拳銃・刀剣その他の武器を用いた近接戦による強襲逮捕を習得する学科だ。
僕を中等部の連中が潰しあう戦場に放り出した蘭豹が主任。
所属する学生の戦闘力は総じて高く、Sランクの生徒は、特殊部隊1個中隊と同等の能力を持っているらしい。日常的に激しい戦闘訓練があり、犯罪組織のアジトに突入する依頼が来るなど、危険度はかなり高い。卒業時の生存率が97.1パーセントと、約3パーセントの生徒が死亡するため、「明日無き学科」とも呼ばれる。
「死ね」が挨拶である。
僕が近づきたくない場所3位だ。
主任の蘭豹は、かつて香港で無敵の武偵と呼ばれていたらしい。
確かに、この学科の主任に向いている。
今日、いつも通り登校し、いつも通り教室へ行き、いつも通り席に座り、いつも通り担任の長話を聞いて、いつも通り心の中で面倒くさいなーって思い、いつも通り1限目の準備をする筈だった。
しかし、問題が起こった。1限目の準備をするところまではいつも通りだった。
そのままいつも通りに時間が進むと思っていた。だが……。
「にっ二年生の中空知ですッ!」
眼鏡をかけた2年生が教室に入ってきた。
彼女は美人だった。そんな彼女を見た時、できればお近づきなりたいな、なんて思った。
世の中には「上げて落とす」と言う、言葉が存在している。ここまで、この言葉を表したできごとはそう起こらないだろう。
「
その言葉と共に、教室内は沈黙した。誰もが思うだろう。
「
何……だと……?
確かに、少し前に担任がそんな事を言っていたような気がするが……。
どうすればいいんだ? 考えろ、何か手がある筈だ。この絶望的な状況を打破する手が。
この時、僕の頭脳に一筋の閃きが走った。
そうだ、風魔と組めばいいんだ!
彼女程の腕なら組みたいと思う奴が沢山いる筈。自然に人が集まってくるのだ。
そうと決まれば早速誘わなければ……。
確か風魔はC組だった筈……。一限目が開始するまで残り20秒、行ける!
僕は立ち上がると共に、教室を出て風の如く走り、C組に入る。入室と同時に急速眼球運動で教室内を見回し、風魔の姿を見つける。
そして、風魔も元へ駆ける。
「風魔、折り入って頼みがあるんだが……」
「天原殿、如何したござるか?」
「
「申し訳ござらんが、某は既に組んでいる故……。他を当たって欲しいでござる」
「…………はい、分かりました」
確信していた勝利は、自分をどん底へ突き落す敗北に変わった。
僕は項垂れながら、文字通りトボトボとA組に帰っていった。
まさか、既に組んでいるとは……。どうやら、風魔と組んだ奴は随分賢い人間らしい。
いや、感心している場合ではないだろう! どうするんだ!? 希望は粉々に砕けたぞ!?
僕は一体……どうすれば……。
*
ああ、やっと気づいたよ……。僕って、ボッチだったんだな……。
思い当たる節は合った。中学の頃から……。
『はーい。それじゃあ、2人1組作ってー』
普通なら何気ない指示だろう。こっちからすれば絶望そのものだが。
『あれ? 天原君、余ったの? じゃあ先生とやろうか』
『は、はい……。あ、ありがとう……ございます……』
先生と組み、柔軟運動やボールの打ち合いをする。
そんな僕の耳に、下衆な笑いが入ってくる
『おいおい、先生と組んでるぜ? ボッチだな』
『顔もアレだし、当然と言えば当然よねー?』
これが日常だった。僕は体育の時間が嫌になった。こんな不条理な事がいつも起こる。
僕は考えが甘かったんだ。ストロベリーサンデー並に……。世の中の不条理さを、ちっとも理解してなかったんだ。
知ってるか? 1人と独りは、結局同じなんだぜ?
そうだ、ありのままの自分を受け入れよう。
「あれ? 待てよ。やりたくねぇなら、やらなけりゃいいじゃん」
盲点だった。なんで僕はこの事に気が付かなかったんだ?
