黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
「私の能力は動物の力を宿す。能力を防ぐ力なんてないですよ?」
心を読めないのは何故かと問われても、私に何かを防ぐ能力は無いし、心当たりもない。当のさとりは、動揺するどころか逆に興味を抱いているようだ。それもそうか。生まれて初めて、心の読めない相手に出会った。それは、一度も家から出なかった人が、初めて家を出るのと同じような感覚だろう。
「あーと…あ、あの、それより…」
「あ…ええ、すいません。要件は何でしょうか?」
「はい。私は人間に追われた身。しばらく…地底に住まわせていただきたいのです」
私の言葉に、さとりが少し考えた後、頷く。住むこと自体に問題はないだろう。が問題は…
「…住居、ですか」
「はい…正直旧都に住む気になれないんですよねぇ…」
私の表情から察したさとりが呟く。私的に旧都に住むのは気が進まない。先程やらかした後だし、何より私は一匹狼と言いつつも愛情を受けなければ隅っこで泣き出す弱虫だ。一人は嫌なのよ。まあ、一ヶ月位一人で居なければそんなことはないけど。
一応、紫の屋敷で住む事も出来るだろう(恐らく籃と同じ部屋)。だが行動が制限される上、正直毎日籃といたら私の体が壊れかねない。
「…失礼します」
沈黙が流れる中、お燐がお茶を持って現れた。九尾から狼に変わっている私の姿をポカンと見詰める燐。それよりも、部屋の入り口にいる少女が気になって仕方がない。さとりもお燐も気付いている気配はないし…ならば何故見えるのだろう。私に見えるはずはないのだけれど。差し出されたお茶を口に含みつつ、さとりとの会話を続けようとする。が次の瞬間、お燐がお盆を落とした。
「んにゃ…!? 速効性の猛毒入れたはずなんだけど…」
その言葉に、パニックと化した私はお茶を噴き出しそうになる。お茶が気管支に入り、座っていたさとりが慌てて私の背中を擦るに来る程に、私は酷くむせ込んでいた。そのさとりも、かなり驚いているようだが。当たり前だ。私は妖怪だ、簡単に死んでたまるかい。
「ケホッ、ど、毒って…! 猛毒って…!!」
うにゃ~と冷や汗をかくお燐に少しの殺意を抱きつつ、なんとか体を落ち着かせる。
「お燐…お客様を殺そうとしないの」
「す、すいませんでしたぁ…」
項垂れるお燐。可愛いし、今のところ体調に変化はないため、笑って許すことにした。無論、目が笑っていないということは認めよう。
完全に落ち着いた後に、自分から話を切り出す。
「ま、まぁ…はい。気にしないでください。ところで住居の件、どうすれば…」
「さとり様のペットとして、ここに住むのはどうだい?」
「……お燐」
さとりのジト目に、お燐が堪らず小さくなる。この親子的な関係、少し羨ましい気もする。籃しゃまも、私を子供みたいに扱って欲しい。実年齢まだ十代なのだから。だが…ペット……か。いいかも知れない。だが籃に知られたらなんと言われるか…よし、いっそのこと籃のペットに…やめようか。
「…ところで、そこにずっといらっしゃるのは何方でしょうか」
一度話題を変えようと、私が扉に視線をやりながら話すと、さとりも同じように視線を扉へ向ける。だが彼女から見れば誰もいないようで、首をかしげている。まあ、想像通りだ。
「…さとり様と同じ様な服装です」
その言葉に、さとりがガタッと立ち上がる。ガタッ。そして扉の方を見つめ、その名前を呼んだ。
「こいし…いるの?」
「えへ、バレちゃった~♪ お姉さん、なんでわかったの!?」
好奇心盛ん、興味津々。無邪気な子供のようにはしゃぐさとりの妹。古明地こいしが、私に詰め寄って来た。案外サラッと出てくるものなのだな。
「うーん…私は最初から見えていたとしか言い様がないですね」
その言葉に、お燐は驚きの表情を浮かべ、さとりも少し驚いたような色を滲ませる。こいしは相変わらず興味津々と言った感じか。
「本当!? 凄い凄い!! やっぱりお姉さんの…」
「こいし、やめなさい」
恐らく私よりも遥かに年上であろうこいしに、お姉さんと呼ばれるのは違和感がある。かといって、妹とか、小娘とか言われてもかなり困るけど。
「なんか…燐さんの言った通りで良いかも知れないですね~」
「…え?」
「…にゃ?」
私の言葉が意外だったのか、お燐とさとりが真顔になる。いや、だって一番安全だし、食事も安定しているだろうし。狼はプライドが高い? いえいえ、能力で変えられますから。
そして暫しの沈黙が流れる。かなり痛い。静寂が耳に痛い。私何か変なことを…言いましたけども。
「…ろ、狼戈さんがそれで良いのなら……」
「私的には此処が一番良いんです。下手に動き回るよりも良いでしょうし、私動物好きなんですよ」
