黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
「なんでお前が此処に…?」
「私が聞きたいよ!!」
地上に出て色々回ろう、となった時に現れたのは、紅の盃を片手に持った鬼…そう、勇義がいたのだ。燐と狐火鴉、空までもがその強大さに警戒する中、勇義は構わず私に向かってくる。
「あれ?…萃香は?」
「…何時見ても美味しそうだねぇ。久しぶり、狼戈」
「きゅぁぁ!? ひ、久しぶりだけど! いきなり出てこないで!!」
萃香め、能力を使ったな。許すまじ。
いきなり遭遇した鬼と、何もない空間から唐突に現れた鬼と。私の後ろの面子がもう唖然としている。何これ面白い。
ましてや、鬼と鬼の間にいるのに平然と話している私がいるため、余計混乱しているのだろう。目線と表情で燐と狐火鴉を宥め、空の警戒を解いて貰う。面白くてもこの状態だと面倒だ。
「改めて、どうして此処に? 私達はちょっとした観光だけど」
「理由なくフラフラと動いているだけさ」
流浪ですか。そうですか。
そういえば、鬼にも発情期ってあるのだろうか…変に考えると嫌な予感しかしないため、あまり考えないでおこう。とりあえずどうしようか。このままだと時間が刻々と過ぎていく。
「…何もしてないと旨そうな雑魚妖怪なんだけどなぁ」
「萃香? 私泣くよ? 雑魚に雑魚って言って楽しいの?」
「雑魚が私に勝てる訳がないだろう」
萃香に思考を遮られた上、勇義に屁理屈を正論で返された。もうこの鬼達怖い。
「このままだと時間無くなっちゃうね。行こうか」
「ああ、また今度」
サラッと鬼二人に別れを告げる。結局何がしたいのかわからない久々の再会だった。五年後にまた会いに行こう。
とりあえず、何処かに行く。目指すは…行く宛無し。私達も流浪中だった。なにこれ笑えない。
「…何処に行こうかな」
「にゃ!?」
「行く宛の候補が多過ぎるんだ。えっと、じゃあまず」
「久しぶりだな、狼戈」
一年以上聞いていなかった声が、背後から響く。振り向くにも振り向けない。彼女の式で、さとりのペット…? よくよく考えれば、こんがらがること確実な構図。どう説明すればいいのだろう。どうせ紫が私の行動を告げ口してるだろうし…ストーカーめ。
「ら、藍…久し…ぶり?」
「久々に会おうかと思ったのだが…お楽しみ中かな?」
嘘を吐け。本当に会いたいだけならば召喚すれば済む話だろう。粗方、私の反応を見て楽しみたい、といったところか。一矢報いるにも、私は彼女に勝てる力量がないし…
「ああ、私の式神が世話になっているな」
「…!? 狼戈が…!?」
「あ~、藍? この際だから質問するけど、式神って結局意味あるの?
自我も記憶もあるし、変化がまったくとしてないんだけどさ?」
私の質問に、燐達が狼狽し始める。困惑から…か。藍は一体何がしたいのだろう。単に反応を見たいだけなのか、私の関係をブチ壊そうとしているのか。後者ならば…例え藍でも許さない。
「燐達、気にしないでいいよ。式神関係ないから。私ずっとこんなんだし」
それに、もし式神が憑いていたのなら、風呂に入った時等にとれているはずだ。水は無理なはず…藍には無駄だろうけども。水鉄砲持ってこようかな。
「…実際には、式神は憑けていない。いや、憑けられなかった」
「?」
「何故か弾かれるんだ。何を憑けようとしても」
私が藍の命令に背けないのは、いつもあれやこれやと脅されるからであって、決して絶対に断れないというものじゃない。式神なら、それはおかしい。違和感は感じていたが、やはりか。…今までされた式の主人の命令とやらを、全て返してやりたい。
「ま、私は藍のこと好きだし、どっちでも良いんだけどね」
「す、好きって…」
おお、真っ赤になった。可愛い。
「…じゃ、藍。もう少し後でいいかな。私用事があるからさ。明後日辺り召喚して」
「…わかった。それじゃあ、また後で…」
…なんとか嵐は避けられた、か。燐達に事情を説明しつつ、飛翔する。いつまでもここに居ては本当に時間がなくなる。
「まぁ…ほら、気にしないでよ。むぅぅ…!! 狐火鴉!! 話題転換!!」
「ふぇぇぇ!? そんな無茶な!!」
「お腹空いたな~」
「早いよ、お空」
一年以上共に過ごしている訳だし、とりあえず大丈夫そうだ。藍め、どうしてくれようか。
行く先を探すこと五分。頭で垂れ猫になった燐を撫でつつ、あの二人の元へ来ていた。一人でも放つ妖気が尋常ではないのだ。二人もいたらわかりやすい。
「やっほーい♪」
「狼戈!? 何故ここに…」
「行く宛が無いからね。暇だから来たのさ」
勇義と萃香。数分ぶりだが、大丈夫か?