体調不良だとか適当な事言えば何とかなるじゃん。別に、誰も僕の事なんて気にしないし、誰にも迷惑を掛けていない。そうか、ボッチはとても素晴らしいものだったんだ。
僕は重大な事実に気が付いた。ボッチは素晴らしい。僕は決めたぞ。
近い未来に必ず、『ボッチ教』を作るんだ! そして、教祖となって迷えるボッチ達を楽園へ導くんだ。これが、僕の生まれた意味だ。
こうして、開き直った僕は
*
中々ボッチが居ないな。しかし諦めない。必ず、誰かが助けを求めているんだ。
名前を知らない同胞を救う為、僕は前へ進み――。
「あの、この辺りで蘭豹先生を見かけませんでしたか?」
可愛い女子が尋ねてきた。蘭豹って
「この辺りで見かけたって聞いて……」
「知らね。死んだんじゃね?」
「…………」
無言で女子は立ち去っていった。
これが、僕が中学の時に編み出した技だ。
行方も知らない奴の事聞かれたって面倒くさいだけじゃん? だったら「死んだ」って答えればいい。こうやって答える事で、もう2度と僕に尋ねてくる事は無い。
まともな回答を貰う事が出来ないと分かっているからだ。こうして、他人との接触をこちらから積極的に拒絶する。ボッチならボッチらしく、独りで生きていくんだ。
構って貰えるのを待っていたって、損しかないぞ? 人は1人でも生きていける。
ただ苦労するだけだ。でも、その苦労を苦とは思わなければ問題は無い。
さて、同胞を救いに行かなければ。
歩き出した矢先、面倒な奴が目に入った。
あれは……蘭豹か。このまま素通りしよう。どうせ、僕のような落ちこぼれの屑武偵になんか見向きもしないだろう。平静を装って、素通り――。
「おい、天原」
「げっ……」
よりにもよって声を掛けられた。どうせ、
それで断ったらS&W M500を突き付けられて脅されるんだろうな。もう悟ってるよ。
「何か御用ですか?」
「てめぇ、いつになったらカルテットのメンバー集めるんや?」
蘭豹がこちらを威圧しながら聞いてくる。ここは論破するしかない。
「
退学になったとしてもボッチ教の教祖になる等、武偵以外の道もある。
武偵校を退学しても結局、学力や平和な生活に馴染めず戻ってくる奴らが大半を占める。しかし、僕はそいつらとは違う。馴染む以前に、馴染む気が無いのだ。
「そうか。てめぇ、バカか?」
「え?」
「私はてめぇにな、多少は期待してんだ」
「は?」
何言ってんの? 期待? 僕は強襲科の生徒じゃないぞ?
僕を気に掛ける要素などない筈だ。落ち着け天原勇人。
どうせ、僕を説得するための口実だ。
スラムや中学での不条理を思い出せ。僕は今まで何を習ってきた?
偉い人は言っていた。「自分だけを信じろ」と。
「いやいや、頭でも打ったんですか? 良い医者紹介しますよ?」
スラムには、よくお世話になっていた闇医者がいるので、彼に何とかしてもらえばいいだろう。まあ、法外な額をふっかけられるが。
「てめぇに心配される筋合いはねえよ。まあ、どうせ他の余った奴と合わせるんやからええけど」
「はい…………?」
「ヤダヤダ、絶対にヤダぁ!」
ジタバタと手足をばたつかせて幼児の様に振る舞う。周りが何事かとこちらを見るが、これは自分の身を守るための行動なので恥ずかしさなんて微塵もない。
「じゃあかしィわァッッ!」
「ひぃ! 済みません!」
はい、抵抗も虚しく沈みました。残念!
余った奴と組む? これもこれで最悪のパターンじゃないか。気まずすぎて死ねるわ。
項垂れながら教室に戻ってくると、見慣れない子が居た。可愛らしい女の子で、フリルだらけの改造制服を着ている。
手にはキリンのぬいぐるみを持っているが、キリンのぬいぐるみは何故か不自然に膨らんでいる。きっと、あの中に武器を隠しているのだろう。
そして……。金髪ポニーテールの……えっと、火野だっけか?
随分彼女にベッタリしている。まさか……そっちの趣味が……。
流石武偵校。普通では考えられない事が当たり前のように起きる。
*
「あの、ホントにやらなきゃ駄目でしょうか?」
担任の教師に相談してみるが、当然まともな回答は帰って来る筈がない。
「一年生は強制参加ですからね。体調不良でもやってもらいます。元々、健康管理できない方が悪いのですから」
それを言われちゃ反論のしようがない。何とかサボる方法はないのか……。
一応、最終手段で壁を思い切り蹴って骨折すると言う方法があるが……。
洒落にならない痛みなので、できればやりたくはない。
「余った奴ってどんな人なんですか?」
ここは腹を括ってやろう。せめて……と思い、組む奴の事を聞く。
「
チームとしてバランス良いのか? この組み合わせ。
相手に
「それで、対戦するチームは?」
「それについては当日連絡します。今のうちに顔合わせをしておいてください」
「了解です」
そんな訳で、僕は
「で、君たちが僕と組んでくれる心優しい方々かな?」
「組むも何も、余った奴同士だから心優しいもクソもないかと思うがな」
「でも、3人とも同じクラスだったんだね。探す手間が省けて助かったよ」
幸い、3人は同じクラスだったので1人1人訪ねると言う手間は無くなった。
制服を着崩している明らか不良に見える奴と筋肉がいい感じについている男子が
正にイメージ通りだ。普通の時はとことん普通だな。
不良を
「丁度良かった。実はこちらから伺おうと思っていたんですよ」
「寄せ集めにしては良いチームじゃないか?」
「相手方に
「バッカ、そんな事言うからよりにもよって当たっちまうんだぞ!」
「こうして争っている場合じゃありません。どんなチームにも対抗できるよう、対策を考えねば」
何だろう……。僕が話に割り込む隙が無いんだけど……。
こいつら、本当は仲良いんじゃないの? どうせ、3人しか決まらなくてそこに余り者の僕を入れたってところだろ。くそっ、嵌めやがって……。
覚えてろよ、
狙撃、観測といった遠隔からの戦闘支援を習得する学科だ。南郷先生が主任だ。
狙撃は極めて高い集中力を必要としているらしく、性格的な向き・不向きに左右される傾向が強い。適性のある強襲科の生徒に転科をうながすこともある。
ちなみに、主任である南郷先生は無口で感情に乏しい。
「背後に立ったから」という理由で生徒を負傷させた逸話も持っているらしい。