何とか間に合い、僕は遅刻をするという事態を回避する事ができた。
鼻歌を歌いながら、教室を目指していると女子が集まってひそひそ話をしている。
ああやってひそひそとしゃべっている連中って大抵性格が悪いよな。
顔もブスなのに心までブスとかフォローのしようが無い。
え? そう言うお前もブサイクだろうって?
僕はただ単に自覚することでメンタルを鍛えているだけだ。
それに、僕の顔は好みが大きく分かれるだけで一概にブサイクではない。
ただこの顔を良い意味で受け入れてくれる、心優しい人がいないだけだ。
悪いのは僕じゃない。この腐りきった世界なんだ。
……僕は何勝手に御託を並べているのだろうか?
自分にツッコミを入れて女子の集団を横切った時――。気になる話が耳に入ってきた。
「ねえ、知ってる? A組の幽霊の話」
「うん、廊下側の空席でしょう?」
幽霊? 廊下側の空席? 何の話だ?
「偶に、好みが大きく分かれそうな顔をした男子生徒が座ってて、気づいたらいつの間にか消えてるんだって……」
「……ただの欠席じゃないの?」
「違うよ。ちゃんと鞄とかも机の横のフックにぶら下がってるのに、姿を消したら鞄ごと消えてるんだって……」
「そんなバカな話なんて……」
…………もしかしなくても、これって僕の事か? 確かに、廊下側って五十音順的に間違いなく僕だし、好みが分かれる顔って……。確実に僕の事だよな……。
*
「最近、僕という存在が忘れ去られている気がする。いや、忘れられてる」
屋上で風に吹かれながら僕は黄昏る。
だって、幽霊扱いだよ? 僕はちゃんと生きてるよ? 足だってあるよ? 殺されるような恨みなんて買ってないし、掠り傷の一つも無しだよ? 確かに、中学の時に鞄を隠されたりとかその他諸々の陰湿な魔の手の犠牲になった事があるからそれ以来、教室離れる時は鞄とか全部持って行ってたけどさ。だからって幽霊扱いってなんだよ……。
一応入学してからそんなに経ってないよ? 僕ってそんなに影が薄いのか?
「まあ、いいや。別に困んねえし」
開き直って漫画でも読もうっと。
鞄から漫画を取り出して寝転がりながら読む。
「やっぱり屋上へ来たのは失敗だったわ」
寝転がりながら呟く。風が強く、ページが勝手にペラペラと捲れてしまう。
今読んでるページは主人公が曲がり角で誰かとぶつかり、そのぶつかった人物が女の子で、次のページには可愛い女の子が描かれているんだが風で捲れて厳つい顔をした女の子のパパがドアップされているページに飛んでしまう。
曲がり角でぶつかって女の子と運命的な出会いをしたと思ったら、その人はいかつい顔をしたおっさんでした。これは絶望するな。
「誰か、風止めてくんねーかな。せめて風よけでも」
天は僕の願いを聞いてくれなかった。
それどころか風はさらに強くなった。漫画のページが次々と捲れていき、僕は漫画を閉じた。閉じた漫画を枕代わりにして頭を預け、目を閉じる。先程まで煩わしいと感じた風も今は心地良い。
此処が草原だったらどれほどに良かったか……。
今度、草原でも探しに出かけるのも悪くないな。
休日の予定が決まった。
「……ZZZ」
*
視聴覚室にて小夜鳴――もとい、ロリコン教師の話が始まった。
僕の中では彼はロリコンなのだ。真実がそうでなくてもそうなっているのだ。
もう1度言おう。彼はロリコンだ。僕の中では。
彼がロリコンじゃないならそうなんだろうな。少なくとも、そう考えている人の中では……。
「今日は、武偵高のカリキュラムについてお話しいたします。武偵高にはご覧のように様々なカリキュラムがあります」
ロリコン教師の言葉と共に、スクリーンに各学科の説明が映し出される。
「クラス分けは、学科をこえた混合となっています。1時限目から4時限目まではそれぞれのクラスで普通の高校と同じように一般科目の授業。そして5時限目からそれぞれの専門科目に分かれての実習となります。強襲科なら戦闘訓練、車両科なら操縦訓練と言った具合です。この時間を民間から寄せられたクエストに使うことも可能です。人探しから要人警護、潜入捜査など様々なクエストがあります。新入生の皆さんも基礎訓練が終われば参加できますよ」
長ったらしい説明の後、ロリコン教師が爽やかな笑顔を振りまく。
また女子共がキャーキャー言ってる。まったくイケメンだからどうした?
