北極圏周辺に棲息するオオカミの亜種の一つ……だと思う。
ストーカーして襲って来たり、仕事終わりのリラックスタイム中での襲撃など、尽く僕にちょっかいを出してくる憎き相手。犬や狐は好きだけどこいつだけは嫌いだ。
「ねむ……」
昨日から早速警備のバイトをしている訳だが、睡眠時間は僅かしかない。夜は遅く、朝は早く、これを2週間続けるのはきつい。
バイトが終わるころには体が色々と壊れていそうだ。
そう言えば、全然先輩方に会わない。昨日も結局会わなかったし。エンカウント率が低い。
早速、廊下を歩いて見回りをするがはっきり言って暇である。長時間館内を徘徊するだけのお仕事です。簡単そうに見えてかなりきついです。
至る所に監視カメラがあるんだから警備は万全じゃん。僕要らないじゃん。
別に泥棒なんて態々公民館なんかに入ってこないし……。あ、僕が泥棒の協力者だった。
PLUUUU!
「あれ? 知らない番号だな」
「はい、もしもし」
『あ、ゆっくん? 理子りんだよぉ!』
「あんたなんで僕の番号知ってるの!? ストーカー!? そう言うのマジで無理ですから勘弁してください!」
『ちょ、ちょっと! 落ち着いてって、ほら深呼吸~』
「もう落ち着いたんでいいです。それで何の用ですか?」
『えーっと、お目当ての理子の大事な物は地下にある事が分かったの。それで、ゆっくんには念のためにやってもらいたいことがあるのです!』
「なんですか? と言うか地下っていつも小夜鳴先生が居るんですから難易度高いですよ? 言っておきますけど、誘き出すとか無理ですからね。小夜鳴から地下には入らないように言われているので」
『ノンノン! 問題無しだよ。小夜鳴先生が食事を摂っている時にゆっくんには地下に忍び込んでもらって。赤外線の解除をしてもらいたいのです』
「うわっ!? 難易度たかっ!? 僕は不器用なんですよ!?」
そんな機械の操作とか分かるわけない。それに漫画やアニメでよくあるパターンとして、ミスったら取り返しがつかなくなる事が多々あるから余計にそれが重圧である。
『大丈夫だって! PCをちょちょいと弄るだけだから。理子がちゃんと教えるし。キー君とアリアは小夜鳴先生が食事を摂っている時にお仕事があるから、手が空いているのはゆっくんだけなんだよ! そう言う訳で明日の朝、小夜鳴先生が朝食を摂りに行ったらゆっくんも動いてね! 約束だぞ?』
それだけ言うと理子先輩は電話を切った。僕は携帯を懐にしまい、仕事に戻った。
*
翌日
小夜無が先輩方と一緒に食堂へ行くのを確認すると、僕はすぐに地下へ潜り、金庫の前にカメラを設置して映像を峰先輩に送り、小夜鳴が使っていると思われるPCの前に。
これって、DNAのあれじゃないか。小夜鳴って生物学専門なのか、そういえば生物も教えていたな。教師の顔を見た時に文系か理数系か分かる時がないだろうか?
「あ、この人文系だな。そんな顔している」って感じで。
PLUUUU
通話ボタンを押して肩と頬に挟んで携帯を耳に当てる。
「はい、こちら天原。いつでも行けますよ」
『それじゃあ、説明していくからよく聞いててね』
峰先輩が言った通りにマウスカーソルを動かし、クリックをし、言われた通りの番号や文字を入力してENTERを押す。何度もこの作業を繰り返していく。
一括でセンサーを停止させれば楽だが、それだと小夜鳴が用事があって金庫を見る時にセンサーを解除するのでばれるだろうと言う事で、厄介な場所のセンサーだけ解除するために峰先輩はカメラから送られている映像を見ながら厄介なセンサーを解除させている訳だ。
『ゆっくん、急いで。それが最後で良いからカメラを持って撤収して! 小夜鳴先生が戻ってきちゃう!』
「了解」
僕はPCの画面を元に戻し、地下金庫の前に設置したカメラを回収して地下から出る。
すぐに持ち場に戻って何事もなかったかのように振る舞う。
後は先輩方にお願いしよう。
夕方になり、僕のバイトもそろそろ終わろうとしていた。小夜鳴は用事があるとの事で少し留守にすると言って何処かへ行った。その間、僕は例の如く暇なので庭で青いバラを見ながら缶ジュースを飲んでいた。青いバラに夕日、中々映える。
「これで、大金が僕の物に……。ゲへへ」
下衆な笑い声出てしまう。なんだかんだで一瞬だった。さて、それじゃあ峰先輩から連絡が来るのをのんびり待とうかな。
アオオォォォン!