その後、暫く駄弁っていたが、勇義達と燐達が打ち解けるまでは、五分程を要した。元々全員人付き合いが嫌いではない為、まあ妥当な時間だろう。それに、勇義とは嫌でも付き合うことになるし…ね。
「楽しい休暇、行く宛なけりゃ本末転倒。どうしよう」
「さっき候補が多すぎるって言わなかったかい?」
「色々あってね」
ごめんなさい、嘘です。行く宛なんてないです。
「ん~…私達も行く宛はないし、暇なのは変わらないぞ?」
「なら、燐達この二人に修練でもしてもらえば」
その言葉に、空以外の全員がピクッと反応する。それぞれ意味が違うだろう。燐達は、恐らく嫌だ、と。鬼達は…まぁ闘いたいだろう。戦闘狂め。
「…狼戈、ちょいと一発引っ掻いてもいいかい」
「冗談だよ~? 流石に、鬼に勝てる奴なんていないだろうし」
「嘘を吐け。お前なら良い勝負になるだろう」
「いやいや…ま、いいや。何処か行こうよ!! お燐達もいいでしょ!?」
蚊帳の外と化していた萃香と勇義の背中を押しながら、何処か行こうと催促する。この世界、勇義と萃香が揃っているなら逆らうものなどいないだろうし(スキマヨウカイヲノゾク)。さあ、何処へ行こう。楽しい場所に…
「…滝にでも行こうか」
「滝…? 妖怪の山にある?」
「ああ。釣りでもどうだ?」
その言葉と共に、私と空、狐火鴉の目が輝く。釣り…ですと!? 釣って、塩で焼いて…むふふ。
「賛成!! お魚食べたい!!」
「私は狼戈を食べたいけどねぇ」
「私も賛成です」
「あたいも同じく」
もう嫌だ。全員に食べたいって言われた。私の味方をしてくれるのは勇義だけ…
「確かに、言われてみればそうだね。どうだい、ちょっとだけ」
もうみんな敵だ。
▼
竹の釣竿を手に、じっと待ち続ける。元々じっと待つのが得意(?)な私にとって、釣りは得意分野。まだ誰も釣れていない…今日もどうせ空あたりが一番に釣るのだろう。ビギナーズラックにも程がある。
「…うにゅ!? 来た!」
「…それ私のだよ」
相変わらず空の口癖をパクりつつ、何かに引っ張られた釣竿を引っ張る。すると呆気なく魚は上に飛び上がり、地面に叩き付けられた。一匹目…!!
