黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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三 妖気とお札

 萃香が出ていき数分が経つ。萃香は空洞の前でウロウロしており、その表情からは何を考えているのか予想出来ない。顔が赤いのは何故だろう。

 

(何してるんだろ…? ん、オカリナちょっと邪魔かな)

 

 首に掛けたオカリナを取り、片足の太股へ紐を結びつける。足にオカリナを装着とは、なんともまぁ変な話だが、恐らくこれで大丈夫だ。走るのも動くのも邪魔にはならない。

 萃香の様子を見に行こうとした時、ふと私の頭にひとつ、浮かび上がる事がある。

 

(萃香が…鬼が、何故地上に?)

 

 鬼達は、人間に絶望し、地底へ住み移ったと聞く。偶然居たのだとか、元々萃香は地底に行っていないのだと仮説を立てれば、話はそれで終わる。だがあの神様的な少女、紅魔館“以前„と言っただけで、紅魔館”直前„とは言っていない。つまりどういうことか。

 

 そう、紅魔館の数十年前、或いは数百年、数千年前ということもありうる。

 

 正直そこまで原作の知識はない。キャラそれぞれの知識はあるが、年代や出来事まで深く覚えている私ではない。つまり、紅魔館や主な出来事よりも前に起きた出来事の場合、私は何の対処も出来ない。

 

 まず色々と状況を整理するとしようか。鬼が地底へ移る前、つまりまだ幻想郷が出来ていない事を意味するはずだ。今は都だの貴族だのと騒いでいる時代なのか…? 私の知識ではそんなもんしか思い浮かばない、無念。余裕があるように見えるのはただ現実逃避をしてるだけさね。

 

「…あ、萃香さん。ちょっとお話が…萃香…さん?」

 

 戻ってきた萃香の足取りは、御世辞にもキリキリと、しっかりとしたものではない。焦点の定まらない瞳で此方を見詰め、フラフラと歩いてくる。その様子のおかしさに若干驚きつつ、口を開く。

 

「あ、あの、萃香さーーーキャッ!?」

 

 うつ向き、何かを譫言のように呟いていた萃香。私が近付き、肩に手を掛けた瞬間、強く押し倒された。世界が回り、頭が働かなくなる中、萃香は虚ろな瞳で私を見詰めるだけだった。

 

「萃香さん!? どうしたんでーーーぅ…ぁ……?」

 

 肩に鈍い痛みが走り、一瞬完全に思考が止まる。恐る恐る肩を見ると、見事に弧を描いて抉れており、私が気付くのに反応するように血が噴き出した。

 

「あぐぅぅぅ……!!」

 

 歯を噛み締め、必死に叫び声を殺す。うつ向く萃香の口には赤い液体と、鮮やかに赤い物体が付着していた。私が息を荒げる中、萃香は満面の笑みで言った。

 

「美味しくて…あまぁい…」

 

 その言葉に戦慄する。瞳を見る限り自我がない。この危機的な状況で私の頭は、驚く程に冷静だった。死ぬ寸前に世界がゆっくり見えるとはいうが、それだろうか。

 鬼を操れる者などいないであろうし、わざわざ助けて恩を売った相手を食い殺す程、萃香は獲物を弄んで遊ぶ奴ではないだろう。

 ふと私が押し付けられている岩壁から、紙の音がした。この場所に紙等…そう考えるともう答えはひとつしかない。

 

 ーーー札!!

 

 何故その結論に至ったのか、何故本当に札が貼られていたのか、それは私にもわからない。壁に背中を擦りつけると、摩擦に負けた札が落ちた。もしこれがしっかり固定されていたら、私の生は終わっていたと思う。この少女に、心体を食い尽くされて。九死に一生、なんとか逃れたが、危うくトラウマになりそうだ。

 

「…あ、あれ? 私…ッ!? 狼戈!?」

 

 力なく壁にもたれるように、ずるずると座り込む。まさに三途の川が見えた気がする。花畑も見えた気がするが…向日葵? もうここまで来ると、あの妖怪の暗示にしか見えない。

 

「す…萃香さん、大丈夫…ですか?」

 

 その言葉に、萃香の顔が曇る。罪悪感か…どうすればいいのかわからないといった表情だ。

 

「…妖怪が他者を食らうのは当然のこと。気にしないでください」

 

 私が微笑んで言ったのが気にくわないのか、機嫌悪そうに、でも申し訳なさそうに此方を見てくる。

 

「…じゃあ食べてしまっていいかい」

「いやあ、手がわかってれば私は逃げますよ。逃げ足の速さは負けません」

 

 私が自信満々に言ったことにより、萃香の機嫌が少し良くなった。鬼故の闘争本能だろうか。

 

「言ったね?」

「いや、リアルな鬼ごっことかやめてください。私も万全じゃないですし」

 

 肩を見ながらそう言うと、萃香はまたしゅんとした。やっぱり可愛いな。今わかったのは、鬼は感情表現豊か、といったところだろうか。

 

「じゃあ、傷が治るまで護ってやろう。その後、競争といこうじゃないか」

 