「………………おいおい、マジかよ」
懐からナイフを取り出し、壁を背にして構える。
辺りに広がる茂みからガサガサと音がすると同時に揺れ、何かが居るのを確定させる。
何が居るかはもうわかっている。しかし、なんで此処にいるのかが疑問なのだ。
茂みの中から何かが正体を現した。
先日見た野犬……ではなく、純白の毛色をした狼だ。銀色の毛は夕日に照らされてその輝きを更に増している。
「グルルルル……」
「またお前か……。なんでここに居るねん……」
銀の毛並。これは白銀の世界で生きる生物の毛。気温が低いイメージの地域はアジア。
そして、ここの主であるブラドがルーマニア出身であることは峰先輩から聞いている。
つまりこいつはブラドがルーマニアから連れてきたペットと言う事だ。
「小夜鳴ぃ! ぜってー許さねえぇ!」
僕の怒り咆哮に狼がビクッと体を震わせた。
「あの野郎! 嵌めやがったな! これが狙いだったのか! 道理で先日も襲われたわけだ! 元から僕を始末するつもりで居やがったんだな! 畜生、これだからああいう奴は嫌いなんだよ! いや、例えあいつにそんな気がなくても、ペットの管理ができてねえせいでこっちが迷惑を被っているんだ! どっちにしろ許さねえ!」
「おいクソ犬! 鬼畜クソ眼鏡が何処にいるか教えろやぁ! さもないと「デソ〇ルヒネ」を頭に打ち込むぞコラァ!」
「グルルル……。ガアァ!」
犬に脅しなんぞ通じる訳がない。狼は爪と牙を見せながら飛び掛かってきた。
「いつも通りだな、その攻撃」
サイドステップで躱し、狼に背を見せないようにゆっくりと足を動かす。
狼も後ろに回るように警戒しながら歩く。
隙を見せた瞬間、飛び掛かってくる。どちらが先に気を抜くかの勝負だ。
「って思わせてからの……!」
ナイフで刺す構えをしながら走り出し真正面から突っ込む。
当然狼は跳躍で僕の頭上を通り越す。しかし、狼が頭上を飛び越えた直後に振り向くと同時にナイフを投擲する。投げられたナイフは着地直後の狼の後ろ脚に刺さる。
「へ、ざまあ見ろってんだ!」
狼が唸りながら、飛び掛かってくる。
「OK」
しゃがんで飛び掛かりを躱して、右手のナイフを真っ直ぐに突きだして狼の腹に突き刺す。
「ガアアッ!?」
激痛に狼は地面へ倒れ、足をばたつかせて痛みに悶える。しばらくすると振るえながらも立ち上がり、背を向けて逃げ出した。
僕も狼の後を追い駆ける。相手は手負いだ。見失う事もないだろう。
明かりが眩しい夜の街へ走っていった狼を追い駆ける。
時間帯はもう夜で、人通りも昼よりは少ない。それに狼は人目を避けて逃げているので騒ぎになる事もなかった。狼は開けっぱなしになっているビルの裏口から入っていった。これで袋の鼠だ。
しかし、施設の中だとまだ人がいる可能性があるのを考慮するとすぐに追った方が良いだろう。
「横浜ランドマークタワーか……。いけね、追い駆けないと」
僕も急いで中に入り、血痕を辿って階段を駆け上がる。屋上に続く階段と何かしらの部屋しかない踊り場に出た。しかし、途中で血痕は途切れていた。
周囲を探してもそれらしいものは見つからない。
「くそ、どこ行った!?」
手負いの獣に扉を開けて丁寧に閉める事なんてできる筈がない。
しかしこの場にはいないことは事実。一体何処に行きやがった……。
頭を掻きむしり、考えていると上から「ガシャン」と言う音が聞こえ、咄嗟に上を向く。
やはり上へ行ったか……。場所さえわかればこっちのものだ。
屋上へ続く階段を駆け上がり、扉を蹴る。
勢いよく開かれた扉を過ぎて屋上に出た瞬間。
ビャアアアアアアアウゥィイイイイイイイイ───ッッ!
鼓膜が破けるのではないかと言う騒音と風が巻き起こり、服がバタバタと揺れる。
耳を塞ぎ、目を閉じ、足を踏みしめて必死に耐える。
一瞬の嵐の如く、音と風は止んだ。
「くそっ、何だってんだよ……ッ!?」
悪態をつきながら向き直ると、僕は絶句した。
そこには正真正銘の『怪物』が居た。
今更だけど、なんでブラド戦にぶっこんじゃったんだろう……。
夾竹桃、ジャンヌとGGGに関わってきたのでどうせなら理子とも……と思った結果がこれである。ただでさえ描写が下手なのに怪物とかの戦闘描写って……。もうね……うん。