黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

32 / 96
△▼独自解釈が含まれます▼△

 時間が掛かった癖に、グダグダです。申し訳ない…

(ランキングに乗っていた模様。読者様、本当にありがとうございます)


三十 八雲と迷子

 狼戈は、誰であろうと平等に愛情を振り撒く。対して藍は…人付き合いが苦手な訳ではない。他人とも普通に接している。ただ、狼戈に対する愛情がずば抜けている。先程も、部屋から狼戈の悲鳴が聞こえた。楽しそうで何より。

 狼戈…もっと、年相応の“甘え"があって良いと思う。まだまだ子供なのだ。誰かに甘えたい盛りの…。もっと甘えればいいのに。

 

「…あら、いけないいけない…」

 

 私はどうやら、あの子に甘えて欲しいらしい。仕事を放棄して変な事を考え始める頭を無理矢理戻し、卓上へと視線を向ける。と、其処には小さな篭に置かれたお菓子があった。先程、狼戈が私にと渡したもの。口に運んでみれば、甘い香りと、なんとも言えぬ絶妙な冷たさが残る。確か…まかろん? 狼戈が好きなもののひとつらしい。

 

「…何か考え事でも?」

「ええ、狼戈は?」

「元気に飛び出して行きましたよ? ちょっと散歩に、と」

 

 藍に玩具にされたというのに、即座に外出とは…。臭いとか大丈夫なのか…? 存在が媚薬のような彼女にとって、その臭いは自殺行為なはずだが。主に襲われる方向で。

 そういえば、以前…だいぶ前に軽く計画したこと、結局失敗してしまったか。

 

「…失敗したのよね。色々あったのだし」

「狼戈が情緒不安定の時でしたから…。恐らく、今なら引き受けてくれますよ」

 

 本当は藍と私で襲おうか、という話になっていた。流れでこうなってしまったが…心は恐らくもう開いてくれているから、私から切り出すだけ。それが出来ないのだから、もどかしい。

 

「まあ、また今度ね。ご飯はまだかしら?」

「…はい、すぐに」

 

 私の不意の無茶ぶりに、苦笑すらせず従う藍。狼戈に関して…籃の事が…少し羨ましくも、少し妬ましくもある。ずるい、と。私も…と。変な妄想は記憶の片隅に仕舞ってしまおう。

 …さて、仕事に戻るとしましょうか。

 

 

 狼戈が出掛けて数十分。仕事を終えた後に、ゴロンとベッドの上へ寝転がる。尻尾が少し邪魔だ。

 

「…狼戈」

 

 意味も無く名前を呟く。この数百年で、狼戈は変わっていない。情緒は安定しているし、夜に関しても可愛らしい反応は健在。強いて変わった事があるとすれば、その強さか。本人は全くとして自覚していないようだが、私と匹敵する程の強さが、彼女にはある。私が強いと言っても、お世辞と思われているのだろう。あの齢であの妖気。それは桁が違う妖気。だが恐らく…まだ隠れている。恐らく、無意識にリミッターが作動しているのだ。彼女自身の体を壊さない為に。

 …彼女の優しい性格も、その妖気にリミッターを掛けている原因のひとつだろうな。力を持ちつつ、それは全て仲間の為に。

 

「その優しさが…命取りになる事もあるんだからな…」

 

 独り言が多いのは、それほど迄に依存しているからだろうか。何時もの如く、また無事で此処に来て欲しいものだ。

 

 

「狼戈。かなり臭うよ。何か…よくわかんないけど」

「…やっぱり? 狼の嗅覚的に無理があるよねぇ…」

 

 何か…嫌な予感がする。何だろう…紫に会ってから寒気が…気のせいかな。

 最近、椛に会いに行く事が多い。理由は至極単純。暇だから。

 人間の人生は長いようで一瞬。百年もすれば大抵終わっている。だが…妖怪の寿命は永い。それこそ、人間にとって永遠に等しい時を生き続ける。それを人間は羨ましいと言う。

 …確かに、やれる事も多いし、楽しい。だけど、暇になるのは事実だ。あの不老不死の人間の気持ちが良くわかる。だが、殺し合ってまで暇を潰したくはないな。

 

「…お風呂にでも入って来たら?」

「そこで流していい?」

「水が汚れ…まぁ…いいんじゃない? ってちょっと待て。ここで脱ぐな」

 

 命令口調と化す椛。地霊殿にいる時はほぼ気にしないもの…たまに皆一緒(さとり含め)に入ってるし…。何処かでガタッと聞こえた気がするのは、幻聴かな…?

 

「…恥ずかしいの? 私の感覚が麻痺してるな~…」

「…終わったら呼んでください」

 

 顔を背けてしまった…だけでなく、隅っこに逃げてしまった。可愛らしい限りだ。流石、私より幼いだけある。狼同士、気が合うのもベリーグッド。

 

 服を脱ぎ、湖にダイブ。椛が“今日、にとりは用事があるって”と言っていたため、遭遇することはない。いや、どちらにせよこれは“池”のようなもの。川には繋がっていないし、遭遇云々はないか。ぽけっと浮かびつつ、体を流す。

 

「ん~…冷たくて気持ちいいよ? もみたん」

「もみたん!? 勝手にアダ名付けるのはやめてください」

 

 この子の喜怒哀楽は見ていて楽しい。飽きる事がない。

 

「狼戈」

「あ、萃香~…って萃香ぁ!?」

 

 いやいや、随分と突拍子だが。何故狼に会いに来てつるぺた幼女の鬼と…なんて言ったら恐らく命が消えるのだろうな。恐らく、食われて。

 

「な、なんで此処に…!?」

「狼戈の香りがしたからね。ところで、何年ぶりだい?」

「数百年ぶり…かな。って香り?」

「ああ、甘くて、美味しそうで…」

 

 同じような事を、藍から聞いたのは気のせいかな?