「多分、狼戈は魚からも美味しく見えるんだね」
「うん…きゅぁぁ!? こ、こいし!?」
私の発言に、全員が此方を見る。燐達には見えていないようだが、名前で察したようだ。然り気無くこいしの存在に感付いている鬼二人は凄い。
「…釣る?」
「いいの!?」
こいしに釣竿を手渡すと、燐達にも姿がしっかり見えたようだ。元気に釣竿を垂らし始めるこいしを眺めつつ、自分の釣竿を新調する。
「ほいっと…ってうわぁ!?」
「嘘!? え、今釣竿垂らしてから一秒も経ちました!?」
「経ってない…ねッ!!」
お魚、二匹目。後で塩焼きにしよう。美味しく頂きます。
それにしても、私の体は本当にどうなっているのだろう? 妖怪どころか、普通の動物にまで美味しいものと見られているらしい。もしかすると、地霊殿での暮らしは既に危機と隣り合わせだったのかも知れない。
恐る恐る釣竿をブン投げると、即座に何かが食い付いた。三匹目、終了。これは…なんだろう。まあ、焼けば何でも食べられる食べられる。
「隣でこうも釣られると、釣れる気なくなるよね」
「現に私達の釣竿、ピクともしませんからね」
燐と狐火鴉に冷めた目で見られつつも、ドンドンと釣っていく。十匹、二十匹と釣り上げて満足した後、他の面子に任せて石、葉っぱ、小枝を集める。円状に重ねた石の真ん中に、小枝と葉っぱを重ねる。炎へと変えた妖気を投げ付け、発火。火を見つつ、塩を振っていく。
「お塩と…ああ、“はらわた„とかとらなきゃ」
以前、家族で川釣りに出掛けた際に、フルーツナイフで腹を捌き、はらわたを抉り出していたのを思い出す。腹を切って指を突っ込み、引っ張る。ゴミは環境破壊の元のため、持って帰ることにする。
「よし、竹串を固定して…焼くだけ」
十匹程を固定して、放置する。傍らにあった生の魚も口に運んで…
「…んぐ!?」
…何故生で食べたし。反射的にというか、食べてしまった。何等問題ないし美味しい。骨なんて噛み砕いてしまえ。よし、ちょっと持ってかえって刺身にしよう。
ふとお燐達の方を見ると、それぞれ一匹以上釣れてい…狐火鴉が一匹も釣れてない。
「よし、じゃあ一番釣れた人は…」
「狼戈を食べて良いと。了解了解」
「えっ、ちょ」
「よし、絶対釣ってやる…!!」
もう嫌だよ。私死んじゃうよ。みんな怖いよ。目付き変わったよ。
▼
最近、皆私を食う事に関して、まったく自重しなくなっている。友人とか家族に、食わせてって聞いたり、安易に良いよなんて答える関係、聞いた事がない。その“食べる„が違う意味でも。籃は勿論だが、狐火鴉と空が私に対して発情しているのは、本当に意外だった。燐は平常運行の様で助かる。燐が一番まとも…な気がする。
釣り対決(私は強制除外)の勝者は燐。ビリは意外にも勇義の2匹。全員僅差。帰った時、私どうなるのだろう。無事に終わると信じたい。
「はぁ…あ、萃香。萃香の能力使えば、魚くらい集めれたんじゃない?」
「勝負にイカサマはいらないさ。ところで、能力なんて教えたかい?」
野生の勘と答え、塩焼きされた魚を頬張る。良い塩加減だ。流石私。
「うにゅ~…こんな休暇もいいねぇ…」
「そうだねぇ…」
「うにゅ?」
ま、私の仕事は本当に楽なんですけどね!!
釣りをして、駄弁って、食べて、酒を飲んで。
夜まで楽しく遊んだ私達は、地霊殿へと帰宅した。私が空と狐火鴉を背負っているのは何故だ。酔い潰れてるではないか。
「狼戈ぁ…行っちゃだめぇ…」
空はしっかり自室へ送ったら寝てくれたというのに、狐火鴉が放してくれない。狐火鴉らしくもなく、タメ口だ。飲み過ぎ。
「…仕方ないねぇ。明日の夜にしてあげるよ」
そして、またもや燐が空気を読んだ。もう嫌だよあの猫。
腕を掴む狐火鴉をはいはいと軽く流し、自分の部屋に戻ろうとするが、段々と力が抜けていくのを感じる。体が縮んで…まさかこの狐…!!
「ふふ、逃がさないよ…いっぱいあそぼう?」
その後、私がどうなったのかは、言うまでもないだろう。
ーーーもう二度と休暇なんかとらない。