 ちょっと待て、この子やる気だぞ。競争とか言ってるぞ。

 いや、でも今の私は妖怪。傷の修復や再生は、妖気でどうにかなるのでは? 妖気の仕組みやどういうものかは私にはわからないが…それでも体の奥に。何か得体の知れない、力強い何かを感じる。だが。上手く扱う所か、引き出すことさえ出来ない。

 

「…これじゃあ、存在がわかってても意味ないよなぁ」

 

 一人愚痴っても、一向に解決する気配はない。

 

 うんうんと唸る私を不審に思ったのか、萃香が不思議そうに私の顔を覗き込む。あまり身長差はないけど、どう見ても幼女にしか見えません。本当にありがとうございました。

 

「どうかしたかい?」

「いや…妖気の使い方とか…まったくわからーーー」

 

 そこまで言った所で、萃香が盛大に噴き出した。

 

「な、なんで笑うんですか!! 私も必死なんですよ!!」

「はっははは!! なんだいなんだい!! その視線と言動、まるで赤子だね!」

 

 かなりの勢いで赤面していくのを感じる。私だって必死に悩んでいるというのに、何故こんな事になってしまった。私がムッと睨んでも、当の本人は笑い続けている。ふと視界に入った破れた札を拾い上げてみる。よくわからない何かが書かれたそれは、恐らく貼った相手を魅力的に見せるようなものだろう。その魅力が食材としてというのは御免被る。いや、魅力的に見せる事自体私は却下だ。本心からでないと嬉しくもなんともない。

 しばらく笑い転げた萃香。よくわからない所に笑いのつぼがある。下手に喋って笑われるのが正直面倒だ。まあ、楽しいけども。

 

「ん~…なんと言うのかね。何か、力を集中させる感じでやってごらん」

 

 力を集中…空へかざした手のひらに、何かを溜めるように力を込めていく。すると。手のひらに野球ボール程の大きさの球体が現れる…と次の瞬間、その球体は私の何倍もの大きさに膨れ上がり、軽く直径5メートルを凌駕する黒い塊が発生した。それに驚いた私は瞬時に力を分散させる。その場に尻もちをつき、唖然とする。訳がわからないよ…。

 

「…狼戈。お前…何者だい。並の妖怪でそんな妖力を軽々と出せる訳がない」

 

 冷たい視線を受ける中、私は震える声で呟いた。

 

「わ、私も…訳が……訳がわからないです」

 

 

 私は酷く後悔していた。得体の知れない何かに自我を犯され、狼戈を食ってしまったのだ。気付けば口にある血肉に、目の前で項垂れる狼戈。

 悲鳴を上げる私に、妖怪として、獲物を食うのは当然と言って退けた狼戈の心境はどんなものだっただろう? 悪いのは私なのに、一番に謝った狼戈は、何を思っていたのだろう? それを考えると罪悪感が込み上げる。生きるか死ぬかはどうでもいいと思って助けたのに、何故私はこうも、彼女に尽くしているのだろう。

 だが…彼女の血肉の味。それは自我への束縛が解けた私でも、相当に美味な物だった。噛めば旨味が広がり、血はとても美味しい。甘くて濃厚なそれは、私の頭を更に撹乱させた。

 ならば食べてしまってもよいかと口にした。それは本心でもあり、自分の恥ずかしさを隠すためでもあった。それに苦笑しながら答える狼戈。これではまるで大人と子供だな、そう考えていると、狼戈が言ったひとつの言葉。

 

「逃げ足には自信があるので」

 

 その言葉は、私の…鬼の闘争心を引き出すには十分過ぎる言葉だった。

 私の催促を込めた質問に、狼戈はまたも苦笑しつつ、万全ではないからと逃げた。いや、私が悪いし、当然の事だ。ならば、と私がひとつ提案する。傷が治るまで待とう、と。護るとはいったが、私に喧嘩を売るような輩は早々いまい。それにしても、すぐに治そうとしないのは疑問だ。そう思っていた矢先、狼戈は思いもよらない言葉を口にした。

 

 妖気の使い方がわからないと。

 

 私は盛大に笑った。いや、笑ったさ。大人と子供のようなやり取りをしていたのに、今では狼戈がすっかり子供に見える。いやあ、色々な意味で可愛いな。

 だが妖気に関しては、私も無意識に発動しているため説明が難しい。適当に方法を口にすると、狼戈はむ~と言いながら手のひらをかかげた。その真剣な表情にまた笑いそうになったのはここだけの話。

 最初は私も気楽に見ていた。小さい球体か何かが出来るか、何も出来ないだろうと。それを見てまた笑ってやる…そのつもりだった。だが、蓋を開ければ、どうだ。この妖気。空腹で生き倒れるような妖怪が、これ程の妖気を隠しもっていたのだ。逆にこれ程の妖気に何故気付かなかったのか疑問もある。

 だから私は問うた。お前は何者だと。その言葉に、狼戈も震える声で呟いた。

 

「わ、私も…訳が……訳がわからないです」

 

 その震え方と言動、表情から見るに、その結果は彼女でも驚きの結果なのだろう。事実、私もかなり驚かされた。唖然とする狼戈を引きずり、空洞へ入る。さて、色々と話して貰おうか、狼戈。




…グダグダ感満載やないか。

まあ、こんな感じでやっていくのでよろしくお願いします。

色々と独自解釈を含んでいたりしますが、ご了承ください。
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