黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
十五 空とトランプ
ヤマメと別れて数時間。私物の整理(と言っても何もない)をし、籃から貰ったおにぎりを食べ、今に至る。私の体内時計は…だいたい正午あたりか。出発が夜、そして今まで色々やっていた為…うん、恐らくその辺りだろう。
机に向かい合って色々いじくってみたり、ベッドの下に隠れてみたりと意味不明な行動を繰り返していたせいか、暇で仕方ない。いや、暇だからそんなことしてたんだけども。
今はベッドの上で、猫の様に丸まって寝ているが。遂にやることがなくなった。
「やっほ~。遊びに…おやおや」
丸くなる私を見て寝ていると思ったのか、起こすことはせずに燐がベッドの隅に座った。この雰囲気、とても出にくい。どうするべきだろうか。
「うにゅ…この子が狼戈?」
「ああ。可愛い寝顔だろう?」
可愛い声がする。この声は…空だろうか。というか可愛い寝顔って…この子って…
「…きゃうぁ!?」
不意に尻尾を掴まれ、思いきり跳ね起きる。敏感な尻尾を不意に触られるとどうなるか、仮にも猫の燐ならわかるはずなのに。痛い。
「びぃ…びっくりした…お、お燐と…」
「霊鳥路 空。皆からはお空と呼ばれてるけどね」
燐が紹介すると同時に、空がじーっと此方を見つめる。私の顔に何か付いているだろうか?
「私は咬音 狼戈。流浪の一匹狼…今は違うけどね。好きに呼んでね」
「…私、狼初めて見た」
空の意外な言葉に、おおと小さく声を出す。地霊殿にはいないのか…
「どう? 狼を見た感想は」
いや、正確にはわからないけども。私が狼の妖怪とは限らないし。それに、妖怪だから実物ではないし。そして何より…
この子、かなり可愛い。真っ直ぐな瞳、綺麗で長い髪、幼い顔立ち。でも身長がかなり高い。紫とそこまで変わらない…いや、紫より高い気がする。燐も低くはないけれど。
「可愛い!!」
「うわっ!? ち、ちょっとお空。いきなり抱き付くのはひぅ…」
尻尾を鷲掴みにされて力が抜ける。燐は笑うばかりで助けてくれない。誰か、誰かこの鳥どうにかしてくれないですか。いや、くすぐったい。脱力感半端ない。というか狼を見て可愛いとは。貴女普通の人間だったら死んでるよ。
「と、ともかく。何か用かい?」
「暇だから遊びに来ただけさ」
この猫と鳥は何がしたいんだ。可愛いけども。来てまだ間もないというのに…だからこそ来てくれているのかも知れないけど。
ヤマメのように離れてくれない空にデジャヴを感じつつ、私の部屋に何か遊べるものは…と探すが、何も見当たらない。トランプでもあればいいのだが…
「…ふぇ?」
そう思った矢先、目の前にポトンと何かが落ちた。透明のケースに入った、可愛らしいトランプ。突然の事に唖然とする。
(ははぁ…あの神様が気を利かせたのかな…?)
そんなことを考えながら、トランプを広いあげる。三人…三匹? せめてもう一人誰かがいればいいのだが…三人で出来るトランプか。大富豪やババ抜き…ここは無難に。
「よし、ババ抜きしよう」
「ババ抜き?」
ジョーカーのカードを一枚抜き、シャッフルをかける。その一連の流れに目を輝かせる空。ただのシャッフルにも興味を抱くか…幻想郷、あまりこういうものはないのか? いや、それ以前に時代が時代か。
不思議そうに眺めていた空と燐、そして私にカードを配っていく。見せたら駄目だよと念をおしつつ。まだ、全員のカードは伏せている。
「これは、互いに引き合った、二枚の数字か字の揃ったカードを出していくゲーム。で、一枚だけジョーカーがあって、それを最後に持っていた人が負け。う~…説明するのは難しいね」
大雑把な説明故に、空が理解出来ているのかが心配だ。天然で裏表のない、素直な子。代わりにちょっとおバカ。そこがまた可愛い…私、もう手遅れな気がする。百合的に。
「つまり、ジョーカーを自分が持たないようにしてればいいんだね?」
「そう。で、もし持ったとしても、如何にそのことを隠すか、それも要になるよ」
説明も程ほどに、一斉にカードをめくる。私にジョーカーは…無い。燐と空は真剣にカードを見詰めており、その表情からはどちらが持っているかはわからない。あ、これ、もし今此処にいたらさとり様最強じゃね? 私の心は読めないからそうでもないか。
「はい、数字と文字の揃った奴は出してね」
ポイポイと置かれるカードを纏めていく。なんと、空が1枚。ちょいと空、羨まし過ぎる。
「折角だから、何か賭けようか」
「ん…何を?」
「一番に抜けた人が、最後に残った人に、ひとつ命令をする。どうだい?」
「…いいよ、受けてたつ」
