屑を装いながら頑張って生きてます。   作:ロイヤルかに玉

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随分お待たせしてしまいました。
色々と面倒事に追われてしまい、中々書けませんでした。
誠に申し訳ございません。


第16話 エアコン欲しいな……。

「ねえ、そろそろ帰らない? もう無理だと思うんだ」

 

僕は今の状況を完璧に把握したうえでこの提案を持ちかけた。

スラムに潜入し、追い駆けられて撤退してまた潜入し直してのパターンを何度も繰り返して既に数日が経った。今となっては警備が固く、潜入すら難しい状況だ。

これでは凶薬に精通している人間をとっ捕まえるなんて不可能だ。

 

「いや、ここで帰ったら男が廃るってもんだ。お前にだって意地があるだろう?」

「いや、別に授業の単位削ってまで押し通すような大層な意地なんて持ってないよ。というか、本当に帰りましょうよ! 週に1単位の教科ってあっという間に単位切れちゃうんですよ!?」

「ああ、分かった分かった。俺から連絡しておく。特別欠席になるよな? それなら補修受けるだけで済むじゃん」

「嫌ですよ! 僕の安らぎの時間、休日や放課後が無くなるじゃないですか!」 

「我が儘なやっちゃの~。ロマンの欠片もないんか? 後一回でも欠席したら留年確定、もう後が無い! しかし、風邪をひこうが意地でも学校へ行く社畜ならぬ学畜、男の意地を賭けた戦いだ。後悔するか、勝ち上がるかの2つに1つだ ロマンじゃねぇか」

「んなくだらない事にロマンなんぞ求めてたまるか!」

 

まあ、進級に必要な単位は授業の他に、学園に寄せられる依頼をこなすことで獲得できる。

だからやばいと思ったら依頼をこなすといいのだが……。

それでも単位が足りない場合は、長期休業などの間に解決すべき任務を学園が割引価格で引き受けてきた緊急任務で補うことが出来る。

それでも足りなかったら……諦めろ。

 

「にしても、あいつらどうしてあんなに連携取れてんだよ? 自分以外は全て敵って思考じゃないのかよ」

「先日話したあの女から聞いたとおり、支配者が居るって事だよね。しかも、かなりのきれ者だよ。あの連中をまとめるなんてね」

「くそ、面倒くさいな。友人に特撮ヒーロー番組の録画を頼んでおくべきだったな……」

 

義父が頭を掻きむしりながら舌打ちする。そう言えば、もう夏か……。

暑さで自然とイライラしたりバテたりする時期だ。元・道民の僕には厳しいな……。

帰ったら、エアコン欲しいな……。でもお金の問題がぁ……。

 

「しかし、このまま手ぶらで帰るわけにも行かない。俺だって上司が怖いからな」

「ああ、結局それね」

 

大方、何かしらの成果を上げないと減給するぞとでも脅されたんだろうな。

上司にガミガミ言われてペコペコ頭を下げつつ、歯を食いしばり、血管が浮き出ている義父の顔をがすぐに想像できる。

 

「流石にもう無理ですよ。また出直すしか……」

「しかしなぁ……」

 

頭を掻きむしりながら、相当悩んでいるようだ。でも、もう既に何回か失敗しているのでまた出直すしかないだろう。それ以前にたった2人ってのがまずおかしい。

普通なら数人程度でバラバラになって潜伏するもんなのに、なぜたった2人で。

公安0課は人員関係で切羽詰まってるのかよ……。

 

「仕方ねえ、引き上げるか」

「そうしましょう」

 

そう言って助手席に乗り込み、シートベルトを締めると、義父はアクセルを踏んで車を出した。

 

 

 

「おっ、天原。ここ最近、どうしたんだ? 無断欠席で心配してたぞ?」

「やあ、火野。態々僕の心配をしてくれるとは優しいね。惚れてまうやろう?」

「な、何言ってんだよ!? このバカッ!」

 

顔を真っ赤にしながら火野はプイッとソッポを向く。可愛い奴だ。こんな子が増えてくれれば僕は嬉しいけどなー。

チラッと佐々木を見る。佐々木はすぐに僕の視線に気が付いたのか、睨み返してくる。

何か一気に気まずくなったので退散するとしよう。

そう思い、教室の出口へ向かい、差し掛かった瞬間だった。

 