欲情するクソビッチ共め。
いいか? 顔なんて三日で飽きるぜ? 男だったら器で勝負だ。
中身ではなく外見で判断するのはいけない事だ。
ロリコン野郎の長ったらしい話が終わり、昼休みに突入した。
ロリコン野郎を煽るのも面白いが、腹が減っては何とやらなので飯を食べよう。
教室に戻り、鞄からお手製の握り飯を取り出して頬張る。
「…………妙に酸っぱいなおい。あ、なんか糸引いてるぞこの白米」
…………やっちまった。完全に腐敗しちまってる。
朝作った時は何ともなかったはずだが……。食べない方が良いのだが、とりあえず腹に何かしら入れておかないと後々きついし……。
これが「背に腹は代えられない」って言う状況なのか?
まあ、鼻摘まんで丸呑みすれば何とかなるか。鼻を摘まんで握り飯を口に放り込み、数回噛んだ後すぐに飲み込む。
「御馳走様でした」
手を合わせて食べ終わりの挨拶をする。さて、5限目が始まるな。学科ごとの授業だっけな。
とりあえず
「うっ……!」
やべぇ、滅茶苦茶腹が痛ぇ……。急に腹痛が襲ってきた……。
いや待て、こうなる事は分かっていたが、いくら何でも症状が出るの早すぎだろう……!
まだ飲み込んで1分も経ってないぞ……!?
ああ、今僕は真っ青な顔をしているだろうな……。
痛てて……。何とか我慢しようっと。学科別の授業はちゃんと受けないと単位が足りなくなって、後日に控えているカルテットと言う嫌な予感しかしない行事を2回も体験する権利を得てしまう。
*
腹痛はなんとかなった。それだけ言っておこう。
「いやー。なんとか腹痛が収まってくれたよ」
風魔が真っ青な顔をしている僕を見て驚いてたが、事情を話すと胃薬を恵んでくれた。この胃薬の効果が絶大ですぐに効き目が表れ、僕の体を腹痛と言う呪いから解放してくれた。今度、彼女にはお返しに10秒飯1週間分をプレゼントしよう。
自転車を漕ぎながらアパートへ戻る。その途中、スーパーの前を通り、弁当買って帰ろうと思い至り、スーパーの中へ入った。
弁当のついでに野菜や卵も買う。今日は特売日だったらしく安く買えた。もしかしたら、今日はラッキーな日だったかも知れない。
しかし、特売の商品を取り合う奥様方には驚いた。何とか目当ての商品を取れはしたが、あの気迫には気圧される。
肩を揉みながらスーパーから出ると……。
「離してください!」
「ん?」
声がした方向を向くと、すぐ近くで一人の女の子が黒服の男2人に捕まって車に連れ込まれているのが目に入った。周りの人は物騒な事に関わりたくないのだろう。見て見ぬ振りをしている。
薄情な連中だな。
男たちは女の子を車に連れ込むと、そのまま発進して行った。
「……………………」
あいつら、仮にも武偵の目の前で誘拐とか肝が据わってんな。
そうだな、今は腹痛が収まって気分が良いから助けてやろう。
自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。黒い車を追って車道に飛び出し、追跡を開始する。
車道のど真ん中を自転車で走るってすごいシュールだな。小さい子がこっちに指指してみてるぞ。
「ママ―、あのお兄ちゃん。自転車で車を追い駆けてるよー」
「しっ、見ちゃいけません!」
「なんだありゃ……」
「自転車のタイヤ焦げてねえか?」
嫌でも周りから注目を集めてしまう。ああ、あんまり目立ちたくないのに……。
しかし、ここまでしてしまった以上後には引けない。
黒い車をひたすら追い駆ける。しかし、徐々に距離が離され始める。それでも何とか引き離されまいとペダルを漕ぐ。
*
暫く車を追い駆けていると、レインボーブリッジ付近の倉庫に停車し、人質を中へ連れていった。2人が倉庫の中に入った事を確認すると、倉庫の前に自転車を止める。自転車のタイヤは既に見るも無残な状態になっていた。
「はあ……はあ……よく……頑張ったな。はあ……僕の自転車。今まで……ありがとう」
息切れをしながらもそれだけ言い、僕も倉庫の中に抜き足で侵入した。
「おい、こいつが間宮の娘か?」
2人の男が人質を囲んでいる。人質は怯えて声も出ないらしい。そう言えば間宮って苗字の奴がクラスにいたような……。まあいいや。どうせ関わんねえだろうし。
さて、まずは人質を何とかしないとな……。
「ああ、次女の方だがな。こいつをエサに長女の方をおびき寄せるぞ」
「でも、間宮っていう家系はそんなにすげえのか?」
「ああ、一族秘伝の暗殺術があるらしい。こいつを売れば儲かるぜ?」
「そうか、じゃあ別に用がなくなったら殺してもいいんだな?」
「まあな」
おいおい、えげつねぇ事するな……。
気配を殺して男たちに後ろから近づく。流石にばれるだろうと思いながらも接近を続けるが、一向に男たちは気づかない。
最早、僕と奴らの距離は手を伸ばせば余裕で届く程だ。どんだけこいつら鈍いんだよ……。
人質の女の子にすら気づかれていないっぽい。僕ってそんなに存在感が無いのか?
