特殊工作員を養成する学科で、チャン・ウー先生が主任だ。
犯罪組織に対する諜報・工作・破壊活動を主に学ぶ。
あらゆる情報が集まる為、恐らく情報量なら
違う点を挙げるとすれば、ガセが多いと言う事か。
特性上、
もっとも、「死ね」が挨拶である物騒な連中と戦うなど願い下げだが。
突然だが、髭が伸びてきた。まあ、高校生となるともう大人だから髭が伸びてくるのは当然なんだが、流石に伸びすぎじゃないかと思う。鏡を見た瞬間、自分でも引く程だ。
そんな訳で髭を剃る事にした。
ジョリジョリジョリ……。
いや待て、その音はおかしい。そんな音がする程伸びちゃいない。
ソリソリソリ……。
まあ、良いだろう。さっきの音よりはマシだ。
髭を剃り終わり、顎を触って感触を確かめる。いい感じに剃れている様だ。
さあ、今日も元気に学校へ行こう。
戸を開けて外へ出ると、軽く伸びをしてから学校へ向かう。
昨日の一件で我が相棒の自転車「高速丸」は文字通り、誘拐犯車を追跡するために高速移動をしてその際に発生した摩擦やその他諸々の要素で天寿を全うした。
そのため、民間からのクエストをこなして金を稼ぐまで自転車に乗ることはできない。
基礎訓練も終わり、
入学してかなり経ったが、未だに学校は慣れない。もっとも、油断していれば命を落とす日常になど慣れたくないが。
*
担任が来るまで仮眠を取るのもいいが、この騒がしい教室ではそれは無理なので
1人の先輩が紙にペンを走らせていた。先輩が必死にペンを走らせているのを見て、興味が湧いてきた。
「先輩、それって何の紙ですか?」
「学内での異変について、調査レポートを作成しているところだ。多分、お前たち1年生もその内やる事になると思うぞ?」
何とも面倒な事を……。学内で異変もくそもないだろう。
此処には優秀な武偵が何人もいるのだから異変なんて起こる筈がない。
あれ? よくよく考えれば此処って人外魔境か? 入試の際に教官を倒した人とか、狙撃範囲の
話が逸れてしまったな……。それにしてもレポートか……面倒くさいだろうな……。
これが素直な感想だ。
「うえ……。面倒くさそうですね……」
「まあ、ガセ書いても全然OK だから気楽にやりな。なんだかんだでガセが多い事で有名だから」
「…………」
それでいいのか……。チャン先生……。
「そう言えば、お前のクラスの……えーと、
「そう言えばそんな奴が居たような……。いなかったような……」
とんでもない女子が居たもんだな。男子全員ボコるとかどんな鍛え方してるんだろうか?
男子諸君の男としての誇りをズタズタにされて落ち込むのが容易に想像できるわ。
ホント
「お前、クラスメイトの名前ぐらい覚えろよ……」
先輩が呆れた顔で言う。むしろ覚えられてないのはこっちなんですが……。
「おっと、時間だな。お前もクラスに戻った方が良いぞ?」
「そうさせて頂きます」
一礼してその場から立ち去り、急ぎ足でクラスに戻った。
*
放課後になると、学生たちは様々な行動をする。部活、武偵活動、友人と遊びに出かけるなど、実に様々だ。そんな中、1人で行動する事を余儀なくされている僕にできる事はただ1つ、真っ直ぐに家へ帰るだけだ。決して独りではない。ボッチではないのだ。
さあ、帰ろう! 僕の帰るべき場所へ!
「ん?」
夕暮れに染まった町を黒服の男が周りを警戒しながら歩いているのが目に入った。
周りの人々はそこまで気にはしていないようだ。傍から見れば、あの男ただ黒服を着て歩いていると言うだけなのだろう。だが、僕にはどうしても警戒しながら歩いているようにしか見えなかった。これもある意味、職業病と言うやつかもしれない。
だって、気になるんだもん。スキンヘッドにサングラスで明らかにそっちの人の恰好な上に、手にはドラマとかでよく見るアタッシュケースを持っているんだよ?
逆に、周りの人間はよく気にならないな。
いつの間にか、僕は無意識に男を尾行していた。これも職業病かもしれないな。
いいか、別にやましい事なんてないからな?
気になるあの子を追い駆けようとかそんなんじゃないからな?
大体、ヤクザをストーカーするとかそんな斬新すぎる趣味なんて持ってない。
あの男は上手く人混みを掻い潜りながら歩く。それに対抗して、僕も人混みを華麗に掻い潜――れなかった。
痛っ! 足踏まないでっ! ひぃ!? お尻触られたぁ!
背筋に悪寒が走った僕は、急いで人混みの中を獣の如く駆け抜けた。
やっと人混みから抜け出すと、丁度追っていた男が路地裏に入って行くのを見て、慌てて後を追い駆ける。男が歩く速度を速めると、こちらも早歩きをする。
「ヘイ、ボーイ。不思議ノカード一枚1000円、イカガカナ?」
外国人がテレフォンカードをシャッフルしながら話しかけてきた。
よくある光景だな。路地裏に入るとこうやって売りつけてくる外国人がたくさんいる。
修学旅行で田舎から来た学生の諸君は路地裏に入っては絶対にいけないぞ?
