車の走る音が聞こえ目が覚めると、そこは武偵校へ登校する際に通る公園だった。
太陽の位置で今が昼であると分かる。平日なので人も居ない。車の走る音だけが響いている。
ベンチから体を起こし、水飲み場の蛇口を捻り水を出す。水に口をつけ飲み込むと、少し苦い味がする。公園の水って日によって味が変わっているように感じるのは自分だけだろうか?
「ふう……それにしても昨日は本当に運が良かった」
落ちてくる瓦礫を見て諦めかけたが、一か八かで地面を思いっきり蹴って体を投げ出すようにして避けたら奇跡的に助かった。
その後は急いでビルから脱出し、帰宅途中で眠気に勝てず、そのまま公園のベンチで一夜を過ごした。今が冬だったら凍え死んでいただろう。
「さて、とりあえず帰って…………ん?」
アパートに帰ろうと足を進めようとしたら、ゴミ箱に捨てられている新聞の記事がチラッと見えて足を止める。ゴミ箱に近寄り、新聞を取り出す。そこにはでかでかと「天地氏死亡、露見される日本の闇」と書いてあった。
「ん~何々……」
新聞の端へ目をやり、ゆっくりと読み上げる。
「昨日、レインボーブリッジ付近の廃ビルが突然の爆発により崩落を起こし、消防が出動し、火は2時間後に消された。警察が現場に突入して原因を調査した結果、爆発物によるものだと断定。ビル内には高い支持率を持ち、産業や開発等に力を入れていた天地伸一の遺体が発見された。遺体には腹部、首に刃物で刺された痕、顔には数発殴られた痕の様なものが確認され、殺人と判定された。この廃ビルは天地氏が買収し、施設にするつもりだったと本人も言っており、このビルは天地氏が管理していた。犯人は何らかの手で天地氏を呼び出し、殺害した後にビルを爆破し遺体を処分しようとしたものと見て警察は更なる捜査を行っている。そして、公安0課の天原氏がスラム地域の存在を発表した。天地氏はこのスラム地域の住人に殺害され、スラム地域と政府が繋がっていたと発言している。政府が天地氏に対し不満があり、スラム地域の住人に暗殺を依頼したものとされている。なお、政府は上記の件を否定しているが、証人として数年前に消息不明となっていた葛西幸助氏や飯田明氏等、その他腕利きの政治家として活躍していた数名が『私たちは政府によってスラム地域に落とされた』と発言し、早朝から民間人が国会前でデモを起こしている……」
「仕事早いな……。なるほど車通りが凄まじいと思ったらデモが原因か。てか伸一の苗字って天地って言うのか……」
僅か1日でここまでになると予想していなかった。しかし、ボーっとしている暇はない。とりあえず急いで帰って身支度をしなければ。僕の身元は公開はされていないが、既に判明しているに違いない。いつ差し金が来ても不思議でない。
走ってアパートに帰り、そのまま土足で上がり込んで小さなバッグに必要な物だけを詰めて外へ出ようとしたが、ある事を思いついたので部屋に戻り、用紙とペンを取り出し、紙にペンを走らせる。
『間宮へ、色々あって此処を去ることになった。仲良くしてくれてありがとう。ののかちゃんも元気で』
「あっ、大家さんにも書いておこう」
用紙と諭吉さん数名を封筒に入れ、外に出る。
間宮の部屋の戸の下に封筒を通して中に入れる。
「あかり、ののかちゃん…………元気でね」
それだけ言うと、大家さんの部屋の戸の下にも封筒を通し、一礼をしてから駅に向かって走り出す。
途中で立ち止まり、最後にもう1度アパートの方に振り返った。
「さよなら」とボソッと口に出し、すぐにアパートに背を向けて走り出す。
「さて、とりあえず北海道の戻ってスラムに行こう。姿を隠すならあそこが一番だ」
青森へ行き、そこから特急で函館へ。飛行機は事故ったら即アウトだからNG。
船も事故ったら僕は泳げないからアウト。電車が一番だ。
考え事をしていたら駅が見えてきた。まずは此処から青森へ――
「お待ちください」