まあ、好都合だ。
「どうせ死ぬんだからちょいと遊んでも構わねえよな? お嬢ちゃん、俺たちが女にしてやるよ」
「っ! い、いや! 来ないで……!」
こ、こいつらもロリコンかよ……気持ち悪りぃな……。東京ロリコン多くね?
女の子もマジで嫌がっているぞ。涙目になってるし。
「へへっ」
男の1人が下衆な笑みを浮かべながら、女の子に手を伸ばそうとした瞬間――。
「おいおい、女の子は丁寧に扱えよ」
言葉を紡ぐと同時に男の1人を殴りつける。
「がっ!?」
「誰だ!? いつの間に!」
「お約束の反応ありがとよ」
男に挑発気味な事を言って、女の子の手を引っ張り物陰に隠れる。
「きゃっ」
女の子は可愛い悲鳴を上げるがすぐに黙り込む。
どちらにしろ、人質はこっちの手に渡った。これで盾にされる事はない。
「くそガキが……。いきなりぶん殴ってくるとはいい度胸してるじゃねえか」
男は怒っているようだ。小さい器してるな。やっぱり暴力沙汰は免れないか……。
んじゃま、ゲーセンの代わりにちょいと遊んで行くか。
「お嬢さん。返り討ちに会ったらごめんね。後は神様にでも祈ってくれ」
「えっ」
もしもの時の為の謝罪と同時に、女の子の首筋に軽く手刀を落とし、意識を絶つ。くてっと倒れる女の子をそっと横にして物陰から姿を現して男達に向き直る。
女の子にこんな荒っぽい事を不用意に見せるもんじゃないからね。
「さてと……それじゃ、お手柔らかに頼むよ」
「お手柔らかにだと……。不意打ちしといてよく言うぜ……。それに俺達は育ちが悪いからな? うっかり殺しちまうかもしれねえぞ?」
「じゃ、ここは公平にじゃんけんで白黒つけようか」
「つけるか! くそが、舐めやがって……」
そう言って男は構えを取った。両手を体に引きつけるように上げて、上体をガード。
大きな握り拳に顔が半分隠れている。こいつはボクサーくずれか、どうりで良い筋肉の付き方をしている。ただ腕力に任せるってタイプじゃなさそうだ。
「おっさん、少しは楽しませてくれよ?」
「言ってろ」
瞬間、男が大きく踏み込んで距離を詰めてきた。
「シッ!」
左手のジャブ、中々の速さだが十分避けれる。余裕を持って躱す。
「シッ!」
続いて2発目、これも体を反らして躱す。
こいつは顔に似合わず真面目にトレーニングしているタイプだな。予備動作が全く見られない。
「シッシッ!」
そしてワンツー。きっと本に書いてある通りのスタイルだろう。肩からの直線距離を真っ直ぐに突いてきている。スピードもあって中々良い拳だ。
まともに生きていたらもしかしたら……。いや考えるのは止そう。世の中にルールがあるように、暴力の世界にはその世界のルールがある。僕達はそれに従うだけだ。
「よっと」
最初のジャブを紙一重で躱し、右ストレートを左手で外側に払い落す。
「おらよっと」
同時にカウンターの右手を相手の鳩尾に叩き込む。
「ぐぼあっ!?」
よろめく男。だが、目はまだ生きている。思ったよりタフだな。
もう少し本気で打ち込むべきだったか?