 

「…あれ、そういえば勇義は?」

「地底に向かったよ。私もちょっと行くけど…狼戈に用事があってね」

 

 私は地底に住んでるって教えていなかったか…? 私的には来る者拒まず。隅っこで椛が小さくなって震えているが、とりあえず放置しておくとしよう。それにしても、用事…ものによっては、覚悟を決めなければならないか。

 …というか、香りひとつで私を探し当てたというのか。流石は鬼だ。いや、それほど迄に私が何かを惹き付けているのかも知れない。

 

「…うにゃぁ!? え、ちょ、えぇぇ!?」

「なんだい、何か文句でも?」

 

 いつの間に…脱いだ!? いつの間に入って来た…!?

 

「ち、近いよ…」

「恥ずかしいのかい? まだまだ若いねぇ…」

 

 何故か嬉しそうに私に詰め寄る萃香。自然と目線が胸にいってしまう…つるぺた。どうしよう、私、おかしくなってる気がする。多分籃のせいだ。いや、確実にそうだ。

 

「狼戈、何か変なこと…考えてないだろうね」

「え、あ、うん。勿論」

「…無い、とか思ってるだろう?」

 

 全てお見通しのようだ。この死亡フラグを打ち破る策は…力尽くでも…!!

 

「ごめんなさい」

 

 策なんてなかった。

 

「胸なんて無くても、狼戈くらいなら…鳴かせられるんだよ?」

 

 地雷踏んだ。確実に地雷踏んだ。踏み抜いた。この子絶対に気にしてる。

 乙女心満載の萃香からどう逃げようかと頭の中で策略をたてる。急いで水からあがるが、私は裸。さて、どうする。残念ながら、私は泳ぎはそこまで上手くはない。能力で服はどうにでも出来るが…

 そうこうしている内に、萃香が私の手首をガシッと掴んだ。頭の中に“GAMEOVER„の文字が鮮明に浮かび上がる。ああ、コインティニュー出来るかな…

 

「悪い狼は…食べてしまおうかな」

「ん…ぅぅ…!」

 

 地面に押し倒される最中、そそくさと退散する椛の顔が目に入る。鬼に逆らえないのは重々承知…だが、助けてくれてもいいではないか…!!

 

「やめ…私なんか美味しくないから…」

「ん~? とっても美味しいんだよ? ふふ…」

 

 勿論、妖気を解放している訳でもない私が勝てる訳がない。勇義の時は、知恵と妖気に頼ったから勝てたのだ。素の鍔迫り合いで勝てる程、私に力はない。

 

「まあ、夜の方にでも襲おうかね」

「やめてよ…私死んじゃうよ」

 

 すっと萃香が離れた。近くに椛もいる訳だし、このまま襲われてたら…まったく…鬼の豪快さは、常人にとって結構辛いものなのだ。少しは自重していただけないか。

 

「…ああ、それで、結局用事って何?」

「ただ会いたかっただけだよ」

 

 …私の色々な覚悟は何処へ?

 

「会うにも何も、私今地底に住んでるから…」

「…成る程。無駄足かい。それならいいんだ。邪魔したね、地底で待ってるよ」

 

 …何しに来たんだ、この鬼。

 元気に歩き出す萃香を見届けた後、戻ってきた椛に“秘技!! モフモフ尻尾フルスイング”を当て、水中に弾き飛ばしておいた。びしょ濡れ且つジト目で此方を見る椛に、水中に引きずり込まれたのは、また別の話。

 

 

「…ここは、どこ?」

 

 変なところをさ迷う狼一匹。誰か、助けてはくれないだろうか。

 妖怪の山からいざ地底に帰ろうと、滝から飛び出したは良いが、見事に迷子である。この世界に来た時のことを思い出す。萃香と会った後に、少しの間うろうろしていたな。

 それにしても…本当に場所がわからない。目の前には何処か懐かしい雰囲気の館が、ぽつんと建っている。とても道を尋ねる事の出来る雰囲気ではなく、何者も拒絶するような…そんな空気を漂わせている。

 

「…誰?」

 

 通りすがりの狼です。

 可愛らしい声と共に現れたのは、バトンを片手に持った少女。その見た目と裏腹に、しっかりとした強さが見える。何処かにある紅い館の門番に似ているな。

 

「ええと…家に帰りたいんだけど…妖怪の山は何処?」

「知らないよ。あ~、暇だな~…侵入者とか来ないかな~」

 

 チラチラと、此方に“帰らなくていいから闘え„と視線で伝えてくる少女。つまりはあれだ。暇だから侵入してくれ、と。なんという不孝者。館の主に潰されるぞ。まあ、彼女は野良妖怪なのだけれど。

 

「…ま、適当に帰ろうかな」

 

 その言葉は効果抜群だったようで、ピコンと小さく跳びはねた。中々可愛らしい。

 

「ね、遊ぼうよ狼さん」

「嫌よ、死にたくないもの」

「じゃ、命はとらないから、ね?」

 

 …何処までも理不尽な気がするのは、気のせいかなぁ?

 

「…OKいいよ。怪我してもしらないからね」

「やった!! 私は…オレンジ。その命、貰うよ」

 

 …言っていることがおかしいな気がするのは気のせいだろうか。そちらが命をとろうとするならば、私も殺す気でかかるぞ?

 

「咬音 狼戈。還付なきまでに叩き潰してあげるよ」

 

 館の前で始まる乱闘。さて、売られた勝負は買う。ぶち壊す…欲求不満を晴らすために。

 

「さあ、いくよ!!」




 旧作…“東方幻想郷„より。名作だと思います。
 次回…メイド(?)姉妹ご登場。

 そろそろ短編を挟みたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。