このスキルの効果はどんなに強力な敵も他人に任せる事ができる。
勇人「逃げられないなら他人に任せればいいじゃない」
「現実では逃げの手段よ」
ピンポンダッシュならぬノックダッシュをして悪戯をする矢先、通りかかった病室の中から名言を唱える女性の声が聞こえた。
思わず足を止め、扉の奥から聞こえる声に聞き耳を立てる。(世間ではそれを盗み聞きと言う)
中からは数人の気配、そして誰かがすすり泣く声が聞こえる。これもまた女性の声だ。
複雑な事情があるのだろうと思い、余計な事には首を突っ込まない為に、その場を立ち去ろうとした瞬間、その病室に入院している人の名札が目に入った。
「間宮ののか」と名札には書かれていた。
「間宮……。毒……そして夾竹桃……」
あの2人の会話が脳内で再生される。
『しかしそれ程、間宮の毒とやらは強力なものなのか?』
『私はただ単に、この世に知らない毒が存在することが許せないだけよ』
合点が行った。夾竹桃は間宮が持っている毒を手に入れるために、間宮の人間に毒を打ち、解毒してもらいたかったら間宮が秘匿している毒を渡せと言う事だろう。
クラスに間宮と言う奴が居た筈……。恐らく、そいつかその家族が人質状態にされているといったところか。夾竹桃……手段は選ばないって事なのか……。
「あんたが隠してるのは、敵の事だけじゃない、自分自身の事も隠してる」
凛とした女性の声が響き、誰かに問い詰めている。
「何もかも隠したまま、なにもかも解決できるの?」
「……ごめん……ごめんね、みんな……。全部、話します……アリア先輩の前で嘘はつけませんから……」
先程と同様に、すすり泣いていた女子の声が聞こえ、その言葉は「覚悟を決めた」と言った感じだった。
「私は元々この学校に入っちゃいけなかった生徒なんです……」
女子が語り始め、病室にいる者は皆、真剣な表情で聞いているのだろう。
僕も彼女の話を真剣に聞く事にした。
*
「お、重い……。間宮の過去が重すぎる……」
率直な感想だ。これ以外になんて言えばいいのか、見当もつかない程に重い話だった。
なるほど、間宮も間宮で色々あったんだな……。不本意かもしれないが親近感が湧く。
『戦時が来たら人々を守るために戦って欲しい』か……。これが間宮とその妹の母が娘へ向けた願いだった。その願いの元、間宮姉妹がまだ幼い内から彼女達に間宮の術を伝授した。
首突っ込まない方が良いな、うん。
「あかり、あんたに初めて作戦命令を出すわ」
「作戦コードネームは「AA」アリアとあかりのAよ」
凛とした声には「必ず戻ってくるように」と言う願いが込められているのだろう。
女性は強く言い放った。
アリア先輩……。14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活躍し、狙った相手を99回連続、かつ武偵法の範囲内で全員捕まえ、その間1度も犯罪者を逃がしたことがないらしい。
正に『完全無欠』の武偵。
恐らく、凛とした声の主は彼女のものだろう。そして、彼女を尊敬し、強くなることを望んでいる間宮あかり。なんだかんだでいい
感慨に浸っていると、扉が開くと同時に何かがぶつかってきた。
突然の衝撃に反応できず、そのまま床に倒れる。
「ぐほっ」
「ご、ごめんなさい!」
「あかりちゃん、急ぎましょう!」
栗色の髪の毛をした小学生体型の女の子が謝罪し、黒髪の女の子が急ぐように促す。2人はそのまま、走っていき、後に火野、そして火野にベッタリしていた改造制服の女の子が続く。
「いてっ、踏まなぎゃあ!」
僕を踏んづけて走り去っていった。
脳内の僕「むしろご褒美だろ? ほら言えよ? 『んほおぉぉおンギモヂイィ!』ってさ」
お前ちょっと黙れ。なんそうやって僕を変態に仕立てあげようとするんだ?
