黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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二十四 お休みと釣り

「なんでお前が此処に…?」

「私が聞きたいよ!!」

 

 地上に出て色々回ろう、となった時に現れたのは、紅の盃を片手に持った鬼…そう、勇義がいたのだ。燐と狐火鴉、空までもがその強大さに警戒する中、勇義は構わず私に向かってくる。

 

「あれ?…萃香は?」

「…何時見ても美味しそうだねぇ。久しぶり、狼戈」

「きゅぁぁ!? ひ、久しぶりだけど! いきなり出てこないで!!」

 

 萃香め、能力を使ったな。許すまじ。

 いきなり遭遇した鬼と、何もない空間から唐突に現れた鬼と。私の後ろの面子がもう唖然としている。何これ面白い。

 ましてや、鬼と鬼の間にいるのに平然と話している私がいるため、余計混乱しているのだろう。目線と表情で燐と狐火鴉を宥め、空の警戒を解いて貰う。面白くてもこの状態だと面倒だ。

 

「改めて、どうして此処に? 私達はちょっとした観光だけど」

「理由なくフラフラと動いているだけさ」

 

 流浪ですか。そうですか。

 そういえば、鬼にも発情期ってあるのだろうか…変に考えると嫌な予感しかしないため、あまり考えないでおこう。とりあえずどうしようか。このままだと時間が刻々と過ぎていく。

 

「…何もしてないと旨そうな雑魚妖怪なんだけどなぁ」

「萃香? 私泣くよ? 雑魚に雑魚って言って楽しいの?」

「雑魚が私に勝てる訳がないだろう」

 

 萃香に思考を遮られた上、勇義に屁理屈を正論で返された。もうこの鬼達怖い。

 

「このままだと時間無くなっちゃうね。行こうか」

「ああ、また今度」

 

 サラッと鬼二人に別れを告げる。結局何がしたいのかわからない久々の再会だった。五年後にまた会いに行こう。

 とりあえず、何処かに行く。目指すは…行く宛無し。私達も流浪中だった。なにこれ笑えない。

 

「…何処に行こうかな」

「にゃ!?」

「行く宛の候補が多過ぎるんだ。えっと、じゃあまず」

「久しぶりだな、狼戈」

 

 一年以上聞いていなかった声が、背後から響く。振り向くにも振り向けない。彼女の式で、さとりのペット…? よくよく考えれば、こんがらがること確実な構図。どう説明すればいいのだろう。どうせ紫が私の行動を告げ口してるだろうし…ストーカーめ。

 

「ら、藍…久し…ぶり?」

「久々に会おうかと思ったのだが…お楽しみ中かな?」

 

 嘘を吐け。本当に会いたいだけならば召喚すれば済む話だろう。粗方、私の反応を見て楽しみたい、といったところか。一矢報いるにも、私は彼女に勝てる力量がないし…

 

「ああ、私の式神が世話になっているな」

「…!? 狼戈が…!?」

「あ~、藍? この際だから質問するけど、式神って結局意味あるの?

 自我も記憶もあるし、変化がまったくとしてないんだけどさ?」

 

 私の質問に、燐達が狼狽し始める。困惑から…か。藍は一体何がしたいのだろう。単に反応を見たいだけなのか、私の関係をブチ壊そうとしているのか。後者ならば…例え藍でも許さない。

 

「燐達、気にしないでいいよ。式神関係ないから。私ずっとこんなんだし」

 

 それに、もし式神が憑いていたのなら、風呂に入った時等にとれているはずだ。水は無理なはず…藍には無駄だろうけども。水鉄砲持ってこようかな。

 

「…実際には、式神は憑けていない。いや、憑けられなかった」

「?」

「何故か弾かれるんだ。何を憑けようとしても」

 

 私が藍の命令に背けないのは、いつもあれやこれやと脅されるからであって、決して絶対に断れないというものじゃない。式神なら、それはおかしい。違和感は感じていたが、やはりか。…今までされた式の主人の命令とやらを、全て返してやりたい。

 

「ま、私は藍のこと好きだし、どっちでも良いんだけどね」

「す、好きって…」

 

 おお、真っ赤になった。可愛い。

 

