黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
狼戈の年齢は人間年齢に換算すれば5歳程(15歳と言っていたのは妖怪としての年齢)。
妖怪の種類によって人間としての年齢は変わると思われますが、多分こんなもん。
つまり、まだまだ若いってことです。
それも、紫とかと比べれば…うわ、何をする。やめ(ピチューン
ま、思考レヴェルは高いんですけどね。
二十八 日常と看病
あれから…何年過ぎたのだろう? 何十年、何百年という時が過ぎた。妖怪の山の大噴火だったり、色々起きたが、まだ大結界は張られていない。つまり、約300から500年程度…かな。勿論、私達は妖怪。成長の気配はほぼない。私の年齢的に、今の歳は人間年齢で…15か16歳位かな? 結局、いつも通り。
数百年の過ごし方といえば、大雑把に言えばとてもシンプルなもの。普段通りお菓子を作って配り、時には他の妖怪達の手伝いをしたりされたり。また、一週間に一回以上は藍のところでお世話になっている。
以前と変わった事と言えば、藍の所へ頻繁に行くようになった、燐達との絆が更に深まった、呪術を完璧に操れるようになった等、挙げていけばキリがない。
私にとって、この簡単な日常が、無くてはならないものになっている。
「んむぅ…さとり様~…」
「…どうしたの? 何か困ったことでも?」
さとりの部屋でゴロゴロと。地霊殿は来客がほぼ皆無。そして私の仕事は日に一度のお菓子作り。結果、いつも通り暇なのだ。能力を使って、暇潰しだったり、特訓したりは出来るが…
「暇です…」
「ん~…でも余った仕事がないの」
そういえば、狐火鴉も仕事全然無かったな。
「…来客みたい。行ってあげて」
「む…了解致しました~」
さとりの部屋を飛び出し、玄関ホールへ向かう。だだっ広いホールでは、久々に見る妖怪が立っていた。正に何百年ぶりだろうか。相変わらず、だな。
「ヤマメ!!」
「狼戈? 久しぶりだね。何百年ぶり、か」
飛び付く私に、ヤマメがやれやれといった感じで、頭を撫でる。私、やっぱり子供ね。なでなでして貰えて和むあたり。
「どうしたの? 何か用事?」
「いや、旧都の妖怪達が、地霊殿に行った小娘がいたよな、って話しててね。
どうせ死んでる的な事を言ってたから、ちょっと心配になったのさ」
何百年も前なのに、覚えていたのか旧都の奴等。確かに以前の休暇では誰にも悟られぬように通り抜けたし、それ以外旧都に行っていないし。まあ誰も私の姿を見ていないのであれば、そうなるよね。
「妖気振り撒きつつ旧都ねり歩いて来ようか?」
「い、いや、やめて。皆怯えちまうよ」
そこまで私が強いという記憶はないのだが。
「ともかく、大丈夫ならそれでいいんだ。今度パルスィも誘って酒でもどうだい」
「…だね。多分もう飲んでも大丈夫だし。じゃ、その時に呼んでね」
「わかったよ」
元気に帰って行った。結局のところ、生存確認がしたかったようだ。精神的に死にかけたりもしたけど、多分私は元気だよ。よし、今度こっそり旧都へ行こう。パルスィにも会いたいし。
「そういえば、萃香達は何処にいるのかな…」
鬼が消え始めるのはもう最近のはず。ちなみに、旧都に鬼がいない訳ではない。古参もいる。勇義…もうすぐこの地底へ来るのだろうか。
「狼戈ー!! ちょっと手伝ってー!!」
「ん…了解了解」
元気の良い空に苦笑しつつ、その声の方へと歩き始めた。
▼
「狼戈、体調はどうかしら?」
「んむ、紫? 全然大丈夫だけど…どうかしたの?」
手伝いと仕事を終え、部屋に戻った私に待ち受けていたのは隙間。そこから上半身を出す意外な来客。八雲 紫。彼女が一人で訪ねてくることは珍しいのだが…。
紫との関係は、日を追う毎に良くなっている。以前のような度の過ぎた悪戯はなくなった(軽い悪戯はある)。ただ、背後から気配も無しに抱き付かれた時には、リアルに数分動けなかった。というか、紫の力がかなり強いということもあるが。見た目によらず、というやつだ。
