予定よりも長くなってしまいました。
「は? 警備? なんで僕にやらせるんですか?」
目の前にいるロリコン、もとい小夜鳴を睨みながら僕は何言ってるんだこいつ? と言った顔をして見せる。
今日、偶々廊下を散歩がてら徘徊していたら小夜鳴に会った。
以前、僕の勝手な言い分でボロクソ罵倒したのにもかかわらず、いつもの女堕としの笑顔をしながら今まで僕に対してとってきた態度を謝罪した。
流石にあれは自分も大人げなかったと思い、こちらも謝罪して互いに無かったことにしようと言う事になった。
そして、警備の話を持ちかけられたと言う訳だ
こいつは、ある公民館を研究の施設として使わせてもらっており、その館のハウスキーパーが用事で留守になるのでその期間だけと言う事でバイトを募集しているらしい。
2人程バイトが見つかったが、後はもう1人警備をしてくれる人が必要とのことで僕に話を持ちかけてきたわけだ。
「警備なら強襲科にお願いすればいいじゃないですか? 諜報員を警備にするなんて正気の沙汰ではありませんよ? しかも僕はEランクですし……」
「いえいえ、あなたの今までの記録を見ると、中々の実績です。だからこそ天原君に……。それに報酬も弾みますよ?」
「グッ、そう来たか……」
実績なんて積んだ覚えないんですが……。
しかし、公民館を狙うモノ好きな泥棒なんて居る訳がない。
それなら楽な仕事かもしれない。
受けてみるか……。どうせ、Eランクじゃ大した金の出るクエストは受けられないしね。
「いいですよ。その話、引き受けます」
「そうですか、では明日にその他諸々の手続きをするので公民館へ来てください。私から特別欠席扱いにするように報告しておきますので」
「分かりました。では、また明日」
そう言って、僕は教室へ戻った。
*
翌日
ここか……。しかし、これは公民館と言うより立派なお屋敷だな。
インターフォンを押し、しばらくすると扉が開かれ、小夜鳴が姿を現す。
「お待ちしていました。こちらへ」
「お邪魔します」
応接室の様な場所に案内され、ソファーに腰を下ろすと、早速仕事の内容など様々な説明をされた。
「そうだ、天原君は検診を受けていませんでしたよね?」
「え? そうですけど、何の関係が?」
「いえ、こちらも仕事を頼んでいる身です。世の中の企業とは、社員の健康を損なわないように物事を定めるものです。アルバイトの様なものですが、あなたは紛れもなく1人の社員です。ですから、常に健康状態など色々と把握しておかなければいけないのです」
「そうですか、それで……。分かりました」
その後、脈を測ったり、聴力など測られ、最終的に採血までされた。
ここまで徹底するものだろうか? まあ、それ程健康に気を使っていると言うのなら中々ホワイトなのだろうが……。
「お疲れ様です」
「どんだけ徹底しているんですか……」
「ははは、仮にも救護科の教諭なのでつい……」
ある意味、この人の性なのかもしれない。それにしても、武偵校の教諭って経歴画凄まじい人ばかりだが、小夜鳴先生の経歴については実際に聞くどころか噂すら聞いた事がない。
前に諜報科のレポートで小夜鳴先生の経歴について記されているものを目にはしたが、諜報科のレポートってガセばかりだから信用できない。
武偵校では、情報科と諜報科にあらゆる情報が集まると言われている。
どちらも似たようなものだが、違う点を挙げるとすれば、信憑性の高さだろう。
「では、明日から警備についてもらいますので、よろしくお願いします」
「分かりました」
今日は特に予定もないし、徒歩でのんびり帰るとしよう。
なんだかんだで結構ここまで遠いな。電車に乗り、すぐに駅からタクシーで来たから実感は沸かないが。さて、歩かなければ日が暮れても到着はしないので、行くとしよう。
こんな所までは来ないが、目に写る光景はいつもと違って見えない。
やっぱり都会だとそんなものだろうか? 高層ビルが立ち並んでいるおかげで、気づかぬうちに感覚が狂っているかもしれない。最初、東京へ来たときは上ばかり見上げていた。
田舎者は上を見ると言うのは本当だった。
「このじじい! こんな所で寝てるんじゃねぇよ! 邪魔だ!」
罵声が聞こえ、声のした方を見てみると、ボロボロの服を着た老人が金髪の男に何度も執拗に蹴られていた。止めに入ろうかと思ったが、それはやめた。老人の目を見た瞬間、その必要は無いと感じた。
「…………」
「くそがっ、うんともすんとも言わねぇ……。ざけんな、こらぁ!」
蹴りを何度も浴びせられる老人、しかしその顔は至って落ち着いている。
歯を食いしばっている訳でもなく、蹴られる怒りにで眉にしわを寄せている訳でもなく、まるで蹴られる以上の事を何度もされて感覚がイカレタ人間みたいな、そんな感じだ。