「お前が天原勇人ね?」

 

如何にもお嬢様と言った感じで、高校生らしからぬ美貌と色気を持つ女子生徒に声を掛けられる。彼女の傍にはほぼ同じ顔をした双子の女子生徒がいる。着用しているカチューシャにそれぞれ「や」「ゆ」と書かれている。恐らく見分ける為のものだろう。

女の子から声を掛けられるのは嬉しいが、あんまり良い予感はしないので誤魔化すとしよう。

 

「人違いです。うちのクラスに天原なんて居ませんよ?」

 

それだけ吐き捨て、この場から離れようとするが双子に道を塞がれた。

 

「なんやねん」

「私に嘘が通用するかと思って?」

「いやだって、確認してきたじゃん」

「会話とはそこから始まるのよ」

「とりあえず、この双子ちゃんを退かしてくれないかな? 僕も暇じゃないんだけどさ。あと話しかけんな。碌な事にならないって分かってるんだよ」

「この私が話しかけているというのに随分なものね」

「…………」

何? こいつ。頭おかしいんじゃねえの?

「まさか、私のことを知らないだなんてことは無いでしょうね」

「いや、知るわけないじゃん。興味なんて無いんだから」

「まあ、いいわ。それよりもお前、最近間宮あかりと随分仲良くしてるようね?」

え、何? 間宮と仲良くしちゃダメなの? そんなの人の勝手やん……。

「まあ、それなりにね?」

「そう、別に狙っているとかそんな下心は無いわけね?」

「そんなものあったらとっくに手を出してるよ」

「ならいいわ。それでは」

 

そう言って去っていった。

 

「お前、高千穂と知り合いなのか?」

「初対面、てか誰だよ。話はそこからだ」

「C組の委員長で、強襲科Aランク。父は武装弁護士のお嬢様だ」

「そしてあかりちゃんを付け狙う泥棒猫です」

ぬぅっと背後から佐々木が現れて焦る。あの、佐々木さん? 目に光が……。

てかあいつも佐々木の仲間かよ……。間宮も大変だな。ここまで同性にモテるって……。

魅惑の女の子だ。魅了しているのが女子だけだが。

あれでも、強襲科Aランクなんだよな。

本気で襲ってきたら、一筋縄ではいかないだろうし。

「そうだ、天原は自由履修で強襲科に来るのか?」

「あっ……。どうしよう、まだ死にたくないから行かない方向――「お、天原強襲科にくるんか? よし、手続きしてやるわ。ありがたく思えや」…………」

行かないって言おうとした瞬間、聞き慣れてはいるが聞きたくない声がすべてを決した。

一見すれば大男に見えるが、長いポニーテールが女性である事を証明する。

左手には超大型回転式拳銃・S&W M500が握られている。

そう、蘭豹だ。何なんだよこの人、最近よく僕の前に現れるけど。

エンカウント率高すぎるんじゃないでしょうかねぇ……。何だよ、運命の赤い糸ってか? 

なんで運命の糸が赤いか知っているか? 染め上げられたからだよ……。

何で染めたかは言わないけどさ。

 

「これだけは言わせてくれ、短い人生だった」

 

 

 

 

強襲科棟

 

施設内に入った瞬間、銃声、鈍器や刃物がぶつかり合う音が響く。

至る所から「死ね!」や「お前が死ね!」と聞こえ、耳を塞ぎたくなってしまう。

絶対に入る事は無いと思っていたが、とうとう入ってしまった。

強襲科棟に限らず、諜報科棟以外に入ることになるとは微塵にも思っていなかった。

 

諜報科棟と違う点を挙げるならば、絶え間のない銃声などが常に耳を攻撃する事か。

別の環境に放り出されたら落ち着かないと言うのは本当の様だ。基本的に廊下など、施設の構造は何処も似たり寄ったりだが、この騒音には本当に参る。移動するだけでストレスが溜まるみたいなもんじゃないか。この騒音も慣れれば大したことは無いかも知れんが、世の中にはどうしても慣れない事があるものだ。