自分自身に変態に仕立てあげられるとか虚しすぎるわ。
まあ、踏まれると同時に「済まない」と聞こえたので別に咎めたりはしないが。
「あ、あんた大丈夫?」
病室からピンク色のツインテールの小学生体型の女の子が声をかけてくる。
先程の凛とした声の主は彼女だ。
「ええ、ご心配なく」
服に着いた汚れを手で払いながら立ち上がり、一礼する。
「初めまして、神崎先輩。1年A組の天原勇人と申します。あなたの噂は聞き及んでおります」
「あら、あかりのクラスメートなのね」
「まあ、口をきいた事はありませんがね。えーと、君が間宮のご家族の……」
目に巻かれた包帯が痛々しく映る。夾竹桃から撃たれた毒とは目に作用するものだったのか。
「初めまして、間宮ののかと申します。……あの、どこかで会った事がありましたっけ?」
「え? うーん、僕は記憶力が悪くてなぁ。多分初対面だと思うよ?」
「そうですか……。聞き覚えがある声でしたので……」
ののかちゃんは少し顔を赤くしながら俯く。
聞き覚えか……。そういえば、携帯電話から聞こえる相手の声はそのままの声ではなく、約2000種類の中からもっとも似ている声質で再生されていると聞いたことがある。恐らく、それのせいかな? これって雑学だな。
「ところで、あんたも額に怪我でもしたの?」
神崎先輩が僕の額に巻かれた包帯を見ながら質問してきた。
「ええ。やむを得ない状況でコンクリートに頭突きをかましたんですよ」
「何があったのよ……」
「あの、勇人さん。勇人さんが怪我したら悲しむ人がいるんですから……自分の事も大事に……」
「え…………」
僕が……女の子に心配された!? 中学時代、同じ班になっただけで女子に泣かれたあの僕が……女の子に心配されただと……!?
唐突過ぎるだろう。開いた口が塞がらないって正しくこれの事だぞ!?
「アンタ、如何したの? ポカンとして」
「いえ、他人に心配されるとか初めての経験なんで言葉を失っていただけです。ののかちゃんの言葉、肝に銘じておくよ。ののかちゃんは優しいね」
悲しむ人か……。義父さんは……いや、絶対悲しまないな。それどころか「どんどん怪我して痛みに慣れろ」とかぬかしてきそうだ。ごめんね、ののかちゃん、僕の周りには人はいないし、居たとしても屑しかいないよ……。
「それにしても、神崎先輩程の手練れグボァ!」
言葉を遮るように、血が口から吐き出され、白い床を赤く汚す。
「ちょ、ちょっとアンタ、如何したのよ!?」
「勇人さん! どうしたんですか!?」
吐血した僕を見て神崎先輩と、尋常じゃない声に驚いてののかちゃんが声を荒げる。
「ゲホッ……。実は僕も……夾竹桃に……毒をで……。うぅ、吐き気が……」
吐き気を押さえながら、鞄から布を取り出して床に散らばった血を拭きとりながら事の事情を離す。布はすぐに真っ赤に染まり、これ以上役に立たないと判断してもう1布取り出して床を拭く。
「勇人さんも毒を……?」
「あんた、なんで誰にも相談しないのよ」
「しないんじゃないんですよ。する人が居ないんです」
「アンタ……ハァ……」
神崎先輩が額を押さえながら溜息をつく。何ですかその反応……。
「これ以上吐いたら掃除が面倒なので、そろそろお暇させていただきますね」
「ちょっとあんた、まさか……」
神崎先輩がハッとしたように僕に言う。この人、鋭すぎるでしょう……。
「いやいや、そんな無謀な事はしませんよ? 帰り道で偶然――って事になっても」
「そう……ならいいわ」
「勇人さん、その……無理だけはしないでくださいね?」
「ああ、ありがとう。今度ケーキでも持ってお見舞いに行くよ。それじゃ、またね」
「はい!」
2人に手を振り、病室から出る。
「あ、ドクター」
「ん? 君は……」
「解毒剤、完成したら連絡くださいね?」
「え……ああ……」
それだけ言って僕はその場から立ち去る。
病院から出れば、外は真っ暗だ。暗い夜道には気を付けないとな。
そして、僕はアパートに帰るために歩き始めた。
*
『親愛なる義父へ。拝啓、花曇の日が続いていますが、ご壮健にお過ごしのことと存じます。とある休日、僕はある卑劣な2人組の襲撃に会い、激闘(一方的)の末、戦略的撤退に成功しましたが、猛毒を打たれてしまい、この命の灯がいつ消えるのか予測も付きません。この事実を伝えるために、帰宅早々に筆を取――っていませんでした。
なんでかって? そりゃ勿論、家に帰ってないからだ。
どうせ、不幸の女神様がセクシーポーズしながら微笑んだんだろうな。気持ち悪ぃ。
レインボーブリッジに差し掛かったと同時に僕は運悪く、尚且つ偶然にも遭遇してしまったのだ。
いやだって、普通こんな橋の上で態々取っ組み合うか? この時間は人が居ないからってそれは……。
気取られる前に物陰に隠れて気配を絶ち、こっそり様子を伺っている。
「お礼を頂戴。こんな所に決戦の舞台を作ってあげたんだから」
そう言ってトランクに座っている夾竹桃が間宮あかりと対面していた。
「ふざけないで! ここは……あたしの思い出の場所なの。犯罪者にいて欲しくない」
橋が思い出って……何があった……。何だろうか? ここで初めて犯罪者でも逮捕したのだろうか?