しかし、これってどちらが悪いのだろうか? 邪魔な場所に立っていた老人が悪いのだろうが、何度も蹴り続ける金髪にも非がある。どっちもどっちでいいか。
「ちっ……」
金髪の男は吐き捨てて早歩きで去っていった。
僕は老人に近寄る。数歩近づいた時、老人の口から初めて声が聞こえた。
「お前さん、ずっと見とっただろう?」
「助けてほしかったの? おじいさん」
「いや、あのような蹴りなんぞ今までの経験に比べれば赤子に叩かれるみたいなものじゃ」
痛がるそぶりを見せることなく、肩を解す老人をしり目に傍に置いてある自販機で2つコーヒーを買う。そして老人に投げ渡す。
「おおっと、ありがたく頂くかの」
そう言って、おじいさんは壁に背を任せて座る。立っていては何とやらなので僕もその場に胡坐をかいた。早速缶を開封して口を付けるおじいさんに僕は確認の為に疑問を投げかける。
「おじいさん、あなたは……」
「そうじゃ、お前さんもあっちの生まれじゃろう?」
「やっぱり分かるの?」
「目を見ればな。人の本質は目にありじゃ」
「頂きました、本日の名言」
流石無駄に年くってるわけじゃないいって事か、長生きってのもいいものかもしれない。
これから僕もこの言葉を使わせてもらおう。
「こっちは極楽じゃのう……。ただの水は飲み放題、飯は小銭があれば食える」
「相当苦労してきたみたいだね。東京の方はやっぱりかなり激戦地帯?」
「そうじゃな、激戦か……。お前さんは何処から?」
「北海道だよ。こっちよりは安全だったよ」
黒い液体を口に流しこむと、その苦味で思わず傾けた缶を元に戻す。
久しぶりに飲んだけど、やっぱりコーヒーとか無理だわ。男なら黙って茶か炭酸飲料だ。
一気に飲み干す僕に対し、おじいさんは味わいながら美味しそうに飲んでいる。
年を取るとコーヒーっておいしく感じるのかな? まあ、それでも僕はもう飲まないが。
「お前さんには見えるか? あの場所を包み込む黒い靄が。この国の負が溜まりに溜まって大きく膨らみ、今にも破裂しそうな膿が」
「いや、見えない。もう気にしないようにするって決めているからさ……」
「そうか、それがええ。もう、あっちに戻ったらいかんぞ。帰る場所があるなら、ちゃんと其処にお帰り」
「ああ、そのつもりだよ。おじいさん、長生きしろよ」
「ほほっ、まだ若い者には負けんわい」
別れの言葉を交わし、僕は再び帰路に着く。
今でも、あっちにも良い奴ってのはいるんだな。もう会えないような気がするが、初対面の相手と少し会話して別れたらそのように感じるだけだろう。
おじいさんと別れて歩いていると、後ろから妙な気配を感じ、振り返る。
しかし、誰も居ない。思い違いか……。
あ~嫌だ嫌だ、今までいろいろありすぎて、とうとう神経質になっちまったかな?
再び歩き出すと、また気配がする。うん、居るわ。確実に誰か、もしくは何かが居る。
この前みたいに狼だったらマジで萎える。
別に人であってもストーカーしてくる時点で関わりたくはないが。
道端に落ちている石を拾い上げ、振り返ると同時に投げつけた。
石ころは丁度、金髪で麒麟と同じ様な改造制服を着ている女子に向かっていった。
この瞬間、僕は「あっ」と思った。いきなり人に石をぶつける奴なんて居ない。
ストーカーに嵌められたらしい。ああ、僕の学校での立場が終わった……。
「おっとっと!」
彼女は軽やかな身のこなしで投石を躱した。中々の回避だろう、お見事。
「危ないな~。女の子に石を投げちゃだ駄目だぞ、理子はおこだぞ! プンプン!」
(うぜぇ……。この人、すげぇ面倒くさい……。もうこいつストーカーで良いかな)
「ストーカーめ、僕が成敗してやる! くらえ、石ころショット!」
石をもう1度拾い上げて、投げつけようとする。しかし、僕の手から石が離れる前に肩に重い衝撃が走り、その場に石を落として痛み続ける肩を押さえる。
「くふふ、原始人さん。生きる時代間違っちゃってるよぉー」
笑顔を見せる彼女の右手には拳銃が握られている。僕が投石するよりも早く、肩を射撃したらしい。防弾制服で助かった……。
「くそっ、もう女だからって許さねぇからな?」
ナイフを取り出すために懐を探るが、ナイフが無い。
「……………………」
「もしかして……。武装し忘れてるのかな? まさか、そんな訳ないよねぇ、武偵の常識だもん~」
「……………………」
「う、嘘でしょうww 武偵が武装し忘れwwワロタww草不可避w」
彼女は笑いを押さえようと腹を押さえるが、それでも笑っている。
「違う、忘れたんじゃない。使わないだけだ」
「だってだってw さっき「女だからって許さねぇからな?」ってw」
「こ、声真似すんなし……」
「まあでも、これならすぐに始末できるな」
