黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
八雲家で食事を頂いて数時間。明日の夜、出発する(私に強制で決められてしまった)。本当はすぐに出たかったのだが、飯を食ってけだの、私と遊ぼうだの、途中から訳のわからぬ駄々を捏ねられ、仕方なく明日の夜に伸ばした。式って、こんなに自由でいいのかな。
そして今目の前に並べられた料理。すいません、この肉なんですか。私食べたくないですよ。
「ん? ただの鹿肉だぞ?」
肉をつついていた私に、藍が口を開く。情報は有難い…でも…
向かいの席でじっと、私だけ見詰めるのやめていただけませんか。食べにくい。
「そうか、なら…」
覚り妖怪かと言われても仕方ないであろう行動。立った…のだが、今度は私の隣へ来た。食べにくい。
「ほら、あーんだ、あーん」
「ち、ちょっと? 流石に食事は自分でできるよ?」
この狐、これがやりたかっただけだろ。
とりあえず食べておかなければ何かやられること確実なので、藍が此方へ向けるスプーンに食いつく。藍の何かを期待するような表情に、美味しいと返しておく。嬉しそうで何より。いや、美味しいぞ? 鹿肉なんて食べたことはないけど。うん、かなり美味しい。このソースとか…
「ん、私の」
「ストップ。それ以上言わないで。もうわかったから」
どれ程共食いがしたいんだ、九尾様。食わせて何か意味があるだろうか。どうせこのソースは藍の…ええ、そうでしょうね。この赤いソースはもうあれにしか見えませんよ。もうこの肉も鹿肉に見えなくなってきた。というか、それよりこの料理を美味しいと思う自分に、改めて妖怪なんだな、と思う。妖怪か…私、なんで食われる側なんだろう。
「…藍。まだ血のこと引きずってたの? 私は雑食だから大丈夫で」
「妖獣は皆人肉を好む。食べない狼戈が異端なんだぞ?」
ちょっと待て。まさか…まさかこの肉……!!
「…まあ、それは本当に鹿肉だ」
先程から籃が私の心を完璧に読んでくる。覚り妖怪なのか、この九尾は。まあ、肉が違うなら安心だ。そうか、人間以外の動物を襲うという手もあったな。鹿に手を合わせ、食べ進める。焼けていないから生…もう何も言うまい。美味しい。
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「くぁぁぁ…!!!」
「お前は狐か?」
藍の部屋でゴロゴロと。明日の夜までは、食事等はあるだろうがやることがない。だから遅くても今日の夜と言ったのだが、式に対する主人の命令だと言われると、対抗出来なくなる。
「ねぇ、私何すればいいの? 御主人様?」
「そ、そその呼び方はやめてくれ…」
おお、照れた。
先程から机に体を向け、ごそごそと何かの作業をしている藍。先程から覗いて見ても反応なし、尻尾を触ってみると巻き付かれて離してくれなかったりで暇な為、口を開いてみた。
「んーと…すまないがまたゴロゴロしててくれ」
「えー、わかった。御主人様」
「次そう呼んだら今日の私の夕食が決まるな」
私ですね、わかります。
程ほどに藍の尻尾で遊んだ後、本棚(?)に並べられた本を眺めてみる。ふと隅っこに猫の絵が描かれた本があることに気付き、手にとる。許可なく見るのも…忙しそうだしまあいっか。
中には猫の絵や生態が描かれていた。時代が時代故か古風だが、中々に詳しく描けている。藍が式になってからは間もないため、粗方紫に貰ったのだろう。私も本欲しい。主に小説。
じっと本(の猫)を見ていると、横目でチラリと此方を見る藍。そしてそのまま固まった。勝手に見てはマズかったかとすぐさま本を戻し、猫を被る。
「に、にゃん」
いや、煩わしいわ。狼の姿して有り得ねぇよ。なんだよ、顔面噴火するぞ。
「ろ、狼戈、お前……猫?」
「…え? 私はおおか……え? えぇ!? 何これぇぇ!?」
尻尾が…耳が…猫!? 猫なの!? にゃぁぁ!!!