「うにゅ?」
私と燐の間で火花が散る。絶対負けない等と言うと死亡フラグになること確実なので、まぁ適当に頑張ると言っておこう。ところで、空をお持ち帰りしていいだろうか。
空が私から引き、私が燐から引き、燐が空から引く。まず最初、空のターン。まあ、そう簡単に当たりは…
「揃った!!」
「はい!?」
「にゃ!?」
嬉しそうにカードを眺める空。後は私に残された1枚と、燐の持つ2枚。とりあえず、一位が燐でなくてよかった。空なら多分、可愛らしい命令しかしないはずだ。
私が燐から、当たりを引けば… 大丈夫。私なら当てれる。もう何も怖くない。
「こっち…うぁぁ!!」
お燐から引いたのは見事にジョーカー。後ろ手にカードを混ぜ、燐につき出す。お願いだから、外してほしい…
「…揃い!!」
「ガルルル…!!!」
「う、唸られても、敗けは敗けだろう?」
狼そっくりの唸り声で威嚇してみるが、効果はないようだ。
「…はぁ。命令をどうぞ? ご主人様」
「ん~…尻尾触らせて?」
「よし、いいよ。気に入って貰えたなら私も嬉しいし」
尻尾に飛び付く空。燐が私も触りたいといった表情で此方を見ているが、燐だって可愛らしい尻尾があるではないか。あれは艶とすべすべ感が最高の尻尾だ。私にはわかる。
空の方をチラッと見ると、まるで人形で遊ぶ純粋な子供のように尻尾を撫でたり、抱き付いたり、かじったりしている。
「そんなに気に入ったの? なら…」
九尾の姿を思い浮かべ、能力を発動させる。尻尾は九つに増え、耳も尖った、少し大きいものに変わる。その尻尾は籃のような、綺麗な黄色ではなく、白銀に染まる白混じりの銀色だった。
その時の空の顔は、そう簡単に忘れられるものではないだろう。それほど迄に可愛かった。尻尾のべッドに全身を埋もれさせ、今にも天に昇りそうな空。微笑みつつ見つめていると、燐が不思議そうに寄ってきた。
「これって…」
「私の能力だよ。動物の力を身に宿す。それは化物でも妖怪でも例外じゃない」
また変えようかとも思ったが、空をしばらく眺めてからにしよう。尻尾の波に飲まれ、嬉しそうだ。
私の能力は、戦闘不向き。能力がしっかり使えるようになっても、色や大きさを変える程度。どこまでが私の能力かわからない故、能力に関しては色々妥協している。
「気持ちいい…!! お燐も触りなよ~」
「…お燐。触ってもいいよ」
「え?…本当に?」
本当に可愛い。この二人。先程から尻尾で弾いたり、尻尾を巻き付けたりと軽くセクハラなことをしているが、それで喜んでいるし、私は嫌らしい意味でやっている訳ではない。単に喜ぶだろうと思っただけだ。
「…ま、楽しそうだしいいでしょ」
▼
「はい、満足した?」
「うにゅ~…」
「うにゃ~…」
揃って幸せそうだ。これは私も嬉しくなるというもの。だが渡せるような物は持っていない。作る…にしても、材料が何もない。何か簡単なものでも…そう、例えば…チョコとか。ああ、簡単なものじゃないな。売ってないし。そう思った矢先に、ポトンと。先程聞いた音より軽い。
…ええ、落ちました。目の前に。
これ…本当に神様の仕業なのだろうか。先程から考えただけで、目の前に現れる。手をかざして念じてみても、これまた手の中に現れる。これ…まさか能力じゃないよね? 記憶にあるものを実体化するとかじゃないよね?
…まぁ何はともあれ、喜んで使わせていただこう。
いつの間にかポンポンと紙を広げ始める私に、ベッドの上のお燐が何処から出した? と首をかしげている。知らん。私もわからん。
「ほら、お燐、お空」
「何これ?」
「チョコ。かじってみてよ」
半分にした板チョコを二人(今更ながら、二匹の方がいいだろうか?)に渡し、かじってみろと催促する。恐る恐る口に運ぶ二人(まあいっか)を、微笑ましく眺めていると、匂いに耐えかねたのか空がパクッと食べた。
「甘くて美味しい!」
「でしょ? 甘いものは乙女のエネルギーだよ」
燐と空が仲良く食べ始めたところで、一人で部屋を出る。はっきりさせなきゃ。
「能力…にしても、何処まで具現化出来るのか…」
脳内で描いた刀を具現化させる。それはしっかりと手元に現れ、ずっしりとした重量感が手を包む。そして次に試すのは銃器。具現化出来ない。この能力…何か決まりがあるのか…?
刀は具現化出来る、だが銃器は無理。色々試すしかないか。
溜め息を吐き、また部屋に戻った。
…燐と空の手と口が黒くなってるのはなんでだろうね。
新たに「記憶を具現化する」
実はそこまで強くなく、日常寄り。
うーん…ランク的に、フランより下。
次回に詳しく。
ちなみに、俺TUEEE!!は基本的に無いのでご注意を。