黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
読者様、毎度ありがとうございます。感謝です。
グロ描写注意。胸糞悪い(?)のが嫌いな方も注意。
飛ばしていただいてOKです。
~ひとつに~
「狼戈さん、お風呂入りましょー」
「ふぇ? そんな急に…まぁいいけど」
真夜中、狼戈を誘って風呂場へ向かう。他の住人は既に寝ている為、今起きているのは私と狼戈、そして夜行性の一部の者のみ。私と、狼戈だけの時間…それが妙に嬉しい。
「今日は何処へ?」
「妖怪の山にある滝。釣って塩焼きしてた」
「え~? 羨ましい…」
また今度連れて行ってあげる、と微笑む狼戈。狼は、狡猾でずる賢いと聞くが、そうは思わない。狼戈は狡猾の“こ„の字もないし、ずる賢いと言われるようなことを彼女はしない。ただ、群れなければ生きられない、孤独な生物でもある。狐? さあ、どうでしょうね。
そんなこんなと考えている内に、いつの間にか到着してしまった。
「ねぇ、狼戈さん」
「ん~? な~に?」
脱衣所にて。ササッと服を脱ぎ始める狼戈に、私もすぐに服を脱ぐ。ひんやりとした空気が肌を包み、反射的に尻尾で体を包んでしまう。そんなことを知る由もない狼戈は、先に浴場行ってしまった。まだ質問に答えて貰ってないのに…このことは、浸かってから話そうかな。
「よいしょっと」
「ん、お背中流しましょうか? 御狐様?」
「え? あ…はい、お願いします…」
「照れちゃって。可愛いな、もう」
直球で言ってくる狼戈に赤面する。深夜になると、サラッと変なことを言うのだ。眠さ故かも知れないが、狼戈は夜行性だと言っていたし、多分自分の意思だと思う。恥ずかしい…。
「はいはい、髪もついでに洗うよ」
「ひゃっ!? べ、別にそこまでしなくても…」
「いいからいいから」
私の顔が赤くなっていることに気付いているはずなのに、完璧に洗ってくる狼戈。嫌な気分はしない…逆に嬉しい自分かいる。ただ…やっぱり恥ずかしい。
「ん…こんなもんかな。ほら、浸かっといで?」
「う~…はい…」
渋々湯槽に浸かり、体を洗う狼戈をチラと見る。尻尾がぶんぶんと揺れているのが目に入る。可愛い。
狼戈が体を洗い終えた後、お湯に使って軽く駄弁る。狼戈の笑顔が、仕草が、何もかもが、とても…美味しそうに見える。何故だろうか。同性なのに、年上なのに…虐めたくなってしまうのは。食べてしまいたくなってしまうのは。
「狼戈…」
「んにゃ?」
「…はっ!? す、すいません…何でもない、です…」
頭上に「?」を浮かべる狼戈にうつ向く。何故…この人はこう鈍感なんだろう。私が…こんなにも好きだと…
「…狐火鴉? どうしたの? なんか…おかしいよ?」
「おかしいのは狼戈だよ…」
「…え?」
気付けば狼戈を押し倒し、能力を発動させていた。自分が抑えられない。今すぐに…この可愛い狼を…
「んぐっ…狐火鴉!? やめ…っ!!」
「ダメだよ…逃げたら…ふふ」
暴れ、もがく狼戈の頬をツーと指でなぞる。
「ひぅ…狐火鴉…お願いだからやめて…」
「…嫌だ。狼戈は私のもの…ずっと私のもの…」
怯える狼戈を見て、私は微笑む。さあ…一緒に遊びましょう…?
▼
ここ最近、狐火鴉がおかしかった。此方を見てぼーっとしていたり、やけに私にくっついたりして来る。春でもないのにおかしいとは思っていたが、家族なんだし良いかと軽く流していた。だが…もう流せる状態ではないらしい。
今、私は地霊殿のとある一室に隠れている。狐火鴉から一瞬の隙をついて逃れた。これから…どうすればいいだろう。狐火鴉は私を…殺してでも自分のものにするつもりだ。あの目は本気そのもの…収まることはないだろう。
さとりに相談する? それで狐火鴉が罰せられるなんてことは嫌だ。さとりならそんなことはしないだろうが、この状況ではやむを得ない。逃げる…にしても、無理。狐火鴉の能力が解けていない今、いくら逃げようが捕まる。
「依存…か」
怖い…死ぬほどに怖い。どうすればいいんだろう…私は……
「…狼戈、狼戈」
「きゃっ!? り、燐…?」
「ちょっと入るよ」
部屋のタンスに隠れていた私に、燐が話しかける。ガタガタガタとふざけたいところではあるが、今はそれどころじゃない。
「狐火鴉が…おかしいんだ。誰の言葉にも反応しない。ずっと何かを探してて」
「…私を探してる。自分のものにする為に」
それを聞いて燐は驚いたように、されど納得したように口を開いた。
「成る程…話はつけられないのかい?」
「…無理だよ。狐火鴉は…私を殺してでもそうする気だから」
事の重大さを理解してか、燐がうつ向く。少し考え込んだ後、溜め息混じりに口を開いた。
「…さとり様に相談してみる。なんとか説得出来るように」
「…お願い。ただ…狐火鴉が罰を受ける事は…」
「…わかってるさ。ここで隠れてなよ」
燐が静かに部屋を退出していく。私も物音を立てぬよう、ゆっくりとベッドの下に潜り込んだ。照明のないこの部屋、暗闇は私の迷彩色。気付かれなければいいのだが。
…何分経っただろうか。扉をノックする音が響く。一瞬、燐かと思ったが、それならばノックするはずがない。ならば、まさか…
「狼戈さん…いますか?」
…狐火鴉だ。息を殺し、上がる心拍数を無理矢理抑え込む。
「…ごめんなさい。私、おかしくなっちゃって…」
ゆっくりと話す狐火鴉の言葉は正気の時と同じで、優しく、可愛らしい声だ。だが…万が一を考えて、ここから出る訳にはいかない。出たらいけない気がする。
「…ね、狼戈さん。私を…許してくれますか?」
それでも、ベッドの下からは出ない。震えが止まらない…殺されるのは…!!
