僕は怠いと思いながら学校へ来た。まだまだ暑いね……。見かける女子は皆夏服である。
何だか周りがうるさい。なんでも名古屋から研修生が来るとか……。
そういえば、名古屋には在籍している生徒の9割が強襲科って言う軍養成学校のような武偵高があるらしい。確か名子女だったかな? おー怖い怖い。
HRが始まり、教師が研修生を紹介した。
男子の目が研修生に向けられる。研修生は日焼けしており、制服も短く、肌の露出が多い。
男子なら誰もが視線を向けるだろう。
「間宮ひかりさんです。仲良くしてくださいねー」
教師がお決まりの台詞を言う。まあ、関わりはないだろうから僕にとってはどうでもいい。
「わー! ひかちゃん!」
「あかり」
「会いたかったよー!」
間宮が間宮に抱き着く。あ、どっちも間宮じゃないか。名前で呼ぶか。
あかりがひかりに抱き着くと勿論、佐々木が衝撃を受けている。
佐々木、従妹は結婚できるからピンチだぞ? まあ、同性だから無理だけどね?
いや、佐々木の事だ、どうせ「従妹は結婚できる。危険!」とでも心の中で思っているだろう。
「ボクも会いたかったよ。あかり」
ほう、僕っ娘か。しかし、僕のストライクゾーンには入らない。僕の鉄壁のゴールキーパーが体を張ってボールを跳ね返した。
話を盗み聞きした感じだと、間宮あかりと間宮ひかりの関係は従妹だ。
間宮には本家と分家があり、分家は名古屋に住んでいるらしい。
まあ、従妹同士積もる話もありそうだし、できるだけ彼女たちからは距離を置こう。
間宮ひかりは女子校の人だから異性が居るって言うだけで中々話づらいかも知れないしね。
先生の言う通り、僕は良くしてやっているよ。(仲良くするとは言っていない)
*
間宮たちが楽しそうに食事をしながら会話している中、その隣のテーブルで1人寂で昼飯を食べる僕。
「ふん、便所飯なんて青二才のやる事だ。僕ほどのレベルになれば、こんなところでも堂々と飯を食べれる」
1人優越感に浸っていると突然、強い風が吹く。
そして、ある事故が起こった。
強い風が間宮ひかりのスカートをめくり、僕の目は捉えてしまった。彼女の下着を……。
「眼福眼福……」
僕は風に感謝しながら飯を食べる。あれ? 僕って立派な変態じゃないか? ああもう、変態でいいや。此処は変態大国日本だし。別に変態である事がばれなければ問題は無い。
「名古女では肌の露出が多いほど箔がつくんだ。『私に防弾布は必要ない。撃たれないからだ』って意味だからだよ」
成程、肌の露出が多い理由はそれだったか。確かに、撃たれなければ問題ない。
やはり時代は回避特化と言う事だ。名古女の連中とは気が合いそうな気がする。
あ、でも女子と仲良くするとかアレだからやっぱり今の無しで。
黙々とご飯を口に運ぶ。
いやー今日はいいもの見れたし、良い夢が見れそうだ。
「ぐへへ……。しばらくはおかずに困らないな……」
「あっ、勇人君! ここに居たんだ! こっちにおいでよ!」
下衆な笑みを浮かべている時、突然あかりから声が掛かった。
驚きつつも僕は平静を装ってあかりの方を向く。
大丈夫だ、顔には出ていない筈だ。いつも通り会話するんだ。
自分に言い聞かせ、間宮たちの方を向く。
なんか、間宮ひかりが僕を睨みつけているんですが……。そして佐々木、その目は何だ?
