黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
キャラ崩壊注意。
「……ん…ぅ?」
ぼんやりと開く瞼。視界に映るのは、無機質な岩肌と、二本の角を生やした少女。
…あれ~? おかしいな~。どう見ても萃香さんだ~あはははは…
どうやら、私は死んではいないらしい。よく考えると、一日食わなかっただけで倒れるとは情けない。…誰だ、好きな奴に殺られたかったとか言った奴は。恥ずかしいにも程がある。いや、そんなことよりも。
問題は目の前の鬼だ。鬼の少女が盛大に寝ていたのだ。最初は驚いたが、その寝顔は可愛くも凛々しい。
…そりゃ驚くよね。妖怪が食うのは恐怖心限定じゃない。血肉だって食べる訳だし。
どうしようかとオロオロしていると、萃香が口を開いた。
「ん…お目覚めかい?」
「きゅあああ!?」
少女の盛大な寝入りっぷりに負けぬ程の盛大な転びっぷりを見せる。顔が火照るのと同時に、心配してくれたというのに変な叫び声をあげた罪悪感を感じる。
「あ、あの…ごめんなさい!!」
「・・・・・・」
頭を下げ、謝罪した瞬間、沈黙が流れる。何かまずいことを言っただろうか。食べられるとか、そんなオチは…
その私の憂いも気にせず、少女は笑い出した。派手に。鬼は流石だなと思いつつ、口を開いてみる。
「あ、あの…ありがとうございます。ええと…」
「萃香。伊吹 萃香だ。お前は?」
「あ、私…
何が面白かったのかはわからないが、とりあえず楽しそうで何よりだ。サラッと知らないような演技で名前を聞き出したが、上手くいけた。いや、知らないのが当たり前か。
咬音 狼戈。まさか名前からこの姿になったのでは…違うか。
それより、何故私を助けてくれたのだろうか。まさか食料確保…!?
「鬼の気紛れさ。ま、とって食っても良かったけどね。狼戈は他の奴等より旨そうだ」
私が口に出していない質問へ、萃香が正確に答える。褒められているのか脅されているのかわからない言葉を受け、苦笑した。例えただの空腹とはいえ、恩人に変わりはない。
「あ、あの!! 出来れば何か恩返しを…」
それを聞いた後の一瞬の沈黙、そしてまたも盛大に笑いだした。ワライダケでも食べたのかな、この子。
「つくづく面白い奴だねぇ。ふむ、完全に妖怪って訳でもないんだろう? 人間の匂いが強い」
反射的に私の匂いを嗅ぐが、普段とあまり変わらない。どうなんだろう。でも、ちょっと待ってほしい。人間の匂いがするなら妖怪から狙われやすいのでは…泣きたい。
「…自分のことはよくわからないです」
「そうか。それにしても恩返しねぇ…?」
ジトッと私を見る舐めるような視線に、私は肩を竦める。それもそうだ。最強に近い所にいる萃香が目の前におり、かつそれが幻想郷最初に会った人物だという。それに、放たれる妖気が尋常ではない。私が人間だったら気絶してしまいそうだ。萃香が途中で胸を見比べ、ムッとしていたのは内緒の話。
「じゃ、それを鳴らしてみておくれよ。見たところ楽器だろう?」
考え込んでいた萃香が口を開く。それは私が首につけたオカリナだった。
▽
妖怪を拾ってしまった。
人間でいう、捨て猫を拾って来る的な感覚で連れて来たはいいものの、どうすればいいだろう。恐らくただの疲労だけど、倒れた彼女を放置する訳にもいかない。私は拾った少女を抱え、近くの空洞へつれ込んだのだった。
少女を寝かせ、そのまま立ち去ってもよかったのだが、途中で異変に気付く、彼女から、妖怪の匂いがしない。人間の匂いだ、と。彼女が狼の妖怪ならそれはおかしい。人間が狼の妖怪になるなど、長い年月の中で聞いたことがない。白狼天狗でも無さそうだ。でもしっかり妖力はある。それも、そこら辺の雑魚より遥かに強い。闘いたくなる衝動を押さえ、岩肌に座り込む。
