系、痩せ形、低身長、高身長、筋肉質、隻眼、隻腕の男など様々だ。
「どうする?」
「面倒だから、別れて逃げよう。薬知ってる奴が居たらすぐに知らせろ」
「はい」
「じゃあ……」
「「あばよ!」」
義父と同時に僕は走り出し、敵が居ない方向へ突っ走る。
「逃すな、追え」
男が言葉を発すると、後ろからいくつもの足音がこちらに向かってくる。
後ろを振りかえる暇なんてない。何としてでも逃げ伸びなければ。
狭い路地裏に逃げ込み、凸凹の壁を登る。
壁を登り切って屋上へ着くと、休むことなく隣の建物に飛び移る。
気分はまるで、某ゲームのアサシンだ。
下を見下ろすと、鈍器を持った男達がウロウロしている。
僕の事を見失ったらしい。このまま様子を見た後に、目標を探す事にしよう。
「はぁい、可愛い僕? 悩み事?」
「実は追われてて……って誰だあんた!?」
いつの間にか後ろにモデルの様な女性が立っており、僕は驚きながら後ろに下がる。
此処で生活している割には、服に一切の汚れが無い。それに、こんな場所には不相応な服装だ。正にどこぞのお嬢様と言ったところか。
「警戒しなくても平気よ? あなた、ただ追われているだけじゃないでしょう?」
「いや大丈夫だから余計なお世「凶薬」……」
「知ってるわよ? 詳しい人」
「いや、あんた怪しいからいいわ」
「そう、残念。いいわよ、捕まえちゃって」
「は!?」
驚くのもつかの間、ドアから5人の男が出てきた。
「おいおい、なんで!?」
「この街にいる全員があなたとあなたの連れの敵よ?」
「どういう事だよ……」
「数年前にね、ある男が此処に流れて来て、この場所に屯する連中を皆叩きのめしたの……。それから、この街は彼の思うがままに動くようになったって訳。支配者ができたのよ、この街に」
「そいつが凶薬の……?」
「ええ、もっとも彼は此処に流れて来た時からその薬を持っていたけど……」
この事は何としてでも義父さんに伝えないとな……。いい情報を貰った。
さて、どうやってこの場を切り抜けるか……。
辺りに視線を配りながら、思考を巡らすが、一向にいい策が見つからない。
此処は屋上。そして下には追手がウジャウジャいる。それに大体ここは4階。
飛び降りようと思えば行けるが、リスクが高いので得策ではない。
「何故あなたに話しかけたか分かる?」
「さあ?」
「あなたに惚れ「マジですか!? じゃあ、お友達から始めていきましょうよ!」……」
「ええ、良いわよ。それじゃあ、こっちに来て。うふふ」
「はいはーい」
女に近づいた瞬間、腹に衝撃が走った。
「は……?」
「バッカじゃないのぉ? あんたみたいな顔が腐ってる駄目男なんかに惚れる訳ないでしょ?」
周囲の男もゲラゲラと腹を押さえながら笑っている。
ああ、嵌められた。やっぱりこいつら人間の屑だわ。
屑を装っている僕とは根本的に違う連中だ。話し合いなんかできる訳ないんだ……。
「クソォ! まさか罠だとは! これだからビッチは! 本当に、これだからビッチは!」
僕は無我夢中で屋上から飛び降りた。
「糞ビッチー、お前の母ちゃんでーべそ! ついでにお前もそれ以上のでーべそ!」
罵声を浴びせながら、重力に引っ張られる。
地面へ着地すると同時に両手を地面へつけ、前転して衝撃を逃がす。
足に何とも言えない痛みが走るが、それを我慢して走り出す。
「クソォ……。健全な男子の心に深い傷追わせやがって……」
プルルルルッ!
こんな時に限って携帯が鳴る。
僕はイライラしつつ、携帯を取り出して応答する。
「はい、もしもし!」
『勇人、出直すぞ。とりあえず車まで戻ってこい』
「はあ!? 迷っちまったからここが何処なんてわからないよ!?」
『いいから脱出しろ! これだけ敵が居ちゃおちおち人探しもできやしねぇ!』
「ああもう、分かりました! じゃあ後程!」
携帯をしまい、とりあえず町の出口を探して走る事にした。
狭い路地を通り抜け、大通りに出ると、ナイフを持った男3人が待ち構えていた。
僕の方へ1人が向かってくる。
僕と相手の距離が腕を伸ばせば届く程になると、男はナイフを突きだしてきた。
向かってくる刃を左へ受け流し、速度を落とすことなく走り抜ける。
後2人、さて……。
「僕って、頭いいな!」
道端にコンクリートのブロックが転がっているのを発見し、助走をつけてブロックを踏み台にし、思い切り跳躍する。
相手2人はこっちの突然の行動により唖然としている。唖然としている2人の頭上を飛び越えて着地するとすぐに足を動かす。
走りながら振り返れば、奴らは追ってきている。しかし、徐々に距離は空いてきているので追いつかれる心配はなさそうだ。
*
暫くは走っている内に、ボロボロの街から脱出した。
僕は急いで車を止めた地点に向かう。
既に義父が待っているのを見て、安心する。
「よう、もどってきたか」
「ああ、なんとかね……」
「とりあえず明日に備えて寝ようぜ」
「え? ちょっと待って学校は?」
「知らんがな、サボれ。お前がサボったところで別に誰も困らないだろ? むしろお前がそこまで大事な存在だったら俺はお前をぶん殴らないといけない」
「あんたの学生時代灰色だったろ。今確信した」
車に乗って席を後ろに倒し、そのまま上着を羽織って目を閉じた。
悪口でお前の母ちゃんでべそとかよく聞きますが、これは性器の肉体的欠陥、奇形を言い立てている悪口なので良い子も悪い子も言ってはいけません。
「言葉は意味を理解したうえで使え、無免許運転するなよ」と中学時代に教師に言われた事を思い出した。