黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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力で勝てないのならば、知恵で勝てばいい。


二十 腕相撲と血

「う~…肩が…」

「まったく、地上で何をして来たんだい」

 

 女々しい私を、燐が世話のかかる奴だ的な視線で私を見ている。だって痛いんだもん。

 あの後結局鬼の住処(?)で一泊する事になったのだが…色々と悲惨だった。行かなければ良かったと心底思う。結局最後は自棄になってたけど…

 

 

「い、いや、私一人の方がいいです…」

「なんだい? 私の酒が飲めないのかい?」

「飲むも何も、私まだ14ですって」

「…は?」

 

 当然のリアクションをいただいた。燐といい、空といい、鬼といい、いったい私は何歳に見えているのだ。まだロリに入る年齢だぞ…と言いたいが、萃香は姿的に幼女だし、フランだって…ああ、私の煩悩が……

 

「14…? 嘘だろう?」

「本当ですよぅ…嘘なんて吐きませんよぅ…」

 

 酒は断る事が出来た。代わりに料理を口にねじ込まれた。色々と泣いてしまいたい。私は、ただ萃香に会いに来ただけのはずなのに、何故…何故…? その萃香は酒を飲んでグウタラしてるし。ああ、私酒絶対飲まない。

 

「お嬢ちゃん、雑魚とか言ってごめんな?」

「強かったぜ!!」

 

 とまぁ、他の妖怪(鬼)からも絡まれる訳で。私のスピード的に、妖気を解放する必要性は無かったと思う。あれはただ、野次馬共を黙らせる為だけの威嚇行動。結果としてこんな事になっているとは情けない。この一匹狼を放っておいてくれないか。

 

「…よぉし、狼戈!! 私と腕相撲だ!!」

「…はぁ!?」

 

 そして唐突に繰り出される勇儀の無茶ぶり。集まる視線、逃れられない。この生き地獄、誰か壊してくれないだろうか。お礼は尻尾でするから。

 

「私は脚力しか秀でてないから…やめておいた方が…」

「流石に勝負までは断らないよな?」

 

 やる気満々の勇儀に、私の方が折れた。そのまま腕も折られないか心配だが、とりあえずやるからには全力でやらないと、色々な意味で死んでしまう。ふと萃香に振って逃げようとも考えたが、興味津々で此方を見ているばかり。ああ、わかったよ。やればいいんだろう。この鬼幼女め。

 

「力で私の右に出る者はいない…本気で来なよ」

「うわぁん…私に死ねって言うんですかぁ…いいですよ、やりますよ…」

 

 涙も鬼には通用しない。血も涙も無いのか、この鬼達は。14歳ってわかって普通勝負仕掛けるか? 今更遅いけども。ああ、帰りたい。

 

 地面に肘を付け、手を組む。大きさにかなりの差があり、私の手はすっぽりと勇儀の手の中に収まってしまいそうだ。というか収まった。やりにくい。

 能力を発動させ、今のところ一番使い慣れている九尾の力を宿す。その上で、もてる全ての妖気を腕に集中させた。力を得る為、怪我をしない為とふたつの意味がある。

 

「萃香~、合図頼むよ~」

「あいよ。両者…」

 

 不敵に笑む勇儀。余裕の表情だ。少しでその顔を驚愕に変えてやろうと、私もやる気が湧いてくる。鬼と狼…力の差は一目瞭然。なら知恵は? 狼の狡猾さを…ずる賢さを見せてやろう。

 

「始め!!」

 

 両者が、力を込め始める。互いに少しずつ掛ける力を上げていき、ある程度のところで止まった。私の出せる力は限界…勇儀は余裕には見えないものの、まだ力は込められそうだ。そのまま…全力で来るんだ。私の計画通りに…!!

 

「まだ…甘いねッ!!」

 

 ーーーいいや…甘いのは貴女ですよ。姐さん?

