黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
紫さん…難しいです。
「何か御用かしら? ご主人様?」
「…その呼び方はやめなさい」
何故? 何故顔を赤くして背けるの?
何故か御主人様の御主人様に呼ばれて飛び出て、という訳だが、どういう状況だろうか。私の主の藍はいないし、目の前には紫が座っているだけ。召喚ではなく隙間を通されたから、まあそんなことだろうとは思った。それにしても、本当に考えている事がわからない妖怪だ。
「…まぁ、座って頂戴」
物凄く帰りたい。
言われるがままにソファーに座り、机越しに座る紫を軽く睨む。扇子で口元を隠し、微笑するいつもと同じ状態。彼女と話すと話が狂う為苦手なのだが。
「で、結局何よ」
「つれないわね。ちょっと呼んだだけよ」
何がしたいんだこの隙間妖怪。
話す事もなく時間が過ぎる。私にも、彼女にも、仕事というものがあるだろう。何故こんな無意味なことをするのやら。次第に機嫌が悪くなり、机に置かれたお茶を飲み干す。美味しい。
「失礼します…やはりか、狼戈の匂いがしたんだ」
「文句なら私に言わないでね。勝手に連れてこられただけだから…って匂い?」
「ああ、甘くて美味しそうな匂いだ」
…聞かなければ良かったな。
「で、結局何の為に呼んだの?」
私の問に、回答者はいない。藍はわからないだろう。だが、目の前で此方を見てくる隙間妖怪は違うはずだ。呼んだ張本人だし。それなのに一言も話さない紫に、少し息を荒げる。
「何で何も話さ…ッ!?」
体の力が抜け、ガクンとソファーに落ちる。まさか…お茶に何か…
「なに…を……」
妙に落ち着いた藍と、扇子を閉じる紫の姿を見て、私は意識を投げ出した。
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「…紫様、彼女は私の式ですよ?」
「ええ、わかってる。ただ彼女を見ていると、どうも遊びたくなるのよ」
少し機嫌の悪そうな藍にそう返しておく。藍も私の言葉通りのことを思っているのか黙り込んだ。妖怪の欲とでもいうのだろうか。チラと少女の寝顔を見る。スヤスヤと眠り込んでおり、スースーと寝息をたてる様は可愛らしい限りだ。尻尾は不規則に揺れている。もういいだろう。“今回は„特に遊ぶ用事もない。藍に引き渡すとしよう。
「藍、連れて行っていいわよ」
「…わかりました」
さて、優しい優しい狼さん? いつ化けの皮が剥がれるのかしらね?
あと何十年の内に、本性を現す事を願っているわ。
連れていかれる少女を眺めながら、心の内でほくそ笑んだ。
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狼戈が…14歳? それにしては賢く、大人しすぎる…だが年齢で嘘を吐く必要はないし、友達(家族か)に嘘を吐く理由もないだろう。なら、何故こんなに落ち着いて…
ふと抱き抱えた狼戈の頬に一筋の粒が線を描く。私が助けて貰った日も、こんな風に泣いていたな。そんな事を考えながら、自室へ戻る。狼戈をベッドへ寝かせ、私もベッドへ倒れ込んだ。
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「んぅ…ぅぅ…?」
薄く開く視界に段々と意識が覚醒していく。私は…確か紫に隙間で連れて来られて、そしてお茶に何か仕込まれて…
段々と怒りが込み上げて来た。私の事を何だと思っているのだ。私はお菓子を作って燐達と駄弁ってから、普通に寝る予定だったというのに、寝かされてしまった。どういう事ですかね。
怒りのあまり布団を軽く殴ると、小さな悲鳴が聞こえた。その瞬間に冷や汗が止まらなくなり、命の危険を察する。
「…ほう。主人に手を出すとは…」
「わ、わざとじゃない…ち、違う…ひぅ!?」
隣で寝ていた藍を殴ってしまった。後悔してももう遅い。泣きたい。泣いた。
「違うって…わざとじゃなひぁぅ…!!」
「ん? 聞こえないぞ?」
わかってるだろ。わかってやってるだろこの狐。
既に何度目かわからぬ私の悲鳴。誰も助けてくれない。紫、許すまじ。
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散々遊ばれた挙げ句、地霊殿に帰って来た。私が拐われてから既に4時間が経過している。どれだけ寝ていたのか、どれだけ玩具にされていたのかはわからない。
もうヘトヘトだ。疲労だ。もう疲れた。
愚痴を溢しながら、また布団の中へ潜り込んだ。
私の好きなキャラが出ていない訳じゃないです。
ただ、所謂嫁的なキャラはまだですね…
妖怪の山にいるキャラです。
この物語で登場するんですかね…(自問自答)