その「ちっ、面倒な邪魔者がもう1人……!」みたいな目は。
佐々木は置いといて、間宮ひかりはやはり男子には抵抗があるのかな……。
とりあえず、この場を離れる事を考えよう。
「や、やあ。あかり、この後用事があってすぐに行かないといけないんだ。折角のお誘いを蹴っちゃってごめんね? また誘ってくれるとうれしいかな?」
「そうなんだ……。それじゃあ、また今度だね。今度は絶対だよ!」
「うん、それじゃ」
あかり達に手を振り、この場からそそくさと去る。
はあ、やっぱり女子の相手って神経使うな……。今度、知恵袋で女子との付き合い方でも質問してみようかな……。いや、でもどうせ「きもい」とか言われて終わるから無駄かな……。中学の時に散々言われたしな。
むむむ、教室には性格の悪い女子がいるし、トイレに逃げ込むのは負けた気がして嫌だ。
諜報科棟にでも行こうか、どうせ午後からは訓練だしね。
「む、天原殿。久しいでござるな」
「風魔か、何だかこうして話すのは久しぶりだな」
「いつも時間ギリギリに来られるのに今日は珍しいでござるな」
「あ、うん。まあ、ちょいと色々あってね。間宮達も研修生と良い雰囲気だからさ」
「成程、他者を気遣うのは良い事でござる」
褒められたでござる。しかし、佐々木がヒートアップして修羅場にならなければいいんだけど……。
学校からの帰り道、脳内に記憶した今まで見た下着を思い返しながら歩く。
顔に出ないようにしているが、このまま続けたらにやけてしまうだろう。
しかし、ここでやめられないのが男だ。別にこれ以上陰口や罵倒されたってもう大丈夫だし。全く、中学の糞共には感謝している。本当に精神的な意味で強くなれたからね。
「やらないか。ここで『一つ契』ボクはキミが欲しい」
「は!? ヤラナイカ!?」
とんでもないワードが聞こえた気がするが、落ち着け僕。ここは変態大国日本だ。
Gを擬人化させたり、平安時代から獣耳娘ペロペロとか言っている国だ。
逆に考えるんだ、これが普通だと……。
「うん、そうだね。これは当たり前のことだね。さあ、帰ろう!」
あ、でもやっぱり気になるかな? ちょっとだけ覗こう。盗撮するわけじゃないし良いかな?
人の行為を笑うなんて無粋な真似は絶対にしないし。
僕は声が聞こえてきた路地をそーっと見た。
そこにはあかりの頭を掴もうとしているのか、間宮ひかりが手を掛けようとしていた。
「……………………落ち着け。一回目を閉じて一呼吸。そしてゆっくり目を開けるんだ」
目を閉じ、一呼吸おいてゆっくりを瞼を持ち上げる。
しかし、見える光景は先程と全く変わらなかった。
ぎゃあああッ! やっぱりとんでもない現場に出くわしたぁ!?
間宮ひかりは手甲をつけていて、あんな物で頭を掴まれたら痛いでは済まないだろう。
手甲を付けているっていう事は、やはり彼女も接近戦が得意らしい。
おまけに、強力な間宮の暗殺術も持っているので対峙したら一撃も貰わないという条件下で戦わなければいけないだろう。
こうして考えている瞬間にも、間宮ひかりの手はあかりに近づく。
ここで僕が飛び出してあかりを庇えばかっこいいかも知れないが、やっぱりそんな大それたことをする勇気は起きない。お前の名前に勇の字使われてるだろうってツッコまれるかもしれないが、それは小さいころになかなか良いと思って自分で付けた名前だったから勇人と名乗っている訳で、別に勇気ある人になるようにとかそんな思いは微塵も込められてない。
それに、女ってすごく怖い生物だから関わりたくないと言うのもある。
ごめんなさい、後者の理由が主です。
間宮ひかりの手があかりに……触れなかった。
「ちっ!」
間宮ひかりの手に、何処からか飛んできた手錠がかけられた。
「あかり先輩! その女は危険です!」
乾さくらが現れ、ひかりを指さしながらあかりを庇うように2人の間に立つ。
手錠を投げて挟める芸当をして仲間を窮地から救うなんてまるで漫画の世界だな。
「さくらちゃん!? どうしてここに……」
「私は悪の匂いをかげるんです!」
匂いって……犬かよ……。
あかりの後輩はワンちゃんでしたとさ。めでたしめでたし。
いや、全然めでたくは無い。ここは見守るべきだな。
もう1度言うが、女同士の争いって怖いし。変に首を突っ込んではだめだ
「ふっ。可愛い架橋生ちゃん。取るに足らないと思ってたけどお鼻が自慢かい」
「じゃあ、もぎ取ってあげようか」
怪しい笑みを浮かべながら間宮ひかりは言う。
股間の辺りがヒュンとした。ほら、下手に関わらない方が良い。
何されるか分かったもんじゃない。
「投輪遊びが警察の仕事かい?」
間宮ひかりは手にかかっている手錠をグイッと引っ張り……。
「きゃっ」
乾を引き寄せて体当たりをかます。乾は突き飛ばされて壁に激突すると、壁にもたれかかるように座り込む。あかりは乾の元へ駆け寄って安否を確認する。
「どうして、こんな事をするの!? ひかちゃん!」
「ボクたち間宮は強い。だけど今はみんな散り散りのバラバラだ。陰に隠れて生きている。惨めだと思わないか?」
「惨めって……」
「間宮が襲われた理由は陰で技術を秘していたからだ。だからボクは……」
「間宮の技を名古屋女子で公開して最強軍団を作ろうと思っている!」
な、なんだってーーー!?