 

 勇儀が全力を込めた瞬間に、私がわざと手を負けの方へ引く。手と手の間に出来る隙間は、力を分散させる壁。相手の態勢も崩れる(時がある)。確か何処かで見た方法…どういう原理かは忘れたが、とりあえず…勝てば良かろうなのだ。

 

「てりゃああああ!!!!」

 

 威勢の良い声と共に、全ての妖気、力を込めて、相手の方へひっくり返す。

 が。

 床につく寸前で、勇儀の手が静止していた。巻き返される…? 

 

 いや、押しきる。

 

「ッ…!!!」

 

 一気に巻き返そうとする勇義に、今度は全ての体重、妖気、力を込め、肘が離れない程度で遠心力を利用しつつ、持てる全力で、叩き付けた。ドゴッと腕相撲では有り得ないような音を立て、勇儀の腕は、床へと激突した。

 

「…嘘だろう? 勇儀が…負けた?」

「…私には私の戦い方がある。力で勝てないのなら、知恵を絞るまで」

 

 驚愕を浮かべる萃香と、信じられないといった顔で見詰める自分の手を見詰める勇儀。まさか負けるとは夢にも思っていたかったのだろう。力だけでは勝てない…そんなこともあるのさ。日々、精進していくのだ

 

「…私の負け、だな。ありがとう、狼戈」

「いえいえ。私、力では確実に負けています。戦術も大事なんですよ?」

 

 例えどれだけ良い狙撃用のライフルがあっても、測量士がいなければ役にはたたない。例えどれだけ強い武器があっても、扱う者がいなければ意味はない。つまりはそういうことだ。

 

「それでも、私は突き進むさ。『力』の勇儀、全て真っ直ぐ行くのみだ!」

「…姐さん、格好いい」

 

 漢気溢れる勇儀に憧れつつ、傍らにあった料理を口に運ぶ。その瞬間、凄い歓声に私は吹き出しそうになった。

 

「嬢ちゃん、俺とも一戦頼む!!」

「バカかお前。次は俺だ」

「おいおい、休ませてやれよ…」

 

 何やら喧嘩を始める鬼達を眺めながら、私は黙々と料理を食べ進めた。

 その後、散々腕相撲に付き合わされた。無敗だが、肩が非常に痛い。もし萃香が出てきていたら、恐らく私は負けていた。

 

 

 その後、飲んだり(私は酒以外)、食ったり(肉は拒否)、歌ったり(拍手喝采をいただいた。嬉しい)。そのままいつの間にか寝てしまい、結局一泊して、帰ることになったのだ。なにこれ、突拍子。

 

「じゃ、私はそろそろ。また来るよ。萃香、勇儀姐さん」

「ああ、いつでもおいで。今度は負けないからな?」

「久々に顔を見れて嬉しかったよ。またおいで」

 

 何故か呼び名が姐さんになっていたり、勇儀がリベンジする気満々だったりするが、とりあえずつまらなくはなかった。でも、もう腕相撲は勘弁して欲しい。次はサッカーやろう、サッカー。妖気と想いを込めて蹴り飛ばすから。相手を。

 くだらないことを考えつつ、鬼達に背中を見送られつつ、私は山を出たのだった。

 

 

「あ~…お燐そこじゃない…もっと上…」

「そんなこと言われてもねぇ…ここ?」

「あ、そこそこ」

 

 お燐に肩をマッサージして貰ってはいるが、痛いものは痛い。これは電動マッサージ機でも出すべきか? いや、折角燐がマッサージしてくれているのだから、ここは彼女に任せよう。

 ああ…気持ちいい。力加減も最高。万能ですね、燐さん。

 

「んにゃぅ…」

「あんたは猫かい…」

 

 猫と言われ、反射的に能力発動、猫又の力を宿す。ふたつの細い尻尾をクルクルと回し、アピールする。

 

「…本当に猫にならないでおくれよ。あたいと区別がつかなくなる」

 

 いや、服装的にそんなことないと思われます。

 

「失礼しまーす…うにゅ? 狼戈ちゃん帰って来てたんだ!!」

「今さっきね…って帰って来てないのに部屋に入って何するつもりだったのさ!!」

 

 部屋に入る空に疑問をぶつけつつ、マッサージに身を任せる。肩と腕のマッサージをお願いしているが、中々に念入りで終わらない。嬉しい限りだが、本当に良いのだろうか。こんなに付き合わせてしまって…

 …何故か、燐のイメージが違う気がする。私的に、もう少しおてんばな感じだと思っていたのだけれど。案外大人っぽいものだ。何歳なのだろう?