「…じゃ、藍。もう少し後でいいかな。私用事があるからさ。明後日辺り召喚して」

「…わかった。それじゃあ、また後で…」

 

 …なんとか嵐は避けられた、か。燐達に事情を説明しつつ、飛翔する。いつまでもここに居ては本当に時間がなくなる。

 

「まぁ…ほら、気にしないでよ。むぅぅ…!! 狐火鴉!! 話題転換!!」

「ふぇぇぇ!? そんな無茶な!!」

「お腹空いたな~」

「早いよ、お空」

 

 一年以上共に過ごしている訳だし、とりあえず大丈夫そうだ。藍め、どうしてくれようか。

 

 行く先を探すこと五分。頭で垂れ猫になった燐を撫でつつ、あの二人の元へ来ていた。一人でも放つ妖気が尋常ではないのだ。二人もいたらわかりやすい。

 

「やっほーい♪」

「狼戈!? 何故ここに…」

「行く宛が無いからね。暇だから来たのさ」

 

 勇義と萃香。数分ぶりだが、大丈夫か?

 その後、暫く駄弁っていたが、勇義達と燐達が打ち解けるまでは、五分程を要した。元々全員人付き合いが嫌いではない為、まあ妥当な時間だろう。それに、勇義とは嫌でも付き合うことになるし…ね。

 

「楽しい休暇、行く宛なけりゃ本末転倒。どうしよう」

「さっき候補が多すぎるって言わなかったかい?」

「色々あってね」

 

 ごめんなさい、嘘です。行く宛なんてないです。

 

「ん~…私達も行く宛はないし、暇なのは変わらないぞ?」

「なら、燐達この二人に修練でもしてもらえば」

 

 その言葉に、空以外の全員がピクッと反応する。それぞれ意味が違うだろう。燐達は、恐らく嫌だ、と。鬼達は…まぁ闘いたいだろう。戦闘狂め。

 

「…狼戈、ちょいと一発引っ掻いてもいいかい」

「冗談だよ~? 流石に、鬼に勝てる奴なんていないだろうし」

「嘘を吐け。お前なら良い勝負になるだろう」

「いやいや…ま、いいや。何処か行こうよ!! お燐達もいいでしょ!?」

 

 蚊帳の外と化していた萃香と勇義の背中を押しながら、何処か行こうと催促する。この世界、勇義と萃香が揃っているなら逆らうものなどいないだろうし(スキマヨウカイヲノゾク)。さあ、何処へ行こう。楽しい場所に…

 

「…滝にでも行こうか」

「滝…? 妖怪の山にある?」

「ああ。釣りでもどうだ?」

 

 その言葉と共に、私と空、狐火鴉の目が輝く。釣り…ですと!? 釣って、塩で焼いて…むふふ。

 

「賛成!! お魚食べたい!!」

「私は狼戈を食べたいけどねぇ」

「私も賛成です」

「あたいも同じく」

 

 もう嫌だ。全員に食べたいって言われた。私の味方をしてくれるのは勇義だけ…

 

「確かに、言われてみればそうだね。どうだい、ちょっとだけ」

 

 もうみんな敵だ。

 

 

 竹の釣竿を手に、じっと待ち続ける。元々じっと待つのが得意(?)な私にとって、釣りは得意分野。まだ誰も釣れていない…今日もどうせ空あたりが一番に釣るのだろう。ビギナーズラックにも程がある。

 

「…うにゅ!? 来た!」

「…それ私のだよ」

 

 相変わらず空の口癖をパクりつつ、何かに引っ張られた釣竿を引っ張る。すると呆気なく魚は上に飛び上がり、地面に叩き付けられた。一匹目…!!