「…そうですよね、許してくれませんよね。酷いこと…しちゃったから…」
その言葉と共に、右腕が痛む。肩から肘にかけて、一本の亀裂が走っていた。狐火鴉の小刀がつけた傷は、何故か癒えることがなく、痛み続けている。それは悶絶する程の痛みだが、妖気を集中させることによって、穏和させている。
「でも…狼戈さんも悪いんですよ? 私の事なんて見向きもせずに…」
何が…何が言いたいんだ? 私が依怙贔屓しているとでも言いたいのか…?
「…私は狼戈さんが好きなんです。離したくないんです」
ヤンデレ。その単語が頭に浮かぶ。絶体絶命のピンチにこんなのが浮かぶなんて、私も馬鹿なものだな。
「…何も喋ってくれないんですね。わかりました」
そのまま去ってくれる事を願いたい。必死に目を瞑り、小さくなる。
その中で…狐火鴉から発せられた言葉は、耳を疑う言葉だった。
「…なら、私とひとつになりましょう。ずっと離れられないように」
ひとつになる…? 意味はわからないが殺す事はしない、という風にとっていいのか…? まず安堵するべきなのだろうか。とりあえず…逃げなければならない。八雲の所にいけば、恐らく襲われることはない。だが、藍や紫の名を小さく呼んでも、隙間も札も、現れることはなかった。
不意にガチャ…と扉の開く音がする。暗闇の中に廊下の光が差し込み、卓上の鏡に反射した。見つかれば文字通り終わる。荒くなる息を、心拍数を抑え、目を瞑る。…やがて物音はしなくなり、扉の閉まる音がした。助かった…のだろうか。
ベッドの下から這い出し、辺りを見回す。移るのは暗闇と、無機質な家具。早く逃げよう。そう思って扉へ一歩歩いた瞬間、背後からゆっくりと腕が伸びる。それは肩に触れ、私の胸の前でゆっくりと手を組んだ。
「み~つけた」
死神の囁きに、私はただ震えることしか出来なかった。
▼
「いやっ…ぎゃぅぅ!!」
「ダメだよ…ふふ…」
狼戈の体が…どんどんと消えていく。血で赤く染まった床は、べったりと私の服に、膝に張り付いていた。そんなのは、もうどうでもいい。
「ぎゃぁぅ…」
「鳴かないでくださいよ…ばれちゃうでしょう?」
右肩から先がなくなり、鮮血が噴き出す。とても甘くて、濃厚で、美味しくて…
「やめて…嫌だよ…死にたくないよ……」
「死にませんよ。私の中で…永遠に生き続けるんですから…」
鳴き叫ぶ狼戈の体を、またひとつ奪う。ゆっくりとお腹を満たしていく満足感と優越感に、私は微笑んでいた。可愛い鳴き声をあげる、眼前の狼の少女を相手に。
「狐火鴉…」
「…なんですか? ふふ」
「貴女は…私の事好きなの?」
「はい、勿論ですよ? 好きな人と一緒になれるって…幸せですね」
好きか? 好きに決まってる。だから独占するんだ。私のものにするんだ。
「…もう、いいよ。好きにして」
「では…いただきます」
幼き少女の体が消えるのに、時間は掛からない。ゆっくりと…一緒に…
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痛い。苦しい。辛い。私の問いは…生きる為の望みは…狐火鴉の言葉に全て弾かれた。もう…逃れる術なんてない。私が…悪いのだろう。こんな体質をもった、私が。
私を食べて、狐火鴉は元に戻るだろうか。後悔するのだろうか。それとも、喜ぶのだろうか。私には、わからない。
…皆、ごめん。私は…もう無理だよ。今まで…ありがとう。
近付く狐火鴉の牙に、首が鈍い音をたて、私の意識は途切れたのだった。
その後、狼戈の姿を見た者はいない。
燐が部屋を訪ねた時、残されていたのは綺麗に整えられた部屋。何等変わりはない部屋だった。
また、狐火鴉も少しの時を経て姿を消した。その理由は、誰にもわからない。
狐と狼。全てを知る二匹はもういない。残された九尾は、ただ涙を流すのみ。
ーーーこれは、とある悲恋の物語。
美しく切なく散った蠟梅と、儚く消えた、黄の葛…。
それは蕾のままで、“家族„の心に、永遠に残り続けるのだ。
黒花蠟梅と、定家葛の花言葉は…