「…藍が、体調を崩して寝込んでるのよ」
「藍が!? わかった、すぐ行く」
即座にさとりに許可をとり、隙間へ身を滑らせる。いくら強大な妖怪でも、病気には勝てない。私は未だ、病気に掛かったことはない。ああ、でもよく考えると、竹林のあの兎詐欺は恐ろしいな。
「もう、私の体調なんてどうでもいいから、要件を先に言ってよ」
「…藍が一番に心配してるんだもの。移ってないかってね」
即座に向かった藍の部屋では、ベッドに横たわる藍の姿がある。発熱、そして紅の発疹…
「藍、藍。大丈夫?」
「狼戈…ああ。ちょっと…怠いだけだ」
「先に聞くね。何処か、森にでも入った?」
「あ、ああ。それがどうかしたか?」
…成る程、理解した。あれか。
服を脱いで貰い、可能性の高い首、手、足を見ていく。もし、あの傷があれば…
「…ビンゴ。これは…多分死にはしないよ」
これの症状は発疹と発熱、間接痛や倦怠感等。そして、首に見付けた刺し傷。とある病気に掛かったマダニに噛まれることにより、発症するもの。この病気が見つかったのは、まだ先年以上先のはずだが…
「…日本紅斑熱。抗生物質…がわからないから、治療は無理ね」
「…そうか」
「妖怪だし多分命には関わらないよ。ちょっと果物切ってくるね」
医学、ねぇ…? 進学の時にそっちに進む気はなかった。ただ趣味で調べてただけだからな…何で治せるのか、とか、大事なことを覚えていないや。というか、病気くらい妖気でなんとか出来ないのかな。今気付いた。
厨房にて、林檎、蜜柑、梨、桃と、適当に組み合わせる。皿に盛り、部屋へ戻る。色々あって、記憶を具現化する能力は見せていない。
「はい、どうぞ。紫も食べたければ食べてね」
「あら、ありがとう」
「ん…美味しい」
頬張る私に安堵しつつ、私も桃を摘まむ。かなり甘い。今度ピーチゼリーでも作ろう。
「…ん、暫く私が看病するよ。許可は得たし、大丈夫」
「すまないな、恩に着る」
微笑む藍だが、尻尾がかなり正直だ。力なく項垂れている。耳も倒れてるし。
やはり、彼女も一匹の妖怪。体には気を付けてほしいものだな。
「ん~…よし、ちょっと私を食べていただこう」
「…え?」
いつだったか、萃香にまったく同じ反応をされたのは。
「妖獣が好むのは肉。極上…? の私を食べれば、病気位どうにか出来ないかな」
「いや…狼戈がいいならいいが…せめて血にしてくれ」
流石に申し訳ないといった表情をする藍。仕方がない、血で我慢するか…って違う。台詞逆。我慢するの私違う。注射器を具現化し、血管に刺す。動脈と静脈の違いがわからない。どれがどれなのだろう。酸素を含むか二酸化炭素を含むかの違いだし、どっちでもいいよね。
「っ…はい、どうぞ」
「あ、ああ…ありが…とう?」
「ふふ、どういたしまして」
「折角だから、私にもいただけないかしら?」
私を貧血にしたいのか。それほど迄に私を貧血にしたいのか。
再度血を抜き取り、紫に渡す。姿だけだな、人間なのは。
「ん…ご馳走様。美味しかった」
「何赤くなってるのよ。はい、ありがとう」
藍に感謝されつつ、紫にからかわれつつ。藍の顔色が良くなった気がする。
「さて、後は安静にする、ね。一緒に寝よ?」
「っ…!!」
私の上目使い、涙目、悲しい表情に負けた藍が私を引き寄せる。ふふ、この誘惑に勝てる者など、そうそういまい。地霊殿の面子も全滅したのだからな…!! ちなみに、“一緒に~”は、空の言い方を丸パクリしている。
「では、私は失礼するわね」
空気を読む紫。残される二匹。別に嫌らしい意味でも、性的な意味でもないけど、二人きりの時間…
「離しちゃだぁめ。暖めてるんだから」
(狼戈…どうしたんだ…?)
ただ貧血で思考が働いていないというのと、色気墜としは貴女直伝です。藍しゃま。
さて、たっぷり看病して差し上げるとしよう。色々な意味で…ね。
今回はちょいとミニ知識。
作者(私)は病弱なんで、一ヶ月に一回は高熱出してますかね…いえ、冗談抜きで。