そして妙な事に、この少女がとても美味しそうに見える。同姓で妖怪の少女が何故これ程にまで旨そうに見えるのだろう。空腹な訳でもないのに。自然と涎を垂らし、妖怪に近付く自分に気付き、慌ててまた座り込んだ。
おかしいな、なんでだろう。そう思った矢先、少女が動いた。もう起きるだろう。そう思った私は、今の行動の焦りもあり、寝たふりを遂行してしまった。何故だろう、意味ないのに。
起きて早々、どうしたものかとオロオロする少女に、ニヤリとせざるをえなかった。その仕草ひとつが美味しそうだ。初対面で助けた相手に失礼かも知れないな。
「ん…お目覚めかい?」
そう私が聞くと、見事な絶叫と共に見事に転んだ。ニヤニヤしながら少女を見ていると、再びオロオロし始め、彼女が言葉を口にした。
ごめんなさいと。
それだけと言われればそれだけだが、私としては愉快だった。いきなり現れて、いきなり転び、いきなり謝る。滑稽滑稽。多分見ていて飽きない小娘妖怪だ。
私の笑いを遮るように、少女が言葉を口にする。
「あ、あの…ありがとうございます、ええと…」
狼狽し始める少女に自己紹介をする。咬音 狼戈と名乗った少女の瞳は、やけに真っ直ぐで綺麗だ。まさか、こうまで魅力的に見えるのは彼女の能力だろうか? いや、ならば流石に寝ている間まで発動出来るものではないだろうし…。ふと彼女の顔に疑問が浮かんでいる事に気付き、恐らく合っているだろうその疑問に答える。
「鬼の気紛れさ。ま、とって食っても良かったけどね。狼戈は他の奴等より旨そうだ」
そう聞くと、狼戈は苦笑した。私としては事実を述べただけだから大丈夫。そして狼戈の次の言葉を聞き、私はまた大笑いすることになる。
恩返しねぇ。妖怪で恩返ししたいなんて奴は聞いたことがない。やはり行動も言動も人間臭い。旨そうに見えるのはそれが原因だと自分の中で解決させ、その恩返しに答える。
「じゃ、それを鳴らしてみておくれよ」
▽
それぞれオカリナには大きさがあり、音の高さも決まっている。リコーダーみたいなものだ。どうせなら東方でやろうとするが、多重録音しないとどうしても出せない音がある。一番小さなオカリナで…あの曲くらいなら。
▽
「あ、ありがとう…ございました」
縮こまる私に、萃香の拍手が起きる。更に縮こまる私の背中を、萃香がバンバンと叩いた。痛い。鬼の力がかなり痛い。
「いや~凄いじゃないか!! 見直したよ!」
「そ、それはありがとうございます…」
その言葉に、萃香が少しムッとなった。何か悪い事でも…そう考えた矢先、萃香が口を開く。
「ああ、すまん。ちょいと外に出てくるよ」
「わかりました」
そういうと萃香は空洞から出ていった。やけに顔が赤かった気がするが、それほどまでに良い演奏が出来たのだろうか。結構嬉しいな。
▽
おかし過ぎる。演奏は素敵だった。ムッとしたのは、いつまでも少女が礼儀正しすぎる。私が何か声を掛けるべきなのだろうけど。
おかしいおかしい…ダメだ、食べてしまいたい。理性を保とうにも、恐らく無理だ。何故? 狼戈は何をしたんだろう。ああ、ダメだ。頭が回らない。でも、これは妖怪の欲。押さえられるものではないはず。なら、いいではないか。我慢する必要なんてない。ゆっくりと空洞へ戻っていく。もう、私の考えはひとつだ。
「…食べてしまおう」
この物語を書き進めていくにあたり…
タグに「性的描写」「百合」が絶対いるべきだと判断。
苦手な方はブラウザバック推奨。