 

「きゃぅぅ…!? に、肉球触るな!! やめるのにゃ!!」

「だ、だって気持ちいいんだもん…」

「…口調が猫になってるよ」

 

 いつの間にか私の足元(ベッド)に座っていた空に肉球を触られ、素での悲鳴を上げる。冷たい指摘と、子供そのものの意見を右から左へ受け流し、溜め息ひとつ。私的に、下駄はいらないのだけれどどうだろう。悪路に関しても妖気とかで何とかなる訳で。肉球で全て解決です。ぷにゅぷにゅ。

 

「…はい、こんなもんでいいかい?」

「うん、ありがとうお燐。お礼は尻尾? お菓子? アクセサリー?」

「うーん……」

 

 現在時刻、正午。今日は豪華に作ろうか。ケーキでも作るとしよう。

 

「じゃ、狼戈の血を…」

「…なんで?」

「以前美味しく見えるかどうかって話しただろう? どうも頭から離れなくてさ」

 

 つまり、私は自ら墓穴を掘ったと。

 燐の場合、基本燃やしそうだから、血肉を食べるってイメージはあまりない。空は元の種族が、肉とかをついばむ肉食系だから違和感はない。いや、あるにはあるか。というか出会った原作でのキャラクター達に、私何故か食べられている気がするのですが。何? 私食料なの? 非常食なの?

 

「ん~…血ねぇ…お燐がそういうのは意外だな…」

「妖怪故の性分さ。別に嫌ならいいんだよ?」

 

 また手首を切るか、と考えるが、ふと能力を思い出す。そうか、切らなくても…

 記憶を具現化…注射器。と消毒用のアルコール。こんなものか。昔病院で採血したくらいしか、血管の位置がああだこうだはわからないのだが…まあ、失敗してもいっか。

 肘の内側にアルコールを吹き付け、血管を探す。動脈静脈はわからないからどうでもいい。適当に指が当たった場所に、針を刺していく。

 

「ッ…あんまり痛くないや。良い所に刺さったかな…」

 

 血を抜き取り、コップへ移す。300cc、トマトジュースにしか見えない。というか血を抜きすぎた。怠い。

 

「…どうぞ。申し訳ないけど、外で飲んでね」

「ん、どうも…♪」

 

 やけに上機嫌だが…?

 

「いいな~…私も狼戈ちゃん食べたいのに…」

「…その誤解を招く言い方はやめてくれないかな」

 

 流石に本当に貧血になる為に、空は却下。じゃあ肉を寄越せなんて言われたら、多分私死んでる。いやはや、危険が常に隣り合わせで怖いものだ。

 

「はい、狼戈。返すよ」

 

 燐に渡されたコップ。今の今でしっかりと洗われており、ピカピカになっている。厨房ってそんなに近かったか…そんなことを考えながら、コップを机の上へ置いた。

 

「甘くて美味しかったよ…ってどうしたんだい? そんなに落ち込んで」

 

 私が外で飲めと言った意味がないのですが。

 溜め息ひとつ吐き出して、今は仕事がないと言う燐と空を連れ出す。空は肉球を触った罰、燐は…何かの罰。それぞれお菓子作りを手伝って貰おうか…♪

 

 

 ちなみに、空が想像以上の手際の良さで驚かされたのは、また別の話。

 …多分作業の飲み込みが早いんだろうなぁ。




…主人公は、能力が戦闘向けではない為「俺TUEE!」が無いとお伝えしました。
ですが、主人公の性格故に「俺TUEE!」が無いと修正します。

 ええ、流石にバランスが…(冷や汗)
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