黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
此方も読み飛ばしていただいて構いません。
このままずっと…永遠に……
「どっちかを決めろ」
玉藻の豹変ぶりに、思わず体をビクンと強ばらせる。今にでも押し倒して来そうな距離で声を荒げる玉藻の顔は、少し赤くなっているような気がした。まさかと思ったが、私に札は貼られていない。
「玉藻…おかしいよ……何故、何故そうまでして…ぅぁあ!?」
「私の質問には、はいか、いいえで答えてくれないか」
突然の行動に、身構えていなかった私は成す術なく壁に叩き付けられる。例え負傷していようとも、相手は九尾。所詮狼の敵う相手ではない。両肩を両手で押さえられ、私は抵抗出来ずにいた。その力と、表情を見て。
「答えは?」
…ダメだ。怖すぎる。私に…私にはそんな勇気も、度胸も、何もない。もう…無理だ。玉藻の手を振りほどき、洞穴を出ようとした…その時。
「きゃう!?」
入り口で見えない何かに道を阻まれ、通る事が出来ない。これは…結界…!? 一体いつの間に…
「悪い狼だな。逃げようとするなんて」
「ひぅ…!!」
気付けば、すぐ背後から声がする。一か八かで結界に体当たりする。
私の抵抗は空しく、バチッと電流のような痛みが走る。息を荒げ、もう一回と身構えた時、私の肩へ細いものがふたつ絡み付いた。
「何故…逃げるんだ?」
「い、いや…!! 離して…ッ!!」
腹を狙って突き飛ばしたつもりが、私の腕は空を殴り、その腕には尾が巻き付いて身動きが取れなくなる。そのまま強引に地面に伏せられ、その上へ玉藻が乗しかかった。腹に馬乗りにされ、両手首は頭上で拘束されている。足は動かしても意味はなく、尻尾を振り回しても些細なダメージも与えられない。
どれだけ抵抗しても、力で勝てる気配はない。ならばと妖気を解放し、球体を作り出す。それを玉藻目掛けて飛ばす。
「…大人しくしろ。精々玩具にするだけだ」
「嫌だよぉ…!! 離して…ん…ぐ…!?」
妖気の塊は難なく避けられ、代わりに口を口が塞ぐ。抱き締め、口を奪い、生を奪う。この簡単な事に、私は完全に怯えていた。私を玩具としか見ない欲望の塊を相手に。
「そんなに怯えなくてもいいじゃないか、狼戈。やっと…仲間を見付けたと思ってたのに」
次の瞬間、私の服が破れる。いや、破られたのだ。露出した素肌を庇うように尻尾を巻くが、玉藻の尻尾と絡み、動かせなくなる。もう…後がない。仲間? 何が…何が仲間なのだ…。私はただの玩具ではないか…ッ!!
「もう、お前は私のもの…さあ、もう逃げられないな」
▼
「ぁ…ぅ」
液に濡れ、少しの力も入らない体。自身の意思とは関係無く、ビクビクと痙攣する。九尾は傍らで座り、私の顔をじっと見ている。私の虚ろな目に映っているのは、もう元の綺麗な玉藻ではない。ただの…塊だ。
「このまま食い殺すのもいいが…」
私は反応すら出来ない。既に衰弱しきっており、私の意思とは関係無しに妖気が体を治しに掛かっている。余程危険な状態なのだろうか。自覚はない。
「決めた」
いっそのこと、そのまま食い殺してくれ。そう考える程に、精神的に私は弱りきっていた。だが、玉藻からは、最悪の言葉が出ていた。
「私が…飼おう」
今まで反応しなかった体がビクッと震える。それは痙攣では無く、本能か危険を察知した時に起こる震え。恐怖から起こるだった。それに反応したのか、玉藻がニヤリと私を見る。
「狼戈。私は…」
お前を愛そう。そう告げた化け狐の顔には、もう玉藻の面影は見えなかった。
▼
「二人共、ご飯だぞ」
「わかりました~!!」
「ちょっと橙、私が先だよ?」
「こら、喧嘩するな。ちゃんと二人分あるから」
端から見れば、幸せな者達。全てを知れば、悲劇の狼。それを知るのは、もう九尾のみ。
全てが崩壊した狼にとって、その暮らしは幸せにしか感じられなかったのかも知れない。
崩れたのは、関係か、記憶か、幸福か、生命かーーー。
「愛してるぞ、橙…狼戈」
「私も!! 藍様♪」
「私も…大好き」