って、こんな奴に構ってる暇なんてない、早いところあの男の尾行を続けなければ。
「
「oh……」
外国人は大人しく退いて行った。これで邪魔者は消えたので、尾行に専念しよう。
奴を追いかけている内に、人も少なくなってきた。辺りには閉鎖された建物が立っており、夕暮れなのも相まって不気味だ。そう言えば、夕暮れ時が色々な意味で一番危ないんだっけな。視界に廃工場が映り、男はそこへ入って行く。
あそこはこの辺りじゃ最後に廃棄された工場だな……って怪しすぎるだろう!
いや、一々こんな事を気にしていたらきりがない。今はやる事に専念しよう。
さぁて、お仕事お仕事っと。
正面から堂々と入る諜報員なんていないし……。あ、都合よく窓が開いてるな~あそこから入ろうっと。偶然にも窓が開いているのを発見できた。。
まあ、登れば問題ないか。軽くストレッチをした後、壁の出っ張りを掴み、壁を登っていき、空いている窓から侵入した。
工場内はギャラリーがある体育館のような構造で下のテーブルを男達が集まって囲んでいた。テーブルの上には書類などが置いてある。
機能を停止させ、既に役目を終えている機戒が埃をかぶっている。大きな機械の為、遮蔽物にするにはもってこいだろう。銃撃戦を繰り広げるには最適な場所だ。
尤も、銃撃戦なんてやるつもりはないが。大体、あの人数相手にどうしろってんだ。
それにしても数だけ揃えやがって……。何人いるか数えるのも面倒だ……。
「頭、持ってきました」
「よし、てめえら。とっとと買うやつ探しに行くぞ。もたもたしていたら警察や武偵が来ちまう、3日以内に全部売っちまうぞ」
ボスらしき男の言葉に男たちは頷き、全員が出て行った。
運の良いことに全員出て行ったな……。運命の女神さんは僕に味方をしているようだ。
さて、情報集めて義父さんに報告するか。
ただのEランクが暴力団の調査レポートなんて提出したら違和感ありまくりだろう?
さっきまで男たちが集まっていたテーブルに近づき、置いてあるアタッシュケースの中身を確認してテーブルの上の書類を漁る。
資料1枚1枚に隅々まで目を通す。読めない漢字がいくつかあって頭を捻る。
それにしても、中々規模が大きいな。大きな組織の傘下か?
資料を読み漁っていると、ふとある単語が目に入った。
「薬の資料か……。「凶薬」……? 字からして嫌な予感しかしないが。いや、それ以前にネーミングセンスの欠片が……」
懐かしいな。スラムに居た頃薬漬けにされたっけ……。
いやー、思い出しただけでイライラしてきた。あいつらマジでクソだなー。外道なんてもんじゃないわ。か弱い男の子を数の暴力で気絶させて拷問するとか人間性疑うわ。
過去の事を一々気にしていたって何も始まらない。
「まずは報告だな」
あらかた調べ終わったので書類などは折りたたんで鞄にしまい、外へ出る。
随分調べものに夢中になっていたようだ。辺りは既に薄暗くなっている。
とりあえず、家でレポート書いてから義父さんに渡そう。
三日で売ると奴らは言っていたので、早い方が良いだろう。
*
持ち帰った資料を参考にレポートを作り、誤字・脱字が無いか確認してから義父さんの所へ向かう。
「義父さん、遅くにごめん。ちょいといい?」
「何の様だ? くだらない事だったら東京湾に沈めるぞ?」
なんか酒くせぇな。酔ってるんじゃないか?
「麻薬を密売している暴力団がいてな。奴らは三日以内に麻薬を売り終え、また何処かへ移動し麻薬を密売する予定の模様。バックに大きい組織がいる可能性もあり大変危険。早急な対応を頼みたい。レポートと一緒に資料を渡すよ。確認を頼む」
書類を手に、じっと目を通す義父に補足事項を口頭で説明する。
他にも、奴らの顔など思い出せる限りで説明をする。
「いいだろう。こっちで対応してやる。ちょいと待ってな」
義父さんは自室に閉じこもり、暫くするとスーツを纏った義父さんが出てきた。そして、封筒を差し出してくる。
「仕事分だ。受け取れ」
「いや、依頼でもないのに……」
「お前はしっかりと仕事をした。だからその分支払う。それだけだ」
「じゃあ、遠慮なく貰っておく」
封筒を手に取って、懐にしまう。
「これから出るの?」
「まあな。仕事が増えたんでな。ついでに送ってやるから車に乗れ」
「それは助かる」
車に乗り込み、義父さんがアクセルを踏むと車が動き始める。
しかし義父さん、飲酒運転しちゃってるけど大丈夫だろうか……?
*
アパートに着く頃には0時を過ぎていた。こんな時間に帰ってくるなんてある意味近所迷惑かも知れないな。できるだけ音をたてないように、戸を開ける。
思ったけど、殺風景な部屋だよな……。
家具がソファーぐらいしか無い。折角、良いアパートに住んでいるのだからもう少し、部屋を飾りたいな~。
明日も学校だし、今日はもう寝よう。
大きな欠伸をしながらソファーに寝転がり、目を閉じた。
高速丸 (こうそくまる)
僕が愛用していた古い自転車だ。こいつとの出会いは運命的だった。
中学の時、財布を引っ手繰られて、その犯人が乗っていた自転車がこいつだった。
走って追いかけて犯人を叩きのめして川に捨てた後、戦利品として頂いた。
しかし、昨日の一件で僕による無理強いと色々な要因により、その天寿を全うした。
今はお金を溜めて高速丸・ジュニアを購入する予定だ。