「くっ……やらぁ!」
体を沈み込ませるようにしてダッキングからの――。あ、これフェイントだ。
思った通り、パンチは来なかった。男はそのまま床に手を付き、低姿勢で回し蹴りを放ってきた。水面蹴りと言うやつだろうか? あんまり武術には詳しくないので良く分からないが。
「よっと」
縄跳びをする感覚で、その蹴りをひょいっと跳んで躱し――。
「!?」
着地と同時に低い位置にある男の顎に膝を叩き込む。ついでに、悶絶する背中に肘鉄をくらわせてやった。
「う……が……」
「ボクサーならボクサーらしく拳で来いよ。そんな大振りな蹴りなんて当たらんぞ」
男はそのまま地面へ倒れ込んだ。
「おおっと。オメェが強いのはよーく分かった。だが、いくら強くてもこれが相手ならどうかな?」
男は銃を構えて、僕に狙いを定めている。
「…………」
「大人しく手を上げな。それなら命だけは助けてやるよ」
最後の男が勝ち誇った様な表情で僕を見ながら銃を突きつけるが、僕は構うことなく男に近づく。
大体、銃でビビるなんて幼稚園児までだ。
「く、来るな! 撃つぞ!」
「撃てよ。お前に覚悟があるならな」
「こいつっ……!」
男が引き金を引くが、鉛玉は僕に当らなかった。
「知ってるか? 脅しをかける時は銃を突きつけるより、直接頭に銃口突き付けるかナイ
フを首筋にあてがった方が効果的なんだぜ?」
普通に撃たれても、まだ生きている可能性があるし、相手が外す事もあり得る。だが、頭に銃口を突き付けたり、ナイフを首筋にあてがったら相手に恐怖を植え付ける事ができる。頭や首をやられたら人間は終わりだからな。
単純な話、相手を如何に支配するかだ。
「ほら、狙うならココだろう?」
額にトントンと指を当てる。
「へ……へへっ。悪い悪い。次はちゃんと当てるぜ。死ねやっ!」
「……ふ!」
銃弾が発射されるであろう銃口は僕の額を正確に狙っていた。しかし、銃口から鉛玉が飛ぶより早く、奴の手を蹴りあげた。
「な、何っ!? 化け物か……!?」
「引き金引く直前に死ねとか言ったらタイミングがもろ分かりだろうが。何のために挑発してやったと思っているんだ? お前さんの言葉から射撃のタイミングを読むためだぜ? 大抵の殺し屋が無口なのもそれが理由だ。わざわざ攻撃宣言なんてする訳ねえだろう?」
一度こっちの流れに引き込めば大抵の奴はもう手遅れだ。
こうやって敵すらも支配する。これが本当の戦いだ。
男の顔が恐怖でひきつる。さらに追い打ちをかけるべく、口を開く。
「もう終わりか? 最初のボクサーの方が頑張ってたぜ?」
「うるせえ!」
そう言って男は銃を捨て、近くに落ちている袋から刀を取り出した。
「うわー! 汚ねぇ!」
「勝てばいいんだよ、勝てば」
鋭く光る得物を手にした瞬間、男の眼差しが変わった。構えも随分と様になっている。
なるほど、こいつはこっちが専門か。おもしれぇ。
「随分様になってるな。かっこいいぜ、おっさん」
「野郎に褒められてもうれしくねぇよ」
「それもそうか。いいぜ、来いよ」
男が踏み込むと同時に刀を振る。中々の速さだが、銃弾よりは遥かに遅い。
体を最低限反らして刃を躱すが……。
「そこだぁ!」
男が振った刀をもう1度こちらに振る。2撃目が来るとは予想していなかったが、手はいくらでも打てる。白刃の煌めきが見えると同時にこちらも動く。
「物は試しだ」
ボクサーくずれの男がやって見せたように、体を沈み込ませ、床に手を着いて低姿勢で回し蹴りを放つ。
「なっ……!? バカな!」
足を取られた男が横に倒れると同時に、すぐに立ち上がって男の顎を踏みつけた。
「グハッ!」
顎を踏みつけられた衝撃で脳震盪でも起こしたのだろう。男は呆気なく地面へと倒れた。
中々役に立つな、水面蹴り。ボクサーくずれの男には感謝しておこう。
やれやれ、あんまり争い事は好きじゃないのに……。どうして「楽しませろ」とか戦闘凶みたいな事言っちゃんだろう……。
男の服を漁り、携帯を取り出して警察へ電話をかける。
「もしもし、警察ですか? 先ほど誘拐があったと通報があったと思いますが誘拐犯を発見し、拘束しました。人質も怪我はありません。場所はレインボーブリッジ付近の大きい倉庫です。では、お願いします」
電話を切って、気絶している男達は縄で縛りあげる。ついでに骨も折っとくか。
この辺りの警察って無能が多いし。
気絶している男たちの骨を圧し折り、今だ気を失っている女の子にはジャンバー着せて寝かせておく事にした。今日は冷えるからね。
こういう心遣いが当たり前のようにできて、初めてイケメンだ。
顔じゃなくて器の問題だから。
それが分からないような奴はまだまだだ。
「さて、帰るか」
一仕事終えた僕は帰路に着いた。
前回は地の文や台詞を詰めて書いていたので、今回はスペースを意識してみました。
実際、どっちの方が見やすいのでしょうか?
是非、意見などがあればおっしゃってください。