「私は猛毒。あなたごときじゃ消毒できないわよ」
何かかっこいいこと言ってる……。それにしたって妙だな。なんで間宮だけなんだ?
火野や風魔はどうしたんだ? 間宮が話して隙を作らせている間に強襲でもする気なのか? それなら、今もどこかに隠れて様子を伺っている筈……。夾竹桃、間宮、そしてどこかに隠れている奴の気配、つまりこの場には僕を除いて3人しかいない。
「そのトランク、どこかに高跳びでもするつもり?」
あ、それ僕も気になっていたんだ。マジであのトランクなんだろう?
「イ・ウーでココに押し売りされたのよ。無反動だからって……でも、持ってきておいて良かったわ」
「!?」
そう言いながらトランクから取り出したのは……ガトリングガンだったって、おい待て。冗談じゃ済まないぞ!? ほら、間宮だって後ずさりしてるし!
「あからさまに距離をおくなんて失礼よ」
夾竹桃は間宮に向かって引き金を引く。ここで僕が飛び出して間宮を突き飛ばせば、女の子を救ったヒーローかもしれないが、僕は今防弾制服を着ていない。例え着ていたとしてもガトリングガンの弾なんかくらったら命を落とす可能性が大きすぎる。
助けたいのは山々だが、足は動かなかった。僕だってわが身が可愛い醜い人間の1人なんだ。
そう言って自分を納得させる。
「あかりちゃんっ!」
ガトリングガンから銃弾が放たれた瞬間、黒い髪の女の子が間宮の前に……。
間宮を庇って大量の銃弾に撃たれた。
おいおい、いくら防弾制服でもあんな大口径弾をあんなに喰らったら……。
「あか……りちゃん……」
「っ! 志乃ちゃんっ!」
まだ意識がある志乃と呼ばれた少女は、間宮の手を握りながら話しかける。
「武偵憲章10条……諦めるな。武偵は決して諦めるな。……あかりちゃんは武偵高でのあかりちゃんのまま……武偵であることを……諦めないで……」
そう言った彼女は握っていた手を離して意識を失った。
「志乃……ちゃん……? 志乃ちゃん?……志乃ちゃぁぁぁぁん!」
間宮が倒れてた少女にに縋るように抱き着いて泣く。
「本当は毒に苦しむ姿を見たかったのだけれど……そろそろいいかしら? 行って頂戴……」
夾竹桃が間宮に標準を合わせる。
「…………ああもう!」
地面を蹴って物陰から姿を現すと同時に、夾竹桃に向かってナイフを投げつける。
投げつけたナイフは夾竹桃の足元に刺さり、突然の攻撃に驚いた夾竹桃がこちらを見るが、すぐに先日と同じ様に冷たい目を向けてくる。
「あなた……。毒でとっくの昔に死んでいると思ったけど……」
「感動のシーンだろう? 無粋な事すんなよ」
「そうね……」
以外にも、夾竹桃は引き下がった。
「間宮」
呼んでも間宮は志乃に縋りついて泣いたままだ。
僕は頭を掻きむしりながら、間宮に近づき、胸倉をつかみあげた。
「立て。そいつの言葉を忘れたのか? 悲しむなら目の前の問題どうにかしてからにしろ」
涙を流す女の子の胸倉を掴み上げて一喝する。
「うぅ……志乃ちゃん……」
「あなたが大人しく、私のペットになっていれば、こんな事にならずに済んだわ。あなたは武偵校に来るべきじゃなかった」
「うぅ……」
うわ、精神を折にきたな。