最強軍団だと!? 最強軍団なんて作ってどうするんだよ……。
他の学校に戦争でも仕掛ける気かよ!?
あかりはひかりに近づき……。
「ど、どう作るつもりなの?」
そうだ。どのような過程で作るのか聞いておいて損はない。
「どうって……。それはその……えーっと、まずは教室を開いたり……そうだ! 部活を作ろう! 間宮部!」
「い、今考えたの?」
「う、うるさい!」
あ……。この子頭が致命的にダメだ。僕が言えた事じゃないけど、流石にそれはまずい。
きっと、間宮も心の中で「無計画だなー」って思っているに違いない。
「とにかく! 皆にすごいって言われるんだ! そしたら入門者もいっぱい来るだろっ」
「そしたら、ボクらは皆、光のなかで生きていける」
あかりは間宮ひかりの言葉に息をのむ。
光って何のことだ? さっき言ってた陰に隠れて生きるっていうのと関係があるんだよな?
間宮の話は過去に聞いたけど、まだ何かあるのか?
本家と分家……。もしかしてゲームや漫画でもよくある話かな?
分家に生まれた者は本家に尽くさなきゃいけないとか設定を見た気がする。
間宮も似たようなものなのか……。
「ボクは分家―――『宵座』間宮の長女として鷹捲を教わった。本家『暁座』の長女 キミと同様に」
「江戸時代、暁座が要人警護や有事の備えをする一方で、宵座は暗殺や諜報ばかりやらされてきた」
「もうたくさんなんだ! 影の中で生きるのは……!」
お、重い……。前に聞いた話と同じ位に重い……。
間宮さん、暗い過去持ちすぎでしょう……。誰か何とかしてやれよ……。
リアルに聞くと信じられないけど、これが現実なんだよな。
ゲームみたいにちょっと活躍してはい仲直り、新しい仲間が増えた!
さあ、冒険これからだ! なんて言う展開には中々ならないだろうな……。
「あの……勇人さん?」
後ろから声を掛けられ、僕は振り返りながら口を開いた。
「済まない。今忙し……ってののかちゃん!?」
用事なら後にしてくれと言おうと振り向くと、買い物袋をぶら下げたののかちゃんが立っていた。
「ははっ……。奇遇だね、こんな所で。今帰りかい?」
「はい、勇人さんはこんな所で何を……」
ののかちゃんが路地裏の方へ目を向けようとすると、僕はののかちゃんの前に立って路地裏が見えないようにする。
い、いかん……。従妹同士で潰しあっているところなんて純粋な女の子に見せてはいけない! 此処は何とか、ののかちゃんをこの場から……。すまん間宮、手を貸す事が出来たかもしれないけどもう無理だ。
「あ、そうだののかちゃん。今日あかりは従妹のひかりさんと遊んでいくから帰るのが遅くなるって言ってたよ。どうせだし、一緒にご飯でも食べに行かないかい? 良いお店知ってるんだ!」
「え、でも……。勇人さんも忙しいんじゃ……」
「だ、大丈夫だよ! さあ、遠慮せずに! 先輩からの好意は受け取るものだよ!」
そう言って僕はののかちゃんの手を取り、足早にその場から立ち去った。
あれ? これってデートじゃね?
次回、天原勇人。人生初のデート……かもしれない。