呼び止められ、足を止めるとスーツを着た数人の男が僕を囲んできた。
「我々は武偵局の者です。勇人さん、我々にご同行願えますか?」
「申し訳ありませんが、拒否させていただきます」
言葉と共に男の頭上を飛び越えるが、目の前に武偵局の男が何人も立ちふさがってまたもや囲まれ、周りから注目を集めてしまう。
背中が汗をかき、どうするべきか思考を働かせる。
どうやって電車に乗り込もうか……。いや、とりあえずこの状況を脱してからだ。
地面を蹴って、獣のように男たちの隙間を掻い潜り、人が密集している所に逃げ込む。
人混みを掻き分け、ひたすら逃げに徹する。途中で路地裏を見つけ、そのまま路地裏に逃げ込んで隠れた。
通りを見てみれば、まだ武偵局の男を数名見かける。
ほとぼりが冷めるまで此処で隠れていよう。息をひそめて暗闇の中に潜った。
小腹が減り、何か食べようとデパートに入った。
置いてある弁当箱を手に取り、レジで精算する。食事スペースを探している時に、服屋を見かけ、置いてある帽子をみてある事を思いついた。
すぐに帽子を買い、頭にかぶり、食事スペースを探す。
食事スペースを見つけると、誰も座っていないテーブルに座り、急いで弁当箱の中身を口に放り込んだ。
此処で身を隠せばいいだろうと思い、デパートの中を歩く。
平日でもお店って込むんだなと、他人が聞けば当り前だろうと返される事を口に出し、色々なコーナーを見回った。
夕方、僕は警戒をしながら駅の方へ行き、武偵局の男が見当たらないか確認する。
僕は帽子を深くかぶり、帽子のつばを掴んで顔を隠しながら駅へ入る。スーツ姿の男が1人いるが、今なら行けるだろう。
男の動向に気を配りながら切符を買い、改札口付近へ。
「失礼、少しお話をよろしいですか?」
ビクッと体が震え、恐る恐る振り向くと、僕と同じくフードで顔を隠した男が武偵局の男に質問されていた。焦りながら改札口を通り、ホームへ。
丁度電車がやってきて、いの一番に乗り込んだ。
椅子に座ると、帽子を取ってホッと一息つく。窓の外に見える景色を眺めながら、僕バッグからパンを取り出して頬張る。だんだん、見える街並みが小さくなってくる。
今頃、間宮達はどうしているだろうか? 義父も何をしているのだろうか?
覚悟を決めた筈だが、なんだか無性に知りたくなる。
しかし、今ここに彼女らは居ない。携帯で電話を掛ければい良いと思いつき携帯を取り出すが、そんな事をしたら今までの苦労が水の泡になり、決心が鈍ってしまう気がして、通話ボタンを押せなかった。
携帯をポケットにしまい、何も考えずにパンを食べる事にした。
そのパンから、味はしなかった。
パンを食べ終わる頃には見知った街もすっかり見えなくなり、見たことが無い街並みが映る。
携帯で青森へのルートを調べ、降りる駅を確認する。
外は暗くなっており、あれ程込んでいた電車もすっかり人が減っていた。
アナウンスが次に停車する駅を伝え、次で降りなくてはと思い、出口付近に立つ。
電車が止まり、扉が開かれるとそのまま外へ……。
まだ暑い時期だと言うのに風は冷たくひんやりする夜だった。
次の電車は駅が違うので時間が来る前に行かなければ。
駅を出ると、まだ街は人で賑わい、明かりもついている。
駅の場所を確認し、時間も確認、そして下がってきたバックを背負い直した。
人がこんなにいるのにどうして冷たく感じるのだろうか……。
ただ単に、今日は気温が低いのか……それとも……。
「まあ、そうだろうな。寂しい……か……」
これからは……装うだけじゃなく、背負って生きていかなければ。
僕は溜息をつき、人の賑わう冷えた街へと歩き出した。
今日も、僕は頑張って生きてます。
とうとう完結しました。
ぶっつけや急展開、違和感、単純なミスやおかしな文法など沢山ある上に、不定期更新の駄作をご覧になってくれた方々、感想を書いてくれた方々すべてに感謝申し上げます。
ありがとうございました!