「あなただって、やましい事があるんじゃないの?」
夾竹桃がこちらを見ながら言葉を紡ぐ。
「お前が僕の事をどう思おうがお前の勝手だ。己を理解するのは己だけで十分だ。そう言う理の中で生きて来たんでな」
口論している間に、間宮が立ち上がって、倒れている彼女を見て、決心したかのように涙を拭く。
やっとその気になったらしい。
「少しは手伝うよ。僕も、彼女には用があってね」
「うん!」
そう言って間宮は僕の隣で構えを取る。
「……何それ?」
「……鷹捲」
「そう……そうだったの。あなたも私と同じ毒手使いだったのね。灯台下暗しだったわ。その手に塗っていたのね」
やっと分かったとでも言うようににやりと笑った夾竹桃はガトリングを間宮へと向けてくる。どうやら、僕は眼中にないらしい。これは好都合だ。
「志乃ちゃん……見ててね……」
そう言って間宮は駆け出し、僕も走り出す。ガトリングガンを向けている夾竹桃は弾丸を発射する。
僕は間宮の前に出て、右手にナイフを構える。2人で銃弾の雨に向かう。
「技を打つことに専念してくれ。銃弾の1つや2つは何とかするよ」
「無理はしないでね?」
「へっ、本日2回目の御心配ありがとさんっ!」
ナイフを振って、目の前に迫ってくる弾丸を弾く。思ったよりは衝撃は重くない。これなら処理が追いつく。後はナイフが耐えてくれればいい。
それだけを願いながら、走ると同時にナイフを振り続ける。しかし、ナイフは既にボロボロだ。このままじゃ、持たない。
「間宮、しくじったらごめんな」
もしもの時の為の謝罪の言葉を口にして、弾幕が薄くなったと感じた瞬間、チャンスだと判断して右手のナイフを捨て、左手で懐から投げナイフを取り出すと同時に投げナイフをガトリングガンを持つ夾竹桃の手を目掛けて投げつける。
「っ!」
良し! 上手くいった、運が良いね。
ナイフの刃が夾竹桃の手の甲を傷つけ、一瞬、苦痛で顔を歪ませる。
「後は任せたよ」
言葉と同時に横に身を投げ出し、間宮の前から退く。
「はあああああ!」
間宮の手が夾竹桃のガトリングガンに触れ、ガトリングガンは破壊され夾竹桃の服が破け――
いや、待て。ガトリングガンが破壊された時点でアレだが、なんで服まで……?
衝撃で吹き飛んだ夾竹桃はブリッジ下の海へと落ちていく。
「どうしよう。私……泳げない……」
「っ!」
夾竹桃が海へ落下してすぐに間宮も海へと飛び込み、沈みかけてた夾竹桃を救出する。そして岸へ着くと夾竹桃に手錠をはめた。
僕はナイフを回収し、ガトリングガンに撃たれた女の子の元へ向かう。
「やっぱり、弱装弾だったか」
弾を拾い上げて1人で納得したようにうなずく。彼女の呼吸は苦しそうだが止まってはいないので何とかなるだろう。
「あの……」
声のした方に振り向くと、そこには間宮あかりが立っていた。
「この子は無事だよ。
「ホントっ!? 良かった~」
間宮は倒れている女の子に抱き着いて、涙を流す。
それを見た僕は、肩を解し、毒による苦痛に耐えながらそそくさとその場を去った。
主人公の信条は「他力本願」と「逃げるが勝ち」です。
むしろ、これが主人公本来の戦い方です。