私の言葉にさとりが少し微笑んだ。普段から笑わない子故に、心が動き兼ねない。
「私もです。動物は私にとって家族と同じ。そこにいる燐も、ね」
お燐がにゃうと言いながら照れた。何この子可愛い。お持ち帰り…する前にお持ち帰りされてしまいそうだ。燃料として。
話は、私が此処で働きつつ住まわせて貰う、という事で終わった。執拗なこいしの質問攻めだったりが結構あるが、とりあえず住居が決まって一安心だ。ペット…何か空しい気がしないでもない。
▼
地霊殿で飼われている動物。妖気と時を経て、妖怪化した動物は、それぞれ仕事が与えられる。別に動物から妖怪化した訳ではないが。ちなみに、この地霊殿で飼われている動物を舐めてはいけない。猫や鳥、鰐や黒豹まで様々な動物が放し飼いにされている。妖怪の私は、例え相手が黒豹といえど力や知能で負けることはない。というかそもそも争うものではない。
私のお仕事は…あまり無いそうな。仕事に関してはお燐や、まだ会っていないお空。他にも妖怪化した動物達により、しっかりとこなされている。つまり、私は邪魔者居候。さとりの命令や指示には即座に従うつもりでいるし、何かを言われれば即座に手伝う予定だ。
「あの…えっと…」
「ああ、伝え忘れたね。あたいは火焔猫 燐。気軽にお燐とでも呼んでおくれ」
先程まで私を九尾だと思っていたお燐が名乗る。最近思うのだが、私の妖気、普段隠れているのが微妙に残念だ。欺けるのは良いことだが…。まあ、私が強いからとビクビク敬語で話されても面倒なだけだけど。見せ付けてやりたい。ただ、一部の妖怪は気付くようだ。萃香は私が妖気を解放する前からそれらしきことを言っていたし。強者にしかわからないのか…? だが、燐も普通に弱者ではないはずだが……
「私は古明地こいし。さとりお姉ちゃんの妹だよ!!」
こいしはわんぱくで可愛い。無邪気な子供を相手しているようだ。実際無邪気だけれども。話しているとサラッと物騒なことを言うけれども。
「さ、ここが狼戈の部屋だ。入って入って」
案内された部屋は、とても一人部屋には見えない、豪華な部屋。ベッド、机、ランプ…様々な物が取り揃えられている。
「わ、私にこんな良い部屋は似合わないです…」
「遠慮せずに♪ ほら、入って」
「きゃう!?…きゃぅぁ!!」
お燐に突き飛ばされるように入り、更にそこから転び二連悲鳴を上げる。睨み付けてもお燐は吹き出すのを堪えているし、こいしに関しては自重もなしに笑い転げている。さとりに言い付けてやろうか。
…中へ入ると益々豪華だ。本当に、いきなり来ていきなり住む私なんかに渡していい部屋なのだろうか。
「じゃあ、あたいはちょいと仕事があるからね。ゆっくりしてるといいよ」
「私も行くね。じゃあね~♪」
こいしは何をしに行くのだろう。あれも無意識だろうか。
とりあえず休憩したい。そんな気持ちから、ベッドへ仰向けにダイブした。その結果、何かが手首を掴み、身動きが出来なくなる。その瞳は光っており、怒りの感情を感じた。
「狼戈ぁ…? 私を完璧に無視とは、いい度胸だねぇ…♪」
ああ、そういえば叩き起こした後のヤマメの存在を忘れていた。そんな事を言ったら食われること確実なので、適当に言い訳を探して見る。
「…ご、ごめん…なさい……」
言い訳なんてなかった。
乗し掛かられ、手首を頭上で拘束されつつも謝っている為、説得力が無いやも知れぬが、どうやら私とさとりとの会話の途中で抜けていたらしい。いつの間に…!!
「それなりの」
「尻尾でいいですか」
ヤマメの言葉を先読みし、一言告げる。その言葉にビクッとするヤマメ。よし…これは勝てる。
「わ、私を尻尾で釣れると思ったら…」
その言葉にニヤリと微笑む。見せ付けるように尾をブンブンと振り、ヤマメの表情を見る。とても地底に追いやられるような妖怪には見えない。真っ赤になって震える様は子供のようだ。私より身長高そうだけど。
「…モフモフ?」
「モッフモフ」
魅惑の尻尾。モッフモフ。この誘惑に勝てる者は中々いまい…フフ。え? モップ? 掃除してあげようか。体の中まで。
尻尾をつつき始めたヤマメを尻目に、明日からのことを考える。さとり達に召喚の事は伝えたから、まあいきなり消えても大丈夫だろう。それで一週間戻らなかったら食っていいよとお燐を使って説得したし。ああ、食われる…勘弁……でも、お燐の場合燃やしそう。
「むぎゅー」
ヤマメの笑顔と言葉に心を揺らされ動かされつつ、ベッドに倒れ込んだ。
また明日。頑張ってお手伝いでもしよう。そんな事を考えながら。
ああ、いつになったら離してくれるんだろう。この土蜘蛛。
さて、ひと区切り。
二章(上)終了です。二話っていうね。短いね。
次回、短編を二話挟み、二章(下)です。
ちなみに短編ですが、飛ばしていただいて構いません。
内容?…フフ、お楽しみです。