これは、私の能力が目覚めた瞬間だった。なんだよ、この拍子抜けな能力解放。
ちなみにその後、藍が私を人形のように離してくれなかった。仕事中、ずっと抱き締められてるんだもん。どうしろと言うんですか。
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「動物の力を宿す」程度の能力。私はそう名付けた。変化するのは頭の耳、尻尾。また、四肢にも変化が現れたりする。今のところ能力を使って妖力が変化したり、ということはない。ただ身体能力は変化する。可愛さや格好よさは良いというかかなり嬉しいのだが、如何せん、戦闘に使える能力では無いかと。
私の能力はひとつだけかな? そんなことを考えながら、ゴロゴロゴロゴロ、藍の座る椅子の背後で寝転がっている。正直意味もないし、暇だしで早く出発したい。これを藍に伝えると、其処にいるのに意味があるんだとこれまた一蹴。何がしたいんだろう。ならまた召喚すればいいのに。
「ね~藍~。暇だよ~」
「仕方ないだろう。もう少し待ってくれ」
「え~でも~」
「尻尾触ってていいから」
「幾らでも待つよ」
安い。私安い。尻尾で釣られるとか私安い。
藍の尻尾に埋もれつつ、戻った後の行動を考える。都にはまず行けない。行けるとしても百年以上が経った後だろう。顔も覚えられてしまっている上、私の妖気は雑魚とは桁が違う(らしい)。下手に行動出来ない。だが妖怪の山に入るのは自殺行為、紅魔館はない。冥界はご勘弁。気ままに回るか、地底へ行くか。地底か…まだ鬼はいないだろうが、恐らくヤマメやさとりはいるはず。行く…か。忌み嫌われ、忘れられた訳ではないけど。なんか即座に食われそうだなぁ…。
ふと藍の尻尾を見詰め、九尾のイメージを頭に浮かべる(藍しか浮かばない)。私の能力の発動条件…それは“姿を思い浮かべ、念じる”こと。簡単で強力にも見えるが、殺傷力等微塵もない能力なのだ。戦闘は避けたいタイプの私は即座に気に入ったけど。
能力を発動させ、頭の獣耳を撫でる。先程の猫のものとは違って大きく、先が尖っている。耳の毛は柔らかい。そして尻尾。これはもう間違えようもない。九つの尻尾。やった、私九尾になった。
「よし、終わっ…」
溜め息混じりに立ち上がる藍だったが、此方を見るなり唖然とし、固まった。能力の説明を藍にした方がいいだろうか。お揃い、嬉しい。
「ろ、狼…戈」
「ん~とね。私の能力はね。動物の力を身に宿す。もうわかるよね」
小さく頷き、フラフラと此方に近付く藍。え、ちょっと待て。まだ夜じゃないし、もう朝も散々…
「わ、私を玩具にしようとか…お、思ってないよね。あはは」
次の瞬間、私の悲鳴が舘に鳴り響いた。
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「本当に行くのか?」
「うん。私の人生、まだまだ長いもの。冒険冒険!! 困ったらいつでも呼んで?」
二日目の夜。出発の直前、散々玩具にした御詫びに、とおにぎりを頂いた。藍が握ったらしいのだが、藍特有の甘い匂いが染み付いており、非常に食べにくそうだ。狼は嗅覚凄いのだぞ…? あの幼女ロリお…萃香は酒の匂い。藍は甘い匂いと…血の匂い。紫は大人びた匂い。匂いを覚えて意味はないが、獣故の性分だ。別にいいや。
おにぎりの入った小包を狼尻尾に掛け、準備万全。さあ、行こうか。
「じゃ、行くよ…やっぱり不安? 嫌だ? 独占したい?」
「…我が儘を言えば」
頷く藍。依存とは怖いな。私の血や肉を気に入ったのか、性格を気に入ったのか、姿形を気に入ったのか、力を気に入ったのか。それまた全て気に入ったのか。それは藍にしかわからないだろう。
「大丈夫、会いたかったら呼べばいいから。ね?」
「…ああ。気を付けて」
「うん。藍の為にも、私は死なないよ」
満面の笑みで藍を励ました後、特製の札へ念じる。その瞬間景色が変わり、以前私がいた空洞へ戻っていた。
「さて、行こうか。妖気渦巻く地中の奥へ」
主人公の能力「動物の力をその身に宿す」。
強そうに見えますが、外見が変わり、且つそれぞれ身体能力等が少し変わるだけ。
凡庸性は高いですが、あまり戦闘に使えるものではないのです(仮)。
ちなみに、能力がひとつとは言っていないのであしからず…