 

「多分、狼戈は魚からも美味しく見えるんだね」

「うん…きゅぁぁ!? こ、こいし!?」

 

 私の発言に、全員が此方を見る。燐達には見えていないようだが、名前で察したようだ。然り気無くこいしの存在に感付いている鬼二人は凄い。

 

「…釣る?」

「いいの!?」

 

 こいしに釣竿を手渡すと、燐達にも姿がしっかり見えたようだ。元気に釣竿を垂らし始めるこいしを眺めつつ、自分の釣竿を新調する。

 

「ほいっと…ってうわぁ!?」

「嘘!? え、今釣竿垂らしてから一秒も経ちました!?」

「経ってない…ねッ!!」

 

 お魚、二匹目。後で塩焼きにしよう。美味しく頂きます。

 それにしても、私の体は本当にどうなっているのだろう? 妖怪どころか、普通の動物にまで美味しいものと見られているらしい。もしかすると、地霊殿での暮らしは既に危機と隣り合わせだったのかも知れない。

 恐る恐る釣竿をブン投げると、即座に何かが食い付いた。三匹目、終了。これは…なんだろう。まあ、焼けば何でも食べられる食べられる。

 

「隣でこうも釣られると、釣れる気なくなるよね」

「現に私達の釣竿、ピクともしませんからね」

 

 燐と狐火鴉に冷めた目で見られつつも、ドンドンと釣っていく。十匹、二十匹と釣り上げて満足した後、他の面子に任せて石、葉っぱ、小枝を集める。円状に重ねた石の真ん中に、小枝と葉っぱを重ねる。炎へと変えた妖気を投げ付け、発火。火を見つつ、塩を振っていく。

 

「お塩と…ああ、“はらわた„とかとらなきゃ」

 

 以前、家族で川釣りに出掛けた際に、フルーツナイフで腹を捌き、はらわたを抉り出していたのを思い出す。腹を切って指を突っ込み、引っ張る。ゴミは環境破壊の元のため、持って帰ることにする。

 

「よし、竹串を固定して…焼くだけ」

 

 十匹程を固定して、放置する。傍らにあった生の魚も口に運んで…

 

「…んぐ!?」

 

 …何故生で食べたし。反射的にというか、食べてしまった。何等問題ないし美味しい。骨なんて噛み砕いてしまえ。よし、ちょっと持ってかえって刺身にしよう。

 

 ふとお燐達の方を見ると、それぞれ一匹以上釣れてい…狐火鴉が一匹も釣れてない。

 

「よし、じゃあ一番釣れた人は…」

「狼戈を食べて良いと。了解了解」

「えっ、ちょ」

「よし、絶対釣ってやる…!!」

 

 もう嫌だよ。私死んじゃうよ。みんな怖いよ。目付き変わったよ。

 

 

 最近、皆私を食う事に関して、まったく自重しなくなっている。友人とか家族に、食わせてって聞いたり、安易に良いよなんて答える関係、聞いた事がない。その“食べる„が違う意味でも。籃は勿論だが、狐火鴉と空が私に対して発情しているのは、本当に意外だった。燐は平常運行の様で助かる。燐が一番まとも…な気がする。

 釣り対決(私は強制除外)の勝者は燐。ビリは意外にも勇義の2匹。全員僅差。帰った時、私どうなるのだろう。無事に終わると信じたい。

 

「はぁ…あ、萃香。萃香の能力使えば、魚くらい集めれたんじゃない?」

「勝負にイカサマはいらないさ。ところで、能力なんて教えたかい?」

 

 野生の勘と答え、塩焼きされた魚を頬張る。良い塩加減だ。流石私。

 

「うにゅ~…こんな休暇もいいねぇ…」

「そうだねぇ…」

「うにゅ?」

 

 ま、私の仕事は本当に楽なんですけどね!!

 

 

 

 釣りをして、駄弁って、食べて、酒を飲んで。

 夜まで楽しく遊んだ私達は、地霊殿へと帰宅した。私が空と狐火鴉を背負っているのは何故だ。酔い潰れてるではないか。

 

「狼戈ぁ…行っちゃだめぇ…」

 

 空はしっかり自室へ送ったら寝てくれたというのに、狐火鴉が放してくれない。狐火鴉らしくもなく、タメ口だ。飲み過ぎ。

 

「…仕方ないねぇ。明日の夜にしてあげるよ」

 

 そして、またもや燐が空気を読んだ。もう嫌だよあの猫。

 腕を掴む狐火鴉をはいはいと軽く流し、自分の部屋に戻ろうとするが、段々と力が抜けていくのを感じる。体が縮んで…まさかこの狐…!!

 

「ふふ、逃がさないよ…いっぱいあそぼう?」

 

 その後、私がどうなったのかは、言うまでもないだろう。

 

 ーーーもう二度と休暇なんかとらない。

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