 

「あっ勇人君! 来てくれたんだね! こっちこっち!」

間宮に手を引っ張られ、一室へ連れて行かれた。

射撃訓練室といったところか。

「で、射撃が下手な僕を此処に連れてくるなんてどんな皮肉だよ、あかり」

「勇人君、射撃は苦手なの?」

「あれ、言ってなかったけか?」

「私も下手だから大丈夫だよ。練習すれば上手くなるし、今日はアリア先輩が教えてくれることになってるの!」

確かに、神崎先輩の指導を受ければ可能性は大きい。とりあえず、今日は射撃訓練だけして極力殴り合いに巻き込まれないようにしよう。うん、そうしよう。

 

「あかり、お待たせ。あら、天原じゃない。あんたも自由履修?」

「自由履修で此処に来た人いるんですか?」

まさか此処に来る物好きな人がいたとは……。世の中分からないものだ。

「ええ、キンジの事だけど」

「ああ、納得しました」

遠山先輩なら、来ても不思議じゃない。あの人はSランクだったし、それ以前にSランクの腕前があるのによりにもよって探偵科に転科したのが不思議だ。

「アリア先輩! 勇人君も射撃が苦手だから一緒に……」

「あんた、射撃苦手なの?」

意外そうに見てくるが、

「自慢じゃありませんが、発砲すれば10発中10発はターゲットすれすれを通りますよ」

「そこまで来ればある意味才能ね……。いいわ。じゃあ、あなたの銃を見せて」

え? 銃を見せるって……。神崎先輩は当然のように手を差しだしている。

僕、銃持ってないんだけど。いや、持っていると言えばもっているが、必要性が感じられなくなり携帯していない。その代りにナイフを大量に隠し持っている。

「あの、えと、その……。僕、持ってないんです……」

「はあ!? あんた、校則で拳銃・刀剣の携帯が義務付けらてるのに何してるの!?」

「言い訳を聞いてください!えーとですね! どうせ撃っても当たらないんだから、無駄な荷物を減らすために持ってないんです。それに、僕の戦法は煽って逃げながら隙を見つけたらナイフでブスリ作戦ですから銃なんて必要ないんですよ! それに、僕の得意分野は諜報活動と逃走ですからますます銃なんて使いません!」

「言い訳は無用よ! 明日までにちゃんと携帯している事! 分かった!?」

「い、Yes, ma'am!!」

迫力に押されて背筋を伸ばし、敬礼をしながら返答する。

 

 

 

 

「ふーん。そういう事ね……」

神崎先輩が僕の射撃を見ながら納得したように頷く。

どうやら、命中しない理由が分かったらしい。

「神崎先輩、どうでしょうかね?」

「勇人君も撃ち方に癖があるんですか……?」

「そうね、癖って言うのかしら……?」

何だか歯切れが悪いな。結構致命的なものなのだろうか?

「あんた、まず根本的な理由ね。それをどうにかしない限り射撃は向かないわよ」

「え?」

意味が分からない。根本的とはどういう事だ?

「なんて言えばいいのかしら……」

意味が分からなかった。不安って何だ……?

「あんたは銃を使う時にマイナスの要因があるの。それが何なのかまでは分からないけどね」

「要因って……」

銃を使う時に限って……? ますます分からない。

「過去に何かあった? 大抵、根本からの問題って心理的なものだから。トラウマとかが良い例ね」

「いや、別に何もない筈ですけど……」

「それなら、あんたが気づかないうちに要因ができてしまったのね。それをなんとかしない限りどう足掻いて進歩しないわ。自分自身がある意味一生の内で最大の敵よ。でも、結局技術と言うのは自分にとって必要か必要じゃないかよ。自分の意見をしっかり持ちなさい」

「あ、やったぁ! アリア先輩! またスコアが伸びました!」

「あら、すごいじゃない。頑張ったわね、あかり」

神崎先輩が間宮の頭を撫で、間宮は撫でられている猫の様な顔をする。

 

最近になって間宮が可愛く見えてきた……。いかんいかん、間宮ラブ勢に殺されてしまう。

こういう事はひっそりと心の中で思おう。




来月中には終わらせたいな……。
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