突然、彼女の口調が変わった。さっきまでのは「皮を被っていましたよ~」と言わんばかりの豹変ぶりである。ならば、こちらも……。
声のいつもより低く出し、威圧するような声を出す。
「へぇ……。面白い冗談だな……おお? じゃあ、やってみるか?」
「くふふ、君は中々愉快だねぇ。理子エキサイトしちゃう~」
彼女は銃を、僕は腰を落として姿勢を低くし、拳を握って構える。
「「冷めた」」
互いの声がハモルと、構えを同時に解く。
「流石夾ちゃんやジャンヌとやり合っただけはあるね、ゆっくん」
「ゆっくんって……気安く呼ぶなし……。てかあの2人と知り合いって事はあんた、まさか……」
「勿論、そういう事だよ! ゆっくんが考えている事は大正解だよ!」
彼女の事なら齧る程度だが知っている。探偵科Aランク、峰理子先輩。
個人的なイメージとしては、誰にでも股を開く女と言ったところか。
でも、実際こういうキャラって奥手なんだよな。この人がそれに当てはまるかは別として。
「ねえねえ、ゆっくん。少し手伝ってくれない? お仕事のついでとしてさ。色々弾むよ~」
声に色気が含まれて、まるで誘惑の魔女だ。いきなり赤の他人に手伝えってと言うのはどうかと思うが、色々弾んでくれるか……。それに、お仕事のついでって言葉の意味が分からない。聞いておいて損は無いだろう。決して報酬に目が眩んだわけではない。
「…………とりあえず、此処じゃなんですから……。あそこのファミレスででも話しましょうか」
そんな訳で、峰先輩と一緒にファミレスに入った。傍から見ればデートしているようにも見えなくもないが、この人と恋人同士に見えると、この人のファンに闇討ちされそうで怖くなる。まあ、東京は広いしそう簡単に目撃なんてされるわけないか。
「で、何の話ですか?」
「ゆっくん! 理子と一緒にドロボーをしよう!」
「はい逮捕、乙です。犯罪宣言するってあんた中々だな。流石の僕でも真似できませんよ」
手錠を取り出して峰先輩の手に掛ける。犯罪とは未然に防がなければいけません。
武偵の常識です。
「ちょ、ちょっとタイム! まだ詳細を……」
「はいはい、話は尋問科で聞きますよ。僕の代わりに綴先生がね」
「拷問!? せめて警察にしてよ! って、コントはもうおしまい! 早く話に入らせてってば!」
頷きながら承諾し、カギを探すが一向に見つからない。だんだん、峰先輩の目が冷たさを纏ってくる。僕は針金を取り出して、手錠の鍵穴に突っ込んだ。
「すんません、鍵忘れたんでこれで解きますね。解きながら聞くんでどうぞ」
「少し前に、理子がちょぉっとミスっちゃったのが始まりなの」
「先輩でもミスする事があるんですね」
長話だから大雑把にまとめると……。
先輩がミスする→ブラドとか言うやつに大事なものを奪われる→そのブラドが小夜鳴が使わせてもらっている公民館の主だった→ブラドは公民館に峰先輩の大事なものを隠した→そこで遠山先輩と神崎先輩にお願いして館に侵入してもらって取り返してもらうことになった。だから警備のバイトをする僕にも手伝って欲しいとの事だった。
「いいですけど、高くつきますよ?」
「およ? 案外あっさり受け入れたね?」
「いや、別に小夜鳴の事そこまで好きじゃないし」
「あ~なるほど。結局それなのね……」
小夜鳴には申し訳ないが、こちらも生活やらその他諸々が掛かっている。
遠山先輩と神崎先輩に峰先輩、この3人の優秀な武偵が組んだらばれることなく盗みなんて朝飯前だろう。これなら僕が責任を問われる可能性も限りなく0に近い。バイト代と報酬がまとめて手に入るいいチャンスだ。
「それじゃあ、よろしくね?」
峰先輩は小悪魔のような笑みを浮かべながら言った。
翌日、僕は朝早く家を出て、昼飯をコンビニで買って袋をぶら下げながらのんきに歩く。もう夏も近い。そろそろ暑くなってきたが、この時間帯は比較的涼しい。
公民館へ向かう際に散歩も兼ねて歩く。少し冷たい風が頬に当って気持ちが良い。
朝早くに散歩をするのも中々良いものだ。
公民館に着くと、小夜鳴から館内の地図を渡され、館の事を把握し次第、警備に移るように言われた。とりあえず、近い所から見て回る事にしよう。
早速地図を頼りに歩き出すが、改めてこの館の広さを思い知った。昨日は応接室にしか入っていなかったのでそれほどまでとは思わなかったが、この館……めちゃくちゃ広い……。
入らないように言われていたが、話では地下もあるとのことなので相当な広さになるだろう。此処の管理は大変そうだ。だが、逆に1人で此処に寝泊まりするってすごい贅沢だな。
窓を見てみれば、庭もある。此処1人で警備って無理じゃね?
そして、僕の2週間に及ぶバイトが始まった。
後何話で完結するんだろう、この物語。
失踪したと言っても過言でない期間更新してないせいだから長く感じるのだと信じたい。